よく処方される抗うつ薬の種類とは?
精神・心理疾患

よく処方される抗うつ薬の種類とは?

はじめに

うつ病の治療では、カウンセリングなどの心理療法をはじめ、症状や背景に応じて複数の選択肢が検討されます。その中でも、医師による処方薬として広く用いられているのが抗うつ薬です。近年はさまざまな種類の抗うつ薬が開発・使用され、特に中程度から重度のうつ病において重要な役割を果たしています。抗うつ薬は主として脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)のバランスを調整することによって、落ち込みや不安、意欲低下などの症状を緩和します。一方で、こうした薬には副作用や相互作用、使用時の注意点があるため、正しい知識と専門家の指導のもとで服用することが大切です。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、代表的な抗うつ薬の種類、それぞれの特徴、服用期間や量、副作用、そして日常での注意点について詳しく解説します。抗うつ薬は患者さん一人ひとりの症状や生活背景に合わせて処方されるため、個人差が大きいのも特徴です。したがって、本記事でご紹介する情報はあくまで参考であり、実際に服用する場合は必ず医師の指示に従うようにしてください。この記事の情報を通じて、ご自身や大切な方がうつ病の治療を進めるうえでの不安を和らげ、より適切なサポートにつながれば幸いです。

専門家への相談

本記事では、うつ病治療や抗うつ薬に関する知見を深めるために、実際の臨床現場で使われている情報を幅広く参考にしています。また、薬の効果や副作用に関する解説については、Thạc sĩ Dược học Nguyen Thi Huong(大学院修了・薬学分野での専門知識を有する実務家)による知見を参照し、その専門的視点もふまえて編集しています。ただし、服用に際しては必ず主治医や専門家に相談し、それぞれの状況に応じた判断を仰ぐことが不可欠です。

1. 抗うつ薬とは何か

抗うつ薬とは、うつ病や強迫性障害(OCD)、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの治療に用いられる処方薬です。主に脳内の神経伝達物質であるセロトニンノルアドレナリンドーパミンなどの濃度を変化させることで、気分や意欲、情動面を安定させます。

うつ病には多様な症状が存在し、原因や重症度も人によって異なります。軽症の場合、心理療法(カウンセリングや認知行動療法など)で対処し、状態が改善するケースも珍しくありません。しかし、中程度から重度のうつ病になると抗うつ薬の服用が検討されることが多く、複数の研究でも薬物療法による症状改善の有用性が示されています。特に、近年では抗うつ薬の種類や副作用の特徴が詳細に研究され、患者一人ひとりに合わせたきめ細かい治療が行われるようになっています。

なお、抗うつ薬はうつ病以外の慢性疼痛や不安症などの治療にも用いられることがあります。処方理由や使用期間は患者の病態や主治医の判断により決定されるため、実際に服用を始める際には詳しい説明を受けるようにしてください。

2. 主な抗うつ薬の種類

抗うつ薬は作用機序や効果によって大きく分類されます。以下では代表的な種類と特徴を順に解説します。

2.1 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

うつ病患者の多くは脳内のセロトニン濃度が低下していると考えられています。SSRIは、このセロトニンがシナプス間隙から神経細胞に再取り込みされるのを抑制し、脳内のセロトニン濃度を高めます。代表的な薬剤には、シタロプラム、エスシタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリンなどが挙げられます。初期には不安や焦燥感が高まることが報告されるケースもありますが、一般的には副作用が比較的少なく、現在はうつ病治療の第一選択となることが多い薬です。

なお、2022年に発表されたあるメタ分析(国際的に査読を受けた学術誌で公表された論文群を統合し、その効果を比較検討する研究)では、SSRIが中程度から重度のうつ病に対してプラセボより有意に症状を改善させる結果が報告されています。日本国内でもSSRIは多くの臨床現場で使用されており、処方例が増えています。

2.2 セロトニン調整薬(5-HT2遮断薬)

セロトニン受容体(5-HT受容体)のサブタイプに働きかける薬として、トラゾドンやミルタザピンなどが知られています。これらはセロトニンやノルアドレナリンの分泌を高めるだけでなく、特定の受容体を遮断することで抗不安効果や睡眠改善効果をもたらすことがあります。性機能障害の副作用が比較的少ない点も特徴です。そのため、不眠や不安症状が顕著なうつ病患者に対して処方されることがあります。

2.3 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

SSRIがセロトニンの再取り込みのみを阻害するのに対し、SNRIはセロトニンだけでなくノルアドレナリンの再取り込みも阻害します。代表的な薬剤にはデュロキセチンやベンラファキシンなどがあります。セロトニンとノルアドレナリンの両面から気分を安定化させる効果が期待できますが、現時点ではSSRIと明確な有効性の差が示されているわけではありません。また、人によっては血圧上昇や消化器症状などの副作用が出る可能性があります。

2.4 ノルアドレナリン・ドーパミン再取り込み阻害薬(NDRI)

ノルアドレナリンとドーパミンの再取り込みを阻害することで、意欲や活動性の低下を改善する作用を狙う薬剤群です。代表例としてブプロピオンが挙げられ、海外では重度のうつ病や、ほかの抗うつ薬で効果が得られなかった患者に対して処方される場合があります。日本での使用例は比較的少ないとされていますが、一部では処方され始めているケースもあります。

2.5 三環系抗うつ薬

かつては抗うつ薬の主流でしたが、副作用の多さから近年は第一選択される機会が減っています。アミトリプチリンやイミプラミンなどが代表的で、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用を持ちます。ただし、抗コリン作用(口渇、便秘、排尿困難など)や鎮静作用が強く、注意深い投与管理が必要です。ほかの薬が効果を示さなかった場合や特定の症状を持つ患者に限り、慎重に使われることがあります。

2.6 モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOIs)

トラニルシプロミンやフェネルジンなどが挙げられ、従来からある抗うつ薬の一種です。強い作用を持つ反面、食品やほかの薬剤との相互作用が著しく、誤った組み合わせによっては致命的な反応を引き起こすリスクがあります。例えば、チラミンを多く含むチーズやワインなどと併用すると血圧が危険なほど急上昇するおそれがあります。そのため、今では他の抗うつ薬で十分な効果が得られなかった場合に限定的に使用されることが多く、服用中の食事制限や薬剤管理が非常に重要です。

2.7 メラトニン受容体作用薬(メラトナージック抗うつ薬)

アゴメラチンに代表されるこのグループは、メラトニン受容体を刺激しつつ5-HT2C受容体を拮抗することでリズムを調整し、うつ症状を改善します。他の抗うつ薬に比べ、副作用が比較的少ないといわれていますが、まれに肝機能異常が生じるリスクが指摘されているため、定期的な肝機能検査が必要となる場合があります。

2.8 ケタミン類似薬

近年、注目を集めているのがケタミンの構造類似薬であるエスケタミンです。グルタミン酸系を介する新しい作用機序を持つとされ、これまでの抗うつ薬で効果が得られなかった「治療抵抗性うつ病」に対して有用な可能性が期待されています。通常の抗うつ薬が脳内のモノアミン(セロトニンやノルアドレナリンなど)を増やす働きを目指すのに対し、エスケタミンはグルタミン酸を増やすことでより迅速な効果をもたらすと考えられています。

ここ数年では、2021年にThe New England Journal of Medicineで報告されたエスケタミンに関する研究(Zarate, C. A. Jr. “Esketamine for Treatment-Resistant Depression.” NEJM, 384(7):666-668, doi:10.1056/NEJMe2034308)においても、治療抵抗性うつ病患者に対する有望な選択肢になる可能性が示唆されています。ただし、乱用リスクや長期的な安全性については慎重な監視が必要とされ、日本での普及や保険適用の状況も日々変わっているため、最新の情報に基づいて治療方針を検討することが望まれます。

2.9 非定型抗うつ薬

ボルチオキセチン、ビラゾドン、ブプロピオンなどは作用機序が複合的で、既存の分類に完全には当てはまらない「非定型抗うつ薬」に位置づけられることがあります。これらの薬剤は比較的新しく、患者によっては鎮静効果や睡眠改善効果が高いものもあり、逆に興奮や消化器症状を起こすこともあるため、用量調整や経過観察が重要になります。気分が大きく上向きに傾きすぎて躁状態が現れる(双極性障害の誘発)リスクがある点も念頭に置かなければなりません。

3. 服用量と治療期間

抗うつ薬は経口剤が一般的で、医師の判断により「この患者にとって必要な用量・種類」が決められます。効果が十分に現れるまでに通常1~2週間程度はかかることが多いとされ、焦って服用を中断してしまうと十分な効果が得られないリスクがあります。さらに、副作用と思われる症状が最初のうちは出やすいことがあり、これを理由に断念してしまう患者さんもいるのですが、ほとんどの場合は時間経過とともに軽減していく傾向があります。

一般にうつ病の治療では少なくとも6カ月間程度は服薬を続けることが推奨されます。再発や症状のぶり返しを予防するためには、状態が安定した後も一定期間、用量を維持する必要があります。特に再発のリスクが高いうつ病患者では、医師の判断で長期的に服用を続ける場合もあります。「うつ病が良くなったからすぐに薬をやめる」という自己判断は極めて危険で、離脱症状や再燃を招きかねないので注意が必要です。

4. 抗うつ薬の副作用

抗うつ薬の副作用は薬の種類ごとに異なります。たとえば、SSRIでは初期に不安感や吐き気、食欲不振などが出現しやすいとされます。三環系抗うつ薬では口渇や便秘などの抗コリン作用が目立ち、MAOIsでは特定の食品や薬と相互作用が起きやすく、血圧上昇など重篤な反応が起こるリスクがあります。

また、25歳未満の若年者が抗うつ薬を服用した場合、まれに自殺念慮や自傷行為が強まる可能性が指摘されています。そのため、若い世代に抗うつ薬が処方される際は、医師による厳重なモニタリングが不可欠です。

さらに、エスケタミンなどの新しい薬剤では乱用のリスクや長期使用時の安全性について十分なデータが揃っていない部分があるため、各国の保健当局や学会は注意深い経過観察を呼びかけています。日本でも使用指針が整備されつつありますが、適切な診断と専門的管理が非常に重要です。

5. 抗うつ薬をより効果的に使うためのポイント

5.1 根気よく服用を続ける

抗うつ薬による症状改善は、早い人では数週間で効果を実感できることもありますが、個人差があり、効果がはっきり出るまで1カ月以上かかる場合もあります。途中で「効いていない」と自己判断して服薬を止めてしまうと、再発・悪化リスクが高まります。副作用に関しても、多くは時間経過とともに軽減する傾向があるため、少しでも違和感を覚えたら自己判断でやめるのではなく、まずは主治医に相談しましょう。

5.2 副作用の経過を観察・報告する

吐き気や頭痛、眠気、めまいなど、多くの抗うつ薬が副作用として挙げられます。通常は軽度で、服用開始から数日~数週間で治まるケースが大半です。しかし、日常生活に支障をきたす程度の強い症状が出たり、長期間続いたりする場合には、医師に早めに相談してください。医師は状況に応じて薬の切り替えや用量調整を行ってくれます。

5.3 心理療法との併用を検討する

抗うつ薬は、脳内環境を改善し、気分の落ち込みや不安などを緩和してくれますが、根本的な考え方の偏りやストレスの対処法などは心理療法やカウンセリングなどで補う必要があります。2023年に発表された世界保健機関(WHO)の報告によると、うつ病の再発リスクを抑制するうえで、薬物療法と心理療法を併用することが多くの患者に有用だと示唆されています。日本においても、認知行動療法などを組み合わせることで再発防止効果が高まるとされており、患者さん自身の病状理解や自律訓練の支援が期待できます。

5.4 アルコールやその他の嗜好品との併用を避ける

アルコールや一部の違法薬物、過度なカフェイン摂取などは、抗うつ薬の効果を妨げたり副作用を強めたりする可能性があります。短期的に気分が晴れるように感じても、長期的には悪化リスクが高まるため注意が必要です。特にMAOIsでは相互作用のリスクが非常に大きいので、食事制限や飲酒制限などを必ず医師からの指導どおりに守りましょう。

5.5 周囲のサポートと情報共有

うつ病は患者本人だけでなく、家族や周囲のサポートが必要不可欠な病気です。特に抗うつ薬を服用している場合、副作用や症状の変化を家族や友人がいち早く気づき、医師に情報提供することが安全につながります。職場や学校でも、必要に応じて理解を得るためのコミュニケーションを図るとよいでしょう。

まとめと今後の展望

抗うつ薬は、うつ病をはじめとする精神疾患に対して重要な役割を担う医薬品です。さまざまな作用機序と副作用の特徴を理解し、自分の病状や生活スタイルに合った薬を選択することが大切です。初期段階での副作用や効果の実感の遅れに惑わされず、医師の指示を守って継続服用することで、多くの患者さんが症状の改善を実感できるとされています。

一方で、抗うつ薬だけですべてが解決するわけではなく、心理療法や生活リズムの調整、周囲からのサポートなど、多面的なアプローチが必要です。特に再発を繰り返すうつ病では、長期的な服薬管理のほか、睡眠や食事、対人関係のストレス緩和に重点を置くことも求められます。また、新しい薬剤や治療法(ケタミン関連薬など)は今後さらに研究が進む見込みで、治療選択肢の幅が広がることが期待されます。

本記事は医療・健康情報の提供を目的としており、専門家による診断・治療の代替とはなりません。必ず担当の医師や薬剤師などの専門家に相談のうえで、治療方針を決定してください。

参考文献

  • Overview – Antidepressants (アクセス日:2025年1月9日)
  • Antidepressants: Selecting one that’s right for you (アクセス日:2025年1月9日)
  • Depression Medicines (アクセス日:2025年1月9日)
  • Antidepressants (アクセス日:2025年1月9日)
  • Antidepressants (アクセス日:2025年1月9日)
  • World Health Organization. (2023). Depression. (アクセス日:2025年1月9日)
  • NICE Guideline [NG222]. (2022). Depression in adults: treatment and management. (アクセス日:2025年1月9日)
  • Zarate, C. A. Jr. (2021). Esketamine for Treatment-Resistant Depression. The New England Journal of Medicine, 384(7): 666-668. doi:10.1056/NEJMe2034308

最後に

うつ病は誰にでも起こりうる身近な疾患ですが、近年の医療の進歩により、薬物治療を含む多角的なアプローチが充実してきました。抗うつ薬は正しく使えば、症状の改善や再発予防に大きく貢献します。しかし、副作用や個々の病状に合わせた調整は欠かせません。専門家による継続的なサポートを受けつつ、生活リズムや心理的ケアも組み合わせた総合的な対策をとることが、回復や安定へ向けた大切なステップです。いずれにせよ、不安がある場合は自己判断で対処せず、早めに主治医や信頼できる医療機関へ相談しましょう。

本記事はあくまで参考情報を提供するものであり、医療専門家の診断や指導に置き換わるものではありません。うつ病の治療については必ず専門家にご相談ください。

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