はじめに
がん患者の方にとって、日々の栄養補給は治療や体力維持において非常に重要です。とくに手術や化学療法、放射線治療などを受けていると、体が衰弱しやすく、食欲不振に陥ることも少なくありません。そのため、エネルギー源やたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどを効率よく摂取できる飲み物として「ミルク(牛乳および牛乳由来製品)」が注目されています。本記事では、がん患者の方におすすめされるミルクの栄養的メリット、どの程度飲むのが適切か、そして代表的な専用ミルク製品について解説いたします。さらに、ミルクと各種がんの関連性がどのように研究されているかにも触れ、さまざまな視点を総合的にまとめました。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事の内容は、栄養に関する一般的な参考情報となります。実際の治療や食事計画を決定する際は、必ず主治医や管理栄養士など専門家にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、医師Nguyễn Thường Hanh(内科総合診療科/Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)による専門的視点が参考として言及されています。ただし、あくまでも参考情報であり、個別具体的な診断や治療方針は各自の主治医の判断を優先してください。
ミルクがもたらす栄養とがん患者へのメリット
がん患者は治療の副作用や倦怠感などによって食欲が低下し、体重減少や栄養不良に陥りやすいとされています。そこで、タンパク質やエネルギーを手軽に補給できる食材として、ミルクやミルク由来製品(ヨーグルト、チーズなど)が推奨されることがあります。以下に、がん患者の方がミルクを利用する主なメリットをまとめます。
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たんぱく質やビタミン・ミネラルの補給
がん患者の多くは、治療の影響で体力を消耗しやすく、筋肉量が低下しがちです。ミルクやチーズ、ヨーグルトには、体力維持や免疫力維持に欠かせない良質なたんぱく質、ビタミンA・B12・リボフラビンなどが含まれています。これらを日々摂取することで、衰弱を緩和し、病気と闘う体力を支えます。 -
骨や歯の強化
カルシウムは骨や歯を丈夫に保つうえで欠かせないミネラルです。長期治療や運動不足で骨密度が落ちやすいがん患者にとって、ミルク由来製品はカルシウム補給の手段として効果的だと考えられています。 -
消化吸収のサポート
人によっては乳糖不耐症などでミルクが合わない場合がありますが、適切な種類の乳製品を選ぶと、腸内環境を良好に保つことも期待できます。たとえば、発酵乳製品(ヨーグルトなど)には乳酸菌が含まれ、腸内細菌叢のバランスをサポートする可能性があります。 -
エネルギー補給
全脂肪タイプのミルクやチーズにはエネルギーが多く含まれるため、体重維持や回復を目指す方にとっては有用です。一方、過剰な脂肪分摂取は血中脂質や体重過多の問題にもつながりうるため、主治医・栄養士に確認しながら選ぶことが大切です。
ミルクと特定のがんリスクとの関連
大腸がんとミルク
世界がん研究基金やアメリカがん研究所の報告によると、ミルクや乳製品を日常的に摂取することで大腸がんのリスク低減効果が示唆されるという研究があります。ミルクに含まれる高レベルのカルシウムや、発酵乳製品に含まれる乳酸菌などが腸内環境を整え、免疫機能をサポートする可能性があると考えられています。
前立腺がんとミルク
一部の研究では、カルシウムの過剰摂取が前立腺がんリスクを高める可能性があるという指摘があります。しかし、ミルクからのカルシウム摂取だけに限らず、遺伝的要因や生活習慣(肥満・喫煙・食事パターンなど)も大きく影響するため、現時点では「ミルクの摂取=前立腺がんのリスク増大」と断定するには十分な証拠が不足しています。個々の体質や摂取量など総合的に考慮することが求められます。
乳がんとミルク
乳がんに対しては、ミルクや乳製品の摂取量がリスクを高めるという確固たる証拠は見つかっていないと報告されることが多いです。むしろ、一部の研究では、適度な乳製品摂取が乳がんリスク低減の可能性を示唆する結果もあり、まだ研究途上の段階といえるでしょう。
がん患者がミルクをどの程度飲めばよいか
一般的には、1日あたりコップ1~2杯程度のミルクが推奨される場合があります。ただし、個人の栄養状態や治療の進行度合い、乳糖不耐症の有無などによって最適量は異なりますので、主治医や管理栄養士と相談のうえ調整してください。
イギリスの栄養学関連団体によると、成人1人あたり1日2~3回程度の乳製品(ミルク、ヨーグルト、チーズなど)摂取が望ましいともいわれています。具体的には、以下のような例があげられます。
- 低脂肪ミルク1杯(約200ml)
- ヨーグルト(150g程度)
- 低脂肪チーズ(30g程度)
なお、乳糖不耐症の方や乳製品による胃腸トラブルがある方は、豆乳やアーモンドミルクなどカルシウム強化された代替飲料、骨ごと食べられる小魚、豆腐などを活用することでカルシウムやタンパク質補給が可能です。
がん患者に適したミルク製品6選
ミルク製品を選ぶときに大切なのは、脂肪分(特に飽和脂肪酸)、糖分、塩分が過剰にならないかに気をつけることです。とくにがん患者の場合、治療中に体重が極端に減っている場合は高カロリー・高たんぱくのミルクを、糖尿病などほかの病態を合併している場合は低糖・低脂肪のミルクを選ぶなど、状況に応じた選択が求められます。以下に、現在流通しているがん患者向けミルク製品を6つ紹介します。
1. Abbott Prosure
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概要
シンガポールに生産拠点をもつAbbottの製品で、タンパク質・EPA/DHA・オメガ3などが豊富に配合されています。手術後や化学療法・放射線療法などで体力が落ちている際に、効率的に栄養を補給できるとされています。 -
飲み方(目安)
1回240mlを1日2回ほど(朝・夜)摂取し、できるだけ作りたてを飲むようにします。飲み残しを翌日に回さないよう注意しましょう。 -
参考価格
380g入りの缶でおよそ45万~55万VND(ベトナム通貨表記)程度とされています。
2. Forticare Nutricia
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概要
オランダのNutriciaから販売されているがん患者向けの栄養補助飲料です。高カロリーで、1本あたりに複数の必須ビタミン・ミネラルがバランスよく含まれているため、化学療法・放射線治療後の体力回復に役立つとされています。 -
飲み方(目安)
1日あたり3本程度飲用すると効果が高いとされています。1本125mlと少量なので、食事と組み合わせてうまくカロリー・栄養を補えます。 -
参考価格
125ml×4本のセットでおよそ37万~40万VND程度。
3. Supportan Drink
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概要
ドイツのFresenius Kabi社製品。高エネルギー、高タンパク、EPA/DHA配合で、さらに食物繊維も取り入れられています。乳糖不耐症の方でも利用しやすいように設計され、がん治療で疲弊しやすい体をサポートします。 -
飲み方(目安)
- 栄養補助として:1日2本(600kcal)
- 食事代替として:1日最大5本(約1500kcal)
いずれの場合も、主治医や管理栄養士に相談しながら量を調整しましょう。
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参考価格
200ml×4本でおよそ38万~41万VND程度。
4. Peptamen
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概要
スイスのNestléによる、消化吸収効率を高めるよう配合されたミルク製品。がんの進行や術後などで衰弱した方におすすめされています。30種以上のビタミン・ミネラルを含み、免疫力や筋肉の維持をサポートする設計です。 -
飲み方(目安)
210mlほどのぬるま湯に付属スプーン7杯(約55g)を加え、よくかき混ぜて1日2~3回程度飲用します。 -
参考価格
400g入りの缶で41万~44万VND程度。
5. Fortimel Nutricia
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概要
こちらもオランダNutricia社の製品で、たんぱく質含有量が高い点が特徴です。28種類のビタミン・ミネラルをバランス良く配合しており、体力低下を招きがちのがん患者に必要な栄養を補えます。 -
飲み方(目安)
まず50mlほどのお湯で8杯分(付属スプーン)のパウダーを溶かし、さらに150mlのお湯を足して混ぜ、1日2~3回程度を目安に飲用します。 -
参考価格
335g入り1缶で36万~37万VND程度。
6. Recova Gold 400
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概要
VitaDairy(アメリカからの原料を使用)基準で作られた製品。Curcumin(ウコン由来成分)やMUFA、PUFAなどの脂肪酸、Isomaltなどを配合し、がん治療後の回復サポートが期待されています。 -
飲み方(目安)
180mlの40~50度程度のお湯に付属スプーン7杯分を溶かし、1日2~3回(食間や就寝前など)を目安に飲用します。 -
参考価格
400g入りで23万~25万VNDほど。
それぞれの製品における利点と留意点
利点
- 化学療法や放射線治療でエネルギー消費が大きい方でも、手軽に高エネルギー・高たんぱくを摂取できる。
- カルシウムやビタミン、ミネラルをバランスよく補給できるので、骨粗鬆症や免疫低下のリスク緩和にもつながりやすい。
- 乳由来成分が中心だが、一部は乳糖不耐症の方にも配慮された製品がある。
- がん患者にとって重要な体重管理や血糖管理に対応した低糖・低脂肪タイプも選べる。
留意点
- 風味(味)は商品によっては独特で、好みが分かれる場合がある。
- 開封後の賞味期限が短く、2~3か月程度で使い切る必要がある。
- 一部の商品は偽物が出回るリスクがあるため、正規代理店や信頼できる販売店で購入することが推奨される。
購入時の注意点と補足
がん患者向けミルク製品は、大型スーパーや専門店、薬局、または信頼のおけるオンラインショップなどで購入できます。購入時は以下の点に留意してください。
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正規代理店や公式オンラインショップを利用する
偽造品や品質不良品を回避するため、公式ウェブサイトや大手オンラインショッピングモール内の公式ストアで買うのが安心です。 -
成分表示を確認し、医療従事者に相談
糖質制限が必要な場合や、骨粗鬆症が疑われる場合など、それぞれの体調に応じたミルクが適しています。気になる点は事前に担当医や管理栄養士に相談しましょう。 -
開封後の取り扱いと保管
湿気や直射日光を避け、冷暗所に保管し、パウダータイプは専用スプーンを使って衛生的に扱います。期限切れや保管環境が悪いと、品質が劣化する可能性があるので注意が必要です。
がん患者向けミルク製品を選ぶ際のポイント
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高エネルギー・高たんぱくの配合
がん治療中や治療後、体力が落ちている方は、効率よくエネルギーとタンパク質を補える製品が向いています。 -
ビタミン・ミネラルのバランス
消耗した体力を回復するには、多種のビタミンやミネラルが必要です。特にカルシウム・ビタミンDは骨の健康維持に欠かせません。 -
消化吸収のしやすさ
がん治療中は、胃腸の調子が不安定になりやすいため、消化しやすい形態(加水分解乳タンパク、乳糖低減など)を採用している製品を選ぶと安心です。 -
糖分・脂肪分の調節
血糖値をコントロールする必要がある場合や肥満傾向の方は、低糖・低脂肪タイプを優先するなど、個人の体調や合併症に合わせた選択が必須です。
がん患者におけるミルク製品の留意点と研究動向
乳製品の摂取とがんリスクの関連については、さまざまな研究が行われています。しかし、人種や食習慣、遺伝的体質などにより結果が異なっているのが現状です。大量摂取すればよいわけではなく、適度な量を日常的に取り入れることが重要とされています。
とくに日本人は欧米諸国に比べ、もともと乳製品の摂取量が多くない傾向にあるため、過剰摂取にならない限りは大きなリスクを避けつつ、むしろがん治療中の栄養補給源としてプラスに働く可能性があります。一方、乳糖不耐症やアレルギー体質の方は無理に乳製品を続けず、代替となる大豆製品や小魚などからカルシウムを補う方法もありますので、柔軟に対応してください。
おすすめの飲用タイミング
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朝食時や間食タイムに
食欲が落ちている方でも、朝起きてすぐやおやつ感覚なら、比較的取り入れやすいことがあります。 -
就寝前
ミルク由来のたんぱく質は睡眠中の筋肉修復を助けるともいわれ、疲労回復のサポートになる可能性があります。 -
食欲が低下している時
個体差はあるものの、固形物が食べられないときのエネルギー源として、牛乳や栄養補助ミルク製品は便利です。
注意事項:専門家への相談と安全性
ミルクはあくまで補助的な栄養源です。がんの治療方針や食事制限、内服薬などとの兼ね合いもあるため、事前に主治医や管理栄養士と相談することを強く推奨します。また、乳糖不耐症やアレルギーが疑われる場合は、自己判断で無理にミルクを飲み続けないよう注意してください。
まとめ:ミルクはがん患者の栄養補給に役立つ一方、適量・製品選びが肝心
- ミルクや乳製品には、たんぱく質やカルシウム、各種ビタミン・ミネラルが豊富に含まれ、がん治療中の体力維持や栄養補給に有用とされます。
- がんの種類によっては、乳製品摂取が予防・リスク低減に役立つ可能性が示唆される一方で、個々の体質や生活習慣、遺伝的要因も大きく影響するため、一概に「乳製品がリスクを高める」または「まったくリスクにならない」とも言い切れません。
- 具体的な摂取量は1日コップ1~2杯が目安とされますが、必要量は個人差があるため、必ず主治医や管理栄養士に相談して決定するようにしましょう。
- 専用製品としては、Abbott Prosure、Forticare Nutricia、Supportan Drink、Peptamen、Fortimel Nutricia、Recova Gold 400などが有名です。体力回復を早めるため、栄養バランス・消化吸収・脂肪分などに配慮して設計されています。
- 適切な製品選びと衛生的な調理・管理が重要で、乳糖不耐症やアレルギー体質の方は代替品を利用するなど個別対応が求められます。
推奨事項(必ずお読みください)
- ここで紹介した製品や栄養情報は、あくまでも参考用途であり、すべての方に万能に当てはまるわけではありません。
- がんの種類、治療過程、体質、既往症によって必要な栄養や制限事項は異なります。必ず主治医や専門家に相談しながら摂取を判断してください。
- 治療中に味覚が変化することもあるため、一度に大量購入せず、試しに少量を買ってから継続するかを検討するのも一案です。
- 乳製品以外にも、豆製品や小魚、野菜など幅広い食品群をバランスよくとることが大切です。
参考文献
- Can milk and dairy products cause cancer?
https://www.cancerresearchuk.org/about-cancer/causes-of-cancer/cancer-myths/can-milk-and-dairy-products-cause-cancer - Friday Fix: Milk and Milk Alternatives.
https://pancan.org/news/friday-fix-milk-and-milk-alternatives/ - Dairy foods and calcium and cancer risk.
https://www.cancercouncil.com.au/cancer-prevention/diet-exercise/nutrition-and-diet/dairy-foods-and-calcium/ - Dairy products and cancer.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22081693/ - Dairy products linked to increased risk of cancer.
https://www.ox.ac.uk/news/2022-05-06-dairy-products-linked-increased-risk-cancer
本記事は健康・栄養に関する参考情報として作成されています。治療や医療行為の指示を目的とするものではありません。具体的な診断や治療方針は、必ず専門の医師とご相談ください。