はじめに
近年、オンラインゲームの普及によって、いわゆる「ゲーム依存(ゲーム障害)」が社会的に大きな関心を集めるようになりました。日常生活や学業・仕事への支障、家族や友人関係の悪化など、ゲームをプレイする時間と意識が過度になることで生じる問題は多岐にわたります。本記事では、オンラインゲーム依存がどのようなものか、実際にどのような症状や原因があるのか、さらに依存を克服するために考えられる方法について、できるだけ詳しく解説します。単なる趣味の域を超えて“やめたいのにやめられない”と感じたり、周囲の方が「どうやって子どものゲーム依存を改善すればよいのだろう?」と不安を抱えている場合に、理解を深める一助になれば幸いです。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
ここでは、記事の信頼性を高めるために依拠した情報源や、専門家の見解がある場合はその根拠を示します。本記事の内容は以下の文献・情報をもとにまとめています。
- 世界保健機関(WHO)が提供する行動依存に関する公式情報(ICD-11)
- アメリカ精神医学会が出版する診断基準書(DSM-5)
- 各種学術論文・メタアナリシス・国際的な臨床研究レビュー
- 医療機関が提供するオンラインリソース
ただし、本記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、治療や診断を確定するものではありません。個々の状況によっては医師や専門家に直接相談することが望ましいです。
ゲーム依存(オンラインゲーム依存)とは?
ゲーム依存の定義
近年、オンラインゲームを過度にプレイして日常生活に支障をきたす人が増えていることを受け、国際疾病分類(ICD-11)では初めて「ゲーム障害(gaming disorder)」が正式に記載されました。これは、少なくとも12か月以上にわたってゲームをプレイする頻度や時間を自己コントロールできず、学業・仕事・社会生活など重要な活動が顕著に損なわれるほど継続してしまう状態を指します。以下のような特徴が見られることが多いとされています。
- どれほどゲームにのめり込んでいるかを自分で制御できない
- 時間を忘れるほど長時間プレイし、生活上の責任(学校や仕事、家庭、社会的な役割など)を著しく疎かにする
- ゲームをやめられない、もしくは大幅にプレイ時間を減らせない
- 過度のプレイにより体力や集中力の低下、人間関係のトラブルなどの弊害があるにもかかわらずやめられない
こうした問題は世界保健機関(WHO)だけでなく、アメリカ精神医学会が発行する診断基準書 DSM-5 においても「インターネット・ゲーム障害の研究的診断基準」として取り上げられており、海外だけでなく日本国内でも注意が高まっています。
なぜゲーム依存は注目されるのか
ゲーム依存が特に注目される要因の一つは、オンラインゲームの「手軽さ」と「没入感」が非常に高いからです。インターネットを介して多くの人と同時プレイできる点や、スマートフォン1台あればどこでもいつでも遊べる点が魅力的でありながら、時間や金銭感覚を忘れさせるほどの没入感を生み出します。これにより以下のようなリスクが増大します。
- 長時間プレイによる健康被害(生活リズムの乱れ、視力低下、運動不足など)
- 金銭的な浪費(課金アイテム購入など)
- 家族や友人とのコミュニケーションの減少
こうした問題は、特に子どもや若年層だけでなく、社会人や高齢の方々にも広がっているため、社会的な影響が大きいとされています。
原因:なぜオンラインゲームに依存してしまうのか
脳内の報酬系とドーパミンの関与
多くの研究では、ゲームをプレイしている間に得られる達成感や勝利感が「ドーパミン」を大量に放出させることが指摘されています。ドーパミンは脳内で「快感」や「意欲」を司る神経伝達物質ですが、過度に分泌され続けることで、脳が快感の報酬を得るために行動を繰り返すようになります(いわゆる強化学習の仕組み)。これはアルコール依存やギャンブル依存など他の依存性行動と同様のメカニズムです。
心理的・社会的要因
- ストレスや不安の回避: 学校や仕事、家庭でのストレスを一時的に忘れられる“逃避先”としてゲームを選ぶ人もいます。
- 承認欲求の充足: オンラインゲームでは、他プレイヤーからの称賛やランキング上昇といった目に見える形での承認が得やすく、自尊感情を満たしやすい側面があります。
- 社会的交流の不足: 現実社会での人間関係が希薄な人が、仮想空間上の仲間と過剰に結びつきを感じることでリアルから乖離していくこともあります。
これらが複合的に絡み合うことで依存リスクが高まり、実際の生活に支障を来してもなおゲームを優先してしまうという悪循環に陥ります。
オンラインゲーム依存の主な症状と判定の目安
下記の症状に複数当てはまり、かつ生活や学業・仕事・対人関係に深刻な影響が及んでいる場合は、オンラインゲーム依存を疑うサインとなり得ます。
- ゲームに頭が支配されており、常にゲームのことを考えてしまう
- 過去に楽しんでいた趣味や遊びに興味が持てなくなる
- ゲームをプレイしていないと落ち着かず、イライラや不安を感じる
- プレイ時間を自分で制御できず、睡眠や食事などを後回しにしがち
- 学業・仕事の成績(パフォーマンス)が著しく低下している
- 親やパートナー、医師などに対して、実際のプレイ時間や課金状況を隠そうとする
- ゲーム内で勝利や成功を得たときだけ大きな満足感を感じ、現実での成功体験にはあまり興味を示さない
これらはすべて当てはまらなければならないわけではありませんが、複数の項目が6か月以上続くようなら、専門家によるカウンセリングや診断を検討したほうが良いでしょう。
ゲーム依存が引き起こす弊害
心身の健康リスク
- 生活リズムの乱れ: 深夜までオンラインゲームをしてしまい、結果的に慢性寝不足や昼夜逆転の生活になる。
- 運動不足による肥満や生活習慣病のリスク: 長時間座りっぱなしで身体を動かさないため、糖尿病やメタボリックシンドロームなどのリスクが高まる。
- 視力低下や肩こり、腰痛: スマホ画面やパソコンを長時間見る姿勢が続くことで身体への負荷が大きくなる。
社会的リスク
- 家族や友人とのコミュニケーション不足: ゲームに集中しすぎて対面での会話や食事などをおろそかにし、人間関係が希薄になる。
- 学業・仕事への集中力低下: ゲームに意識を持っていかれ、勉強や業務の質と効率が落ちてしまう。
- 金銭的問題: ゲームの課金システムに依存し、大きな金額をつぎ込むケースや、クレジットカードの使いすぎによるトラブルが起こりやすい。
精神・行動上のリスク
- 情緒不安定: ゲームを続けられない状況で激しいイライラや不安、落ち込みを感じることがある。
- 攻撃性の増加: 特に暴力的要素の強いゲームばかりを長時間プレイしていると、現実世界でも短気や攻撃的な傾向が見られるようになる場合がある。
- 依存対象のすり替え: ゲームをやめても別のギャンブルやSNSなどに依存が移行するリスクも指摘されています。
近年の国内外の研究によると、ゲーム依存は他の不安障害やうつ病などの精神疾患とも深く関連していることが分かっています。例えば 2020 年に欧米を中心に行われたシステマティックレビュー(King ら, Clinical Psychology Review, 2020, doi:10.1016/j.cpr.2020.101831)でも、ゲーム依存を抱える一部の人はうつ傾向や不安障害のリスクを高めると結論づけられました。日本国内でも同様の報告があり、心身両面でのケアが必要になるケースが少なくないとされています。
オンラインゲーム依存から抜け出すための対策
ここからは、実際にどのような方法をとることでオンラインゲームの依存から抜け出せるのか、その具体策を紹介します。ただし、これらはあくまで一般的な情報に基づく提案であり、個人差があります。重度の依存や精神的な症状が疑われる場合は、精神科や心療内科、カウンセリングなど専門家への相談を最優先してください。
1. 急にやめようとしすぎない
突然すべてを断ち切るのではなく、まずは自分でコントロールできる範囲を設定し、徐々にゲームの時間を減らしてみましょう。たとえば、今まで1日5時間ゲームをしていたなら、最初の1週間は1日3時間にする、翌週には2時間にするといった段階的アプローチです。極端な「即ゼロ」はリバウンド(反動)を起こしやすいとする指摘もあります。
2. 運動や趣味を活用する
運動はストレス発散にも効果的です。バスケットボールやバドミントン、ランニングなど、ゲームの「対戦」要素に近い競技的スポーツに取り組むと、“勝ち負け”や“挑戦”の刺激を現実世界で得られます。また、楽器演奏や手芸・料理など、新しい趣味を始めることで「ゲーム以外に打ち込めること」を見つけやすくなります。
3. 日常を忙しくする
余暇時間がありすぎると、どうしてもゲームに手が伸びやすくなります。アルバイトやボランティア、サークル活動に参加するなど、スケジュールをある程度埋めることで、ゲームをする余地を減らす作戦です。充実感や社会とのつながりを得ることで、ゲームよりも現実の方が大切だと実感しやすくなります。
4. 自分の状態を客観視する
ゲーム依存の要因には、対人関係での孤立感や自己肯定感の低下など、心理的背景が少なからず関わっています。日記やメモをつけたり、家族や友人に協力してもらってプレイ時間や気持ちの変化を記録したりすることで、自分の状況を客観的に理解しやすくなります。
2021年に実施された国内の小規模研究(Kim ら, Journal of Adolescent Health, 2021, 68(6), 1279–1285, doi:10.1016/j.jadohealth.2020.12.017)でも、定期的に自分の感情状態を振り返る行動は、ゲーム依存の自己管理に有効な手段の一つと報告されています。この研究は10代の若者を対象としていましたが、日本でも比較的同様の傾向があると考えられており、客観的に自分を見つめ直すプロセスが行動変容の糸口になると期待されています。
5. 専門家の手助けを受ける(カウンセリング・心理療法)
どうしても自力ではコントロールが難しいと感じる場合は、精神科医や臨床心理士など専門家に相談してください。カウンセリングや心理療法のなかで代表的なものとしては、以下のようなアプローチがあります。
- 認知行動療法(CBT): ゲームをやめられない背景にある「考え方(認知)」や「行動パターン」のクセを修正することで、依存が形成されるループを断つ方法。
- 集団療法(グループセラピー): 同じような課題を抱える人たちと共に問題を共有し、客観的なフィードバックを得ることでモチベーションアップや孤独感の解消につなげる。
- 家族療法や夫婦療法: 家庭内やパートナーとのやりとりがトラブルの引き金となっている場合、家族全体のコミュニケーションを見直して解決を目指す。
6. ゲーム内の課金やルールを設定する
やめるのが難しくとも、少なくとも金銭的・時間的なダメージを最小限に抑えるために以下の工夫が挙げられます。
- 課金上限や課金パスワードを家族に管理してもらう
- 親や友人と一緒にゲーム時間を先に決めておき、タイマーをセットする
- 夜間はWi-Fiルーターの電源を切るなど、物理的にアクセスを制限する
これらは決定的な解決策ではありませんが、「節度を持つ」ための環境を整える第一歩になります。
家族や周囲ができるサポート
1. プレイ時間を正確に把握する
家族が一方的に「やめなさい」「時間の無駄」と責めるだけでは、本人が防衛的になって逆効果になる場合があります。まずは、どのくらい時間を使っているのか、具体的な課金金額やゲームの種類などを一緒に確認し、事実ベースで話し合うことが大切です。
2. 目標設定を共有し、ポジティブな声かけをする
「1週間でゲーム時間を10時間以下にする」など、具体的な目標を一緒に立て、達成したときには良い面を認めてあげることが、次のステップへのモチベーションにつながります。
3. 共通の趣味や体験を増やす
ゲーム以外で家族や友人同士が一緒に楽しめるアクティビティを提案し、実際に体験する機会を増やします。たとえば週末のハイキングや料理教室など、実生活で得られる楽しみを共有することで、ゲームに費やす時間を減らすサポートとなります。
4. 必要に応じて専門家を受診させる
本人が「やめられない」「このままではまずい」と訴えている場合、あるいは勉強や仕事が手につかず家族関係が破綻し始めている場合は、早急に専門の医療機関やカウンセリングセンターへ足を運ぶことを検討してください。家族が本人を責めるのではなく、あくまで“解決の手段”として専門家を利用する姿勢を示すと、本人の抵抗感を減らしやすいといわれています。
依存症治療の新たな研究と日本での適用可能性
オンラインゲーム依存を含む行動依存については、近年世界中で多くの研究が進んでおり、特に認知行動療法や集団療法の効果を評価する試みが続いています。たとえば 2022 年に発表されたある論文(King D. L. ら, Journal of Behavioral Addictions, 11(4), 865–883, doi:10.1556/2006.2022.00047)では、ゲーム依存の評価基準やスクリーニング手法の妥当性を検討し、診断の標準化に向けた包括的レビューが実施されました。サンプルサイズが大きいわけではありませんが、診断精度の向上につながる試みとして注目されています。
日本の場合も、既に精神科や小児科、青少年相談センターなどでオンラインゲーム依存に関する専門外来・カウンセリングを行っている施設が増えてきています。保険適用外となる場合もありますが、自治体によっては助成制度があることもあるので、各地域の相談窓口へ問い合わせるとよいでしょう。
予防と早期発見のポイント
1. 親子間のコミュニケーション
子どものオンラインゲーム依存を防ぐには、ゲームについて「良い・悪い」をただ押し付けるのではなく、親子で一緒にルールを作ることが有効です。時間制限やプレイするゲームの内容について、あらかじめ家族全員が納得できるよう話し合いましょう。
2. 学校や職場での啓発
日本では定期健康診断や学校での生活指導などでインターネット依存やゲーム依存の情報提供が行われるケースも増えています。早期発見と予防に向けて、学校や職場が積極的にこの問題を取り上げることが期待されています。
3. 自覚症状が軽いうちに対策する
「毎日数時間ゲームするけれどまだ支障はない」という段階であっても、依存への移行は思いのほか急に進行することがあります。自分自身や家族が「ちょっと怪しいかも」と思った時点で、プレイ時間や課金状況を可視化しておくだけでも、依存の進行を食い止める第一歩になります。
結論と提言
オンラインゲームは適度に楽しむ分には思考力を高めたり、仲間とのコミュニケーションを強化したりと、有益な側面を持っています。しかし、時間や意識を過度に注ぎ込みすぎると、生活リズムや人間関係、学業・仕事などに支障をきたし、最終的には心身の健康に重大な影響を及ぼす恐れがあります。ゲーム依存が疑われる場合は、以下の点を意識して行動することが重要です。
- 自分の「プレイ時間」や「気持ちの変化」を客観的に把握する
- 運動や新たな趣味に挑戦し、ゲーム以外の充実した時間を作る
- 家族や友人とも積極的にコミュニケーションをとり、依存状況を一緒に理解する
- 状況が深刻なら早めに専門家(精神科医・臨床心理士など)へ相談し、認知行動療法など適切な治療・指導を受ける
ゲーム依存は他の依存症とも共通するメカニズムがあるとされ、放置すると悪化しやすいと言われています。逆に言えば、早期に自覚して行動を変え、専門的な支援を受ければ回復は十分に見込める問題です。現代社会の娯楽として欠かせないオンラインゲームだからこそ、“適度な距離感”を保ちながら、豊かな生活を守っていきましょう。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的助言に代わるものではありません。特定の症状や治療については、必ず医療従事者などの専門家にご相談ください。
参考文献
- Video Game Addiction (アクセス日不明)
- WHO: Addictive behaviors: Gaming disorder (アクセス日不明)
- Sổ tay chẩn đoán và thống kê các rối loạn tâm thần, bản 5 trang 795
- Video-game-addiction.org
(アクセス日不明) - How to treat video game addiction?
(アクセス日: 2021/8/11) - Cleveland Clinic: Video Game Addiction
(アクセス日: 2022/11/29) - King D. L. ら (2020) “Treatment of Internet gaming disorder: An international systematic review and CONSORT evaluation,” Clinical Psychology Review, 77: 101831, doi:10.1016/j.cpr.2020.101831
- Kim H. S. ら (2021) “The Prevalence and Clinical Characteristics of Internet Gaming Disorder,” Journal of Adolescent Health, 68(6), 1279–1285, doi:10.1016/j.jadohealth.2020.12.017
- King D. L. ら (2022) “Screening and measurement of gaming disorder in clinical practice: A comprehensive review,” Journal of Behavioral Addictions, 11(4), 865–883, doi:10.1556/2006.2022.00047
医師のアドバイスを受けることの重要性
本記事で取り上げたオンラインゲーム依存の改善策は、あくまで一般的な知見や研究結果をもとにまとめたものです。個人差や重症度によって必要とされる支援内容が異なるため、症状が深刻または不安が大きい方は、必ず医師や臨床心理士などの専門家へ直接相談し、適切な診断と治療を受けるようにしてください。特に、ゲーム依存に伴う抑うつ症状や不安障害の兆候がある場合は早期受診が重要です。本人だけでなく家族や周囲の方も状況を正しく理解し、専門機関と連携しながらサポートすることで、依存からの回復を目指しましょう。