喉の痛み完全ガイド：原因の見分け方から正しい治し方まで（市販薬・病院・漢方）

危険なサイン：すぐに医療機関を受診すべき症状

ほとんどの喉の痛みは数日で改善しますが、中には緊急の対応を要する重篤な病気の兆候である場合があります。米国の著名な医療機関メイヨー・クリニックやクリーブランド・クリニックなどの専門機関は、以下の症状が一つでも見られる場合は、時間をおかずに医療機関を受診するよう強く推奨しています¹²³。自己判断で様子を見ることは危険を伴う可能性があります。

• 呼吸困難またはゼーゼーという喘鳴（ぜんめい）：気道が狭くなっている可能性があり、極めて危険な兆候です¹。
• 唾液さえも飲み込めないほどの激しい痛み、よだれが垂れる：喉の著しい腫れを示唆します¹。
• 高熱（38.5℃以上）が続く、または解熱剤が効かない：重度の感染症が疑われます²。
• 皮膚の発疹：A群レンサ球菌による猩紅熱（しょうこうねつ）の可能性があります⁴。
• 首や喉の著しい腫れ、口蓋垂（のどちんこ）の偏位：扁桃周囲膿瘍など、喉の奥に膿が溜まっている可能性があります³。
• 首が硬直し動かせない、または口が開きにくい（開口障害）：深頸部感染症など、より深刻な状態を示唆します³。

喉の痛みの主な原因は？ウイルス vs 細菌 vs その他

喉の痛みの原因を正しく理解することは、適切な治療法を選択するための第一歩です。原因は大きく分けてウイルス性、細菌性、そしてその他の要因に分類されます。

ウイルス性咽頭炎：最も一般的な原因

喉の痛みを引き起こす最も一般的な原因は、風邪（感冒）やインフルエンザなどを引き起こすウイルス感染です。米国感染症学会（IDSA）の指針によると、成人の咽頭炎の大部分はこのウイルス性であり、抗菌薬（抗生物質）は効果がありません⁵。治療は主に対症療法、つまり症状を和らげることが中心となります。ウイルス性咽頭炎の典型的な症状には、喉の痛みに加えて、咳、鼻水、鼻づまり、声のかすれ（嗄声）、口内炎などが伴うことが多いです⁵。これらの症状は通常、特別な治療をしなくても5〜7日以内に自然に改善に向かいます⁶。

細菌性咽頭炎：A群溶連菌（溶連菌）に要注意

細菌が原因となる喉の痛みの中で、最も重要かつ警戒が必要なのが「A群β溶血性レンサ球菌（Group A Streptococcus、略してGAS）」、通称「溶連菌」によるものです。ある研究報告によれば、溶連菌性咽頭炎は、成人の咽頭炎の約5〜15%、小児では約20〜30%を占めるとされています⁷。この感染症は、症状の緩和、他者への感染拡大の防止、そしてリウマチ熱（心臓弁膜症を引き起こす可能性がある）や急性糸球体腎炎といった深刻な合併症を予防するために、抗菌薬による適切な治療が不可欠です⁴。症状の特徴としては、突然発症する喉の激しい痛み、38℃以上の発熱、首のリンパ節の腫れと圧痛、扁桃腺の赤みや白い膿（白苔）の付着が挙げられ、咳を伴わないことが多いとされています⁴。また、口の天井部分（口蓋）に赤い点状の出血が見られたり（点状紅斑）、紙やすりのような手触りの発疹が全身に出たり（猩紅熱）することもあります⁸。

新型コロナウイルス（COVID-19）による喉の痛み

新型コロナウイルス感染症、特にオミクロン株以降の変異株においては、喉の痛みが初期の顕著な症状として報告されています。多くの経験者や医療機関からの報告によると、その痛みはしばしば「カミソリで切られるような」「ガラスの破片を飲み込むような」と表現されるほど非常に激しいことが特徴です⁹。この痛みは急速に発症し、発熱や咳といった他の症状よりも先に出現することもあります⁹。症状だけで他の原因と確実に見分けることは困難であり、確定診断のためには検査が必要です。

症状の早見比較表

どの原因によるものかを見分ける一助として、以下の比較表をご参照ください。ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、個人差があるため確定診断には医師の診察が必要です。

出典: 米国疾病予防管理センター(CDC)、IDSA、その他臨床情報⁷⁵⁴に基づくJHO編集部作成

その他の原因：乾燥、アレルギー、逆流性食道炎など

全ての喉の痛みが感染症によるわけではありません。クリーブランド・クリニックの情報によれば、以下のような要因も考えられます²。

• 空気の乾燥：特に冬場やエアコンの効いた室内、また睡眠中の口呼吸によって喉が乾燥し、痛みを引き起こします。
• アレルギー：花粉やハウスダストなどによるアレルギー性鼻炎では、鼻水が喉に流れる「後鼻漏（こうびろう）」によって喉が刺激され、痛むことがあります¹⁰。
• 胃食道逆流症（GERD）：胃酸が食道に逆流することで、喉に炎症が起こり、痛みや違和感の原因となります。
• 物理的な刺激：大声を出す、喫煙、大気汚染物質の吸入なども喉の粘膜を傷つけ、痛みを引き起こします。

喉が痛い時、何科を受診すべき？内科と耳鼻咽喉科の選び方

「喉が痛いけれど、どの病院へ行けばいいのかわからない」というのは、多くの人が抱える悩みです。日本の医療システムにおいて、内科と耳鼻咽喉科（耳鼻科）はそれぞれ異なる専門性を持っており、症状に応じて適切に選ぶことが重要です。

内科が適している場合

ある専門クリニックの解説によれば、内科は全身の状態を総合的に診る専門科です¹¹。したがって、喉の痛みに加えて、咳、鼻水、発熱、全身の倦怠感や筋肉痛など、体全体の症状（全身症状）を伴う場合に適しています。これは、症状が風邪やインフルエンザのような全身性の疾患の一部である可能性が高いためです。また、糖尿病や心臓病、喘息などの持病（基礎疾患）がある方や高齢者の方も、まずは内科で全身状態を含めた評価を受けることが推奨されます¹¹。

耳鼻咽喉科（耳鼻科）が適している場合

一方、耳鼻咽喉科は、その名の通り耳・鼻・喉（咽頭・喉頭）の専門家です。症状が主に喉に集中している場合に適しています。例えば、よし耳鼻咽喉科クリニックの情報によると、以下のようなケースでは耳鼻咽喉科の受診が望ましいとされています¹²。

• 喉の痛みが非常に強く、物を飲み込むのが困難な場合
• 声がかすれる症状が続く場合（喉頭鏡で声帯を直接観察する必要がある）
• 喉に何か詰まったような異物感がある場合
• 扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎など、専門的な処置が必要な重篤な病気が疑われる場合

耳鼻咽喉科医は、専用の器具（ファイバースコープなど）を用いて喉の奥を直接観察し、正確な診断やその場での処置を行うことができるという強みがあります¹³。

自宅でできる喉の痛みの対処法（セルフケア）

医療機関を受診するまでの間や、ウイルス性の軽い喉の痛みの場合、症状を和らげるために自宅でできる効果的な対処法が数多くあります。ここでは、科学的根拠に基づいた方法をご紹介します。

科学的根拠のある7つのセルフケア

1. 十分な休息と声の安静：体を休めることは、免疫力が感染と戦うのを助けます。また、大声を出したり長く話したりするのを避け、声帯を休ませることも重要です⁶。
2. こまめな水分補給：喉の粘膜を潤すことで、刺激を和らげ、回復を助けます。カフェインやアルコールは利尿作用があり脱水につながるため避け、水やお湯、ハーブティー、スープなどが推奨されます¹⁴。
3. 塩水でのうがい：古くから伝わる方法ですが、科学的な裏付けもあります。塩水には軽度の殺菌効果と、喉の腫れ（浮腫）を軽減する効果が期待できます。メイヨー・クリニックは、コップ一杯（約120〜240ml）のぬるま湯に小さじ1/4〜1/2杯（約1.5〜3g）の食塩を溶かしてうがいをすることを推奨しています⁶。
4. 室内の加湿：空気が乾燥すると喉の痛みが悪化します。加湿器を使用したり、濡れたタオルを部屋に干したりして、室内の湿度を50〜60%程度に保つことが有効です¹⁵。
5. 市販の鎮痛薬の利用：アセトアミノフェン（例：カロナール®）や、イブプロフェン、ロキソプロフェンといった非ステロイド性抗炎症薬（NSAIDs、例：ロキソニン®）は、喉の痛みや発熱を効果的に抑えます¹⁶。必ず用法・用量を守って使用してください。
6. トローチや硬い飴をなめる：唾液の分泌を促し、喉を潤す効果があります。ただし、小さな子供の場合は誤嚥の危険性があるため、4〜5歳未満には与えないようにしましょう¹⁰。
7. はちみつの利用：はちみつには抗菌作用と鎮静作用があり、喉の痛みや咳を和らげる効果が知られています。お湯やハーブティーに溶かして飲むのが良いでしょう。ただし、乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、1歳未満の乳児には絶対に与えないでください⁶。

喉に良い食べ物・飲み物と避けるべきもの

喉が痛いときは、食べ物選びも重要です。刺激が少なく、栄養価の高いものを選びましょう。

• 推奨される食べ物・飲み物：おかゆ、うどん、スープ、茶碗蒸し、ヨーグルト、プリン、ゼリー、バナナなど、柔らかく飲み込みやすいもの。はちみつを入れた温かいお茶も効果的です¹⁷。
• 避けるべき食べ物・飲み物：香辛料の多い辛いもの、オレンジやレモンのような酸味の強いもの、ポテトチップスやクラッカーのような硬くて喉を傷つける可能性のあるもの、アルコール、カフェイン飲料は刺激になったり脱水を招いたりするため避けるのが賢明です¹⁸。

病院での治療：処方薬と専門的治療

セルフケアで改善しない場合や、細菌感染が疑われる場合には、医療機関での専門的な治療が必要となります。

喉の痛みに使われる市販薬と処方薬

日本の医療機関では、症状に応じて様々な薬剤が使用されます¹²。

• 解熱鎮痛薬・抗炎症薬：痛みや発熱を抑えるために、アセトアミノフェン（カロナール®）や非ステロイド性抗炎症薬（ロキソニン®など）が処方されます。
• 抗炎症薬：喉の腫れや赤みを抑える目的で、トラネキサム酸（トランサミン®）が広く用いられています。
• 局所作用薬：殺菌成分や抗炎症成分を含むトローチ（うがい薬を固めたもの）や、喉に直接噴射するスプレー剤、ポビドンヨードやアズレンスルホン酸ナトリウムを含むうがい薬なども補助的に使用されます。
• 抗菌薬（抗生物質）：後述の通り、細菌感染が証明された場合にのみ使用されます。

溶連菌感染症の抗菌薬治療【日本の推奨】

溶連菌感染症と診断された場合、抗菌薬による治療が必須です。この治療は、日本の厚生労働省や専門学会の指針によって標準化されています。

• 第一選択薬：ペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリン（商品名：サワシリン®など）が、その有効性と安全性の高さから第一選択となります¹⁹。通常、10日間の服用が必要です。
• 服薬遵守の重要性：症状が改善しても、処方された抗菌薬は必ず最後まで飲み切ることが極めて重要です。途中でやめてしまうと、菌が完全に除去されずに再発したり、リウマチ熱などの重篤な合併症を引き起こしたりする危険性が高まります²⁰。
• 【重要】マクロライド系抗菌薬に関する注意喚起：亀田総合病院の感染症ガイドラインなど、日本の多くの専門機関は、クラリスロマイシン（クラリス®）やアジスロマイシン（ジスロマック®）といったマクロライド系抗菌薬を第一選択としないよう警告しています²¹。これは、日本国内で溶連菌のマクロライド耐性率が非常に高くなっており、効果が期待できないケースが多いためです。
• ペニシリンアレルギーの場合：ペニシリンに対してアレルギーがある患者さんには、米国感染症学会（IDSA）の指針では他の抗菌薬が推奨されていますが⁵、日本国内の耐性状況を考慮し、医師がクリンダマイシンやセフェム系抗菌薬などを慎重に選択します。

漢方薬によるアプローチ

日本では、西洋薬と並行して漢方薬が治療に用いられることも一般的です。漢方薬は個人の体質（証）に合わせて処方されます。喉の痛みに対しては、以下のような漢方薬が用いられることがあります¹⁷。

• 桔梗湯（ききょうとう）：喉の痛みや扁桃の腫れに使われる代表的な処方です。
• 銀翹散（ぎんぎょうさん）：風邪の初期で、喉の痛みが主症状の場合に用いられます。
• 小柴胡湯加桔梗石膏（しょうさいことうかききょうせっこう）：扁桃炎が長引く場合などに適しています。

漢方薬の使用を希望する場合は、医師や薬剤師に相談してください。

特殊なケース：子供と妊婦の喉の痛み

子供の喉の痛み：ケアと注意点

子供の喉の痛みへの対応は、大人とは異なる注意が必要です。キッズドクターなどの小児専門情報源は、以下の点を強調しています²²²³。

• ケアの基本：水分補給をこまめに行い、脱水を防ぐことが最も重要です。食事が摂れない場合は、ヨーグルト、アイスクリーム、すりおろしリンゴなど、喉越しの良いものを与えましょう。部屋の加湿も忘れずに行います。
• 薬の使用：解熱鎮痛薬は、子供用のもの（アセトアミノフェンやイブプロフェン）を、必ず体重に基づいた正しい用量で使用してください。ライ症候群のリスクがあるため、15歳未満の子供にアスピリンを使用してはいけません⁶。
• 受診の目安：水分が全く摂れない、呼吸が苦しそう、ぐったりしている、高熱が続くなどの場合は、すぐに小児科を受診してください。
• 溶連菌について：IDSAの指針によると、溶連菌感染症は3歳未満の乳幼児ではまれであり、合併症であるリウマチ熱のリスクも非常に低いため、この年齢層では必ずしも検査や抗菌薬治療が必要とされない場合があります⁵。

よくある質問

結論

喉の痛みは身近な症状であるからこそ、正しい知識を持つことが重要です。この記事で解説したように、ほとんどのケースはウイルス性でありセルフケアで対応可能ですが、中には迅速な医療介入が必要な「危険なサイン」も存在します。症状を注意深く観察し、ウイルス性か細菌性かの大まかな見当をつけ、必要であればためらわずに医療機関を受診してください。特に、日本の医療環境においては、症状に応じて内科と耳鼻咽喉科を適切に使い分ける知識が役立ちます。そして、もし溶連菌感染症と診断された場合は、自己判断で服薬を中断せず、必ず処方された抗菌薬を最後まで飲み切ること。これが、あなた自身と周囲の人々の健康を守るために最も大切なことです。本記事が、皆様の不安を和らげ、適切な行動をとるための一助となれば幸いです。