本記事の科学的根拠
本記事は、厚生労働省や日本の専門学会、世界保健機関(WHO)などの公的データおよび査読付き論文にもとづき、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が、日本の生活者向けにわかりやすく整理したものです。以下に、主な情報源と本記事における位置づけを記載します。
- 厚生労働省 (MHLW): 本記事におけるインフルエンザの定義、ワクチン接種、治療方針、そして特に「学校保健安全法」に基づく出席停止期間や治癒証明書に関する指針は、厚生労働省が公開する最新のQ&Aに基づいています6。これは、日本国内におけるインフルエンザ対策の最も権威ある基準です。
- 国立感染症研究所 (NIID): ウイルスの変異(抗原ドリフト・シフト)に関する科学的解説や、日本国内の流行状況に関するデータは、国立感染症研究所の公式報告に基づいています1718。
- 日本小児科学会: 小児に対するインフルエンザの治療指針、特に抗ウイルス薬の使用やワクチン接種に関する詳細な推奨事項は、日本小児科学会の最新ガイドラインを情報源としています4。
- 日本ワクチン学会: 2024-2025年シーズンにおけるワクチン株の種類や、年齢別の推奨接種回数に関する専門的な見解は、日本ワクチン学会の提言に基づいています20。
- 世界保健機関 (WHO) / 米国疾病予防管理センター (CDC): 世界的なインフルエンザの定義、危険性の高い集団、予防接種の国際的な推奨事項に関する記述は、WHOおよびCDCの公表する科学的データと比較検討し、国際的な標準治療との整合性を確認するために参照しています2122。
要点まとめ
- インフルエンザは単なる「重い風邪」ではなく、高熱や全身症状が急激に現れ、肺炎や脳症などの重篤な合併症を引き起こす危険性がある感染症です。
- 最大の予防策はワクチン接種です。ワクチンは感染を完全に防ぐものではありませんが、発症の可能性を減らし、特に重症化や死亡を防ぐ上で極めて高い効果が科学的に証明されています。
- ウイルスは毎年少しずつ変異するため、毎年流行シーズン前にワクチンを接種することが世界的に推奨されています。2024-2025年シーズンも新たなワクチンが提供されています。
- 学校保健安全法では、インフルエンザの出席停止期間を「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」と明確に定めています6。
- 厚生労働省は、医療機関や患者の負担軽減のため、学校や職場が復帰の際に「治癒証明書」や「陰性証明書」を求める必要はないとの見解を示しています6。
- 高齢者、持病のある方、妊娠中の方、乳幼児などは特に重症化リスクが高いため、ワクチン接種や日常生活での予防策に加え、早めの受診や家族・職場でのサポート体制づくりが重要です621。
インフルエンザの主な症状と経過のイメージ
インフルエンザは、感染から1〜3日ほどの潜伏期間を経て、突然38℃以上の高熱や強い倦怠感が現れることが多い病気です。普通の風邪と比べて、全身症状が強く、仕事や家事が手につかないほどつらく感じる方も少なくありません61618。
- 急な高熱(38〜40℃程度)
- 寒気・悪寒、全身のだるさ
- 頭痛、関節痛、筋肉痛
- 咳、のどの痛み、鼻水・鼻づまり
- 食欲低下、眠気、ぐったりして動けない感じ など
典型的には、発症から数日間は高熱と全身のつらさが続き、その後徐々に熱が下がり、咳やだるさだけがしばらく残るという経過をたどります。多くの人は1週間前後で日常生活に戻れますが、高齢者や基礎疾患のある方では、肺炎や持病の悪化をきっかけに入院や長期のリハビリが必要になることもあります621。
特に、息苦しさが増してくる、意識がぼんやりして会話がかみ合わない、けいれんが起こる、水分が全く取れないといった症状は、重症化のサインであり、ただちに医療機関を受診すべき目安です(後述の「症状を見分ける:重症化の危険なサイン」の項でも詳しく解説します)。
インフルエンザとは?普通の風邪との決定的な違い
多くの人が「インフルエンザは重い風邪」と捉えがちですが、医学的には全く異なる疾患です。この違いを理解することが、適切な初期対応と重症化予防の第一歩となります。最大の相違点は、原因となるウイルス、症状の現れ方、そして合併症の危険性です621。
普通の風邪は、ライノウイルスやコロナウイルス(新型コロナウイルスを除く)など多種多様なウイルスによって引き起こされ、通常はくしゃみ、鼻水、喉の痛みといった局所的な症状が中心で、発熱も比較的軽度です。一方、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって引き起こされ、38度以上の高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛といった全身症状が急激に現れるのが特徴です。特に高齢者や乳幼児、基礎疾患を持つ方では、肺炎や急性脳症といった命に関わる合併症を引き起こす危険性が風邪よりも格段に高いことが知られています7。
厚生労働省の公式情報に基づき、両者の違いを以下にまとめます6。
| 項目 | インフルエンザ | 普通感冒(風邪) |
|---|---|---|
| 原因ウイルス | インフルエンザウイルス | ライノウイルス、コロナウイルスなど多種 |
| 発症の仕方 | 急激 | ゆるやか |
| 主な症状 | 38℃以上の高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が強い | 喉の痛み、鼻水、くしゃみ、咳などの局所症状が主体 |
| 悪寒 | 強いことが多い | 軽度 |
| 合併症 | 気管支炎、肺炎、急性脳症など。重症化することがある。 | 比較的少ない |
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3つの主要な型が存在します。このうち、世界的な大流行(パンデミック)や季節性流行の原因となるのは、主にA型とB型です。C型は多くの人が幼少期に感染し、症状も比較的軽いとされています18。
インフルエンザが引き起こす主な合併症
インフルエンザは多くの場合、数日〜1週間程度で自然に回復しますが、特に次のような合併症には注意が必要です6716。
- 肺炎(インフルエンザウイルス自体による肺炎、または細菌性肺炎の二次感染)
- 急性脳症(特に小児で、けいれんや意識障害を伴う重篤な状態)
- 心筋梗塞・脳卒中など心血管系のイベント
- 高齢者における筋力低下・フレイルの進行や日常生活動作の低下
これらの合併症リスクは、高齢者、基礎疾患を持つ方、妊娠中の方、乳幼児などで特に高くなります。そのため、ワクチン接種による重症化予防と、早めの受診・適切な治療が重要になります。
インフルエンザの科学:ウイルスはなぜ毎年姿を変えるのか?
「なぜ毎年インフルエンザのワクチンを打たなければならないのか?」これは多くの人が抱く素朴な疑問です。その答えは、インフルエンザウイルスが持つ巧みな「変身能力」にあります。国立感染症研究所(NIID)などの専門機関によると、この変身には主に2つのメカニズムが存在します18。
抗原連続変異(Antigenic Drift)
これが、毎年の季節性流行を引き起こす主な原因です。ウイルスが増殖する過程で、その表面にあるタンパク質(抗原)の遺伝子に小さな変異が絶えず蓄積していきます。この小さな変化により、過去の感染やワクチンで獲得した免疫が効きにくくなります。人間で例えるなら、毎年少しずつ服装や髪型を変えて、免疫システムという「顔認証」をすり抜けるようなものです。このため、私たちは毎年新しいワクチンで免疫を更新する必要があるのです。
抗原不連続変異(Antigenic Shift)
これは、新型インフルエンザによる世界的大流行(パンデミック)を引き起こす可能性のある、より大きな変化です。異なる種類のインフルエンザウイルス(例えば、ヒトのウイルスと鳥のウイルス)が同じ細胞に同時に感染した際に、遺伝子が大規模に入れ替わってしまう現象です。これにより、ほとんどの人が免疫を持たない、全く新しいタイプのウイルスが生まれることがあります。過去のスペインかぜやアジアかぜなどがこれにあたります。これは、服装を変えるレベルではなく、全くの別人に変身するような劇的な変化と言えます。
この2つの変異メカニズムの存在こそが、インフルエンザが人類にとって永続的な脅威であり続ける理由であり、継続的な監視とワクチン開発が不可欠である科学的根拠なのです。
世界と日本の監視体制
インフルエンザは、世界各地のサーベイランスシステムによって一年中監視されています。WHOは各国から集められたウイルスの情報をもとに、流行株の変化を評価し、次シーズンのワクチン株を選定しています21。日本でも、国立感染症研究所や各自治体が定点医療機関からの報告を集計し、「インフルエンザ流行レベルマップ」などとして公開しています517。
こうした監視体制により、「どの地域で流行が始まっているのか」「今シーズンのウイルスは例年と比べてどのような特徴があるのか」といった情報が迅速に共有され、ワクチン政策や医療現場の備えに活かされています。一般の方にとっても、自分が住んでいる地域の流行状況を定期的にチェックすることで、外出や人混みへの参加、ワクチン接種のタイミングを考える際の目安になります。
2024-2025年シーズンの見通しとワクチン株
世界保健機関(WHO)は毎年、世界中の流行状況を分析し、次のシーズンに流行する可能性が高いウイルス株を予測してワクチン推奨株を発表します。これに基づき、日本国内でもワクチンが製造されます。国立感染症研究所や日本ワクチン学会によると、2024-2025年シーズンに使用される4価ワクチン(4種類のウイルス株に対応)には、A型2種とB型2種のウイルス株が含まれています20。
日本国内の流行状況は、国立感染症研究所が提供する「インフルエンザ流行レベルマップ」で毎週更新されており、地域ごとの流行レベルを視覚的に確認することができます17。シーズン開始前に自分の住む地域の状況を確認することは、予防意識を高める上で非常に有効です。
2024〜2025年シーズンは、新型コロナウイルス感染症との同時流行が起こる可能性も指摘されています7。特に都市部では、通勤や通学で多くの人と接する機会が多くなりがちです。地域の流行レベルを確認しつつ、体調がすぐれないときには無理をして登校・出勤しない、在宅勤務を活用するなど、社会全体で感染拡大を抑える行動が求められます。
最重要戦略「ワクチン接種」:効果・種類・時期・副反応のすべて
インフルエンザ対策において、科学的根拠に裏付けられた最も有効な手段がワクチン接種です。ここでは、ワクチンに関するあらゆる疑問に答えます。
ワクチンの本当の効果:重症化を防ぐ最大の武器
よくある誤解として「ワクチンを打ってもインフルエンザにかかるから意味がない」というものがあります。しかし、インフルエンザワクチンの最大の目的は「感染を100%防ぐ」ことではなく、「発症後の重症化、入院、そして死亡を防ぐ」ことにあります622。厚生労働省や米国疾病予防管理センター(CDC)のデータによると、ワクチン接種者は未接種者に比べて、インフルエンザによる入院や集中治療室(ICU)での治療が必要になる危険性が大幅に低下することが一貫して示されています622。自分自身と、周りの大切な人々を重篤な状態から守るための、いわば「命の保険」なのです。
誰が接種すべき?日本の定期接種対象者
インフルエンザは誰でも感染する可能性がありますが、特に重症化しやすい「ハイリスク群」が存在します。これには、高齢者、乳幼児、妊婦、そして心臓、肺、腎臓の慢性疾患や糖尿病、免疫不全などの基礎疾患を持つ人々が含まれます21。日本では、このうち特に重症化危険性が高い人々を守るため、予防接種法に基づく「定期接種」の制度が設けられています。具体的には、以下の人々が対象となります6。
- 65歳以上の方
- 60歳から65歳未満で、心臓、腎臓、もしくは呼吸器の機能またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に重い障害を有する方
定期接種の対象者は、多くの市区町村で公費助成(費用の補助)が受けられます。詳細はお住まいの自治体にご確認ください。
一方で、定期接種の対象ではない働き世代や学生の方でも、ワクチン接種によって「自分が重症化するリスクを下げる」「家族や職場のハイリスクの人にうつす可能性を減らす」といったメリットがあります2122。持病の有無や生活環境を踏まえ、かかりつけ医と相談しながら接種を検討するとよいでしょう。
接種のベストタイミングはいつ?
ワクチン接種後、体内で十分な免疫が作られるまでには約2週間かかります。日本のインフルエンザ流行は通常12月下旬から3月上旬がピークとなるため、10月から12月中旬までに接種を完了することが推奨されています23。流行が始まってから慌てて接種するよりも、ピーク前に余裕をもって準備しておくことが重要です。
日本で利用可能なワクチンの種類と接種回数
日本で主に用いられているのは、ウイルスを無毒化した「不活化ワクチン」で、注射によって接種します。また、一部の医療機関では、鼻から噴霧するタイプの「経鼻弱毒生ワクチン(LAIV)」も使用されていますが、これは定期接種の対象外です4。
接種回数は年齢によって異なり、日本ワクチン学会や日本小児科学会は以下のように推奨しています420。
- 13歳以上の方:原則として1回接種。
- 生後6ヶ月以上13歳未満の方:2回接種(約2~4週間の間隔をあけて)。十分な免疫を獲得するために2回接種が推奨されます。
妊娠中・授乳中の方のワクチン接種
インフルエンザにかかると、妊娠中の方では重症化しやすいことが知られており、日本および各国のガイドラインでは、妊婦を優先的な接種対象として位置づけています62126。妊娠中でも、不活化ワクチンは安全性が確認されており、妊娠初期〜後期を通じて接種が可能とされています。
また、授乳中の方がワクチン接種を受けても、母乳を通じて赤ちゃんに悪影響が出ることは基本的にないとされています26。むしろ、本人が重症化を防ぐことで育児への影響を減らせるというメリットがあります。妊娠週数や持病によって個別の判断が必要な場合もあるため、必ず産婦人科医やかかりつけ医と相談したうえで接種しましょう。
副反応について知っておくべきこと
ワクチン接種後には、体の免疫反応によって副反応が起こることがあります。これは、ワクチンが正常に機能している証拠でもあります。厚生労働省によると、最も一般的な副反応は、接種した場所の赤み、腫れ、痛みです。これらは通常2~3日で自然に治まります。全身性の副反応として、発熱、頭痛、倦怠感などが現れることもありますが、これらも一過性のものです6。極めて稀に、アナフィラキシーなどの重いアレルギー反応が起こる可能性がありますが、接種後すぐに医療機関で対応できるよう体制が整えられています。接種後の体調変化で気になることがあれば、速やかに接種した医療機関に相談してください。
高齢者向け高用量ワクチン(HDワクチン)について
近年、日本でも60歳以上の方を対象とした高用量インフルエンザワクチン(HDワクチン)が導入されました10。これは、従来の標準用量ワクチンに比べてヘマグルチニン抗原量が多く、高齢者で低下しがちな免疫応答をより強く引き出すことを期待して開発されたワクチンです1022。
海外の大規模臨床試験では、高用量ワクチンが標準用量ワクチンよりもインフルエンザによる発症や入院を減らしたとする結果が報告されています10。一方で、接種部位の痛みや腫れなどの局所反応はやや増える傾向があるため、基礎疾患やこれまでの接種歴を踏まえ、どのワクチンが適しているかは医師と相談して決めることが大切です。
いずれのワクチンを選ぶ場合でも、「インフルエンザによる重症化を防ぐ」ことが最も重要な目的である点に変わりはありません。60歳以上や高齢の家族がいるご家庭では、早めにかかりつけ医に相談し、シーズン前に接種計画を立てておきましょう。
日常生活での予防策:科学的根拠に基づく行動
ワクチン接種と並行して、日常生活での基本的な感染対策を徹底することが流行を抑える鍵となります。これらの対策は、政府広報や厚生労働省によって推奨されているものです25。
正しい手洗いと咳エチケット
インフルエンザウイルスの主な感染経路は、咳やくしゃみによる「飛沫感染」と、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることによる「接触感染」です。流水と石鹸による正しい手洗いは、接触感染を防ぐ最も基本的で効果的な方法です22。また、咳やくしゃみをする際は、ティッシュや袖の内側で口と鼻を覆う「咳エチケット」を徹底し、周囲への飛沫の拡散を防ぎましょう7。
マスク、換気、湿度の重要性
- マスクの着用:特に不織布製のマスクは、咳やくしゃみの飛沫を防ぐのに有効です。流行期に人混みへ出かける際は、マスクの着用が推奨されます25。
- 定期的な換気:ウイルスが室内に滞留するのを防ぐため、定期的に窓を開けて空気を入れ替えましょう。
- 適切な湿度の保持:空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、ウイルスに感染しやすくなります。加湿器などを使用して、室内の湿度を50~60%に保つことが効果的です23。
体調管理と生活習慣の見直し
インフルエンザの予防では、ウイルスを「近づけない」「広げない」ことに加え、からだの抵抗力を保つことも重要です。十分な睡眠、栄養バランスのとれた食事、適度な運動、過度な飲酒や喫煙を控えることは、いずれも感染症全般のリスクを下げる基本となります21。
特に基礎疾患のある方は、かかりつけ医の指示に従って血圧や血糖、喘息などのコントロールを良好に保つことが、インフルエンザにかかった場合の重症化リスクを減らすうえでも重要です。慢性疾患の定期受診や服薬を「つい面倒でサボってしまう」という方こそ、インフルエンザシーズン前に一度生活習慣を振り返ってみるとよいでしょう。
もし感染してしまったら?症状のサインと対処法
症状を見分ける:重症化の危険なサイン
インフルエンザが疑われる場合は、安静にして十分な休養と水分補給を心がけることが基本です。しかし、特に注意すべき「危険なサイン」が存在します。首相官邸や厚生労働省は、以下のような症状が見られる場合は、重症化の可能性があるため、直ちに医療機関を受診するよう呼びかけています7。
- 小児の場合:けいれんや意識障害、呼吸が速い・苦しそう、顔色が悪い(土気色)、嘔吐や下痢が続くなど。
- 大人の場合:呼吸困難または息切れ、胸の痛みが続く、意識がもうろうとする、3日以上続く高熱など。
医療機関を受診するタイミングと相談のポイント
「この程度の症状で受診してよいのか」「救急外来に行くべきか」迷う方も多いでしょう。厚生労働省や首相官邸の情報では、前述の危険なサインがある場合や、ハイリスクの方がインフルエンザを疑う症状を自覚した場合には、できるだけ早く医療機関に相談するよう勧めています67。
受診の際には、次の点をメモしておくと診察がスムーズです。
- 発症したと考えられる日時と、最初に出た症状
- 現在の体温や、解熱剤を使用したかどうか
- 持病や普段飲んでいる薬(特に血液をさらさらにする薬など)
- 妊娠中かどうか、家族構成(乳幼児や高齢者と同居しているか など)
電話やオンライン診療を活用できる医療機関も増えています。発熱外来の混雑状況や受診方法は地域によって異なるため、事前に自治体やかかりつけ医の案内を確認しておくと安心です517。
抗インフルエンザウイルス薬(タミフル等)について
インフルエンザの治療には、オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビル(商品名:リレンザ)、ラニナミビル(商品名:イナビル)、ペラミビル(商品名:ラピアクタ)、バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ)などの抗インフルエンザウイルス薬が用いられます4。これらの薬はいずれもウイルスの増殖を抑える薬で、症状が出始めてから48時間以内に使用を開始すると、発熱期間を1~2日短縮し、重症化を防ぐ効果が期待できます46。
一方で、すべての人に必ず抗ウイルス薬が必要というわけではありません。基礎疾患の有無や年齢、症状の強さ、家族構成などを踏まえて、どの薬を使うか、あるいは薬を使わず経過観察とするかを、医師が総合的に判断します4。以前処方された薬を自己判断で再び服用したり、家族の薬を分け合ったりすることは大変危険ですので、必ず医療機関で指示を受けてください。
日本におけるインフルエンザ:社会と法律の側面
インフルエンザは個人の健康問題であると同時に、集団生活における重要な社会・法的側面を持ちます。ここでは、日本の法律や公的見解に基づいた、多くの人が直面する現実的な問題について解説します。
【最重要】学校・職場はいつから休む?法律に基づく出席停止期間
お子さんがインフルエンザと診断された場合、いつまで学校を休ませるべきか、また自身が感染した場合、いつまで仕事を休むべきかは、感染拡大を防ぐ上で極めて重要です。この基準は、「学校保健安全法」という法律で明確に定められており、社会生活の基本ルールとなっています。厚生労働省のQ&Aによると、出席停止期間は以下の通りです6。
「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」
「発症した日」は0日目として計算します。例えば、月曜日に発症した場合、火曜日が1日目となり、最短でも土曜日までが出席停止となります。さらに、熱が下がった後もウイルスは体内に残っているため、「解熱後2日間」という基準も満たす必要があります。これは、他者への感染を防ぐための社会的な責務です。
治癒証明書は必要か?厚生労働省の見解
学校や職場に復帰する際に、「治癒証明書」や「陰性証明書」の提出を求められるケースがあり、これが患者や医療機関にとって大きな負担となっています。この点について、厚生労働省は明確な見解を示しています。
結論から言うと、「復帰にあたり、治癒証明書や陰性証明書の提出を求める必要はない」というのが公式な立場です6。学校保健安全法で定められた出席停止期間を守ることが、集団生活における感染対策の基本であり、追加の証明書は不要とされています。この方針は、不要な受診を減らし、医療機関が重症患者の治療に集中できるようにするためにも重要です。
仕事・学校とインフルエンザ:周囲とどう話し合うか
インフルエンザにかかったとき、「忙しい時期だから」「周りに迷惑をかけたくないから」と無理をして出勤・登校してしまう方も少なくありません。しかし、発症直後はウイルス量が多く、周囲に感染を広げやすい時期でもあります621。
出席停止期間や復帰の目安は学校保健安全法で明確に定められているため、学校や職場にはその基準を守ることが、本人と周囲の双方を守るうえで大切だと落ち着いて伝えましょう。最近では、在宅勤務やオンライン授業など柔軟な対応が可能な場面も増えています。体調が戻るまでは無理をせず、会社や学校と相談しながら、「休む勇気」と「周囲にうつさない配慮」を優先することが、結果的に社会全体の負担軽減につながります。
家庭内での感染拡大を防ぐ5つのポイント
家族の誰かがインフルエンザに感染した場合、家庭内での感染拡大を防ぐことが重要です。以下の5つのポイントを心がけましょう23。
- 部屋を分ける:可能であれば、感染者を個室で療養させ、他の家族との接触を最小限にしましょう。
- 換気を徹底する:部屋の窓を定期的に開けて、空気を入れ替えましょう。
- 共有部分の消毒:ドアノブ、スイッチ、リモコンなど、皆が頻繁に触れる場所をアルコールなどでこまめに消毒しましょう。
- 個人用品の区別:タオルや食器、コップなどは共有せず、個人専用としましょう。
- お世話をする人の衛生管理:看病する人は、不織布マスクを着用し、患者に接した後や食事の準備前には必ず手洗いを行いましょう。
よくある質問
ワクチンを接種すれば、絶対にインフルエンザにかからないのですか?
抗インフルエンザウイルス薬を服用すると、異常行動が起こると聞きましたが本当ですか?
過去に、抗インフルエンザウイルス薬の服用と異常行動(突然走り出す、飛び降りるなど)との関連が懸念された時期がありました。しかし、その後の大規模な調査研究の結果、厚生労働省は「抗インフルエンザウイルス薬の服用が異常行動の直接的な原因であるとは断定できない」との見解を示しています。インフルエンザに罹患していること自体が、高熱などの影響で異常行動を引き起こす可能性があるとされています。いずれにせよ、特に未成年の患者がインフルエンザと診断された場合は、薬の服用の有無にかかわらず、発症から少なくとも2日間は一人にしないなどの配慮が重要です6。
昨年接種したワクチンは今年も有効ですか?
インフルエンザと新型コロナの症状はどう違いますか?
妊娠中にインフルエンザが疑われる場合はどうすればよいですか?
家族がインフルエンザになりました。周りの家族もすぐにワクチンを打った方がよいですか?
結論
インフルエンザは、毎年のように私たちの健康を脅かす身近な感染症ですが、正しい知識と適切な対策によって、その危険性を大幅に減らすことが可能です。本稿で解説したように、その核心は「科学的根拠に基づく予防と対応」にあります。2024-2025年シーズンに向けて、最も効果的な武器であるワクチン接種を適切な時期に行い、日々の手洗いや咳エチケットといった基本的な予防策を徹底すること。そして、万が一感染した際には、法律で定められた基準に従って適切に休み、周囲への感染拡大を防ぐ社会的な責任を果たすこと。これらが、あなた自身、ご家族、そして社会全体をインフルエンザの脅威から守るための鍵となります。この記事が、皆様の健康な冬の一助となることを心より願っています。健康に関する懸念や症状がある場合は、決して自己判断せず、必ずかかりつけの医師や薬剤師にご相談ください。
インフルエンザに関する情報は日々更新されています。最新のガイドラインや公的機関の情報を確認しながら、ご自身と大切な人を守るための最適な選択肢を一緒に考えていきましょう。本記事の内容は、厚生労働省や日本の専門学会、WHOなどの信頼できる情報源をもとに、JHO編集部が日本の生活者向けに整理したものです。疑問や不安が残る場合は、遠慮なく医療専門職に相談してください。
免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医師・薬剤師などの医療専門職にご相談ください。
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