はじめに
近年、世界保健機関(WHO)が公表した情報によれば、Campylobacter(カンピロバクター)属菌は下痢症を引き起こす4大病原体の一つとされ、消化管感染症の原因としても世界的に多くの症例が報告されています。とくにCampylobacter jejuni(カンピロバクター・ジェジュニ)は腸管に感染しやすく、鶏肉をはじめとする家禽類との関連が強いことで知られています。本記事では、この細菌による感染症の特徴・症状・原因・治療法・予防策を総合的に解説し、読者が日常生活の中で適切に対処できるように情報を整理します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
さらに、米国疾病予防管理センター(CDC)が2021年に公表したFoodNet(Foodborne Diseases Active Surveillance Network)レポートでは、カンピロバクター感染症は大腸菌(特定の病原性株)などと並んで、食中毒の原因として依然上位を占めるとされています。家禽類の摂取が多い日本でも、食材の取り扱い方法や調理方法によっては感染リスクが高まる可能性があるため、十分に理解したうえで予防を心がけることが重要です。
専門家への相談
本記事に登場する感染症の情報は主にWHOやCDCなどの国際的な公衆衛生機関、ならびに医療分野の専門家による研究データに基づいています。特に今回取り上げるCampylobacter感染症に関しては、上記の公的機関が提供するファクトシートやガイドラインが信頼性の高い根拠となっています。また、日本国内において医師や医療機関で行われる各種検査(便培養検査、迅速診断法など)にもとづく診断情報も、現場のエビデンスとして活用されています。なお、治療や投薬に関する最終的な判断は、必ず医師などの専門家に相談しながら進める必要がある点をご留意ください。
カンピロバクター感染症とは
カンピロバクター感染症の概要
Campylobacter jejuniをはじめとするカンピロバクター属の細菌によって引き起こされる感染症は、一般にカンピロバクター症やカンピロバクター食中毒と呼ばれます。主に腸管(特に小腸)を中心に炎症を起こし、激しい下痢や腹痛など消化器症状をともなうのが特徴です。
世界的には、十分に加熱されていない鶏肉・家禽類との接触、あるいは加熱不十分な乳製品の摂取などが感染経路としてよく挙げられます。日本では「食中毒」というとカンピロバクター以外にも多様な細菌が連想されがちですが、近年の統計から見てもカンピロバクターによる食中毒は比較的頻度が高い部類に入ります。
この感染症は通常、軽症であれば免疫力が十分な方は自然に回復することが多いとされます。一方で、高齢者、妊婦、免疫力の低い方(血液疾患を有する方、AIDS患者、化学療法中の方など)は重症化しやすく、ときに命に関わる合併症を引き起こす可能性があるため要注意です。
なお、2021年にCDCがまとめたFoodNetのサーベイランスデータでは、家禽類を取り扱う環境下での衛生管理不足などを背景に、カンピロバクター症の届出数が継続的に報告されていることが示されています。日本国内でも鶏肉料理を好む食文化があるため、しっかりと火を通すなどの調理上の注意が欠かせません。
主な症状
典型的な症状とその経過
カンピロバクターに感染した場合、代表的な症状には以下のようなものがあります。
- 下痢(軟便から血便まで幅広い)
- 発熱
- 腹部の痙攣的な痛み(腹部けいれん)
- 吐き気や嘔吐(人によっては出ないケースもある)
症状は感染後およそ2~5日で発症しやすく、約1週間程度持続するのが一般的とされています。日本人の食文化では鶏肉やレバーなどを半生で食べることも珍しくないため、感染後にこれらの強い消化器症状が認められた場合は、食中毒としてカンピロバクター感染症を疑うべきケースがあります。
症状の合併症と注意点
多くの場合は自然治癒に向かいますが、次のような合併症がみられることも報告されています。
- 過敏性腸症候群(IBS)
- 一過性の筋力低下または麻痺(ギラン・バレー症候群との関連も指摘あり)
- 関節炎(反応性関節炎)
また、カンピロバクター菌が血中に入り、全身的な感染症へと発展すると、敗血症など重篤な症状を引き起こすことがあります。免疫が弱い方にとっては大きなリスクとなるため、下痢や発熱が長引く場合は早めに受診が必要です。
感染経路と原因
カンピロバクターに汚染されやすい食品と感染経路
- 家禽類(鶏肉など)の生食や加熱不十分な摂取
カンピロバクターは鶏の腸管内に生息していることが多く、表面が新鮮に見える鶏肉でも内部に菌を保持していることがあります。 - 生乳や非加熱の乳製品
低温殺菌されていない牛乳やヤギ乳などをそのまま摂取すると感染リスクがあります。 - 動物との接触
犬や猫などペットの糞に含まれることがあるため、排泄物の処理やペットとの触れ合い後に十分な手洗いをしない場合、菌が口に入ることがあります。 - 汚染された水
発展途上国や一部地域では上水道管理が十分でない可能性があり、生水や氷などが汚染されていることがあります。
また、カンピロバクター感染症は普段は散発的に発症することが多いですが、一度に多人数が同じ汚染食品を口にした場合、集団食中毒として発生することもあります。
診断と治療
診断
カンピロバクターによる感染を判別するためには、以下のような検査がおこなわれます。
- 便培養検査
便から菌を培養し、カンピロバクターを直接検出する方法です。 - 迅速検査(PCR法など)
菌の遺伝子を検出することで、迅速な診断が可能です。
感染が腸管を越えて他の臓器に広がっている疑いがある場合は、血液培養検査やその他の検査が追加で行われることがあります。
治療
自然治癒と脱水対策
健康な成人の場合、軽度~中等度の感染では、およそ1週間以内に自然治癒することが一般的とされています。何よりも重要なのが、下痢による脱水を防ぐための水分補給と電解質補給です。吐き気や嘔吐があるときは少量ずつこまめに水分補給をするように心がけます。
下痢を止める薬や吐き気止めを安易に使用すると、体内からの排菌を遅らせる可能性が指摘されることがあります。特に免疫が保たれている場合は、医師の指示なしに下痢止め薬などを使うことは推奨されません。
抗菌薬の使用
カンピロバクター菌が腸管上皮細胞に深く侵入している場合や、長期的に菌が体内に残存し続けていると考えられる場合には、抗菌薬を使用することがあります。また、重症化リスクが高い以下の方々では積極的に抗菌薬治療が考慮されることがあります。
- 高齢者(65歳以上)
- 妊婦
- 免疫機能が低下している方(血液疾患やAIDSの方、化学療法中の方など)
近年、米国のInfectious Diseases Society of America(IDSA)による食中毒ガイドライン(2021年改定版)でも、免疫不全患者がカンピロバクター感染を起こした際は症状改善だけでなく合併症予防の観点からも数日以上の抗菌薬投与を推奨する旨が示されています。
受診のタイミング
症状が2日以上続く、あるいは以下の状態が見られる場合には医療機関を受診することが望ましいと考えられます。
- 脱水の症状(尿量の著しい減少、口渇、めまいなど)
- 腹部の激しい痛みや直腸の強い痛み
- 39℃を超える発熱
とくに免疫が弱い方は発症初期段階から早めに診断と治療を受けることが重要です。
予防と衛生管理
食中毒予防の基本
- 徹底した加熱
とくに鶏肉は内側までしっかりと火を通し、中心部の温度が74℃以上になるようにします。表面が白く変色しても、内部が十分に加熱されていないと菌が残存する可能性があります。 - 生肉とほかの食材の分離
生肉を扱うまな板や包丁は、果物や野菜など加熱しないまま食べる食材と区別して使用するのが望ましいです。 - 定期的な手洗い
調理前、調理中、調理後、さらにペットの排泄物に触れた際など、こまめに石けんと流水で手を洗う習慣をつけましょう。 - 生乳や未殺菌の製品の回避
日本国内で市販される牛乳の多くはすでに殺菌処理されていますが、海外渡航時やイベントなどで提供される“生乳”やヤギ乳などをそのまま口にする際には注意が必要です。 - 外出時の飲用水選択
海外の一部地域では水道水の管理が不十分な場合もあり、生水を飲んだり、現地で氷をそのまま使用すると感染リスクが高まります。滞在先の衛生状況を確認し、必要に応じてペットボトルの水を利用するなど対策しましょう。
二次感染防止
下痢や嘔吐が強い間は、学校や職場に行くと周囲に菌を広げる恐れがあります。自宅で十分に休養をとり、体内の菌が排出されるまで様子を見ることが大切です。自宅内でもトイレや洗面台のこまめな消毒、タオルやリネンの分別などを行いましょう。
結論と提言
カンピロバクター感染症は、比較的よくみられる食中毒の一種であり、鶏肉をはじめとする家禽類に由来するケースが多く報告されています。多くの場合、免疫が保たれている方であれば自然治癒する傾向があるものの、高齢者、妊婦、免疫が低下している方では合併症や重症化のリスクが高まるため注意が必要です。
- 感染予防には生肉の取り扱いや十分な加熱処理がとくに重要です。
- 下痢や嘔吐による脱水を防ぐため、適切な水分・電解質補給を行いましょう。
- 重症化のリスクがある方は抗菌薬治療を受ける場合があり、症状が持続したり悪化したりするなら早めに医療機関を受診してください。
最後に、ここで提供している情報は一般的な健康知識に基づくものであり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状の程度や体質などは人によって異なるため、不安がある場合や回復が遅い場合は必ず医師などの専門家へ相談することを強くおすすめします。
本記事は参考情報を提供するものであり、医療行為の代替ではありません。気になる症状や治療方針に関しては、必ず医師など専門家に相談してください。
参考文献
- Campylobacter (Campylobacteriosis). https://www.cdc.gov/campylobacter/faq.html (アクセス日不明)
- What Is Campylobacter Infection? https://www.webmd.com/food-recipes/food-poisoning/what-is-campylobacter-infection#1 (アクセス日不明)
- Campylobacter. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/campylobacter (アクセス日不明)
- Campylobacter Infections. https://kidshealth.org/en/parents/campylobacter.html (アクセス日不明)
- Campylobacter. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537033/ (アクセス日不明)
- Foodborne Diseases Active Surveillance Network (FoodNet): 2021 CDC Report. Centers for Disease Control and Prevention (抜粋情報、アクセス時期不明)
(医師による監修: Nguyễn Thường Hanh)
本記事の内容は医療上の助言に代わるものではありません。個々の症状や体質に応じて適切な判断が必要ですので、気になる症状が続く場合や対処法に疑問がある場合は、速やかに専門家へご相談ください。