おたふく風邪による睾丸炎:不妊症へのリスクとは?
男性の健康

おたふく風邪による睾丸炎:不妊症へのリスクとは?

はじめに

ウイルス性の感染症として知られる「おたふくかぜ(ムンプスウイルス感染症)」は、多くの場合は軽症で済むとされる一方、成人期に発症した場合には合併症のリスクが上昇し、その中でも男性における「精巣上体炎(副睾丸炎)」や「精巣炎(以下、便宜上“精巣炎”と表記)」は特に注意が必要です。中でも「おたふくかぜによる精巣炎」は、まれに不妊症の原因になる可能性があるため、一般的にも懸念されやすい合併症のひとつとして広く知られています。本記事では、おたふくかぜの基本知識から、男性に発症しやすい精巣炎の症状や原因、そして不妊リスクの実態と予防・対応策までを詳しく解説していきます。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

感染症自体は小児期によくみられますが、成人男性にも発症しないわけではありません。その場合、ウイルスが精巣まで侵入して炎症を引き起こす可能性があり、痛みや腫れをはじめとする辛い症状をもたらします。こうした経過から「おたふくかぜで精巣炎になると、すぐに不妊になってしまうのでは」と心配される方も少なくありません。本記事では、最新の知見も踏まえつつ、あらためて正しい情報を整理し、予防策や対処法までをわかりやすくお伝えします。

専門家への相談

本記事の内容に関連する医学的な考察は、医師 Nguyen Thuong Hanh(所属:Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)の見解、ならびに信頼性の高い国内外の感染症ガイドラインや文献情報をもとにまとめています。おたふくかぜによる合併症は、患者の年齢や免疫状態によって経過が大きく変わるケースが報告されており、とくに成人男性は注意が必要です。以下では、文献を交えて詳しく解説します。

おたふくかぜ(ムンプスウイルス)とは

おたふくかぜ(以下「ムンプス」と呼ぶ)は、ムンプスウイルス(Mumps virus)による急性ウイルス感染症の一種です。パラミクソウイルス科に属し、はしか(麻疹)や風疹を引き起こすウイルスと同じグループに分類されます。典型的な症状は耳下腺(耳の下にある唾液腺)の腫れや痛みですが、唾液腺全体が腫れるケースもあり、日本語では「おたふくかぜ」や「流行性耳下腺炎」と呼ばれています。

  • 潜伏期:12〜25日程度
  • 主な症状:耳下腺や顎下腺の腫れ・痛み、発熱、倦怠感など
  • 好発年齢:主に小児期(学童期)にかかることが多い
  • 治療:特効薬はなく、対症療法が中心
  • 合併症:精巣炎(男性)、卵巣炎(女性)、膵炎、髄膜炎、脳炎など

小児期に発症する場合は比較的軽症で済むことが多い一方、成人してから発症すると重症化しやすく、さまざまな合併症を引き起こすリスクが高まります。とくに男性が成人期に感染すると、精巣炎の合併が一定の割合でみられることが知られています。

おたふくかぜによる精巣炎とは

どのくらいの男性が合併するのか

成人男性がおたふくかぜに感染した場合、報告にもよりますが約3割前後の割合で精巣炎を発症する可能性があるといわれています。これは子どもの頃にかかった場合に比べて高い比率です。精巣はウイルスによる炎症に対して比較的弱いため、一度炎症が起こると激しい痛みや腫れなどの症状が生じます。
近年の国際的な報告でも、成人男性のおたふくかぜ患者を対象に調査した結果、精巣炎を合併する率は全体の20〜30%程度だったと報告されることがあり(参考:アメリカ疾病予防管理センター〈CDC〉、英国国民保健サービス〈NHS〉の各種ガイドライン)、この数字は日本国内でも大きく変わらないと考えられます。

症状と経過

精巣炎を発症すると、多くの場合は下記のような症状がみられます。

  • 精巣(または陰嚢全体)の腫れと痛み:発熱に続いて耳下腺の腫脹がやや落ち着いた時期、もしくはほぼ同時期にあらわれることもあります。腫れに伴い、触ると強い痛みを感じるのが特徴です。
  • 発熱・悪寒・全身倦怠感:おたふくかぜの基本症状でもありますが、精巣炎が加わることで発熱が長引く場合もあります。
  • 吐き気・嘔吐:痛みが強い場合や高熱が続く場合には吐き気や嘔吐を伴うことがあります。
  • 片側性が多い:両側の精巣が同時に炎症を起こすケースもありますが、最初は片側から始まることが多いとされています。

痛みは4〜8日程度持続する場合が多く、適切に対症療法を行えば徐々に改善していきます。しかし、片側または両側の精巣が炎症を起こすと、治癒後に精巣が委縮する可能性があると指摘されており、完全に元の状態に戻らないケースも報告されています。

不妊症との関係:本当に「高リスク」なのか?

「おたふくかぜによる精巣炎」と聞くと、多くの男性が「将来、不妊症になるのではないか」と不安を抱きがちです。しかし、実際に精巣炎を発症しても、そのまま不妊につながるリスクはそれほど高くはないとされています。

  • 精巣炎後に起こる精巣の委縮(萎縮)が10%前後:さまざまな報告によると、精巣炎にかかった患者のうち1〜10%ほどで精巣の委縮がみられるとされます。ただし、委縮が起きても必ずしも不妊になるわけではありません。
  • 不妊症にいたるリスクはさらに低い:精子の数や質(運動率など)が一時的に下がる場合はあっても、後遺症として恒常的な無精子症を引き起こすケースは多くありません。
  • 他の因子も影響:不妊にはホルモンバランスや既往症、ライフスタイルなど複数の要因が関わるため、一概におたふくかぜだけが原因で不妊になると断定はできません。

つまり、成人期のおたふくかぜ(ムンプス)による精巣炎は不妊の「可能性」を高める要因のひとつであるものの、リスクの絶対値としては決して高くなく、早期対応や適切な対症療法を行うことで、そのリスクをいっそう抑えられると考えられます。

最近の研究・知見

  • 精巣炎が精子形成に与える影響
    2022年に米国の感染症学専門誌で公表された症例報告(A rare case of mumps orchitis ほか)では、成人男性のおたふくかぜ後の精巣機能を数年間追跡した結果、一時的に精子数や活動性が低下したものの、長期的には生殖能力を大きく損なわないケースが大半であったと報告されています。ただし、ウイルスの毒性や患者の免疫状態などによって個人差があるため、精巣炎を発症した際は医療機関でのフォローアップが重要とされます。
  • ワクチン接種の有効性
    近年、ワクチンを2回接種しているにもかかわらずおたふくかぜに感染する「ブレイクスルー感染」の例も報告されており、ドイツで2013〜2020年に発生したアウトブレイク(集団発生)について調査した研究では、高い接種率を維持していても地域的な集団感染が起こりうると指摘しています(Bitzegeio J.ら, 2022, Emerging Infectious Diseases, 28(7), pp.1403–1412. doi:10.3201/eid2807.212224)。ただし、未接種の人に比べれば症状が軽減されることが多く、精巣炎を含む重症化リスクを抑える上でもワクチン接種は非常に重要と考えられています。

そのほかのおたふくかぜの合併症

おたふくかぜは男性の精巣炎だけでなく、下記のような合併症を引き起こす場合があります。女性の場合は卵巣炎や卵管炎、また年齢・性別を問わず中枢神経系への波及リスクとして髄膜炎、膵炎などが挙げられます。

  • 卵巣・卵管炎(女性):まれではあるものの、女性が成人期にかかった場合、卵巣炎や卵管炎を発症し、不妊につながる可能性を示唆する報告もあります。
  • 髄膜炎:ムンプスウイルスが髄膜へ到達し、頭痛や発熱、首の硬直(項部硬直)などを引き起こします。小児期でもみられますが、成人期のほうが重症化しやすいとされます。
  • 膵炎:非常に強い腹痛や消化器症状が出る場合があり、適切な対症療法が必要です。
  • 脳炎:極めてまれな合併症ですが、発症すれば意識障害や神経症状が出現し、重篤な転帰をたどる可能性があるため入院管理が必要です。
  • 難聴:一時的に聴力が落ちるケースが比較的よく報告されています。ごくまれにそのまま永続的な聴力低下につながる場合もあります。

男性ができる予防と対策

子どもの頃のワクチン接種

日本での定期接種には含まれない時期があったことから、大人になってから実は接種歴が不確かという方もいるかもしれません。しかし、おたふくかぜによる精巣炎は成人期において重症化リスクが高まる合併症です。そのため、小児期にMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンを2回確実に接種しておけば、発症リスクや重症化リスクを大幅に低減できるとされています。

  • MMRワクチン接種スケジュールの一例
    1. 生後12〜15か月頃に1回目
    2. 4〜6歳頃に2回目

ワクチンは100%の発症予防を保証するわけではありませんが、感染したとしても症状を軽減し、合併症を予防する効果が示唆されています。成人でも「接種歴があいまいな方」は抗体価検査などで免疫の有無を確認し、必要に応じて接種を検討することが推奨されています。

ワクチン接種に関する最新の知見

  • 歴史的経緯と効果
    ムンプスワクチンは1960年代から開発が進み、現在も改良が続けられています。海外の研究では、2回接種したグループと1回接種または未接種のグループを比較した際、合併症率や重症化率に大きな差が生まれると示されています(Rubin SA, 2019, Infectious Disease Clinics of North America, 33(4), pp.695–711. doi:10.1016/j.idc.2019.08.011)。
    特に成人期の合併症予防においては、2回接種の有用性が強く支持されています。

成人男性が感染した場合の対処

すでに成人してから感染した場合、以下のような対処法が中心となります。特効薬はないため、あくまでも症状を緩和させながら合併症のリスクを最小限に抑える対症療法が主体です。

  • 水分補給:高熱や口腔内の違和感に伴う脱水を防ぐため、こまめな水分摂取を心がけます。
  • 鎮痛薬の使用:アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬を、医師の指示に従って使用します。
  • 安静と保温・冷却の使い分け:耳下腺や精巣が腫れている部分をタオルや冷却パックなどで冷やすと痛みが和らぐことがあります。ただし、過度に冷やしすぎず、痛みの程度や発熱の状況を見ながら温罨法を使う場合もあります。
  • 精巣炎に対する対応:精巣の腫脹や痛みが強いときは、緩めの下着やタオルを下に敷くなどしてなるべく圧迫や振動を避けるようにします。

もし精巣炎を発症したら

おたふくかぜによる精巣炎を発症した場合、完全に痛みが引いた後も可能であれば泌尿器科の受診や定期的な検査を受けるのがおすすめです。精子の状態を確認する検査(精液検査)やホルモン検査などで、精巣機能が十分保たれているかを把握することができます。

  • 将来的な妊よう性に不安がある場合:精巣炎が回復した後、必要に応じて精子バンクや凍結保存について検討するケースもあります。ただし、すべての人に推奨されるわけではなく、医師のアドバイスを受けながら判断するのが望ましいです。
  • 痛み・腫れが長引く場合:通常は1週間程度で腫れがひいていきますが、症状が長期化する場合や痛みが急に増強する場合は、別の感染症やほかの合併症が隠れている可能性もあるため、医師による追加の検査が必要です。

まとめ:おたふくかぜと男性不妊リスクを正しく理解する

おたふくかぜ(ムンプス)は子どもがかかる病気として知られていますが、成人が感染すると合併症として精巣炎を起こしやすくなり、一部で不妊リスクが懸念されます。ただし、実際のところ不妊症につながる症例はそれほど多くなく、不安を抱きすぎる必要はありません。早期のワクチン接種や正しい対処、そして必要に応じて医療機関で適切な管理を受けることで、将来的な影響を最小限に抑えることが可能と考えられます。

  • 子どものうちにMMRワクチンを2回接種し、免疫を獲得する
  • 成人後に感染が疑われる場合は、可能な限り早く受診し、症状緩和や精巣炎の重症化予防を行う
  • 精巣炎を発症した場合でも、すべてが不妊につながるわけではない
  • 痛みのコントロールや腫れのケアを行い、経過観察を続ける
  • 将来的に妊よう性に不安がある場合は、医師に相談の上で必要な検査や対策を検討する

推奨のケアと受診の目安(参考:各種ガイドラインおよび国内外研究)

  • 高熱が続く、痛みが強い、嘔吐が止まらない場合:早めに医療機関を受診
  • 陰嚢の腫れや痛みが4〜5日経っても改善しない場合:ほかの病気(精巣捻転など)の可能性も考慮し、受診を急ぐ
  • 二次感染や肺炎の症状を疑う場合:咳や呼吸苦など別の症状があるときも要注意

参考文献

免責事項

本記事の内容は参考情報の提供を目的としたものであり、医師など有資格の専門家による診断・治療の代替となるものではありません。症状や治療に関しては個々の状況によって異なるため、必ず医療機関や専門家にご相談ください。

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