【高血圧と恋愛・結婚・性生活】診断されても愛をあきらめないための完全ガイド
心血管疾患

【高血圧と恋愛・結婚・性生活】診断されても愛をあきらめないための完全ガイド

「高血圧と診断されてしまった。もう恋愛や結婚、子どもを持つことはあきらめたほうがいいのだろうか」「パートナーに迷惑をかけてしまうのではないか」「性行為の途中で倒れてしまわないか不安で、触れ合うことが怖くなってしまった」。そんな誰にも相談しづらい悩みを、一人で抱えていませんか。

高血圧(こうけつあつ)は、日本では約4,300万人が抱えていると推計される、とても身近な慢性疾患です1。しかし多くの場合、痛みや息切れなどの分かりやすい症状がほとんどないため、「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」とも呼ばれています。放置すれば脳卒中や心筋梗塞、腎不全、認知機能の低下など、命や生活の質(QOL)に関わる合併症のリスクが高まります2

一方で、きちんと血圧を管理すれば、恋愛や結婚、性生活、妊娠・出産をあきらめる必要はありません。日本高血圧学会のガイドライン(JSH2019)などでは、生活習慣の改善と適切な薬物療法により、目標血圧をめざすことが推奨されています1。つまり、「どう付き合うか」を理解し、パートナーと一緒に取り組むことで、高血圧と共に長く豊かな人生を歩むことは十分に可能です。

本記事では、厚生労働省や日本の専門学会、日本高血圧学会ガイドライン、妊娠高血圧症候群(HDP)に関するガイドライン、日本国内外の大規模研究やメタ解析などのエビデンスをもとに、次のようなテーマを日本語でわかりやすく解説していきます。

  • 日本における高血圧の現状と、恋愛・結婚・性生活・妊娠とどう関わるのか
  • 高血圧とストレス・うつ・不安、夫婦関係の質(サポートと揉め事)が血圧に与える影響
  • 性行為の運動強度(METs)と心血管リスク、EDや女性性機能障害との関係
  • 高血圧でも安全に性生活を楽しむためのチェックポイントと「階段テスト」
  • 妊娠高血圧症候群(HDP)と妊娠・出産・家族計画の考え方
  • ライフステージ別(20〜30代・40〜50代・60代以降)のよくある不安と向き合い方
  • カップルで実践できる血圧管理・生活習慣改善・受診のポイント

本記事は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が、厚生労働省や日本高血圧学会、日本妊娠高血圧学会、日本産科婦人科学会、世界保健機関(WHO)、American Heart Association(AHA)などの信頼できる情報に基づいて作成しました。高血圧とともに生きる方、そのパートナー、将来の妊娠・出産を考える方が、「愛をあきらめない」ための一歩としてお役立ていただければ幸いです。

Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について

Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。

本記事の内容は、以下のような一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。

  • 厚生労働省・自治体・公的研究機関:e-ヘルスネット、国民健康・栄養調査、健康日本21、身体活動ガイドラインなど、日本人向けの公式情報を優先して参照しています2,3,4
  • 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本高血圧学会(JSH2019)や日本妊娠高血圧学会、日本産科婦人科学会のガイドライン、American Heart Associationのステートメント、BMJやJournal of Hypertension、Journal of Sexual Medicineなどの科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています1,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15
  • 教育機関・医療機関・NPOによる一次資料:国立成育医療研究センターなどが公開する妊娠高血圧症候群の解説、スポーツ庁・国立健康・栄養研究所によるMETsの資料などを、病気の背景説明や日本の医療制度に関する実務的な情報として利用します5,12,13,15

AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。

私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、運営者情報(JapaneseHealth.org)をご覧ください。

要点まとめ

  • 日本では、推計約4,300万人が高血圧を抱えており1,3、決して珍しい病気ではありませんが、適切に管理すれば恋愛・結婚・妊娠・性生活をあきらめる必要はありません。
  • 高血圧を放置すると、脳卒中や心筋梗塞、腎不全、認知症などのリスクが高まり1,2、QOLやカップルの生活にも大きな影響が出るため、早期からの生活習慣改善と継続的な治療が大切です。
  • 性行為の運動強度はおおむね3〜5 METsとされ11,13,15、日常的に2階〜3階まで階段を無理なく上がれる人であれば、多くの場合は安全に性生活を続けられると報告されていますが、胸痛や息切れなどの症状があれば受診が必要です11,12
  • 高血圧は、男性の勃起不全(ED)や女性の性機能低下と関連しており8,9,10、一部の降圧薬は性機能に影響する可能性がありますが、薬を自己判断で中断すると重大な合併症のリスクが高まるため、必ず医師と相談しながら調整することが重要です1,8,9
  • 妊娠高血圧症候群(HDP)は妊娠の約5〜10%にみられるとされ6,7,12、母体・胎児ともにリスクが高まりますが、妊娠前からの血圧管理とプレコンセプションケアにより、安全な妊娠・出産を目指すことができます6,7,9,11
  • 夫婦やパートナー同士で高血圧が「似る」現象(夫婦コンコーダンス)があり、日本の大規模研究では、片方が高血圧治療中の場合、もう一方も高血圧であるオッズ比が約1.8倍と報告されています16。これはリスクであると同時に、「生活習慣を二人で見直すチャンス」にもなります。
  • ストレスやうつ、不安は高血圧のリスクを高めることがメタ解析で示されており17,18、恋愛・結婚生活における心理的な負担を一人で抱え込まず、必要に応じて心の専門家や相談窓口を利用することも大切です。
  • この記事を最後まで読むことで、「高血圧と診断された自分(あるいはパートナー)が、これからどのように生活を整え、いつどこで誰に相談すればよいか」が具体的にイメージできるようになることを目指しています。

第1部:高血圧の基本と日常生活の見直し

最初に押さえておきたいのは、「高血圧とは何か」「なぜ放置してはいけないのか」という基本です。ここを理解しておくと、恋愛や結婚、性生活、妊娠といった場面での判断も、感情だけでなく、科学的な視点から落ち着いて考えやすくなります。

1.1. 日本における高血圧の現状とメカニズム

高血圧とは、血管の中を流れる血液の圧力が慢性的に高い状態を指します。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では、診察室血圧が収縮期血圧(上の血圧)140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上の場合に高血圧と診断されます1。家庭で測る家庭血圧では、より厳しめの基準(おおむね135/85mmHg以上)が用いられます1

高血圧の約9割は、本態性高血圧と呼ばれるタイプで、特定の一つの原因があるわけではなく、遺伝的な体質と、塩分の多い食事、運動不足、肥満、ストレス、飲酒・喫煙など複数の要因が重なって発症すると考えられています1,2。特に日本人は「食塩感受性」が高く、塩分を摂りすぎると身体にナトリウムと水分がたまりやすくなり、血管の内側から押す力が強くなって血圧が上がりやすいとされています1,2

血圧が高い状態が続くと、血管の壁に常に強い圧力がかかり、小さな傷ができやすくなります。そこにコレステロールなどが入り込み、血管が硬く狭くなる「動脈硬化」が進行していきます。その結果、脳の血管が詰まったり破れたりすると脳梗塞や脳出血、心臓を栄養する冠動脈が詰まると心筋梗塞、腎臓の細かい血管が障害されると腎不全など、さまざまな合併症が起こります1,2

e-ヘルスネット(厚生労働省)の解説によると、日本では成人のおよそ半数が高血圧域にあると推計されており2,3、国民健康・栄養調査でも、加齢とともに高血圧の割合が急増し、特に60歳以降で顕著に増えることが示されています3。しかし、そのうち目標値まで血圧がコントロールできている人は約3割程度にとどまり、多くの人が「治療中だがコントロール不十分」あるいは「そもそも未診断」のまま生活しているとされています1,3

1.2. 悪化させてしまうNG習慣と恋愛・結婚生活

恋愛や結婚、仕事、趣味の付き合いの中には、高血圧を悪化させやすい習慣が紛れ込んでいることがあります。例えば、「仕事終わりの飲み会で濃い味のつまみとお酒をたくさん飲む」「カップルで夜遅くまでスマホを見ながらおしゃべりし、睡眠時間が削られる」「ストレス発散のつもりで喫煙がやめられない」といった行動は、知らず知らずのうちに血圧を押し上げてしまう要因です1,2,4

  • 夜遅い飲酒+塩分の多い食事:塩分やアルコールの摂りすぎは、体内の水分バランスを乱し、交感神経を刺激して血圧を上げます1,2。特に日本の居酒屋メニューは塩分が高いものが多く、カップルで「楽しい時間」を過ごしているつもりが、実は二人とも血圧を上げてしまっていることがあります。
  • スマホやゲームでの夜更かし:睡眠不足や夜型生活は、ホルモンバランスや自律神経の乱れを通じて血圧を上昇させると考えられています1,2。ベッドの中での長時間のスマホ使用は、カップルにとっても高血圧にとっても「要注意習慣」です。
  • ストレスフルな働き方:長時間労働やパワハラ、将来への不安などの慢性的なストレスは、高血圧のリスクを約2.4倍に高めるというメタ解析もあります17。ストレスは、恋愛・結婚生活にも影響し、喧嘩やすれ違いの原因になることも少なくありません。

こうした習慣は、一人でやめるのが難しい一方で、パートナーと一緒に取り組むと改善しやすい側面もあります。「彼(彼女)のために!」という気持ちが、減塩や禁煙、適度な運動を続けるモチベーションになることもあります。後半では、カップルで取り組める具体的な工夫を詳しく紹介します。

表1:高血圧と恋愛・結婚生活に関わるセルフチェックリスト
こんな症状・状況はありませんか? 考えられる主な背景・原因カテゴリ
朝起きるのが非常に辛く、休日と平日の起床時間が2時間以上違う 体内時計の乱れ、睡眠不足、夜更かし習慣
仕事帰りやデートで、週2〜3回以上飲酒している(つまみは濃い味が多い) アルコールと塩分の過剰摂取、体重増加、高血圧の悪化
パートナーの前ではつい我慢をしてしまい、自分の体調の悪さを言い出せない 心理的ストレス、コミュニケーション不足による血圧上昇リスク
性行為中に動悸や息切れ、頭痛、胸の圧迫感を感じることがある 心血管系への負担増大、潜在的な心疾患やコントロール不良の高血圧の可能性
「薬を飲むとEDになるのでは?」と不安で、決められた降圧薬を飲んだり飲まなかったりしている 薬に関する誤解、不安による自己中断(重大な合併症リスクの増加)

第2部:ストレス・メンタルヘルス・恋愛と血圧

高血圧というと「塩分」と「年齢」がまず頭に浮かぶかもしれませんが、近年はストレスやうつ、不安などのメンタルヘルスとの関係も、国内外の研究で注目されています。恋愛や結婚生活の中での悩みや不安、家庭内のトラブルが、血圧に影響を与えることも珍しくありません。

2.1. 心理社会的ストレスと高血圧 – メタ解析から見たリスク

心理社会的ストレスとは、仕事のプレッシャー、経済的不安、人間関係のトラブル、介護や子育ての負担など、生活の中で持続的にかかる心の負担を指します。Liuらによるメタ解析では、強い心理社会的ストレスを抱えている人は、そうでない人に比べて、高血圧を新たに発症するリスクが約2.40倍(オッズ比:2.40、95%CI 1.65–3.49)高いと報告されています17

イメージとしては、ストレスが続くと、常に身体が「戦闘モード」のような状態になり、交感神経が優位になって心拍数が上がり、血管がキュッと収縮しやすくなります。その状態が長く続くと、血圧も慢性的に高止まりしやすくなります。恋愛や結婚生活では、パートナーとの価値観の違い、将来の不安、妊娠・出産や不妊の悩み、性生活のすれ違いなどが、長期的なストレスの原因になることがあります。

2.2. うつ病・不安と高血圧 – 「不安な恋愛」が血管に与える影響

Mengらによるメタ解析では、うつ症状がある人は、そうでない人に比べて、将来的に高血圧を発症するリスクが約1.42倍高いと報告されています(相対リスク:1.42、95%CI 1.09–1.86)18。うつや強い不安は、睡眠の質を悪くし、食生活や運動習慣を乱しやすくするほか、ストレスホルモンのバランスを変えてしまうことで、血圧に影響を与えると考えられています。

例えば、「自分は高血圧だから、パートナーに迷惑をかけるのではないか」「病気持ちだと結婚相手として選ばれないのではないか」といった不安は、恋愛の場面で起こりやすいものです。こうした不安を一人で抱え込み、誰にも相談できない状態が続くと、心の負担が積み重なり、結果的に血圧も上がりやすくなります。逆に、信頼できる人に気持ちを打ち明けたり、カウンセリングやメンタルクリニックの力を借りたりすることで、心も血圧も少し楽になることがあります17,18

2.3. 夫婦関係の質(サポート vs 揉め事)と血圧

夫婦やパートナーとの関係の質も、血圧に影響を与えることが知られています。一般に、相手からの情緒的なサポート(話をよく聞いてくれる、励ましてくれる、一緒に病院に行ってくれるなど)が得られる関係では、ストレスによる血圧上昇が緩和されることが多いとされています。一方で、日常的な口論やDV(ドメスティックバイオレンス)、経済的な不安をめぐる対立などが続く関係では、ストレスが慢性化し、高血圧や心血管疾患のリスクが高まる可能性があります17,18

日本の大規模研究では、夫婦で高血圧が「似る」現象(夫婦コンコーダンス)が報告されています。BMJ Openに掲載された研究では、86,941組の夫婦を対象に解析した結果、一方が高血圧治療中の場合、もう一方も高血圧であるオッズ比は約1.79であったとされています16。これは、塩分の多い食生活や飲酒習慣、運動不足、睡眠リズムなど、生活習慣を夫婦で共有していることが大きな要因と考えられます。

同時に、この結果は「リスクであると同時にチャンスでもある」ということも示しています。二人とも同じ生活パターンだからこそ、「減塩メニューを一緒に考える」「夜の飲酒を週○回までに決める」「休日は一緒にウォーキングをする」といった「生活習慣プロジェクト」を共同で進めやすいのです。後ほど、第7部で具体的なアイデアを紹介します。

2.4. カップルでできるストレスケアと相談先

高血圧と恋愛・結婚生活を両立させるうえで大切なのは、「一人で抱え込まない」ことです。ここでは、カップルでできるストレスケアと、日本で利用できる相談先のイメージを紹介します。

  • 日常の小さな会話を増やす:「今日は血圧が少し高かった」「仕事でこんなことがあって落ち込んだ」など、体調や気持ちをこまめに共有するだけでも、「自分は一人ではない」という感覚につながります。
  • 一緒にリラックスタイムを作る:寝る前にスマホを置き、本を読んだり、軽くストレッチをしたり、好きな音楽を一緒に聞いたりする時間を決めると、交感神経の興奮がおさまりやすくなります2,4
  • カップルでカウンセリングや相談窓口を利用する:自治体のこころの健康相談や、職場のEAP(従業員支援プログラム)、メンタルクリニックのカウンセリングなどを、「二人で相談に行ってみる」という選択肢もあります。日本では、地域の保健センターや保健所でも、生活習慣病や心の健康に関する相談を受け付けていることがあります2,4
  • 一人暮らしの場合は「ソーシャルサポート」を意識する:恋人や配偶者がいない場合でも、友人、同僚、趣味の仲間、オンラインコミュニティなど、つながりのある人を意識的に増やすことが、ストレスの軽減や高血圧の予防に役立つ可能性があります17,18

ストレスやうつ、不安が「つらい」「日常生活に支障が出ている」と感じる場合は、早めに心療内科や精神科、かかりつけ医に相談することも大切です。高血圧の治療とメンタルヘルスのケアは、切り離せないパートナーだと考えてください。

第3部:高血圧と性機能・性生活

「高血圧だと性行為は危険なのでは」「降圧薬を飲むとEDになると聞いた」「彼(彼女)に迷惑をかけるのが怖くて、性生活を避けてしまう」。こうした悩みは、日本でも少なくありません。しかし、科学的なエビデンスと自分の体の状態を理解すれば、「何に気を付ければ、どこまでなら安心して楽しめるか」が具体的に見えてきます。

3.1. 性交の運動強度(3〜5 METs)と心血管リスクの評価

American Heart Association(AHA)の声明によると、一般的な性行為の運動強度は、おおむね3〜5 METs(メッツ)とされています11,12。METsとは、安静時のエネルギー消費量を1としたときに、ある活動が何倍のエネルギーを使うかを示す指標で、国立健康・栄養研究所やスポーツ庁の資料では、日常のさまざまな活動に対するMETsの目安が示されています5,13

例えば、ゆっくりとした徒歩は2〜3 METs、やや早歩きや平地の自転車は約3〜4 METs、2階〜3階までの階段を休まずに上るとおおよそ4〜5 METsとされています5,13,15。つまり、性行為はイメージとして「少し早歩きで階段を上る程度」の運動強度に相当すると考えられます11,12

AHAの声明や国際的なレビューによれば、日常的に3〜5 METs程度の運動に耐えられる心機能を持つ人であれば、多くの場合、安全に性生活を続けられるとされています11,12。一方で、階段を数段上がっただけで息切れや胸痛が出る、少し動いただけで強い動悸がする、といった場合は、性行為も心臓にとって大きな負担になりうるため、事前に循環器内科などで評価を受けることが勧められます11,12

3.2. 男性の勃起不全(ED)と高血圧の関係

勃起不全(erectile dysfunction: ED)とは、「十分な勃起が得られない、あるいは維持できないために満足のいく性行為が行えない状態」を指します。高血圧とEDの関係については、多くの観察研究やメタ解析が行われており、高血圧のある男性は、ない男性に比べてEDを起こしやすいことが示されています8,9,10

例えば、Andrologia誌に掲載されたメタ解析では、高血圧の男性はEDのリスクが約1.74〜1.84倍高いと報告されています8,9。その背景には、長年の高血圧による血管内皮細胞の障害や、動脈硬化の進行、陰茎への血流低下、ホルモンバランスの変化などが関与していると考えられています8,9,10

さらに、一部の降圧薬(特に古いタイプのβ遮断薬や高用量の利尿薬など)は、性欲の低下やEDの悪化に関与する可能性があると報告されていますが8,9、一方でARBやACE阻害薬、カルシウム拮抗薬などは、中立的またはEDを改善する可能性があるとするレビューもあります8,9,10。重要なのは、「EDが怖いから」といって自己判断で降圧薬を中止することではなく、担当医に正直に相談し、必要に応じて薬の種類や量を調整してもらうことです1,8,9

EDは、「愛情が冷めたから」ではなく、「血管や心臓からのSOS」であることも少なくありません。恥ずかしさから誰にも相談できずにいると、関係性の誤解やストレスがさらに増えてしまうこともあります。後ほど、第8部で、医師にどのように相談すればよいかの具体的なセリフ例を紹介します。

3.3. 女性の性機能低下と高血圧

性の話題では、どうしても男性のEDに注目が集まりがちですが、高血圧は女性の性機能にも影響を与えうることが、複数の研究で報告されています。Journal of Sexual Medicineなどの系統的レビューやメタ解析では、高血圧の女性は、そうでない女性に比べて、性欲の低下、興奮のしづらさ、膣の乾燥や疼痛、オーガズムの困難など、女性性機能障害(female sexual dysfunction)のリスクが高いとされています10,19

一部の研究では、高血圧の女性における性機能障害のリスクは、相対リスク約1.8、オッズ比約1.67と報告されています10,19。メカニズムとしては、血管内皮機能の低下や動脈硬化により、骨盤内の血流が減少すること、慢性的な疲労感や抑うつ傾向、ボディイメージの変化(「太ってしまった」「年を取った」など)が、性的な興奮や満足感に影響を与えることなどが考えられています10,19

女性の性機能の悩みは、「恥ずかしい」「年のせいだろう」と見過ごされがちです。また、「パートナーに申し訳ない」と自分を責めてしまう方も少なくありません。しかし、高血圧や薬の影響が関わっている可能性を知ることで、「自分だけの問題」ではなく、「身体と病気の影響」として冷静に捉え直し、婦人科や心療内科、カウンセリングなどの専門家に相談するきっかけになります。

3.4. 降圧薬は性機能を悪化させる?薬剤ごとの差と工夫

「高血圧の薬を飲むとEDになる」といった噂は、日本でもよく耳にします。実際、古い世代のβ遮断薬や一部の利尿薬は、性機能への影響が報告されているものもありますが8,9、すべての薬が同じように影響するわけではありません。

Doumasらによるレビューでは、高血圧治療薬の中でも、カルシウム拮抗薬(CCB)、ACE阻害薬、ARBなどは、性機能に対して中立的あるいは改善効果を示す可能性があるとされています8,9。一方で、古典的なβ遮断薬や高用量の利尿薬は、一部の患者で性欲低下やEDを訴えることがあると報告されていますが、すべての人に起こるわけではなく、個人差があります8,9

重要なのは、「EDが心配だから薬を減らす/やめる」という自己判断をしないことです。JSH2019などのガイドラインでも、厳格な血圧管理が脳卒中や心筋梗塞のリスクを大きく減らすことが示されており1、薬を中断することは、長期的な健康リスクを大きく高めてしまいます。一方で、医師に正直に相談することで、種類や用量の調整、服用タイミングの工夫、ED治療薬(PDE5阻害薬)との併用の検討など、いくつかの選択肢が開けることも多いのです8,9,10,12

「性の話題を医師に切り出すのは恥ずかしい」と感じるかもしれませんが、循環器内科や泌尿器科、婦人科などでは、同じ悩みを持つ患者さんが少なくありません。後述の第8部で、具体的な相談の仕方やセリフ例を紹介しますので、「どのように伝えればよいか」をイメージしながら読んでみてください。

第4部:高血圧でも安全に性生活を楽しむためのチェック

ここでは、「自分やパートナーは、どのくらいなら性行為をしても安全そうか」「どのような症状があれば、すぐに受診や救急要請を考えるべきか」といった、より具体的な判断の目安を整理します。これはあくまで一般的な情報であり、最終的な判断は担当医と相談する必要がありますが、日常生活でのセルフチェックとして役立ててください。

4.1. 危険な血圧・症状の目安(レッドフラッグ)

一般的に、以下のような状況がある場合は、性生活の可否を考える前に、まず医療機関への相談を優先することが勧められます。ここで挙げるのはあくまで目安であり、少しでも「いつもと違う」「怖い」と感じたら、無理をせず受診を検討してください。

  • 家庭血圧で、繰り返し180/110mmHg以上の値が出ている1
  • 安静時にも胸の痛みや締め付け感、息苦しさがある。
  • 突然の激しい頭痛、ろれつが回らない、片側の手足が動かしにくい・しびれる、視野が欠けるなどの脳卒中を疑う症状が出た1,2
  • 少し階段を上がるだけで、強い息切れや胸の圧迫感を感じる。
  • 最近、心筋梗塞や狭心症の発作を起こしたばかり、または心不全を指摘されている。

これらの症状が性行為中や直後に現れた場合は、無理を続けず、すぐに中断して休みましょう。症状が強いときや、改善しないときは、救急車(119番)や救急相談窓口(地域によって#7119など)への連絡も検討してください。特に、突然の片麻痺や言語障害、胸の強い痛みは、時間との勝負になることがあります。

4.2. 「階段テスト」で見る日常の運動耐容能

性行為の運動強度がおおむね3〜5 METsであることを踏まえ、Mazda病院などの解説では、「2階まで続けて階段を上がれるかどうか」が一つの目安として紹介されています15。もちろん、年齢や体力、持病によって個人差はありますが、簡単なセルフチェックとして、次のような「階段テスト」をイメージしてみてください。

  • 自宅や職場の階段を、普段のペースで2階〜3階まで休まずに上がる
  • その際、胸の痛みや強い息切れ、めまい、強い動悸が出ないかを確認する。
  • 普段通りの階段昇降で問題ない場合、多くの人にとって、3〜5 METs程度の運動は日常的にこなせていると考えられます5,11,13,15

もし階段テストで明らかに症状が強い場合や、途中で立ち止まらないとつらい場合は、性行為も同程度以上の負荷になる可能性があります。その際は、「どのくらいの運動までなら安全そうか」「心臓の検査が必要かどうか」について、循環器内科などで相談することをお勧めします1,11,12

4.3. パートナーと共有する健康情報と行為のペース

高血圧があることをパートナーに伝えるのは、勇気がいるかもしれません。しかし、「何も知らされていなかった」という状態よりも、「一緒に考えられている」という状態のほうが、二人にとって安心につながることが多いものです。

  • 血圧と持病についてざっくり共有する:「最近、高血圧と言われて薬を飲み始めた」「心臓や腎臓の検査も受けている」など、必要な範囲で状況を伝えておくと、パートナーも無用な心配をしなくて済みます。
  • 行為のペースを一緒に調整する:息が上がりやすい場合は、体勢や時間を工夫して、負担が少ない形を一緒に探っていくことができます。例えば、体力に自信がない側は、より負担が少ない姿勢を選ぶ、休憩をはさみながら進める、などの工夫があります。
  • 「今日はやめておこう」を言いやすくする合図を決めておく:体調がすぐれない日や、頭痛・胸の違和感がある日は、「今日はちょっと血圧が心配だから、スキンシップだけにしよう」など、事前に合図のような言葉を決めておくと、お互いに無理をしなくて済みます。

性生活は、本来「お互いが安心して楽しめるかどうか」が最も大切です。高血圧をきっかけに、二人のコミュニケーションを見直し、体調や気持ちを共有し合う機会だと捉えてみてもよいかもしれません。

4.4. 年齢・合併症別の追加注意点

高血圧のほかに、以下のような合併症がある場合は、性行為の安全性について、より慎重な評価が必要になることがあります1,11,12

  • 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
  • 心不全(息切れやむくみが続く状態)
  • 重度の弁膜症
  • 重い不整脈
  • 糖尿病や慢性腎臓病など、血管合併症を伴いやすい病気
  • 最近、脳卒中を起こしたばかり

このような場合は、「どの程度の運動までなら安全そうか」「性行為を再開するタイミング」について、主治医と事前に相談しておくことが重要です。また、PDE5阻害薬(ED治療薬)を使用している場合、ニトログリセリンなどの硝酸薬との併用は、急激な血圧低下を起こす危険があるため、厳禁とされています8,12。必ず処方医の説明に従い、わからない点は遠慮なく確認してください。

表2:改善アクションプラン(性生活と高血圧)
ステップ アクション 具体例
Level 1:今夜からできること 体調の共有とペース配分 「今日は少し血圧が高めだから、ゆっくりしたスキンシップだけにしよう」など、率直に伝える。
Level 2:今週末からできること 階段テストと生活習慣チェック 二人で家の階段を上がり、息切れや胸部症状の有無を確認。飲酒や塩分の量も一緒に振り返る。
Level 3:今月中に検討したいこと 医療機関での相談 循環器内科やかかりつけ医に、「性生活についても安全かどうか確認したい」と相談し、必要な検査を受ける。

第5部:妊娠・出産・家族計画と高血圧

「高血圧だと妊娠は危険なのでは」「妊娠高血圧症候群になったことがあるが、二人目はあきらめるべきか」。こうした不安は、特に20〜30代の女性や、そのパートナーに多く見られます。ここでは、日本のガイドラインに基づいて、妊娠高血圧症候群(HDP)と妊娠・出産・家族計画について整理します。

5.1. 妊娠高血圧症候群とは?定義・分類・頻度

妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy: HDP)は、妊娠に関連して発症する高血圧の総称で、日本妊娠高血圧学会(JSSHP)の診療指針では、以下のように分類されています6,7,8,9,11,12

  • 慢性高血圧:妊娠前から高血圧がある、または妊娠20週未満に高血圧が確認される場合。
  • 妊娠高血圧:妊娠20週以降に新たに高血圧が出現し、蛋白尿や臓器障害を伴わない場合。
  • 子癇前症(前期子癇):妊娠高血圧に蛋白尿や肝機能障害、血小板減少、胎児発育不全などの臓器障害を伴う状態。
  • 慢性高血圧に子癇前症が重なった状態:もともとの高血圧に加えて、妊娠中に子癇前症の所見が加わった場合。

国立成育医療研究センターや日本産科婦人科学会の情報によると、HDPは全妊娠の約5〜10%にみられるとされています7,12。多くの場合は適切な管理により母子ともに安全な出産が可能ですが、重症化すると母体の脳出血や肝・腎障害、けいれん発作(子癇)、胎児発育不全や早産、胎児死亡などのリスクが高まるため、慎重なフォローが必要です6,7,8,9,11,12

5.2. 母体・胎児へのリスクと予後

HDPが母体・胎児に与える主なリスクとして、以下が挙げられます6,7,8,9,11,12

  • 母体の脳出血、心不全、肝・腎不全、子癇発作などの重篤な合併症
  • 胎児発育不全(赤ちゃんが標準よりも小さくなる)
  • 早産(予定日よりかなり早く出産が必要になる)
  • 胎盤早期剥離や周産期死亡のリスク増加

一方で、日本産科婦人科学会のガイドラインや国立成育医療研究センターの情報では、HDPを経験した女性でも、適切なタイミングで妊娠前から血圧管理を行い、妊娠中・産後に専門の医療チームと連携することで、多くの方が安全な妊娠・出産を達成しているとされています7,9,12。重要なのは、「高血圧だから妊娠をあきらめる」のではなく、「どのような準備とフォローが必要か」を知ることです。

5.3. 妊娠前のプレコンセプションケアと降圧薬の切り替え

妊娠を希望する高血圧の方にとって重要なのが、「プレコンセプションケア(妊娠前ケア)」です。これは、妊娠前から自分の健康状態を整え、妊娠中のリスクを減らすための準備を指します6,7,9,11,12

特に注意が必要なのは、一部の降圧薬の種類です。ACE阻害薬やARBなどの薬は、妊娠中の胎児への影響が懸念されており、妊娠中の使用は原則として避けることが推奨されています6,7,9。そのため、妊娠を考えている段階で、内科医や産婦人科医と相談し、妊娠中も比較的安全とされる降圧薬(メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピンなど)への切り替えを検討することが大切です6,7,9

また、妊娠前からの体重管理や減塩、適度な運動、禁煙、飲酒制限なども、HDPや妊娠中の合併症を減らすうえで重要です1,4,6,7。パートナーと一緒に生活習慣を整えることで、「妊娠前から家族で取り組む健康プロジェクト」として捉えることができます。

5.4. 妊娠中・産後の性生活と血圧管理

妊娠中の性生活については、「赤ちゃんに悪影響がないか」「HDPのときはどうすればよいか」など、心配を感じる方が多くいます。一般に、妊娠経過が順調で、医師から特別な制限を受けていない場合、妊娠中期〜後期においても、無理のない範囲で性生活を続けることは多くのガイドラインで許容されています7,9,12

ただし、HDPや切迫早産、前置胎盤などの合併症がある場合は、性行為を控えるよう指示されることもあります6,7,9,12。妊娠中の性生活について不安がある場合は、健診の際に「性生活についても心配があるのですが」と一言添えて相談することで、個別の状況に応じたアドバイスを受けやすくなります。

産後は、母体の回復や睡眠不足、育児ストレスなどにより、性欲や体力が大きく変化します。HDPを経験した方は、産後も高血圧や将来の心血管リスクがやや高いとされており6,8,11,12、定期的な血圧測定やフォローアップが推奨されています。パートナーとの関係性も大きく変化しやすい時期なので、「体力的にも気持ち的にも余裕がない」という正直な気持ちを共有しながら、スキンシップやコミュニケーションの形を二人で模索していくことが大切です。

第6部:ライフステージ別「高血圧と愛」の悩み

高血圧と恋愛・結婚・性生活・家族計画にまつわる悩みは、年齢やライフステージによって大きく変わります。ここでは、20〜30代、40〜50代、60代以降という3つのステージに分けて、代表的な不安やよくある勘違い、その向き合い方を整理します。

6.1. 20〜30代:結婚・妊娠を考える世代の不安

20〜30代で高血圧と診断されると、「こんなに若いのに」「結婚しても相手に負担をかけるのでは」といったショックや不安が強く出ることがあります。特に、IT企業や商社などで長時間労働や夜遅い飲み会が続いている方、ストレスの多い職場環境で働く方では、「仕事を続けながら健康も守れるのか」という葛藤も生じやすくなります。

日本高血圧学会のガイドラインによれば、若い世代であっても高血圧を放置すれば、将来的な脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まることが示されており1,2、「若いから大丈夫」と楽観視するのは危険です。一方で、早い段階から生活習慣を整え、必要に応じて薬物療法を開始することで、長期的なリスクを大きく減らすことも可能です1

この世代でよく聞かれるのが、「薬でEDになるのでは」「妊娠に悪影響が出るのでは」という不安です。前述の通り、一部の薬は性機能に影響する可能性がありますが8,9、すべての薬がそうではなく、薬を上手に選びながら血圧をコントロールすることが何より大切です1,8,9,10。また、妊娠を考えている場合は、プレコンセプションケアを通じて薬の切り替えや妊娠時期の調整が可能なことも多く、早めの相談が安心につながります6,7,9,12

6.2. 40〜50代:更年期・仕事・親の介護と血圧

40〜50代は、仕事での責任が増し、子育てや親の介護が重なる「サンドイッチ世代」とも言われます。この時期は、更年期に伴うホルモン変化も重なり、特に女性では血圧が上がりやすくなることが知られています1,2

「仕事も家庭も自分が回さないと」と頑張りすぎるあまり、自分の健康は後回しになりがちです。しかし、ストレスや睡眠不足、運動不足、飲酒の増加などが重なると、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が一気に進行することがあります1,2,4。パートナーとの関係でも、疲れやイライラから喧嘩が増えたり、性欲の低下や更年期症状が重なって、性生活のすれ違いが起こりやすくなります。

この世代では、「完璧を目指さない」ことも大切です。週に1回でも二人で散歩をする、夕食の塩分を少しずつ減らす、飲酒日を減らす、寝る前のスマホ時間を短くするなど、「小さな一歩」を積み重ねるだけでも、血圧や心の負担は大きく変わってきます。パートナーと「10の約束」をつくり、できるところから一緒に取り組んでいくイメージを持ってみてください。

6.3. 60代以降:再婚・パートナー喪失後の恋愛とQOL

60代以降では、「配偶者を亡くした後の新しい恋愛」や「再婚」、「パートナーが病気で寝たきりになった状態での関係性」など、若い頃とはまた違った悩みが生まれます。高血圧や糖尿病、心臓病など複数の持病を抱えながら、「まだ誰かと温かい関係を持ちたい」「子どもに迷惑をかけずに暮らしたい」と願う方も多くいます。

高齢者の性や恋愛は、日本ではまだタブー視されがちですが、QOL(生活の質)の観点からは、非常に大切なテーマです。高血圧があっても、医師と相談しながら体力や心臓の状態を把握し、安全な範囲でスキンシップを続けることは可能です1,11,12。また、性交にこだわらず、手をつなぐ、寄り添ってテレビを見る、一緒に散歩をするなど、さまざまな「近さ」の形をパートナーと話し合っていくこともできます。

一人暮らしで高血圧がある場合、孤独感やうつのリスクも高くなると報告されています17,18。地域のサロンや趣味のサークル、ボランティア活動などに参加することは、血圧の管理だけでなく、心の健康にも良い影響を与える可能性があります。恋愛関係に限らず、「人とのつながり」を少しずつ広げていくことが、長期的な健康につながります。

第7部:恋愛・結婚生活での血圧管理 – 生活習慣編

ここからは、「二人でできる生活習慣の工夫」に焦点を当てます。日本高血圧学会や厚生労働省のガイドラインでは、薬物療法と並んで、減塩、運動、禁煙、節酒、体重管理、ストレス対策などの生活習慣の改善が、血圧管理の柱として挙げられています1,2,4。これらは、恋愛・結婚生活の中で、パートナーと一緒に取り組むからこそ続けやすくなるものです。

7.1. 減塩を「我慢」から「おいしいプロジェクト」に変える

JSH2019では、高血圧の患者さんに対して、1日6g未満の食塩摂取が推奨されています1,2。一方、国民健康・栄養調査によると、日本人の平均食塩摂取量は、男性で10〜11g/日、女性で9〜10g/日前後とされており3、目標値よりかなり多いのが現状です。つまり、多くの家庭では「少なくとも今より数g減らす余地がある」といえます。

減塩というと、「味気なくなる」「しょうゆも味噌も我慢」といったイメージがあるかもしれません。しかし、実際には、だしや酢、レモン、ハーブ、香辛料などを活用することで、「塩分は減らしても満足感はキープ」することが可能です1,2。例えば、次のような工夫があります。

  • 味噌汁は、「具だくさん+だしをしっかり効かせる」ことで、味噌の量を減らしても満足感を保つ。
  • から揚げや焼き魚には、しょうゆをかける前にレモンやすだちを絞り、香りと酸味で減塩を補う。
  • 外食やコンビニでは、「スープは飲み干さない」「ドレッシングは別添えにして、半分だけかける」など、小さな工夫を積み重ねる。

カップルで減塩に取り組むときは、「高血圧の人のために我慢する」というスタンスよりも、「二人で将来の健康を守るプロジェクト」として捉えるほうが続けやすくなります。「今日は減塩メニューの日」「一緒にレシピを探そう」など、楽しみながら工夫してみてください。

7.2. 一緒にできる有酸素運動・筋トレ・ストレッチ

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対して、1週間に150〜300分程度の中等度の有酸素活動(約3〜5 METs)を行うことが推奨されています4,5,13。高血圧患者さんにおいても、適切な運動は血圧を数mmHg〜数mmHg単位で下げ、心血管疾患のリスクを減らすことが多くの研究で示されています1,4,14

カップルで取り組みやすい運動としては、次のようなものがあります。

  • 夕食後の30分ウォーキング(やや早歩き):日常会話をしながら歩ける程度のペースで、週に数回。
  • 週末の公園散歩+ベンチでの軽いストレッチ:太ももやふくらはぎ、肩回りを中心に、二人で声をかけながら行う。
  • 自宅での簡単な筋トレ:スクワットやかかと上げ、軽いダンベル運動など。回数は無理のない範囲から。

運動を始める前に、すでに心臓病や重い高血圧がある場合は、必ず医師に相談し、自分に合った運動強度を確認しておきましょう。また、「運動を増やしたら、性行為のときの息切れが減った」「夜よく眠れるようになった」といった変化を、パートナーと共有することで、モチベーションの維持にもつながります。

7.3. 睡眠・禁煙・飲酒コントロールと血圧

睡眠不足や喫煙、過度の飲酒は、高血圧の悪化に直結する習慣です1,2

  • 睡眠:慢性的な睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群は、血圧上昇や心血管リスクの増加と関連しています1,2。寝る前のスマホ使用を控え、規則正しい睡眠リズムを二人で意識することが大切です。
  • 喫煙:たばこは一時的に血管を収縮させ、血圧を上昇させるだけでなく、長期的な動脈硬化を進行させます1,2。カップルのどちらかが喫煙している場合、「禁煙を二人のプロジェクトにする」ことが、関係性の強化にもつながります。
  • 飲酒:JSH2019では、飲酒量を男性でエタノール20〜30g/日、女性で10〜20g/日以下に抑えることが推奨されています1。具体的には、日本酒1合、ビール中瓶1本、ワイン2杯程度が20g前後の目安です。週に何日かは「休肝日」を設けることも大切です。

「お酒を飲みながらのデートが多い」「喫煙所での会話が楽しみ」というカップルも多いかもしれません。しかし、高血圧との付き合い方を考えるとき、「お酒以外の楽しみ方」「たばこのない時間の過ごし方」を一緒に探すことは、二人の未来への大きな投資になります。

7.4. 家庭血圧測定をカップルの習慣にするコツ

JSH2019では、家庭血圧(自宅での血圧測定)が、診察室血圧よりも心血管イベントの予測に優れていることが強調されています1。つまり、「病院に行ったときだけ測る」よりも、「日々の生活の中で血圧の変化を把握する」ことが重要なのです。

カップルで家庭血圧測定を習慣にするためのコツとして、次のような方法があります。

  • 朝(起床後1時間以内、排尿後、朝食前・服薬前)と夜(就寝前)に、腕帯式の血圧計で測定する1
  • スマホアプリやノートに記録し、グラフを一緒に眺める。「昨日より少し下がったね」「この週は仕事が忙しくて高めだね」など、会話のきっかけにする。
  • パートナーが協力できる場合、お互いの測定値を確認し合い、「今日は少し高いから無理しないでね」といった声掛けをする。

家庭血圧は、主治医にとっても重要な情報です。受診の際に記録を見せることで、薬の調整や生活指導がよりきめ細かく行えるようになります。二人で記録をつけることで、「病気と向き合う」のではなく、「未来の生活をデザインする」感覚を共有できるかもしれません。

第8部:医療機関との付き合い方・治療の選択肢

高血圧と恋愛・結婚・性生活・妊娠を両立させるうえで、医療機関との上手な付き合いは欠かせません。ここでは、日本のガイドラインに基づく治療の流れと、降圧薬やED治療薬のポイント、性の悩みを医師に相談するためのヒントを紹介します。

8.1. 日本のガイドラインに基づく治療の流れと目標値

JSH2019では、年齢や合併症の有無に応じて、血圧の目標値が設定されています1。例えば、家庭血圧の目標としては、概ね以下のような指標が示されています(個々の状況により調整あり)。

  • 75歳未満の成人:125/75mmHg未満を目標とすることを推奨(可能な範囲で)
  • 75歳以上の高齢者:135/85mmHg未満を目標としつつ、体力や合併症に応じて柔軟に調整
  • 糖尿病や慢性腎臓病などを合併する場合:より厳密な管理が推奨されることもある

治療の大まかな流れは、以下のように整理できます1,2

  • 軽度の高血圧(いわゆる「高値血圧」)では、まず生活習慣の改善(減塩・運動・禁煙・節酒・体重管理)を数ヶ月実施し、効果を評価する。
  • それでも目標血圧に届かない場合や、リスクが高い場合は、降圧薬を開始する。
  • 1剤で不十分な場合は2剤併用、さらに必要に応じて3剤以上の併用を検討する。
  • 定期的にフォローアップし、家庭血圧や合併症の有無に応じて治療を調整する。

恋愛や結婚、妊娠を考える世代では、「薬を飲むこと=負け」「一生やめられないのでは」と感じる方もいるかもしれません。しかし、降圧薬による血圧低下が、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを大幅に減らすことは、多くの大規模研究で示されています1,11。将来のパートナーや家族との時間を守るための「投資」と考えてみるのも一つの視点です。

8.2. 降圧薬の種類とカップル生活への影響

主な降圧薬には、次のようなタイプがあります1,8,9

  • カルシウム拮抗薬(CCB):血管を広げて血圧を下げる。顔のほてりやむくみが出ることもある。
  • ACE阻害薬・ARB:レニン・アンジオテンシン系を抑えて血圧を下げる。咳や腎機能への影響が出ることもあるが、心血管保護効果も期待される。
  • 利尿薬(サイアザイド系など):余分な水分とナトリウムを排出して血圧を下げる。電解質バランスに注意が必要。
  • β遮断薬:心拍数や心収縮力を抑える。古典的な薬剤では、疲労感やEDなどの副作用が報告されることもある。

「どの薬が性機能に一番影響が少ないか」は個人差が大きく、病気の状態によっても選び方が変わります8,9,10。大切なのは、副作用がつらいと感じたときに、「勝手にやめる」のではなく、「こういう症状があって困っている」と主治医に伝えることです。医師は、症状や生活スタイル、恋愛・性生活の状況も含めて、薬の組み合わせや用量を調整していきます。

8.3. PDE5阻害薬(ED治療薬)と降圧薬・心疾患の注意点

PDE5阻害薬(一般的なED治療薬)は、陰茎の血管を広げて血流を増やし、勃起を助ける薬です。高血圧や糖尿病などを持つ男性でも、条件を満たせば使用できる場合がありますが、いくつか重要な注意点があります8,12

  • ニトログリセリンなどの硝酸薬を使用している場合、PDE5阻害薬との併用は絶対に避ける必要があります。血圧が危険なほど急激に下がるおそれがあるためです。
  • 重度の心不全や最近の心筋梗塞直後など、心機能が不安定な場合は、PDE5阻害薬の使用が適さないことがあります。
  • 使用を検討する際は、「高血圧と心臓の状態」「現在使用している薬」「どの程度の運動で症状が出るか」などを、循環器内科や泌尿器科としっかり共有することが大切です。

PDE5阻害薬は、「若さ」や「男らしさ」を取り戻すための魔法の薬ではなく、「パートナーとのコミュニケーションを取り戻すための一つの手段」と捉えるとよいでしょう。性行為自体の頻度や形をどうするかも含め、パートナーとの対話が不可欠です。

8.4. 性の悩みを医師にどう相談するか – セリフ例

性の悩みを医師に相談するのは、多くの人にとってハードルが高いものです。ここでは、実際の診察で使いやすい「ひと言フレーズ」の例をいくつか紹介します。

  • 「高血圧の薬を飲み始めてから、性行為のときにうまく勃起しないことが増えたのですが、薬との関係があるかどうか相談したいです。」
  • 「血圧のことだけでなく、性生活についても安全かどうか教えていただきたいのですが、どの程度までして大丈夫か目安を伺えますか。」
  • 「妊娠を考えているのですが、高血圧と今飲んでいる薬が、妊娠・出産にどう影響するか知りたいです。」
  • 「女性の性の悩みについても相談したいのですが、このクリニックで話して大丈夫でしょうか。必要であれば、どこか紹介していただけますか。」

「何から話せばいいかわからない」ときは、「高血圧と恋愛や性生活のことで不安がある」と大まかに伝えるだけでも構いません。医師側から質問をしてくれることも多いので、答えられる範囲で少しずつ話していきましょう。

よくある質問

Q1: 高血圧だと恋愛や結婚はあきらめたほうがいいですか?

A1: 高血圧であっても、恋愛や結婚、妊娠・出産をあきらめる必要はありません。日本高血圧学会のガイドラインや多くの研究では、生活習慣の改善と適切な薬物療法により、血圧を目標値にコントロールすることで、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを大きく減らせることが示されています1,2,11

大切なのは、「高血圧だから無理だ」と決めつけるのではなく、「どうすればリスクを減らしながら、パートナーと人生を歩んでいけるか」を考えることです。家庭血圧を習慣的に測る、減塩や運動などに二人で取り組む、必要に応じて専門医に相談することで、「高血圧と一緒に生きるカップル」として、安心して将来を描くことができます。

ただし、胸の痛みや息苦しさ、神経症状などの危険なサインがある場合や、家庭血圧が非常に高い状態が続く場合は、早めに医療機関を受診してください。恋愛や結婚の前に、まず自分の体の状態を確認することが、長い目で見て二人のためになります。

Q2: パートナーに高血圧であることをいつ、どう伝えたらいいですか?

A2: 伝えるタイミングに「正解」はありませんが、結婚や同棲、妊娠など、長期的なライフプランを一緒に考え始める前には、ある程度共有しておくことが望ましいと言えます。高血圧は生活習慣や将来の健康管理に関わるため、「一緒に向き合うテーマ」として話し合うことが重要だからです1,2,16

伝え方としては、「実は最近高血圧と言われて、生活を見直しているところなんだ」「将来のことを考えると、一緒に健康も守っていきたいと思っている」といった形で、「病気だからごめんね」というトーンではなく、「一緒にプロジェクトに取り組みたい」という前向きなニュアンスを加えるのが一つの方法です。

相手が不安を感じた場合は、「日本では高血圧の人がとても多いこと」「きちんと治療すれば長く健康に暮らせること」「一緒に減塩や運動に取り組むことで、むしろ二人とも健康になれること」などを、わかりやすく伝えてみてください。

Q3: 高血圧でもセックスをして大丈夫かどうか、自分でチェックする方法はありますか?

A3: 一つの目安として、AHAのステートメントなどで紹介されている「3〜5 METs」という運動強度を参考にした「階段テスト」があります11,12,15。具体的には、日常のペースで2階〜3階まで階段を休まずに上がってみて、胸の痛みや強い息切れ、めまいなどが出ないかを確認する方法です。

この程度の運動で症状が出ない方は、多くの場合、性行為の運動強度にも耐えられる可能性が高いと考えられますが、これはあくまで一般的な目安であり、個々の心臓や血管の状態によって異なります11,12。すでに心臓病がある場合や、最近血圧が非常に高い状態が続いている場合は、事前に医師に相談し、「どの程度までの運動なら安全か」を確認しておくことが大切です。

セルフチェックで不安が残るときや、性行為中に胸痛や息切れ、頭痛などが出る場合は、「様子を見る」のではなく、早めに受診し、必要に応じて心電図や心エコーなどの検査を受けてください。

Q4: 性行為中に頭痛や胸の痛みが出たら、どこまで様子を見て、いつ救急車を呼ぶべきですか?

A4: 性行為中や直後に、以下のような症状が出た場合は、無理をせずすぐに中断し、安静にしてください1,2,11,12

  • 突然の激しい頭痛(いままでに経験したことがないような痛み)
  • 胸の中央付近の強い痛みや圧迫感が数分以上続く
  • 息ができないほどの息切れ
  • 片側の手足が動かない、しびれる、言葉が出にくい、視野が欠けるなどの神経症状

これらの症状は、脳卒中や心筋梗塞などのサインである可能性があります。症状が強い場合や、数分休んでも改善しない場合、繰り返し出現する場合は、ためらわずに119番に連絡し、救急要請を検討してください。迷う場合は、地域の救急相談窓口(#7119など)に電話し、看護師や救急医から助言を受けることもできます。

「相手に迷惑をかけたくない」「恥ずかしいから我慢しよう」と思ってしまうかもしれませんが、命に関わる可能性がある症状を我慢する必要はありません。パートナーとも、「こういう症状が出たらすぐに救急車を呼ぶ」というルールを事前に共有しておくと安心です。

Q5: 降圧薬を飲み始めてからED気味です。薬をやめてもいいですか?

A5: 自己判断で降圧薬を中止することは、非常に危険です。血圧が急に上がり、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まるおそれがあります1,11。一部の降圧薬がEDに影響する可能性はありますが、薬の種類や用量を調整することで改善が期待できることも多く、まずは主治医に相談することが大切です8,9,10

相談の際は、「薬を飲む前と比べて、どのような場面で、どの程度勃起が難しくなったのか」「性生活の頻度やパートナーとの関係性」なども含めて、できる範囲で具体的に伝えると、医師も対応しやすくなります。必要に応じて、性機能に影響の少ない薬への変更や、ED治療薬の併用などが検討されることがあります8,9,12

「恥ずかしい」と感じるかもしれませんが、EDは高血圧や動脈硬化の「窓口」として捉えられることも多く、早めの相談が将来の心血管イベントの予防にもつながります。パートナーとも話し合いながら、二人で医療機関を訪れるのも一つの方法です。

Q6: 高血圧だと妊娠は難しい/危険なのでしょうか?

A6: 高血圧があると、妊娠中に妊娠高血圧症候群(HDP)を発症するリスクが高くなり、母体と胎児の合併症リスクが上がることは事実です6,7,12。しかし、日本妊娠高血圧学会や日本産科婦人科学会のガイドラインでは、妊娠前から適切に血圧を管理し、妊娠中に専門の医療チームがフォローすることで、多くの女性が安全な妊娠・出産を達成していることも示されています6,7,9,12

妊娠を考えている段階で、「高血圧と薬が妊娠にどう影響するか」を内科医や産婦人科医に相談し、必要に応じて降圧薬の切り替え(ACE阻害薬やARBから妊娠中に安全とされる薬への変更など)や、妊娠時期の調整を行うことが大切です6,7,9。これがプレコンセプションケアの一環です。

つまり、「高血圧だから妊娠してはいけない」のではなく、「妊娠前からどのような準備をするか」が重要なのです。不安がある場合は、一人で悩まず、早めに医療機関で相談してみてください。

Q7: 高血圧は子どもに遺伝しますか?

A7: 高血圧には遺伝的な要因と環境要因(食生活や運動習慣など)の両方が関わっています1,2。親が高血圧の場合、子どもも高血圧になりやすい傾向はありますが、それは「遺伝子だけ」の問題ではなく、「家族として共有している生活習慣」の影響も大きいと考えられています。

日本の大規模研究で報告された夫婦コンコーダンス(夫婦で高血圧が似る現象)は、夫婦が同じ食事や生活パターンを共有していることが大きな要因とされています16。これは逆に言えば、「家族みんなで減塩や運動習慣を整えることで、子どもの将来の高血圧リスクも下げられる可能性がある」ということでもあります。

「遺伝だから仕方ない」とあきらめるのではなく、「家族で健康的な生活習慣を作るチャンス」として捉え、子どもと一緒に薄味の食事や運動、十分な睡眠を心がけていくことが大切です。

Q8: 一人暮らしの高血圧で、恋愛もなく孤独です。健康のために何をしたらいいですか?

A8: 一人暮らしで高血圧があると、「何かあったときに誰も気づいてくれない」「恋愛や結婚も諦めるしかないのでは」と孤独を感じやすくなります。研究では、孤立や強い心理的ストレスが、高血圧や心血管疾患のリスクを高めることが示されています17,18

健康のためにできることとしては、次のようなものがあります。

  • 地域の健康教室やウォーキンググループ、趣味のサークルなどに参加し、人とのつながりを増やす。
  • 家庭血圧を毎日測り、記録をつけることで、自分の体の変化に気づきやすくする。
  • 必要に応じて、カウンセリングや心療内科で、孤独や不安について相談する。

恋愛や結婚だけが「支え」ではありません。友人や同僚、趣味の仲間とのつながりも、健康と心の支えになります。「一人だからダメだ」と決めつけるのではなく、「自分なりのつながり方」を少しずつ増やしていくことが大切です。

Q9: 高血圧と診断された彼氏(彼女)と結婚するのは「リスクの高い選択」ですか?

A9: 高血圧そのものは確かに心血管リスクを高めますが、きちんと治療と生活習慣の改善を続けることで、そのリスクを大きく減らすことができます1,2,11。つまり、「治療を続けるパートナー」と一緒に生きることは、「リスクの高い選択」というより、「健康と向き合うパートナーと一緒に歩む選択」と捉えることができます。

BMJ Openの研究が示すように、夫婦やパートナーは生活習慣が似やすく、一方が高血圧で治療していると、もう一方も高血圧になりやすいというデータもありますが16、これは「二人で減塩や運動、禁煙などに取り組めば、二人とも健康になりやすい」という意味でもあります。

結婚を考えるときは、「病気の有無」だけでなく、「病気にどう向き合っているか」「一緒に生活習慣を整えようとしているか」という視点も大切にしてみてください。心配な場合は、カップルで医療機関を受診し、一緒に医師から説明を受けるのも良い方法です。

Q10: 高血圧と性生活のことで悩んでいます。どこに相談すればいいですか?

A10: まずは、かかりつけの内科や循環器内科で、高血圧のコントロール状況や心臓の状態について相談することをお勧めします。そのうえで、EDや女性の性機能の悩みについては、泌尿器科や婦人科、心療内科などの専門医が対応している場合があります8,9,10

「どの診療科に行けばよいかわからない」ときは、地域の医療相談窓口や自治体の保健センターに問い合わせると、相談先を案内してもらえることがあります。また、通院中の医療機関で、「性の悩みについて相談できる窓口や専門の先生はいますか?」と聞いてみるのも良いでしょう。

性の悩みは決して珍しいものではなく、高血圧や心臓病を持つ方の中でも、多くの人が似たような不安を抱えています。一人で抱え込まず、信頼できる医療者や相談窓口を見つけることが、解決への第一歩です。

結論:この記事から持ち帰ってほしいこと

高血圧は、日本で非常に多くの人が抱える「国民病」でありながら、多くの場合、症状が乏しいまま進行するサイレントキラーです1,2,3。しかし、適切な治療と生活習慣の改善によって、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを大きく減らすことができ、恋愛や結婚、性生活、妊娠・出産をあきらめる必要はありません1,6,7,11,12

本記事では、性行為の運動強度(3〜5 METs)や「階段テスト」、EDや女性性機能障害と高血圧の関係、妊娠高血圧症候群と家族計画、夫婦コンコーダンスと生活習慣、ストレスやうつとの関連など、さまざまな側面から「高血圧と愛」の関係を見てきました5,8,9,10,11,12,16,17,18,19。共通しているメッセージは、「一人で抱え込まず、パートナーや医療者と一緒に考えることが大切」という点です。

今日からできる一歩として、次の3つを提案します。

  • 家庭血圧を測り、記録をつける(可能であればパートナーと一緒に確認する)。
  • 減塩や運動、睡眠、禁煙・節酒など、生活習慣を「二人のプロジェクト」として少しずつ整える。
  • 高血圧と恋愛・性生活・妊娠について不安があれば、かかりつけ医や専門医に、一言だけでも相談してみる。

「高血圧だから」と愛をあきらめる必要はありません。むしろ、高血圧という共通のテーマをきっかけに、パートナーと健康について話し合い、支え合いながら、二人だけのペースで愛を育てていくことができます。本記事が、そのための道しるべとなれば幸いです。

この記事の編集体制と情報の取り扱いについて

Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が、厚生労働省や日本高血圧学会、日本妊娠高血圧学会、日本産科婦人科学会、国立成育医療研究センター、American Heart Association などの一次情報をもとに作成しました1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15

本記事の原稿は、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っており、情報の更新が必要と判断した場合には適宜改訂を行います。

ただし、本サイトの情報はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療の決定を直接行うものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討される際は、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。

記事内容に誤りや古い情報が含まれている可能性にお気づきの場合は、お手数ですが運営者情報ページ記載の連絡先までお知らせください。事実関係を確認のうえ、必要な訂正・更新を行います。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言や診断、治療に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、治療内容の変更・中止等を検討される際には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019). 2019年. https://jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_hp.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
  2. 厚生労働省. e-ヘルスネット「高血圧」. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  3. 厚生労働省. 国民健康・栄養調査. e-Stat. https://www.e-stat.go.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  4. 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. 2023年. https://www.mhlw.go.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  5. 国立健康・栄養研究所. 身体活動のメッツ(METs)表. 2012年. https://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/2011mets.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
  6. 日本妊娠高血圧学会. 妊娠高血圧症候群の診療指針2021. Minds. https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00660(最終アクセス日:2025-11-25)
  7. 日本産科婦人科学会. 妊娠高血圧症候群に関する情報. 2023年. https://www.jsog.or.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  8. 日本循環器学会ほか. 妊娠関連高血圧に関する総説. 日本循環器学会誌. 2014年. https://www.jstage.jst.go.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  9. 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023. 2023年. https://www.jsog.or.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  10. 日本小児循環器学会. シン・妊娠高血圧症候群. 日本小児循環器学会誌. 2025年. https://www.jstage.jst.go.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  11. American Heart Association. Sexual activity and cardiovascular disease. Circulation. 2012; DOI:10.1161/CIR.0b013e3182447787. https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0b013e3182447787(最終アクセス日:2025-11-25)
  12. Jelavić MM et al. Sexual activity in patients with cardiovascular disease. Croatian Medical Journal. 2018. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6400344/(最終アクセス日:2025-11-25)
  13. スポーツ庁. 身体活動・運動に関する情報. 2020年. https://www.sports.go.jp(最終アクセス日:2025-11-25)
  14. 日本高血圧学会関連誌. 運動と高血圧に関するレビュー. 2014年. https://jshp.umin.jp/journal/14_2_7.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
  15. マツダ病院. NYHA分類とMETsに関するQ&A. 2021年. https://hospital.mazda.co.jp/media/yakuyaku-220714.pdf(最終アクセス日:2025-11-25)
  16. Watanabe T et al. Spousal concordance for hypertension in Japanese couples. BMJ Open. 2020. https://bmjopen.bmj.com(最終アクセス日:2025-11-25)
  17. Liu MY et al. Psychological stress and incident hypertension. Neurological Research. 2017; DOI:10.1080/01616412.2017.1317904. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28415916(最終アクセス日:2025-11-25)
  18. Meng L et al. Depression and the risk of hypertension. Journal of Hypertension. 2012; PMID:22343537. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22343537(最終アクセス日:2025-11-25)
  19. Choy CL et al. Hypertension and female sexual dysfunction: a systematic review and meta-analysis. Journal of Sexual Medicine. 2019; PMID:31113742. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31113742(最終アクセス日:2025-11-25)
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ