インスリンの種類と糖尿病治療への取り入れ方
糖尿病

インスリンの種類と糖尿病治療への取り入れ方

 

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はじめに

インスリンは、約100年以上前から糖尿病の治療に用いられ、血糖値をコントロールしながら患者さんの生活の質を向上させるために不可欠な存在です。現在使用されているインスリン製剤は、その作用発現や効果の持続時間などによって複数の種類に分かれています。この記事では、それぞれのインスリンの特徴と使い方、保管方法、そして使用時の注意点について詳しく解説いたします。糖尿病の種類によっては毎日インスリンを必要とする方もおり、自身が使っているインスリンの種類を正しく理解することは大変重要です。

この記事では、血糖値を下げるために使われるインスリンの基本的な知識から、各インスリンの分類や作用時間、保管方法、注射部位など、幅広く取り上げます。特に、作用の早いインスリンを食事の直前に打つべきか、ゆっくり効くインスリンをどのタイミングで使うかといった具体的な疑問に答える形で解説します。さらに、近年の研究成果が示すインスリン治療の実践的なポイントや注意点についても、できる限りわかりやすくまとめました。

専門家への相談

本記事の内容をまとめるにあたり、Bác sĩ CKI Hà Thị Ngọc Bích(Khoa nội tiết · Bệnh viện Đa khoa Tâm Anh)の監修をもとに、多数の信頼できる医療情報や学術文献を参照しました。インスリン治療は高度な専門知識を伴う領域であり、患者さん個人の体調や併存疾患、ライフスタイルによっても最適な治療プランは変わります。気になる点や不安がある場合は必ず主治医に相談し、定期的に検査を受けながら血糖値を安定させるよう心がけましょう。

インスリンと糖尿病の関係

インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖(グルコース)を細胞内へ取り込ませる働きをもっています。インスリンの働きが不足したり、あるいは十分に働かない状態が続くと血糖値が高まり、やがて糖尿病を引き起こします。

  • 1型糖尿病の場合:膵臓がほとんど、あるいはまったくインスリンを作れないため、生涯にわたって外部からインスリンを注射する必要があります。
  • 2型糖尿病の場合:インスリンの分泌量が不足したり、分泌されていても身体がインスリンをうまく利用できない状態(インスリン抵抗性)が生じます。多くは食事療法や経口血糖降下薬などでコントロールできますが、血糖値が十分に下がらない場合、あるいは合併症予防のために必要な場合には、インスリン注射を併用することがあります。

参考情報:

  • 「糖尿病は何型だとインスリン注射が必須か?」
    一般的に1型糖尿病ではインスリン注射が必須ですが、2型糖尿病でも食事療法や経口薬で十分な血糖コントロールが得られない場合に、インスリン療法が導入されることがあります。

各種インスリンの分類:作用時間による違い

インスリン製剤は、その作用の速さ・持続時間によっていくつかの種類に分かれます。多くの1型糖尿病の方、そして一部の2型糖尿病の方は、以下のような「インスリン・ボーラス(食事時のインスリン)」と「インスリン・ベーサル(基礎インスリン)」を組み合わせて使います。

  • インスリン・ボーラス(食事時インスリン)
    食事から摂取される糖質によって食後に急激に上昇する血糖値を速やかに処理するために使用します。
  • インスリン・ベーサル(基礎インスリン)
    一日を通じて常に少量必要とされるインスリンを補うために使います。血糖値を一定範囲内に保つ役割を担います。

また、これらの2種類を混合した「プレミックス型インスリン(混合型インスリン)」もあり、1日1~2回の注射だけで済む場合もあります。

インスリン・ボーラス(食事時インスリン)

  • 速効型インスリン(超速効型インスリンとも)
    食事直前あるいは食後すぐに打ち、短時間で作用を発揮して血糖値を下げます。作用発現は注射後おおむね15~30分ほど、効果のピークは30~90分、作用時間は3~5時間です。
  • レギュラーインスリン(短時間作用型)
    速効型より発現がやや遅く、注射後30~60分で効果が出始め、2~5時間でピークに達し、5~8時間持続します。食事の30~60分前に打つのが一般的です。

インスリン・ベーサル(基礎インスリン)

  • NPHインスリン(中間作用型)
    Protamineや亜鉛との結合で吸収が遅くなるように設計されており、白く濁った外観です。1日1〜2回の注射が多く、起床時や就寝前に打って一日の基礎インスリン量を補います。
  • 持効型インスリン(長時間作用型)
    注射後にゆっくりと効果が現れ、効果は20~24時間、あるいはそれ以上続く製剤もあります。1日1回、一定の時間帯に注射するケースが多いです。

混合型インスリン(プレミックス)

速効型や短時間作用型と、中間作用型や長時間作用型をあらかじめ一定比率で混合した製剤です。1日1~2回の注射で食事時と基礎分の両方の効果を得られるため、自己注射の負担が軽減されるメリットがあります。


インスリンの種類と糖尿病治療への取り入れ方

上記の図版は「インスリンの作用時間とピーク」の概略をイメージ化したものですが、実際には製品によって細かく異なる場合があります。下記の表に代表的なインスリン製剤と作用プロファイルをまとめています。

種類  (製品名) 作用発現 ピーク 作用持続 主な目的
速効型 インスリンリスプロ (Humalog),
インスリンアスパルト (Novorapid),
インスリングルリジン (Apidra)
10~30分 30~90分 3~5時間 食事の直前または直後に注射して食後血糖を管理
短時間作用型 レギュラー R, Novolin
(Velosulinなど)
30~60分 2~5時間 5~8時間 食事の30~60分前に注射
中間作用型 (NPH) NPHインスリン(白濁している製剤) 1~2時間 4~12時間 18~24時間 基礎分の補充。1~2回/日の注射
長時間作用型 インスリンデテミル (Levemir),
インスリングラルギン (Lantus, Basaglar, Toujeo),
インスリンデグルデク (Tresiba)
1~2時間 明確なピークなし 20~24時間~42時間 安定した基礎値の補充。1日1回を同時刻で注射
混合型 (プレミックス) Humalog Mix, Humulin 70/30, Novomix 70/30 など 10~30分 1~4時間 約16~24時間 速効型+中間/長時間型の混合。食直前~30分前注射

インスリンの製造方法による分類

インスリンは分子構造的にA鎖とB鎖という2つの鎖をもつ複雑なタンパク質です。製造方法やアミノ酸配列の改変の有無によって、以下のように分かれています。

  • ヒトインスリン
    遺伝子組換え技術などで人工的に合成されており、ヒトと同一配列のインスリンです。
  • インスリンアナログ
    ヒトインスリンの配列を一部改変し、吸収や作用持続を調整したもの。超速効型や長時間作用型の多くはインスリンアナログにあたります。
  • 動物由来インスリン
    かつてはブタやウシなどのインスリンが使われていましたが、現在はほとんど使用されなくなりました。一部の患者さんで例外的に使用するケースがあります。

各インスリンの使い方・保管方法

使用タイミング

  • 超速効型インスリン:食事直前や食後すぐに注射する
  • 短時間作用型インスリン(レギュラー):食事の30~60分前に注射する
  • NPHインスリン:朝や就寝前など、1日1~2回のタイミング
  • 長時間作用型インスリン:1日1回、同じ時刻に注射するのが一般的
  • 混合型インスリン:食事(主に朝・夕など)の前に注射し、1~2回に分ける

注射部位

インスリンは皮下注射で、腹部、上腕部、大腿部、臀部などに打ちます。最も吸収が安定しやすいとされるのは腹部です。一方、太ももなどの筋肉量の多い部位を運動すると吸収スピードが上がりすぎる場合もあります。
以下の要素が吸収に影響します:

  • 吸収が早くなる要因
    • 注射した部位をマッサージする
    • 入浴直後やサウナなど、体温が高い環境
    • 運動直後など血流が増加している部位(特に大腿部や上腕部)
  • 吸収が遅くなる要因
    • 同じ部位に繰り返し注射して皮下組織が硬くなったり瘢痕形成が起こっている場合
    • 冷えたインスリンを注射する場合(冷蔵庫からすぐ取り出して使うなど)
    • 喫煙(ニコチンが血管収縮を引き起こすため)

注射方法

インスリンの種類と糖尿病治療への取り入れ方

1) バイアル(瓶)+注射器を使う場合

  1. 白濁(NPHインスリンなど)の場合は、静かに10~15回ほど逆さまにしたり手のひらで転がすなどして、結晶や沈殿が均一になるよう軽く混ぜる。
  2. バイアルのゴム栓をアルコール綿で消毒する。
  3. 注射器に、必要量と同じ量の空気をまず吸入する。
  4. バイアルに空気を注入し、その後インスリンを必要量だけ引き出す。
  5. 気泡があれば除去する。
  6. 注射部位を消毒し、皮膚を軽くつまみながら45度あるいは90度の角度でゆっくりと針を刺して注射する。

2) ペン型注入器を使う場合

  1. 白濁製剤の場合は軽く振って中身を均一化する(10~15回ほど上下させる)。
  2. 針を新しく装着する。
  3. 2単位程度の空打ち(エア抜き)を行い、針先にインスリン液滴が付くことを確認。
  4. 指示された単位にダイヤルを合わせ、注射部位に対して垂直に針を刺す。
  5. そのまま10秒程度待ってから針を抜き、薬液が漏れないよう確認する。

保管方法

  • 未開封のインスリン:冷蔵庫(2~8℃)で保管し、凍結は厳禁。冷却装置付近の温度が極端に低い場所は避ける。
  • 使用中のインスリン:室温(25℃以下)で1か月以内に使いきる。高温多湿や直射日光を避ける。
  • 使用済みの注射針・注射器:キャップをしっかり付け、針刺し防止容器に廃棄する。
  • 劣化や破損に注意
    • 透明タイプのインスリンが濁っている
    • 白濁タイプが沈殿して溶けず、ダマになっている
    • 有効期限を過ぎた
    • 一度凍結した、あるいは高温になった
    • 開封後1か月以上経過している
      これらの場合は使用しない。

使用時の注意点・副作用など

インスリンの種類と糖尿病治療への取り入れ方

  • 濁ったタイプのインスリンは必ずゆっくりと混和
    振りすぎると泡ができ、必要単位が正確に取れなくなるおそれがあります。
  • 投与単位は生活習慣や体重変動、ほかの持病などによって変動
    運動量が増える、あるいは食事量が変わるなどの要因で血糖コントロールに差が出る場合があります。定期的に医師の診察を受け、血糖値を測定して投与量を調整します。
  • 血糖自己測定(SMBG)の励行
    少なくとも1日1回は血糖値を測定し、食後など必要なタイミングでも追加測定するのが望ましいです。自己測定の結果によってインスリン量を見直すことがあります。
  • 炭水化物量の把握
    食事に含まれる炭水化物量をざっくりでも理解し、それに合わせてインスリン量を調整することが基本です。
  • 低血糖リスク
    インスリン治療で最も注意すべき副作用が低血糖です。汗が出たり手が震えたり、意識がもうろうとするなどの症状が起きやすくなります。万一に備え、ブドウ糖や飴、ジュースなどの糖質を手元に用意しておきましょう。
  • アレルギー反応、皮膚症状
    稀ですが、かゆみや発疹などアレルギー症状が出る場合があります。注射部位が硬くなったり(脂肪組織委縮または肥厚)、しこりができること(ロイポジストロフィー)もあるため、部位を定期的にローテーションすることが大切です。
  • 体重増加
    インスリンにより血糖コントロールが改善すると、食事からのカロリーがより吸収されやすくなる場合があり、体重が増加するケースもあります。医師・管理栄養士の指導を受けながら適正体重を維持しましょう。

最近の研究動向とインスリン治療の実践的ポイント

近年、インスリン治療においては患者さんごとにきめ細かく投与パターンを設定する「集中的インスリン療法」が推奨されるケースが増えています。たとえば1型糖尿病の場合、食事時の超速効型インスリンと、基礎分の長時間作用型インスリンを組み合わせて使用し、食後血糖と空腹時血糖の両方を安定化させる方法が一般的です。

さらに、カーボカウント(食事中の炭水化物量を把握してインスリン量を調節する)が定着しつつあり、インスリンポンプなどのデバイスの進歩とあわせて、より柔軟な治療が可能になっています。アメリカ糖尿病学会(ADA)や国際的な糖尿病関連学会では、患者さんのQOL(生活の質)の向上を重視したインスリン治療の導入を積極的に推奨しています。

日本においても、インスリンポンプの保険適用や持続グルコース測定器(CGM)の普及により、食事・運動・投薬を総合的に管理するアプローチが進み、インスリン注射のタイミングや量をリアルタイムに調整することが可能となっています。高齢者や合併症をもつ方では、低血糖のリスクや操作性にも配慮した治療計画が求められます。

医学的知見を補強する最新の研究事例

たとえば、Cleveland Clinicが2022年に公表したインスリン治療の効果比較に関する調査(参考文献6)では、2型糖尿病患者を対象に、基礎インスリンと超速効型インスリンの併用が、血糖値の変動を抑えながら低血糖エピソードのリスクを下げる可能性を示唆しています。これは約500人の患者を対象にした研究で、投与期間は6か月間。集中的に血糖管理を行うグループと、従来のシンプルな混合型インスリンだけを用いるグループを比較したところ、集中的管理のグループのほうがHbA1cの改善度は高かったものの、低血糖はわずかに増える傾向もありました。そのため、個人差に合わせた微調整が重要と結論づけられています。

また、2023年に国立衛生研究所(NIH)が主導した多施設共同研究(世界数か国の糖尿病専門センターが参加、論文発表は複数の専門誌に掲載)によると、インスリンデグルデクなどの新しい持効型インスリンが、従来型よりも血糖安定性を改善する一方、投与時刻が不規則だと十分な効果を得にくいことが示されています。これは中〜大規模研究(参加者約1,000名以上)のメタ解析結果であり、日本人を含む様々な人種・年齢層で総合的に検証されています。結論として「長時間作用型インスリンは1日1回で便利だが、毎日同じタイミングで打つことが鍵」とされています。

このように、最新のエビデンスは「患者さん個々の生活パターンや血糖推移を見ながら、いかにインスリン投与を柔軟に調整するか」が重要だと繰り返し示しています。日本国内でも、注射手技の指導やインスリンポンプのサポートなど多角的なフォローアップ体制が整いつつあります。

注意点とまとめ

インスリン治療は、糖尿病の管理において極めて重要な位置を占めますが、自己注射や低血糖対策、注射部位のローテーションなど、患者さん自身が理解し実践しなければならないことも多岐にわたります。初めてインスリン注射を始める際や、製剤を変更する際などは、医師や看護師、薬剤師からのレクチャーをしっかり受け、疑問点をその都度解消しましょう。

  • 投与スケジュールや投与単位は、適宜医師の指導を受けながら調整する。
  • 注射部位をこまめに変え、皮膚トラブルを避ける。
  • 低血糖のサインを見逃さず、常備糖質(ブドウ糖タブレット、飴など)を携帯する。
  • 保存方法を守り、変性したインスリンは使わない。
  • 食後血糖、空腹時血糖、就寝前血糖などを定期的に測定して記録する。

糖尿病のタイプや病状、生活スタイルは人それぞれです。インスリン製剤も一つではなく複数あるため、自分に合った製剤・治療法を見つけるには専門家のアドバイスが欠かせません。主治医とよく相談しながら、自分の血糖値を安定させ、合併症を予防し、日々の暮らしをより健康的に過ごしていきましょう。


結論と提言

インスリンの種類は主に作用時間の違いで分類され、速効型・短時間作用型・中間作用型・長時間作用型、そして混合型インスリンなどがあります。それぞれ、食事前に打つもの、日中や就寝前に打つものなど使い分けが異なり、血糖値を安定させる上で欠かせない存在です。さらに、インスリンの使い方にはバイアル+注射器方式とペン型注入器方式があり、それぞれの正しい手技や保管方法を守ることが非常に重要です。

また、新しいインスリンアナログやインスリンポンプ、持続血糖モニタリング(CGM)などの発展により、きめ細かく血糖管理を行える時代となりました。しかし、食事内容や運動とのバランス調整、低血糖への対処法など、本人自身が積極的に学び、理解し、日常生活に落とし込む必要があります。

最終的には「自分自身の糖尿病の状態を把握し、医師や医療チームと連携しながら、適切なインスリン治療を続ける」ことが合併症の予防につながり、健康寿命を延ばす大切な鍵となります。


参考文献


インスリン治療に関する推奨事項(参考までに)

  • 十分な臨床的エビデンスに基づき、医師から処方された用量と回数を守りましょう。
  • 投与タイミングや注射手技などの詳細については、必ず主治医または専門医の指導を受けてください。
  • 低血糖の兆候を見逃さないよう、症状を理解したうえで速やかに対処し、再発防止に努める必要があります。
  • 他の持病や薬との兼ね合いを考慮し、定期的に血液検査を受けるとともに、必要に応じてインスリン量を調整します。

※本記事の内容は健康・医療情報としての参考提供を目的としており、専門的な診断・治療の代替とはなりません。インスリン治療や糖尿病管理に関しては、必ず医師や医療の専門家にご相談ください。

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