アトピー性皮膚炎と食事の科学:最新ガイドラインと研究に基づく完全解説
皮膚科疾患

アトピー性皮膚炎と食事の科学:最新ガイドラインと研究に基づく完全解説

JHO編集委員会より:アトピー性皮膚炎(AD)の症状に悩む多くの患者様やそのご家族にとって、「食事」は最も関心の高いテーマの一つです。「何を食べれば良いのか、何を食べなければ良いのか」という問いは、日々の生活に直結する切実な問題です。しかし、インターネット上には科学的根拠の乏しい情報や個人の体験談が溢れており、何が真実かを見極めるのは困難を極めます。本稿は、日本皮膚科学会や日本アレルギー学会が発行する最新の診療ガイドライン、国内外の質の高い学術研究、そして専門医の見解を統合し、アトピー性皮膚炎と食事の関係について、現時点で最も信頼できる包括的な情報を提供することを目的とします。単に「避けるべき食材リスト」を提示するのではなく、なぜそう言えるのか、あるいはそうとは言えないのか、その科学的根拠を深く掘り下げて解説します。この記事を通じて、皆様がご自身の(あるいはご家族の)状態を正しく理解し、不確かな情報に惑わされることなく、医師と協力しながら最適な治療と生活管理を行うための一助となることを心より願っております。

この記事の要点まとめ

  • アトピー性皮膚炎は「食事の病気」ではなく、皮膚のバリア機能の異常が本質の「皮膚の病気」です。治療の基本は、まずスキンケアと外用薬で皮膚の状態を改善することです。13
  • 食事は「原因」ではなく、食物アレルギーを合併する乳幼児などで症状を悪化させる「悪化因子」の一つです。診断なくして自己判断で食事制限を行うことは、栄養障害や新たなアレルギー発症のリスクがあり危険です。26
  • 食物アレルギーの診断は、血液検査だけでは不十分です。医師の管理下で行う「食物経口負荷試験(OFC)」が最も確実な診断方法です。10
  • アレルギー予防の最新の考え方は、湿疹のある皮膚からのアレルゲン侵入(経皮感作)を防ぎ、むしろ離乳食期にアレルゲンとなりうる食品(例:鶏卵)を早期に開始すること(経口免疫寛容)が推奨されています。216
  • アレルギーとは別に、ヒスタミンを多く含む食品や脂質のバランス(オメガ3とオメガ6)が痒みや炎症に影響を与える可能性があります。伝統的な和食のようなバランスの取れた食事が推奨されます。1925
  • 最終的には、専門医とのパートナーシップのもと、科学的根拠に基づいた治療と、個人の体質に合わせた食生活の管理を両立させることが最も重要です。

第1部 アトピー性皮膚炎と食事の基本原則:最新診療ガイドラインからの提言

アトピー性皮膚炎と食事の関係を正しく理解するためには、まずこの疾患の本質が何であるかを知る必要があります。多くの人が「アトピーは食べ物が原因で起こるアレルギーの一種」と考えていますが、これは必ずしも正確ではありません。最新の医学的知見は、アトピー性皮膚炎をまず「皮膚の病気」として捉えることの重要性を強調しています。

1.1 アトピー性皮膚炎の真の原因:皮膚バリア機能の異常という本質

アトピー性皮膚炎の議論を始めるにあたり、最も重要な根本原理を確立する必要があります。それは、アトピー性皮膚炎が本質的に「食事の病気」ではなく、「皮膚の病気」であるという事実です。この視点の転換は、効果的な治療戦略を立てる上で不可欠です。
日本皮膚科学会が策定した「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では、本疾患を「増悪と寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患」と定義しています1。そして、その病態の根幹には、遺伝的な要因も含む「アトピー素因」に加え、「表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常」という皮膚の生理学的な問題が存在すると明記されています3。これは、皮膚が本来持つべき「水分を保持する能力」と「外部からの刺激物やアレルゲンをブロックする能力」が低下している状態を意味します。このバリア機能の脆弱性は、特定の遺伝子変異と関連があることも示唆されています4
この定義から導き出される論理的な帰結は、治療の主眼が皮膚そのものの状態を改善することに置かれるべきである、ということです。実際、ガイドラインが推奨する標準治療の中心は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏といった抗炎症外用薬を用いて皮膚の炎症を抑制し、保湿剤によるスキンケアを徹底することで皮膚のバリア機能を補い、回復させることにあります3
この治療体系は、アトピー性皮膚炎の根本的な問題が皮膚にあることを明確に示しています。多くの人が信じがちな「体の中から悪いもの(特定の食品など)が出てきて皮膚に症状が現れる」という「内因説(inside-out)」的な考え方から、科学的コンセンサスは「皮膚という外部との境界線の欠陥(バリア機能不全)が、外部からの刺激に対する過敏な反応や、アレルゲンの体内への侵入を許し、結果として炎症や感作(アレルギーを獲得する過程)を引き起こす」という「外因説(outside-in)」へと移行しています。したがって、患者様やそのご家族が最初に行うべき最も重要なステップは、食事制限に過度に固執することではなく、皮膚科医の指導のもとで適切な外用療法とスキンケアを実践し、皮膚を健康な状態に近づけることです。この皮膚のコントロールこそが、あらゆる悪化因子(食事を含む)の影響を最小限に抑えるための土台となるのです。

1.2 食事の位置づけ:「原因」ではなく「悪化因子」の一つ

アトピー性皮膚炎が本質的に皮膚の病気であると理解した上で、次に食事の役割を正しく位置づける必要があります。食事はアトピー性皮膚炎の「根本原因」ではありませんが、特定の条件下で症状を悪化させる「悪化因子」の一つになり得ます。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、食物は温熱、発汗、精神的ストレス、環境アレルゲンなどと並んで、アトピー性皮膚炎の痒みを誘発・悪化させる因子の一つとして挙げられています1。しかし、これは全てのアトピー性皮膚炎患者様に当てはまるわけではありません。特に重要なのは、食物が悪化因子として強く関与するのは、主に乳幼児期で、かつ食物アレルギーを合併している一部の患者様に限られるという点です。
ガイドラインは、食物アレルギーの関与が明らかでない小児および成人のアトピー性皮膚炎患者様において、特定の食物を除去する食事療法が有用であるという科学的根拠は乏しいと結論付けています2。この見解は、国際的な研究によっても裏付けられています。複数のランダム化比較試験(科学的根拠のレベルが最も高い研究手法)の結果を統合・分析したシステマティックレビューやメタアナリシスでは、アトピー性皮膚炎患者様全体に対して画一的に食事制限を行っても、症状の改善効果は「ごくわずかであり、臨床的に重要でない可能性が高い」と報告されています6
ここから見えてくるのは、「サブグループ」という概念の重要性です。つまり、食事とアトピー性皮膚炎の関係は、万人共通の課題ではないということです。食事の役割が非常に大きいのは、「中等症から重症の湿疹があり、かつ食物経口負荷試験によって原因食物が特定された乳幼児」といった特定のサブグループです。一方で、成人の患者様や軽症の患者様の多くにとっては、食事の関与は限定的である可能性が高いのです。したがって、患者様が自問すべきは「自分(あるいは自分の子)は、食事が症状に強く関与するサブグループに属するのか?」という点です。この問いに答えるためには、自己判断ではなく、後述する専門的な診断プロセスが不可欠となります。この点を理解することは、大多数の患者様にとって不要であり、かつ潜在的に有害な食事制限を避けるための第一歩となります。

1.3 科学的根拠のない食事制限の危険性

「体に良さそうだから」「アレルギーが怖いから」といった理由で、自己判断による食事制限を行うことは、多くの専門家やガイドラインが警鐘を鳴らす行為です。効果が期待できないだけでなく、深刻な健康被害をもたらす危険性があるためです。
日本皮膚科学会ガイドラインは、血液検査(IgE抗体検査)の結果のみを根拠としたり、アレルギーを起こしやすいという漠然とした理由で特定の食物を除去したりすることに対して、明確に反対の立場をとっています2。その理由は多岐にわたります。
第一に、特に成長期の子供にとって、不適切な食事制限は深刻な栄養不足や発育障害を引き起こすリスクがあります2。皮膚の健康を維持するためにも、タンパク質、ビタミン、ミネラルといった栄養素は不可欠であり、これらを安易に制限することは本末転倒です。
第二に、これは非常に重要な点ですが、不必要な食物の回避が、逆説的にその食物に対する真のIgE介在性食物アレルギーを発症するリスクを高めてしまう可能性が指摘されています6。本来、食物は口から摂取することで、免疫系がそれを「安全なもの」として認識し、攻撃しないように学習します(経口免疫寛容)。しかし、食物を不必要に避け続けると、この学習の機会が失われ、むしろ皮膚などからアレルゲンが侵入(経皮感作)した際に、免疫系がそれを「敵」と誤認し、アレルギーを発症しやすくなるのです。つまり、良かれと思って行った「予防のための除去」が、かえって「アレルギーの誘発」につながりかねないのです。これは、アレルギー学における近年の最も重要な発見の一つです。
第三に、かつて推奨されたことがある妊婦や授乳婦に対するアレルゲン除去食についても、その後の大規模な研究により、子供のアトピー性皮膚炎の発症を予防する効果がないことが証明されています。それどころか、母親の栄養状態を悪化させたり、低出生体重児のリスクを増加させたりする可能性があり、むしろ有害であると考えられています2
これらの科学的根拠に基づき、専門家は口を揃えて「診断なくして除去なし」という原則を強調します。食物除去は、適切な診断プロセスを経て、真に必要であると判断された場合にのみ、医師の厳格な管理下で行われるべき治療法なのです。

第2部 食物アレルギーの関与が疑われる場合の正しい診断と管理

アトピー性皮膚炎の管理において、食事が悪化因子となっている可能性が考えられる場合、自己判断で食事制限を始めるのではなく、科学的根拠に基づいた正確な診断プロセスを経ることが極めて重要です。ここでは、特に食物アレルギーの関与が疑われる乳幼児を中心に、ガイドラインが推奨する診断と管理の進め方を詳述します。

2.1 病態の定義:「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」

まず、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが関連する特定の病態が存在することを理解する必要があります。日本アレルギー学会の「食物アレルギー診療の手引き」では、臨床型の一つとして「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」が明確に定義されています8
この病態は、以下の特徴を持ちます8

  • 発症年齢: 主に乳児期に発症します。
  • 主な原因食物: 鶏卵、牛乳、小麦が三大原因アレルゲンとして知られています。
  • 症状: 特定の原因食物を摂取した後に、既存の湿疹が悪化するという経過をたどります。
  • 自然経過: 成長に伴い消化管機能や免疫機能が成熟することで、多くは自然に寛解(耐性を獲得)する傾向があります。鶏卵、牛乳、小麦、大豆などが原因の場合、6歳までに約80~90%の子供が食べられるようになると報告されています9

重要なのは、この診断が単一の検査結果によって下されるものではないという点です。診断は、患者様の「物語」を丁寧に読み解くプロセスに他なりません。医師は、保護者からの詳細な病歴聴取(何を食べた後に、どのような時間経過で、皮膚症状がどう変化したか)、皮膚の診察、そして後述するアレルギー検査の結果を総合的に評価し、食物と湿疹の悪化との間に一貫した因果関係があるかを慎重に判断します。このプロセスを理解することは、患者様側が「血液検査で陽性だったからアレルギーだ」という短絡的な結論に飛びつくことを防ぎ、より正確な診断へとつながる道筋を示します。

2.2 診断のゴールドスタンダード:食物経口負荷試験(OFC)の重要性

食物アレルギーの診断において、血液検査(特異的IgE抗体検査)や皮膚プリックテストは有用なツールですが、それだけでは確定診断には至りません。これらの検査が示しているのは、あくまで「感作」の状態、つまり特定の食物に対するアレルギー抗体(IgE抗体)が体内に存在するという事実に過ぎません2。感作されていても、実際にその食物を食べても全く症状が出ない人は数多く存在します。
ある食物が本当に症状を引き起こす原因(アレルゲン)であるかを証明するための唯一確実な方法、それが「食物経口負荷試験(Oral Food Challenge: OFC)」です10。OFCは、専門の医療機関で医師の厳重な監督のもと、原因と疑われる食物を少量から段階的に摂取し、アレルギー症状が誘発されるかどうかを客観的に評価する検査です。
このOFCを正確に行うためには、極めて重要な前提条件があります。それは、検査の前に、まずアトピー性皮膚炎の湿疹を適切な外用療法とスキンケアで十分にコントロールしておくことです2。皮膚がもともとひどく荒れている状態では、食物を摂取した後に見られる変化が、食物によるものなのか、あるいは単なる湿疹の自然な変動なのかを区別することが不可能だからです。まず皮膚を「静かな状態」にすることが、食物の影響を正確に判断するための絶対条件となります。
多くの患者様やご家族は、OFCを「食べられないものを確定させるための怖い検査」と捉えがちです。しかし、その本質はむしろ逆です。OFCの最大の目的は、「安全に食べられる量や範囲を明らかにし、不要な食事制限を解除すること」にあります。多くの子供たちは、OFCによって安全に食べられることが確認され、栄養状態の改善やQOL(生活の質)の向上につながっています。したがって、OFCは食事制限への扉ではなく、むしろ食生活の自由を取り戻すための鍵と捉えるべきです。

表1:食物アレルギー診断:よくある誤解 vs. ガイドラインに基づく事実

よくある誤解 (Common Myth) ガイドラインに基づく事実 (Guideline-Based Fact)
「血液検査(IgE抗体)で陽性なら、その食物はアレルギーだ」 「IgE検査は感作を示すだけで、臨床的なアレルギーを意味しない。陽性でも症状が出ない人は多い。診断には一貫した症状の病歴が必須である」2
「IgEの数値が高いから、一生その食物は避けなければならない」 「IgE値は症状の重症度を完全には予測できず、時間と共に変動する。診断のゴールドスタンダードは食物経口負荷試験(OFC)である」2
「疑わしい食物は、とりあえず避けておく方が安全だ」 「不必要な除去は栄養不足を招くだけでなく、逆説的に真のアレルギーを発症するリスクを高める可能性がある」2
「まず食物の問題を解決してから、皮膚の治療をすればよい」 「皮膚の治療が最優先である。適切なスキンケアと薬物療法で湿疹がコントロールされていなければ、食物の影響を正しく判断することは不可能である」2

2.3 日本における主な原因食物と「耐性獲得」という現象

日本における乳幼児の食物アレルギーの原因は、特定の食物に集中する傾向があります。複数の全国疫学調査から、鶏卵、牛乳、小麦が三大原因アレルゲンであることが一貫して報告されています13
これらの食物に対するアレルギーには、非常に希望の持てる特徴があります。それは、成長とともに耐性を獲得しやすい、つまり「治りやすい」ということです。多くの研究で、これらの食物アレルギーを持つ子供の約80~90%が、小学校に入学する頃までには症状なく食べられるようになると示されています8
一方で、ピーナッツ、クルミなどの木の実類、魚類、甲殻類、ソバなどによるアレルギーは、一度発症すると耐性を獲得しにくく、生涯にわたって注意が必要となることが多いとされています9
この「耐性獲得」という現象は、アレルギー管理が静的なものではなく、非常に動的なプロセスであることを意味します。乳児期に下された診断が、一生続くとは限りません。免疫系は常に変化し、成長しています。そのため、管理計画には定期的な見直しが不可欠です。医師は、定期的に診察や検査を行い、適切な時期に再度のOFCを計画することで、子供が耐性を獲得したかどうかを確認し、不要になった食事制限を解除していくことを目指します8。この動的な視点は、長期にわたる管理において、親子双方の心理的負担を軽減し、希望を持ち続ける上で非常に重要です。

2.4 「必要最小限の原因食物の除去」という原則

食物アレルギーの関与がOFCによって確定した場合でも、その食物をあらゆる形ですべて除去する「完全除去」が必ずしも必要とは限りません。現代の食物アレルギー管理の基本は、「必要最小限の原因食物の除去」という原則に基づいています11
この原則には、二つの重要な側面があります11

  1. 症状を誘発することが確認された食物だけを除去する: 「念のため」「心配だから」という理由で、診断されていない食物まで除去対象を広げない。
  2. 原因食物であっても、症状が誘発されない「食べられる範囲」までは摂取する: OFCによって、症状が出ずに安全に食べられる量や調理法が確認された場合、その範囲内ではむしろ積極的に食べるように指導される。

例えば、生の卵や半熟卵ではアレルギー症状が出る子供でも、クッキーやパンに含まれる、十分に加熱されたごく少量の卵であれば、安全に食べられることがよくあります。このような「食べられる範囲」での摂取を継続することは、栄養面でのメリットだけでなく、免疫系にアレルゲンを少量ずつ提示し続けることで、耐性獲得を促進する効果も期待されています。
この原則は、調理法がアレルゲンの性質を変えうることを示唆しています。加熱によってタンパク質の立体構造が変化し、アレルギー反応を引き起こしにくくなることがあるのです。これは、家庭のキッチンが単なるリスクの場ではなく、アレルゲンを安全な形に変える「治療の場」となりうることを意味します。患者様はアレルギー専門医と相談しながら、加熱加工品など、安全に摂取できる形を探求していくことで、食生活の質を大きく向上させることができるのです。

第3部 アレルギー予防の最前線:「経皮感作」と「経口免疫寛容」

なぜアトピー性皮膚炎の子供は食物アレルギーになりやすいのでしょうか。かつては「食物アレルギーがあるから、アトピー性皮膚炎になる」と考えられていましたが、近年の研究はこの因果関係を覆し、アレルギー発症のメカニズムについて革命的なパラダイムシフトをもたらしました。この新しい概念を理解することは、アレルギーを「予防する」という観点から非常に重要です。

3.1 二重抗原曝露仮説:パラダイムの転換

アレルギー発症のメカニズムを説明する現代の最も有力な理論が、「二重抗原曝露仮説(Dual-allergen-exposure hypothesis)」です16。この仮説は、食物アレルゲンに対する免疫応答が、アレルゲンに「どこで」「どのように」出会うかによって、全く逆の結果をもたらすことを提唱しています。

  • 経皮感作(皮膚からの曝露): バリア機能が低下した湿疹のある皮膚を通して食物アレルゲン(例えば、室内のホコリに含まれるピーナッツや卵の微粒子など)が体内に侵入すると、皮膚の免疫系はこれを「異物・敵」と認識し、攻撃態勢に入ります。これがアレルギー抗体(IgE抗体)の産生を引き起こし、「感作」(アレルギーを発症する準備状態)が成立します。
  • 経口免疫寛容(口からの曝露): 一方、食物アレルゲンが口から摂取され、腸管の免疫系に出会うと、免疫系はこれを「栄養・味方」と認識し、攻撃しないように学習します。これが「経口免疫寛容」と呼ばれる、アレルギー反応を抑制する仕組みです。

この仮説を分かりやすく例えるならば、免疫系の「教育の場」と考えることができます。腸管は、食物を安全なものとして学ぶための「正しい教室」です。ここでは、免疫系は寛容を学びます。一方、バリア機能が壊れた皮膚は、食物を学ぶための「間違った教室」です。ここでは、皮膚の免疫系が食物を病原体のように扱い、攻撃することを学んでしまうのです。
この仮説は、なぜアトピー性皮膚炎が食物アレルギーの強力なリスク因子であるかを雄弁に説明します。複数のシステマティックレビューが、アトピー性皮膚炎の発症が食物アレルギーの発症に先行することを一貫して報告しており、両者の間に強い因果関係があることを裏付けています18。つまり、「食物アレルギーがアトピー性皮膚炎を引き起こす」のではなく、「アトピー性皮膚炎(皮膚バリアの破壊)が食物アレルギーを引き起こす」というのが、現代の科学的コンセンサスなのです。

3.2 プロアクティブ療法:究極の食物アレルギー予防戦略

「二重抗原曝露仮説」が正しいとすれば、食物アレルギーを予防するための最も効果的な戦略が見えてきます。それは、「間違った教室」である皮膚のバリアを修復し、アレルゲンの侵入経路を断つことです。つまり、アトピー性皮膚炎の湿疹を、症状が出てから治療する(リアクティブ療法)のではなく、症状がない時でも継続的に治療を行い、常に健康な皮膚を維持する(プロアクティブ療法)ことが、食物アレルギーの一次予防につながるのです。
この理論を世界で初めて臨床試験で証明したのが、日本の国立成育医療研究センターが主導した画期的な研究「PACIスタディ(Prevention of Allergy via Cutaneous Intervention Study)」です16
この研究では、アトピー性皮膚炎と診断された乳児を2つのグループに分けました。一方のグループは、湿疹が出た時だけ薬を塗る従来の「リアクティブ療法」を受けました。もう一方のグループは、湿疹の有無にかかわらず定期的に抗炎症外用薬を使用し、常に湿疹のないツルツルの状態(寛解状態)を目指す「プロアクティブ療法(早期強化療法)」を受けました。その結果、プロアクティブ療法を受けたグループは、リアクティブ療法を受けたグループに比べて、1歳時点での鶏卵アレルギーの発症率が約25%も有意に低下したのです16
PACIスタディの成果は、「皮膚を治すことが、アレルギーを予防する」という、非常に強力で実践的なメッセージを私たちに与えてくれます。これは、親御様が日々行うスキンケアの目的を、単なる「今日の痒みを和らげる」という対症療法的なものから、「将来の食物アレルギーという別の病気を予防する」という、極めて重要な長期的健康投資へと昇華させるものです。この新しい視点は、時に困難で根気のいるスキンケアを継続するための、強力な動機付けとなるでしょう。

3.3 離乳食の進め方:早期アレルゲン導入の重要性

かつて、アレルギー予防のためには、卵やピーナッツなどのアレルギーを起こしやすい食物の開始を遅らせるべきだという指導が行われていました13。しかし、「二重抗原曝露仮説」の登場と、その後の大規模臨床試験の結果、この考え方は180度転換されました。
現在では、むしろアレルギーを起こしやすい食物を早期に開始する方が、その食物へのアレルギー発症リスクを低減させることが明らかになっています。この分野における金字塔的な研究が、英国の「LEAPスタディ」(ピーナッツ)と、日本の「PETITスタディ」(鶏卵)です13。これらの研究は、アトピー性皮膚炎を持つハイリスクな乳児において、ピーナッツや鶏卵を生後早期(6ヶ月頃)から少量ずつ摂取開始したグループは、回避したグループに比べて、ピーナッツアレルギーや鶏卵アレルギーの発症率が劇的に低下することを示しました。
これらのエビデンスに基づき、日本の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」や日本小児アレルギー学会の「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」は、以下のような方針を推奨しています2

  1. アトピー性皮膚炎の乳児においては、まず適切な治療で湿疹を十分にコントロールする。
  2. その上で、医師の指導のもと、生後6ヶ月頃から、十分に加熱したごく少量の鶏卵の摂取を開始する。

これは、免疫系が寛容を学習しやすい生後早期の「機会の窓(window of opportunity)」を逃さないための戦略です。経皮感作が本格的に進む前に、口からの曝露によって「正しい教室」での教育を先行させることで、免疫のバランスを寛容の方向へと導くのです。ただし、この早期導入は、必ず自己判断で行わず、特にアトピー性皮膚炎を持つハイリスク児の場合は、アレルギー専門医と相談しながら、安全な方法で進めることが絶対条件です。

第4部 真のアレルギーではないが症状を悪化させる可能性のある食品

食物アレルギーと診断されていなくても、「特定のものを食べると痒みが増す気がする」という経験を持つアトピー性皮膚炎患者様は少なくありません。これは、IgE抗体を介したアレルギー反応とは異なるメカニズムによるもので、個々の体質やその時の体調によって影響の出方が異なります。ここでは、そのような非アレルギー性の悪化因子について解説します。

4.1 非アレルギー性の誘発因子:ヒスタミン、血管拡張物質など

一部の食品は、その成分が持つ薬理作用によって、アトピー性皮膚炎の症状、特に痒みを増強させることがあります。これは真のアレルギー反応ではないため、摂取量や体調に依存することが多く、誰にでも当てはまるわけではありません。

  • ヒスタミンを多く含む、または遊離を促す食品: ヒスタミンは、痒みや炎症を引き起こす主要な化学伝達物質です。熟成チーズ、加工肉(サラミ、ソーセージ)、発酵食品(味噌、醤油)、ほうれん草、トマト、なす、サバ、マグロなどの一部の食品は、ヒスタミンそのものを多く含んでいたり、体内でヒスタミンが放出されるのを促す作用(ヒスタミン遊離作用)を持つことがあります19。これらの食品を摂取した後に痒みが増す場合、この薬理作用が関与している可能性があります。
  • 血管を拡張させる食品: アルコールや香辛料(特に唐辛子に含まれるカプサイシン)には、血管を拡張させて血流を増加させる作用があります19。皮膚の血流が増加すると、皮膚温が上昇し、痒みの神経が刺激されやすくなるため、結果として痒みが強くなることがあります。熱いお風呂に入ると痒くなるのと同様のメカニズムです。
  • その他の刺激物: 一般的に、糖分の多い菓子類や加工食品なども、炎症を促進したり、腸内環境に影響を与えたりすることで、間接的に症状を悪化させる可能性があると指摘されることがあります20。しかし、これらに対する科学的根拠はまだ限定的です。

ここで重要なのは、「アレルギー」と「不耐症・過敏症」を明確に区別することです。IgEが関与する真のアレルギーは、ごく微量でも重篤な反応を引き起こす可能性があり、再現性が高い免疫反応です。一方、これらの非アレルギー性の反応は、多くの場合、ある程度の量を摂取した時にのみ症状が現れる「閾値」があり、体調によっても反応が異なります。これをアレルギーと誤認し、過度な恐怖心や不必要な除去を行うことは避けるべきです。ご自身の体質を理解し、摂取量や頻度を調整する「個人的な管理」が中心となります。

4.2 脂質のバランスの重要性:オメガ6 vs. オメガ3

食事に含まれる「油」の種類、すなわち脂質のバランスが、体内の炎症レベルに大きく影響することが知られています。アトピー性皮膚炎は慢性的な炎症性疾患であるため、この脂質のバランスは症状管理において重要な視点となります。

  • オメガ6系脂肪酸: コーン油、大豆油、ごま油などに多く含まれ、現代の食生活(特に加工食品や外食)では過剰摂取になりがちな脂肪酸です25。オメガ6系脂肪酸から作られる代謝物の一部には、炎症を促進する作用があります。
  • オメガ3系脂肪酸: 青魚(サバ、イワシ、サンマ)、亜麻仁油、えごま油、くるみなどに多く含まれます26。オメガ3系脂肪酸から作られる代謝物には、炎症を抑制する作用があります。

問題となるのは、これら二つの脂肪酸の摂取比率です。現代食ではオメガ6系脂肪酸に大きく偏りがちであり、この不均衡が、アトピー性皮膚炎の背景にある慢性的な炎症状態を助長している可能性が指摘されています25
この知見は、特定の「悪い食品」を一つ一つ排除するのではなく、食事全体の「炎症ポテンシャル」をコントロールするという、より包括的なアプローチを示唆します。つまり、炎症の「火に油を注ぐ」ようなオメガ6過多の食事(揚げ物、スナック菓子、加工食品など)を減らし、炎症を「鎮める」ようなオメガ3が豊富な食事(魚料理など)を増やすことが、体内の炎症環境を整え、皮膚症状の安定に寄与する可能性があるのです。魚油などのサプリメントに関する研究も行われていますが、結果は一貫しておらず、ガイドラインで一律に推奨されるには至っていません28。まずは食事全体のバランスを見直すことが基本となります。

4.3 腸-皮膚相関:新たなる研究フロンティア

近年、医学研究の分野で大きな注目を集めているのが「腸-皮膚相関(Gut-Skin Axis)」という概念です。これは、腸内環境(特に腸内細菌叢、マイクロバイオーム)の健康状態が、遠く離れた臓器である皮膚の健康に密接に影響を及ぼすという考え方です。
複数のシステマティックレビューにより、アトピー性皮膚炎患者様の腸内細菌叢は、健康な人と比べてその構成が異なる「ディスバイオーシス(dysbiosis)」と呼ばれる状態にあることが示唆されています30。具体的には、アトピー性皮膚炎患者様では、ビフィズス菌のような有益な菌が少なく、クロストリジウム属菌などの特定の菌が多い傾向が報告されています31
腸は「第二の脳」とも呼ばれるほど、体内で最大の免疫器官です。腸内細菌は、この免疫系の発達と調節に重要な役割を果たしています。腸内環境が乱れると、免疫系に異常なシグナルが送られ、全身性の炎症が引き起こされる可能性があります。この全身性の炎症が、皮膚の炎症性疾患であるアトピー性皮膚炎を悪化させる、というメカニズムが考えられています35
この仮説に基づき、プロバイオティクス(ヨーグルトなどに含まれる生きた善玉菌)やプレバイオティクス(善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖)の摂取が、腸内環境を介してアトピー性皮膚炎の症状を改善するのではないかという期待から、多くの研究が行われています。一部の研究では、特定の乳酸菌やビフィズス菌の摂取が症状を軽快させたという有望な結果も報告されていますが、菌株や対象者によって効果は一貫しておらず、まだ研究途上の段階です30。そのため、現時点の日本の診療ガイドラインでは、プロバイオティクスは標準治療としては推奨されていませんが、腸内細菌とアレルギー疾患の関連性については言及されており、今後の研究が待たれる注目の分野です2

表2:アトピー性皮膚炎に対する食事介入のエビデンスレベル要約

食事介入 (Dietary Intervention) エビデンスレベル (Level of Evidence) 要点 (Key Points)
確定診断されたアレルゲンの除去 高(ガイドライン推奨) OFCで医学的に確定診断されたアレルギーに対してのみ行う。目標は「必要最小限」の除去。これは一般的な食事法ではなく、標的を絞った治療である。2
早期アレルゲン導入(予防目的) 高(ガイドライン推奨) ハイリスク乳児(AD罹患児)に対し、アレルギーを予防する目的で、医師の管理下で早期(例:鶏卵を6ヶ月から)に導入することが推奨される。2
オメガ3系脂肪酸の摂取増 中(研究進行中) オメガ3が豊富な食事(例:青魚)は炎症を調節する助けになる可能性がある。サプリメントよりも食事パターン全体が重要。サプリメントの効果は賛否両論である。25
プロバイオティクス・プレバイオティクス 中(研究進行中) 腸-皮膚相関を介して効果を発揮する可能性。一部の研究で軽度の改善効果が示されているが、菌株や対象者による結果のばらつきが大きい。標準治療ではない。30
刺激物(香辛料、アルコール等)の回避 低(個人的な感受性) 真のアレルギーではない。一部の個人において薬理作用で痒みを増悪させることがある。個人の観察と耐性に基づき管理する。19
砂糖・加工食品の全般的な回避 低(一般的な健康アドバイス) 一般的な健康原則を超える、ADに特化した強いエビデンスは乏しい。炎症や腸内環境との関連が示唆されるが、直接的な因果関係は確立されていない。20
未診断患者への画一的な除去食 低(非推奨) 確定診断のない患者に対する除去食は、ほとんど、あるいは全く効果がなく、栄養不足や新たなアレルギー発症のリスクを伴う。2

第5部 最適な管理のための実践的な食事戦略

これまでの科学的知見を踏まえ、アトピー性皮膚炎の症状を管理し、悪化させないための実践的な食事戦略を提案します。重要なのは、厳格な「制限」ではなく、皮膚と体の健康を支える「支援」的なアプローチです。

5.1 基本はバランスの取れた抗炎症的な食事

アトピー性皮膚炎に最も良い食事とは、何かを厳しく制限する食事ではなく、体全体の健康を促進し、炎症をコントロールするのを助ける、バランスの取れた食事です。
この観点から、伝統的な和食は非常に優れたモデルとなり得ます。ある資料では、「和食中心の生活で腸内細菌叢を整える」ことが推奨されていますが40、これは科学的にも理にかなっています。和食は、第4部で議論した抗炎症的な食事パターンの要素を自然に満たしています。

  • 豊富な魚介類: サバ、イワシ、アジなどの青魚を多く使う和食は、抗炎症作用のあるオメガ3系脂肪酸の優れた供給源です26
  • 多様な野菜と海藻: 季節の野菜、きのこ、海藻をふんだんに取り入れることで、抗酸化作用のあるビタミンやミネラル、そして腸内環境を整える食物繊維を豊富に摂取できます19
  • 発酵食品の活用: 味噌、醤油、納豆、漬物といった発酵食品は、腸内細菌叢の多様性を支えるプロバイオティクスの供給源となります41

このような食事パターンは、特定の「スーパーフード」に頼るのではなく、様々な食材の相乗効果によって健康効果がもたらされるという考え方に基づいています。食事療法というと「あれを抜く、これを抜く」という引き算の発想になりがちですが、むしろ「魚を増やす、野菜を増やす、発酵食品を取り入れる」といった足し算の発想で、食生活全体を豊かにしていくことが、よりポジティブで持続可能な戦略と言えるでしょう。

5.2 皮膚の健康に不可欠な栄養素:まずは食事から、サプリは慎重に

健康な皮膚を維持・修復するためには、特定のビタミンやミネラルが不可欠です。これらの栄養素は、まずバランスの取れた食事から摂取することを基本とし、サプリメントの利用は医師と相談の上で慎重に検討すべきです。

  • 亜鉛: 皮膚の再生や免疫機能の維持に重要な役割を果たします。重症のアトピー性皮膚炎では、皮膚のターンオーバーが亢進し、皮膚が剥がれ落ちる際に亜鉛が失われるため、不足しがちになることがあります19。牡蠣、赤身肉、レバー、ナッツ類などが良い供給源です。
  • ビタミンA, C, E: これらのビタミンは、皮膚のバリア機能をサポートし、コラーゲンの生成を助け、活性酸素によるダメージから皮膚を守る抗酸化作用を持ちます19。緑黄色野菜や果物に豊富に含まれています。

サプリメントによる栄養補給は手軽に思えますが、いくつかの注意点があります。まず、特定の栄養素のサプリメントがアトピー性皮膚炎を改善するというエビデンスは、現時点では弱いか、一貫性がありません28。また、自己判断での過剰摂取は、他の栄養素の吸収を妨げたり、予期せぬ副作用を招いたりするリスクもあります。食品から摂取する栄養素は、他の成分との相互作用によって吸収率が高まるなど、単体のサプリメントにはない利点があります(例:亜鉛は動物性タンパク質と一緒に摂ることで吸収が促進される19)。したがって、「フード・ファースト(Food First)」の原則に立ち、まずは多様な食品から栄養を摂ることを目指すべきです。

5.3 観察の力:食事・症状日記の活用

真のアレルギーとは異なる非アレルギー性の悪化因子は、非常に個人差が大きいものです。ある人には問題なくても、別の人には痒みの引き金になることがあります。このような個人的なパターンを見つけ出すための最も強力なツールが、「食事・症状日記」です。
これは、アレルギー管理において一般的に推奨される方法であり42、日々の食事内容、症状の強さ(例:痒みを10段階で評価)、服用した薬、ストレスレベル、睡眠時間など、症状に影響を与えうる様々な要因を記録するものです。
このプロセスは、患者様を単なる「症状に苦しむ受動的な存在」から、「自らの状態を観察し、手がかりを探す能動的な探求者」へと変える力を持っています。アトピー性皮膚炎のような慢性疾患がもたらす大きな心理的負担の一つに、「いつ悪化するか分からない」というコントロール不能感があります4。日記をつけるという行為は、この混沌とした状態に科学的な探求の視点をもたらし、構造を与えます。これにより、患者様は自身の体に対する理解を深め、コントロール感を回復することができます。この感覚の回復は、それ自体がストレスの軽減につながり、アトピー性皮膚炎の悪化因子であるストレスを管理する上でも治療的な効果を持ちうるのです22
記録した日記は、診察の際に医師に見せることで、極めて価値のある情報となります。医師は、客観的なデータに基づいて、より個人に最適化された、的確なアドバイスを提供することが可能になります。

表3:症状管理のための実践的な食事チェックリスト

本レポートで解説した実践的な食事戦略を、日々の生活で確認・実践するためのチェックリストです。ご自身の食生活を振り返り、医師とのご相談の際にご活用ください。

食事の目標 (Dietary Goal) 私の週間の習慣 (My Weekly Habit) 医師への相談メモ (Notes for Doctor)
青魚を食事に取り入れる(オメガ3):週に2~3回を目安に(例:サバ、サケ、イワシ) ☐ 全くない ☐ 1回 ☐ 2回以上 例:「魚を食べるのが苦手です。サプリメントは選択肢になりますか?」
彩り豊かな野菜を食べる(抗酸化物質):毎日、多様な野菜をたっぷり摂る ☐ 少ない ☐ 普通 ☐ 多い 例:「皮膚の健康に特に良い野菜はありますか?」
発酵食品を取り入れる(プロバイオティクス):例:ヨーグルト、味噌、納豆 ☐ 滅多にない ☐ 時々 ☐ 毎日 例:「プロバイオティクスに興味があります。試すべき特定の菌種はありますか?」
加工食品や甘い飲み物を控える:素材の味を活かした食事を心がける ☐ 多い ☐ 時々 ☐ 滅多にない 例:「ストレスを感じると甘いものが食べたくなります。健康的な代替案はありますか?」
個人的な刺激物を把握し、調整する:アルコールや香辛料など、自身の反応を観察する ☐ 特になし 例:「Xを食べた後、痒みが増すことに気づきました。これはアレルギーでしょうか?」
バランスの取れた食事を確保する:毎食、主食・主菜・副菜を揃える ☐ 滅多にない ☐ 時々 ☐ ほぼ毎日 例:「タンパク質や亜鉛が不足していないか心配です。」

よくある質問

Q1: アトピー性皮膚炎ですが、避けるべき食品のリストはありますか?
A1: 科学的根拠に基づき、すべてのアトピー性皮膚炎患者様に一律で推奨される「避けるべき食品リスト」というものは存在しません2。食事の関与は個人差が大きく、特に食物アレルギーを合併している乳幼児に限られることが多いです。自己判断で食品を除去するのではなく、まず皮膚科やアレルギー科の専門医に相談し、適切なスキンケアと治療を優先することが最も重要です。もし食物アレルギーが疑われる場合は、食物経口負荷試験などで正確な診断を受けることが不可欠です。
Q2: 血液検査で卵に陽性反応が出ました。卵は完全に除去すべきですか?
A2: いいえ、血液検査(IgE抗体検査)で陽性というだけでは、食物アレルギーの確定診断にはなりません2。それは「感作」されている状態を示すだけで、実際に食べて症状が出るとは限りません。自己判断で除去を始めると、栄養不足になったり、かえってアレルギーを発症しやすくなったりするリスクがあります。必ず医師に相談し、症状との関連性を慎重に評価した上で、必要であれば食物経口負荷試験を受けることを検討してください。
Q3: 子供のアトピー性皮膚炎が心配です。アレルギー予防のために離乳食の開始を遅らせた方が良いですか?
A3: 最新の研究では、逆のことが推奨されています。アトピー性皮膚炎があるお子様こそ、まず皮膚の治療をしっかり行い、湿疹をコントロールした上で、医師と相談しながら生後6ヶ月頃から鶏卵などのアレルゲンとなりうる食品を少量ずつ開始する方が、食物アレルギーの発症を予防できることが分かっています213。自己判断で開始を遅らせることは、予防の機会を逃す可能性がありますので、専門医にご相談ください。
Q4: プロバイオティクス(乳酸菌など)はアトピーに効きますか?
A4: 腸内環境と皮膚の状態が関連する「腸-皮膚相関」は注目されている分野です30。一部の研究でプロバイオティクスによる症状改善が報告されていますが、効果は菌株や個人によって異なり、まだ科学的コンセンサスは得られていません。そのため、現行の診療ガイドラインでは標準治療として推奨されていません2。試す場合は、治療の基本であるスキンケアや薬物療法を疎かにせず、補助的なものとして医師に相談の上で検討するのが良いでしょう。

結論:医師とのパートナーシップによる、科学的根拠に基づく治療への道

本稿では、アトピー性皮膚炎と食事の関係について、最新の科学的知見に基づき多角的に解説してきました。最後に、最も重要な要点をまとめ、患者様が自らの治療に主体的に関わるための指針を示します。

  • スキンファースト(皮膚第一): アトピー性皮膚炎管理の土台は、プロアクティブ療法を含む、一貫した適切なスキンケアと医学的治療です。これが皮膚のバリア機能を正常化し、あらゆる悪化因子の影響を最小限に抑え、さらには食物アレルギーを予防するための最も効果的な方法です16
  • 推測ではなく診断を: 食物アレルギーが疑われる場合は、自己判断で食事制限を始めるのではなく、必ず専門医による適切な診断(食物経口負荷試験を含む)を受けてください2。血液検査の結果や不確かな情報に基づいて、不必要な除去を行うことの危険性を認識することが重要です。
  • 支援的な食事を目指す: 「悪い」食品を排除することに固執するのではなく、魚や野菜、全粒穀物、発酵食品が豊富な、バランスの取れた抗炎症的な食事パターンで、体全体の健康を「支援」することに焦点を当ててください26
  • 自分自身の専門家になる: 食事・症状日記を活用し、自分自身の体の反応を観察する「能動的な探求者」になりましょう。これにより、個人的な悪化因子を特定し、医師との対話をより有意義なものにすることができます42
  • パートナーシップが鍵: 本稿で得た知識は、万能の解決策ではありません。それは、皮膚科医やアレルギー専門医といった専門家と、より効果的に協働するためのツールです。科学的根拠に基づいた知識を持つ情報に通じた患者様と、専門的な知見を持つ医師とのパートナーシップこそが、個別化された最適な治療計画を構築し、アトピー性皮膚炎という複雑な疾患を乗り越えていくための最も確かな道筋です。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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