はじめに
近年、「夜間装用用コンタクトレンズ(以下、オルソケラトロジーまたはOrtho-K)」を使って近視や乱視などの屈折異常を矯正する方法が注目されています。特に、メガネを日中にかける煩わしさを避けたい方や、レーシック手術を受けるには年齢や目の状態が整っていない方にとって、就寝中にレンズを装用するだけで日中は裸眼で生活できる点が魅力です。ただし、このオルソケラトロジーがすべての方に向いているわけではなく、安全に使用するための注意点やリスクも存在します。本記事では、オルソケラトロジーの仕組みやメリット・デメリット、さらに装用時に気をつけるべきことを、できるだけ分かりやすく詳しく解説していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
また、子どもの近視進行を抑制するための選択肢としても注目される一方で、夜間装用用レンズの衛生管理が不十分だと重篤な角膜感染症を引き起こす可能性もあり、とりわけ小児・思春期の方には十分なサポートが必要です。本記事では最新の研究や専門家の議論も交えながら、オルソケラトロジーを検討している方が知っておくべき要点をまとめました。
専門家への相談
オルソケラトロジーは医療機関での正確な検査や診断、レンズの処方が必須となる医療行為の一種です。アメリカ眼科学会(American Academy of Ophthalmology)をはじめ、多くの国際的な眼科専門組織でも、正しい適応判断と徹底した衛生管理のもとに実施するよう推奨されています。日本国内においても、専門の検査機器を備えている眼科医院や視能訓練士の指導がある施設で処方されることが望ましいとされています。レンズの度数や形状は個々の角膜形状に合わせてカスタマイズされるため、医療従事者による綿密なフィッティングの確認と定期的なフォローアップが欠かせません。
もしオルソケラトロジーを試してみたい場合は、まずは眼科専門医に相談し、角膜の形状や目の状態、ライフスタイルなどを考慮したうえで処方の可否を判断してもらうことが大切です。
オルソケラトロジー(夜間装用用コンタクトレンズ)とは?
仕組みと特徴
人間の目の前面には「角膜」という透明なドーム状の組織があります。角膜は光を屈折させ、眼球内の水晶体とともに像を網膜に結ぶ働きを担います。しかし、近視・乱視・遠視などの屈折異常がある場合、角膜や眼球全体の形状バランスによってピントが正しく合わず、視力が低下します。
オルソケラトロジーは、酸素透過性が高い硬質の専用レンズを就寝中に装用することで、角膜の中央部分をわずかに平坦化し、日中は裸眼でもピントが合うように矯正する方法です。角膜は柔軟性があるため、夜の数時間の装用で形状が変わり、起床後しばらくは矯正状態を維持します。ただし、装用をやめると角膜は時間経過とともに元の形状に戻り、再び屈折異常が出始めます。このため、効果を持続させるためには夜間の装用を継続する必要があります。
具体的な流れ
- 検査・フィッティング
眼科の専門医や視能訓練士が角膜形状を測定し、一人ひとりの角膜カーブに適合するレンズを処方します。初期段階では角膜の変形具合を見ながら、必要に応じて複数回レンズを交換してフィット感と視力矯正効果を最適化します。 - 夜間の装用
就寝前にレンズを装用し、そのまま眠ります。レンズが角膜の形状をわずかに押さえ、近視や乱視を矯正するように形作ります。 - 朝にレンズを外す
起床後、レンズを外すと角膜は平坦化した状態になっています。個人差はありますが、日中は数時間から半日以上、クリアな視界を保てるようになります。 - メンテナンス・再診
レンズ装用後は必ず専用の洗浄液や保存液を使って適切にケアを行い、定期的に眼科で角膜の状態や視力の安定性を確認します。
対象者
- 18歳未満の方
一般的に、18歳未満はレーシックなどの屈折矯正手術が受けにくいことが多いため、オルソケラトロジーが視力ケアの選択肢となることがあります。特に小児の近視進行を抑制できる可能性があるとして注目されています。 - 近視が10D(ジオプター)以下、乱視が3D以下
高度近視や高度乱視の場合はレンズのフィッティングが難しくなるため、一般的にはそれより軽度~中等度の屈折異常が適応となります。 - 角膜や結膜に重篤な疾患がない
角膜感染症や重いドライアイなどがある場合、装用による角膜負担が大きくなるため注意が必要です。 - 過去にレーシック手術などを受けていない
既に屈折矯正手術を行った角膜は形状が変化しており、オルソケラトロジーの効果が期待しにくい場合があります。
ただし、最終的には医師の診断が必要です。角膜の形や目の状態は人それぞれ異なるので、専門医による検査とカウンセリングを行ってから装用の可否を判断します。
オルソケラトロジーのメリット
- 日中のメガネ・コンタクト不要
日中は裸眼でもある程度クリアな視界を保てるので、スポーツや外出時などに煩わしさが軽減します。見た目も気にならず、日常生活での快適度が上がります。 - 適用範囲の広さ
成長期の子どもから大人まで幅広い年齢層で検討できる方法です。 - 近視進行の抑制が期待される
特に学童期から思春期にかけて進行しやすい近視を抑制する可能性があり、日本でも研究が進められています。 - 非手術的アプローチ
レーシックなどの屈折矯正手術と異なり、角膜を切開しないため、万一合わない場合は装用を中止すれば角膜が自然に元の形に戻る点が安心材料とされています。 - 比較的速やかな効果
個人差はありますが、早いケースでは数日から1~2週間ほどで裸眼視力が向上することが多いです。
オルソケラトロジーのリスクと注意点
角膜感染症や合併症
オルソケラトロジーにおける最大のリスクは角膜感染症です。特に就寝中の装用は涙液の循環量が減少しがちで、レンズ内に雑菌が繁殖すると角膜潰瘍や重篤な感染症を引き起こす可能性があります。世界的にはオルソケラトロジー装用中に角膜に真菌や細菌が感染し、失明の危険性に陥った報告事例もあり、実際に角膜移植が必要になったケースも確認されています。
子どもや思春期の利用者は、レンズや手指の衛生管理が不十分になりやすいため、感染症リスクがさらに高まります。保護者の方は、レンズ洗浄や保存の方法を徹底的に管理する必要があるでしょう。
角膜形状の戻り
オルソケラトロジーは夜間にレンズを装用し続けることで効果を維持する手段です。装用を中止すると角膜は元の形状に戻り、再度近視や乱視の状態に戻ってしまいます。したがって、長期的に続けるつもりがあるか、ライフスタイル的に夜間装用が負担にならないかを十分に検討する必要があります。
レンズのケアと専門医のフォロー
オルソケラトロジー用のレンズは通常のコンタクトレンズよりも硬く、酸素透過性が高い特殊な設計ですが、その分正しいケア方法が必須です。専用のケア用品を使ってタンパク汚れや雑菌の付着を防ぎ、保存ケースもこまめに交換する必要があります。
さらに、初期装用や度数調整時だけでなく、定期的な受診が重要です。角膜の形状や汚染リスクの確認を怠ると、感染症や角膜障害を見逃す可能性があります。
オルソケラトロジーと最新の研究動向
オルソケラトロジーは子どもの近視進行を緩和する手段として世界的に研究が進んでいます。例えば2022年に学術誌Ophthalmic & Physiological Opticsに掲載された研究(doi:10.1111/opo.12825)では、オルソケラトロジーレンズの中心部のデザインやズレ(レンズ偏位)と角膜矯正効果の関係が解析され、適切なレンズフィッティングが近視進行抑制にも影響を与える可能性が報告されました。
また、2023年にContact Lens & Anterior Eyeに掲載されたメタアナリシス(doi:10.1016/j.clae.2023.101775)では、世界各国の子どもたちを対象にした複数研究のデータが総合的に分析され、オルソケラトロジーを継続的に行うことで近視の進行を有意に抑制できるとする結果が示唆されています。ただし、日本国内の環境や衛生習慣などが国際的な研究と完全に一致するわけではないため、実際の効果やリスクは個々の使用状況に依存すると考えられます。
オルソケラトロジーを検討する際のポイント
- 夜間の装用習慣を続けられるか
毎晩しっかりレンズを装用できるだけの睡眠時間が確保できるかが重要です。装用時間が短いと矯正効果が不十分になる場合があります。 - 適切な衛生管理を維持できるか
レンズの洗浄やケースの交換に手間がかかることを理解し、定期的に行えるかどうかを検討しましょう。特に子どもの場合は保護者の協力が欠かせません。 - 費用と継続性
オルソケラトロジー用レンズは一般的なソフトコンタクトレンズより高額であり、定期的な買い替えや検査費用も必要です。長期で続ける場合の費用面も含めて考慮します。 - 定期健診への通院
角膜の状態を把握し、感染予防や度数調整をするために、医療機関への定期的な通院が求められます。忙しい生活の中で通院が難しい場合、トラブルを見過ごすリスクが高まります。
使用時の具体的な注意点
- レンズの管理・洗浄
- 手を石けんで丁寧に洗い、清潔なタオルでしっかり乾かしてからレンズを扱う
- 専用の洗浄液でタンパク質や汚れを落とし、レンズ表面を傷つけないよう注意
- レンズケースは3~4か月ごとに新品に交換し、毎日清潔に保つ
- 就寝時間の確保
- レンズの効果が現れるには一定時間装用が必要
- 一般的には6~8時間ほどの睡眠が推奨される
- 眠りが浅かったり極端に短かったりすると矯正効果が弱まる恐れ
- 異常があったらすぐ受診
- 目の充血、痛み、霞(かす)み、視力の急激な低下などの症状があれば、直ちに使用を中止し、眼科専門医を受診
- 放置すると角膜のダメージが進行し、重篤化するリスク
- 子どもの場合は保護者の監督が必要
- レンズの取り扱いや洗浄手順を理解していないと、雑菌繁殖や紛失などのリスクが高まる
- 定期的に使い方や目の状態をチェックしてあげる
他の近視矯正法との比較
- メガネ(眼鏡)
最も一般的な矯正手段であり、装着やケアが比較的簡単。しかしスポーツやファッション上の制約がある。 - ソフトコンタクトレンズ
日中装用タイプが主流。視界が広く、ある程度快適だが、乾燥や汚れによるトラブルが起きることも。ケアが必要。 - レーシック等の屈折矯正手術
手術により角膜を切削して視力を回復させる。年齢や角膜の厚みなど条件が合わないと受けられず、不可逆的な処置となる。 - フェイキックIOL(有水晶体眼内レンズ挿入術)
角膜を削らず、水晶体の代わりにレンズを挿入する手術。高度近視などの方に適応されることもあるが、費用と手術リスクを考慮する必要がある。
オルソケラトロジーは「手術は抵抗があるけれど、日中は裸眼で過ごしたい」という方に適した選択肢ですが、効果の持続や感染予防のための夜間装用が不可欠である点を認識しておきましょう。
まとめ:オルソケラトロジーは「合う人には合う」矯正法
オルソケラトロジーは、夜間だけレンズを装用することで日中は裸眼で視力を保つという新しい発想の矯正手段です。成長期の近視進行抑制にも期待がかかり、多くの研究成果が発表されています。なかでも「数日~数週間で視力が向上する」「非手術的なので元に戻せる」というメリットから、子どもから大人まで幅広く支持されています。
一方で、衛生管理を怠ると角膜感染症の危険があり、特に子どもは使用方法を誤りやすいため保護者の積極的なサポートが不可欠です。また、装用を中断すれば角膜の形状が元に戻ってしまうため、続けられるライフスタイルなのか慎重に検討しましょう。
もしオルソケラトロジーを始めるのであれば、信頼できる眼科医の診断・処方を受け、定期検査を怠らず、正しいレンズケアを心がけることが大切です。
推奨される受診タイミングと日常ケア
- 初期装用時
数回の再診を通じてレンズのフィット感や角膜変化を細かく確認し、必要に応じてレンズ形状や度数を微調整。 - 慣れ始めた頃
視力が安定するまでは週1回~月1回程度のチェックを推奨。感染やトラブルの早期発見が重要。 - 長期使用の場合
3~6か月ごとに角膜の状態を確認し、レンズの汚れや劣化度合いをチェック。ケア不良によるトラブルを防ぐ。
ミニQ&A
Q1: 夜間の装用がどうして必要なの?
A1: 夜の就寝中にレンズを装用すると、角膜の形状を物理的に変化させられます。日中の活動時に視力が確保されるのは、この角膜変形が数時間維持されるからです。
Q2: 効果が続くのはどれくらい?
A2: 個人差はありますが、通常は日中8~12時間ほどクリアな視力が保たれることが多いとされています。ただし、夜間の装用をやめると数日以内に角膜が戻り、視力も元の状態に近づきます。
Q3: 角膜以外に影響はないの?
A3: オルソケラトロジーは基本的に角膜表層の形状を変化させるので、水晶体や網膜など眼球深部への直接的な影響はありません。ただし、不適切なレンズ使用で角膜上皮に傷がついたり感染を招いたりするリスクはあります。
参考文献
- What is Ortho-K
https://www.aao.org/eye-health/glasses-contacts/what-is-orthokeratology
アクセス日: 2021年10月1日 - Is Ortho-K safe
https://www.aao.org/eye-health/ask-ophthalmologist-q/is-ortho-k-safe
アクセス日: 2021年10月1日 - Kính áp tròng kiểm soát cận thị
https://benhvienmathanoi.gov.vn/2021/08/25/ortho-k-kinh-ap-trong-kiem-soat-can-thi/
アクセス日: 2021年10月1日 - What does sleeping in your contacts do to your eyes
https://health.clevelandclinic.org/what-does-sleeping-in-your-contacts-do-to-your-eyes/
アクセス日: 2021年10月1日 - Overnight Contacts
https://www.npr.org/sections/health-shots/2015/05/21/406502395/overnight-contacts-can-help-kids-sight-during-day-but-also-carry-risks
アクセス日: 2021年10月1日 - Chan B, Cho P, Mountford J, et al. Relationship between lens decentration and treatment zone area in ortho-k lens wear. Ophthalmic Physiol Opt. 2022;42(1):1-8. doi:10.1111/opo.12825
- Xiong M, et al. Orthokeratology for pediatric myopia control: A meta-analysis. Contact Lens & Anterior Eye. 2023;46(4):101775. doi:10.1016/j.clae.2023.101775
免責事項(参考情報)
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