この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源のみが含まれており、提示された医学的指導との直接的な関連性も示されています。
- 公益社団法人 日本眼科医会: この記事におけるウイルス性結膜炎の一般的な情報、症状、および感染対策に関する指導は、日本眼科医会が提供する健康情報に基づいています1。
- 奈良県: 流行性角結膜炎の具体的な予防方法、特に消毒に関する記述は、奈良県の公衆衛生情報に基づいています2。
- MSDマニュアル: ウイルス性結膜炎の専門的な定義、症状(特に濾胞形成や角膜上皮下混濁)、および治療の原則に関する記述は、医師向けのMSDマニュアル プロフェッショナル版の情報を参照しています6。
- メイヨー・クリニック (Mayo Clinic): 診断と治療、特にコンタクトレンズの使用に関する注意点やセルフケアの指針は、米国の著名な医療機関であるメイヨー・クリニックの患者向け情報に基づいています8。
- 国立感染症研究所: 流行性角結膜炎(EKC)の原因となるアデノウイルスの型が近年変化している(53、54、56型など)という最先端の疫学情報は、国立感染症研究所の報告に基づいています18。
- 厚生労働省: 流行性角結膜炎の届出基準や公衆衛生上の重要性に関する記述は、厚生労働省の公式情報に基づいています17。
- 日本眼科学会: 治療や診断に関するより詳細な専門的指針は、日本眼科学会が策定したウイルス性結膜炎ガイドラインを参照しています16。
- 学校保健安全法: 学校における出席停止の法的根拠と具体的な基準は、学校保健安全法およびその施行規則に基づいています3134。
- コクラン・レビュー: 新しい治療法の可能性として挙げたポビドンヨード点眼に関する記述は、信頼性の高い医学研究の系統的レビューであるコクラン・レビューの報告に基づいています23。
要点まとめ
- ウイルス性結膜炎(はやり目)は感染力が非常に強く、アデノウイルス等が原因で起こる。特効薬はなく、治療は症状緩和と合併症予防が中心となる1。
- 代表的な種類に「流行性角結膜炎(EKC)」「咽頭結膜熱(PCF)」「急性出血性結膜炎(AHC)」があり、潜伏期間や症状が異なる1。
- EKCでは、治りかけに角膜(黒目)が濁り視力に影響することがあるため、医師の指示通り最後まで点眼治療を続けることが極めて重要である6。
- 感染拡大を防ぐには、石鹸での徹底した手洗い、タオルや点眼薬の共有を避けることが最も重要である1。
- 学校保健安全法により、はやり目は医師が感染の恐れがないと認めるまで出席停止が義務付けられている31。自己判断で登校・出勤してはならない。
第1章:ウイルス性結膜炎の主な種類と原因ウイルス
一口に「ウイルス性結膜炎」と言っても、その原因となるウイルスや症状の現れ方によって、いくつかの種類に分類されます。日本では、特に感染力が強く「はやり目」として警戒されているものに、主に3つのタイプがあります。それぞれ原因ウイルス、症状、重症度が異なるため、その特徴を理解しておくことが重要です1。
1. 流行性角結膜炎 (Epidemic Keratoconjunctivitis – EKC)
概要: 「はやり目」の中で最も代表的で、一般的に症状が最も重くなるタイプです14。感染力が非常に強く、家庭内はもちろん、学校、職場、さらには医療機関内での集団発生(院内感染)の原因となることで知られています15。
原因ウイルス: 主にアデノウイルス(Adenovirus)によって引き起こされます。特にD群に属する8型、19型、37型が伝統的な原因ウイルスとして知られていますが、後述するように、近年では新たな型のウイルスによる流行も報告されています7。
潜伏期間: 感染してから症状が出るまでの期間が比較的長く、約1~2週間です13。
2. 咽頭結膜熱 (Pharyngoconjunctival Fever – PCF)
概要: 一般に「プール熱」という名称でよく知られています。その名の通り、夏場にプールの水を介して子どもたちの間で流行することがあります。結膜炎の症状に加え、発熱やのどの痛みといった全身症状を伴うのが大きな特徴です1。
原因ウイルス: こちらもアデノウイルスが原因ですが、EKCとは異なる型、主に3型、4型、7型によって引き起こされます1。
潜伏期間: EKCよりも短く、感染から約5~7日で発症します13。
3. 急性出血性結膜炎 (Acute Hemorrhagic Conjunctivitis – AHC)
概要: 発症が非常に急激で、白目部分に顕著な出血(結膜下出血)が見られるのが特徴です。白目が真っ赤になるため、見た目のインパクトが強い結膜炎です1。
原因ウイルス: アデノウイルスではなく、エンテロウイルス70型(Enterovirus 70)やコクサッキーウイルスA24変異株(Coxsackievirus A24 variant)が原因となります1。
潜伏期間: 潜伏期間が極めて短く、感染からわずか1日程度で症状が現れるのが特徴です1。
日本におけるウイルスの進化:変化し続ける「はやり目」の病原体
ここで特筆すべきは、「はやり目」の原因ウイルス、特にEKCを引き起こすアデノウイルスは決して静的な存在ではないという点です。教科書的には8型、19型、37型が主な原因とされてきましたが13、国立感染症研究所(NIID)などの専門機関からの報告によると、2007年頃から、これまでの血清型(serotype)とは異なる、ウイルスの遺伝子情報(genotype)に基づいた新しい型が国内の流行を引き起こしていることが明らかになっています18。
具体的には、アデノウイルスの53型、54型、56型といった新しい遺伝子型が、日本国内でEKCの流行を引き起こす主要な原因として同定されています18。これは、過去に一度「はやり目」にかかったことがある人でも、異なる型のウイルスには免疫がないため、再び感染する可能性があることを意味します。このように、私たちが直面している「はやり目」の臨床像は、ウイルスの進化とともに常に変化しているのです。この事実は、単なる学術的な興味にとどまらず、なぜ「はやり目」が繰り返し流行するのか、そしてなぜ継続的な公衆衛生上の監視が重要なのかを理解する上で、極めて重要な情報と言えるでしょう。
これらの違いを分かりやすく整理するために、以下の表にまとめます。
疾患名 | 主な原因ウイルス | 潜伏期間 | 主な症状 | 感染力が強い期間 |
---|---|---|---|---|
流行性角結膜炎 (EKC) | アデノウイルス (8, 19, 37, 53, 54, 56型など) | 約1~2週間 | 強い充血、多量の目やに、涙、異物感、まぶたの腫れ。後に角膜混濁を伴うことがある。 | 発症から約2週間1 |
咽頭結膜熱 (PCF) | アデノウイルス (3, 4, 7型など) | 約5~7日 | 結膜炎症状に加え、39℃前後の発熱、のどの痛み(咽頭炎)を伴う。 | 発症から約2週間1 |
急性出血性結膜炎 (AHC) | エンテロウイルス70型、コクサッキーウイルスA24変異株 | 約1日 | 突然の強い目の痛み、異物感、著しい結膜下出血(白目が真っ赤になる)。 | 発症から約3~4日1 |
第2章:見逃さないで!種類別の詳細な症状と経過
ウイルス性結膜炎の症状は多岐にわたりますが、種類ごとに特徴的なサインがあります。これらを理解することは、早期発見と適切な対応につながります。
全てのタイプに共通する症状
まず、どのタイプのウイルス性結膜炎でも見られる基本的な症状は以下の通りです。
- 強い充血: 白目部分が赤く染まります3。
- 異物感: 目の中に砂やゴミが入ったような「ゴロゴロする」感覚があります6。
- 流涙(りゅうるい): 涙が止まらなくなります6。
- 目やに(眼脂): 細菌性のドロッとしたものとは異なり、ウイルス性の場合は水っぽくサラサラした目やにが特徴です7。
診断の鍵となる特徴的な所見
眼科医が診断を下す際に重視する、より特異的なサインがいくつか存在します。
- 耳前リンパ節の腫脹と圧痛: これはアデノウイルス感染症(EKCおよびPCF)の非常に特徴的な兆候です。耳のすぐ前あたりを触ると、小さなしこりのようなものができ、押すと痛みを伴います。これは、ウイルスと戦うために免疫システムが活発になっている証拠であり、医師にとっては診断の大きな手がかりとなります6。
- 濾胞(ろほう)形成: まぶたの裏側を観察すると、小さなブツブツ(濾胞)が多数できているのが見られます。これもウイルス感染に典型的な所見です14。
- 偽膜(ぎまく)形成: 特に重症のEKC、とりわけ小児の患者さんに見られることがあります。これは炎症細胞やフィブリン(線維素)などが固まってできた白い膜で、結膜の表面に張り付きます。放置すると結膜の癒着を引き起こすことがあるため、眼科医が剥がし取る処置が必要になります4。
- 結膜下出血: 白目部分の血管が破れて真っ赤に出血する状態で、AHCで最も劇的に現れますが、重症のEKCでも見られることがあります13。
EKCにおける角膜(黒目)の病変:視力への影響
EKCが他のウイルス性結膜炎と一線を画すのは、角膜(黒目)に特徴的な病変を引き起こす点です。
- 点状表層角膜炎 (Superficial Punctate Keratitis – SPK): 発症初期に、角膜の表面に無数の小さな点状の傷(びらん)ができます。これが強い痛みや光をまぶしく感じる「羞明(しゅうめい)」の主な原因となります1。
- 角膜上皮下混濁 (Subepithelial Infiltrates – SEI): これはEKCの経過を理解する上で最も重要なポイントです。
咽頭結膜熱(PCF)の全身症状
PCFの場合は、目の症状だけでなく、以下のような全身症状を伴います。
視覚症状の遅延出現と治療継続の重要性
ここで、患者さんが陥りやすい一つの落とし穴について解説します。EKCにおける最も視覚的に問題となる合併症、すなわち角膜上皮下混濁(SEI)は、目の赤みや目やにといった急性期の派手な症状が改善し、「治ってきた」と感じる頃に出現することが多いのです6。この時間差が、治療における重要な課題を生み出します。
患者さんは、目が楽になったと感じると、自己判断で処方された点眼薬の使用をやめてしまうことがあります。しかし、医師が処方するステロイド点眼薬などは、まさにこの遅れてやってくる角膜混濁を治療し、視力への長期的な影響を防ぐために使われるのです1。ある資料では、点眼を途中でやめると角膜に濁りが残ることがあると明確に警告されています3。
したがって、この記事を通じて伝えたい重要なメッセージは、「たとえ目の赤みやゴロゴロ感がなくなり、良くなったと感じても、医師の指示通りに点眼治療を続けることが極めて重要です」ということです。医師は初期の感染症状だけでなく、その後に起こりうる視力への後遺症まで見据えて治療計画を立てています。なぜ治療を続けなければならないのか、その「理由」を理解することが、患者さん自身が積極的に治療に参加し、最良の結果を得るために不可欠なのです。
第3章:眼科での診断方法
ウイルス性結膜炎の疑いで眼科を受診した場合、どのような検査が行われるのでしょうか。診断は主に医師の診察に基づいて行われますが、補助的に迅速検査キットが用いられることもあります。
基本は医師による診察
最も重要なのは、眼科医による問診と診察です。特に「細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)」を用いた検査は、診断の根幹をなします6。この顕微鏡を使うことで、眼球を拡大して詳細に観察でき、第2章で述べたような特徴的な所見、すなわち結膜の濾胞形成、角膜の点状表層角膜炎や上皮下混濁、偽膜の有無などを正確に捉えることができます。患者さんの症状の経過や、周囲での流行状況なども合わせて、総合的に診断が下されます。
迅速診断キットの活用と限界
多くの眼科クリニックでは、アデノウイルス感染をその場で調べることができる迅速診断キット(例:アデノチェック)が導入されています。
- 検査方法: 専用の綿棒で結膜(まぶたの裏など)を軽くこすって涙や細胞を採取し、それを試薬に反応させてウイルスの抗原(ウイルスの一部)の有無を調べます3。
- 所要時間: 約7~10分で結果が判明するため、非常に便利です3。
- キットの限界点: この迅速診断キットは非常に有用ですが、その限界を理解しておくことが患者さんの混乱を避ける上で重要です。
- 検査時期による精度の問題: 発症して間もない時期(特に24~48時間以内)では、ウイルスの量がまだ少なく、検査をしても「陰性(ウイルス検出されず)」と出てしまう(偽陰性)ことがあります3。
- 感度の問題: 迅速キットの感度(実際に感染している人の中から陽性者を見つけ出す能力)は、研究室で行うPCR検査などに比べると低いとされています。そのため、迅速検査で陰性でも、アデノウイルス性結膜炎を完全に否定することはできません4。
- 型の特定は不可能: 迅速検査ではアデノウイルスの存在は確認できますが、それがどの型(例:8型か3型か)であるかまでは特定できません。型の特定は疫学調査には重要ですが、個々の患者さんの治療方針を大きく変えるものではありません18。
鑑別診断
医師は診察の際、他の病気の可能性も常に念頭に置いています。例えば、重度のアレルギー性結膜炎、ヘルペスウイルスによる角結膜炎、あるいは細菌感染症など、似たような症状を示す他の眼疾患と見分ける(鑑別する)必要があります7。
一つの検査結果よりも臨床判断を信頼することの重要性
迅速診断キットが利用できるようになったことで、患者さんにとっては診断が分かりやすくなった反面、誤った安心感を生むリスクも出てきました。ここで強調したいのは、特に感染初期において、経験豊富な医師による臨床的な判断は、偽陰性の可能性がある迅速検査の結果よりも優先されるべきだということです。
例えば、患者さんが「検査では陰性だった」と聞くと、「はやり目ではなかったのだから、学校や仕事を休む必要はない」と自己判断してしまうかもしれません。しかし、臨床症状(濾胞の存在や耳前リンパ節の腫れなど)が典型的なアデノウイルス感染を示している場合、医師はたとえ迅速検査が陰性であっても、ウイルス性結膜炎と診断し、学校の出席停止や家庭内での感染対策を強く指導します。これは、検査の限界を熟知した上で、公衆衛生上のリスクを最小限に抑えるための専門的な判断です。したがって、患者さんは「検査結果」という一つの情報だけでなく、「医師の総合的な診断」を最も信頼し、その指示に従うことが何よりも大切です。
第4章:治療法とセルフケア:特効薬はないが、できることはある
ウイルス性結膜炎と診断された際、多くの方が「どんな薬で治るのか」と期待されることでしょう。しかし、ここで最も重要な事実をお伝えしなければなりません。現在、「はやり目」の主な原因であるアデノウイルスやエンテロウイルスを直接攻撃して退治する特効薬(抗ウイルス薬)は、残念ながら存在しないのです1。
治療の基本は、ウイルスに対する体の免疫力が打ち勝つのを待つことです。そのため、眼科で行われる治療は、症状を和らげ、二次的な問題を防ぐための「対症療法」が中心となります。
眼科で処方される薬とその目的
「特効薬はない」と聞くと無力に感じられるかもしれませんが、医師は症状の管理と合併症の予防のために、いくつかの目的を持った点眼薬を処方します。これは、ただ待つのではなく、回復までの道のりをより安全で快適なものにするための積極的な管理戦略です。
- 不快な症状を和らげるための薬:
- 抗炎症薬の点眼: 結膜の炎症を抑え、充血や腫れといった不快な症状を軽減させるために処方されます1。これにより、患者さんの苦痛が和らぎます。
- 合併症を防ぐための薬:
- 抗菌薬(抗生物質)の点眼: これはウイルスには全く効果がありません。ではなぜ処方されるのかというと、ウイルスによって結膜のバリア機能が低下し、炎症を起こしている目に、細菌が二次的に感染(混合感染)するのを防ぐためです1。いわば、弱っている目に「追い打ち」をかけられないようにするための予防的な措置です。
- 長期的な視力への影響を治療するための薬:
新しい治療法の可能性
治療法は常に研究が進められています。例えば、信頼性の高い医学研究レビューであるコクラン・レビューでは、消毒薬の一種であるポビドンヨード(PVP-I)の点眼薬が、人工涙液と比較して症状の改善を早める可能性を示唆する、確実性は低いものの有望な科学的根拠が報告されています23。これはまだ標準的な治療法ではありませんが、将来的には新たな選択肢となる可能性を秘めており、医学の進歩が続いていることを示しています。
自宅でできるセルフケア
薬物治療と並行して、自宅でできるセルフケアも症状緩和に役立ちます。
- 冷罨法(れいあんぽう): 清潔なタオルなどを冷水で濡らし、固く絞ってから、閉じたまぶたの上に優しく当てることで、不快感や腫れが和らぎます8。
- 人工涙液の使用: 防腐剤の入っていないタイプの人工涙液を点眼することで、目の乾燥感を和らげ、異物感を洗い流す助けになります5。
- 十分な休養と栄養: 体を休ませることは、免疫システムがウイルスと効果的に戦う上で非常に重要です。バランスの取れた食事と十分な睡眠を心がけましょう26。
市販の抗菌目薬に関する重要な注意
ここで、非常に重要な注意喚起があります。ドラッグストアなどで市販されている「結膜炎」用の目薬(例:ロート製薬や参天製薬の製品)は、その多くが「細菌性」結膜炎を対象としています27。これらの製品にはスルファメトキサゾールなどの抗菌成分が含まれていますが282930、これらはウイルスに対しては全く効果がありません。「はやり目」にこれらの市販薬を使用することは、効果がないばかりか、適切な医療機関の受診を遅らせる原因にもなりかねません。自己判断での使用は絶対に避けてください。
第5章:感染を広げないための徹底ガイド:家庭・職場・学校での対策
ウイルス性結膜炎の管理において、治療と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「感染を広げない」ことです。特に日本の社会では、感染症の拡大防止は個人の問題だけでなく、家族や地域社会全体を守るための社会的な責任と捉えられています13。あなたの行動一つひとつが、感染の連鎖を断ち切る鍵となります。
感染対策の黄金律:「手洗い」の徹底
ウイルス性結膜炎の主な感染経路は、ウイルスが付着した手で目を触ることによる「接触感染」です1。したがって、最も重要かつ効果的な予防策は、徹底した手洗いです。
正しい手洗い: 石鹸と流水を使い、指の間や手首まで含めて丁寧に洗いましょう。その後、清潔なタオルや使い捨てのペーパータオルで水分を完全に拭き取ります1。
家庭内での感染対策
家族に感染者が出た場合、家庭内での感染拡大を防ぐために以下の対策を厳守してください。
- 共有物の分離: タオル、洗顔用具、枕、そして点眼薬などは、感染者専用のものを用意し、絶対に共有しないでください1。
- ティッシュの処理: 目を拭く際は、ハンカチではなく使い捨てのティッシュペーパーを使用し、使用後はすぐにビニール袋に入れて口を縛ってからゴミ箱に捨てましょう。これにより、ゴミ箱の中身に他の家族が触れる危険性を減らせます1。
- 入浴の順番: 感染者は、家族の中で最後に入浴するようにします1。
- 消毒の徹底: ドアノブ、照明のスイッチ、リモコン、スマートフォンなど、皆が頻繁に触れる場所は、アルコール消毒液などでこまめに消毒しましょう3。
学校・保育園・職場での対応
集団生活の場では、感染拡大を防ぐために明確なルールが定められています。
学校・保育園における法的義務
保護者の方にとって、これは非常に重要な情報です。ウイルス性結膜炎は「学校保健安全法」という法律で「学校感染症」に指定されており、集団発生を防ぐために出席停止が義務付けられています31。その基準は病気の種類によって異なります。
この法律に基づく出席停止の基準は、保護者の混乱や不安を解消するための明確な指針です。医師が発行する治癒証明書や登園許可証は、この法律に基づいて「感染のおそれがない」ことを証明するものです。基準を正しく理解し、学校や園と連携することが大切です323334。
疾患名 | 感染症の分類 | 出席停止の基準 |
---|---|---|
流行性角結膜炎 (EKC) 急性出血性結膜炎 (AHC) |
第三種の感染症 | 「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」13 |
咽頭結膜熱 (PCF) | 第二種の感染症 | 「主要症状(発熱、咽頭痛、結膜炎)が消退した後2日を経過するまで」13 |
職場における対応
成人の場合、学校保健安全法のような出勤停止を義務付ける法律はありません。しかし、感染力が非常に強い疾患であるため、特に医療従事者、保育士、接客業など、人と密接に接触する職業の方は、出勤を自粛することが強く推奨されます1。EKCの場合、発症から約2週間は感染力が続くと考えられています1。診断を受けた際は、必ず医師および職場に相談し、適切な対応をとるようにしてください。これは、同僚や顧客を守るための重要な社会的配慮です。
よくある質問
Q1: コンタクトレンズは使ってもいいですか?
A: いいえ、絶対に使用しないでください。症状が出たら直ちにコンタクトレンズの装用を中止してください。感染中に使用した使い捨てレンズはすべて破棄してください。ハードレンズの場合は、医師の指示に従って徹底的に消毒するまで再使用してはいけません。また、レンズケースや保存液も新しいものに交換する必要があります。いつから装用を再開できるかは、必ず医師の許可を得てください8。
Q2: どのくらいの期間、人にうつりますか?
A: 流行性角結膜炎(EKC)や咽頭結膜熱(PCF)の場合、発症してから約2週間は感染力が強いと考えられています。急性出血性結膜炎(AHC)では約3~4日です。特に、目の充血や目やになどの症状が最も強い時期に、感染の危険性が最も高くなります1。
Q3: 片方の目だけですが、もう片方にうつらないようにするには?
A: 感染している方の目を触った手で、健康な方の目を絶対に触らないようにしてください。手洗いを頻繁に行うことが最も重要です。点眼薬を使用する際は、容器の先端がまつ毛やまぶたに触れないように細心の注意を払いましょう。両目に点眼指示がある場合でも、容器からの感染を防ぐため、非常に慎重に点眼する必要があります1。
Q4: プールに入ってもいいですか?
A: いいえ、入れません。完全に治癒し、医師から許可が出るまではプールに入るのは避けてください。特に「プール熱」とも呼ばれる咽頭結膜熱の場合、症状が治まった後も数週間にわたって便の中にウイルスが排出されることがあるため、トイレの後の手洗いも徹底する必要があります1。
Q5: 黒目の濁り(かすみ)は治りますか?
A: ほとんどの場合は治ります。角膜上皮下混濁(SEI)は、通常、数週間から数ヶ月かけて徐々に薄くなっていきます。しかし、重症例では長引くこともあります。だからこそ、角膜混濁を抑えるためのステロイド点眼など、医師の治療計画に最後までしっかりと従うことが非常に重要なのです6。
Q6: 家族が「はやり目」になりました。自分は症状がないですが、仕事に行ってもいいですか?
A: ご自身に症状がなければ、基本的には仕事に行くことは可能です。ただし、家庭内で感染しないよう、手洗いの徹底やタオルの共有を避けるといった感染対策をこれまで以上に厳格に行う必要があります。もしご自身が感染してしまえば、潜伏期間を経て職場にウイルスを持ち込むことになりかねません35。
結論
本稿では、ウイルス性結膜炎、すなわち「はやり目」について、その種類から症状、治療、そして最も重要な感染対策に至るまで、包括的に解説してきました。最後に、専門医として最もお伝えしたい重要なポイントを3つに要約します。
- 正確な診断が第一歩: 「はやり目」は感染力が非常に強く、自己判断は禁物です。目が赤い、ゴロゴロするといった症状があれば、速やかに眼科専門医を受診し、正確な診断を受けることが、適切な治療と感染拡大防止の全ての始まりです。
- 治療の目的を理解し、最後までやり遂げる: ウイルスに対する特効薬はありませんが、治療法は存在します。処方される薬は、症状を和らげ、細菌による二次感染を防ぎ、そして何より角膜混濁のような長期的な視力への影響を最小限に抑えるという明確な目的を持っています。自己判断で治療を中断せず、医師の指示に最後まで従うことが、ご自身の目を守る上で極めて重要です。
- 感染対策は社会への思いやり: 徹底した手洗い、タオルなどの共有の回避、そして学校や職場を休むという判断は、単なる個人のための対策ではありません。それは、大切なご家族、友人、同僚、そして地域社会全体を感染の脅威から守るための、重要な社会的責任の遂行です。
ここに記載した情報は、日本眼科学会1636、厚生労働省17、国立感染症研究所15、そして米国眼科学会37といった、国内外の権威ある専門機関の診療指針や公表資料に基づいています。
ウイルス性結膜炎は、誰にとっても辛い経験ですが、正しい知識を持ち、適切な医療を受け、そして周囲への配慮を忘れなければ、必ず乗り越えることができます。この記事が、皆様の不安を和らげ、回復と感染防止に向けた確かな一助となることを心から願っています。
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