セクシュアルハラスメント完全ガイド|法律・判例・最新データから見る日本の現状と相談窓口一覧
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セクシュアルハラスメント完全ガイド|法律・判例・最新データから見る日本の現状と相談窓口一覧

セクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)は、個人の尊厳を深く傷つけ、働く環境を悪化させる深刻な人権侵害です。しかし、多くの被害者が「自分が悪いのかもしれない」「相談しても無駄だ」といった孤独感や無力感から、声を上げられずにいます。厚生労働省が2024年に発表した最新の調査によれば、過去3年間でセクハラを経験した労働者は6.3%に上りますが、そのうちの半数以上にあたる51.7%が「何もしなかった」と回答しています12。この沈黙の背景には、複雑な社会的・構造的な問題が横たわっています。JHO編集委員会は、この問題に直面するすべての人々が、一人で悩むことのないよう、信頼できる情報を提供することを使命としています。本稿では、日本の法律や最新の公式データ、そして重要な裁判例に基づき、セクハラの本質を多角的に解き明かします。さらに、被害に遭った際に自分を守るための具体的な行動手順から、企業や社会が果たすべき責任、そして頼れる専門の相談窓口まで、包括的な情報(「完全ガイド」)をお届けします。この記事のすべての情報は、政府機関の報告書や学術研究など、検証可能な情報源に依拠しており、皆様が正確な知識を得て、次の一歩を踏み出すための羅針盤となることを目指します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書に明記されている最高品質の医学的・法学的証拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的・法的指針との直接的な関連性を示したリストです。

  • 厚生労働省: 本稿における日本のセクハラの実態(発生率、被害者の対応、企業の対応状況など)に関する記述は、同省が公表した「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」に基づいています12
  • 男女雇用機会均等法: セクハラの法的定義、事業主の防止措置義務に関する解説は、日本のe-Gov法令検索で公開されている法律条文に準拠しています3
  • 学術研究論文 (Chen JT, et al., Muta, K.): セクハラがもたらす心身への深刻な影響(燃え尽き症候群など)や、日本社会における問題の歴史的・構造的背景に関する分析は、査読付き学術雑誌に掲載された研究に基づいています45
  • 裁判所(最高裁判所など): 企業の責任や加害者への懲戒処分の妥当性に関する記述は、日本の裁判所が公開している実際の判例に基づいています67
  • 世界経済フォーラム (WEF): 日本のジェンダーギャップの現状に関する国際比較データは、同フォーラムが毎年発表する「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書」を情報源としています8

要点まとめ

  • セクハラは、法律で明確に定義された違法行為であり、「対価型」と「環境型」の2種類が存在します。行為者の意図は関係なく、被害者が不快に感じたかどうかが重要です9
  • 厚生労働省の2024年最新調査では、労働者の6.3%がセクハラ被害を経験しましたが、被害者の51.7%は「何もしなかった」と回答しています12
  • 被害者が沈黙する背景には、「相談しても無駄」という諦めがあり、実際に企業の42.5%が相談後に「何もしなかった」というデータがあります2
  • 企業には、法律に基づきセクハラ防止措置(方針の明確化、相談体制の整備、事後の迅速・適切な対応など)を講じる義務があります310
  • 被害に遭った場合、証拠の記録、明確な意思表示、そして信頼できる窓口への相談が重要です。社内窓口のほか、国が運営する無料・匿名の相談窓口や専門NPOが存在します1112

第1部:セクシュアルハラスメントを正しく理解する

セクハラへの第一歩は、それがどのような行為を指すのかを正確に知ることから始まります。曖昧な認識は、被害を見過ごしたり、あるいは無意識のうちに加害者になってしまったりする危険性をはらんでいます。ここでは、法律上の定義、具体的な類型、そして日本の最新データに基づき、セクハラの実態を明らかにします。

1.1. 法的定義:法律は何を「セクハラ」としているか?

日本において、職場におけるセクハラは「男女雇用機会均等法」第11条で規制されています3。この法律と厚生労働省の指針によると、セクハラは以下の3つの要素で構成されます1013

  • 「職場」において行われること: 「職場」とは、通常の勤務場所だけでなく、出張先、取引先の事務所、接待の席、会社の車の中など、業務を遂行するすべての場所が含まれます。
  • 「労働者」の意に反するものであること: 最も重要なのは、行為者の意図ではなく、受けた労働者が「意に反する」と感じたかどうか、つまり不快に思ったかどうかです。たとえ「冗談のつもりだった」「親しみを込めて言った」という言い分があっても、相手が不快に感じればセクハラに該当し得ます。
  • 「性的」な言動であること: 性的な内容の発言(性的な事実関係を尋ねる、性的な冗談を言う、容姿や身体的特徴を話題にするなど)や、性的な行動(不必要に身体に触る、食事やデートにしつこく誘う、わいせつな図画を配布・掲示するなど)がこれにあたります。

対象となる「労働者」も、正社員に限らず、契約社員、パートタイム労働者、派遣社員など、事業主が雇用するすべての労働者が含まれます。

1.2. セクハラの2つの典型的な型:「対価型」と「環境型」

厚生労働省の指針では、セクハラを内容によって2つの類型に分類しています。これらを理解することは、具体的な状況がセクハラに該当するかを判断する上で役立ちます914

1. 対価型セクシュアルハラスメント

労働者の意に反する性的な言動に対し、それを拒否したことを理由に、解雇、降格、減給、契約更新の拒否など、労働条件において不利益を与えるタイプです。
具体例:事業主が部下の労働者に対して性的な関係を要求し、拒否されたためその労働者を解雇する。「ホテルに行けば、このプロジェクトを任せる」と示唆する。

2. 環境型セクシュアルハラスメント

性的な言動によって労働者の就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるタイプです。不利益の有無は問いません。
具体例:事務所内にヌードポスターを掲示する。同僚が身体的な特徴をからかったり、性的な噂を流したりする。性的な冗談が蔓延し、それを不快に感じて仕事に集中できない。

これらの類型は互いに排他的ではなく、一つの行為が両方の性質を持つこともあります。重要なのは、どちらのタイプであっても法的に許されない行為であり、企業はこれを防止する義務を負っているという点です3

1.3. 【最新データ】数字で暴く日本のセクハラのリアル

セクハラがどれほど身近な問題であるか、厚生労働省が2024年5月に公表した「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」のデータから見ていきましょう。この調査は、日本の職場の深刻な実態を浮き彫りにしています12

表1:職場のセクシュアルハラスメントに関する主要データ(2024年)
指標 数値・結果
過去3年間にセクハラを経験した人の割合 全体: 6.3% (女性: 8.9%, 男性: 3.9%)
被害後の行動 「何もしなかった」: 51.7%
何もしなかった理由(複数回答) 「何をしても解決にならないと思ったから」: 52.7%
最も多かったセクハラの内容(複数回答) 「性的な冗談やからかい」: 49.7%
行為者で最も多かった関係性(複数回答) 「上司(役員以外)」: 51.1%
出典: 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」12

このデータは、セクハラが性別を問わず発生していること、そして被害者の半数以上が救済を求められずに沈黙しているという厳しい現実を示しています。特に、「何をしても無駄だ」という諦めが最大の障壁となっている点は、次章で深く掘り下げます。


第2部:なぜ声はかき消されるのか? – 被害者が沈黙する構造的背景

なぜ被害者の半数以上が「何もしなかった」のでしょうか。その理由は個人の弱さにあるのではなく、被害者を沈黙させる社会や組織の構造的な問題に根差しています。ここでは、企業の対応不全、日本特有の職場文化、そしてジェンダーギャップという3つの側面から、その背景を分析します。

2.1. 「解決にならない」という諦め:企業の対応不全という現実

被害者が声を上げられない最大の理由は、「何をしても解決にならない」という深い諦念です2。そして残念ながら、この諦めは単なる思い込みではありません。前述の厚生労働省の調査では、セクハラの相談を受けた後の企業の対応についても調査しており、その結果は被害者の絶望感を裏付けるものとなっています2

  • 相談後の企業の対応として、「特に何もしなかった」と回答した企業が42.5%に上りました。
  • さらに、「セクハラがあったかどうかの事実関係を明確にせず、曖昧なままにした」ケースも47.5%存在しました。

つまり、被害者が勇気を出して相談しても、半数近い企業が有効な対策を講じていないのです。被害者が「相談しても無駄だ」と感じるのは、こうした企業の対応不全という現実を目の当たりにしているからに他なりません。この「相談→無対応→諦め」という負の連鎖が、問題をさらに根深くしています。

2.2. 「空気」と権力:日本特有の職場文化という土壌

セクハラは、日本特有の職場文化の中で生まれやすい土壌を持っています。特に、以下の2つの要素が大きく影響しています。

  • 厳格な上下関係と権力構造: 伝統的な日本企業における「終身雇用」や「年功序列」は、部下が上司に逆らいにくい強力な権力勾配を生み出しました。データが示す通り、セクハラの行為者で最も多いのは「上司」です2。この権力関係を背景に、部下は不適切な要求や言動を拒否することが極めて困難になります。
  • 「空気を読む」という同調圧力: 場を乱すことを極端に恐れ、周囲に合わせることを善しとする「空気を読む」文化は、被害者が「嫌だ」と表明することを妨げます。「このくらいで騒ぎ立てるのは大人気ない」「場の雰囲気を壊してしまう」といったプレッシャーが、被害者の口を塞いでしまうのです。

これらの文化は、セクハラという個人の尊厳を踏みにじる行為を、「些細なこと」や「コミュニケーションの一環」として矮小化し、容認する温床となります。

2.3. ジェンダーギャップという大きな文脈

セクハラ問題をより広い視点で見ると、日本の深刻なジェンダーギャップに行き着きます。世界経済フォーラム(WEF)が発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2024」において、日本は146カ国中118位と、先進国の中で著しく低い順位にあります8

特に経済・政治分野における女性の参加率の低さは、社会全体における権力構造の偏りを意味します。社会学者の牟田和恵氏の研究によれば、日本のセクハラ問題の法制化の歴史は、女性の権利保護という側面だけでなく、保守的な道徳観も影響してきたと指摘されています5。経済的・社会的に弱い立場に置かれがちな女性が、権力を持つ男性からのハラスメントの標的になりやすいのは、こうした大きな構造が背景にあるからです。セクハラは単なる個人の資質の問題ではなく、社会全体の不平等が凝縮された現象なのです1516


第3部:もし被害に遭ったら? – 自分を守るための具体的行動ステップ

セクハラの被害に遭ったとき、混乱し、どうしていいか分からなくなるのは当然です。しかし、自分自身を守るためにできることがあります。ここでは、具体的で実践可能な3つのステップを紹介します。

3.1. ステップ1:証拠を記録する(いつ、どこで、誰が、何を)

将来的に社内や公的機関に相談したり、法的な措置を検討したりする場合、客観的な証拠が極めて重要になります。冷静に対応するのは難しいかもしれませんが、可能な範囲で以下の情報を記録しておきましょう。

  • 日時: 行為があった年月日と時間。
  • 場所: 行為があった具体的な場所(例:社内の会議室、接待中の居酒屋など)。
  • 行為者: 誰がその行為を行ったか(氏名、役職)。
  • 内容: 何を言われたか、何をされたかを具体的に、できるだけ詳細に記録します。言動はそのまま引用符(「」)で書き留めると効果的です。
  • 目撃者: その場に他に誰がいたか。
  • 自身の対応と感情: その時、自分がどう反応し、どう感じたか(例:「不快だと伝えたが無視された」「恐怖で何も言えなかった」)。

メールやSNSのメッセージなども強力な証拠になります。スクリーンショットを撮って保存しておきましょう。音声の録音も有効な場合がありますが、状況に応じて慎重に判断してください。

3.2. ステップ2:明確に「NO」と伝える

もし可能であれば、行為者に対してその行為が不快であり、やめてほしいという意思を明確に伝えることが重要です。「やめてください」「そういうことは不快です」とはっきり言うことで、相手にセクハラであると認識させ、行為を止めさせることができる場合があります。しかし、恐怖や力関係からそれが難しい状況も十分に考えられます。「NO」と言えなかったからといって、あなたが同意したことには決してなりません。自身の安全を最優先してください。

3.3. ステップ3:一人で抱え込まず、相談する

セクハラの被害は、心に大きな傷を残します。一人で抱え込まず、信頼できる人に話すことが非常に重要です。それは、信頼できる同僚や上司、友人や家族かもしれません。そして、より専門的な助けが必要な場合は、次の章で紹介する社内外の相談窓口を活用することを強くお勧めします。


第4部:どこに助けを求められるか? – 信頼できる相談窓口と支援制度

セクハラの問題を解決するためには、専門的な知識と支援を提供する機関に頼ることが不可欠です。幸い、日本には社内、公的機関、そして民間のNPOなど、様々な相談窓口が存在します。ここでは、主要な相談先を紹介します。

4.1. 社内の相談窓口

男女雇用機会均等法により、企業はセクハラに関する相談窓口を設置することが義務付けられています3。多くの企業では、人事部やコンプライアンス部門が担当しています。社内窓口に相談する利点は、企業に直接、調査や行為者への措置を促すことができる点です。また、法律は、相談したことを理由に労働者を解雇したり、その他の不利益な取り扱いをしたりすることを禁止しています10。まずは自社の相談窓口がどこにあるかを確認してみましょう。

4.2. 公的な相談窓口(無料・匿名可)

社内の窓口に相談しにくい場合や、企業の対応に不満がある場合は、国が設置している公的な相談窓口を利用できます。これらの多くは無料で、匿名での相談も可能です。

  • 総合労働相談コーナー(厚生労働省): 全国の労働局や労働基準監督署内に設置されており、セクハラを含むあらゆる労働問題について専門の相談員が対応してくれます。必要に応じて、行政指導や紛争解決手続きの案内も行います11
  • みんなの人権110番(法務省): セクハラは人権侵害であるという観点から、法務局の職員や人権擁護委員が相談に乗ってくれます。プライバシーは厳守されます12
  • 警察の性犯罪被害相談電話「#8103(ハートさん)」: 強姦や強制わいせつなど、犯罪に該当する可能性がある悪質なケースの場合は、警察に相談することも選択肢です。この全国共通ダイヤルは、ためらう被害者が相談しやすいよう設けられています。

4.3. 専門的な支援を提供するNPO法人

公的機関に加え、被害者支援を専門に行う民間の非営利団体(NPO)も存在します。これらの団体は、医療、心理、法律などの専門家と連携し、ワンストップで包括的な支援を提供しているのが特徴です。

  • 性暴力救援センター・東京(SARC Tokyo): 24時間365日の電話相談に加え、医療的支援(緊急避妊、性感染症検査など)、カウンセリング、警察への同行支援、法的支援などをワンストップで提供しています17
  • 性暴力救援センター・大阪(SACHICO): SARC Tokyoと同様に、大阪を拠点として被害者に寄り添った多角的な支援を行っています。
  • mimosas(ミモザ): 性暴力に関する情報発信や意識啓発に力を入れている団体です。ウェブサイトでは、被害に遭ったときに役立つ情報を分かりやすく提供しています。

どの窓口に相談すればよいか迷った場合は、まずは匿名で電話できる公的機関やNPOに連絡し、状況を話してみることから始めるのが良いでしょう。


第5部:企業と社会が果たすべき責任と未来

セクハラの根絶は、個人の努力だけで達成できるものではありません。企業、そして社会全体が責任を認識し、具体的な行動を起こすことが不可欠です。ここでは、法律が企業に課す義務と、重要な裁判例から得られる教訓を解説します。

5.1. 法律が課す企業の4つの義務

男女雇用機会均等法は、セクハラ防止のために事業主が講ずべき措置として、主に以下の4点を義務付けています。これらは単なる努力目標ではなく、法的な責任です31014

  1. 方針の明確化とその周知・啓発: 職場におけるセクハラの内容や、あってはならない旨の方針を明確にし、労働者に周知・啓発すること。就業規則に懲戒規定を設けることも含まれます。
  2. 相談に応じ、適切に対応するための体制整備: 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。相談担当者が内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること。
  3. 事後の迅速かつ適切な対応: 事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者に対する配慮措置(配置転換など)や、行為者に対する措置(懲戒処分など)を適正に行うこと。再発防止策を講じることも重要です。
  4. プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止: 相談者や行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じること。また、相談したこと等を理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁止し、その旨を労働者に周知・啓発すること。

これらの義務を怠った場合、企業は安全配慮義務違反として、被害者から損害賠償を請求される可能性があります。

5.2. 重要な判例から学ぶこと

裁判所の判例は、法律が実際にどのように解釈され、適用されるかを示す重要な指標です。セクハラに関するいくつかの画期的な判例は、社会の認識を変え、企業の責任を明確化してきました。

  • 福岡セクシュアルハラスメント事件(福岡地判 平成4年): 日本で初めて職場のセクハラによる不法行為責任を認めた画期的な判決。編集長の執拗な言動により女性従業員が退職に追い込まれた事案で、加害者個人の責任だけでなく、使用者である会社の責任も認めました。この判決は、その後のセクハラ訴訟の礎となりました18
  • L館事件(最判 平成27年): 執拗なセクハラ発言を理由とする懲戒処分(出勤停止)の有効性が争われた事案。最高裁判所は、言葉によるセクハラであっても、労働者の人格的尊厳を傷つけ、職場秩序を乱す重大な問題であるとし、企業の厳しい懲戒処分を有効と判断しました7。これは、企業がセクハラに対して厳正な態度で臨むべきであるという強いメッセージとなりました。

これらの判例は、セクハラが「個人の問題」ではなく、企業の法的責任が問われる「組織の問題」であることを明確に示しています619


よくある質問

行為者にセクハラの意図がなかった場合でも、問題になりますか?

はい、問題になります。セクハラが成立するかどうかは、行為者の意図ではなく、その言動を受けた側が「意に反する」と感じたか、つまり不快に思ったかどうかが基準となります10。たとえ「冗談のつもり」「悪気はなかった」という弁明があったとしても、相手の人格的尊厳を傷つけ、就業環境を害するものであれば、セクハラと判断されます。

会社の飲み会での出来事も「職場」のセクハラになりますか?

はい、なる可能性が高いです。法律上の「職場」とは、通常の就業場所だけでなく、実質的に職務の延長と考えられる場所も含まれます13。参加が事実上強制されている会社の忘年会や、取引先との接待の場などは、職務との関連性が認められ、そこでのセクハラは職場の問題として扱われます。

セクハラで訴訟を起こした場合、どのくらいの慰謝料が認められますか?

慰謝料の額は、事案の悪質性、期間、頻度、被害者の精神的苦痛の程度、会社の対応など、様々な要素を考慮して個別に判断されるため、一概には言えません。過去の裁判例61920を見ると、数十万円から数百万円の範囲で認められるケースが多いですが、悪質な事案ではそれ以上になることもあります。具体的な金額については、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

男性が被害者になることもありますか?

はい、あります。セクハラは、性別に関係なく、誰でも被害者にも加害者にもなり得ます。厚生労働省の調査でも、被害者のうち男性が3.9%を占めています2。行為者が同性である場合や、女性から男性へのセクハラも同様に問題となります。

結論:尊厳が守られる社会を目指して

本稿では、セクシュアルハラスメントの法的定義から、日本における深刻な実態、被害者が沈黙する構造的背景、そして具体的な対処法までを、科学的根拠と公式データに基づいて包括的に解説しました。セクハラは、単なる「下品な冗談」や「コミュニケーションの失敗」ではありません。それは、個人の尊厳と人権を踏みにじり、安全であるべき職場を脅かす、断じて許されない行為です。

データが示すように、多くの被害者は今もなお、孤立と諦めの中で声を上げられずにいます。この状況を変えるためには、私たち一人ひとりの意識改革が不可欠です。被害に遭っている方は、決して自分を責めず、信頼できる窓口に助けを求めてください。あなたには、安全な環境で尊厳をもって働く権利があります。

そして、企業や組織のリーダー、さらには社会全体が、この問題を自らのものとして捉え、法律が定める義務を遵守し、実効性のある防止策を講じる責任があります。すべての人が互いの人権を尊重し、誰もが安心してその能力を発揮できる社会を築くこと。それこそが、私たちが目指すべき未来です。

免責事項本記事は、情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  3. 電子政府の総合窓口 e-Gov. *男女雇用機会均等法*. 2025年7月22日引用. Available from: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000113
  4. Chen JT, et al. Medical students’ experience of sexual harassment: a systematic review and meta-analysis. Med Educ. 2020;54(8):696-707. doi:10.1111/medu.14223. Available from: https://doi.org/10.1111/medu.14223
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  15. Assmann S. Gender Equality in Japan: The Equal Employment Opportunity Law Revisited. The Asia-Pacific Journal: Japan Focus. 2014;12(45). Available from: https://apjjf.org/2014/12/45/stephanie-assmann/4211
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  18. 大阪府. *第4章 職場のハラスメントに関する判例*. 2025年7月22日引用. Available from: https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/6137/dai4syou.pdf
  19. 福岡労働問題相談室. *セクハラの事例を一挙公開|状況別に弁護士が徹底解説*. 2025年7月22日引用. Available from: https://www.fukuoka-roumu.jp/harassment/sekuharajirei/
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