「下着が触れるだけでヒリヒリする」「おりものはいつも通りなのに、デリケートゾーンだけ焼けるように痛い」「性交のあとだけ膣がピリピリしてつらい」――。こうした膣や外陰部(デリケートゾーン)のヒリヒリ・灼熱感は、人にはなかなか相談しづらい一方で、仕事中や通勤中、就寝前など生活のあらゆる場面で気になってしまうつらい症状です。
多くの方がまず「清潔にしていないからかも」「性病だったらどうしよう」と自分を責めたり、インターネットで調べて市販薬だけで何とかしようとしがちです。しかし実際には、カンジダ腟炎や細菌性腟症(BV)などの腟炎、クラミジアや淋菌などの性感染症(STI)、ナプキンや下着によるかぶれ、更年期のホルモン変化による乾燥、さらにはヴルヴォディニア(外陰痛症候群)といった慢性痛など、背景はさまざまです。中には、放置すると不妊症や妊娠・出産への影響につながるものもあります。12
本記事では、Japanese Health(JHO)編集部が、厚生労働省や日本産科婦人科学会、日本性感染症学会、世界保健機関(WHO)、米国疾病予防管理センター(CDC)などの公的情報源・ガイドライン・査読付き論文をもとに、膣やデリケートゾーンのヒリヒリ・灼熱感について、原因別の特徴、受診の目安、日常生活でできるセルフケアまで丁寧に解説します。1212
この記事を読み進めることで、「自分の症状はどんなタイプに近いのか」「どのタイミングで婦人科や皮膚科に相談すべきか」「市販薬で様子を見てもよいケースと、すぐ受診した方がよいサインの違い」がイメージしやすくなるよう構成しています。誰にも言えず一人で悩んでいる方も、まずは落ち着いて、自分の体の状態を知るところから一緒に整理していきましょう。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日本で生活する人が日常生活の中で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、以下のような一次情報源に基づいて、JHO編集部が生成AIツールのサポートを受けながら構成し、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。
- 厚生労働省や感染症発生動向調査(IDWR)などの公的機関:日本における性感染症の発生状況や、性感染症に関する総合情報ページなどを参照しています。11
- 日本産科婦人科学会(JSOG)・日本性感染症学会(JSSTI)などの学会ガイドライン:婦人科外来診療ガイドラインや、細菌性腟症・性器カンジダ症などの診療指針をもとに、症状の解釈や治療の考え方を整理しています。121314
- 世界保健機関(WHO)・米国CDCなどの国際ガイドライン:性感染症の管理、カンジダ症、細菌性腟症や膣分泌物の評価などに関する最新の国際的な推奨を参照しています。1234
- 査読付き論文・総説:VVC(カンジダ腟炎)やBV(細菌性腟症)の有病率、ヴルヴォディニアの頻度と影響、パートナー治療の有効性などを扱った最新の総説・臨床試験の結果も反映しています。567810
- 国内の医療機関・クリニックの解説ページ:日本人の生活実態に即した症状の説明や、受診の目安、日常生活でのケアの工夫として、婦人科クリニックなどの解説も参考にしています。1617
生成AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
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要点まとめ
- 膣やデリケートゾーンのヒリヒリ・灼熱感は、腟炎(カンジダ腟炎・細菌性腟症など)、性感染症(STI)、ナプキンや下着によるかぶれ、更年期の乾燥、ヴルヴォディニア(外陰痛)など、さまざまな原因で起こります。
- 世界保健機関(WHO)や国際的な研究によると、女性の約75%が一生に一度はカンジダ腟炎を経験し、そのうち5〜10%は「くり返すカンジダ(反復性VVC)」になるとされています。5
- 細菌性腟症(BV)は女性の約4人に1人でみられるほど頻度が高く、妊娠中の早産や性感染症リスクの上昇とも関連するため、放置せず適切な治療が重要です。67
- ヒリヒリと同時に、発熱・下腹部の強い痛み・性行為時の激痛・異常な出血・水ぶくれや潰瘍などがある場合は、骨盤内炎症性疾患(PID)や性感染症など、緊急の治療が必要な病気が隠れている可能性があります。1
- 更年期や産後、授乳中などは、女性ホルモンが減ることで膣が乾燥しやすくなり、わずかな摩擦でもヒリヒリしやすくなります。こうした「萎縮性腟炎」の症状は、ホルモン療法や保湿ケアなどで改善が期待できます。12
- 3か月以上続く原因不明の外陰部の痛み・灼熱感は、ヴルヴォディニア(外陰痛症候群)が疑われます。痛み専門外来や心療内科、婦人科など複数の診療科と連携したアプローチが推奨されています。910
- 市販薬で一時的に症状が落ち着いても、自己判断でくり返し使い続けると原因の見逃しにつながることがあります。症状が続くとき・くり返すとき・心配な点があるときは、早めに婦人科や皮膚科で相談しましょう。413
「かゆみはあまりないのに、とにかくヒリヒリして落ち着かない」「性行為のあとだけ焼けるように痛い」「ナプキンの時期だけしみる」など、ヒリヒリの出方は人によってさまざまです。本記事では、こうした「自分の症状はどれに近いのか」を一緒に整理しながら、原因の候補を絞り込んでいきます。
まずは、生活習慣や身につけているもの(下着・ナプキン・洗浄剤など)による刺激から確認し、そのうえで腟炎や性感染症など医療機関での検査が必要となる病気を順番に見ていきます。さらに、くり返すカンジダ腟炎や細菌性腟症、ヴルヴォディニアといった、やや専門的な病気についても、日常生活への影響や治療の考え方を分かりやすく解説します。165
各セクションでは、セルフチェックのポイントや受診の目安、今日からできるケアもあわせて紹介します。あわせて、JHO内の関連ガイドへのリンクも掲載しており、気になるテーマをさらに深掘りすることもできます。テンポよく読み進めながら、「今の自分にとって必要な一歩」が見つかるよう構成しました。
この記事を読み終える頃には、「このまま様子を見てよいのか」「近いうちに婦人科で相談した方がよいのか」「パートナーにも検査や治療を勧めるべきか」といった悩みについて、以前よりも具体的なイメージが持てるようになるはずです。一人で抱え込まず、情報を味方につけて、少しずつ体と向き合っていきましょう。
第1部:膣・デリケートゾーンのヒリヒリの基本と日常生活の見直し
最初に確認したいのは、「いきなり重い病気を心配する前に、生活習慣や身の回りのものが原因になっていないか」という点です。デリケートゾーンは汗や湿気がこもりやすく、下着やナプキンなど多くの人工素材に触れているため、ちょっとした摩擦やかぶれでもヒリヒリしやすい場所です。特に、長時間座りっぱなしの仕事や、スポーツをよくする方、暑い季節は、こうした刺激が重なりやすくなります。16
1.1. ヒリヒリ・灼熱感の感じ方と体の仕組み
「ヒリヒリする」「焼けるように痛い」「しみる」「ピリピリする」といった感覚は、皮膚や粘膜にある痛みを感じる神経が、炎症や乾燥、摩擦などで刺激されたときに起こります。膣の入り口や小陰唇(内側の唇のような部分)、肛門の手前あたりは、特に敏感な神経が集中しているため、少しの炎症でも強いヒリヒリとして感じやすいのが特徴です。9
また、膣の内部は乳酸菌(ラクトバチルス)を中心とした細菌のバランスによって、やや酸性(pH3.8〜4.5程度)に保たれています。このバランスが崩れると、細菌性腟症(BV)のようにアルカリ寄り(pH > 4.5)になり、不快感やヒリヒリにつながることがあります。6逆に、カンジダ腟炎のように真菌(カビ)が増えるタイプでは、炎症による強いかゆみやヒリヒリ感が前面に出てきます。4
1.2. 悪化させてしまうNG習慣
まず見直したいのは、次のような「無意識のうちにやってしまいがちな習慣」です。これらは単独でもヒリヒリを引き起こすことがありますし、カンジダ腟炎やBVなどの病気がある場合、症状をさらに悪化させることがあります。
- 一日中ナプキンやおりものシートをつけっぱなしにしている:湿気と熱がこもり、皮膚がふやけた状態になって摩擦に弱くなります。また、ムレが腟内の細菌バランスを乱し、BVやVVCの温床となることもあります。620
- きつい化繊の下着やガードル、ストッキングを長時間着用:通気性が悪く、汗や摩擦による刺激が強くなり、かぶれや接触皮膚炎の原因になります。16
- ボディソープや洗浄料でゴシゴシ洗う・膣の中まで洗浄する(膣洗浄・douching):表面の皮脂や常在菌を取りすぎてしまい、防御力が低下します。膣内を洗う習慣(douching)は、BVやVVCのリスク上昇と関連しているとする研究が多く、国際ガイドラインでも推奨されていません。182
- 汗をかいたあとにそのままの下着やスポーツウェアで長時間いる:ジムやホットヨガ、長時間の通勤・出張などで汗をかいたままの状態が続くと、湿った環境を好むカンジダなどが増えやすくなります。5
- 市販のカンジダ薬やデリケートゾーン用クリームを、自己判断で何度も使用:一時的に症状が引いても根本原因がBVやSTIであった場合、病気を見逃してしまうリスクがあります。413
こうしたNG習慣に心当たりがある場合は、まず数日〜1週間程度、生活習慣を整えたうえで変化を観察してみるとよいでしょう。ただし、後述する「危険なサイン(赤信号)」がある場合や、ヒリヒリが強く日常生活に支障をきたしている場合は、セルフケアにこだわりすぎず早めの受診を検討してください。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 生理中やおりものシート使用時だけ、外陰部がヒリヒリして赤くなる | ナプキンやおりものシートの素材による接触皮膚炎・摩擦刺激など |
| スポーツ後や長時間の通勤後、ムレた状態で放置すると必ずピリピリする | 汗・湿気によるかぶれ、カンジダや細菌の増殖しやすい環境 |
| ボディソープやデリケートゾーン用洗浄剤でしっかり洗ったあとにしみる | 洗いすぎによる皮膚バリア低下、香料・界面活性剤などによる刺激 |
| 新しい下着やコンドーム、潤滑剤を使い始めてからヒリヒリが出現した | ゴムや添加物、潤滑成分などに対するアレルギー・刺激 |
| 生活習慣を整えても、ヒリヒリが数週間〜数か月続いている | 腟炎・性感染症・萎縮性腟炎・ヴルヴォディニアなど、医療機関での評価が必要 |
第2部:身体の内部要因 — 腟炎・性感染症・ホルモンバランスの変化
生活習慣を見直してもなかなか良くならない場合や、そもそも急に強いヒリヒリが出てきた場合は、腟炎や性感染症など、体の内部で起こっている変化を考える段階です。この部では、代表的な病気や状態を原因別に整理し、特徴的なサインや受診の目安を解説します。
2.1. カンジダ腟炎(VVC) — かゆみ+ヒリヒリが強い代表的な腟炎
カンジダ腟炎(VVC:vulvovaginal candidiasis)は、口や腸にも存在するカンジダという真菌(カビの一種)が、膣や外陰部で増えすぎることで起こる感染症です。世界保健機関(WHO)や国際的な研究によると、女性の約75%が生涯に1回はVVCを経験し、そのうち5〜10%は1年に4回以上くり返す「反復性VVC(RVVC)」になるとされています。53
典型的な症状は、強いかゆみ+ヒリヒリする痛み、性交時や排尿時のしみる感じ、そして白くポロポロした「ヨーグルト状のおりもの」です。ただし、すべての人が教科書通りの症状になるわけではなく、「おりものはそれほど変化がないのに、外陰部だけ強くヒリヒリする」というケースもあります。4
VVCは、抗生物質の内服後、妊娠中、糖尿病や肥満がある方、きつい下着やムレやすい環境などで起こりやすくなります。20治療は、一般的にアゾール系抗真菌薬(クリーム・膣錠・内服薬など)を数日〜1週間程度使用し、多くの人が改善します。ただし、自己判断で市販薬をくり返し使うと、BVやSTIなど他の原因が隠れていても見逃してしまう可能性があるため、初めて強い症状が出た場合や、何度もくり返す場合は婦人科で相談することが大切です。412
2.2. 細菌性腟症(BV) — におい・ムレ感+軽いヒリヒリ
細菌性腟症(BV:bacterial vaginosis)は、膣内のラクトバチルスが減り、ガードネレラ属などの嫌気性菌が増えることで起こる状態です。炎症というより「細菌叢の乱れ」に近く、乳酸菌優位の酸性環境からアルカリ寄りの環境に変わることで、灰白色〜薄い灰色のおりもの・生臭いにおい・ムレ感などが出現します。613
国際的な研究では、BVは性成熟期女性の平均約25%前後でみられることが報告されています。6日本の婦人科領域の文献でも、「帯下(おりもの)の異常」で受診する人のうち、10〜40%がBVと診断されるとされています。15症状としては、においとおりものが主で、ヒリヒリ感は軽め〜中等度ということが多いですが、排尿時や性交時にしみるような痛みを伴う人もいます。
BVは性感染症(STI)そのものではないものの、性行動やパートナーとの関係とも関連が深く、クラミジアや淋菌などのSTIやHIVにかかりやすくなるリスクが指摘されています。さらに、妊婦では早産や前期破水、低出生体重児などのリスク増加との関連が報告されており、適切な診断と治療が重要です。71
治療には、メトロニダゾールやクリンダマイシンといった抗菌薬の内服・膣剤が用いられますが、従来から「治っても数か月以内に再発しやすい」ことが大きな課題でした。2025年には、女性だけでなく男性パートナーにもメトロニダゾール内服+クリンダマイシン外用を行う「パートナー治療」により、12週間内のBV再発率を63%→35%に下げたとするランダム化比較試験(StepUp試験)が『New England Journal of Medicine』に報告されています。8これにより、今後はBVをパートナーも関与する感染症として捉え、カップル単位で治療を検討する流れが強まると考えられています。
2.3. 性感染症(STI)によるヒリヒリ感
クラミジアや淋菌、トリコモナス、性器ヘルペスなどの性感染症(STI)も、膣や外陰部のヒリヒリ感の原因になります。厚生労働省の感染症発生動向調査によると、日本では性器クラミジア感染症が毎年数万人規模で報告され、特に20〜24歳女性の報告数が高いことが示されています。11
- クラミジア・淋菌感染症:おりものの量が増える、軽い下腹部痛、性行為時の痛み、排尿時のしみる感じなどがみられますが、まったく症状がない「サイレント感染」も少なくありません。放置すると骨盤内炎症性疾患(PID)を起こし、不妊や子宮外妊娠のリスクを高めることが知られています。1
- トリコモナス腟炎:黄緑色〜泡立ったようなおりもの・強いにおい・ヒリヒリ感が特徴で、パートナーにも感染しやすい感染症です。13
- 性器ヘルペス:最初はピリピリ・ヒリヒリする前駆症状があり、その後小さな水ぶくれが集まってでき、破れて潰瘍になると排尿や歩行が困難なほどの強い痛みになることがあります。1
これらの感染症は、適切な検査(NAAT検査・培養・血液検査など)と、本人・パートナー双方の治療が重要です。特に、「かゆみはあまりないがヒリヒリが続く」「パートナーが変わった」「コンドームをつけない性行為があった」など心当たりがある場合は、早めに婦人科や性感染症に対応している医療機関で検査を受けましょう。12
2.4. 更年期・萎縮性腟炎・ホルモン変化によるヒリヒリ
40代後半〜50代以降の更年期、また産後・授乳中など、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが低下する時期には、膣や外陰部の粘膜が薄く乾燥しやすくなります。これを萎縮性腟炎(atrophic vaginitis)あるいは閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)と呼びます。12
粘膜が薄くなると、わずかな摩擦でも傷つきやすくなり、 性交時のヒリヒリする痛み、膣の乾燥感、しみるような違和感、さらには尿の回数が増える・尿がしみるといった症状が出やすくなります。「年齢のせいだから我慢するしかない」と思い込み、誰にも相談できずにつらさを抱えている方も少なくありません。
しかし、萎縮性腟炎には局所エストロゲン療法(膣錠・クリームなど)や、ホルモンを含まない保湿ジェルなど、いくつかの対処法があります。12また、更年期のホルモンバランスと心身の変化全体を見ながらサポートしてくれる外来も増えてきています。「歳だから仕方ない」と諦めず、婦人科などで相談してみることをおすすめします。
第3部:専門的な診断が必要な疾患 — ヴルヴォディニア(外陰痛)を含めて
生活習慣や感染症の治療、ホルモンバランスの調整などを行ってもなお、3か月以上にわたって膣や外陰部のヒリヒリ・灼熱感が続く場合、ヴルヴォディニア(外陰痛症候群)など、慢性的な痛みの病気が関わっている可能性があります。9
3.1. ヴルヴォディニアとは?
ヴルヴォディニアは、国際的な診断基準では「明らかな原因(感染症、皮膚病、腫瘍など)が見つからないにもかかわらず、外陰部の痛みが3か月以上続いている状態」と定義されています。9痛みの感じ方は、「焼けるような(burning)」「刺すような」「ヒリヒリする」「生身がこすれるような(raw feeling)」など、人によってさまざまです。
これまでの研究のまとめによると、女性の約10〜28%が人生のどこかでヴルヴォディニアに近い症状を経験していると推計されており、決して珍しい病気ではありません。10一方で、「検査をしても異常が見つからないため、自分でもどう説明してよいか分からず、周囲にも理解されにくい」という心理的負担が大きい病気でもあります。
3.2. ヴルヴォディニアの背景とリスク因子
ヴルヴォディニアの原因は一つではなく、過去のカンジダ腟炎やBVなどの炎症のくり返し、痛みに敏感になりやすい体質、骨盤底筋の緊張、ストレスや不安、過去のトラウマなど、さまざまな要因が重なっていると考えられています。21
日本心身医学的産婦人科研究会(JSPog)なども、慢性骨盤痛や外陰痛の解説の中で、心と体の両面からアプローチする重要性を強調しています。22単に「気のせい」と片付けるのではなく、痛みそのものを症状として真正面から扱い、患者さんと医療者が一緒に対策を考えていく病気だと考えるとイメージしやすいかもしれません。
3.3. 診断と治療のアプローチ
ヴルヴォディニアが疑われる場合でも、まずは感染症や皮膚疾患、腫瘍などをきちんと除外することが大前提です。そのうえで、「綿棒で軽く触れるとどの部分がどのくらい痛むか」を確認する検査(綿棒テスト)や、痛みの経過・ライフイベントとの関係などを丁寧に聞き取りながら、総合的に診断していきます。9
治療は、一つの薬で一気に治るというより、複数の方法を組み合わせて痛みを和らげていくスタイルが一般的です。
- 痛みの神経を落ち着かせる内服薬(トリサイクリック系抗うつ薬やガバペンチノイドなど)
- 外陰部に塗る局所麻酔薬(リドカイン軟膏など)
- 骨盤底筋のストレッチやリラクゼーション、理学療法
- 心理的ストレスやトラウマへのカウンセリング・心療内科的アプローチ
- 性交のスタイルや頻度を含めたカップルでのコミュニケーション調整
痛みが長引くと、「また痛くなったらどうしよう」という不安から性行為を避けてしまったり、パートナーとの関係に影響が出ることも少なくありません。一人で抱え込まず、婦人科だけでなく、ペインクリニックや心療内科など、複数の診療科が連携している医療機関を探すことも選択肢の一つです。22
第4部:今日から始める改善アクションプラン
原因が何であれ、「今すぐできること」「数日〜数週間かけて試したいこと」「医療機関に相談するときに準備したいこと」を整理しておくと、気持ちが少し楽になります。この部では、段階別のアクションプランを紹介します。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 刺激を減らし、清潔かつ乾いた状態を意識する | 入浴時はデリケートゾーンをぬるま湯で優しく洗い、ボディソープは外陰部のみに少量使う。お風呂上がりはタオルで軽く押さえるように水分を取り、よく乾かす。 |
| Level 1:今夜からできること | 下着・ナプキンの見直し | 通気性の良いコットン素材の下着を選ぶ。生理中・おりものシートはこまめに交換し、寝る前や出血が少ない日はシートの使用を控える。 |
| Level 2:今週から始めること | 膣洗浄・香り付き製品をやめてみる | 「デリケートゾーンウォッシュ」「膣内洗浄」などの製品を一度お休みし、1〜2週間はぬるま湯中心のケアに切り替える。においが気になる場合は、早めに婦人科で相談する。 |
| Level 2:今週から始めること | 症状のメモをつける | ヒリヒリが出るタイミング(生理周期・性交前後・排尿時・運動後・仕事中など)をスマホのメモアプリなどに記録しておき、後で受診時に見せられるようにしておく。 |
| Level 3:1か月単位で考えること | くり返す場合の受診計画を立てる | 同じようなヒリヒリが1か月のうちに何度も出る、あるいは3か月以上続いている場合は、次の生理周期を待たずに婦人科受診の予定を立てる。 |
| Level 3:1か月単位で考えること | パートナーとのコミュニケーション | 性交時の痛み・ヒリヒリについて、正直にパートナーに伝え、「今日は控えたい」「潤滑剤を使いたい」「検査に一緒に行ってほしい」など、自分の希望を共有する。 |
こうしたアクションプランは、「完璧にやらなければいけない宿題」ではなく、自分の体を守るための選択肢のメニューと考えてください。できるところから少しずつ取り入れていくだけでも、症状の変化や、受診時の説明がしやすくなるはずです。
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
膣やデリケートゾーンのヒリヒリは、軽いかぶれから性感染症、慢性的な外陰痛まで幅広い原因があり、「どのタイミングで受診すればよいのか」「何科に行けばよいのか」迷いやすい症状です。この部では、受診を検討すべきサインや、診療科の選び方、診察時に役立つ準備について整理します。
5.1. すぐに受診を検討すべき危険なサイン
- 38℃以上の発熱があり、下腹部に強い痛みや圧痛がある(骨盤内炎症性疾患・重い感染症の可能性)1
- 月経が遅れている、妊娠反応が陽性、片側の下腹部の激しい痛み、出血などがある(子宮外妊娠の可能性)1
- 排尿のたびに強い痛みや血尿があり、腰や背中の片側がズキズキ痛む(腎盂腎炎などの可能性)
- 外陰部に水ぶくれや潰瘍、硬いしこりがあり、痛みや出血が続いている(性器ヘルペス・腫瘍などの可能性)1
- 急に症状が悪化し、歩行が困難なほどの痛みがある
これらの症状がある場合は、早めに医療機関を受診するか、夜間・休日は救急外来や#7119などの相談窓口に連絡することを検討してください。呼吸困難や意識障害など、明らかな緊急事態がある場合は、ためらわず119番で救急要請をしてください。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- まず相談しやすいのは婦人科(産婦人科):おりものの異常、膣や外陰部の痛み・かゆみ、性交時の痛みなど、今回のテーマに関わる多くの症状は、婦人科でまとめて相談できます。12
- 皮膚に赤み・ただれ・湿疹が目立つ場合:接触皮膚炎や慢性皮膚疾患が疑われる場合は、皮膚科が役立ちます。婦人科と連携している施設もあります。16
- 慢性的な痛みや心身のストレスが強い場合:ヴルヴォディニアや慢性骨盤痛が疑われるときは、婦人科に加え、ペインクリニックや心療内科など複数の診療科が関わることがあります。22
- 明らかな排尿症状が中心の場合:膀胱炎や尿道炎が疑われるときは、内科や泌尿器科も選択肢になります。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 症状メモ:いつから、どのようなタイミングで、どのくらいの強さでヒリヒリするのか。おりものの色・量・においの変化、生理周期や性行為との関係を書き留めておくと診断に役立ちます。17
- お薬手帳:現在飲んでいる薬や、最近使用した市販薬、膣錠・クリームなどが分かるようにしておきましょう。
- 保険証・医療証:日本の公的医療保険に加入している場合、原則3割負担で受診できます。性感染症の検査内容や施設によっては自費となる項目もあるため、事前にホームページで確認したり、電話で問い合わせておくと安心です。11
費用は施設や検査内容によって異なりますが、一般的な保険診療での初診・再診料+腟分泌物の顕微鏡検査や培養検査、STI検査(クラミジア・淋菌など)を行う場合、数千円〜1万円台程度になることが多いとされています。金額が不安なときは、遠慮なく受付で目安を尋ねてみてください。
よくある質問
Q1: かゆみはなくてヒリヒリするだけですが、病院に行くべきですか?
Q2: おりものは普通なのにデリケートゾーンがヒリヒリします。考えられる原因は?
Q3: 性交のあとだけ膣がヒリヒリして痛いのは性病ですか?
Q4: 市販の膣錠やクリームを何度も使っても治りません。どうすればいいですか?
市販のカンジダ治療薬などは、過去に医師から「カンジダ」と診断され、同じような症状が再び出たときに一時的に使うことを想定して販売されています。しかし、自己判断で何度もくり返し使っても改善しない場合、そもそも原因がカンジダではなく、BVやSTI、萎縮性腟炎、ヴルヴォディニアなど別の病気である可能性があります。413
また、カンジダでも反復性VVC(RVVC)では、単発の膣錠や短期の塗り薬だけでは不十分で、長期的な管理が必要になることがあります。5自己治療を続けるのではなく、「市販薬をどのくらい使ったか」「どのような症状が続いているか」をメモして、婦人科で正直に相談することが、結果的に近道になります。
Q5: パートナーにも検査や治療は必要ですか?
クラミジア・淋菌・トリコモナス・性器ヘルペスなど、多くの性感染症では、本人だけでなくパートナーも検査・治療を受けることが推奨されています。片方だけ治療しても、治っていないパートナーから再感染する「ピンポン感染」が起こるためです。12
BVについては従来、パートナーの治療は推奨されていませんでしたが、2025年のStepUp試験では、男性パートナーに対するメトロニダゾール内服+クリンダマイシン外用が女性のBV再発率を有意に下げたことが報告されています。8今後、ガイドラインの更新により、パートナー治療の位置づけが変わっていく可能性もあります。
「パートナーにどう伝えればいいか分からない」「浮気を疑われないか心配」という声も多いですが、性感染症はあくまで医学的な問題であり、「二人で健康を守るための検査」と考えると伝えやすくなります。医療機関によっては、パートナーへの説明方法についても相談に乗ってくれるところがあります。
Q6: 更年期になってから性交でヒリヒリ痛いのは、もう治らないのでしょうか?
更年期以降の性交時のヒリヒリや痛みは、萎縮性腟炎(GSM)の一症状であることが多く、「歳だから仕方ない」と我慢する必要はありません。エストロゲン低下による膣の乾燥・粘膜の菲薄化が背景にあり、局所エストロゲン療法や保湿ジェル、潤滑剤の適切な使用、性行為のペースやスタイルの調整など、複数の対策を組み合わせることで改善が期待できます。12
また、同じ年代であっても、ホルモン変化だけでなく、長年の性交時の痛みや心理的ストレスが重なってヴルヴォディニアにつながっているケースもあります。痛みが3か月以上続く・日常生活にも影響している場合は、婦人科だけでなく痛みの専門外来や心療内科と連携している医療機関での相談も検討しましょう。9
Q7: 妊娠中に膣がヒリヒリしても、薬は飲まない方がいいですか?
Q8: ナプキンやおりものシートでかぶれている気がします。どんなケアが安全ですか?
Q9: 膣洗浄を使えば、ヒリヒリやにおいは防げますか?
Q10: 何度もカンジダになってから、常にヒリヒリするようになりました。これがヴルヴォディニアですか?
くり返すカンジダ腟炎のあとに、炎症が落ち着いているはずなのにヒリヒリや焼けるような痛みが残り、「常に気になる状態」が続くことがあります。このようなケースでは、反復性VVCとヴルヴォディニアが重なっている可能性も考えられます。59
ただし、ヴルヴォディニアの診断は「3か月以上続く外陰部の痛み」であり、腟炎や皮膚疾患など明らかな原因を丁寧に除外したうえで行う必要があります。まずは婦人科で現在の炎症や感染症がしっかり治っているか確認してもらい、そのうえで痛みの性質や生活への影響を相談してみてください。ヴルヴォディニアの可能性がある場合は、痛みの専門外来や心療内科と連携した治療選択肢も紹介してもらえることがあります。1022
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
膣やデリケートゾーンのヒリヒリ・灼熱感は、とても不快で日常生活にも影響する症状ですが、その背景にはかぶれ・腟炎・性感染症・ホルモン変化・慢性痛など、さまざまな要因が潜んでいます。「恥ずかしい」「忙しいから」と我慢しているうちに、症状が長期化したり、パートナーとの関係や妊娠・出産への不安が大きくなってしまうこともあります。
この記事では、生活習慣として見直せるポイントから、VVCやBVなどの腟炎、STI、更年期の萎縮性腟炎、ヴルヴォディニアまで幅広く紹介しました。セルフケアで改善しやすいケースもあれば、医療機関での検査・治療が不可欠なケースもあることが、ご理解いただけたのではないでしょうか。
大切なのは、「自分のせい」「不潔だから」と責めないこと、そして一人で抱え込まず、必要なときには専門家の力を借りることです。症状が軽いうちに相談しておくことで、治療の選択肢も広がり、心の負担も軽くなります。この記事が、あなたが次に踏み出す一歩――生活習慣の見直し、婦人科への相談、パートナーとの対話――を考えるきっかけになれば幸いです。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。
本記事の原稿は、最新の生成AI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(厚生労働省・日本の専門学会・WHO・CDCなどのガイドライン、査読付き論文、公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。
ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。
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参考文献
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