【科学的根拠に基づく】デジタルサブトラクション血管造影(DSA)とは?費用・保険適用から入院・リスクまでを徹底網羅
血液疾患

【科学的根拠に基づく】デジタルサブトラクション血管造影(DSA)とは?費用・保険適用から入院・リスクまでを徹底網羅

脳や心臓、その他の部位の血管に異常が疑われる際、医師から「デジタルサブトラクション血管造影(DSA)」という検査を勧められることがあります。これは、カテーテルという細い管を用いて血管を直接撮影する、非常に精密な検査です。しかし、多くの患者様やご家族にとって、この検査は「何をするのか分からない」「費用はどのくらいかかるのか」「入院は必要なのか」「危険はないのか」といった、数多くの疑問や不安を伴うものでしょう。本記事は、このような不安を解消し、皆様が安心して検査に臨めるよう、循環器や脳神経外科の専門医の知見と信頼できる公的な情報源に基づき、DSAの基本原理から、他の検査法との比較、具体的な疾患への応用、そして患者様が最も懸念される費用や保険制度、入院生活、合併症のリスクに至るまで、あらゆる情報を包括的に解説します。

要点まとめ

  • デジタルサブトラクション血管造影(DSA)は、カテーテルを用いて血管の形態を極めて鮮明に描出する「ゴールドスタンダード」の診断技術です1
  • 脳動脈瘤、脳梗塞、心筋梗塞などの診断や、カテーテルによる治療(血管内治療)に不可欠な役割を果たします23
  • 費用は公的医療保険が適用され、高額療養費制度を利用することで自己負担額を大幅に軽減できます4
  • 合併症のリスクはゼロではありませんが、発生率は低く、厳格な安全管理のもとで実施されます56
  • この記事では、検査の準備から退院後の生活、具体的な費用シミュレーションまで、患者様の視点に立って徹底的に解説します。

第1章:デジタルサブトラクション血管造影(DSA)の基本

DSAは、現代医療において血管の病気を診断・治療する上で欠かせない検査法です。その最大の特徴は、他の画像検査では捉えきれない微細な血管の異常まで「見える化」できる点にあります。

1-1. 血管を「見える化」する基本原理:サブトラクションの仕組み

DSAの名称にある「サブトラクション」とは、英語で「引き算」を意味します。この検査の原理は、この「引き算」に集約されています7。まず、カテーテルを目的の血管まで挿入し、造影剤を注入する前の画像を撮影します。この画像には、骨、筋肉、脂肪など、血管以外の組織がすべて写っています。これを「マスク画像」と呼びます。次に、造影剤を血管内に注入しながら連続的に撮影します。この画像には、造影剤で満たされた血管と、背景にある骨や組織が一緒に写っています。最後に、コンピュータ処理によって、造影剤注入後の画像から注入前の「マスク画像」を引き算します。すると、背景にあった骨や組織が綺麗に消去され、造影剤で満たされた血管の形だけが鮮明に浮かび上がるのです。この技術により、まるで血管だけを取り出したかのような高精細な画像を得ることが可能になります。

1-2. なぜDSAが必要か?CTAやMRAとの違いと使い分け

血管を調べる検査には、DSAの他にCTA(CT血管造影)やMRA(MR血管造影)があります。これらはカテーテルを使わないため、患者様の身体的負担が少ない(低侵襲)という利点があります。では、なぜ負担の大きいDSAが必要になるのでしょうか。それは、DSAが持つ圧倒的な「空間分解能(どれだけ細かく見分けられるか)」に理由があります1。CTAやMRAが血管の大まかな走行や太い血管の異常を捉えるのに優れているのに対し、DSAはミリ単位、あるいはそれ以下の細い血管の形状や、血液の流れ(血行動態)をリアルタイムで詳細に評価することができます。特に、複雑な形状を持つ脳動脈瘤の評価や、治療方針を決定する際には、DSAの情報が不可欠となるケースが少なくありません。欧州と日本の脳神経外科医を対象とした調査でも、複雑な動脈瘤に対しては、術前にDSAを求める傾向があることが示されています8。以下の表に、3つの検査の主な違いをまとめます。

表1:DSA・CTA・MRAの比較
項目 DSA(デジタルサブトラクション血管造影) CTA(CT血管造影) MRA(MR血管造影)
基本原理 X線 + カテーテル + 造影剤 X線(CT) + 造影剤 磁気(MRI) + (造影剤なし/あり)
空間分解能 極めて高い(ゴールドスタンダード)1 高い やや低い
侵襲性(身体的負担) 高い(動脈穿刺、カテーテル操作) 中程度(静脈穿刺) 低い(穿刺なし/静脈穿刺)
検査時間 長い(30分~1時間以上) 短い(数分~15分程度) 中程度(15分~30分程度)
血行動態評価 可能(リアルタイム) 限定的 限定的
放射線被ばく あり9 あり なし
主な利点 最高の画質、治療への応用が可能 検査時間が短い、石灰化の評価に優れる 被ばくがなく、造影剤なしでも施行可能
主な欠点 侵襲性が高く、合併症リスクがある 被ばく、ヨード造影剤アレルギーリスク 検査時間が長い、画像の歪み、ペースメーカー等禁忌

臨床現場では、まず負担の少ないMRAやCTAでスクリーニング(ふるいわけ)を行い、そこで異常が発見されたり、より詳細な情報が必要と判断された場合に、最終診断や治療方針決定のためにDSAが実施される、という段階的な使い分けが一般的です10

第2章:DSAの臨床応用:どのような病気の診断・治療に使われるか

DSAはその高い診断能力から、全身のさまざまな血管性疾患の診断と治療に活用されています。

2-1. 脳血管疾患(脳動脈瘤、脳梗塞、動静脈奇形など)

脳神経外科領域は、DSAが最もその真価を発揮する分野の一つです。

  • 脳動脈瘤: 破裂すると「くも膜下出血」という生命に関わる病気を引き起こす脳動脈瘤5。DSAは、動脈瘤の正確な大きさ、形状、ネック(入口)の状態、周囲の血管との関係を三次元的に把握するために不可欠です。これらの情報は、開頭手術(クリッピング術)とカテーテル治療(コイル塞栓術)のどちらが適切かを判断する上で極めて重要となります。
  • 脳梗塞: 脳の血管が詰まることで発症する脳梗塞では、どの血管が、どこで、どの程度詰まっているのかを正確に特定する必要があります。DSAは、閉塞部位の診断と同時に、カテーテルを用いて血栓を回収したり、薬剤で溶かしたりする「血行再建術」という治療に直結します。
  • もやもや病: 脳の太い血管が徐々に狭くなり、代わりに「もやもや」とした異常な細い血管が発達する難病です。日本脳卒中学会のガイドラインでは、この特徴的な血管構築を詳細に評価するためにDSAが広く行われていると指摘されています2

2-2. 心血管疾患(狭心症、心筋梗塞、末梢動脈疾患など)

心臓に栄養を送る冠動脈や、全身に血液を送る動脈の異常を調べる際にもDSAは重要です。

  • 冠動脈疾患: 狭心症や心筋梗塞の原因となる冠動脈の狭窄や閉塞を診断するために行われます。診断と同時に、狭くなった部分を風船(バルーン)や金属の筒(ステント)で広げる血管内治療(PCI)が行われることが多く、これは「心臓カテーテル検査・治療」として知られています。
  • 末梢動脈疾患(PAD): 主に足の血管が動脈硬化で狭くなったり詰まったりする病気で、歩くと足が痛くなる「間欠性跛行」などの症状が出ます。DSAは、病変の場所と程度を正確に診断し、血管内治療(風船やステント)の計画を立てるために用いられます11

2-3. 腹部・肝臓領域(肝細胞がんに対するTACEなど)

腹部の臓器や、がん治療においてもDSAは活用されています。

  • 肝動脈化学塞栓術(TACE): 肝細胞がんに対する代表的なカテーテル治療です。DSAの技術を用いて、がんに栄養を送っている肝動脈の枝を選択的に見つけ出し、そこから抗がん剤を注入し、さらに血管を塞栓物質で詰めることで、がんを「兵糧攻め」にします。DSAは、この治療においてナビゲーションの役割を果たします12
  • 消化管出血: 胃や腸からの出血が内視鏡で止められない場合、DSAで出血している血管を特定し、塞栓物質で詰めて止血する「血管塞栓術」が行われることがあります。

第3章:【患者様必見】DSA検査の実際:準備から退院まで

ここでは、患者様が実際に検査を受ける際の一般的な流れや入院生活について、体験談なども交えながら具体的に解説します。これにより、検査への漠然とした不安を和らげ、心の準備を整える一助となることを目指します。

3-1. 検査前の準備:絶食、血液検査、そして心の準備

検査は通常、入院して行われます。検査前日または当日から、いくつかの準備が始まります。

  • 絶食・絶水: 検査による吐き気や嘔吐を防ぐため、指定された時間(通常は検査開始の6時間前程度)から食事はできません。水分も制限されることがあります。
  • 各種検査: 安全に検査を行うため、心電図、レントゲン、そして血液検査が行われます。血液検査では、特に腎臓の機能(造影剤の排泄に関わる)や、血液の固まりやすさをチェックします。
  • アレルギー歴の確認: ヨード造影剤や局所麻酔薬、特定の薬剤に対するアレルギー歴がある場合は、必ず事前に医師や看護師に伝えてください。
  • 服薬の確認: 普段服用している薬、特に血液をサラサラにする薬(抗凝固薬や抗血小板薬)については、検査前に休薬が必要な場合があります。必ず主治医の指示に従ってください。
  • 心の準備: 「カテーテルを入れるのは痛いだろうか」「じっとしていられるだろうか」といった不安は、多くの患者様が抱くものです13。検査の流れや目的について分からないことがあれば、遠慮なく医師や看護師に質問しましょう。事前に詳しく知っておくことが、不安の軽減につながります。

3-2. 検査当日の流れと入院期間の目安

検査当日は、病室で検査着に着替え、ストレッチャーで血管造影室へ移動します。

  1. 入室と準備: 検査台の上に仰向けになり、心電図や血圧計などが装着されます。
  2. カテーテル挿入: カテーテルを挿入する場所(主に足の付け根の鼠径部、または腕や手首の動脈)を消毒し、清潔な布をかけます。局所麻酔薬を注射するため、チクッとした痛みを感じます。麻酔が効いた後、シースというカテーテルを挿入するための短い管を動脈に留置します。
  3. カテーテル操作: 医師はX線透視画像を見ながら、シースを通してカテーテルを目的の血管(脳、心臓、腹部など)まで慎重に進めていきます。この操作中に痛みを感じることはほとんどありません。
  4. 造影剤注入と撮影: カテーテルが目的の部位に到達したら、造影剤を注入しながらX線撮影を行います。造影剤が体内に入ると、多くの方が「身体がカッと熱くなる感じ」を経験します6。この熱感は数十秒で自然に消えるため、心配はいりません。撮影中は、正確な画像を得るために、数秒間息を止めたり、身体を動かさないように指示されます。
  5. 検査終了と止血: 必要な撮影が終わったらカテーテルを抜き、挿入部の動脈を圧迫して止血します。通常、医師が15~20分ほど手で圧迫止血した後、圧迫帯や専用の止血デバイスを用いて圧迫を続けます。
  6. 安静: 検査後は病室に戻り、穿刺部位からの再出血を防ぐため、数時間(通常4~6時間)の絶対安静が必要となります。この間は、穿刺した側の足を曲げたり、起き上がったりすることはできません。食事や排泄もベッド上で行います。

入院期間は、検査の目的や疾患、施設の方針によって異なりますが、診断目的の脳血管DSAの場合、一般的には「2泊3日」が一つの目安となります14。例えば、1日目に入院して準備、2日目に検査、3日目に問題がなければ退院、というスケジュールです15

3-3. 検査後の注意点と日常生活への復帰

退院後も、数日間は注意が必要です。

  • 穿刺部位のケア: 穿刺部は数日間、防水テープなどで保護します。入浴については医師の指示に従ってください(シャワーは翌日から可能な場合が多いです)。穿刺部に異常な腫れ、痛み、出血、熱感などが見られた場合は、すぐに病院に連絡してください。
  • 活動の制限: 退院後2~3日は、激しい運動や重い物を持つ作業は避けるようにしましょう。
  • 水分摂取: 造影剤の排泄を促すため、意識して水分を多めに摂ることが勧められます。

仕事への復帰時期は、職種にもよりますが、デスクワークであれば退院の翌日から、肉体労働であれば数日後から可能となるのが一般的です。詳しくは主治医に確認してください。

第4章:【最重要】DSA検査の費用と公的医療保険制度

侵襲的な検査であるだけに、費用面での心配は切実な問題です。ここでは、日本の公的医療保険制度に基づいて、DSA検査にかかる費用の目安と、負担を軽減するための制度について詳しく解説します。この章は、経済的な不安を解消するための最も重要なパートです。

4-1. 診療報酬点数から見る自己負担額の目安(3割負担の場合)

DSA検査にかかる費用は、国が定めた「診療報酬点数」に基づいて計算されます。1点が10円に相当し、患者様はこの総医療費のうち、通常1割~3割を自己負担します。費用は、どの部位を検査するか、どのような手技を行うかによって変動しますが、主な内訳は以下のようになります4

表2:DSA検査費用のモデルケース(脳血管DSA・2泊3日入院の場合)
項目 診療報酬点数(例) 医療費(10割) 自己負担額(3割) 備考
画像診断料(DSA撮影) 約5,000点 50,000円 15,000円 撮影手技に対する料金
カテーテル手技料 約3,000点 30,000円 9,000円 血管選択や操作に対する料金
造影剤・薬剤料 約1,000点 10,000円 3,000円 使用した薬剤の実費
入院基本料(2泊3日) 約5,000点 50,000円 15,000円 食事代などは別途
その他(検査料など) 約1,000点 10,000円 3,000円 血液検査など
合計(目安) 約15,000点 150,000円 45,000円

注意: 上記はあくまで一般的なモデルケースであり、実際の費用は病院の施設基準、使用するカテーテルの種類、検査の複雑さなどによって変動します。個室を利用した場合は、差額ベッド代が追加で自己負担となります。

4-2. 高額療養費制度の賢い活用法

DSA検査と入院にかかる費用は高額になる可能性がありますが、日本の公的医療保険には「高額療養費制度」という強力なセーフティネットがあります16。これは、1ヶ月(月の初日から末日まで)の医療費の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、その超えた金額が後から払い戻される制度です。上限額は、年齢や所得によって区分されています17

例えば、70歳未満で標準的な所得(年収約370万円~約770万円)の方の場合、自己負担の上限額は以下の計算式で求められます。

80,100円 + (総医療費 – 267,000円) × 1%

先ほどのモデルケース(総医療費150,000円)では、上限額の計算は適用されず、自己負担はそのまま約45,000円となります。しかし、より複雑な検査や治療が加わり、仮に総医療費が100万円かかったとしましょう。この場合、3割負担だと30万円になりますが、高額療養費制度を適用すると、自己負担上限額は、

80,100円 + (1,000,000円 – 267,000円) × 1% = 87,430円

となり、最終的な自己負担は87,430円で済むのです。さらに、「限度額適用認定証」を事前に入手し、病院の窓口に提示すれば、支払いを最初からこの上限額までに抑えることができます。この制度を理解し活用することで、経済的な負担を大幅に軽減することが可能です。詳しくは、ご自身が加入している健康保険組合や市町村の国民健康保険窓口にお問い合わせください。

第5章:安全性とリスク:合併症と放射線被ばくについて

DSAは非常に有益な検査ですが、侵襲性を伴うため、合併症のリスクはゼロではありません。ここでは、考えられるリスクとその対策について、科学的データに基づいて正確に解説します。

5-1. 手技に伴う合併症とその発生率

カテーテル操作に関連する合併症が主であり、主なものには以下があります。

  • 穿刺部位の合併症: 出血、血腫(血のかたまり)、動脈の閉塞、仮性動脈瘤(血管の壁が傷ついてこぶ状に膨らむ)などがあります。
  • 血管損傷: カテーテルやガイドワイヤーが血管の壁を傷つけてしまうことがあります。
  • 脳神経系の合併症: 脳血管の検査で最も懸念される合併症です。カテーテル操作によって血管内のプラーク(動脈硬化の塊)が剥がれて脳の血管に詰まったり(塞栓症)、カテーテル自体で血栓ができて詰まったりすることで、一時的あるいは永続的な脳梗塞を引き起こす可能性があります。日本脳神経血管内治療学会のガイドラインによると、くも膜下出血患者に対するDSA施行時の神経学的合併症(脳梗塞など)の発生率は約1.8%と報告されています5。また、破裂した脳動脈瘤の検査では、検査中に再破裂するリスクもごく稀にあり、発症6時間以内の検査では4.8%とのデータもあります5。これらのリスクを最小限に抑えるため、経験豊富な専門医が細心の注意を払って手技を行います。

5-2. 造影剤によるアレルギー反応と腎機能への影響

DSAではヨード造影剤を使用します。この造影剤による副作用(アレルギー反応)が起こることがあります。

  • 軽度の副作用: 吐き気、嘔吐、かゆみ、じんましんなどで、発生率は5%以下です6。多くは一時的なもので、特別な治療を必要としないか、簡単な処置で改善します。
  • 重篤な副作用: 呼吸困難、血圧低下、意識消失といったアナフィラキシーショックと呼ばれる重い症状で、発生率は約0.1%(1000人に1人)と稀です6。検査室には救急蘇生のための医薬品や機材が常に準備されており、万が一起こった場合でも迅速に対応できる体制が整っています。
  • 特に注意が必要な方: 過去に造影剤で副作用を経験した方、気管支喘息の既往がある方(重篤な副作用のリスクが約10倍高いとされます6)、重いアレルギー体質の方は、リスクが高まるため必ず事前に申し出てください。
  • 腎機能への影響: 造影剤は腎臓から排泄されるため、もともと腎機能が低下している方では、検査後にさらに腎機能が悪化する「造影剤腎症」を起こすリスクがあります。検査前後の十分な水分補給(点滴)などで予防に努めます。

5-3. 放射線被ばくに関する正しい知識

DSAはX線を使用するため、放射線被ばくを伴います18。しかし、医療における被ばくは、それによって得られる診断的価値(ベネフィット)が、被ばくによるリスクを上回る場合にのみ正当化される、という考え方が基本です。日本の医療機関では、「ALARAの原則(As Low As Reasonably Achievable)」、つまり「合理的に達成可能な限り被ばくを低く保つ」という放射線防護の考え方が徹底されています9。医師や診療放射線技師は、不要なX線照射を避け、適切な防護策を講じることで、患者様の被ばくを必要最小限に抑えるよう常に努めています。

第6章:よくある質問(FAQ)

最後に、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. DSA検査は痛いですか?

検査中に痛みを感じる主なポイントは2つです。1つ目は、カテーテルを入れる場所への局所麻酔の注射です。これは採血や予防接種の時のようなチクッとした痛みです。2つ目は、造影剤を注入した際の熱感です。これは「痛い」というより「カッと熱くなる」感覚で、数十秒で治まります6。カテーテルが血管の中を移動している最中には、通常痛みはありません。

Q2. 入院は必須ですか?どのくらいの期間ですか?

安全管理のため、入院して行うのが原則です。特に検査後の数時間は、穿刺部からの出血リスク管理のため、ベッド上での絶対安静が必要です。入院期間は、検査目的や疾患、病院の方針により異なりますが、診断目的の検査であれば、一般的に2泊3日が一つの目安となります1415

Q3. 検査後、すぐに仕事に復帰できますか?

退院後の日常生活の制限は比較的少ないですが、数日間は激しい運動や重労働は避けるべきです。デスクワーク中心の仕事であれば、退院の翌日から復帰可能なことが多いですが、職種やご自身の体調を考慮し、主治医と相談して決めるのが良いでしょう。

Q4. DSAは健康保険が適用されますか?

はい、医師が必要と判断して行われるDSA検査は、公的医療保険の適用対象です。自己負担は、年齢や所得に応じて1割から3割となります。さらに、高額療養費制度を利用することで、1ヶ月の自己負担額に上限が設けられており、経済的負担を軽減できます16

結論:DSAを正しく理解し、納得のいく医療を受けるために

デジタルサブトラクション血管造影(DSA)は、血管の病気の診断において、他の追随を許さない高い精度を誇る、非常に有用な検査です。特に複雑な脳血管疾患や心血管疾患の正確な診断、そして治療方針の決定に不可欠な役割を果たしています。一方で、カテーテルを用いる侵襲的な検査であるため、合併症や造影剤の副作用といったリスクも伴います。大切なのは、これらの利点とリスクの両方を正しく理解し、ご自身が受ける医療について十分に納得することです。この記事で得た知識が、主治医とのコミュニケーションを深め、検査に対する漠然とした不安を具体的な理解へと変える一助となれば幸いです。あなたの主治医との対話に、この記事の情報をお役立てください。

免責事項この記事は、脳神経外科および循環器内科の専門医の知見に基づき、信頼できる公的な情報源を参照して作成されています。しかし、本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者様の病状に対する医学的アドバイスに代わるものではありません。具体的な診断や治療方針については、必ず主治医または専門の医療機関にご相談ください。

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