がん治療における免疫療法の革新技術 | 最新アプローチが患者にもたらす希望
がん・腫瘍疾患

がん治療における免疫療法の革新技術 | 最新アプローチが患者にもたらす希望

はじめに

がんの治療は時代とともに大きく進歩し、手術、化学療法、放射線治療などの従来の方法に加えて、新たに注目されているのが免疫療法です。近年、免疫の働きを利用することで、さまざまながんに対して治療効果を示す事例が増えてきました。特に末期がんの患者さんにおいても、余命の延長や生活の質(QOL)の向上につながった報告があり、多くの専門家や患者さんから期待が寄せられています。本記事では、免疫療法とは何か、その仕組み、適応されるがんの種類、治療プロセス、注意点などを詳しく解説しながら、免疫療法に関する最新の研究知見もあわせて紹介します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

免疫療法は体内の免疫システムを活性化させる、あるいはうまく働くよう調整することによって、がん細胞を攻撃させる治療法です。一般に、がん細胞は変異や増殖スピードの速さ、免疫回避機構などを備えているため、体内の免疫が正常に働いていても見逃されてしまう場合があります。しかし、免疫療法を活用することで、免疫細胞ががん細胞を認識しやすくしたり、十分な攻撃力を高めたりすることが可能になります。これまで化学療法や放射線治療が効きにくかったようながんでも、免疫療法によって効果が期待できるケースがあり、世界中の医療現場で治療選択肢の一つとして導入が進められています。

ただし、免疫療法はあらゆるがんに適用されるわけではなく、患者さん自身の体質、がんの種類、進行度によって効果や副作用が異なります。以下では免疫療法の仕組み、種類、治療を行ううえでのプロセスやリスクなどを包括的に説明し、さらにいくつかの最新研究が示す有用性や実際の臨床応用状況を紹介します。

専門家への相談

本記事では、これまで数多くの研究結果や臨床データをもとに、免疫療法の実践例や注意点についてまとめています。ただし、免疫療法を含めたがん治療に関する最終的な判断は、患者さんの状態を直接診察できる医師との相談が不可欠です。ここで取り上げる情報は、あくまで医療機関や研究機関、専門誌などの信頼できるデータに基づいていますが、個々のケースに応じた治療方針は必ず専門医に確認することを強くおすすめします。

免疫療法とは何か

免疫療法の基本的な考え方

免疫療法は、体が本来もつ免疫システムをがん細胞に対して強化・調整する治療法を総称したものです。通常、免疫システムはウイルスや細菌などの外敵だけでなく、変異した細胞(がんの芽)をも日々監視し、排除しています。しかし、がん細胞は免疫回避のメカニズムを獲得していることが多く、免疫のチェックをすり抜けながら増殖・転移を繰り返す場合があります。そこで、免疫細胞の働きを強めたり、がん細胞の免疫回避を抑制したりするアプローチが免疫療法です。

免疫療法は従来の治療と組み合わせることも多く、例えば手術や化学療法の効果を高めたり、副作用を抑えたりする目的で併用される場合があります。また、手術や放射線治療が困難な進行がんに対しても、免疫療法による長期生存が期待できる事例が報告されています。

免疫システムの仕組み

免疫システムは、身体を外敵や異常な細胞から守るために多層的に作動しています。主な免疫細胞としては、リンパ球、樹状細胞、顆粒球などがあり、それぞれが連携しながら異常を検知・排除する役割を果たします。

  • リンパ球 B細胞: 病原菌や異常細胞の表面にある抗原を認識し、抗体を産生して排除を促します。
  • リンパ球 T細胞: ヘルパーT細胞(他の免疫細胞を活性化)やキラーT細胞(異常細胞を直接破壊)など多岐にわたるサブタイプがあり、がん免疫でも中心的な働きをします。
  • 樹状細胞: 異物やがん細胞に含まれるタンパク質(抗原)を取り込み、リンパ節に移動してT細胞に抗原を提示します。これによりT細胞が異常を認識しやすくなります。
  • 顆粒球: 好中球、好酸球、好塩基球などに分かれ、細菌などの病原体を攻撃したり、免疫反応を調整したりします。

がん細胞が免疫回避に成功してしまう主な理由は、(1)免疫細胞の攻撃力が追いつかない、(2)がん細胞が免疫反応を抑制する物質を放出している、(3)遺伝子変異により免疫に認識されにくくなっている、などが挙げられます。免疫療法では、こうした回避機構を切断し、免疫細胞の働きを最大限に引き出すことを目指します。

免疫療法の種類と作用機序

1. 免疫チェックポイント阻害薬

がん細胞は免疫からの攻撃を逃れるために、免疫チェックポイントと呼ばれる仕組みを利用します。免疫チェックポイント阻害薬は、その仕組みをブロックすることでT細胞の活性を高め、がん細胞を攻撃しやすくします。
代表的な分子としては、PD-1/PD-L1CTLA-4が挙げられます。がん細胞はPD-L1を発現し、T細胞上のPD-1と結合することで「攻撃しないでほしい」というシグナルを送ります。PD-1/PD-L1阻害薬によりその結合を遮断すると、T細胞は抑制されず積極的にがんを攻撃できるようになります。この分野で近年とくに注目されているのが、悪性黒色腫(メラノーマ)や肺がん、腎がんなどへの治療応用で、良好な結果が報告されています。

実際に、日本人を含む世界中の患者を対象にPD-L1陽性肺がんで行われた臨床試験では、従来の化学療法と比較して、長期生存率や完治率が向上するという結果が示されました。例えば、米国の研究グループが実施した多施設共同研究では、免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)を投与された進行肺がん患者の一部で、無増悪生存期間や全生存期間の有意な延長が観察されています1
1Herbst RS, Giaccone G, de Marinis F, et al. Atezolizumab for First-Line Treatment of PD-L1–Selected Patients with NSCLC. N Engl J Med. 2020;383(14):1328-1339. doi:10.1056/NEJMoa1917346

2. T細胞の遺伝子改変療法(CAR-T細胞療法など)

患者さん自身のT細胞を体外に取り出し、遺伝子レベルで改変してがん細胞を見つけやすく攻撃しやすいようにプログラムし、再び体内に戻す方法です。
なかでもCAR-T細胞療法は、B細胞性の悪性リンパ腫や急性リンパ性白血病などで良好な治療成績を上げ、保険適用となっているケースもあります。ただし、高額医療であり、重篤な副作用を伴うリスクもあるため、専門施設で慎重に検討・実施されます。脳腫瘍や乳がんなど固形がんへの応用も研究が進められており、将来的には多くのがん種で有効性が期待されています。

3. モノクローナル抗体(抗体医薬)

モノクローナル抗体とは、ある特定の抗原(がん細胞が持つ目印)にだけ結合するよう人工的に作られた抗体のことです。一部は免疫を活性化しながら、同時に毒素や放射性物質をがん細胞へ直接運ぶことで、がん細胞を効率的に破壊する働きを持つものもあります。
免疫チェックポイント阻害薬と同様、複数の製剤が実臨床で使われており、特定の分子に着目してがん細胞をピンポイントで狙うことから副作用が比較的少ないとされる反面、適用できるがん種が限られる、あるいは耐性が生じる場合があるなどの課題もあります。

4. ワクチン療法

伝統的なワクチンは感染症予防を目的に体内に抗原を投与して抗体産生を誘導しますが、がんに対する治療用ワクチンでは、がん細胞に特異的な抗原をあらかじめ見せることで免疫系を訓練し、がん細胞を攻撃しやすくすることを狙います。
たとえば、子宮頸がんの主な原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)を予防するワクチンなどは、予防目的で広く普及し始めています。一方で、進行がんに対してはまだ試験的な段階のものが多く、広く実用化されているわけではありません。

5. 腫瘍溶解性ウイルス療法

オンコリティック・ウイルス(腫瘍溶解性ウイルス)を使い、がん細胞だけを選択的に感染・破壊させる方法です。ウイルスが感染したがん細胞が死滅する際に放出される抗原によって、免疫細胞が活性化されるという相乗効果も期待されます。比較的新しい技術ですが、一部の悪性黒色腫に対して承認例があり、ほかのがん種へも臨床試験が進められています。

どのような種類のがんで免疫療法が使用されるか

免疫療法は、まだ手術・放射線・化学療法ほど「標準的な治療」として確立しているわけではありませんが、複数のがん種でFDAをはじめとした国際的な規制当局によって承認されています。たとえば、以下のようながんで適応が認められています。

  • 肺がん(特に非小細胞肺がん)
  • 悪性黒色腫(メラノーマ)
  • 腎がん
  • 乳がん
  • 大腸がん
  • 前立腺がん
  • 頭頸部がん
  • 肝臓がん
  • 膀胱がん
  • 子宮頸がん
  • 白血病(急性リンパ性白血病など)
  • ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫
  • その他、特定のバイオマーカーを持つがん

ただし、同じがん種でも、免疫療法の適応がある場合とない場合があります。これは、がんの病期(ステージ)や遺伝子変異、腫瘍の特徴(PD-L1の発現など)によって治療効果が大きく変わるためです。実際に、切除不能な進行胃がんや再発胃がんにおいて、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療が日本人集団でも有用であることを示す報告があります2
2Nobuyuki Nosaka, et al. Real-world effectiveness and safety of immunotherapy in advanced gastric cancer in Japanese population. Cancer Medicine. 2023;12(10):2120-2132. doi:10.1002/cam4.5097

免疫療法はどのように行われるのか

投与経路と治療期間

免疫療法は、次のような方法で投与・実施されます。

  • 点滴静注: 代表的なのは免疫チェックポイント阻害薬などで、一定期間ごとに病院で点滴を受ける形が一般的です。
  • 内服薬: 免疫調整作用をもつ薬剤をカプセルや錠剤で服用するケースがあります。
  • 塗布薬: 皮膚がんの一部に対して外用薬として用いる方法も存在します。
  • 局所注入: 膀胱がんに対して膀胱内にBCGワクチンを投与する例などが挙げられます。

治療回数やスケジュールは、薬剤やがんの種類、患者さんの全身状態によって異なります。多くの場合、一定の治療期間休薬期間を繰り返すサイクルで行われ、その効果や副作用を評価しながら継続します。適切な期間は個々の症例により大きく異なり、数週間から数カ月の単位で評価を続けることが多いです。

治療前の検査

治療前には、血液検査や生検(がん組織の一部を採取して遺伝子変異などを調べる)、画像検査などを行い、

  1. 免疫チェックポイント阻害薬などが有効となりやすいバイオマーカー(例:PD-L1発現)を持っているか
  2. 全身状態や臓器機能が投与に耐えられるか

などを確認します。がんによっては分子標的薬との併用、手術や化学療法との組み合わせを考慮する場合もあるため、チーム医療の中で慎重に治療方針が検討されます。

治療効果と成功率

免疫療法の効果は患者さんごとに大きなばらつきがあります。がんのタイプ、分子生物学的特徴、過去の治療歴、体力、そして免疫システムの状態など、多くの要素が組み合わさって結果が変化します。
とはいえ、近年の研究では肺がんや悪性黒色腫、腎がんなどで免疫療法の導入により長期生存率が向上したケースが多数報告されています3。特に、進行肺がんにおけるPD-1阻害薬(ペムブロリズマブ)を利用した治療が、5年生存率向上につながったという解析は注目を集めました。
3Garon EB, et al. Five-Year Overall Survival for Patients With Advanced NSCLC Treated With Pembrolizumab: Results From KEYNOTE-001. J Clin Oncol. 2019;37(28):2518-2527. doi:10.1200/JCO.19.00934

免疫療法に伴う主な副作用

免疫療法の副作用は、使用する薬剤の種類や投与方法によって異なりますが、全身への影響や自己免疫反応が生じる可能性があります。主な症状としては:

  • 発熱や倦怠感
  • 下痢や大腸炎(腸の炎症)
  • 皮膚の発疹、かゆみ
  • 関節痛、筋肉痛、骨痛
  • 食欲不振、口内炎
  • 呼吸苦、肺炎
  • 肝機能障害、甲状腺機能の異常

中でも免疫チェックポイント阻害薬では、自己免疫性の副作用(自己免疫反応による肺炎、肝炎、甲状腺炎など)が現れることがあり、重篤化すると治療中断やステロイド投与が必要となります。そのため、免疫療法中は定期的な血液検査や画像検査により副作用の有無をチェックし、早期発見・早期対応を徹底します。

治療中・治療後に気をつけること

免疫療法を受ける際、下記のような点に留意するとより安全・効果的に治療を進められます。

  • 副作用の早期発見: 体調に変化を感じた場合は、軽微な症状であっても主治医や看護師にすぐに報告しましょう。
  • 定期的な通院・検査: 診察時に血液検査や画像検査を行い、がんの状態や副作用を確認します。治療効果が思わしくない場合、他の治療への切り替えや併用も検討されます。
  • 生活習慣の維持: 食事のバランスや十分な休養を取ること、ストレスを溜めないことも免疫機能を維持するうえで大切です。
  • 併用薬やサプリメントに関する情報共有: 免疫療法と相互作用を起こす可能性のある薬剤やサプリは必ず担当医に相談してください。
  • ほかの治療との併用: 手術、放射線、化学療法などと併用することで治療効果が上がる場合があります。その際も副作用のリスクが増す可能性があるため、主治医と十分に相談しましょう。

研究の最新動向と日本国内での適用

日本国内でも、免疫療法に関する研究・臨床試験が活発に行われており、保険適用が認められる薬剤やがん種が段階的に拡大しています。たとえば、非小細胞肺がんや胃がん、乳がん、腎がんなどに対して、免疫チェックポイント阻害薬が標準治療の選択肢として取り入れられるケースが増えてきました。また、先進的な治療としては、CAR-T細胞療法のさらなる適用拡大や腫瘍溶解性ウイルスの研究なども進行中です。

一方で、治療費の高さや専門施設の限られた数といった課題もあります。患者さんや家族が治療を検討する際には、最新の研究データだけでなく、経済的・心理的な側面も含めて担当医とじっくり話し合うことが重要です。

結論と提言

免疫療法は、がんの治療戦略における大きなブレークスルーとして注目を集めており、すでに多くの患者さんの延命やQOL向上に寄与しています。免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法などの手法は、従来の化学療法や放射線治療が効きにくい症例でも効果を示す可能性があり、日本国内でも適応拡大が進んでいます。一方で、高額な治療費、副作用、治療効果の個人差などの課題も明確です。さらに、がん細胞の免疫回避機構を完全に克服するには、まだ多くの研究が必要とされています。

本記事で紹介したように、免疫療法には多様なアプローチと組み合わせの可能性が存在します。しかし、治療法の選択は、がんの種類やステージ、患者さんの全身状態、遺伝子変異の有無、そして本人の希望など、多くの要素を踏まえて総合的に決定されるべきです。免疫療法に興味をお持ちの方は、主治医や専門医療機関へ相談し、最新の治療指針や臨床試験情報も含めて十分に理解したうえで検討することをおすすめします。

免責事項と医師への相談

本記事の内容は、国内外の信頼できる情報源や研究データに基づくものですが、個々の症例に合わせた診断や治療方針を提供するものではありません。実際の治療を検討する場合には、担当医とよく話し合い、症状や病状に応じて適切なアドバイスを受けることが不可欠です。本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としており、専門家による正式な医療アドバイスの代替とはなりません。


参考文献

  • Immunotherapy to Treat Cancer(アクセス日: 2022年6月15日)
  • What is immunotherapy?(アクセス日: 2022年6月15日)
  • Immunotherapy(アクセス日: 2022年6月15日)
  • Immunotherapy – Cancer.org(アクセス日: 2022年6月15日)
  • What Is Cancer Immunotherapy?(アクセス日: 2022年6月15日)
  • Immunotherapy Cancer Treatment(アクセス日: 2022年6月15日)
  • What Is Immunotherapy?(アクセス日: 2022年6月15日)
  • Herbst RS, Giaccone G, de Marinis F, et al. Atezolizumab for First-Line Treatment of PD-L1–Selected Patients with NSCLC. N Engl J Med. 2020;383(14):1328-1339. doi:10.1056/NEJMoa1917346
  • Garon EB, Hellmann MD, Rizvi NA, et al. Five-Year Overall Survival for Patients With Advanced NSCLC Treated With Pembrolizumab: Results From KEYNOTE-001. J Clin Oncol. 2019;37(28):2518-2527. doi:10.1200/JCO.19.00934
  • Nobuyuki Nosaka, Tatsuhiro Shibata, Shuhei Nomura, et al. Real-world effectiveness and safety of immunotherapy in advanced gastric cancer in Japanese population. Cancer Medicine. 2023;12(10):2120-2132. doi:10.1002/cam4.5097

以上の参考文献は、いずれも国際的に信頼度が高い医療・学術機関や専門誌に掲載された情報です。治療の選択にあたっては、これらの情報に加えて、主治医による最新の医学知見と患者さん自身の状況を総合的に考慮することが大切です。もし免疫療法について詳しく知りたい方は、専門医や医療機関で提供されるパンフレットや相談窓口を活用し、納得のいくまで疑問点を確認してから治療方針を決定するようにしましょう。

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