要点まとめ
- 「シミ」には老人性色素斑、肝斑、そばかす、ADMなど複数の種類があり、それぞれ原因と治療法が異なります。正確な診断のためには皮膚科医への相談が不可欠です7。
- 紫外線対策は、すべてのシミ・そばかすの予防と悪化防止における最も重要な基本ケアです。毎日、高SPF・PA値の日焼け止めを使用することが推奨されます9。
- セルフケアでは、美白有効成分を含む「医薬部外品」の活用が効果的です。日本では、コウジ酸1、トラネキサム酸12、ビタミンC誘導体10などが承認されています。
- 専門的な治療には、飲み薬(トラネキサム酸、シナール等)、塗り薬(ハイドロキノン、トレチノイン)、そしてレーザー治療(Qスイッチレーザー、ピコレーザー、レーザートーニング)などがあり、症状に応じて最適な方法が選択されます8。
- 特に肝斑の治療では、日本ではまずトラネキサム酸などの内服薬が推奨されることが多く8、レーザー治療は慎重に行われます。治療法の選択は、日本皮膚科学会の診療指針7などを参考に、専門医と相談の上で決定することが重要です。
1. シミ・そばかすの正体を深く知る
美しい肌を目指す第一歩は、敵を正しく知ることから始まります。「シミ」や「そばかす」は、メラニンという色素が皮膚に過剰に蓄積することで生じますが、その背景には様々な種類と原因が隠されています。ここでは、その複雑な世界を解き明かしていきます。
1.1. 「シミ」という包括的な言葉の理解
日本語で「シミ(Shimi)」と言うとき、それは医学的には様々な後天性のメラニン色素沈着症を指す総称です7。これらを正確に見分けることは、適切な治療法を選択する上で極めて重要です。なぜなら、あるタイプのシミに有効な治療が、別のタイプのシミには効果がないばかりか、症状を悪化させることすらあるからです8。皮膚科専門医による正確な診断が、治療の成功への鍵となります。
主なシミの種類には以下のようなものがあります。
- 老人性色素斑(ろうじんせいしきそはん): 「日光黒子(にっこうこくし)」とも呼ばれ、最も一般的なシミです。主な原因は長年にわたる紫外線の蓄積で、顔や手の甲、腕など日光に当たりやすい部位に現れます。通常、40歳代以降に見られることが多くなります7。
- 肝斑(かんぱん): 主に頬骨に沿って左右対称に現れる、もやっとした境界不明瞭な色素斑です。紫外線や女性ホルモンのバランスの乱れ、そして肌への物理的な摩擦が主な原因とされています7。慢性的な経過をたどり、再発しやすいという特徴があります。
- 後天性真皮メラノサイトーシス(こうてんせいしんぴメラノサイトーシス / ADM): 主に20歳代以降のアジア人女性に見られ、両側の頬や額、こめかみなどに灰色がかった、あるいは青みがかった斑点として現れます。これは、皮膚の深い部分である真皮にメラニンを産生する細胞(メラノサイト)が存在するために起こり、治療が難しいシミの一つです7。
- 炎症後色素沈着(えんしょうごしきそちんちゃく / PIH): ニキビ、虫刺され、やけど、湿疹、あるいは不適切なスキンケアや美容施術など、皮膚に炎症や傷ができた後に生じる色素沈着です。時間とともに自然に薄くなることもありますが、長く残る場合もあります7。
1.2. 「そばかす」の特性
「そばかす(Sobakasu)」は、医学的には「雀卵斑(じゃくらんはん)」と呼ばれます。主に遺伝的要因によって、幼少期から思春期にかけて現れる小さな茶色い斑点です9。鼻や頬を中心に散らばるように分布し、紫外線を浴びることで色が濃くなる傾向があります。夏に目立ち、冬には薄くなるという季節変動が見られるのも特徴です9。
1.3. メラニン生成のメカニズム:なぜシミはできるのか
シミの根源にあるのは、肌の色を決定づける色素「メラニン」です480。メラニンは、表皮の最も深い層(基底層)にあるメラノサイトという細胞で作られます481。このメラニン生成は、本来、紫外線によるダメージから皮膚細胞の核(DNA)を守るための重要な防御機能です482。
肌が紫外線を浴びると、メラノサイトが活性化し、「チロシナーゼ」という酵素の働きによってアミノ酸の一種であるチロシンからメラニンが合成されます484。作られたメラニンは、周囲の表皮細胞(ケラチノサイト)に受け渡され、紫外線から細胞核を守る傘のような役割を果たします9。
健康な肌では、このメラニンを含んだ古い細胞は、肌のターンオーバー(新陳代謝)によって約28~45日周期で角質として自然に剥がれ落ちます485。しかし、加齢や長期にわたる紫外線ダメージ、ホルモンバランスの乱れなどの影響でメラニンが過剰に作られたり、ターンオーバーが滞ったりすると、メラニンが排出しきれずに皮膚内に蓄積してしまい、これが目に見える「シミ」となるのです9。
以下の表は、代表的なシミとそばかすの種類、その原因と特徴をまとめたものです。ご自身の肌状態を理解するための一助としてご活用ください。
日本語名(読み方) | 一般的な名称 | 主な原因 | 特徴的な見た目 |
---|---|---|---|
老人性色素斑 (Rōjinsei Shikisohan) / 日光黒子 (Nikkō Kokushi) | 日光性シミ、年齢によるシミ | 紫外線、加齢7 | 円形または楕円形で境界が明瞭。薄茶色から濃い茶色で、主に顔や手の甲など日光に当たる部位に出現。時間とともに大きくなることがある7。 |
肝斑 (Kanpan) | 肝斑 | 紫外線、ホルモンバランスの乱れ、摩擦、ストレス7 | 両頬、額、口周りに対称的に現れることが多い。境界が不明瞭なもやっとした茶色の色素斑。再発しやすい7。 |
そばかす (Sobakasu) / 雀卵斑 (Jakuranhan) | そばかす | 遺伝、紫外線9 | 1~2mm程度の小さな斑点が鼻や頬に散在。幼少期から見られ、夏や日光を浴びた後に色が濃くなる9。 |
後天性真皮メラノサイトーシス (Kōtensei Shinpi Meranosaitōshisu – ADM) | ADM、あざの一種 | 明確には不明。紫外線、遺伝、ホルモン要因などが考えられる7 | 青灰色や灰褐色の斑点が両頬やこめかみに見られる。皮膚の深い真皮層に色素が存在する7。 |
炎症後色素沈着 (Enshōgo Shikiso Chinchaku – PIH) | ニキビ跡の色素沈着など | 皮膚の炎症(ニキビ、湿疹)、傷(やけど、擦り傷)、一部の美容施術7 | 炎症や傷があった部位に現れる。色は赤み、茶色、黒など様々。時間と共に薄くなることが多い7。 |
2. 自宅で実践するシミ・そばかす対策(セルフケア)
専門的な治療に進む前に、あるいは治療と並行して、日々のセルフケアはシミ・そばかすの管理において非常に重要な役割を果たします490。正しい知識に基づいた粘り強いケアは、新たなシミの発生を防ぎ、既存のシミが濃くなるのを食い止め、肌全体のコンディションを向上させることが期待できます491。
2.1. セルフケアの4つの柱
シミ・そばかすと向き合うためのセルフケアは、以下の4つの基本要素から成り立っています。
- 徹底した紫外線対策 (紫外線対策 – Shigaisen Taisaku): これは最も重要かつ基本的な対策です9。紫外線(UV)は、ほぼすべての種類のシミの主要な原因であり、既存の色素沈着を悪化させます476。曇りの日や室内であっても、UVAは雲や窓ガラスを透過するため、毎日欠かさず日焼け止めを使用することが不可欠です9。SPF50+、PA++++といった高い防御指数を持つ製品を選び493、屋外での活動時や汗をかいた後などは2~3時間おきに塗り直すことを心がけましょう494。加えて、つばの広い帽子、サングラス、日傘、UVカット機能のある衣類の活用も極めて有効です9。
- 十分な保湿 (保湿 – Hoshitsu): 肌が乾燥すると、バリア機能が低下し、紫外線などの外部からの刺激に対してより脆弱になります495。バリア機能が弱まった肌は、色素沈着の問題を引き起こしやすくなります10。自分の肌タイプに合った保湿剤を使用し、肌の水分を保ち、バリア機能を強化することで、健やかな肌の土台を築き、ターンオーバーをサポートします496。
- 肌への刺激を避ける優しいケア (肌への刺激を避ける – Hada e no Shigeki o Sakeru): 洗顔やメイク落としの際に肌を強くこする行為は、特に肝斑を持つ方や敏感肌の方にとって、メラニン生成を刺激し、症状を悪化させる一因となり得ます8。スキンケアは全て、優しく丁寧に行うことが大切です。
- 健やかな生活習慣 (規則正しい生活 – Kisoku Tadashii Seikatsu): 肌の健康は、体全体の健康と密接に関連しています。質の良い睡眠を十分にとることは、肌の修復と再生を促します9。また、ビタミンC、ビタミンE、L-システインなどの抗酸化物質やアミノ酸を豊富に含むバランスの取れた食事は、内側から肌を支えます9。ストレスはホルモンバランスを乱し、肌状態に悪影響を与える可能性があるため、自分なりのリラックス方法を見つけることも重要です478。
2.2. 日本の市販(OTC)スキンケア製品の選び方
日本のドラッグストアには、シミ・そばかす対策を謳う製品が数多く並んでいますが、その選択には知識が必要です。製品は大きく「化粧品」と「医薬部外品」に分類され、その目的と効果には明確な違いがあります。
「医薬部外品(いやくぶがいひん)」とは、化粧品と医薬品の中間に位置づけられる製品群です504。これらには、日本の厚生労働省(MHLW)がその効果と安全性を特定の目的(例:「美白」、「シミ・そばかすを防ぐ」)に対して承認した「有効成分」が一定濃度で配合されています505。具体的な効果を期待する日本の消費者は、一般的な「化粧品」よりも、この「医薬部外品」を選ぶ傾向にあります506。
美白美容液 (Bihaku Biyoueki)
これらは医薬部外品の中でも特に人気があり、メラニンの生成を抑制する有効成分を含んでいます507。日本の消費者は、@cosmeのような口コミサイトやLDKのような評価雑誌を参考に製品を選ぶことが多く、以下のような製品が人気を集めています12。
- ONE BY KOSÉ メラノショット W: 有効成分としてコウジ酸を配合。1988年に日本で初めて美白有効成分として承認された歴史ある成分で、シミの発生源に直接働きかけると評価されています112。
- HAKU メラノフォーカスEV: トラネキサム酸と4MSKという2種類の美白有効成分を配合し、「シミを作らせない・増やさない」というアプローチで知られています12。
- トランシーノ 薬用メラノシグナルエッセンス: 肝斑ケアに特化したトランシーノシリーズの製品で、有効成分トラネキサム酸を配合しています12。
- ビタミンC配合製品: L-アスコルビン酸2-グルコシドなどのビタミンC誘導体は、その抗酸化作用とメラニン生成抑制効果から、多くの美白製品で採用されています10。
シミ・そばかす対策の市販内服薬
外側からのケアに加え、内側からアプローチする市販の内服薬も日本市場の大きな特徴です509。これらは「第1類医薬品」(薬剤師の説明が必要)または「第3類医薬品」(自由に購入可能)に分類されます。
- トランシーノEX (第1類医薬品): 有効成分としてトラネキサム酸を配合し、「肝斑に限り」改善効果が認められている日本で唯一の市販薬です14。
- トランシーノ ホワイトCプレミアム (第3類医薬品): L-システインとビタミンCを最大量配合し、シミ・そばかすを緩和します14。
- ハイチオールCシリーズ (第3類医薬品): L-システインとビタミンCを主成分とし、メラニンの過剰な生成を抑制し、肌の新陳代謝を促進することでシミにアプローチします9511。
セルフケア製品は予防や軽度の色素沈着の改善には役立ちますが、深いシミやADM、濃いそばかすに対して劇的な効果を得るには、専門的な医療介入が必要となる場合が多いことを理解しておくことが重要です11。
製品タイプ | 主な有効成分 | 製品例(ブランド) | 表示される主な効果 | 参考価格帯 (円) |
---|---|---|---|---|
美容液 | コウジ酸 (Kojic Acid) | ONE BY KOSÉ メラノショット W | 未来のシミまで防ぐ12 | 5,000 – 6,00012 |
美容液 | トラネキサム酸 (Tranexamic Acid), 4MSK | HAKU メラノフォーカスEV | シミの根本原因に届く12 | 10,000 – 11,00012 |
内服薬 (第1類) | トラネキサム酸 (Tranexamic Acid) | トランシーノEX (第一三共ヘルスケア) | しみ(肝斑に限る)改善14 | 3,500 – 7,50014 |
内服薬 (第3類) | L-システイン, アスコルビン酸 (ビタミンC) | ハイチオールCホワイティア (エスエス製薬) | しみ・そばかす・日やけなどの色素沈着症の改善9 | 2,000 – 4,0009 |
健康に関する注意事項
- 市販薬やサプリメントを使用する際は、必ず用法・用量を守り、アレルギー歴がある場合や他の医薬品を服用中の場合は、事前に医師または薬剤師に相談してください。
- スキンケア製品を使用して赤み、かゆみ、刺激などの異常が現れた場合は、直ちに使用を中止し、皮膚科専門医の診察を受けてください。
3. 美容皮膚科での専門的なシミ治療
セルフケアでは改善が難しいシミや、より確実で早い効果を求める場合、美容皮膚科での専門的な治療が有効な選択肢となります522。現代の医療技術は目覚ましく進歩しており、様々なアプローチで色素沈着の問題に取り組むことが可能です。
3.1. なぜ専門医への相談が不可欠なのか
あらゆる治療の前に、まずは皮膚科専門医による正確な診断を受けることが絶対的な原則です10。シミのように見える色素斑が、実は皮膚がんなど、より深刻な病気の兆候である可能性もゼロではありません7。
専門医は、ダーモスコピー(拡大鏡による皮膚の観察)などの専門的な機器を用いて、シミの種類、色素の深さ、範囲を正確に診断します524。その上で、患者一人ひとりの肌質、ライフスタイル、そして期待する結果を考慮し、最も効果的で安全な治療計画を提案します。治療のメリットだけでなく、潜在的なリスク、ダウンタイム、費用についても詳細な説明を受けることで、納得して治療に臨むことができます8。
3.2. 内服薬(処方薬)による体の内側からのアプローチ
特に肝斑の治療において、内服薬は日本の皮膚科で中心的な役割を果たします530。
- トラネキサム酸 (Tranexamic Acid): 肝斑治療の第一選択薬として広く用いられています8。メラノサイトの活性化に関わるプラスミンという物質の働きを阻害することで、メラニンの生成を抑制し、肝斑を改善します531。この効果は厚生労働省によっても承認されており17、多くの臨床研究でその有効性が確認されています20。通常、1~2ヶ月の継続服用で効果が現れ始めます8。
- ビタミンC (シナールなど) & L-システイン (ハイチオールなど): 強力な抗酸化作用を持ち、メラニン生成に関わるチロシナーゼ酵素を阻害します119。また、できてしまった黒色メラニンを淡色化し、肌のターンオーバーを促進する働きもあります。トラネキサム酸と組み合わせて処方されることが多く、相乗効果でシミ改善をサポートします8。
- ビタミンE (ユベラなど): 血行を促進し、肌の新陳代謝を高めることで、肌の健康をサポートします。抗酸化作用により、肌の老化を防ぐ効果も期待されます15。
3.3. 外用薬(処方薬)による直接的なアプローチ
市販品よりも高濃度で強力な有効成分を含む外用薬は、色素沈着に対してより直接的に働きかけます。
- ハイドロキノン (Hydroquinone): 「肌の漂白剤」とも呼ばれる強力な美白成分で、チロシナーゼ酵素を強力に阻害し、メラニンの生成をブロックします11。老人性色素斑、肝斑、炎症後色素沈着など、多くの種類のシミに有効です。ただし、赤みや皮むけなどの刺激を感じることがあり、長期使用には医師の厳格な指導が必要です。日本ではその強力さゆえに慎重に扱われる傾向があります8。
- トレチノイン (Tretinoin / レチノイン酸): ビタミンAの一種で、肌のターンオーバーを劇的に促進します11。これにより、メラニンを含んだ古い角質が速やかに排出され、新しい皮膚の再生を促します。シミだけでなく、小じわやニキビの治療にも高い効果を発揮します。使用開始時に強い赤みや皮むけ(レチノイド反応)が出ることが多いですが、医師の指導のもとで継続することで、滑らかで均一な肌質へと導きます。妊娠中・授乳中の方は使用できません548。
- アゼライン酸 (Azelaic Acid): メラニン生成を抑制する作用に加え、抗炎症作用、抗菌作用も持ち合わせています549。ハイドロキノンやトレチノインに比べて刺激が少なく、マイルドな作用で、肝斑やニキビ、炎症後色素沈着の治療に用いられます。治療後の維持療法としても推奨されています8。
処方薬(特にハイドロキノンとトレチノイン)の使用中は、肌が非常に敏感になり、紫外線からのダメージを受けやすくなります。SPF50+・PA++++の日焼け止めを毎日厳格に使用し、紫外線から肌を徹底的に守ることが、治療効果を最大限に引き出し、副作用を防ぐために絶対に必要です11。
3.4. レーザー・光治療による最先端のシミ除去
レーザーや光治療は、特定の標的(この場合はメラニン色素)に選択的にエネルギーを届け、破壊することでシミを除去する最先端の治療法です553。どの治療法が最適かは、シミの種類、深さ、肌の状態によって大きく異なります。
- Qスイッチレーザー (Ruby, Alexandrite, Nd:YAG): ナノ秒(10億分の1秒)という極めて短い時間で高いエネルギーのレーザー光を照射し、メラニン色素のみを衝撃波で粉々に破壊します554。破壊されたメラニンは、体内のマクロファージ(貪食細胞)によって吸収・排出されます。老人性色素斑やそばかす、ADM(あざ)のように境界がはっきりしたシミに対して非常に高い効果を発揮し、日本皮膚科学会の診療指針でも強く推奨されています7。ただし、肝斑に照射すると悪化するリスクがあるため、正確な診断が不可欠です7。
- ピコレーザー (Picosecond Laser): Qスイッチレーザーよりもさらに短いピコ秒(1兆分の1秒)単位での照射を実現した、新世代のレーザーです556。熱によるダメージを最小限に抑え、衝撃波(光音響効果)でメラニンをより細かく粉砕するため、肌への負担が少なく、炎症後色素沈着(PIH)のリスクが低いとされています25。従来のレーザーでは治療が難しかった薄いシミや、肝斑(ピコトーニングモード)、タトゥー除去にも効果が期待でき、アジア人の肌に適した治療法として多くの研究でその有効性が支持されています2728。
- レーザートーニング: QスイッチYAGレーザーを非常に弱い出力で、広範囲に均一に照射する治療法です559。メラノサイトを過度に刺激することなく、少しずつメラニンを破壊していくため、これまでレーザー治療が禁忌とされてきた肝斑の治療に革命をもたらしました8。肌全体のトーンアップや毛穴の引き締め効果も期待できますが、効果を得るには複数回の治療が必要です22。
- IPL (Intense Pulsed Light / 光治療): 「フォトフェイシャル」とも呼ばれ、特定の波長のレーザー光とは異なり、幅広い波長を含む光を照射します562。これにより、メラニン(茶色)だけでなく、ヘモグロビン(赤み)にも作用するため、シミ・そばかすと同時に赤ら顔や毛細血管拡張の改善も期待できます。顔全体のトーンを均一にし、総合的な肌質改善を目指す方に適していますが、肝斑を悪化させるリスクがあるため、慎重な施術が求められます7。
以下の表は、皮膚科で受けられる主な治療法の概要を比較したものです。専門医と相談する際の参考にしてください。
治療法 | 主な作用機序 | 最適なシミの種類 | 主な副作用・リスク | 一般的な費用(1回あたり) | 典型的な治療回数 |
---|---|---|---|---|---|
内服薬: トラネキサム酸 | メラノサイト活性化を抑制531 | 肝斑8 | まれに胃腸の不快感など20 | 約2,000~3,000円/月8 | 1~2ヶ月以上継続 |
外用薬: ハイドロキノン | メラニン生成を強力に阻害11 | 老人性色素斑, 肝斑, PIH | 皮膚への刺激、赤み、皮むけ11 | 約2,000~5,000円/本8 | 数ヶ月単位 |
Qスイッチレーザー | 衝撃波でメラニンを破壊554 | 老人性色素斑, そばかす, ADM7 | 痛み、かさぶた、PIHのリスク7 | 約5,000~30,000円(範囲による)7 | 1~3回 |
ピコレーザー | 光音響効果でメラニンを微細に破壊557 | 全般(特に薄いシミ、肝斑)25 | QスイッチよりPIHリスクは低いが皆無ではない25 | 約10,000~50,000円25 | 1~5回 |
レーザートーニング | 低出力でメラニンを徐々に破壊560 | 肝斑8 | まれに白斑(色素脱失)7 | 約9,000~15,000円8 | 5~10回以上 |
IPL (光治療) | 広域な光でメラニンと赤みに作用562 | そばかす, 日光性シミ(浅いもの)7 | 肝斑を悪化させるリスク7 | 約15,000~30,000円7 | 3~6回 |
よくある質問 (FAQ)
Q1: シミと肝斑は自分で見分けることができますか?
Q2: シミ治療に保険は適用されますか?
A2: 一般的に、美容目的のシミ(老人性色素斑、そばかす、肝斑など)の治療は、健康保険の適用外となり、自由診療となります8。これには、レーザー治療、処方外用薬(ハイドロキノン、トレチノインなど)、美容目的の内服薬(シナール、ハイチオールなど)が含まれます。ただし、シミのように見える皮膚疾患の中には、扁平母斑や太田母斑といった「あざ」の一種や、皮膚がんなどの病的なものが含まれる場合があります。これらの疾患の治療と診断された場合は、保険適用となる可能性があります。まずは皮膚科で診断を受けることが重要です。
Q3: 市販の「医薬部外品」と皮膚科の処方薬では、効果にどれくらいの差がありますか?
Q4: レーザー治療は痛いですか? ダウンタイムはありますか?
A4: 痛みの感じ方やダウンタイムは、レーザーの種類や個人の肌質によって異なります。Qスイッチレーザーやピコレーザーのスポット照射では、「ゴムで弾かれるような」痛みを感じることが多いです。治療後は、照射部位が赤くなったり、軽い火傷のようになり、その後かさぶたが形成されます。このかさぶたが自然に剥がれるまで1~2週間程度かかり、その間は保護テープを貼る必要があります7。一方、レーザートーニングやIPLは痛みが少なく、ダウンタイムもほとんどありません。施術直後に軽い赤みが出ることがありますが、通常は数時間で治まり、すぐにメイクも可能です22。治療前に医師から詳細な説明がありますので、不安な点は確認しましょう。
Q5: シミ治療を始めたら、もう日焼け止めは塗らなくてもいいですか?
結論
「シミ・そばかす」という悩みは、その原因と種類が多岐にわたるため、一つの万能な解決策は存在しません。本稿で詳述したように、成功への道筋は、まずご自身のシミの種類を皮膚科専門医に正確に診断してもらうことから始まります686。その上で、日々の徹底した紫外線対策と保湿を基本としたセルフケアを継続し、必要に応じて、科学的根拠に基づいた専門的な治療法を選択することが重要です。
日本の医療現場では、特に肝斑に対しては、トラネキサム酸の内服など、侵襲性の低い治療から始めるという慎重なアプローチが主流です689。また、美白有効成分を含む「医薬部外品」など、日本独自の製品カテゴリーを理解することも、賢いセルフケアに繋がります687。最新のピコレーザーから伝統的な内服・外用薬まで、選択肢は豊富にありますが、いずれの治療も日本皮膚科学会などの権威ある機関の指針に基づき690、経験豊富な医師と二人三脚で進めるべきです。焦らず、正しい知識を武器に、ご自身に最適なケアを見つけることで、透明感のある健やかな肌を取り戻し、維持することは十分に可能です。
免責事項
この記事で提供される情報は、教育目的のみを意図したものであり、専門的な医学的アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。肌に懸念される症状がある場合は、必ず資格のある医療提供者にご相談ください。
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