デリケートゾーンケア完全ガイド:日本の専門家が教える正しい知識と実践法
女性の健康

デリケートゾーンケア完全ガイド:日本の専門家が教える正しい知識と実践法

デリケートゾーンのケアは、女性の全体的な健康と日々の快適さにとって非常に重要です。しかし、ニオイ、かゆみ、おりもの、乾燥、黒ずみといった悩みは、多くの日本人女性が抱えているにもかかわらず、その繊細さゆえに、誰に相談すればよいか分からず一人で抱え込みがちです12。JAPANESEHEALTH.ORG編集部では、このようなお悩みを解消し、科学的根拠に基づいた正確な情報で皆様の不安を自信に変えることを目指しています。この記事では、日本の婦人科医療の権威である日本産科婦人科学会(JSOG)3や厚生労働省(MHLW)4の指針に基づき、デリケートゾーンの正しいケア方法から、一般的な悩みの原因と対策、そして医療機関を受診すべきタイミングまで、包括的に解説します。この記事が、皆様がご自身の身体をより深く理解し、健やかな毎日を送るための一助となることを願っています。

要点まとめ

  • デリケートゾーンの洗浄は、膣内まで洗わず、外陰部を弱酸性の専用ソープやぬるま湯で優しく洗うことが基本です。洗いすぎは、膣の自浄作用を担う常在菌(膣内フローラ)のバランスを崩す原因となります5
  • 膣内フローラは、主に乳酸菌(Lactobacillus)から成り、膣内を酸性に保つことで有害な細菌の増殖を防いでいます6。このバランスが乱れると、細菌性膣症やカンジダ膣炎などのトラブルを引き起こす可能性があります。日本人女性の膣内フローラは多様であり、年齢やBMIも影響することが研究で示されています7
  • 多くの日本人女性が抱えるニオイ、かゆみ、おりものの異常といった悩みは、細菌性膣症(BV)やカンジダ膣炎(VVC)などのサインである場合があります3。症状が続く場合は自己判断せず、婦人科を受診することが重要です。
  • デリケートゾーンのケア製品を選ぶ際は、「弱酸性」「低刺激性」「無香料」「無着色」のものが推奨されます8。洗浄後は、乾燥を防ぐために専用の保湿剤でケアすることも効果的です9
  • 婦人科の受診をためらう必要はありません。持続する症状や不正出血、痛みなどがある場合は、速やかに専門医に相談することが、健康を守る上で不可欠です4

1. 女性の体の仕組み:膣と外陰部の基本

デリケートゾーンの正しいケアを理解するためには、まずその構造と機能について知ることが大切です。一般的に「デリケートゾーン」と呼ばれる部分は、医学的には「外陰部(がいいんぶ)」と「膣(ちつ)」に分けられます。外陰部とは、体の外側に見える部分全体を指し、大陰唇、小陰唇、クリトリスなどを含みます。一方、膣は子宮へと続く筒状の器官です。

特筆すべきは、膣が持つ「自浄作用(じじょうさよう)」です5。健康な女性の膣内には、デーデルライン桿菌(かんきん)とも呼ばれる乳酸菌(Lactobacillus)を中心とした常在菌が存在し、「膣内フローラ」と呼ばれる生態系を形成しています。これらの善玉菌が産生する乳酸によって、膣内はpH3.8~4.5の弱酸性に保たれ、病原菌の侵入や増殖を防いでいるのです610。また、膣や子宮頸管からは常に分泌物が出ており、これが古くなった細胞や不要な物質を体外に排出する役割を担っています。これが「おりもの」の正体であり、おりものもまた、膣の健康を維持するための重要な仕組みの一部なのです6

2. 膣内フローラ:体を守る善玉菌

膣内フローラは、デリケートゾーンの健康を維持するための「自然の防御システム」です。この微細な生態系は、女性の健康状態を映し出す鏡のような存在と言えます。

2.1. 膣内フローラとは何か?

膣内フローラとは、膣内に生息する多種多様な微生物の集まりを指します。健康な状態では、その大部分を乳酸菌が占めています3。乳酸菌は、グリコーゲンを分解して乳酸を作り出し、膣内環境を酸性に維持します。この酸性の環境が、細菌性膣症の原因となるガードネレラ菌や、カンジダ膣炎の原因となるカンジダ菌といった悪玉菌や日和見菌の過剰な増殖を抑制するバリアとして機能します610

2.2. 日本人女性における膣内フローラの多様性

近年の研究により、健康な日本人女性の膣内フローラは非常に多様であることが明らかになっています。ある研究では、主要な菌種によって「Lactobacillus crispatus」「Lactobacillus iners」「Lactobacillus gasseri」が優勢なグループと、多様な菌種が混在するグループの4つに分類されることが示されました7。さらに、この研究は、日本人女性の膣内フローラがBMI(肥満度指数)や年齢といった宿主因子によっても影響を受けることを明らかにしています7。これは、理想的な膣内フローラの状態は一人ひとり異なり、ライフステージや体格によっても変化しうることを意味しています。したがって、「これをすれば誰でも膣内環境が良くなる」といった画一的なアプローチではなく、個々の状態に合わせたケアの重要性が示唆されます。

2.3. 膣内フローラのバランスを崩す要因

膣内フローラの繊細なバランスは、様々な要因によって崩れることがあります1112。これらの要因を理解し、避けることがトラブルの予防につながります。

  • 不適切な洗浄:膣内まで洗い流す「膣洗浄」や、アルカリ性の強い石鹸でのゴシゴシ洗いは、有益な乳酸菌まで洗い流してしまい、膣内フローラのバランスを著しく乱します5
  • 抗生物質の使用:抗生物質は、感染症の原因菌だけでなく、膣内の善玉菌である乳酸菌まで殺してしまうことがあります。これにより、カンジダ菌などが過剰に増殖しやすくなります3
  • ホルモンバランスの変化:月経、妊娠、出産、更年期など、女性ホルモンの分泌量が大きく変動する時期は、膣内フローラも影響を受けやすくなります6
  • ストレスや疲労:心身のストレスや疲労は免疫力の低下を招き、膣内フローラのバランスが崩れる一因となります11
  • 性交渉:性交渉は、新たな細菌を膣内に持ち込んだり、精液によって一時的に膣内のpHを変化させたりすることがあります11
  • 不衛生な生理用品の使用:ナプキンやタンポン、おりものシートを長時間交換しないと、湿気で雑菌が繁殖しやすくなります12

3. 毎日のデリケートゾーンケア:正しい方法

デリケートゾーンの健康を守るためには、日々の正しいケアが不可欠です。ここでは、具体的な洗浄方法から製品の選び方まで、専門家が推奨するベストプラクティスを詳しく解説します。

3.1. やさしい洗い方

正しい洗浄は、デリケートゾーンケアの基本中の基本です。以下のステップを守り、優しくケアしましょう。

  1. 洗うのは外陰部だけ:膣には自浄作用があるため、内部まで洗う必要はありません。洗うのは外陰部のみに限定します5
  2. ぬるま湯で:熱すぎるお湯は必要な皮脂まで奪い、乾燥の原因になります。38〜40度程度のぬるま湯が最適です5
  3. 専用ソープをよく泡立てて:デリケートゾーン用の弱酸性ソープを使用し、手のひらでしっかりと泡立てます。泡がクッションとなり、肌への摩擦を減らします5
  4. 指の腹で優しく:ナイロンタオルやスポンジは刺激が強すぎるため使用せず、指の腹を使って優しく洗います5。垢がたまりやすいヒダの間も、丁寧に洗いましょう。
  5. 前から後ろへ:尿道や膣に肛門の雑菌が入るのを防ぐため、必ず前から後ろに向かって一方向に洗います9
  6. 十分にすすぐ:洗浄成分が残っていると、かゆみや刺激の原因になります。泡が完全になくなるまで、ぬるま湯で丁寧にすすぎましょう5
  7. 優しく拭く:清潔で柔らかいタオルを使い、ゴシゴシこすらずに、押さえるようにして水分を拭き取ります。

月経中は、経血やナプキンによるムレで雑菌が繁殖しやすいため、特に清潔を心がけ、こまめに洗浄すると良いでしょう。

3.2. 日本で買える!デリケートゾーンケア製品の選び方

市場には多くのデリケートゾーンケア製品があり、どれを選べば良いか迷うかもしれません1314。ここでは、製品選びの重要なポイントと、日本国内で入手可能な代表的な製品を比較します。

3.2.1. ソープ・洗浄料の選び方

一般的なボディソープは洗浄力が強く、アルカリ性のものが多いため、デリケートゾーンのpHバランスを崩してしまう可能性があります12。以下の点を基準に選びましょう。

  • 弱酸性:健康なデリケートゾーンのpH値に近い、弱酸性の製品を選びましょう5
  • 低刺激性:香料、着色料、アルコール、パラベンなどが含まれていない、または少ない「低刺激性」「無香料」「無着色」と表示のあるものが安心です8
  • 保湿成分配合:グリセリンやヒアルロン酸などの保湿成分が配合されていると、洗い上がりの乾燥を防ぐのに役立ちます。
  • 泡タイプ:泡で出てくるタイプは、自分で泡立てる手間が省け、肌への摩擦を最小限に抑えられるため便利です5
表1:日本国内で入手可能なデリケートゾーン用ソープの比較(例)
製品名(例) 主な特徴 どのような方におすすめか 参考価格帯
PH JAPAN フェミニンウォッシュ13 pH値が適切。ヒアルロン酸、コラーゲン、植物エキス配合。香りの種類が豊富。 毎日の使用に。好みの香りを選びたい方。 500円~1,000円
サマーズイブ フェミニンウォッシュ13 pHバランスを考慮。ソープフリー。婦人科医によるテスト済み。敏感肌用あり。 敏感肌の方、毎日の使用に。 800円~1,200円
コラージュフルフル泡石鹸5 泡タイプ、弱酸性。抗真菌成分(ミコナゾール硝酸塩)配合。無香料、無着色。 敏感肌、カビによるトラブルが気になる方、ニオイ予防に。 1,500円~2,000円
iroha INTIMATE WASH [FOAM type]14 泡タイプ。美容保湿成分、4種の植物エキス配合で古い角質を除去。 乾燥が気になる方、保湿や優しい角質ケアをしたい方。 約1,800円

*注意:価格は参考情報であり、変動する可能性があります。購入前に製品の詳細情報をご確認ください。

3.2.2. 保湿剤の選び方

洗浄後の保湿は、乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を守るために重要です。特にVIO脱毛後などは、肌が敏感になっているため保湿ケアが推奨されます9

  • デリケートゾーン専用の保湿剤(ジェル、ミルク、クリームタイプなど)を選びましょう9
  • 塗布するのは外陰部のみとし、膣の内部には塗らないようにしてください15
  • 新しい製品を使用する際は、まず腕の内側などでパッチテストを行い、肌に合うか確認することをおすすめします15

3.2.3. おりものシート・下着の選び方

おりものによる不快感を軽減するためにおりものシートを使用する場合は、こまめに(2~3時間ごと)交換することが大切です。長時間同じものを使用し続けると、ムレて雑菌が繁殖し、かえってトラブルの原因になります9。肌が敏感な方は、コットン100%など、通気性の良い素材の製品を選ぶと良いでしょう9

下着も同様に、通気性が良く、肌に優しいコットンなどの天然素材がおすすめです。体を締め付けるきつい下着やガードルは、ムレや摩擦の原因となるため、日常的な着用は避けた方が賢明です12

4. よくあるデリケートゾーンの悩みと対処法

多くの女性が経験するデリケートゾーンの悩みについて、その原因とセルフケア、そして医療機関を受診すべきサインを解説します。

4.1. おりもの:正常と異常の見分け方

おりものは、膣の自浄作用や潤いを保つために不可欠なものです6。正常なおりものは、透明から白っぽい色で、排卵期には量が増え、卵の白身のように伸びるなど、月経周期によって状態が変化します。少し酸っぱいニオイがすることもありますが、これも正常な範囲です16。一方で、以下のような変化が見られた場合は、感染症などのサインかもしれません6

  • 色:黄色、緑色、灰色、カッテージチーズや酒粕のような白くポロポロした状態
  • 量:明らかな理由なく、急に量が増える
  • ニオイ:魚の腐ったような生臭いニオイ、強い悪臭
  • その他の症状:強いかゆみ、痛み、性交時痛、腹痛などを伴う

4.2. ニオイ

デリケートゾーンのニオイは、多くの女性にとって大きな悩みの一つです2。汗や皮脂、おりものが混ざり合うことで発生する生理的なニオイもありますが、特に「魚のような生臭いニオイ」がする場合は、細菌性膣症(BV)が疑われます1116。また、ストレスや疲労によっても体臭が変化し、ニオイが強くなることがあります1116。まずは正しい洗浄を心がけ、それでも改善しない場合は婦人科に相談しましょう。

4.3. かゆみ

かゆみの原因は多岐にわたります2。最も一般的な原因の一つが、カンジダ菌の増殖によるカンジダ膣炎(VVC)です。その他、細菌性膣症、ナプキンや石鹸、下着の素材などによる接触皮膚炎(かぶれ)17、乾燥18、トリコモナスなどの性感染症(STI)617もかゆみを引き起こします。おりものの状態をよく観察し、かゆみが強い、または長引く場合は、原因を特定するために受診が必要です。

4.4. 乾燥

デリケートゾーンの乾燥は、かゆみやヒリヒリ感、性交時痛の原因となります。更年期における女性ホルモンの減少が主な原因ですが619、過度な洗浄、ストレス、特定の薬剤の服用などにより、あらゆる年代で起こり得ます9121518。対策としては、デリケートゾーン専用の保湿剤を毎日のケアに取り入れることが有効です。

4.5. 黒ずみ(色素沈着)

デリケートゾーンの黒ずみ(色素沈着)は、病的なものではなく、ホルモンの影響や遺伝的要因による自然な現象であることがほとんどです20。しかし、下着による摩擦や、カミソリでの自己処理による刺激などが、色素沈着を悪化させる一因となることもあります21。美白を謳う製品も多く市販されていますが、過度な期待はせず、まずは肌への刺激を避け、優しくケアすることを心がけるのが現実的なアプローチです。

健康に関する注意事項

  • この記事で紹介するセルフケアは、一般的な健康維持を目的とするものです。特定の疾患の治療を目的とするものではありません。
  • デリケートゾーンに異常を感じた場合、特に症状が長引いたり、悪化したり、日常生活に支障をきたしたりするようであれば、自己判断で対処せず、必ず婦人科などの医療機関を受診してください。
  • 市販薬を使用する際は、薬剤師に相談し、使用上の注意をよく読んでからご使用ください。特にカンジダ膣炎の再発治療薬は、過去に医師からカンジダ膣炎と診断・治療を受けた方のみが対象です22
表2:デリケートゾーンの一般的な症状と受診の目安
症状 考えられる状態 推奨される行動 関連するJSOG/MHLWの指針
魚のような生臭いニオイ 細菌性膣症 (BV) まずは正しい洗浄を2〜3日試す。改善しない場合は婦人科を受診する。 JSOGはBVの治療にメトロニダゾールを推奨3
白いカッテージチーズ状のおりものと強いかゆみ カンジダ膣炎 (VVC) 婦人科を受診する。初めての症状で市販薬を自己判断で使用しない。再発で過去に診断歴がある場合はOTC薬を検討可。 JSOGはVVCの治療に抗真菌薬を推奨3
月経以外の不正出血 ポリープ、子宮筋腫、感染症、ホルモン異常、前がん/がん状態など多数 直ちに婦人科を受診する。 MHLWは異常な症状が続く場合は早期受診を推奨4
骨盤周辺の痛み 骨盤内炎症性疾患 (PID)、子宮内膜症、卵巣嚢腫など 婦人科を受診する。 婦人科疾患は専門医による診断・治療が必要4
性器周辺の潰瘍や水ぶくれ 性器ヘルペス、その他のSTI 直ちに婦人科を受診する。診断がつくまで性交渉は避ける。 STIは合併症を避けるため迅速な治療が必要17

5. 知っておきたい主な膣感染症

デリケートゾーンのトラブルの多くは、膣内フローラのバランスが崩れることで起こる感染症が原因です。ここでは、代表的な膣感染症について、その特徴と日本での標準的な治療法を解説します。

5.1. 細菌性膣症 (BV – Bacterial Vaginosis)

症状:灰色がかった、水っぽいおりもの。特に性交渉後や月経中に強くなる、魚の生臭いような特有のニオイ(アミン臭)。かゆみや炎症は軽度か、ほとんどないことが多いのが特徴です3

原因:膣内の乳酸菌が減少し、ガードネレラ菌などの嫌気性菌が異常に増殖することで発症します3。膣内フローラのバランスの乱れが直接の原因です。

診断と治療:日本では、JSOGのガイドラインに基づき、アムセル(Amsel)の基準(①均一な白色のおりもの、②膣分泌物のpHが4.5を超える、③アミン臭、④顕微鏡下でのクルー細胞の確認)などを用いて診断されます3。治療には、主にメトロニダゾール(商品名:フラジール)の膣錠または内服薬が用いられ、これらは健康保険が適用されます3。放置すると、骨盤内炎症性疾患(PID)や早産のリスクを高めることが知られています23

5.2. カンジダ膣炎 (VVC – Vulvovaginal Candidiasis)

症状:酒粕(さけかす)やカッテージチーズにたとえられる、白くポロポロした塊状のおりもの。我慢できないほどの強いかゆみと、外陰部の灼熱感、発赤、腫れ。排尿時や性交渉時に痛みを感じることもあります3

原因:カンジダ・アルビカンスという真菌(カビ)の一種が異常増殖することが原因です。カンジда菌は健康な人の体にも存在する常在菌ですが、抗生物質の使用、妊娠、糖尿病、免疫力の低下、ムレやすい服装などによって増殖し、発症します3

診断と治療:JSOGのガイドラインでは、臨床症状と、顕微鏡による菌体の確認または培養検査によって診断されます3。治療には、クロトリマゾール(商品名:エンペシド)やミコナゾール(商品名:フロリード)などの抗真菌薬の膣錠やクリームが用いられ、多くは保険適用です3。また、フルコナゾール(商品名:ジフルカン)という内服薬もありますが、妊婦や授乳婦には禁忌です3。過去に医師からカンジダ膣炎と診断されたことがある場合に限り、一部の抗真菌薬は市販薬(OTC)としても購入可能ですが、初めての症状や、再発かどうか確信が持てない場合は必ず受診が必要です22

よくある質問

デリケートゾーンのケアに、ボディソープや石鹸を使ってはいけませんか?

一般的なボディソープや石鹸の多くはアルカリ性であり、デリケートゾーンの弱酸性のpHバランスを崩してしまう可能性があります12。pHバランスが崩れると、膣の自浄作用が弱まり、雑菌が繁殖しやすくなるため、トラブルの原因となり得ます。また、洗浄力が強すぎたり、香料などの刺激成分が含まれていたりすることも、敏感な肌には負担となる場合があります。そのため、デリケートゾーンの洗浄には、専用の弱酸性・低刺激性のソープを使用することが強く推奨されます5

膣洗浄(ビデ)はした方がよいのでしょうか?

いいえ、健康な状態であれば膣洗浄は不要であり、むしろ避けるべきです。膣には、膣内フローラの働きによる自浄作用があり、自分で清潔な状態を保つ力を持っています5。膣内を洗浄すると、この自浄作用を担っている有益な乳酸菌まで洗い流してしまい、膣内フローラのバランスを崩してしまいます。その結果、かえって細菌性膣症などの感染症のリスクを高めることにつながります524。洗浄は外陰部のみにとどめ、膣内は洗わないようにしましょう。

カンジダ膣炎は性感染症(STI)ですか? パートナーも治療が必要ですか?

カンジダ膣炎は、性交渉によって感染することもありますが、必ずしも性感染症(STI)とは分類されません。カンジダ菌はもともと人の体に存在する常在菌であり、多くの場合、性交渉とは無関係に、体調の変化などで自己発症するからです3。そのため、女性がカンジダ膣炎と診断されても、症状のない男性パートナーが画一的に治療を受ける必要は通常ありません。ただし、パートナーのペニスに赤みやかゆみなどの症状(カンジダ性亀頭包皮炎)が見られる場合は、一緒に医療機関を受診することが推奨されます。

デリケートゾーンのニオイが気になります。食生活は関係ありますか?

デリケートゾーンのニオイは、主におりものや汗、皮脂などが原因ですが、食生活が間接的に影響することもあります。例えば、動物性脂肪やタンパク質を多く含む食品の摂取が多いと、皮脂の分泌が活発になり、体臭が強くなる傾向があると言われています。また、腸内環境の乱れが体臭に影響することもあります。バランスの取れた食事や、発酵食品・食物繊維を積極的に摂ることは、腸内環境を整え、結果的に体臭やデリケートゾーンのニオイの改善にもつながる可能性があります。ただし、ニオイの最も一般的な原因は細菌性膣症などであるため、強い異常なニオイが続く場合は、まず婦人科に相談することが最も重要です1116

更年期に入り、デリケートゾーンの乾燥やかゆみがひどくなりました。どうすればよいですか?

更年期になると、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少し、膣や外陰部の皮膚が薄く、乾燥しやすくなります(萎縮性膣炎)619。これが乾燥、かゆみ、ヒリヒリ感、性交時痛の原因となります。セルフケアとしては、まずデリケートゾーン専用の保湿剤を毎日のケアに取り入れることが有効です9。洗浄時に洗いすぎないことも重要です。それでも症状が改善しない場合は、婦人科で相談することをお勧めします。ホルモン補充療法(HRT)や、エストロゲンを含む膣錠、レーザー治療(モナリザタッチなど)19といった、より専門的な治療法があります。

結論

デリケートゾーンのケアは、特別なことではなく、日々の健康管理の重要な一部です。正しい知識を持つことで、多くの一般的な悩みは予防・改善でき、また、医療機関を受診すべき重要なサインを見逃さずに済みます。大切なのは、ご自身の体の声に耳を傾け、変化に気づくことです。膣が持つ素晴らしい自浄作用を信じ、それをサポートするような優しいケアを心がけてください。そして、決して一人で悩まないでください。デリケートゾーンの悩みは、多くの女性が経験する共通の課題です。不安や異常を感じたときには、ためらわずに婦人科の専門医に相談することが、あなた自身の健康と快適な生活を守るための最も確実な一歩となります4。JAPANESEHEALTH.ORGは、これからも科学的根拠に基づいた信頼できる情報を提供し、皆様が主体的にご自身の健康と向き合うことをサポートしてまいります。

免責事項

この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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