はじめに
まぶたの縁(まつ毛の根元付近)に赤く腫れ、痛みを伴う“できもの”が生じることがあります。一般的に「ものもらい」と呼ばれることも多いのですが、医学的には「麦粒腫(ばくりゅうし)」と呼び、まぶたの脂腺や毛根が細菌感染を起こして膿(うみ)がたまるために起こる症状です。日常生活の中で誰にでも起こりうるものであり、比較的軽度な病気ではあるものの、痛みや腫れのせいで不快感が強く、視界に支障をきたす場合もあるため、適切な対応とケアが大切です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、麦粒腫の基礎知識、主な症状、原因、診断方法、治療法や予防策などを総合的に解説します。特に、まぶたが腫れて痛む場合にどのように対処すればよいか、ケアのポイントは何か、目を清潔に保つためにどのような習慣が大切かといった点について詳しく紹介します。
専門家への相談
本記事では、目の症状に関する一般的な情報をまとめていますが、医療機関を受診して専門医に相談することが最も重要です。特に、以下のような状況に該当する場合は早めの受診が推奨されます。
- 腫れや痛みが長引いて治らない
- 熱が出る、あるいは頬や顔面まで大きく腫れてきた
- 視力に影響が出てきた
- 目の周囲に強い赤みが広がっている
- 家庭でのケアを行っても改善が見られない
なお、本記事内に登場する専門家名としては、TS. Dược khoa Trương Anh Thư(薬学博士)による医学的見解が一部参考として示されています。
以下、麦粒腫(ものもらい)を中心に、症状の特徴や治療法、再発予防のポイントなどを詳しく解説していきます。
麦粒腫(ものもらい)とは
麦粒腫の定義と特徴
麦粒腫(ばくりゅうし)は、まぶたの縁にある皮脂腺やまつ毛の毛包に細菌が感染し、膿がたまって腫れる疾患です。日本では「ものもらい」と呼ばれることもありますが、医学的には「外麦粒腫」と「内麦粒腫」に分類されます。
- 外麦粒腫
まつ毛の毛根や付随する皮脂腺(Zeiss腺)などが細菌感染を起こして炎症を生じるタイプ。まぶたの縁の外側が赤く腫れ、中心部に黄色い膿点がみられやすいのが特徴です。 - 内麦粒腫
まぶたの裏側にあるマイボーム腺(Meibomius腺)が感染し、内側に腫れや痛みを生じるタイプ。外見上は目立ちにくい場合もありますが、腫れが大きくなるとまぶたの内側に触れるような強い違和感をともなうことがあります。
また、ひとつのまぶたに複数の麦粒腫が同時にできる「多発性麦粒腫」のケースもあり、より大きく腫れる、あるいは長引く場合があります。
多くの場合は、自然経過で数日~1週間程度で改善に向かいます。しかし、痛みが強かったり、膿のたまった部分が大きくなったり、何度も再発するような場合には医療機関での診察が望ましいです。
主な症状
麦粒腫の典型的な症状
- まぶたの部分的な赤み・腫れ
まつ毛の根元付近が特に赤くなることが多く、ときに全体的にまぶたが腫れる場合もあります。 - 痛み・圧痛
触れると痛い、押すとズキズキするなど、圧痛を伴うケースが多いです。痛みの程度には個人差がありますが、多くの場合「チクチクする」「重い感じがする」などの表現がされます。 - 目のゴロゴロ感や違和感
特に内麦粒腫の場合、まぶたの裏側に腫れがあるため、瞬きをするたびにゴロゴロした異物感を覚えることがあります。 - 涙目(流涙)やまぶたのかゆみ
刺激を受けやすくなるため、光に対する過敏(羞明)や涙が出やすくなることもあります。 - 膿の形成
中心部に黄色い膿がみられたり、押すと分泌物が出たりする場合があります。膿が外へ排出されると腫れは軽減しやすい傾向があります。
その他の症状に注意すべき場合
通常の麦粒腫であれば、上記のような症状で数日から1週間ほどで落ち着くことが多いですが、以下のような症状があるときは重症化やほかの疾患の合併を疑う必要があります。
- 発熱を伴う
細菌感染が広範囲に及んでいる可能性があり、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などのリスクを考慮する必要があります。 - 視野の著しい障害
まぶたの腫れが極端に大きくなっている、あるいは別の眼疾患が併発している可能性があります。 - まぶた全体や頬、顔面が大きく腫れてきた
感染が眼窩周囲まで拡大している懸念があり、早急な治療が重要となります。 - 長期間治らない、または頻繁に再発する
体質的な要因や既存の眼疾患、まぶたの衛生状態などが影響している場合があるため、根本的な原因を探る必要があります。
こうした症状がある場合は、できるだけ早く専門医による診察を受けてください。
原因
細菌感染が主な原因
多くの麦粒腫の原因は、細菌(とくに黄色ブドウ球菌)による感染とされています。まつ毛の毛根や脂腺、Meibomius腺などが詰まったり傷ついたりしたところに細菌が侵入し、炎症を引き起こすのです。
- まつ毛の根元を清潔に保っていない
アイメイクを落とし切れていない、目をこする習慣がある、まつ毛周辺を頻繁に触るなどの行為が原因となりえます。 - コンタクトレンズの着脱時の不衛生
レンズを装着する際、手指やレンズ自体が清潔に保たれていないと、細菌の感染が起こりやすくなります。 - アイメイクの連用、落とし忘れ
古いアイシャドウやマスカラ、アイラインを長期にわたって使い続けていると、菌が繁殖しやすくなります。 - 不適切なアイケア
まぶたのふちや睫毛周囲の洗浄が十分でないと、脂腺がつまりやすくなり、感染リスクが高まる場合があります。
麦粒腫は感染力があるのか?
一般的に、麦粒腫自体が直接的に他人へ“うつる”というよりも、細菌が付着したタオルやまくらカバーを介して、周囲の人が目をこすることで感染する可能性はあります。そのため、家族や周囲の人への感染を予防するには、以下の点に留意することが大切です。
- タオルやアイメイク用品を共用しない
- 就寝時の枕カバーやシーツを定期的に交換する
- こまめに手洗いを徹底する
また、 自分の目から別の目へと感染が広がる 可能性も否定はできません。片目に麦粒腫がある場合は、別の目を触る前に必ず手を清潔にするなど、基本的な衛生管理が重要となります。
リスクファクター
- アイメイクの長時間使用
マスカラやアイシャドウ、アイラインなどを長時間落とさないままでいると、脂腺や毛根部分に汚れがたまりやすくなります。 - コンタクトレンズ使用者
レンズの付け外し時に手指を清潔に保たない場合や、レンズ自体を正しく消毒していない場合、細菌感染のリスクが高まります。 - 慢性的な眼瞼縁の炎症(例えば睫毛炎など)
一度炎症が起きているまぶたは、細菌に対する抵抗力が下がることがあります。 - 不規則な生活習慣や免疫力低下
十分な睡眠が取れていない、栄養バランスが崩れている、ストレス過多などにより免疫力が下がると、麦粒腫ができやすくなる場合があります。
診断と治療
診断の流れ
麦粒腫の診断は、医師(眼科専門医)が目視検査や触診などを通じて行います。特に次の点を中心にチェックします。
- まぶたの赤みや腫れの範囲
- 膿が形成されているか
- 他の眼疾患(結膜炎、角膜炎など)を合併していないか
- 再発率・過去の病歴
通常は視診と問診のみで判断できる場合がほとんどであり、さらに詳しい精密検査が必要になるケースはまれです。
治療法
自宅で行えるケア
- 温罨法(おんかんぽう)
一般的かつ効果的な方法として、温めたタオルや清潔なガーゼをまぶたに当てる(10~15分程度、1日数回)というケアが挙げられます。温熱効果によってまぶたの血行が良くなり、皮脂腺の詰まりが緩和しやすくなります。その結果、膿がたまりにくくなり、痛みの軽減も期待できます。 - 清潔な状態を保つ
目の周り、特にまつ毛の根元部分を清潔に保つことが重要です。洗顔の際にアイメイクをきちんと落とし、タオルもこまめに交換しましょう。また、コンタクトレンズの使用者は、使い捨てタイプであっても必ず手指を洗浄してから着脱し、定期的にレンズケースの消毒も行います。 - 自然排膿に任せる
麦粒腫は自然に膿が外へ排出されることで治癒に向かうことが多いです。無理に絞ったりこじ開けたりすると、感染を広げてしまうリスクがありますので注意してください。
医療機関での治療
- 抗生物質(抗菌薬)の点眼または軟膏
細菌感染を抑えるために、抗生物質の目薬や眼軟膏を処方されることが一般的です。症状が進行している場合は内服薬を処方されることもあります。 - 切開して膿を出す処置
どうしても膿がたまっていてなかなか改善しない場合や、痛みが著しく日常生活に支障が出ている場合は、眼科医が局所麻酔下で切開し、膿を排出する方法がとられることもあります。処置自体は短時間で済むことが多く、その後の経過観察や点眼治療を行います。 - 再発を繰り返す場合の検査
頻繁に再発を繰り返す場合には、まぶたの構造的異常や慢性的な炎症の有無、糖尿病などの全身疾患の影響なども考慮し、追加検査が行われることがあります。
参考:感染が広がった場合のリスク
麦粒腫は基本的に軽症で終わることが多いですが、非常にまれに感染がまぶたから眼窩周囲の組織へ広がり、「眼窩蜂窩織炎」のような重症化を起こすリスクも否定できません。顔面の腫れが急速に拡大する、目の奥が痛む、視力低下が急にみられるといった異常があれば、速やかに医療機関を受診してください。
麦粒腫の予防策
日常生活での工夫
- まぶたや手の衛生管理
最も重要なのは、まぶたや手指を清潔に保つことです。外出先から帰宅したら必ず手を洗う、顔を洗うときはまぶたの縁まで優しく洗う習慣をつけましょう。 - アイメイクの使い方に注意
アイライナーやマスカラは直接まつ毛やまぶたに接触するため、細菌が繁殖しやすくなります。- 化粧品は開封後の使用期限を守る
- アイメイクをしたまま就寝しない
- 疑わしいときは新しい製品に切り替える
- コンタクトレンズの正しい管理
コンタクトレンズを扱う際は手指を清潔にし、ケア用品(消毒液・ケースなど)を正しく使用することが大切です。使い捨てタイプは指定の期間を厳守すること、長時間の装用は避けることなども予防に役立ちます。 - 免疫力を高める生活習慣
睡眠不足やストレス、栄養バランスの乱れは免疫力の低下につながり、感染症にかかりやすくなります。十分な休養、栄養バランスの良い食事、適度な運動などで免疫力を維持することが、麦粒腫の再発防止にもつながります。
食事面でのアドバイス
- 刺激物を控える
香辛料やアルコール、ニラやネギなどの刺激が強い食材を大量に摂取すると、一部では血行を促しすぎて炎症を増幅させる可能性があると考えられています。極端に制限する必要はありませんが、症状が出ている時期は控えめにすると良いでしょう。 - 抗酸化作用を意識する
ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなど、抗酸化作用がある栄養をバランスよく摂ることで、体の抵抗力を高めることが期待できます。野菜や果物を中心に、色とりどりの食材を取り入れるのがおすすめです。
よくある疑問と注意点
Q: 麦粒腫は必ず病院に行かなければならないのか?
軽度の麦粒腫で、痛みや腫れがそれほどひどくない場合は、温罨法や自宅でのケアを数日続けるだけで改善することが多いです。ただし、2~3日経ってもまったく良くならない、あるいは痛みがひどくなってきたといったときは、医師の診察を受けてください。
Q: 麦粒腫が自然に破れて膿が出てきたらどうすればいい?
自然に排膿されるのは治癒の過程でよくあることです。清潔なガーゼやティッシュでそっと拭き取り、その後は清潔を保ちましょう。むやみに触らず、抗菌作用のある目薬や軟膏が処方されている場合は用法・用量を守って使用してください。
Q: まぶたをこすったり、無理やり膿を出したりしても大丈夫?
無理に絞り出す行為は、感染が広がる原因になることがあり危険です。痛みや違和感が強い場合は、自己判断で処置せず、眼科専門医に相談するようにしましょう。
Q: 片目に麦粒腫ができたら、もう片方にもすぐにうつるのか?
直接的に「うつる」というよりは、手指を介して細菌が反対の目に移動してしまう可能性はあります。したがって、片目に麦粒腫があるときは、反対の目を触る前にしっかりと手洗いを行うなど衛生に気を配ることが大切です。
再発防止のポイント
麦粒腫は一度治っても、体質や生活習慣によっては再発しやすい場合があります。再発を防ぐには次の点を意識してください。
- まぶた周辺の定期的な洗浄
洗顔時、まつ毛の生え際を優しく洗うようにしましょう。アイメイクをする人は特に、アイラインやマスカラをしっかり落とすことが重要です。 - アイメイク用品の交換時期を守る
マスカラやアイライナーを長期間使っていると細菌が繁殖しやすくなります。一般的には3か月程度を目安に交換すると良いと言われています。 - コンタクトレンズの正しい使用法を徹底
連続装用を避け、指定された使用期間を守り、レンズやケースを清潔に保つこと。装用時間が長くなるほどまぶたに負担を与えやすくなります。 - 免疫力を下げない生活習慣
睡眠不足や偏った食事は免疫力を低下させる原因となるため、バランスの取れた食事と十分な休養を心がけましょう。 - 眼科検診を定期的に受ける
まぶたの炎症やドライアイの有無などを総合的にチェックし、必要に応じて早めに対策を行うことができます。
結論と提言
麦粒腫(ものもらい)はまぶたに生じる細菌感染による炎症ですが、多くのケースでは数日から1週間程度のセルフケアで自然に改善しやすいとされています。温かいタオルによる温罨法やアイメイクの適切な管理、コンタクトレンズの正しい使い方など、基本的なセルフケアを行うだけで症状がかなり緩和される例が多いです。しかし、痛みや腫れが強く日常生活に支障が出る場合や、膿がたまりすぎて自然に排出されない場合、または頻繁に再発する場合は早めに眼科を受診することが大切です。
再発予防には、まぶた周辺の清潔保持、アイメイク用品の衛生管理、コンタクトレンズのケアなど、日常の習慣が大きく影響します。また、食生活や睡眠などによる免疫力維持も重要です。これらを総合的に行うことで、麦粒腫のリスクを大幅に減らすことが期待できます。
最後に、本記事の内容はあくまで参考情報であり、医療行為や診断を代行するものではありません。実際に不調や疑問がある場合は、必ず専門医や薬剤師など医療従事者に相談してください。とくに、子どもや高齢者など免疫力が低下しがちな方、糖尿病やほかの持病を抱えている方などは、重症化しやすい可能性もあるため注意が必要です。
参考文献
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免責事項
本記事で取り上げた内容は、あくまで一般的な参考情報です。医学的な診断や治療方針の決定は、医師や薬剤師など適切な資格を持つ専門家への相談が不可欠です。症状の程度や個人差により対応が異なるため、自己判断での治療は避け、疑問や不安があれば早めに医療機関を受診してください。