「尿に血が混じったことがあるけれど、痛みもないし様子を見てしまった」「高齢の家族が腎臓のがんと言われたが、腎臓なのか尿管なのかよく分からない」――腎盂(じんう)・尿管がん、あるいは上部尿路上皮がんという病名を突然聞くと、多くの方が強い不安と戸惑いを感じます。
腎盂・尿管がんは、腎臓から膀胱まで尿の通り道を内側から覆っている「尿路上皮」という細胞から発生するがんで、膀胱がんと同じタイプのがんに分類されます1。日本では比較的まれながんですが、高齢の方に多く、見つかったときにはすでに進行していることもあるため、早期発見と適切な治療・フォローアップがとても重要です12。
本記事では、国立がん研究センターのがん情報サービス124や日本泌尿器科学会のガイドライン10、European Association of Urology(EAU)の上部尿路上皮がんガイドライン567、さらに海外の研究論文・臨床試験1114161718などの一次情報をもとに、腎盂・尿管がんの基礎知識から、原因・症状・検査・治療、再発予防や日常生活の工夫まで、できるだけ分かりやすく整理して解説します。
ご自身やご家族が診断を受けたばかりの方はもちろん、「血尿はあるが病院に行くべきか迷っている」「治療後の生活や再発が心配」という方にも、次の一歩を考える手がかりになれば幸いです。ただし、ここでお伝えする内容はあくまで一般的な情報であり、診断や治療方針の決定は、必ず担当の医師とご相談ください。
本記事は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が、国立がん研究センター、日本泌尿器科学会、European Association of Urology(EAU)、世界保健機関(WHO)などの信頼できる情報源に基づき作成しました。難しい専門用語も、日常生活のイメージに置き換えながら丁寧にご説明していきます。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事では、腎盂・尿管がん(上部尿路上皮がん)について、主に次のような一次情報源をもとに内容を構成しています。
- 国立がん研究センター(がん情報サービス・がん登録統計):日本における腎盂・尿管がんの発生数や年齢分布、基本的な病気の説明など12412。
- 日本泌尿器科学会ガイドライン:腎盂・尿管癌診療ガイドライン2023年版に基づく、日本における標準的な診断・治療方針10。
- European Association of Urology(EAU)ガイドライン:上部尿路上皮がん(UTUC)の診断・病期分類・治療・フォローアップに関する国際的な推奨567。
- 査読付き論文・臨床試験:POUT試験をはじめとする補助化学療法や術前化学療法の研究、リスク因子(喫煙、アリストロキア酸、鎮痛剤、リンチ症候群など)に関する論文38141617181920212223。
本記事の原稿は、AIツールを活用して国内外の文献を整理したうえで、最終的にはJHO編集部が原著資料と照合しながら、日本の読者にとって分かりやすくなるよう表現を調整しています。事実関係・数値・URLについても、人の目で一つひとつ確認したうえで掲載しています。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、運営者情報(JapaneseHealth.org)をご覧ください。
要点まとめ
- 腎盂・尿管がん(上部尿路上皮がん)は、腎臓から膀胱までの尿の通り道を内側から覆う「尿路上皮」から発生する比較的まれながんで、日本では年間約8,800人前後が診断されています12。
- 主な症状は「血尿(肉眼的または顕微鏡的)」で、痛みを伴わないことも多く、「たまたま健診の尿検査で見つかった」というケースも少なくありません14。
- 喫煙、アリストロキア酸(馬兜鈴酸)を含む一部の漢方・ハーブ、長期にわたるフェナセチンなどの鎮痛剤の使用、リンチ症候群などがリスク因子として知られています381718202122。
- 診断にはCT尿路造影(CT urography)が中心的な役割を果たし、必要に応じて尿細胞診や尿管鏡検査(内視鏡による観察と生検)が行われます5。
- 標準的な治療は、リスクに応じた腎尿管全摘術(腎臓と尿管、膀胱の一部をまとめて摘出する手術)や腎温存手術に、必要に応じて術後補助化学療法や全身治療を組み合わせる形です46710111623。
- 治療後は膀胱内再発や対側の腎盂・尿管のがんを早期に見つけるため、膀胱鏡や画像検査による長期的なフォローアップが重要です6711。
- 「腎臓を一つ失うことへの不安」「再発や家族への遺伝の心配」など、患者さんとご家族が抱えやすい不安に対して、医療者や相談支援窓口を活用しながら一人で抱え込まないことが大切です311。
腎盂・尿管がんと聞くと、「高齢だし、もう治療はつらいのではないか」「腎臓を一つ取ったら、すぐに透析になるのではないか」と、さまざまな不安が一度に押し寄せてきます。また、「血尿はあるけれど、仕事が忙しくて病院に行けない」「家族にがんが多く、自分も遺伝なのかもしれない」と、人には言いにくい悩みを抱えている方も少なくありません。
この記事では、まず腎盂・尿管がんの基本的な仕組みや、日本でどのくらいの頻度で起こる病気なのかを確認したうえで、喫煙や漢方・サプリ、遺伝的な背景などの原因・危険因子を整理します。そのうえで、「血尿が出たときに何をすべきか」「どのような検査で診断されるのか」「どんな治療方法があるのか」を順番にたどっていきます。
さらに、手術後の腎機能や、再発予防のために続ける検査、仕事・家事・介護との両立、リンチ症候群が疑われる場合の家族への配慮など、治療後の長い付き合いかたについても具体的にイメージしやすいよう解説します。必要に応じて、Japanese Health(JHO)のトップページや、関連する総合ガイドもあわせてご覧いただき、自分のペースで情報を整理していきましょう。
読み進めるうちに、「自分や家族の状況をどう理解し、いつ・どこで・誰に相談すればよいか」が少しずつ具体的に見えてくるはずです。必要なときには医療機関やがん相談支援センターなどの専門家の力を借りながら、一人で抱え込まずに進んでいきましょう。
第1部:腎盂・尿管がん(上部尿路上皮がん)の基礎知識
まずは、「腎盂・尿管がんとはどんな病気なのか」「どのくらい珍しいのか」「膀胱がんとの違いは何か」といった全体像から整理していきます。仕組みを大まかに掴むことで、後で出てくる検査や治療の話も理解しやすくなります。
1.1. 腎盂・尿管がんとは?上部尿路上皮がんの定義
腎臓で作られた尿は、まず腎臓の中にある「腎盂(じんう)」という小さな「お椀」のようなスペースに集まり、そこから細い管である「尿管」を通って膀胱に運ばれます。この腎盂から尿管、膀胱の内側はすべて「尿路上皮(移行上皮)」という同じ種類の細胞で覆われています14。
腎盂・尿管がんは、この尿路上皮から発生するがんで、英語では「upper tract urothelial carcinoma(UTUC:上部尿路上皮がん)」と呼ばれます5711。同じ尿路上皮から発生する膀胱がんとは兄弟のような関係にあり、病理学的な性質や治療薬も重なる部分が多いのが特徴です56。
イメージとしては、一本のホースの内側全体を同じ素材(尿路上皮)が覆っており、その上部(腎盂・尿管)にできる腫瘍が腎盂・尿管がん、下部(膀胱)にできる腫瘍が膀胱がん、という関係だと考えると分かりやすいかもしれません。
1.2. 日本での頻度・年齢層・男女比 ― どのくらい珍しいがんなのか
国立がん研究センターの全国がん登録統計によると、日本では2019年に「腎盂・尿管がん」と診断された人は8,823人でした2。全てのがんの中では頻度が高いとは言えませんが、高齢化に伴って患者数は少しずつ増加傾向にあると報告されています1121315。
年齢別にみると、発症のピークは70〜80歳代で、60歳以上の高齢者に多いがんです113。性別では男性の方が女性よりも多く、日本の報告では年齢調整罹患率(ASR)は腎盂が約1.4/10万人、尿管が約1.2/10万人とされています13。海外のシステマティックレビューでも、多くの地域でUTUCの罹患率は1〜2/10万人程度と報告されており、日本は国際的にも「ややまれだが決してゼロではない」レベルの頻度と考えられます1519。
また、UTUCはすべての尿路上皮がん(膀胱がんなどを含む)のうち、おおよそ5〜10%程度を占めるとされており1115、膀胱がんに比べると患者数はかなり少ないものの、決して珍し過ぎて「自分には関係ない」と言い切れる病気ではありません。
1.3. 腎盂・尿管がんと膀胱がんの関係
腎盂・尿管がんと膀胱がんは、どちらも同じ「尿路上皮」から発生するため、兄弟のような関係にあります。実際に、腎尿管全摘術を受けた患者さんの約30〜40%で、その後に膀胱内に新たながんが再発すると報告されています6711。これは、尿の流れに乗ってがん細胞が膀胱側に落ちていく「シーディング(播種)」が関係していると考えられています11。
逆に、もともと膀胱がんがあった方が後から腎盂・尿管がんを発症することもあり、「同じ尿路上皮全体が傷んでいる状態(フィールドがん化)」として理解されています811。そのため、一度どこかの部位で尿路上皮がんが見つかった場合は、膀胱や対側の腎盂・尿管など、他の部位も時間をかけて丁寧にフォローしていく必要があります56。
1.4. 進行と予後のざっくりしたイメージ
腎盂・尿管がんは、最初は尿路上皮の表面(粘膜)にとどまった「表在がん」として見つかることもありますが、放置すると次第に深い層(筋層や周囲の脂肪組織)へと広がり、やがてリンパ節や肺・肝臓・骨などの遠隔臓器へ転移していきます6711。
病期が早い段階で適切な手術を行えば、5年生存率は比較的良好と報告されますが、筋層より深く進行した症例やリンパ節転移を伴う症例では、再発リスクや死亡リスクが高くなります1114。特に、高悪性度(ハイグレード)の腫瘍や大きな腫瘍、多発する腫瘍の場合は「高リスク」と評価され、より積極的な治療(補助化学療法など)が検討されます5671623。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 尿が赤い・茶色い、または健診で「尿潜血」を指摘されたのに、そのままにしている | 尿路上皮の炎症・結石・腎盂・尿管がん・膀胱がんなど |
| 片側のわき腹〜背中に鈍い痛みや張りを感じることが増えた | 尿管の狭窄・結石・腎盂腎炎・腎盂・尿管がんによる尿の通り道の閉塞など |
| 長年喫煙している、または一部の漢方・サプリを多用してきたうえで血尿が出ている | 喫煙・アリストロキア酸(馬兜鈴酸)による尿路上皮のダメージ、腎盂・尿管がんなど |
| 家系に大腸がんや子宮体がん、尿路がんが多く、自分も若くしてがんを経験している | リンチ症候群などの遺伝性腫瘍症候群の可能性 |
これらの症状があるからといって必ず腎盂・尿管がんというわけではありませんが、「血尿が続く」「痛みや発熱を伴う」「体重減少やだるさが続く」といった場合は、早めに泌尿器科を受診し、必要な検査を受けることが大切です。
第2部:原因・危険因子 ― なぜ自分が?と思ったときに知っておきたいこと
腎盂・尿管がんと診断された方の多くが、「タバコもあまり吸わないのに、なぜ自分が」「漢方やサプリを飲んでいたが、これが悪かったのではないか」と、ご自身の生活を責めてしまうことがあります。しかし、実際には複数の要因が重なって発症することが多く、「これだけが原因」と言い切れるケースは多くありません。
2.1. 喫煙 ― 最もよく知られたリスク因子
上部尿路上皮がんのリスク因子として、最もよく知られているのが喫煙です。Translational Andrology and Urology誌などのレビューによると、喫煙者は非喫煙者に比べてUTUCの発症リスクが約2.5〜7倍に増加すると報告されています821。また、喫煙は単にがんの発症リスクを高めるだけでなく、治療後の再発や死亡のリスクも高める可能性が示唆されています81121。
タバコの煙に含まれるさまざまな発がん物質は、血液を通じて腎臓に運ばれ、尿として排泄される過程で尿路上皮に長時間接触します。そのため、尿路上皮のDNAにダメージが蓄積し、長い年月をかけてがん化を促進すると考えられています8。
「若いころだけ吸っていた」「本数が少ないから大丈夫」とおっしゃる方もいますが、喫煙歴(何本を何年吸ったか)の累積がリスクに関係しているとされており、どの時点であっても禁煙することで、将来のがんや心血管疾患のリスクが下がることが分かっています811。すでに腎盂・尿管がんと診断された方にとっても、再発や合併症を減らすという意味で禁煙はとても重要な一歩です。
2.2. アリストロキア酸(馬兜鈴酸)を含む漢方・ハーブ
アリストロキア酸(馬兜鈴酸)は、一部のハーブ(ウマノスズクサ科:Aristolochia属など)に含まれる成分で、古くから漢方・民間療法として使われてきました。しかし、腎臓の機能障害(アリストロキア酸腎症)と上部尿路上皮がんとの関連が明らかになり、世界保健機関(WHO)を含む多くの機関が強く注意を呼びかけています381720。
Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌のメタアナリシスでは、アリストロキア酸への曝露とUTUC発症との関連について、オッズ比(odds ratio: OR)が約5.97(95%信頼区間 2.78〜12.84)と報告されています17。これは、アリストロキア酸を含むハーブを長期的に摂取していた人では、摂取していない人に比べてUTUCの発症リスクがおよそ6倍近く高いことを示す強いデータです。
日本国内でも、厚生労働省によりアリストロキア酸を含む生薬の使用は原則として禁止されており、市販の漢方薬・サプリメントからは原則として除外されています。ただし、海外から個人輸入した製品や、成分表示が不十分なサプリ・「健康茶」などでは、思わぬ形でアリストロキア酸が含まれている可能性もゼロではありません320。心配な場合は、自己判断で続けるのではなく、泌尿器科やかかりつけ医、薬剤師に相談することをおすすめします。
2.3. フェナセチンなどの鎮痛剤と腎盂・尿管がん
かつて解熱鎮痛薬として広く使用されていたフェナセチンは、長期間大量に服用すると「鎮痛剤腎症」と呼ばれる腎障害や上部尿路のがんのリスクを高めることが分かり、多くの国で販売が禁止されました18。オーストラリアなどの疫学研究では、フェナセチンの使用量が多かった人で腎盂・尿管がんのリスクが大幅に高まっていた一方、販売禁止後にはこれらのがんの発生率が明らかに減少したと報告されています18。
現在、日本で一般的に使用されている解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンや多くのNSAIDs)はフェナセチンとは異なりますが、いずれにしても「長期間、自己判断で飲み続ける」ことは、腎機能への負担という点からも望ましくありません。慢性的な痛みが続く場合は、市販薬に頼り続けるのではなく、専門医に原因を相談することが大切です。
2.4. リンチ症候群などの遺伝的要因
リンチ症候群(Lynch syndrome)は、大腸がんや子宮体がんなどのリスクが高まる遺伝性腫瘍症候群で、DNAのミスマッチ修復に関わる遺伝子(MSH2、MLH1など)の生まれつきの変異が原因とされています322。このリンチ症候群では、上部尿路上皮がんも特徴的ながんの一つであり、ある研究では、リンチ症候群の患者さんにおける一生涯のUTUC発症リスクは2〜5%程度と報告されています322。
「若い年齢で大腸がんや子宮体がんを発症した」「親やきょうだい、子どもなど近い血縁者に大腸がん・子宮体がん・尿路がんが多い」といった場合には、リンチ症候群の可能性を専門医に相談し、必要に応じて遺伝カウンセリングや遺伝学的検査を検討することがあります322。ご自身だけでなく、ご家族にとっても今後のがん検診の方針を考えるうえで重要な情報となるため、不安を一人で抱え込まず、がんゲノム医療中核拠点病院などの遺伝相談窓口に相談してみてください。
2.5. 年齢・性別・職業などの背景因子
前述のとおり、腎盂・尿管がんは高齢者に多く、年齢が上がるほど発症リスクが高まることが知られています11315。また、男性の方が女性よりも発症率が高い傾向にあり、喫煙歴や職業上の化学物質への曝露が影響している可能性が示唆されています81115。
職業性曝露としては、染料、ゴム、石油関連化学物質などが膀胱がんのリスク因子として知られており、上部尿路上皮がんも同様のパターンを示すとする報告があります81115。ただし、どの職業であれば必ずリスクが高いというわけではなく、作業環境・保護具の使用状況・喫煙の有無など、さまざまな要素が絡み合っています。
2.6. 「自分のせい」と責めすぎないために
喫煙歴や漢方・サプリの使用歴があると、「これをやめておけばよかった」と自分を責めてしまう方は少なくありません。しかし、がんの発症には遺伝的素因や年齢、偶然の遺伝子変異など、本人にはどうにもできない要素も大きく関わっています3811。
一番大切なのは、「過去に戻ることはできないが、今からできることはたくさんある」と考え直すことです。禁煙や適切な薬剤の使い方、腎臓を守る生活習慣、定期的な検査の継続など、今後の再発リスクを少しでも減らすための行動に目を向けていきましょう。
第3部:症状と診断の流れ ― どんな検査で見つかるのか
ここでは、腎盂・尿管がんでよくみられる症状と、実際に医療機関でどのような検査が行われるのかを流れに沿って解説します。「血尿が出たらすぐに大事な病気なのか」「どのタイミングで受診すべきか」など、よくある疑問にも触れていきます。
3.1. 代表的な症状 ― 血尿と側腹部痛
国立がん研究センターなどの患者向け情報によると、腎盂・尿管がんで最も多い症状は「血尿」です149。血尿には、肉眼で見て分かる「肉眼的血尿(尿が赤い・茶色い・ワイン色など)」と、健診の尿検査で初めて指摘される「顕微鏡的血尿」があります。
腎盂・尿管がんの血尿は、痛みを伴わないことも少なくありません。特に、痛みのない肉眼的血尿は、膀胱がん・腎盂・尿管がんなどの悪性疾患の可能性を考慮すべき重要なサインとされています14。
そのほか、尿管が腫瘍や血の塊で塞がれると、片側のわき腹〜背中に鈍い痛みや張り(側腹部痛)が出ることがあります。また、閉塞した部分に細菌感染が重なると、発熱や悪寒、強い痛みを伴う急性腎盂腎炎を起こすこともあります45。
3.2. 見逃してはいけない「赤信号」のサイン
次のような症状は、腎盂・尿管がんに限らず、何らかの重い病気が隠れている可能性がある「赤信号」のサインです。迷わず早めに医療機関を受診しましょう。
- 突然の肉眼的血尿(トイレの水が明らかに赤い・茶色い)を繰り返す。
- 血の塊(細長い血塊)が尿に混じり、排尿しづらい、尿が全く出なくなる。
- 片側の腰・背中の激しい痛みと高熱(38度以上)、悪寒を伴う。
- 原因不明の体重減少や食欲不振、強いだるさが数週間以上続く。
- 急に腎機能が悪化したと言われた(血液検査でクレアチニンが急上昇)。
これらの症状がある場合には、救急外来や休日夜間診療の受診も視野に入れて構いません。特に、激しい痛みと高熱を伴う場合や、全く尿が出ない場合は、ためらわずに119番通報を検討してください。
3.3. 診断の基本的な流れ
泌尿器科を受診した場合、腎盂・尿管がんが疑われるときの検査の流れは、おおむね次のようになります459。
- 問診と診察:いつから血尿があるか、痛みや発熱の有無、喫煙歴、薬・漢方・サプリの使用歴、家族のがん歴などを詳しく確認します。
- 尿検査:尿の中の血液の有無、感染の有無、たんぱく尿などを調べます。
- 尿細胞診:尿中にがん細胞が混じっていないかを顕微鏡で確認します。膀胱由来か上部尿路由来かの区別は難しいこともありますが、がんの「におい」を嗅ぎ分ける大切な検査です5。
- 画像検査(CT尿路造影など):造影剤を用いたCTで、腎盂・尿管・膀胱の形や内側を詳しく観察し、腫瘍の有無や広がりを評価します5。
- 膀胱鏡検査:膀胱の中を内視鏡で直接観察し、膀胱がんの有無を確認します5。
- 尿管鏡検査(URS)・生検:必要に応じて、細い内視鏡を尿管から腎盂まで進め、腫瘍を直接観察・一部を採取して病理検査(生検)を行います5。
3.4. CT尿路造影(CT urography)の役割
EAUガイドラインによると、CT尿路造影(CTU)はUTUC診断における第一選択の画像検査と位置づけられており、複数の研究をまとめたメタアナリシスでは、感度約92%、特異度約95%と高い診断能が報告されています5。造影剤を用いて造影前後の画像を撮影することで、腎盂・尿管の内腔に「欠損像」として腫瘍を描出したり、周囲の脂肪組織への浸潤やリンパ節腫大の有無を評価できます。
ただし、造影剤によるアレルギーや腎機能の悪化が問題となる場合もあるため、すでに腎機能が低下している方やアレルギー歴のある方では、造影剤の量を調整したり、代わりにMR urographyや超音波検査、FDG-PET/CTなどを組み合わせて評価することがあります56。
3.5. 尿管鏡(URS)と生検 ― 「見て」「一部を取って調べる」検査
尿管鏡検査(ureteroscopy: URS)は、細い内視鏡を膀胱から尿管・腎盂へと進め、粘膜面を直接観察する検査です。光で照らした映像をモニターで確認しながら、腫瘍の大きさ・形・位置を把握し、一部をつまむようにして採取して病理検査に回します5。
EAUガイドラインでは、URSと生検によって腫瘍のグレード(悪性度)をかなり高い精度で評価できるとされている一方、浸潤の深さ(ステージ)についてはCT所見などと合わせて総合的に判断する必要があるとしています5。また、URSにより膀胱への「シーディング」が増える可能性が懸念されていますが、メタアナリシスでは全生存率への悪影響は明確ではないとされています5。
3.6. スクリーニング(検診)はある?
腎盂・尿管がんは非常にまれながんであるため、一般の人を対象にした定期的なスクリーニング(検診)は行われていません57。一方で、リンチ症候群やアリストロキア酸への強い曝露歴がある人など、特別なハイリスク群では、顕微鏡的血尿や尿細胞診の異常に敏感になること、早めに画像検査を検討することが推奨される場合があります3。
「一般検診で必ず見つける」のではなく、「血尿などのサインが出たときに、見逃さずに適切な検査に結びつける」ことが、現実的で大切なポイントです。
第4部:治療の選択肢と生活の工夫 ― 腎臓を守りながら向き合う
ここでは、腎盂・尿管がんの標準的な治療方法と、その後の生活への影響について解説します。「腎臓を一つ取っても普通に生活できるのか」「高齢で体力が心配なときにどこまで治療を受けるべきか」など、多くの患者さんが抱える疑問にも触れながら、主な治療の考え方を整理します。
4.1. リスク分類に基づく治療方針の考え方
EAUガイドラインや日本泌尿器科学会ガイドラインでは、腎盂・尿管がんを「低リスク(low-risk)」と「高リスク(high-risk)」に大きく分け、それぞれに応じて治療方針を決めることが推奨されています56710。
一般的に、以下のような条件がそろうと「高リスク」と考えられます。
- 腫瘍が大きい(一般に2cm以上)。
- 多発している(複数の部位に腫瘍がある)。
- 尿細胞診や生検で高悪性度(ハイグレード)が疑われる。
- CTで筋層以深の浸潤が疑われる。
- リンパ節腫大がある。
一方、小さくて単発、画像上も粘膜表面にとどまっていると考えられる低悪性度の腫瘍などは「低リスク」とされ、腎臓を温存する治療(腎温存手術)が検討されます5610。
4.2. 腎尿管全摘術(RNU)+膀胱カフ切除 ― 標準的な手術
高リスクの腎盂・尿管がんや、腎温存が難しい症例に対しては、「腎尿管全摘術(radical nephroureterectomy: RNU)」が標準的な手術です467910。これは、がんが存在する側の腎臓全体と尿管を、膀胱に開口する部分(膀胱カフ)ごと一塊として切除する手術です。
手術は開腹、腹腔鏡、ロボット支援などさまざまな方法で行われますが、腫瘍を取り残さないことと周囲への播種を防ぐことが最優先されます。リンパ節転移が疑われる場合には、リンパ節郭清もあわせて行われることがあります67。
4.3. 腎温存手術(KSS) ― 条件を満たせば腎臓を残す選択も
低リスクのUTUCでは、腎臓を残したまま腫瘍だけを切除・焼灼する「腎温存手術(kidney-sparing surgery: KSS)」が選択されることがあります5610。代表的な方法には、尿管鏡を用いた内視鏡的切除・レーザー焼灼や、尿管の一部だけを切除してつなぎ直す部分切除などがあります。
腎温存手術の利点は、腎機能をできるだけ保てることです。特に、高齢で糖尿病や高血圧などの持病がある方では、腎臓を一つ失うことが将来の腎機能低下や透析のリスクにつながる可能性があるため、慎重に検討されます611。
一方で、腎温存手術では再発のリスクが高くなることがあり、術後に尿管鏡検査や画像検査を頻回に行う必要があります56。「検査が増えても腎臓を残したいのか」「検査の頻度を減らしてもよいから根治性を優先したいのか」など、生活スタイルや価値観も含めて主治医とよく相談して決めていくことが大切です。
4.4. 術後補助化学療法(アジュバント化学療法)とPOUT試験
筋層以深に浸潤している(pT2〜T4)またはリンパ節転移のある腎盂・尿管がんでは、手術だけでは再発リスクが高いため、術後に「補助化学療法(アジュバント化学療法)」を追加することが国際的にも推奨されています67111623。
特に有名なのが、イギリスなどで行われたPOUT試験です。この試験では、腎尿管全摘術後の患者さんを「術後にジェムシタビン+シスプラチン(またはカルボプラチン)を4サイクル行う群」と「経過観察のみの群」に分けて比較しました。その結果、術後3年の無再発生存率(disease-free survival: DFS)は、補助化学療法群で約71%、経過観察群で約46〜50%と報告され、再発や死亡のリスクが約45〜55%低下したことが示されました1623。
この結果は、European Urology誌のシステマティックレビューやEAUガイドラインにも反映されており、シスプラチンを使用できる腎機能が保たれている患者さんでは、術後補助化学療法が標準的な選択肢として位置づけられています671114。ただし、高齢や合併症によりシスプラチンが使えない場合は、カルボプラチンを用いたり、あえて化学療法を行わない選択をすることもあります。
4.5. 術前化学療法(ネオアジュバント化学療法)
術前に化学療法を行う「ネオアジュバント化学療法」は、UTUCでも一定の効果が期待されており、特に腫瘍が大きく進行しているケースやリンパ節転移が疑われるケースで検討されます1114。手術前の段階では両側の腎臓が残っているため、シスプラチンを十分量使用できる可能性が高いという利点があります。
2021年のシステマティックレビューでは、ネオアジュバント化学療法により病理学的完全奏効(がんが検出されない状態)が一定の割合で得られ、全生存率(overall survival: OS)も改善する可能性が示されていますが、エビデンスの質や症例数はまだ限られており、補助化学療法ほど明確な結論は出ていません14。
4.6. 進行・再発症例に対する全身治療 ― 免疫療法や分子標的薬も
遠隔転移を伴う進行UTUCでは、膀胱がんを含む尿路上皮がん全体と同様に、プラチナ製剤を含む化学療法が第一選択となります6711。その後、病勢が安定した患者さんに対して免疫チェックポイント阻害薬(アベルマブ維持療法など)を行うことで、生存期間が延長することが、JAVELIN Bladder 100試験などで示されています6。
また、シスプラチン不適格な患者さんに対するペムブロリズマブ単剤療法や、抗体薬物複合体エンホルツマブ ベドチンとペムブロリズマブの併用療法、FGFR2/3変異を持つ患者さんに対するエルダフィチニブなど、膀胱がんの治療で用いられている新規薬剤がUTUC患者さんにも適用されるケースが増えています611。
4.7. 腎臓を一つ失うことの影響と生活の工夫
「腎臓を一つ取る」と聞くと、「すぐに透析になるのではないか」と不安になる方が多いですが、実際には、多くの人が腎臓を一つにしても日常生活を大きく制限されることなく過ごすことができます。ただし、高齢であったり、もともと糖尿病や高血圧、慢性腎臓病がある場合には、術後の腎機能低下が問題になりやすいことも事実です611。
EAUガイドラインでは、腎尿管全摘術後の推算糸球体濾過量(eGFR)は、多くの患者さんで50 mL/分前後まで低下する可能性があると報告されています6。このため、術後には以下のような工夫が重要になります。
- 塩分やタンパク質の摂りすぎに注意し、バランスの良い食事を心がける。
- 血圧や血糖を適切にコントロールする(必要に応じて内科と連携)。
- 脱水を防ぐため、医師の指示の範囲でこまめな水分補給を意識する。
- 腎臓に負担のかかる薬(NSAIDsなど)の長期連用を避ける。
- 定期的な血液検査で腎機能の推移をチェックする。
「腎臓を守る生活」は、心臓や脳の病気の予防にもつながる大切な習慣です。腎臓を一つにしたことをきっかけに、生活習慣を見直し、無理のない範囲でできることから取り入れていきましょう。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今日からできること | 水分と排尿リズムを意識する | 日中にこまめに水分をとる、トイレを我慢しすぎない、尿の色や回数をメモしておく など |
| Level 2:次回診察までに整えたいこと | 生活習慣と薬の見直し | 禁煙サポートを利用する、サプリや漢方のリストを作って主治医に相談する、お薬手帳を整理する など |
| Level 3:長期的に続けたいこと | 腎臓を守る生活と検査の継続 | 定期的な血液検査・尿検査を欠かさない、無理のない運動習慣を続ける、がん相談支援センターなどで不安を話す など |
第5部:再発予防とフォローアップ・受診の目安・家族ができること
腎盂・尿管がんの治療は、手術や化学療法が終わればそれでおしまい、というものではありません。膀胱や対側の腎盂・尿管に新たながんができる可能性があるため、長期的なフォローアップがとても重要です。また、リンチ症候群が疑われる場合には、ご家族を含めた対応を考える必要があります。
5.1. フォローアップの基本 ― なぜ長く続くのか
EAUガイドラインや日本泌尿器科学会ガイドラインでは、腎盂・尿管がんの術後には、膀胱内再発や対側上部尿路、遠隔転移を早期に見つけるため、定期的な膀胱鏡検査・尿細胞診・画像検査などを複数年にわたって行うことが推奨されています671011。
具体的な頻度はリスクや施設によって異なりますが、高リスク症例では術後2〜3年は3〜6か月ごと、その後は徐々に間隔をあけながら、少なくとも5年程度はフォローアップを続けるケースが一般的です67。低リスク症例でも、膀胱内再発のリスクを考慮して、一定期間の膀胱鏡や尿細胞診が推奨されます。
5.2. 受診を検討すべき危険なサイン
フォローアップ中であっても、次のような症状が出た場合には、定期診察を待たずに早めに主治医や医療機関に連絡しましょう。
- 新たな血尿(肉眼的・顕微鏡的)に気づいた。
- 片側の腰・背中の痛みが急に強くなった、または続いている。
- 原因不明の発熱が続く、悪寒や震えを伴う。
- 息苦しさ、胸痛、骨の痛み、黄疸など、遠隔転移を疑う症状が出てきた。
症状が急激で強い場合や、意識がもうろうとする、呼吸が苦しいといった命に関わるサインがあるときは、ためらわずに119番通報を検討してください。
5.3. 家族に大腸がんや子宮体がんが多い場合 ― リンチ症候群との関係
ご自身や家族に、大腸がん・子宮体がん・上部尿路上皮がんなどが若い年齢で集中している場合には、リンチ症候群が隠れている可能性があります322。リンチ症候群では、大腸・子宮体・卵巣・胃・小腸・胆道・膵臓・上部尿路上皮など、複数の臓器にがんが発生しやすいことが知られています322。
「うちの家系はがん家系だから」とあきらめるのではなく、遺伝カウンセリングを受けることで、自分や家族にとって適切ながん検診の方法や頻度を具体的に相談することができます。遺伝子検査を受けるかどうかは慎重な検討が必要ですが、情報を知ることで早期発見につながるケースも少なくありません。
5.4. 心の負担と仕事・生活の調整
腎盂・尿管がんは、高齢者に多いとはいえ、現役で働いている世代にも起こり得る病気です。手術や化学療法、頻回な通院により、「仕事を続けられるのか」「家事や介護をどうこなせば良いのか」といった現実的な悩みが生じます11。
欧米の研究では、尿路上皮がん患者さんの多くが「疲労感」「再発不安」「経済的不安」「自己イメージの変化」などの心理的負担を抱えていることが報告されています11。特に、腎臓を一つ失ったことや、いつか透析が必要になるのではないかという不安は、日本でも多くの患者さんが抱える共通のテーマです。
こうした不安を一人で抱え込まないために、病院内のがん相談支援センターや地域の相談窓口、患者会・ピアサポートなどを活用することをおすすめします。仕事に関しては、産業医や人事担当者と相談しながら、勤務時間や業務内容を柔軟に調整できる場合もあります。可能であれば、ご家族や信頼できる友人にも状況を共有し、サポートを得ることで、治療と生活の両立がしやすくなります。
よくある質問
Q1: 尿に血が混じりますが、痛みがない場合は様子を見ても大丈夫ですか?
A1: 痛みのない血尿でも、腎盂・尿管がんや膀胱がんなどのサインである可能性があります。国立がん研究センターの情報でも、腎盂・尿管がんの代表的な症状として「無痛性の血尿」が挙げられています149。結石や一時的な炎症で済むこともありますが、自己判断で様子を見続けるのは危険です。
1回だけで自然に治まっても、特に40〜50歳以上で喫煙歴がある場合や、血尿を繰り返す場合には、早めに泌尿器科を受診し、尿検査や画像検査などを受けることをおすすめします。
Q2: 腎臓を一つ取っても、普通に生活できますか?
A2: 多くの人は、腎臓が一つになっても日常生活を送ることができますが、高齢や持病の有無によって腎機能への影響は変わります。EAUガイドラインなどでは、腎尿管全摘術後の推算糸球体濾過量が50 mL/分前後まで低下することが示されており6、特にもともと慢性腎臓病がある方では注意が必要です。
塩分を控えめにする、血圧や血糖をしっかり管理する、腎臓に負担のかかる薬の長期連用を避けるなど、「腎臓を守る生活」を心がけることで、透析に至るリスクを減らすことが期待できます。心配な点があれば、泌尿器科だけでなく腎臓内科とも連携しながら、定期的に腎機能を確認していきましょう。
Q3: 高齢で体力が心配ですが、術後の抗がん剤(補助化学療法)は本当に必要ですか?
A3: 術後補助化学療法は、再発リスクの高い患者さんにとって再発率を下げる効果がある一方で、副作用も少なくありません。POUT試験では、術後化学療法により3年無再発生存率が約46〜50%から71%に改善しましたが1623、高齢の方や腎機能が低下している方では、シスプラチンが使えない、あるいは副作用が強く出る可能性もあります。
「どの程度再発リスクが高いのか」「どの薬が使える腎機能か」「ご本人がどのように余生を過ごしたいと考えているか」によって、最適な選択は変わります。統計的な数字だけで決めるのではなく、主治医とよく話し合いながら、ご自身の価値観に合った治療方針を一緒に考えていくことが大切です。
Q4: 腎盂・尿管がんはどのくらい珍しいがんですか?
A4: 日本全体で見ると、腎盂・尿管がんは比較的まれながんに分類されます。国立がん研究センターの統計によると、2019年には8,823人が腎盂・尿管がんと診断されており2、上部尿路上皮がん全体の罹患率は1〜2/10万人程度と推定されています1315。尿路上皮がん全体(膀胱がんを含む)のうち、おおよそ5〜10%程度を占めるとされています1115。
「非常に珍しいから自分には関係ない」と思いがちですが、高齢化に伴って患者数は少しずつ増加していると報告されており11215、血尿などのサインを見逃さないことが大切です。
Q5: 家族に大腸がんや子宮体がんが多いのですが、遺伝性のがん(リンチ症候群)と関係がありますか?
A5: ご家族に、大腸がんや子宮体がん、上部尿路上皮がんなどが若い年齢で多発している場合には、リンチ症候群の可能性があります322。リンチ症候群では、DNAのミスマッチ修復異常により、複数の臓器でがんが発生しやすくなります。
必ずしも「家族にがんが多い = リンチ症候群」というわけではありませんが、不安がある場合は、がんゲノム医療の拠点病院や遺伝カウンセリング外来に相談してみるとよいでしょう。遺伝子検査の適応や、今後のがん検診の方針について専門家から説明を受けることができます。
Q6: 漢方やサプリは飲み続けても大丈夫ですか?アリストロキア酸が心配です。
A6: 日本で承認されている漢方薬にはアリストロキア酸を含む生薬は原則として使用されていませんが、過去にはアリストロキア酸を含むハーブやダイエット製品などが原因で腎障害や上部尿路上皮がんが発生した例が報告されています31720。海外製品や個人輸入のサプリ、成分表示が不十分な健康茶などには注意が必要です。
現在服用している漢方薬やサプリが心配な場合は、自己判断で中止したり再開したりするのではなく、必ず主治医や薬剤師に相談しましょう。成分や目的に応じて、続けた方がよいもの、避けた方がよいものを一緒に整理してもらうことができます。
Q7: 腎盂・尿管がん術後は、どのくらいの頻度で検査を受ける必要がありますか?
A7: 検査の頻度は、腫瘍のリスク(低リスクか高リスクか)や治療内容、施設の方針によって異なりますが、EAUガイドラインや日本泌尿器科学会ガイドラインでは、術後2〜3年間は3〜6か月ごと、その後は徐々に間隔をあけながら少なくとも5年程度はフォローアップを続けることが推奨されています671011。
膀胱鏡検査、尿細胞診、超音波・CTなどの画像検査を組み合わせて行い、膀胱内再発や対側腎盂・尿管の新たながん、遠隔転移などを早期に見つけることが目的です。通院が負担に感じる場合は、主治医と相談しながらスケジュールを調整していきましょう。
Q8: 再発した場合、もう一度手術しかないですか?薬や免疫療法は効きますか?
A8: 再発の場所や広がり方によって、治療の選択肢は大きく変わります。膀胱内に再発した場合は、膀胱がんとして内視鏡手術や膀胱内注入療法などが検討されます56。一方、遠隔転移がある場合には、膀胱がんと同様にプラチナベースの化学療法や免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体などの全身治療が選択されます611。
近年は、エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ併用療法や、FGFR2/3変異を標的としたエルダフィチニブなど、新しい薬剤が次々と登場しており、UTUC患者さんでもこれらが適用されるケースが増えています611。再発時の治療方針は、病状や全身状態、これまでに受けた治療歴を踏まえて、主治医や腫瘍ボード(多職種カンファレンス)で慎重に検討されます。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
腎盂・尿管がん(上部尿路上皮がん)は、日本では比較的まれながんですが、高齢の方を中心に確実に存在し、血尿などのサインをきっかけに見つかることが多い病気です12415。喫煙やアリストロキア酸を含むハーブ、フェナセチンなどの鎮痛剤、リンチ症候群といったリスク因子が知られている一方、「特別なリスクが見当たらないのに発症する」ケースも少なくありません38111718。
大切なのは、「血尿を放置しないこと」「適切な検査と診断につなげること」「リスクとメリットを理解したうえで治療方針を一緒に考えること」、そして「治療後も腎臓と全身を守る生活を続けながら、再発を早期に見つけるためのフォローアップをあきらめないこと」です5671011。
本記事の情報は、厚生労働省や国立がん研究センター、日本泌尿器科学会、EAUガイドライン、査読付き論文などの信頼できるエビデンスに基づいて整理したものですが、最終的な診断や治療方針は、必ず担当の医師と相談して決める必要があります。「自分の体のことを理解したい」「主治医に質問するときの整理をしたい」というときに、本記事が少しでもお役に立てば幸いです。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。腎盂・尿管がんに関する本記事も、国立がん研究センター、日本泌尿器科学会、European Association of Urology(EAU)などの資料や、主要な臨床試験・システマティックレビューをもとに構成されています125671011141623。
本記事の原稿は、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っており、必要に応じて情報の更新・修正も行います。
ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
記事内容に誤りや古い情報が含まれている可能性にお気づきの場合は、お手数ですが運営者情報ページ記載の連絡先までお知らせください。事実関係を確認のうえ、必要な訂正・更新を行います。
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