エドワーズ症候群とは?その影響と子どもたちの未来
小児科

エドワーズ症候群とは?その影響と子どもたちの未来

お子様が土や砂、紙、髪の毛など、食べ物ではないものを繰り返し口にしてしまう行動に、戸惑いや不安を感じていらっしゃる保護者の方も少なくないでしょう。これは単なる「癖」なのでしょうか、それとも何か注意すべきサインなのでしょうか。この行動は「異食症(いしょくしょう)」または「ピカ」と呼ばれる医学的な状態である可能性があり、その背景には様々な原因が隠れていることがあります。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、小児の異食症(ピカ)について、その原因、症状、診断基準から、最新の科学的知見に基づいた治療法、そしてご家庭でできる具体的な対応策まで、深く、そして分かりやすく解説します。お子様のかけがえのない健康と発達を守るため、正しい知識を一緒に学んでいきましょう。

要点まとめ

  • 異食症(ピカ)は、栄養価のない非食品を1ヶ月以上にわたって持続的に食べてしまう状態で、多くは2歳以上の小児で診断されます1。これは単なる好奇心による行動とは区別される医学的な状態です。
  • 主な原因は多様で、鉄分や亜鉛などの「栄養不足」2、自閉スペクトラム症(ASD)などの「発達障害」3、そしてストレスやネグレクト(育児放棄)といった「心理・環境的要因」4が複雑に関係しています。
  • 異食症は、鉛中毒5、消化管の閉塞や損傷6、寄生虫感染2など、深刻な健康被害(合併症)を引き起こすリスクがあるため、早期の発見と適切な対応が極めて重要です。
  • 治療は、原因となっている栄養不足の改善、行動療法による不適切な食行動の修正、そして安全な環境作りが中心となります7。保護者の方が一人で悩まず、小児科医や児童精神科医などの専門家に相談することが、解決への第一歩です。

1. 異食症(ピカ)とは何か?

まず、異食症(ピカ)がどのような状態を指すのか、その定義と基本的な特徴を正確に理解することから始めましょう。

異食症の定義と基本的な特徴

異食症(ピカ)とは、栄養価がなく、食べ物ではないものを1ヶ月以上にわたって持続的に食べてしまう行動が特徴の摂食障害の一つです1, 8。重要なのは、この行動がその子の発達段階に見合わないものであるという点です。例えば、乳幼児(特に生後6ヶ月から2歳頃まで)が好奇心から様々なものを口に入れて確かめるのは、発達過程で見られる自然な姿です9。しかし、一般的に食べ物でないと理解できる年齢(通常2歳以上)になってもこの行動が続く場合に、異食症の可能性が考えられます10。また、その行動が宗教的・文化的な習慣によるものでないことも診断の条件となります1

なぜ「ピカ」と呼ばれるのか?

「ピカ」という少し変わった名称は、ラテン語でカササギを意味する「Pica pica」に由来します11。カササギは何でも巣に持ち帰る習性があることから、食べ物でないものを区別なく口にしてしまう様子になぞらえて名付けられたと言われています。

どのようなものを食べてしまうのか?

異食症の子どもが食べてしまうものは実に様々ですが、一般的に以下のようなものが報告されています5, 6

  • 土・砂・粘土 (Geophagia – 食土症)
  • 氷 (Pagophagia – 氷食症)
  • 髪の毛 (Trichophagia – 食毛症)
  • 紙、段ボール
  • 石鹸、チョーク
  • 布、糸くず
  • ペンキのかけら(特に古い建物の鉛含有ペンキは危険)
  • 灰、タバコの吸い殻
  • 生のデンプン(コーンスターチなど) (Amylophagia – デンプン食症)

2. なぜ子どもは異食症になるのか?主な原因と危険因子

子どもの異食行動の背景には、単一ではなく複数の要因が複雑に絡み合っていることが多いと考えられています。ここでは、主な原因と危険因子を詳しく見ていきましょう。

栄養不足

特定の栄養素の欠乏が、異食症の引き金になることが科学的に示されています。特に重要なのが以下の二つです。

  • 鉄欠乏性貧血: これは異食症の最も一般的な原因の一つであり、特に氷を無性に食べたくなる「氷食症(Pagophagia)」との関連が強いことが知られています2。日本国内の思春期の子どもを対象としたある研究では、鉄欠乏性貧血と診断されたグループの約8割に異食行動(主に氷食症)が見られ、鉄剤治療によってその行動が消失したと報告されています12。鉄が不足すると、味覚や食欲を司る脳内物質の働きに異常が生じ、奇妙なものを食べたくなるのではないかと考えられていますが、正確なメカニズムはまだ完全には解明されていません。
  • 亜鉛欠乏: 亜鉛もまた、味覚や成長に不可欠なミネラルであり、その欠乏が異食症の一因となる可能性が指摘されています2

発達障害との関連

異食症は、特定の発達障害を持つ子どもに比較的多く見られることが知られています。

  • 自閉スペクトラム症 (ASD): 異食症は自閉スペクトラム症の子どもによく見られる併存症です。あるシステマティックレビューでは、ASD児の14%~36%が異食行動を示すと報告されています13。また、日本の自閉スペクトラム症の子どもたちに関する調査で、約36%に異食症が見られたとの報告もあります14。その理由として、感覚刺激(口の中の感触や味)を求める行動、食べ物とそうでないものの区別がつきにくい認知特性、特定の行動を繰り返す「常同行動」などが考えられています3, 15
  • 知的障害: 知的障害のある子ども、特に重度の知的障害を持つ場合に異食症の有病率が高まることが報告されています16, 17

心理的要因と環境要因

子どもの心の状態や置かれている環境も、異食症の発症に大きく影響します。

  • ストレスと不安: 家庭内の不和、転居、入園など、子どもにとって大きなストレスや不安が、異食行動という形で現れることがあります。これは、不安を和らげるための自己対処メカニズムの一つと考えられます10, 18
  • ネグレクト(育児放棄)や愛情不足: 適切な食事を与えられていない、あるいは保護者からの関心や愛情が著しく不足している場合、子どもは空腹を満たすため、または注意を引くために異食行動に走ることがあります19。日本小児科学会は、異食を子ども虐待の兆候の一つとして挙げており20、注意深い観察が必要です。
  • 環境内の刺激不足: 遊びや関わりの機会が少なく、退屈な環境に置かれている子どもが、手近なものを口にすることで刺激を求める場合があります。

3. 子どもの異食症のサインと症状

保護者の方が異食症の可能性に気づくためには、どのようなサインや症状に注意すればよいのでしょうか。

主な行動的症状

最も中心的な症状は、前述の通り、食べ物ではないものを執拗に、そして繰り返し食べようとすることです5。これには以下のような行動が伴うことがあります。

  • 特定の非食品(例:髪の毛、土など)に対して強い渇望や衝動を示す。
  • 人目を盗んで隠れて食べようとする。
  • 注意されたり止められたりしても、その行動をやめられない。

関連する可能性のある身体的症状

食べるものによっては、体に様々な症状が現れることがあります。これらは異食症の存在を示唆する重要な手がかりとなります6, 9

  • 原因不明の腹痛、吐き気、嘔吐、便秘、下痢
  • 顔色が悪い、疲れやすい、息切れがする(鉄欠乏性貧血の兆候)
  • 痙攣、発達の遅れ(鉛中毒など、重金属中毒の兆候)
  • 歯が欠けたり、摩耗したりする(氷や石などの硬いものを食べた場合)

これらの症状が見られた場合は、単なる体調不良と片付けず、異食行動が背景にないか注意深く観察することが重要です。もし、お子様に異食症の疑いがある、またはここで述べた症状に心当たりがある場合は、自己判断せずに、かかりつけの小児科医または児童精神科医にご相談ください。早期の相談が、お子様の健康と発達にとって非常に重要です。

4. 異食症が子どもに与える影響と合併症

異食症を放置すると、様々な深刻な健康問題(合併症)を引き起こす可能性があります。食べるものによってリスクは異なりますが、命に関わる場合もあるため、決して軽視できません。

消化器系の問題

  • 腸閉塞(イレウス): 髪の毛や布、ビニールなど消化されないものが胃や腸に溜まり、毛髪胃石(trichobezoar)などの塊を形成して、腸を塞いでしまうことがあります6, 21。激しい腹痛や嘔吐を伴い、緊急手術が必要になることもあります。
  • 消化管の損傷: 釘やガラスの破片など、鋭利なものを飲み込んだ場合、食道や胃、腸を傷つけ、穿孔(穴が開くこと)を引き起こす危険性があります。
  • 便秘: 土や粘土などを大量に食べることで、重度の便秘になることがあります2

中毒

  • 鉛中毒: これは最も危険な合併症の一つです。1970年代以前に建てられた古い家屋のペンキには鉛が含まれていることがあり、剥がれたペンキのかけらを食べ続けることで、体内に鉛が蓄積します5。鉛は子どもの脳の発達に深刻なダメージを与え、学習障害や行動問題、発達の遅れなどを引き起こす可能性があります22
  • その他の化学物質中毒: タバコの吸い殻(ニコチン中毒)、殺虫剤が付着した土などを食べることで、様々な中毒症状を引き起こす恐れがあります。

感染症

土や動物の糞など、汚染されたものを食べることで、寄生虫(回虫、鉤虫など)や細菌に感染するリスクが高まります2, 23。これにより、下痢や腹痛、栄養吸収障害などが起こります。

栄養障害と歯の問題

栄養のないものでお腹が満たされてしまうと、本来必要な栄養素を含む食事の量が減り、結果として鉄欠乏性貧血や全般的な栄養失調に陥ることがあります7。また、氷や石、砂などの硬いものを繰り返し噛むことで、歯のエナメル質が削れたり、歯が欠けたり、虫歯のリスクが高まったりします2

5. 子どもの異食症の診断方法

「うちの子の行動は、本当に異食症なのだろうか?」と悩んだとき、医療機関ではどのようなプロセスで診断が行われるのでしょうか。

医師による問診と病歴聴取

診断の第一歩は、医師による詳細な問診です。保護者の方から以下のような情報を詳しく聞き取ります21

  • 何を、いつから、どのくらいの頻度で食べているか
  • どのような状況でその行動が見られるか
  • 子どもの発達歴、既往歴、アレルギーの有無
  • 家庭環境や生活の中での最近の変化、ストレス要因の有無
  • 普段の食事内容や食生活の様子

保護者の方が日頃から子どもの様子を注意深く観察し、具体的な情報をメモしておくことが、正確な診断の助けになります。

DSM-5診断基準の適用

精神疾患の国際的な診断基準である「アメリカ精神医学会の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」では、異食症は以下の4つの基準に基づいて診断されます1, 8

A. 栄養価のない、非食品物質を少なくとも1カ月間にわたって持続的に食べる。
B. その非食品物質を食べることは、その人の発達水準からみて不適切である。
C. その摂食行動は、文化的に支持されている習慣や、社会的に普通とされている習慣の一部ではない。
D. その摂食行動が、他の精神疾患(例:知的発達症、自閉スペクトラム症、統合失調症)や医学的状態(妊娠を含む)の経過中に起こる場合、それは臨床的に注意を要するほど重篤である。

– アメリカ精神医学会 DSM-5 1

必要な検査

問診や診察に加え、合併症の有無や原因を特定するために、以下のような検査が行われることがあります。

  • 血液検査: 鉄欠乏性貧血の有無を確認するための血算(ヘモグロビン値など)や血清フェリチン値の測定は非常に重要です24。また、亜鉛などの微量元素の不足を調べることもあります。鉛中毒が疑われる場合は、血中鉛濃度の測定が必須です22
  • 便検査: 土などを食べている場合、寄生虫感染の有無を調べるために行われます9
  • 画像診断: 腸閉塞が疑われる場合や、金属片などの危険な異物を飲み込んだ可能性がある場合に、腹部のX線撮影や超音波検査が行われます25

健康に関する注意事項

  • お子様に異食症の疑いがある場合は、自己判断でサプリメントなどを与えず、必ず医師の診断を受けてください。栄養素の過剰摂取は、別の健康問題を引き起こす可能性があります。
  • 特に、古い家のペンキのかけらや、電池、磁石などを口にした場合は、深刻な中毒や内臓損傷の危険があるため、直ちに救急医療機関を受診してください。

6. 子どもの異食症の治療法と介入策

異食症の診断が確定したら、その原因や子どもの状況に合わせて、多角的なアプローチによる治療や介入が開始されます。確立された単一の特効薬はありませんが、様々な手法を組み合わせることで、多くの場合、症状の改善が期待できます26

栄養療法

検査の結果、鉄や亜鉛などの栄養不足が確認された場合、その栄養素を補充することが治療の基本となります7。医師の処方に基づき、鉄剤や亜鉛製剤などを服用します。多くの場合、栄養状態が改善されるだけで、異食行動が劇的に減少または消失します12。並行して、管理栄養士による食事指導を受け、日々の食事からバランス良く栄養を摂取できるよう見直すことも重要です。

行動療法(行動変容法)

栄養不足が直接の原因でない場合や、栄養療法だけでは改善しない場合に中心となるのが行動療法です26, 27。これは、子どもの行動をよく観察し、不適切な行動(異食)を減らし、適切な行動を増やしていくための専門的なアプローチです。具体的な手法には以下のようなものがあります。

  • 正の強化: 子どもが異食行動を我慢できた時や、代わりのおもちゃで遊んだり、おやつを食べたりした時に、すかさず褒めたり、ご褒美をあげたりすることで、望ましい行動を増やしていきます。
  • 分化強化: 異食行動とは両立しない、より適切な行動(例:パズルをする、絵本を読む)を強化します。
  • 刺激制御: 子どもが異食しやすい環境(例:砂場、特定の部屋)や状況を特定し、それらの刺激から子どもを遠ざけたり、環境を安全に整えたりします。

これらの介入は、行動療法の専門家(臨床心理士、公認心理師、行動療法士など)の指導のもと、家庭で一貫して行うことが成功の鍵となります。

心理療法とカウンセリング

ストレスや不安、親子関係の問題などが異食症の背景にあると考えられる場合、心理療法やカウンセリングが有効です28。子どもに対しては、年齢に応じて遊びを通して感情を表現させるプレイセラピーなどが用いられることがあります。また、保護者の方が子どもの行動への対処法を学び、育児のストレスを軽減するためのカウンセリングも非常に重要です。

環境調整と安全対策

治療と並行して、最もすぐに行うべきことは、子どもの安全を確保するための環境調整です。

  • 家庭内や庭、よく遊ぶ公園などを点検し、子どもが口にしそうな危険物(洗剤、薬、電池、釘、タバコの吸い殻など)を徹底的に排除し、手の届かない場所に保管します29
  • 子どもの行動を注意深く見守り、特に屋外で遊ぶ際は目を離さないようにします。
  • 口に入れても安全なおもちゃや、歯固め、噛むためのおもちゃ(チューインググッズ)などを提供し、口への刺激欲求を安全な方法で満たせるようにします30

薬物療法

現在、異食症そのものを直接治療する承認された薬はありません9。しかし、異食症が重度の精神疾患(例:統合失調症)や行動問題(例:強迫行為)に伴って現れる場合には、それらの背景にある疾患を治療するために薬が処方されることがあります。これは必ず精神科医などの専門医の判断のもと、慎重に行われます。

日本における専門機関への相談

もしお子様の異食症で悩んだら、以下の専門機関に相談することができます。

  • かかりつけの小児科医: まず最初の相談窓口です。身体的な合併症のチェックや、栄養状態の評価を行ってくれます。
  • 児童精神科医・心療内科医: 発達障害や心理的な問題が疑われる場合に、より専門的な診断と治療を行います。
  • 地域の保健所・保健センター: 乳幼児健診の際や、電話などで気軽に育児の悩みを相談できます。
  • 児童発達支援センター・療育機関: 発達障害が背景にある場合に、療育的なアプローチで支援を提供してくれます。

7. 家庭でできること:子どもの異食症への対応とサポート

専門家による治療と並行して、ご家庭での日々の対応が子どもの回復を大きく左右します。ここでは、保護者の方ができる具体的なサポート方法をご紹介します。

安全な環境を作る

何よりもまず、子どもの命と健康を守るために、物理的な環境を安全にすることが最優先です29。定期的に家の中や庭を見回り、子どもが口にしそうな小石、ボタン、硬貨、洗剤、化粧品などを徹底的に片付け、手の届かない高い場所や鍵のかかる棚に保管しましょう。

子どもの行動をよく観察する

「どんな時に」「何を」「どのように」食べてしまうのかを客観的に記録することは、原因を探り、対策を立てる上で非常に有効です。観察記録は、医師やカウンセラーに相談する際の貴重な情報源にもなります。

叱るのではなく、優しく気をそらす

子どもが食べ物でないものを口にしようとした時、頭ごなしに「ダメ!」と叱ったり、無理やり取り上げたりするのは逆効果になることがあります26, 31。子どもは保護者の強い反応を「注目された」と捉え、かえってその行動を繰り返してしまうことがあるからです。冷静に、そして穏やかに「それは食べられないものだよ」と伝え、子どもの興味を別の楽しい遊びや、安全なおやつなどにそっと誘導してあげましょう。

栄養バランスの取れた食事を提供する

毎日の食事が、異食症の予防および改善の基本です。鉄分(レバー、赤身肉、ほうれん草、小松菜など)や亜鉛(牡蠣、牛肉、豚肉など)を豊富に含む食材を意識的に取り入れ、バランスの取れた食事を心がけましょう。食事が偏りがちな場合は、管理栄養士に相談するのも良い方法です。

ポジティブな注目と関わりを増やす

子どもが異食行動をしていない時にこそ、積極的に関わり、褒めてあげることが大切です。一緒に遊んだり、絵本を読んだり、たくさん話しかけたりすることで、子どもは安心感を得て、異食以外の方法で欲求を満たすことを学んでいきます。

ストレスを軽減する工夫

家庭内の雰囲気を穏やかに保ち、子どもが安心して過ごせる環境を整えましょう。毎日決まった時間に寝起きする、日中は適度に体を動かして遊ぶなど、規則正しい生活リズムを作ることも、子どもの情緒安定につながります。

家族自身もサポートを求める

子どもの異食症に向き合うことは、保護者の方にとっても大きなストレスとなります32。決して一人で抱え込まず、パートナーや他の家族、信頼できる友人に悩みを打ち明けましょう。必要であれば、保護者自身がカウンセリングを受けたり、同じ悩みを持つ親の会などに参加したりすることも、心の負担を軽くするために非常に有効です。

結論

小児の異食症(ピカ)は、単なる子どもの奇妙な「癖」ではなく、その背後に栄養不足、発達上の課題、あるいは心理的なストレスといった多様な原因が隠れている可能性のある、医学的な対応を必要とする状態です。この記事で解説したように、異食症は鉛中毒や腸閉塞といった深刻な健康被害を引き起こすリスクを伴うため、決して軽視することはできません6, 22
しかし、最も重要なメッセージは、異食症は適切な診断と介入によって改善が可能であるということです。もしお子様の行動に不安を感じたら、どうか一人で悩まず、勇気を出してかかりつけの小児科医や地域の保健センター、児童精神科などの専門機関に相談してください。原因を正確に突き止め、栄養療法、行動療法、そして何よりもご家族の愛情深いサポートと安全な環境作りを組み合わせることで、お子様がこの困難を乗り越える手助けができます。
この記事が、お子様の異食症(ピカ)について理解を深め、適切な対応を見つけるための一助となれば幸いです。最も重要なことは、一人で悩まず、専門家のサポートを求めることです。JAPANESEHEALTH.ORGは、日本の皆様の健康な生活を応援しています。

よくある質問

赤ちゃんが何でも口に入れるのは普通ですか?いつから異食症を心配すべきですか?
はい、乳幼児期(特に生後6ヶ月から2歳頃まで)の赤ちゃんが、好奇心から様々なものを口に入れて確かめる行動は、発達の過程で見られる自然な姿です9。しかし、2歳を過ぎても食べ物でないもの(土、砂、紙、髪の毛など)を繰り返し、かつ1ヶ月以上にわたって食べ続ける場合は、異食症(ピカ)の可能性があります1, 10。重要なのは、その行動が子どもの発達段階に不相応であるかどうか、そして栄養価のない物質を継続的に摂取しているかどうかです。ご心配な場合は、乳幼児健診の際などに小児科医にご相談ください。
子どもの異食症は自然に治りますか?
場合によります。鉄欠乏などの栄養不足が原因である場合、適切な栄養補給によって症状が速やかに改善することが多くあります12。また、ストレスなどが一時的な原因である場合や、軽度の場合には、子どもの成長とともに自然に治まることもあります33。しかし、発達障害が背景にある場合や、行動が長期間続く場合、または健康上のリスクが懸念される場合は、専門家による行動療法などの介入が必要となることが一般的です26。自己判断せずに、まずは専門医の診察を受けることが大切です。
異食症は遺伝しますか?
現在のところ、異食症そのものが親から子へ直接遺伝するという明確な科学的証拠はありません。しかし、異食症の危険因子となる可能性のある一部の精神疾患や発達障害(例えば自閉スペクトラム症など)には遺伝的な要素が関与していることが知られています2。そのため、間接的に家族内で見られる可能性はありますが、遺伝だけが原因となるわけではありません。
異食症の予防策はありますか?
確実な予防策はありませんが、リスクを減らすために家庭でできることはあります。まず、鉄分や亜鉛などを含む栄養バランスの取れた食事を乳幼児期から提供することが基本です7。また、子どもが安全に探索できる、かつ年齢に応じた適切なおもちゃや遊びを提供し、ポジティブな刺激に満ちた環境を作ることも大切です。さらに、家庭内のストレスを減らし、子どもが安心して過ごせるような安定した情緒的環境を保つことも、心理的な要因による異食症の予防につながる可能性があります19
異食症で病院にかかる場合、何科を受診すればよいですか?
まず最初の相談窓口としては、かかりつけの小児科が最も適しています32。小児科医は、身体的な問題(栄養状態、中毒、消化器系の問題など)を評価し、必要な検査を行ってくれます。その上で、背景に発達障害や心理的な問題が強く疑われる場合には、児童精神科心療内科といった専門の科を紹介されることがあります21。また、お住まいの地域の保健所保健センターでも相談に乗ってもらえますので、どこに相談してよいか分からない場合は、まずそちらに連絡してみるのも一つの方法です。
免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

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