ゴルフが拓く健康長寿への科学的ロードマップ:エビデンスに基づく心身への効果と実践法
スポーツと運動

ゴルフが拓く健康長寿への科学的ロードマップ:エビデンスに基づく心身への効果と実践法

単なる娯楽やスポーツを超え、ゴルフが私たちの健康と寿命に与える影響は、科学的にも極めて大きいことが明らかになってきました。JapaneseHealth.org編集委員会は、国内外の最新かつ信頼性の高い医学研究を徹底的に分析し、ゴルフがもたらす驚くべき健康効果の全貌と、その利益を最大限に引き出すための具体的な実践法を、日本の皆様にお届けします。本稿の目的は、単に「ゴルフは健康に良い」という漠然とした言説を繰り返すことではなく、その背後にある科学的根拠(エビデンス)を一つひとつ丁寧に解き明かし、皆様がより健康で豊かな人生を送るための、信頼できる羅針盤となることです。本稿で紹介する知見は、2008年に発表され世界に衝撃を与えた「ゴルファーは平均5年長生きする」というスウェーデンの大規模研究12をはじめ、40以上の慢性疾患の予防や治療に貢献する可能性を示した包括的な国際レビュー3、そして特に日本の高齢化社会において重要な意味を持つ、国立長寿医療研究センターによる認知機能改善に関する研究4など、最高水準の科学的証拠に基づいています。

本稿の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性のみが含まれています。

  • Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sportsに掲載されたスウェーデンの研究: 本稿における「ゴルフによる死亡率の40%低下と平均余命の5年延長」に関する指針は、情報源資料で引用されている、この大規模コホート研究に基づいています。12
  • British Journal of Sports Medicine (BJSM) の国際的コンセンサス声明: 「40以上の慢性疾患の予防・治療への貢献」や「リスク管理」に関する記述は、約5,000の研究を分析したこの包括的なスコーピングレビューおよび国際コンセンサスに基づいています。35
  • 日本の国立長寿医療研究センター (NCGG) の研究: 「記憶力の改善と軽度認知機能低下(MCI)のリスク低減」に関する分析は、日本人を対象としたこの画期的なランダム化比較試験(RCT)およびコホート研究に基づいています。46
  • 日本の公益社団法人日本パブリックゴルフ協会 (PGS) の研究: 「日本人ゴルファーにおける脂質プロファイルの改善」に関する具体的なデータは、PGSが実施したこの横断研究に基づいています。78

要点まとめ

  • 寿命延長の科学的証拠:スウェーデンの大規模研究により、ゴルファーは非ゴルファーに比べ死亡率が40%低く、平均余命が5年長いことが示されています。12
  • 生活習慣病の予防:ゴルフは心臓病、脳卒中、糖尿病など40以上の慢性疾患の予防や管理に有効であると、国際的な医学レビューで結論付けられています。3
  • 認知機能の維持・向上:日本の国立長寿医療研究センターの研究で、ゴルフが記憶力を改善し、軽度認知機能低下(MCI)のリスクを低減させることが、ランダム化比較試験(RCT)という信頼性の高い手法で確認されています。4
  • 心血管系の健康改善:日本人ゴルファーを対象とした調査では、悪玉コレステロールや中性脂肪の値が有意に低いことが明らかになっており、動脈硬化のリスクを低減します。7
  • 安全な実践が鍵:健康効果を最大化するためには、紫外線対策や適切なウォームアップによる怪我の予防など、リスク管理を意識することが不可欠です。5

序論:娯楽から長寿へ – 医学的に認められた健康介入としてのゴルフ

ゴルフは、多くの人々にとって生涯を通じて楽しめるスポーツ(生涯スポーツ)です。9 しかし、その価値は単なる趣味活動に留まりません。冒頭で述べた通り、2008年に権威ある医学雑誌『Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports』で発表されたスウェーデンの画期的なコホート研究によると、約30万人のゴルファーを追跡調査した結果、ゴルファーは非ゴルファーと比較して死亡率が40%低く、平均余命が5年長いことが明らかになりました。1210 この研究は、ハンディキャップが低い(=プレー頻度が高い)ゴルファーほど、死亡率がさらに低いことも示しており、ゴルフの実践が直接的に長寿に寄与する可能性を示唆しています。1

さらに、この発見を裏付けるように、2016年に『British Journal of Sports Medicine (BJSM)』に掲載された包括的なスコーピングレビューでは、既存の約5,000件の研究を精査し、ゴルフが心臓病、脳卒中、2型糖尿病、特定のがんなど、40以上の主要な慢性疾患の予防や管理に貢献できると結論付けています。31112 本稿では、これらの衝撃的な事実の裏にある科学的メカニズムを、特に日本の研究成果に焦点を当てながら深く掘り下げ、すべてのゴルファーが安全かつ効果的に健康を増進するための、医学的根拠に基づいた実践的ガイドを提供します。

表1:ゴルフの健康効果に関する主要な科学的根拠の概要
主な知見 研究デザイン 主要な典拠
平均余命5年延長、死亡率40%低下 大規模コホート研究 Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports (Farahmand et al., 2009) 1
40以上の慢性疾患(心臓病、脳卒中、糖尿病等)の予防・治療 スコーピングレビュー British Journal of Sports Medicine (Murray et al., 2016) 3
記憶機能の改善、軽度認知機能低下(MCI)の発生率低下 ランダム化比較試験(RCT)・コホート研究 日本の国立長寿医療研究センター (NCGG) 4
脂質プロファイルの改善(LDLコレステロール・中性脂肪の低下) 横断研究 公益社団法人日本パブリックゴルフ協会 (PGS) 7

第1章 生理学的基盤:ゴルフはいかにして心血管および代謝の健康を再構築するか

1.1. 脂質プロファイルと血管の健康に関する臨床的視点:日本人ゴルファーのデータからの洞察

ゴルフが健康に良いという主張を、日本の読者にとってより具体的で身近なものにするために、公益社団法人日本パブリックゴルフ協会(PGS)による研究結果に注目します。78 この研究は、定期的にゴルフをプレーするグループ(HG群)と、ゴルフをしない同年代のグループの健康指標を比較したものです。結果は明白でした。HG群は、総コレステロール値(非ゴルファー群226.1mg/dlに対し194.4mg/dl)、LDL(悪玉)コレステロール値(同149.7mg/dlに対し118.5mg/dl)、そして中性脂肪の値が、ゴルフをしないグループに比べて統計的に有意に低いことが示されました。7

これらの数値が持つ臨床的な意味は極めて重要です。LDLコレステロールと中性脂肪の値が低いということは、血管の壁にプラークが蓄積して硬くなる「動脈硬化」のリスクが直接的に減少することを意味します。動脈硬化は、心筋梗塞や脳卒中といった生命を脅かす疾患の根本原因であり8、ゴルフがこれらの疾患の予防に寄与することを示す強力な国内データと言えます。この脂質プロファイルの改善は、PGSの研究で示された、ゴルファーが日常生活においてより多くの歩数を記録し、特に「速歩運動」の時間が長いという身体活動量の多さに起因すると考えられます。7

1.2. 問題の核心:中強度身体活動としてのゴルフ

ゴルフの健康効果を科学的に理解する上で、「METs(メッツ:Metabolic Equivalent of Task)」という運動強度の単位が役立ちます。METsは、安静時を1としたときに、その活動が何倍のエネルギーを消費するかを示す世界共通の指標です。11 『British Journal of Sports Medicine』のレビューをはじめとする多くの研究では、ゴルフは一般的に3~6 METsの範囲に分類される「中強度身体活動」であると結論付けています。平均的には約4.5 METsに相当し13、これは世界保健機関(WHO)などが健康増進のために推奨する運動強度と完全に一致します。

この中強度の活動を、4~5時間にわたる1ラウンドのプレーを通じて持続的に行うことが、心肺機能の向上、血圧の低下、そして様々な生活習慣病の予防に繋がるのです。14 興味深いことに、ゴルフ観戦でさえも、1日に1万歩を超えるウォーキングに繋がることが報告されており、ゴルフというスポーツ文化全体が人々の活動量を増やすきっかけとなり得ます。13
このように、「ゴルファーは長生きする」という大きな命題から始まり、「心血管の健康が改善されるから」という理由を示し、その証拠として「日本人ゴルファーの具体的なコレステロール値のデータ(PGS研究)」と「国際的に推奨される運動強度(METs)を満たしているという科学的根拠(BJSMレビュー)」を提示することで、読者は納得感のある、信頼性の高い知識を得ることができるのです。

第2章 運動器の健康:強靭な筋骨格系を構築する

2.1. 筋力、安定性、転倒予防:活動的な加齢におけるゴルフの独自の役割

ゴルフは、身体への負荷が少ない「低負荷スポーツ」でありながら、全身運動としての側面を併せ持ちます。15 特に高齢化が進む社会において、その価値は計り知れません。起伏のあるコースを歩くことと、スイング時のダイナミックな回旋運動の組み合わせは、身体のバランス能力を効果的に向上させます。14 日本の研究では、足裏でゴルフボールを転がすといった簡単な運動でさえ、高齢者の平衡機能改善に寄与することが示唆されており16、グラウンド・ゴルフにおいても同様の効果が報告されています。17 これは、高齢者にとって深刻な問題である「転倒予防」に直接的に貢献します。

さらに、コースを歩くという行為は、骨に適切な負荷をかける「荷重運動」です。これにより骨密度が維持され、骨がもろくなる「骨粗しょう症」の予防に繋がります。14 ゴルフは、単なる運動ではなく、日常生活の質を高めるための「機能的トレーニング」なのです。

2.2. スイングの生体力学:隠れた全身エクササイズ

多くの人がゴルフを穏やかな活動と捉えがちですが8、スイングという動作は、驚くほど多くの筋肉群を動員する複合的な運動です。力強いスイングは、下半身(脚、臀部)、体幹(腹筋、腹斜筋)、上半身(背筋、肩、腕)の筋肉を協調させて行われます。14 この全身を使った協調運動は、筋力を向上させるだけでなく、特に体幹と肩の柔軟性や可動域を広げる効果があります。1418 これにより、良い姿勢が保たれ、安定した体幹が腰痛の予防にも繋がるのです。14
ゴルフがもたらす筋骨格系への恩恵は、単に「運動になる」というレベルに留まりません。起伏のある地形を歩くことでバランス感覚が養われ、力強いスイングで体幹が鍛えられる。これらの効果は、日常生活における安定性や回復力の向上に直結し、特に高齢者の自立した生活を支える上で非常に重要です。

第3章 認知機能アドバンテージ:脳と精神の健康のためのツールとしてのゴルフ

3.1. 認知機能低下に対する盾:ゴルフと記憶に関する日本の画期的な研究

日本の読者にとって、本稿が提供する最も価値ある情報の一つが、国立長寿医療研究センター(NCGG)による研究成果です。46 この研究の重要性は、科学的証拠として最も信頼性が高いとされる「ランダム化比較試験(RCT)」と、長期間の追跡調査である「コホート分析」という二つの強力な手法を用いている点にあります。4

RCTの結果は驚くべきものでした。ゴルフを実践したグループは、対照群と比較して、特定の記憶課題において統計的に有意な改善を示したのです。4 さらにコホート研究では、ゴルフの経験がある高齢者は、他の運動習慣とは独立して、認知症の前段階とされる「軽度認知機能低下(MCI)」や認知機能の衰えの発生率が有意に低いことが明らかになりました。4 MCIは、日常生活に支障はないものの、記憶力などの認知機能に問題が生じている状態であり、その予防は日本の公衆衛生における大きな目標の一つです。19 このNCGGの研究は、ゴルフがその有効な手段となり得ることを科学的に証明した点で画期的です。20

3.2. 「デュアルタスク運動」の優位性:なぜゴルフは単なる脳トレではないのか

なぜゴルフはこれほどまでに脳の健康に良いのでしょうか。その鍵を握るのが「デュアルタスク(二重課題)運動」という概念です。9 これは、身体的な課題と認知的な課題を同時に行う運動のことで、ゴルフはこの典型例と言えます。

  • 身体的課題:コースを歩き、バランスを保ち、スイングという複雑な運動技能を遂行する。14
  • 認知的課題:残り距離を計算し、適切なクラブを選択し、グリーンの傾斜を読み、コース戦略を立て、スコアを記録する。21
  • 社会的課題:同伴者とコミュニケーションをとること自体が、認知的な刺激となる。21

この身体的、認知的、そして社会的な刺激のユニークな組み合わせこそが、ゴルフを脳の健康にとって特に効果的な活動にしているのです。

3.3. スコアカードを超えて:グリーンエクササイズ、社会的繋がり、ストレス軽減の心理的効果

ゴルフの精神面への好影響も、科学的に裏付けられています。『BJSM』のレビューや国際コンセンサス声明では、ゴルフがもたらす心理的な恩恵が強調されています。512 まず、ゴルフコースのような自然環境の中で行う身体活動、いわゆる「グリーンエクササイズ」は、ストレスを軽減し、気分を改善する効果があることが証明されています。14
また、同伴者との社会的交流は、特に高齢者においてうつ病や認知症の既知のリスク要因である孤独感や社会的孤立を防ぐ上で重要な役割を果たします。14 さらに、太陽光を浴びることで、気分を安定させる働きのある神経伝達物質「セロトニン」(通称「幸せホルモン」)の生成が促されることも見逃せません。9 これら全ての要素が組み合わさることで、ゴルフは身体だけでなく、心と脳の健康にも包括的に貢献するのです。

第4章 バランスの取れた医学的視点:ゴルフ関連リスクの理解、予防、管理

信頼できる医療情報を提供するというJapaneseHealth.orgの責務として、ゴルフがもたらす利益だけでなく、潜在的なリスクについても公平に、そして科学的根拠に基づいて解説することは不可欠です。リスクを理解し、適切に管理することで、ゴルフをより安全で持続可能な健康習慣とすることができます。

4.1. 整形外科的視点から見たゴルフ傷害:腰痛から「ゴルフ肘」まで

ゴルフは中程度のリスクを持つスポーツであり、特に腰、肘、手首が最も一般的な傷害部位であることが複数の研究で示されています。31222 「ゴルフ肘」(医学的には上腕骨内側上顆炎)は、その代表例です。2324 しかし、これらの傷害の多くは予防可能です。整形外科領域の文献に基づき、以下の予防戦略が推奨されます。25

  • 適切なウォームアップの重要性:ある研究では、わずか7分間のウォームアップでも傷害リスクを低減できることが示されています。13 体幹や肩、股関節周りの動的ストレッチが特に有効です。
  • 筋力強化と柔軟性の向上:体幹(コア)と前腕の筋力強化、そして柔軟性を高めるエクササイズは、スイング時の身体への負担を軽減します。23
  • 正しいスイング技術の習得:無理のない効率的なスイングは、特定の関節や筋肉への過度なストレスを減らし、傷害予防に直結します。

4.2. 皮膚科学的要請:紫外線による皮膚がんリスクの最小化

2018年の国際コンセンサス声明では、ゴルフと長期的な紫外線曝露、そしてそれに伴う皮膚がんリスクの増加との関連性が明確に指摘されています。526 特にオーストラリアで行われた研究では、ゴルファーは一般人口に比べて皮膚がんの生涯有病率が2.4倍高いと報告されており、このリスクの深刻さを物語っています。272829
しかし、このリスクもまた、適切な対策によって大幅に軽減することが可能です。皮膚科専門医の助言に基づき、以下の包括的な紫外線対策を「健康的なゴルフ習慣の不可欠な一部」として実践することが強く推奨されます。303132

  • 日焼け止めの使用:SPF値が高く、広範囲の紫外線を防ぐ(ブロードスペクトラム)日焼け止めを、プレー前に十分な量を塗り、ラウンド中に塗り直す。
  • 帽子の着用:キャップだけでなく、耳や首の後ろも保護できるつばの広い帽子を選ぶ。
  • UVカット機能のある衣類とサングラス:長袖のウェアや、UVカット機能のあるサングラスを着用する。
  • 日陰の活用とプレー時間の工夫:可能な限り日陰を利用し、紫外線が最も強い時間帯のプレーを避ける。
表2:ゴルフのリスクと利益のバランス分析
健康上のメリット 関連するリスク エビデンスに基づく軽減策
身体活動による心血管、筋骨格、認知機能の改善。 筋骨格系の傷害(例:腰、肘)。3 適切なウォームアップ、体幹・前腕の強化、正しいスイング技術。13
屋外活動による精神的リフレッシュ、ビタミンD生成。21 紫外線による皮膚がんリスクの増加。5 包括的な紫外線対策:日焼け止め、つばの広い帽子、UVカット衣類・サングラス。30
ストレス軽減、社会的交流。14 脱水症、熱中症(夏季);心血管イベントのリスク増(冬季のハイリスク者)。8 十分な水分補給、気候への順応、適切な服装、極端な気温下でのプレーは医師に相談。

第5章 実践計画:毎回のラウンドから健康効果を最大化する

これまでに解説してきた科学的根拠を、読者が日々のゴルフライフで実践できる具体的な行動計画へと落とし込みます。

5.1. 歩行か乗用カートか:健康アウトカムの定量的比較

健康効果を最大化する観点から言えば、乗用カートを利用するよりも、コースを歩くことが圧倒的に優れています。13 数字で比較するとその差は歴然です。1ラウンドを歩いてプレーすると、移動距離は8~9キロメートルに達し、消費カロリーは1,000キロカロリーを超えることもあります。これは乗用カート利用時の活動量をはるかに凌駕します。13 先述のPGS研究で示された日本人ゴルファーの高い歩数や「速歩」の実践も、この歩行プレーに直接起因すると考えられます。7
しかし、国際コンセンサス声明が示すように、バランスの取れた視点も重要です。乗用カートを利用したとしても、全く運動しない状態と比較すれば、依然として有意な健康上の利益が得られることを強調しておく必要があります。5

5.2. ゴルファーの健康チェックリスト:実践的ガイド

すべてのゴルファーが安全に、そして最大限の健康効果を得るために、以下のチェックリストの実践を推奨します。

  • ラウンド前:科学的根拠に基づいたシンプルなウォームアップを実施する。特に体幹、肩、股関節の動的ストレッチに重点を置く。13
  • ラウンド中:紫外線対策のチェックリスト(日焼け止めの再塗布、帽子の着用)を徹底し、こまめな水分補給を心がける。33
  • ラウンド後:クールダウンのための静的ストレッチを行い、失われた水分を補給する。
  • 長期的視点:スウェーデンの死亡率研究で示された「用量反応関係」(ハンディキャップが低いほど死亡率も低い)を念頭に置き、可能な限り定期的なプレーを継続することが、長期的な健康利益に繋がる。1

よくある質問

ゴルフは本当に誰にでもできる「生涯スポーツ」なのですか?

はい、その通りです。ゴルフは、個人の体力レベルに合わせてペースを調整できる低負荷なスポーツであるため、子供から高齢者まで幅広い年齢層が楽しむことができます。14 特に、高齢者にとってはバランス能力や筋力の維持、認知機能の刺激といった点で多くのメリットがあり、活動的な生活を長く続けるための有効な手段となり得ます。1417

ゴルフによる健康効果を得るためには、どのくらいの頻度でプレーすればよいですか?

明確な基準はありませんが、スウェーデンの研究では、プレー頻度が高い(ハンディキャップが低い)ゴルファーほど健康上の利益が大きいという「用量反応関係」が示唆されています。1 まずは無理のない範囲で始め、可能な限り定期的にプレーを続けることが、長期的な健康効果を得るための鍵となります。週に1回程度の練習や、月に1~2回のラウンドでも、何もしないよりは格段に良い効果が期待できます。

腰痛持ちなのですが、ゴルフをしても大丈夫でしょうか?

腰痛はゴルファーに最も多い傷害の一つです。3 プレーを始める前、あるいは痛みが続く場合は、まず整形外科医などの専門家に相談し、現在の状態でゴルフが可能かどうか、またどのような注意が必要かについて指導を受けることが不可欠です。専門家の許可が得られた場合は、適切なウォームアップ、体幹を強化するトレーニング、そして体に負担の少ないスイング技術を学ぶことで、リスクを管理しながらプレーを楽しむことが可能です。

ゴルフを始めるには費用がかかるというイメージがありますが、健康のためにはそれだけの価値がありますか?

初期投資は必要ですが、その健康への投資対効果は非常に高いと考えられます。本稿で示したように、ゴルフは平均余命の延長、心血管疾患や認知症のリスク低減など、医療費の削減に直結する可能性のある多くの長期的な健康利益をもたらします。14 また、近年ではパブリックコースやショートコース、練習場など、比較的安価に楽しめる選択肢も増えています。長期的な健康という視点から見れば、ゴルフは価値ある自己投資と言えるでしょう。

結論

本稿を通じて、私たちはゴルフが単なるスポーツや娯楽ではなく、科学的根拠に裏打ちされた強力な健康増進ツールであることを明らかにしてきました。スウェーデンの大規模研究が示す平均余命の延長から1、40以上の慢性疾患への予防効果を示した国際的なレビュー3、そして日本の国立長寿医療研究センターが証明した認知機能改善効果4に至るまで、そのエビデンスは圧倒的です。ゴルフは、中強度の有酸素運動、全身の筋力トレーニング、バランス能力の向上、そして「デュアルタスク」による脳の活性化を、自然との触れ合いや社会的な交流の中で実現できる、他に類を見ない活動です。

重要なのは、これらの恩恵を最大限に享受するために、リスクを理解し、賢明に管理することです。適切なウォームアップや紫外線対策といった意識的な取り組みを習慣化することで、ゴルフはより安全で、持続可能な生涯の健康パートナーとなります。この記事が、皆様にとってゴルフという素晴らしい投資を始める、あるいは続けるための一助となることを心から願っています。それは、単にスコアを縮めるためだけでなく、より長く、より健康で、より豊かな人生を歩むための、確かな一歩となるでしょう。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Farahmand B, Broman G, de Faire U, Vågerö D, Ahlbom A. Golf: a game of life and death–reduced mortality in Swedish golf players. Scand J Med Sci Sports. 2009 Jun;19(3):419-24. doi: 10.1111/j.1600-0838.2008.00814.x. Available from: https://www.researchgate.net/publication/51394126_Golf_A_game_of_life_and_death_-_Reduced_mortality_in_Swedish_golf_players
  2. ScienceDaily. Golf Prolongs Life, Swedish Study Finds. [インターネット]. 2008 May 30 [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.sciencedaily.com/releases/2008/05/080530095413.htm
  3. Murray AD, Daines L, Archibald D, et al. The relationships between golf and health: a scoping review. Br J Sports Med. 2017 Jan;51(1):12-19. doi: 10.1136/bjsports-2016-096625. Available from: https://bjsm.bmj.com/content/51/1/12
  4. 国立長寿医療研究センター. 運動介入ランダム化比較試験(RCT)では、ゴルフの実施を運動プログラムは認知機能とした。また、大規模高齢者健康調査(コホート)を用い、ゴルフの実施を運動. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/29/28xx-29.pdf
  5. Murray AD, Lange B, Archibald D, et al. 2018 International Consensus Statement on Golf and Health to guide action by people, policymakers and the golf industry. Br J Sports Med. 2018 Nov;52(22):1426. doi: 10.1136/bjsports-2018-100165. Available from: https://bjsm.bmj.com/content/52/22/1426
  6. 健康長寿ネット. ゴルフは認知症予防に効果的か?! [インターネット]. 2018 [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/news/2018/87-golf.html
  7. 公益社団法人日本パブリックゴルフ協会. 「ゴルフのプレー頻度が ゴルファーの健康や生活に及ぼす影響」. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.pgs.or.jp/data/CT_20110818135901_6ca9124b-1ef3-46d0-8b9e-f324d32630f4.pdf
  8. StepGolf. ゴルフを趣味にするメリット10選!仕事や健康へのプラスの影響は?. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.stepgolf.co.jp/articles/2405
  9. ReGolf. ゴルフは健康に良い!その理由と健康効果について解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://regolf.jp/blog/golf-health-benefits/
  10. Bangor Daily News. Three notable health benefits of a round of golf. [インターネット]. 2024 May 9 [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.bangordailynews.com/2024/05/09/golf_guide_2024/three_notable_health_benefits_of_a_round_of_golf-0vzoa9n507wn-2/
  11. British Journal of Sports Medicine. The relationships between golf and health: a scoping review. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://bjsm.bmj.com/content/bjsports/51/1/12.full.pdf
  12. ResearchGate. (PDF) The relationships between golf and health: A scoping review. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.researchgate.net/publication/308878731_The_relationships_between_golf_and_health_A_scoping_review
  13. JGAゴルフ応援サイト. ゴルフと健康. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.golfer-support.com/?page_id=488
  14. Golf and Health. International Consensus on Golf & Health. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.golfandhealth.org/about/international-consensus-on-golf-health/
  15. RIPS. 【ゴルフトレーニングの科学的根拠No.132】握力、下肢と体幹強化の必要性. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://rips-ip.com/evidence-golfmusclestrength/
  16. J-Stage. 高齢者平衡機能に対する足底刺激の影響. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.jstage.jst.go.jp/article/otoljpn/21/1/21_29/_article/-char/ja/
  17. J-Stage. 地域在住高齢者のグラウンド・ゴルフの実施と運動機能および転倒との関連. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyushupt/2022/0/2022_37/_article/-char/ja
  18. 東洋経済オンライン. ゴルフで「記憶力UP・健康寿命が延びる」は本当か 5000件超の論文検証などでわかった健康効果. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://toyokeizai.net/articles/-/709829
  19. 厚生労働省. ハンドブック. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/001100282.pdf
  20. 日本ゴルフ協会. ゴルフは認知症予防や 健康の維持増進に大きく 寄与するスポーツです. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.jga.or.jp/jga/html/about_jga/image/gj_vol113_1.pdf
  21. tenki.jp. ゴルフは健康によい?健康的に楽しむポイントを紹介(季節・暮らしの話題 2023年05月13日). [インターネット]. 2023 May 13 [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://tenki.jp/leisure/golf/column/dakyu_player/2023/05/13/31914.html
  22. nana beat GOLF. 【最新研究結果も紹介】ゴルフがもたらす心身への驚くべき効果とは?. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://nanabeat.com/post-8555/
  23. エムズクリニック. ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の予防から治療まで. [インターネット]. 2024 Aug 7 [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://m-seikei.net/2024/08/07/%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%95%E8%82%98%EF%BC%88%E4%B8%8A%E8%85%95%E9%AA%A8%E5%86%85%E5%81%B4%E4%B8%8A%E9%A1%86%E7%82%8E%EF%BC%89%E3%81%AE%E4%BA%88%E9%98%B2%E3%81%8B%E3%82%89%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%BE/
  24. 六本木整形外科内科クリニック. テニス肘・ゴルフ肘. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://roppongi-seikei.com/golf-elbow-tennis-elbow/
  25. 日本整形外科学会. 「テニス肘(上腕骨外側上顆炎)」|症状・病気をしらべる. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lateral_epicondylitis.html
  26. PMC. 2018 International Consensus Statement on Golf and Health to … [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6241627/
  27. PMC. Golf participants in Australia have a higher lifetime prevalence of skin cancer compared with the general population. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10360421/
  28. International Journal of Golf Science. A Scoping Review of Golf and Skin Health. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.golfsciencejournal.org/article/73745-a-scoping-review-of-golf-and-skin-health
  29. ダイヤモンド・オンライン. 週末ゴルファーの4人に1人が皮膚がんに!?豪研究グループの調査から. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://diamond.jp/articles/-/329676
  30. ALBA Net. 「太陽を浴びるのは健康にいい」は古い考え! シミ・シワや免疫力の低下を引き起こす“光老化”はウェアで防ぐ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.alba.co.jp/articles/category/golf-life/post/3ky9umn7w_32/
  31. Golmicio. ゴルフの日焼け対策におすすめのグッズ8選!年間180回以上ラウンドするプロが解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://golmicio.asahi.co.jp/golf-goods/hiyaketaisaku/
  32. ティーオン. ゴルフは紫外線対策を入念に!用意したいアイテムとは?. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.t-on.co.jp/f/column/UV-protection
  33. ザムスト. スポーツ選手の日焼け・紫外線対策|パフォーマンス低下を防ぐには. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.zamst-online.jp/brand/supporter/48654/
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ