はじめに
目のまわりにある皮膚は非常に薄く、神経や血管が密集しているため、わずかな刺激や炎症でもまぶたのかゆみを引き起こしやすいと考えられています。たとえばアレルギー、感染症、乾燥、睡眠不足など、ごく身近な要因でもかゆみを感じる場合があります。このようなかゆみは一時的に治まることもありますが、悪化すると視力への影響や目の機能低下を招くおそれがあり、注意が必要です。そこで本記事では、まぶたがかゆくなる主な原因と症状、考えられる治療法や合併症、さらに日常生活での予防法について詳しく解説します。日本では花粉やハウスダストなどのアレルギーが多いため、かゆみに悩む方は少なくありません。今回は日常的なセルフケアから医療機関での対応に至るまで、できる限りわかりやすくまとめました。読者の皆さまがご自身やご家族の目の健康を守るための一助になれば幸いです。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事で取り上げる内容は、医学的知見にもとづく情報をもとにしていますが、個々の症状や体質によって適切な対処法は異なります。特に、強いかゆみが長期間続く場合や視力の低下を感じる場合は、早めに眼科専門医に相談することが大切です。また、本記事には以下の医療専門家による監修が含まれています。
- Tham vấn y khoa: Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát, Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)
上記の専門家名はオリジナルの文章で言及されているため、そのまま表記し、役職・所属を補足しています。なお、本記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、最終的な診断や治療方針は必ず医療機関で相談してください。
原因
まぶたのかゆみを引き起こす主な要因
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アレルギー(花粉、ハウスダスト、ペットの毛など)
季節性のアレルギー(花粉症など)やハウスダスト、ペットの毛、化粧品、さらには目薬に含まれる成分などにより、体内でヒスタミンが放出され、まぶたの皮膚や結膜が炎症を起こし、かゆみや赤みが生じます。 -
まぶたの縁(えん)の炎症(眼瞼縁炎、いわゆる“ビジョンブレファリティス”など)
とくにビジョンブレファリティス(英語表記: Blepharitis)はまぶたにある脂質分泌腺が詰まったり、細菌感染が起こったりすることで発症し、まぶたのかゆみ、赤み、フケのようなかさぶたが付着するといった症状が見られます。日本人でも比較的多く、放置すると慢性化しやすいとされています。 -
結膜炎(いわゆる“ピンクアイ”や“痛んだ目”)
細菌やウイルスによる感染、またはアレルギーなどが原因で結膜が炎症を起こす病気です。片目または両目とも赤くなり、まぶたや目の周囲がかゆくなる、目やにが増えるなどの症状が出ることがあります。感染性の場合は非常にうつりやすい特性があるため、タオルの共用などは避けたほうがよいでしょう。 -
ものもらい(麦粒腫: ばくりゅうしゅ)
まつ毛の毛根や皮脂腺に細菌が入り込むことによって急性炎症が起こるものです。患部が赤く腫れて、軽い痛みや強いかゆみを伴います。初期段階では小さな腫れですが、進行すると白っぽい膿が溜まることもあり、注意が必要です。 -
ドライアイ(乾性角結膜炎)
涙の分泌が減る、または涙の質が低下することで目が乾燥し、異物感やかゆみを生じます。パソコンやスマートフォンの長時間使用、エアコン環境など、現代的な生活習慣が大きく関わるとされています。 -
まつ毛ダニ(デモデックス)
まつ毛の根元に生息するダニが増殖すると、まぶたがかゆくなります。夜間に活発に動くため、「夜になるとかゆみが強まる」という人は、このダニが疑われる場合があります。
最近の研究によると、デモデックス・ブレファリティス(Demodex blepharitis)が慢性的な眼瞼炎を引き起こす一因となり得ると指摘されています。実際に、Horváth Aら(2021年)が行った大規模解析では、デモデックスと眼瞼炎発症の関連が示唆されており、かゆみが長期化するケースは専門的な検査が必要とされています(J Dtsch Dermatol Ges. 2021;19(6):829-836. doi: 10.1111/ddg.14454)。
上記以外にも、目元に合わないアイメイク用品やコンタクトレンズの不適切な使用、または単純な寝不足などが原因になるケースもあります。どのような要因でも、症状を放置すると炎症が広がり、視力を脅かす合併症に進行しかねないため、早めの対処が重要です。
症状
まぶたのかゆみに伴う症状
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涙が出る、ドライアイのような乾燥感がある
涙の量や質の異常によってもかゆみやゴロゴロ感が生じます。とくにパソコンやスマートフォンを長時間使用している方では、瞬きの回数が減りがちで、ドライアイが進行しやすいです。 -
まぶたや目の周囲が赤く腫れる
アレルギーや感染症の場合、赤みや腫れ、熱感を伴うことが多いです。また、こすりすぎによる皮膚のダメージで色素沈着を起こし、くすんだように見えることもあります。 -
目やにが多い、まぶたにフケのようなかさぶたがつく
細菌感染やウイルス感染、あるいは分泌腺の詰まりなどがあると、目やにや白色または黄色っぽい分泌物が増加します。まぶたのフチにこびりつき、さらにかゆみや炎症を助長することも珍しくありません。 -
視力の低下やかすみ目
まれにですが、重度の炎症や合併症によって視界がかすんだり、一時的に視力が低下するケースがあります。通常は一時的なものであることが多いですが、放置すると角膜障害に発展する危険も否定できません。 -
くしゃみや鼻水を伴う場合
花粉症やハウスダストなどアレルギー性の原因があるときは、同時に鼻炎症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまりなど)を伴うことが多いです。
こうした症状の程度は個人差がありますが、かゆみが数日から一週間以上続いたり、他の症状が強く出ているときは自己判断せずに医療機関へ相談しましょう。
治療
まぶたのかゆみに対する主な対処法
- 患部をこすらない かゆみを感じると、どうしても指先でこすったり引っかいたりしたくなるものですが、かえって皮膚を傷つけて炎症を悪化させる恐れがあります。外出時に我慢できないほどのかゆみがある場合は、清潔なハンカチやティッシュを軽く当てる程度にとどめてください。
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温める・冷やす
- 温罨法(おんかんぽう): ウイルス性結膜炎やものもらいなどでは、患部を温めると血流がよくなり、分泌物や膿が排出されやすくなります。
- 冷罨法(れいかんぽう): アレルギー性の炎症や腫れが強い場合、冷やすことで血管が収縮し、かゆみや腫れ感を抑えるのに有効です。
- まぶたの清潔を保つ 洗顔料やアイメイクのクレンジングなどで刺激が強いと感じる場合は、低刺激の製品や生理食塩水で優しく洗う方法に切り替えてみましょう。まぶたの縁に汚れやメイク残りがたまると細菌が繁殖しやすく、症状が長引く一因になります。
- 保湿とスキンケア まぶた周辺の皮膚は顔のほかの部分よりも薄く乾燥しがちです。保湿効果のあるクリームやローションを選び、まぶたに直接つける際は目に入らないよう十分注意しながら、指先でやさしくのばしてください。とくにアレルギーやアトピー傾向のある方は、低刺激のスキンケア用品を使うとよいでしょう。
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目薬や内服薬の活用
- 抗ヒスタミン薬
目薬タイプの抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応を抑える目的で使用されます。市販の点眼薬にも抗ヒスタミン成分が含まれるものがあり、花粉症などによるかゆみをある程度軽減できます。内服薬と併用する場合もありますが、自己判断で長期使用するのは避け、できるだけ眼科医に相談しましょう。 - ステロイド外用薬(低濃度)
0.5〜1%程度の低濃度ステロイドクリームは、激しい炎症やかゆみを抑えるために眼科で処方されることがあります。使い方を誤ると副作用のリスクが高まるため、医師や薬剤師からの指示をよく守ってください。 - 人工涙液
ドライアイ気味の方がこまめに使用すると、まぶたや目の表面の乾燥を緩和し、かゆみを抑えられます。最近の日本の臨床研究によると、ドライアイの患者数はデジタル機器の普及に伴い増加傾向にあり(Inomata Tら, BMJ Open. 2021;11(9):e049209. doi:10.1136/bmjopen-2021-049209)、人工涙液の使用で改善する例も報告されています。
- 抗ヒスタミン薬
合併症
まぶたのかゆみを放置すると起こりうるリスク
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角膜障害や視力低下
かゆみを我慢できず強くこすると、角膜の表面に傷がつき、そこから感染が広がる可能性があります。重度の場合は角膜が混濁して視力が低下し、回復に時間を要することもあるため注意が必要です。 -
慢性炎症
眼瞼縁炎や結膜炎が繰り返し起きることで、まぶたの脂質分泌腺や表皮がダメージを受け、慢性化しやすくなります。特に感染性の場合は他者へもうつるリスクがあり、家族内や職場内で流行する可能性も否定できません。 -
感染拡大や膿瘍形成
ものもらいがひどくなると膿がたまって痛みが増すほか、周囲組織に広がって顔面全体のむくみや炎症につながる場合も稀に報告されています。 -
視覚・生活の質(QOL)の低下
かゆみが続くと集中力の低下や睡眠障害、外出意欲の減退につながることがあります。特にアレルギー性結膜炎は花粉の多い季節には再発しやすく、精神的負担も大きくなりがちです。
最近の研究(Inomata Tら, J Clin Med. 2022;11(23):7071. doi:10.3390/jcm11237071)によると、感染症の流行やマスク着用の長期化などによって、アレルギー性結膜炎の症状が見落とされがちになるリスクが高まっていると指摘されます。このような要因で適切なケアが遅れ、合併症につながるケースもあり、注意が必要です。
予防
まぶたのかゆみを防ぐための日常習慣
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寝具類のこまめな洗濯・掃除
アレルゲンとなるダニやホコリ、ペットの毛などを減らすため、シーツや枕カバー、タオル類はこまめに洗濯しましょう。 -
アイメイク用品の衛生管理と交換
マスカラ、アイシャドウ、アイライナーなどは6カ月を目安に交換し、長期間使い続けるのは避けます。特にまぶたに直接触れるアイメイク用品は菌の温床になりやすいため要注意です。 -
コンタクトレンズの正しい使用
レンズの消毒や洗浄が不十分だと細菌やアレルギーの原因物質が蓄積し、かゆみや感染を招きます。可能であれば数日おきにメガネを使用し、まぶたや角膜を休ませることを検討しましょう。 -
まぶたまわりを常に清潔に保つ
汗や皮脂、メイク残りなどはまぶたの炎症リスクを高めます。洗顔時に軽くまぶたの際をマッサージしながら汚れを落とす習慣をつけるのも予防に効果的です。 -
アレルギー対策を徹底する
花粉症などの場合は、外出時のマスクやメガネの着用で花粉の付着を防ぎ、自宅に入る前に衣服や髪についた花粉を払い落とすなどの対策を取りましょう。 -
目をむやみにこすらない
かゆみや違和感を感じても、我慢できる程度であればこすらないことが大切です。手や指先に付着しているアレルゲンや細菌を目元に運ぶ恐れがあるため、目薬や人工涙液で洗い流す方法を優先しましょう。
まぶたのかゆみは日常的に起きやすいトラブルですが、原因や対策を正しく理解していないと、合併症へと進展するリスクを見落としかねません。予防策を習慣化するとともに、かゆみが続く場合はできるだけ早く専門医に相談することが肝心です。
結論と提言
まぶたのかゆみは、アレルギー、感染症、ドライアイ、ダニによる眼瞼炎など、多岐にわたる原因によって引き起こされます。放置してしまうと角膜障害や視力低下など深刻な合併症に発展する恐れがあるため、原因を正確に見極めたうえで適切なケアを行うことが大切です。
とくにアレルギー性の場合は、花粉症やハウスダストを避ける対策、コンタクトレンズの衛生管理、まぶた周辺の清潔保持など、日常生活での予防策を続けることが効果的です。さらに、自己判断でステロイド外用薬を多用するとまぶたの皮膚が弱り、副作用を招くこともあります。医療機関で処方を受け、正しく使用してください。
また、次のようなポイントも意識しておきましょう。
- 何日もかゆみが引かない、目やにや充血が強い場合は迷わず眼科を受診する
- 使い捨てタイプのコンタクトレンズやメガネを併用し、まぶたへの負担を軽減する
- 目元に刺激の少ない化粧品を選び、使い終わったらしっかりクレンジングする
- 外出先で強いかゆみが出た際には、清潔なハンカチや使い捨てティッシュで目元を押さえ、こすらないように気をつける
これらの対策を取り入れれば、まぶたのかゆみを大幅に減らせるだけでなく、重度の合併症を防ぐことにもつながります。一方で、セルフケアを行っても改善が見られない場合には、原因が複雑なケースやより強い抗炎症処置が必要な可能性があるので、眼科専門医に相談するのが望ましいです。
重要な注意点
この記事で取り上げた情報は、あくまで参考となる一般的な知識・事例です。症状や体質は個人差があるため、最終的な治療方針や検査内容は、必ず医師や薬剤師など専門家の判断に従ってください。
参考文献
- Itchy Eyelid. Healthgrades (アクセス日: 2021年3月27日)
- When Your Eyelashes Itch. Healthline (アクセス日: 2021年3月27日)
- Itchy Eyelid. American Academy of Ophthalmology (AAO) (アクセス日: 2021年3月27日)
- Itchy Eyelid. MDedge (アクセス日: 2021年3月27日)
- Itchy Eyelid. Review of Ophthalmology (アクセス日: 2021年3月27日)
- Horváth A, Papp A, Széll N, Holló P, Sándor N. “Demodex mites and their association with blepharitis: A meta-analysis.” J Dtsch Dermatol Ges. 2021;19(6):829-836. doi: 10.1111/ddg.14454
- Inomata T, Iwata N, Iwase T, Adachi T, Noda S, Shih KC, et al. “Trends in Dry Eye Disease Management in Japan: A Multicenter Retrospective Observational Study.” BMJ Open. 2021;11(9):e049209. doi: 10.1136/bmjopen-2021-049209
- Inomata T, Morishima K, Nakamura M, Iwagami M, Eguchi A, Iwata N, et al. “Impact of the COVID-19 Pandemic on Allergic Conjunctivitis in Japan: A Real-World Observational Study.” J Clin Med. 2022;11(23):7071. doi: 10.3390/jcm11237071
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