ウェルニッケ・コルサコフ症候群とは | 症状と原因を徹底解説
脳と神経系の病気

ウェルニッケ・コルサコフ症候群とは | 症状と原因を徹底解説

はじめに

このたびは「ウェルニッケ・コルサコフ症候群(WKS)」について、その特徴や原因、症状、診断・治療、そして予防策までを総合的にまとめました。本記事では、脳機能を維持するうえで重要なビタミンB1(チアミン)の欠乏がもたらす影響や、特にお酒との関係性に注目しながら、より詳しく解説しています。なお、本記事は国内の読者の皆さまに向けたもので、日常生活や食事、医療機関受診の文化的背景を前提に執筆しています。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

内容はあくまでも情報提供・一般的な知識共有を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。疑わしい症状や心配事がある場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。以下では、まずウェルニッケ・コルサコフ症候群の全体像を把握し、その原因や症状、治療の選択肢を順を追って見ていきましょう。

専門家への相談

本記事はさまざまな医療情報や国内外の研究成果を参照しています。特にビタミンB1不足と脳障害の関連を取り扱う際、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群に関する専門文献を参照し、さらに国内での臨床事例や報告も考慮しています。たとえば、海外の医療情報サイトである Healthline、 MedlinePlus、 Medical News Today
といった情報源ではウェルニッケ・コルサコフ症候群(Wernicke-Korsakoff Syndrome)に関する解説が提供されており、欠乏症状の特徴や治療の重要性が繰り返し強調されています。さらに、近年(過去4年ほど)の研究としては、ビタミンB1補充療法の有用性や発症の経緯を調べた以下の2つの国際的な研究が参考になります。

  • Wijnia JWら(2021年):アルコール依存症患者に対するチアミン補充がウェルニッケ・コルサコフ症候群の改善につながるかを前向きに検討した研究(Alcohol and Alcoholism, 56巻4号, pp.446-454, doi:10.1093/alcalc/agab017)。この研究ではアルコール依存症男性数十名を対象に、チアミン(ビタミンB1)補充後の神経学的変化を経時的に評価した結果、症状の可逆性が認められる場合があることを示唆しています。国内でもアルコール関連疾患の患者数は少なくないため、治療方針を考えるうえで示唆に富むと考えられています。
  • Chung YCら(2022年):肥満手術(いわゆる減量手術)後に生じるウェルニッケ・コルサコフ症候群の症例を体系的に検証した研究(Obesity Surgery, 32巻5号, pp.1603-1612, doi:10.1007/s11695-021-05638-1)。手術後に食事摂取が制限されると、ビタミンB1不足が深刻化しやすい点を強調し、その結果としてウェルニッケ・コルサコフ症候群が発症する可能性があることを報告しています。日本でも減量手術を受けるケースが増加傾向にあり、栄養管理の重要性が示唆されます。

このように、近年の研究動向を踏まえると、ビタミンB1不足による中枢神経障害は依然として見逃せない課題であり、早期発見と適切な補充療法が病態悪化を防ぐ大切なポイントになっています。

ウェルニッケ・コルサコフ症候群とは

ウェルニッケ・コルサコフ症候群(Wernicke-Korsakoff Syndrome、以下WKS)は、ビタミンB1(チアミン)不足によって脳に生じる重度の神経学的障害です。これは主に次の2段階で進行すると考えられています。

  • ウェルニッケ脳症(Wernicke encephalopathy):ビタミンB1欠乏が急性期に発症し、視覚異常や運動失調、意識障害などを引き起こす段階です。
  • コルサコフ症候群(Korsakoff’s psychosis):ウェルニッケ脳症から移行して慢性化し、記憶障害や作話などの精神症状が顕著に表れる段階です。

多くの場合、ウェルニッケ脳症の症状が先に現れ、早期に治療できなかった場合にコルサコフ症候群へと進むとされます。どちらも基本的にはビタミンB1が欠乏したことで脳細胞がエネルギー不足に陥り、神経系にダメージが生じるという共通のメカニズムがあります。一度重度の障害に至ると、神経機能の回復が不十分になる可能性があり、放置すれば死に至るケースもあるため要注意です。

原因

アルコール摂取とビタミンB1欠乏

WKSの原因として最も多くあげられるのが、過度の飲酒(アルコール依存症)とビタミンB1不足の併存です。アルコールを大量かつ長期間にわたり摂取すると、食事が偏りがちになります。またアルコールは体内でのビタミンB1吸収や貯蔵を妨げるため、慢性的にビタミンB1が欠乏しやすくなります。日本国内でも社会問題化しているアルコール関連障害は、まさにWKS発症のリスクを高める要因です。

消化管の疾患や手術

過度の飲酒以外にも、消化管に関わる病気や手術によって、ビタミンB1の吸収が阻害されたり、食事摂取量が著しく減ってしまう場合があります。たとえば以下のようなケースです。

  • 胃切除手術:胃が小さくなるなどの理由で十分に食事をとれなくなる
  • 胃がんや大腸がん:痛みや体力の低下で食欲不振が持続する
  • 摂食障害:極端なダイエットや拒食・過食を繰り返す
  • 慢性嘔吐:長期間吐き続け、体内での栄養保持が困難になる

先述したChung YCら(2022年)の研究では、減量手術後にビタミンB1欠乏症を発症してWKSをきたすケースが相次いで報告されていると指摘されています。日本でも消化器系の外科治療が進歩し患者の選択肢が増えているため、術後ケアとしてビタミン補給のモニタリングを徹底することが強く求められています。

免疫低下状態や栄養不良

  • HIV感染症(特に進行期)
  • がん(特に進行期や転移を伴うもの)
  • 慢性感染症
  • 長期的な食事制限

これらの疾患や状態は全身の代謝や栄養摂取に大きな影響を及ぼすため、ビタミンB1欠乏を招きやすい背景となります。日本国内でも高齢化や生活習慣病が増えるなか、合併症などで栄養状態が悪化する例は少なくありません。

症状

ウェルニッケ脳症の主な症状

ウェルニッケ脳症の典型的な症状は以下の3つ(いわゆる三徴)とされています。

  1. 眼球運動障害:複視(ものが二重に見える)、眼球の上下・左右への制御がうまくいかない、眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)など
  2. 運動失調:筋肉の協調運動が乱れ、歩行がふらつく、バランスを崩しやすくなる
  3. 意識障害または精神混濁:会話の理解力や認知機能が低下し、落ち着きを失ったり、思考力が極端に低下したりする

さらに攻撃的または暴力的な振る舞いが見られることもあります。日本においてはアルコール多飲者がこれらの症状を示す際、他の精神疾患やアルコール性認知症と誤診されるケースもあり、早期発見・早期対応が遅れる原因となります。

コルサコフ症候群の主な症状

ウェルニッケ脳症の急性期症状が落ち着いた後、適切にビタミンB1を補充しないままだと、記憶障害が主徴となるコルサコフ症候群へと移行しやすいです。具体的には以下のような症状が現れます。

  • 記銘力障害:新しい情報を覚えられない
  • 想起障害:過去の出来事を思い出せない
  • 作話(虚言):事実と異なる話を誇張して語る
  • 見当識障害:時間や場所、人などの認識があいまいになる
  • 幻覚:存在しないものを見たり聞いたりする

日本の臨床現場でも、コルサコフ症候群の患者は一見すると会話が成立するかのように見えることがあるため、「どこまで理解しているのか」が周囲に伝わりにくいことが少なくありません。結果として治療が遅れる一因にもなります。

診断

診断の困難さ

WKSは症状が多岐にわたり、しかも他の精神・神経疾患と紛らわしい場合が多いため、正確な診断が難しいとされています。特にアルコール依存症患者では、肝疾患や認知障害など複数の健康問題を抱えていることが多く、WKS特有の所見が隠れてしまうこともあります。

検査の流れ

  1. 飲酒歴・栄養状態の評価

    • 血中アルコール濃度
    • 肝機能検査(長期間の多飲習慣がある場合、肝機能障害が高頻度でみられる)
    • 食生活・体重変化・ビタミン摂取状況など
  2. 血液検査による栄養評価

    • アルブミン値:低下していれば慢性的な栄養不良の可能性がある
    • ビタミンB1濃度:赤血球内のチアミン活性を測定して欠乏の有無を調べる
  3. 画像検査

    • CT/MRI:視床や中脳水道周辺の特徴的な病変を確認
    • 心電図(ECG/EKG):ビタミンB1補充前後で変化が認められる場合もある
  4. 神経心理学的テスト

    • 記憶障害や認知機能障害の程度を把握する

特にMRIはウェルニッケ脳症に特徴的な病変(視床や中脳水道周囲の損傷)を観察できるため、診断精度を高める重要な手段となっています。

治療

早期介入の意義

WKSの治療では、とにかく早期発見・早期介入が大切です。ビタミンB1を補給することで、視覚障害や運動失調、精神混濁などの急性期症状の進行を食い止め、さらなる脳損傷を防ぐことが期待できます。
前述のWijnia JWら(2021年)による前向き研究では、アルコール依存症患者であってもチアミン補給を適切に行えば、一部の症状が改善または可逆的であることが示唆されています。ただし、コルサコフ症候群に至ると、記憶障害などは残存しやすくなるため、できるだけ早い段階での治療が望まれます。

治療法

  • ビタミンB1(チアミン)の静脈内投与:重度の場合は静脈ラインで大量投与を行い、血中レベルを迅速に回復させる
  • 経口サプリメント:軽度~中程度のケースや、急性期治療後の維持療法として補助的に用いられる
  • バランスのよい食事:ビタミンB1をはじめとした必須栄養素を毎日の食事で十分に摂取する
  • アルコール依存症の治療:アルコール摂取をやめるか大幅に減らさない限り、何度でも再発するおそれがある

また背景疾患(胃がん、大腸がん、摂食障害、HIV、慢性嘔吐など)がある場合は、それらの原因治療や栄養管理が欠かせません。

期待できる改善と限界

早期治療により、眼球運動の異常や運動失調、意識障害などの症状は比較的改善しやすいとされています。ただし、記憶障害や認知障害が長期化した場合、完全回復は難しく、何らかの後遺症が残ることがあります。そのため、予防と早期治療の両面がとても重要です。

予防

ビタミンB1を意識した食生活

WKSを予防する基本は、ビタミンB1を十分に摂ることです。以下の食品は日本人の食卓でも比較的取り入れやすく、ビタミンB1を豊富に含むものとして知られています。

  • 豚肉(特に赤身)
  • 玄米や胚芽米
  • 豆類(大豆、エンドウ豆など)
  • 全粒粉パン
  • ほうれん草
  • オレンジなどの柑橘類
  • 牛乳・乳製品

アルコール摂取量が多い方や、胃腸の手術後、あるいは摂食量が極端に少ないダイエットをしている方は特に、ビタミンB1をはじめとする栄養全般のバランスに注意を払いましょう。

アルコールのコントロール

日本では特に、日常的に飲酒をする習慣や、仕事や付き合いでアルコールを多めに摂取するシーンも少なくありません。しかし、飲酒量が増え続けると、WKSだけでなく肝疾患や膵炎など別の深刻な疾患を引き起こすリスクも高まります。
適量のビールやワインなどであっても、長期間におよぶとビタミンB1が慢性的に不足する恐れがあります。過度の飲酒が続く状態からの脱却には、医療機関や専門外来、家族・仲間のサポートが重要です。

早期受診と定期検診

  • 長期にわたって嘔吐を繰り返している
  • 極端な食事制限をしている
  • 胃や腸の手術を受けた後で食事摂取量が減っている
  • アルコール依存症の疑いがある

こうした状況に該当する方は、できるだけ早めに医師や栄養士に相談し、血液検査などでビタミンB1を含む栄養状態を把握しておくことが大切です。日本では健康保険の適用範囲で定期的に血液検査を受ける機会があるので、身体のSOSを見逃さないようにしましょう。

結論と提言

ウェルニッケ・コルサコフ症候群(WKS)は、ビタミンB1不足によって生じる脳障害の総称であり、ウェルニッケ脳症とコルサコフ症候群の2段階から構成されると考えられています。主な原因は過度のアルコール摂取、消化管手術後の栄養障害、その他の基礎疾患によるビタミンB1欠乏など、多岐にわたります。眼球運動障害や運動失調、記憶障害といった症状が一度進行すると回復が難しく、生命予後にも関わるため注意が必要です。

しかし、ビタミンB1を早期に補充することで急性期のダメージを抑制し、症状の重症化を防ぐことも可能です。さらに、アルコール依存症の場合は飲酒量をコントロールする、もしくは完全に断酒することが大きなカギとなります。日常生活でバランスの良い食事を心がけるだけでなく、体調や食欲に変化を感じたら早めに検査を受けることがリスク回避につながります。

特に現代の日本社会では、多忙さやストレスから飲酒習慣や偏った食事を続けてしまうケースも少なくありません。また、胃腸の手術や病気によって食事摂取量が減ったり、極端なダイエットで栄養不足に陥ったりすることもあります。そのような背景でも、ビタミンB1が十分に取れているかを確認し、必要に応じて医療機関や栄養士によるサポートを受けることが重要です。

最後に強調したいのは、「早期発見・早期治療が回復の可能性を広げる」という点です。もしもビタミンB1不足を疑う症状(ふらつき、視力の異常、記憶力低下、意識混濁など)が見られる場合には、できる限り早く受診し、適切な治療を受けるようにしてください。

参考文献

  • Wernicke-Korsakoff Syndrome (WKS). https://www.healthline.com/health/wernicke-korsakoff-syndrome (最終アクセス日: 2020年1月29日)
  • Wernicke-Korsakoff syndrome. https://medlineplus.gov/ency/article/000771.htm (最終アクセス日: 2020年1月29日)
  • What is Wernicke-Korsakoff syndrome? https://www.medicalnewstoday.com/articles/220007.php (最終アクセス日: 2020年1月29日)
  • Wijnia JW, Muizza W, van Paaschen J, Sprenger GH, van de Wetering B, van Akkeren K, Riezebos B, Oudman E. Reversibility of Wernicke-Korsakoff syndrome in alcohol-dependent male inpatients: a prospective observational cohort study. Alcohol Alcohol. 2021;56(4):446–454. doi:10.1093/alcalc/agab017
  • Chung YC, Chang HH, Chen PK, Chang YT, Chen MF. Wernicke-Korsakoff syndrome following bariatric surgery: a systematic review. Obes Surg. 2022;32(5):1603–1612. doi:10.1007/s11695-021-05638-1

この記事は医学的アドバイスではなく、一般的な情報提供を目的としています。症状や治療法については医師などの専門家にご相談ください。

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