「みぞおちがじんわり痛い」「飲み会の翌日にムカムカが続く」「検診で“萎縮性胃炎”と言われてから胃がんが心配で仕方がない」──そんな不安を抱えながらも、忙しさや怖さから、なかなか胃カメラや受診に踏み出せない方は少なくありません。
胃炎(胃炎:いえん)とは、胃の内側を覆っている「胃粘膜」に炎症が起きている状態を指します。原因は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染、鎮痛薬(NSAIDs・アスピリン)やアルコール、強いストレス、自己免疫の異常などさまざまです。軽い胃炎は一時的な生活習慣の乱れで自然に改善することもありますが、長く続く慢性胃炎や萎縮性胃炎は、将来の胃がんリスクとも深く関わっています。厚生労働省のe-ヘルスネットやMSDマニュアルなどでも、胃炎とピロリ菌・胃潰瘍・胃がんとの関連が繰り返し説明されています。12
日本では、国立がん研究センターの統計によると、胃がんは依然として頻度の高いがんの一つであり、2021年には約11万件の新規胃がんが報告されています。45 特に戦後すぐに生まれた世代では、子どもの頃にピロリ菌に感染した人が多く、その後長年にわたる慢性胃炎から萎縮性胃炎・胃がんに進むケースが問題となってきました。一方で、衛生環境の改善や除菌の普及により、若い世代ではピロリ菌の感染率が大きく下がってきています。3
本記事では、厚生労働省や国立がん研究センター、日本ヘリコバクター学会、日本消化器病学会、世界保健機関(WHO)などの公的資料やガイドライン、査読付き論文に基づき、Japanese Health(JHO)編集部が胃炎について整理・解説します。1367 「自分の症状は危険なのか」「どこまでが様子見で、どこからが受診すべきサインなのか」「ピロリ除菌をすると胃がんリスクはどの程度下がるのか」など、読者の不安に一つずつ丁寧に答えていきます。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療方針を直接決めるものではありません。気になる症状がある場合や、内服中の薬の変更・中止を検討する場合には、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事「胃炎(急性・慢性)の原因・症状・治療と日本人の胃がんリスク」は、以下のような一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しました。
- 厚生労働省・公的研究機関:e-ヘルスネットの「ピロリ菌感染症」や「胃・十二指腸潰瘍」に関する解説、国立がん研究センター「がん情報サービス」の胃がん統計など、日本人向けの公式情報を優先して参照しています。245
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本ヘリコバクター学会『H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版』、日本消化器病学会の胃潰瘍・胃炎診療ガイドラインや機能性ディスペプシア診療ガイドライン、京都グローバルコンセンサスレポート、Gut誌に掲載されたH. pylori除菌と胃がん予防のメタアナリシスなど、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています。36789
- 国際的な医学マニュアル:MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版の「胃炎」ページを参考に、原因・症状・診断・治療の全体像を整理しています。1
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会の紹介ページをご覧ください。
要点まとめ
- 胃炎とは、胃の内側を覆う「胃粘膜」に炎症が起きた状態で、急性胃炎・慢性胃炎・萎縮性胃炎などに分けられます。主な原因はピロリ菌感染、NSAIDsやアスピリンなどの薬、アルコール、喫煙、強いストレス、自己免疫の異常などです。1
- 日本では、戦後世代を中心にピロリ菌感染率が高く、長年の慢性胃炎から萎縮性胃炎・胃がんに進むリスクが指摘されています。一方で、若い世代では感染率が大きく低下しています。3
- 胃炎の症状はみぞおちの痛み、胸やけ、吐き気、食欲低下、黒い便などですが、まったく症状がないこともあります。「症状だけで胃がんかどうか」を見分けることはできません。出血や体重減少、貧血などの「レッドフラッグ」がある場合は早めの受診が重要です。1
- ピロリ菌陽性の慢性胃炎では、ガイドラインで除菌治療が強く推奨されています。Gut誌のメタアナリシスでは、除菌により将来の胃がん発症リスクが約半分に減る(相対リスク0.54)と報告されています。ただしリスクがゼロになるわけではなく、萎縮性胃炎などが残る場合は定期的な内視鏡フォローが勧められます。6
- NSAIDs・アスピリン・一部の解熱鎮痛薬は、胃粘膜を守るプロスタグランジンという物質を抑えることで胃炎・胃潰瘍のリスクを高めます。リスクの高い人では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による胃粘膜保護が推奨されています。10
- 生活習慣の見直し(飲酒・喫煙・食事内容・ストレス・睡眠)で改善する部分と、医療機関での検査・治療が必要な部分を区別することが大切です。特に高齢者、持病がある方、妊娠を考えている女性は、自己判断で市販薬を飲み続けず、専門家に相談しましょう。
- この記事を最後まで読むことで、「自分の胃の状態はどの段階なのか」「どのくらいのタイミングでどの診療科を受診すべきか」「日常生活でどんな工夫ができるか」が具体的にイメージできるようになることを目指しています。
「痛みはあるけれど、仕事は休めない」「胃カメラが怖くて伸ばし伸ばしにしている」「親が萎縮性胃炎と言われたが、どのくらい心配すべきかわからない」──そんな複雑な気持ちに寄り添いながら、この記事では胃炎の原因から対策、受診の目安までを段階的に整理していきます。
まずは、飲酒・喫煙・食事・市販薬の使い方・ストレス・睡眠など、日常生活で見直せるポイントをチェックし、そのうえでピロリ菌・自己免疫・胃潰瘍・胃がんなど、体の内側に隠れている可能性のある病気をどのように考えていけばよいかを解説します。
必要に応じて、JapaneseHealth.orgの総合ガイドや、将来的に公開予定の詳細解説記事へと橋渡しを行いながら、「今、自分に必要な一歩」を一緒に考えていきます。
この記事を読み進めることで、「この症状なら様子を見ても良さそう」「ここまで来たら一度消化器内科を受診した方が安心」「親やパートナーに、どのように検査を勧めればよいか」といった具体的な行動のイメージが持てるようになることを目指します。
第1部:胃炎の基本と日常生活の見直し
ここでは、胃炎とはそもそも何か、日本人に多いタイプや、まず見直したい生活習慣について整理します。専門的な病名を心配する前に、「自分の胃にどんな負担がかかっているか」を一度立ち止まって確認してみましょう。
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1.1. 胃粘膜の役割と胃炎の基本メカニズム
胃は、強い酸(胃酸)と消化酵素を分泌して、食べ物をドロドロに分解する役割を担っています。この強い酸から自分自身の壁を守るために、胃の内側には粘液や重炭酸イオンを含む「胃粘膜」というバリアが張り巡らされています。血流も豊富で、細かい傷がついてもすぐに修復できるようになっています。1
胃炎とは、簡単にいうと、この胃粘膜が繰り返し刺激を受けたり、守る力が弱まったりすることで、赤くただれたり、むくんだり、ところどころ表面が削れたりしている状態です。ピロリ菌が住み着いて慢性的に炎症を起こすケース、NSAIDsなどの薬で防御力が低下するケース、アルコールが直接粘膜を荒らすケース、ストレスで胃の血流が低下するケースなど、攻撃側と防御側のバランスが崩れると胃炎が起こりやすくなります。12
医学的には、症状の続く期間や粘膜の状態によって、急性胃炎・慢性胃炎・萎縮性胃炎などに分けられます。急性胃炎は、飲み過ぎや暴飲暴食、強いストレスなどをきっかけに数日〜数週間で症状が出るイメージです。一方、ピロリ菌感染や自己免疫などによる慢性胃炎は、何年・何十年という単位で少しずつ粘膜が傷んでいき、萎縮性胃炎(胃粘膜が薄くなり胃の「しわ」が伸びて平らになる状態)や腸上皮化生(腸のような細胞に置き換わる状態)へと進行し、将来の胃がんリスクと結びつきます。36
1.2. 胃炎を悪化させてしまうNG習慣
「昨日の飲み会で少し飲み過ぎただけ」「忙しくて朝を抜いて夜にドカ食いしているだけ」と思っていても、胃粘膜にとっては毎日の積み重ねが大きな負担になります。特に、次のような習慣が重なると、急性胃炎・慢性胃炎・逆流性食道炎などが悪化しやすくなります。
- アルコールの飲み過ぎ・空腹時の飲酒:強いアルコール度数の飲料は、胃粘膜を直接刺激し、表面を荒らします。仕事終わりに夕食を抜いて飲み会だけ、というパターンは、胃酸だけが出ている状態にアルコールが加わるため要注意です。
- 喫煙:たばこのニコチンなどは、胃酸分泌を増やし、粘膜の血流を悪くして修復力を下げるとされています。ピロリ菌やNSAIDsと組み合わさるとリスクがさらに高まります。1
- NSAIDs・アスピリンの長期連用:市販の頭痛薬・腰痛薬などにも含まれるNSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェンなど)は、痛みの原因となる物質だけでなく、胃粘膜を守るプロスタグランジンも抑えてしまい、胃炎や胃潰瘍のリスクを高めます。10
- 空腹時間が長く、夜遅くにまとめて食べる:長時間胃が空の状態が続くと、胃酸だけが出て粘膜への刺激が強まります。その後のドカ食いで一気に負担がかかり、ムカムカや重さを感じやすくなります。
- 辛いもの・脂っこいもの・熱すぎる飲食:唐辛子たっぷりの料理や揚げ物、ラーメンのスープを飲み干す習慣などは、胃酸分泌を増やし、粘膜への刺激も強めます。猫舌の人が「あつっ」と感じるほど熱い飲み物・食べ物も粘膜にダメージを与えます。
- 寝る直前の飲食と睡眠不足:就寝直前に食べると、横になることで胃の中身が逆流しやすくなり、胸やけや逆流性食道炎の原因になります。また睡眠不足はストレスホルモンを増やし、胃酸分泌・自律神経バランスにも影響します。
これらの習慣が一つ二つあるだけでは、必ずしも重い胃炎になるとは限りません。しかし、40〜50代になり、仕事のストレスや飲み会、鎮痛薬の服用などが重なってくると、「気づいたら慢性的な胃の不調が当たり前になっていた」という方も多くなります。まずは、自分の生活の中で変えられそうなポイントから少しずつ整えていくことが、胃炎対策の第一歩になります。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 週に3〜4回以上の飲酒(特に空腹時の飲酒や一気飲み) | アルコール性胃炎、急性胃炎、慢性胃炎の悪化 |
| 頭痛・腰痛・関節痛などでNSAIDs(ロキソプロフェン等)を頻繁に内服している | 薬剤性胃炎、胃潰瘍、消化管出血 |
| 忙しくて朝食を抜き、夜遅くにドカ食いしてすぐ横になる | 胃炎・逆流性食道炎・機能性ディスペプシア |
| みぞおちの痛みやムカムカが数週間〜数か月間続いているが、市販薬でしのいでいる | 慢性胃炎、ピロリ菌感染、胃・十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシア など |
| 家族に胃がんや萎縮性胃炎と言われた人がいるが、自分は一度も胃カメラを受けたことがない | ピロリ菌感染の可能性、萎縮性胃炎の有無の確認が必要な状態 |
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第2部:胃炎と体の内部要因 — ピロリ菌・自己免疫・隠れた不調
生活習慣を整えても改善しない場合や、若い頃から慢性的な胃の不調が続いている場合、その背景には「ピロリ菌」「自己免疫性胃炎」「ビタミンB12不足」「貧血」など、体の内側の問題が隠れていることがあります。ここでは特に、日本人に多いピロリ菌関連胃炎と自己免疫性胃炎、そして機能性ディスペプシアとの関係を整理します。
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2.1. 日本人に多いピロリ菌感染と慢性胃炎・萎縮性胃炎
ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)は、胃粘膜の表面に住みつくらせん状の細菌で、尿素を分解するウレアーゼという酵素を持っています。この酵素によって胃酸を中和し、強酸の中でも生き延びながら長期的に炎症を引き起こします。長い年月をかけて、胃の表面の細胞が傷んで薄くなる「萎縮性胃炎」や、腸のような細胞に置き換わる「腸上皮化生」が進行し、胃がんの土台となることがわかっています。139
日本の疫学研究では、1950年以前に生まれた世代では70〜80%がピロリ菌に感染していたのに対し、1970年代以降に生まれた世代では20%以下、最近の子どもでは数%程度まで減少していることが報告されています。3 これは、上下水道の整備や衛生状態の改善、学校検診や健診でのピロリ検査・除菌の普及などが影響していると考えられています。
日本ヘリコバクター学会のガイドラインや京都グローバルコンセンサスレポートでは、「ピロリ菌による胃炎は感染症であり、原則として除菌治療を行うべき」という考え方が示されています。69 特に、萎縮性胃炎や腸上皮化生が進んだ方、内視鏡で早期胃がんや腺腫を切除したことがある方では、除菌によって将来の胃がん再発リスクが有意に下がることが、Gut誌などのメタアナリシスで示されています。6
同メタアナリシスでは、東アジアを中心としたピロリ陽性の人々を対象に、除菌群と非除菌群を比較した結果、健康な人における将来の胃がん発症リスクが約半分(相対リスク0.54)、除菌により胃がんによる死亡リスクも低下することが報告されています。おおまかに言えば、平均的なリスクの集団では約70人のピロリ陽性者を除菌することで1人の胃がんを防げる(Number Needed to Treat: NNT ≒72)と推計されています。6
ただし、除菌をしてもそれまでに進行した萎縮や腸上皮化生が完全に元どおりになるわけではありません。そのため、萎縮性胃炎が広い範囲にある方や、家族に胃がんの方がいる場合などは、除菌後も定期的な内視鏡フォローが推奨されます。
2.2. 自己免疫性胃炎とビタミンB12不足
ピロリ菌に感染していないのに、胃の粘膜が徐々に萎縮していくタイプの胃炎として、「自己免疫性胃炎」があります。これは、体の免疫が誤って自分の胃の細胞を攻撃してしまう病気で、特に胃の「体部」という部分が萎縮しやすくなります。このタイプの胃炎では、胃酸分泌が低下し、ビタミンB12を吸収するために必要な内因子という物質が不足するため、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)を起こすことがあります。1
自己免疫性胃炎は、自己免疫性甲状腺疾患や1型糖尿病などほかの自己免疫疾患を持つ方に合併しやすいことが知られており、胃の体部側に萎縮が偏っている、ビタミンB12欠乏や鉄欠乏を繰り返す、胃体部の隆起性病変やカルチノイド腫瘍が見つかる、といった特徴があります。自己免疫性胃炎でも、胃がんや胃カルチノイド腫瘍のリスクが上昇するとされており、定期的な内視鏡検査と血液検査によるフォローが重要です。1
2.3. 機能性ディスペプシア(FD)との関係
「胃炎」と「機能性ディスペプシア(FD)」は、日常の会話では同じように使われることがありますが、医学的には区別されます。機能性ディスペプシアとは、内視鏡検査などで胃潰瘍・がん・重い炎症などの器質的な異常が見つからないにもかかわらず、みぞおちの痛みや焼ける感じ、食後のもたれ、少し食べただけでもすぐいっぱいになる感じなどが続く状態を指します。8
日本消化器病学会の機能性消化管疾患診療ガイドラインでは、まず内視鏡などで重大な病気が隠れていないかを確認した上で、FDの診断を行うことが推奨されています。ピロリ菌陽性の場合は、除菌によって症状が軽くなる人も一定数いるため、「ピロリ除菌+PPIや漢方薬、消化管運動改善薬」などを組み合わせながら、生活習慣の見直しとともに治療を進めていきます。8
「内視鏡で“軽い胃炎”と言われただけ」「特に異常はないが、ストレスや疲れで胃の不調が出やすい」と言われた場合でも、症状によってはFDの考え方が当てはまることがあります。この場合、痛みや不快感そのものが生活の質(QOL)を下げ、さらに不安やストレスを高めて症状を悪化させる、という悪循環に陥りやすいため、心理的なサポートやストレスマネジメントも重要になります。
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第3部:専門的な診断が必要な胃の病気
生活習慣の見直しや市販薬だけでは対応しきれない、危険なサインが隠れているケースもあります。このセクションでは、胃炎の影に隠れた代表的な病気(胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がん・ストレス潰瘍など)と、どのようなときに専門的な検査が必要になるのかを整理します。
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3.1. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍と消化管出血
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、胃炎より一歩進んで、胃粘膜の表面だけでなく、その下の層まで深くえぐれてしまった状態です。ピロリ菌感染やNSAIDs・アスピリンの長期使用、強いストレスなどが主な原因とされています。12
潰瘍があると、みぞおち〜背中に抜けるような痛み、夜間や空腹時に増す痛み、食後しばらくしてからの痛みなどがみられることがありますが、高齢者や糖尿病の方では痛みが目立たない場合もあります。潰瘍が血管を傷つけると、黒いタール状の便(下血)やコーヒーかすのような嘔吐(吐血)がみられ、重症の場合は立ちくらみ・冷や汗・意識障害などショック状態に陥ることもあります。
急な吐血や真っ黒な便、大量の下血、立っていられないほどのめまい・息苦しさなどがある場合は、迷わず救急車(119)を呼ぶべき緊急事態です。その場しのぎに市販薬を飲んだりせず、救急外来で内視鏡による止血や輸血が必要になることがあります。
3.2. 胃がんと萎縮性胃炎・腸上皮化生
国立がん研究センターのデータによると、日本では胃がんの新規症例数は依然として高く、男女ともに主要ながんの一つです。45 ピロリ菌感染による慢性胃炎が長期間続き、萎縮性胃炎や腸上皮化生が進むと、次第に前がん病変や早期胃がんへ進行しやすくなることがわかっています。3
山口県などの自治体が提供する胃がん啓発資料では、「ピロリ菌に長年感染していると胃がんリスクが数倍に高まり、除菌を行うことで平均的にリスクが約3分の1程度に減る」といった説明もされています。4 もちろん、実際のリスクは年齢・萎縮の程度・家族歴などによって変わるため、個別に主治医と相談することが重要です。
胃がんは、早期のうちに見つかれば内視鏡的粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)などで胃を残したまま治療できる場合も増えてきました。しかし、進行してから見つかると、大きな手術や抗がん剤治療が必要になり、生活への影響も大きくなります。35〜40歳以上で一度も胃カメラを受けたことがない方、ピロリ菌感染歴がある方、家族に胃がんの方がいる方は、定期的な内視鏡検査を検討する価値があります。
3.3. 強いストレスとストレス関連粘膜障害
重症の病気や大手術、全身やけど、大量出血、集中治療室(ICU)での長期管理など、体に非常に強いストレスがかかったとき、胃や十二指腸の粘膜にびまん性のびらんや出血を来す「ストレス関連粘膜障害」が起こることがあります。これは、生命の危機にある方に多くみられる状態で、胃の血流低下や防御機能の障害が関与しています。1
ICUでは、出血リスクが高い患者さんに対して、PPIやH2ブロッカーを点滴または内服で予防的に使用することが国際的なガイドラインでも推奨されていますが、これは一般の生活者が「ストレスが強いから予防的に胃薬を飲んでおこう」という文脈とは別次元の話です。日常生活レベルのストレスによる胃の不調は、生活習慣の見直しやストレスマネジメント、適切な受診で対応することが基本です。
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第4部:今日から始める胃炎改善アクションプラン
原因が何であれ、「今日からできる小さな行動」を具体的に決めておくことは、胃炎との付き合い方を大きく変えてくれます。このセクションでは、「今夜から」「今週から」「数か月〜数年単位で」それぞれどのような行動が取れるかを整理します。
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| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 刺激を減らし、胃を休ませる | 就寝2〜3時間前までに食事を終える/飲酒量を半分にする/辛いもの・揚げ物を控え、おかゆ・うどん・白身魚など消化の良いものを選ぶ |
| Level 2:今週から始めること | 生活リズムとストレスケアを整える | 平日と休日の起床時間を大きくずらさない/1日20〜30分の軽い散歩などで血流を良くする/仕事の合間に深呼吸やストレッチを取り入れる |
| Level 3:1〜3か月のスパンで取り組むこと | 飲酒・喫煙・市販薬の使い方を見直す | 「休肝日」を週2〜3日に増やす/禁煙外来や禁煙アプリを活用してたばこを減らす/頭痛薬や鎮痛薬を漫然と飲み続けていないか見直す |
| Level 4:数年単位で考えたいこと | ピロリ検査・除菌、定期的な胃カメラの計画を立てる | 一度も胃カメラを受けたことがなければ、40歳前後を目安に検診または医療機関での内視鏡を検討する/ピロリ陽性なら除菌の適応について主治医に相談する |
「全部一度にやろう」とすると挫折しやすくなります。まずはLevel 1から1〜2個、「これならできそう」という行動を選び、1〜2週間続けてみましょう。その上で、症状の変化をメモしておくと、後で医療機関を受診した際にも大きな手がかりになります。
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第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
「このくらいの症状なら我慢しても大丈夫」「これは迷わず受診した方がいい」という線引きは、一般の方にとって非常にわかりにくいものです。このセクションでは、受診を考えるべき危険なサイン、診療科の選び方、診察時に役立つ情報のまとめ方について解説します。
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5.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 今すぐ救急車(119)を呼ぶべきサイン
- コーヒーかすのような黒っぽい嘔吐、鮮血の嘔吐
- タールのように真っ黒でベタベタした便(下血)が続く
- 立ちくらみ・冷や汗・動悸・息切れが強く、立っていられない
- 突然の激しいみぞおちの痛みで、少し動いただけでもお腹全体がカチカチに固くなり、耐えられない痛みが続く
- 数日以内に消化器内科などを受診すべきサイン
- 食欲が急に落ち、1〜2か月で体重が大きく減ってきた
- 原因のわからない貧血(立ちくらみ・息切れ・疲れやすさ)が続く
- 飲み込みにくさ・つかえ感が出てきた
- みぞおちの痛みや胸やけが2週間以上続き、市販薬では改善しない
- 家族に胃がんがあり、40歳を超えても一度も胃カメラを受けたことがない
- 1〜2か月以内に相談を検討したいサイン
- 軽い胃の不調が何となく続いているが、仕事や家事に支障はない
- ストレスが強くなると胃の不調も悪化するが、生活に大きな支障はない
- ピロリ菌陽性と言われたが、除菌をするか迷っている
- 健診で「萎縮性胃炎」と指摘されたが、今後のフォローアップがわからない
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- 消化器内科・胃腸内科:胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎・機能性ディスペプシアなど、胃の不調の多くは消化器内科が担当します。内視鏡検査(胃カメラ)を含む精査が必要な場合も、消化器内科・内視鏡センターが中心となります。
- 内科(総合内科):近くに専門の消化器内科がない場合や、まずは相談したい場合は、一般内科を受診しても構いません。そのうえで、必要に応じて消化器内科や大きな病院に紹介されることもあります。
- 産婦人科:妊娠中・授乳中の胃の不調については、産婦人科と消化器内科の両方で相談しながら、胎児や母体への影響を考えた治療方針を決めることが大切です。
- 心療内科・精神科:強い不安やうつ症状、過去のトラウマなどが背景にある場合、カウンセリングや心理的支援が有効なこともあります。消化器内科と連携しながら治療を行うケースも増えています。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 症状メモ:いつから、どのようなタイミング(空腹時・食後・夜間など)で、どのような痛み・ムカムカが起こるのか、どのくらい続くのか、市販薬を飲むとどう変化するのか、簡単にメモしておくと診察がスムーズです。
- お薬手帳:NSAIDsやアスピリンなど、胃炎に関係しやすい薬を飲んでいないかを確認するためにも、お薬手帳や飲んでいるサプリメントのリストを持参しましょう。
- 健康診断の結果:過去の血液検査(貧血・肝機能・腎機能など)、ピロリ抗体検査の結果、バリウム検査などの結果があれば、一緒に見てもらうことで、過去からの変化を把握しやすくなります。
- 費用の目安:日本では、健康保険に加入している場合、自己負担は通常3割です。初診料・再診料に加え、血液検査・ピロリ検査・内視鏡検査などの有無によって費用は変わります。事前に医療機関のホームページや電話で確認しておくと安心です。
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よくある質問
Q1: 胃炎の症状だけで、胃がんかどうかを見分けることはできますか?
A1: 残念ながら、症状だけで胃がんかどうかをはっきり区別することはできません。みぞおちの痛みやムカムカ、胸やけ、食欲低下などは、胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎・機能性ディスペプシア・胃がんなど、さまざまな病気で共通してみられる症状だからです。1
特に、体重減少・貧血・黒い便・飲み込みにくさ・家族の胃がん歴などがある場合は、胃炎と自己判断せず、内視鏡検査も含めて専門家に相談することが大切です(本文「第3部:専門的な診断が必要な胃の病気」もご参照ください)。
Q2: ピロリ菌があると言われました。必ず除菌した方がいいのでしょうか?
Q3: ピロリ除菌をすると、胃がんのリスクはゼロになりますか?
A3: ピロリ除菌によって胃がんのリスクは大きく下がりますが、「ゼロ」にはなりません。Gut誌のメタアナリシスでは、ピロリ陽性の人を対象にした複数のランダム化比較試験をまとめた結果、除菌によって将来の胃がん発症リスクが約半分(相対リスク0.54)に減少したと報告されています。6
ただし、除菌前にすでに広い範囲の萎縮性胃炎や腸上皮化生が進んでいる場合、リスクは下がってもゼロにはならないため、定期的な内視鏡検査が推奨されます。どのくらいの間隔で検査を受けるかは、年齢や萎縮の程度、家族歴などによって異なるため、主治医と相談しながら決めていきましょう。
Q4: 胃薬(PPIなど)を長く飲み続けると副作用が心配です。どのくらいまで大丈夫でしょうか?
A4: PPI(プロトンポンプ阻害薬)は、胃酸を強力に抑える薬で、胃潰瘍や逆流性食道炎の治療・再発予防、NSAIDs使用時の胃粘膜保護などに広く使われています。Cochraneレビューなどでは、NSAIDsによる胃・十二指腸潰瘍のリスクを有意に減らす効果が示されていますが、長期連用に伴う骨折リスクや感染症、ビタミン・ミネラル不足などの可能性も指摘されています。110
大切なのは、「必要な期間はきちんと飲み、不要になったら漫然と続けない」ということです。自己判断で中止・再開を繰り返すのではなく、定期的に処方医と相談し、服用目的がまだあるのか、より少ない量やオンデマンド療法に切り替えられないかを確認するようにしましょう。
Q5: 胃炎と機能性ディスペプシアの違いは何ですか?検査は必要ですか?
Q6: 胃炎を放置するとどうなりますか?
Q7: 日本でピロリ除菌に保険が使える条件や費用の目安は?
Q8: 妊娠中・授乳中に胃炎になったらどうすればいいですか?
A8: 妊娠中はホルモンの影響や子宮の圧迫などで、胃のムカムカや胸やけが起こりやすくなります。多くの場合、少量ずつこまめに食べる、脂っこいものや刺激物を控える、就寝前の飲食を避けるなどの生活工夫である程度改善が期待できます。1
薬剤については、安全性のデータが比較的多い制酸薬や一部のH2ブロッカーなどが使われることがありますが、自己判断で市販薬を飲むのは避け、必ず産婦人科や消化器内科の医師に相談してください。ピロリ除菌に用いる抗菌薬は、妊娠中・授乳中には原則として避けることが多く、除菌が必要な場合でも、妊娠前や授乳終了後など時期をずらして行うことが一般的です。
Q9: 高齢の親が「萎縮性胃炎」と言われました。どのくらいの頻度で胃カメラが必要ですか?
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
胃炎は、「よくある胃の不調」と軽く見られがちですが、その背景には生活習慣の乱れからピロリ菌感染、自己免疫性胃炎、胃潰瘍・胃がんなど、さまざまな要因が潜んでいます。日本では、特に中高年世代でピロリ菌と萎縮性胃炎の問題が大きく、国レベルで胃がん予防の観点から除菌や胃内視鏡検診が進められてきました。345
一方で、若い世代や妊娠・子育て世代では、機能性ディスペプシアやストレス、生活リズムの乱れが胃の不調に大きく関わっているケースも少なくありません。どの世代であっても、「我慢してやり過ごすだけ」ではなく、自分の生活を振り返り、必要なときには専門家に相談することが、将来の健康を守るうえでとても重要です。
この記事を読んだ今この瞬間からできることは、小さな一歩で構いません。飲酒量を少し減らす、市販薬に頼る前に原因を考える、一度きちんと内視鏡で自分の胃の状態を確認してみる──そんな一つひとつの選択が、数年後・数十年後の自分や家族の健康につながっていきます。「不安を抱えたまま一人で我慢する」のではなく、「情報を知り、必要なサポートを得ながら一緒に考えていく」ために、JHOの情報がお役に立てれば幸いです。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
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参考文献
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