三角筋拘縮症との違いは?骨形成不全症に伴う先天的な三角筋低形成を専門解説
筋骨格系疾患

三角筋拘縮症との違いは?骨形成不全症に伴う先天的な三角筋低形成を専門解説

骨の脆弱性が主な特徴である遺伝性疾患「骨形成不全症(Osteogenesis Imperfecta, OI)」ですが、その影響は骨だけに留まりません。多くの患者さん、特に小児期と思春期のお子さんを持つご家族が直面する問題の一つに、肩の筋力低下や運動制限があります。この症状は、時に「三角筋拘縮症」という別の疾患と混同されることがありますが、その原因と病態は全く異なります。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、最新の科学的根拠と日本の臨床現場からの知見に基づき、骨形成不全症における肩の問題の核心に迫ります。なぜ骨の病気で筋力が低下するのか、そのメカニズムを「機能的骨筋単位」という概念から解き明かし、日本の医療社会で過去に問題となった三角筋拘縮症との明確な違いを専門的に解説します。さらに、小児期から成人期にわたる症状の管理、安全なリハビリテーション、そして日本の公的支援制度を含めた包括的な情報を提供し、患者さんとご家族が抱える不安や疑問に寄り添い、解決への道を照らします。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。

  • 厚生労働省(MHLW)及び難病情報センター: この記事における骨形成不全症の公式な定義、診断基準、および「指定難病274」としての位置づけに関する記述は、これらの日本の規制当局および公的情報機関が公表したガイドラインに基づいています14
  • 日本小児科学会: 小児における症状、診断、および治療法(ビスフォスフォネート療法など)に関する推奨事項は、同学会が発行した診療ガイドラインに基づいています2
  • Veilleux, LN., et al. (2024)及びSemler, O., et al. (2017): 骨形成不全症が筋力低下を引き起こす科学的メカニズム、特に「機能的骨筋単位」の破綻に関する解説、および肩外転筋の筋力が41%低下するという具体的なデータは、これらの国際的な科学論文に基づいています621
  • 国立医療学会: 三角筋拘縮症が過去の筋内注射に起因する後天的な病態であるという歴史的背景と医学的知見は、日本の医学会で発表された症例報告に基づいています7
  • 骨形成不全友の会及びNPO法人骨形成不全症協会: 患者さんとその家族が日常生活で直面する具体的な課題や心理的な懸念に関する記述は、これらの日本の患者支援団体の公開情報や活動内容を参考にしています1618

要点まとめ

  • 骨形成不全症は全身性の疾患:骨の脆弱性が主症状ですが、コラーゲンの異常により筋肉、靭帯、皮膚など全身の結合組織に影響を及ぼす遺伝性疾患です。
  • 筋力低下は内在的な特徴:肩の筋力低下(特に三角筋の低形成)は、運動不足の結果ではなく、疾患そのものに起因する内在的な症状です。「機能的骨筋単位」の破綻がその根底にあります。
  • 三角筋「拘縮症」との明確な違い:骨形成不全症に伴う三角筋「低形成」は先天的な発達不全ですが、三角筋「拘縮症」は主に過去の筋内注射による後天的な筋肉の線維化であり、全く異なる病態です。
  • 包括的な管理が重要:治療は、骨密度を高める薬物療法、骨折や変形に対する外科的治療、そして筋機能と生活の質を最大化するためのリハビリテーションを組み合わせた集学的アプローチが不可欠です。
  • 公的支援の活用:日本では「指定難病274」として認定されており、医療費助成制度の対象となります。この情報を知ることが、家族の経済的負担を軽減するために重要です。

骨の病気なのに、なぜ肩の動きに問題が?

「骨形成不全症(OI)」と聞くと、多くの人は「骨がもろく、骨折しやすい病気」というイメージを抱くでしょう。それは間違いではありませんが、この疾患の全体像の一部に過ぎません。骨形成不全症は、体の構造を支える主要なタンパク質であるI型コラーゲンの遺伝子変異によって引き起こされる全身性の疾患です2。コラーゲンは骨の主成分であると同時に、筋肉、靭帯、腱、皮膚、歯、さらには眼の強膜(白目の部分)など、全身の結合組織の「骨格」を形成しています。そのため、骨形成不全症の影響は全身に及び、筋力低下もまた、この疾患の重要な特徴の一つなのです。

特に、肩関節の動きに中心的な役割を果たす「三角筋」の機能低下や発達不全(低形成)は、小児期から成人期に至るまで、患者さんの日常生活に大きな制約をもたらす可能性があります。しかし、この肩の問題は、日本において過去に社会問題ともなった「三角筋拘縮症」と名称が似ているため、時に混同されることがあります。この二つは原因も病態も全く異なるものであり、正確な理解が適切な対応への第一歩となります。

本記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、科学的根拠に基づき、以下の点を包括的に解説します。

  • 骨形成不全症における「三角筋低形成」と、後天的な「三角筋拘縮症」との明確な違い。
  • なぜ骨の病気が筋力低下を引き起こすのか、その科学的なメカニズム。
  • 小児期と成人期における具体的な症状と、ご家族が注意すべきサイン。
  • 診断から、薬物療法、外科的治療、そして最も重要なリハビリテーションに至るまでの最新の管理法。
  • 日本の医療制度における公的支援(指定難病制度)の活用法。

この記事を通じて、患者さん、ご家族、そして医療関係者の皆様が、骨形成不全症に伴う肩の問題を深く理解し、より良い管理と生活の質の向上に繋がる一助となることを目指します。


注意:三角筋「拘縮症」と骨形成不全症の「低形成」は全く別の病態です

肩の動きに関する問題を考える上で、まず最初に明確に区別しなければならない非常に重要な点があります。それは、骨形成不全症(OI)に見られる先天的な三角筋低形成(Deltoid Hypoplasia)と、主に過去の医療行為に関連した後天的な三角筋拘縮症(Deltoid Contracture)は、名前が似ていますが、全く異なる病態であるということです。この混同は不適切な診断や治療方針に繋がりかねないため、両者の違いを正確に理解することが不可欠です。

国立医療学会の報告によると、三角筋拘縮症は、特に1970年代の日本において、小児期に行われた抗生物質や解熱剤の筋内注射が原因で発生したとされています7。注射による物理的な刺激や薬剤の作用で三角筋の一部が硬くなり、線維化(瘢痕組織のように硬くなること)を起こし、その結果として腕が上がらなくなる(外転制限)状態です。これは、特定の外的要因によって引き起こされる局所的な問題です。

一方、骨形成不全症における三角筋の問題は「低形成」、すなわち筋肉そのものが生まれつき十分に発達していない状態を指します。これは全身のコラーゲン異常という遺伝的背景から生じる、疾患の一つの表現型です1。以下に、両者の違いをまとめます。

表1:三角筋「低形成(OIに伴う)」と「拘縮症」の比較
特徴 三角筋低形成(骨形成不全症) 三角筋拘縮症
原因 先天的なI型コラーゲンの遺伝子変異1 後天的(主に過去の筋内注射による筋肉の線維化)78
本質 全身性の結合組織疾患の一症状としての筋肉の発達不全 筋肉組織の局所的な瘢痕化・線維化
発症時期 生まれつき(先天性) 後天的(多くは小児期に発症)
関連症状 易骨折性、青色強膜、歯牙形成不全、難聴など全身に及ぶ2 通常、他の全身症状は伴わない
歴史的背景 遺伝性疾患として古くから知られる 日本において1970年代に多発した医原性の問題7

このように、もしお子さんやご自身に肩の問題があり、骨形成不全症の診断を受けている、あるいはその疑いがある場合、その原因は「拘縮症」ではなく、疾患自体の特性である「低形成」や筋力低下である可能性が極めて高いと言えます。この区別は、適切なリハビリテーション計画を立てる上で非常に重要です。


骨形成不全症(指定難病274)とは?基本を理解する

骨形成不全症(OI)は、日本において厚生労働省から指定難病274として公式に認定されている疾患です4。これは、患者さんが適切な医療ケアを受けられるよう、医療費助成の対象となることを意味しており、患者さんとそのご家族にとって非常に重要な情報です。

この疾患の根本的な原因は、前述の通り、主にI型コラーゲンの産生に関わる遺伝子(例:COL1A1COL1A2)の変異にあります1。コラーゲンは骨に強度としなやかさを与える重要な成分であるため、その異常は骨の脆弱性を引き起こします。しかし、影響は骨に限定されません。日本小児科学会の診療ガイドラインでも指摘されている通り、OIは多彩な症状を呈します25

主な臨床的特徴

  • 易骨折性:非常に軽い外力、あるいは日常生活の動作の中でも骨折を繰り返すことが最大の特徴です。
  • 青色強膜:眼球の白目部分(強膜)が薄いため、その下のぶどう膜(血管の豊富な組織)が透けて見え、青みがかって見えることがあります。
  • 歯牙形成不全:歯のエナメル質や象牙質の形成が不完全で、歯が変色したり、もろくなったりします。
  • 難聴:耳小骨(音を伝える小さな骨)の奇形や骨折、あるいは内耳の神経への影響により、進行性の難聴をきたすことがあります。
  • 筋力低下と関節弛緩性:本記事の主題である筋力低下や、関節が通常より柔らかい(関節弛緩性)も重要な症状です。
  • 低身長と骨変形:度重なる骨折や脊椎の圧迫骨折により、身長が伸び悩んだり、四肢や脊椎に変形が生じたりすることがあります。

OIは重症度によっていくつかのタイプに分類されますが、最も一般的なのは軽症のI型から致死性のII型、進行性の変形を伴うIII型、中等症のIV型などを含むシレンス(Sillence)分類です3。筋力低下は、特にI型やIV型など、生命予後は比較的良好であるものの、生涯にわたって生活の質に影響を与えるタイプにおいて、重要な管理対象となります。


科学的根拠:なぜ骨形成不全症は筋力低下を引き起こすのか?

「骨の病気」である骨形成不全症が、なぜ筋肉にまで影響を及ぼすのか。この疑問に答える鍵は、近年の研究で重要性が増している「機能的骨筋単位(Functional Muscle-Bone Unit)」という概念にあります6

機能的骨筋単位(Functional Muscle-Bone Unit)の破綻

従来、骨と筋肉はそれぞれ独立した器官と考えられがちでした。しかし、最新の研究では、両者は発生学的にも、また生涯を通じた機能維持においても、密接に連携し合う一つの「単位」として機能していることが明らかになっています。筋肉が骨に力を加えることで骨の成長と維持が促され、逆に健康な骨は筋肉が効率的に力を発揮するための安定した土台となります。この相互作用を支えているのが、コラーゲンを含む結合組織です。

骨形成不全症では、主要な構成要素であるI型コラーゲンに異常があります。これにより、以下の二つのメカニズムが同時に進行し、筋力低下を引き起こします。

  1. 筋肉自体の質の低下:筋肉は筋線維の束ですが、それらをまとめ、力を骨に伝達するためには、筋内膜や筋周膜といったコラーゲンを豊富に含む結合組織が不可欠です。OIではこれらの組織も脆弱になるため、筋線維が収縮してもうまく力が伝わらず、結果として発揮される筋力が低下します。
  2. 骨からのフィードバック異常:筋肉が力を加えても、土台となる骨が弱く、適切に応答できません。この「骨からの正常なフィードバック」が欠如することも、筋肉の量や質の維持に悪影響を及ぼすと考えられています6

つまり、OIにおける筋力低下は、単に「骨折を恐れてあまり動かないから」という二次的な結果ではなく、疾患そのものに内在する、筋肉と骨の連携不全という本質的な問題なのです。

データが示す筋力低下:特に肩の機能について

この筋力低下は、感覚的なものではなく、科学的な研究によって定量的に証明されています。例えば、2024年に発表された包括的な学術レビューでは、複数の研究データを解析し、骨形成不全症患者の筋機能について詳細に報告しています。その中でも特筆すべきは、「成人I型OI患者の肩外転筋(腕を横に持ち上げる筋肉、主に三角筋)の筋力は、健常対照群と比較して平均で41%も低い」というデータです21

この41%という具体的な数値は、OIにおける肩の機能障害が深刻であり、日常生活における腕の挙上動作(例:棚の上の物を取る、髪を洗う、服を着る)に大きな困難を伴うことを明確に示しています。これは、肩関節がOIの影響を特に受けやすい部位の一つであることを裏付ける強力な科学的根拠です。


小児期における症状と親が注意すべきサイン

小児の骨形成不全症において、骨折は最もドラマティックで分かりやすい症状ですが、筋力低下に関連するサインはより微細で、見過ごされがちです。しかし、早期にこれらのサインに気づき、介入することが、将来的な機能維持に繋がります。日本小児科学会のガイドラインでも、運動発達の遅れは重要な観察項目とされています2

ご両親が日常生活の中で注意すべきサインには、以下のようなものがあります。

  • 運動発達のマイルストーンの遅れ:首のすわり、寝返り、お座りといった初期の発達は比較的正常でも、腕の力が必要になる「四つ這い」や「つかまり立ち」といった段階で遅れが見られることがあります。
  • 腕を上げる動作の回避:「バンザイ」をしたがらない、高い場所にあるおもちゃに手を伸ばさない、ボール投げなどの遊びに興味を示さないなど、無意識に肩を使う動作を避けている様子が見られることがあります。
  • 不自然な姿勢や代償動作:肩の筋力が弱いため、肩甲骨を過剰に動かしたり、体を傾けたりして腕を上げようとする「代償動作」が見られることがあります。また、立っている時に肩が前に落ち込んでいるような姿勢(肩の前傾)も特徴の一つです。
  • 疲れやすさ:他の子供と同じように遊んでいても、腕や肩の疲れを訴えることが早い場合があります。

日本の患者支援団体である「骨形成不全友の会」の活動報告などでは、多くの家族から「学校で手を挙げて発言するのをためらう」「体育の授業で皆と同じようにできない」といった、身体的な問題が子どもの社会参加や自己肯定感に与える影響についての悩みが共有されています17。これらの微細なサインは、単なる「個性」や「運動が苦手」ではなく、疾患による医学的な介入を必要とする兆候である可能性を認識することが重要です。


成人期における運動制限と日常生活への影響

成人期の骨形成不全症患者さんにとって、肩の機能低下は、慢性的な痛みや疲労、そしてQOL(生活の質)の低下に直結する深刻な問題となり得ます。幼少期からの筋力低下が蓄積し、関節の使い方の癖(代償運動)が固定化することで、二次的な問題が生じることも少なくありません。

日常生活において、以下のような具体的な影響が現れることがあります。

  • セルフケアの困難:着替え(特に頭からかぶるタイプの服)、髪を洗う・乾かす、背中を洗うといった日常的な動作に困難を感じることがあります。
  • 家事への影響:高い場所にある物を取ったり、鍋のような重いものを持ったり、窓を拭いたりする動作が難しくなります。
  • 職業上の制約:長時間のデスクワーク(特にキーボード操作)は、肩や首の凝り、痛みを引き起こしやすくなります。また、物を運んだり、腕を上げたりする作業を伴う職業では、選択肢が制限される可能性があります。
  • 社会的活動の制限:趣味やスポーツ活動への参加が難しくなることで、社会的な孤立感に繋がることもあります。

これらの制限は、単なる身体的な不便さを超えて、精神的な健康や自立した生活を送る上での大きな障壁となり得ます。したがって、成人期の管理においては、単に骨折を防ぐだけでなく、筋力と機能を維持・改善し、痛みをコントロールすることに重点を置いたアプローチが求められます。


診断と鑑別診断

骨形成不全症の診断は、厚生労働省が定める診断基準に基づき、臨床症状、X線所見、そして遺伝学的検査を組み合わせて総合的に行われます14

診断プロセス

  1. 臨床的評価:乳幼児期からの繰り返す骨折の病歴、青色強膜、歯牙形成不全、難聴、家族歴などの特徴的な症状を確認します。肩の筋力低下や関節弛緩性も重要な所見です。
  2. 画像検査:X線(レントゲン)検査により、骨の菲薄化(骨が薄いこと)、変形、骨折治癒の痕跡、頭蓋骨のウォーム骨(縫合線に沿ってできる小さな骨)などを確認します。
  3. 骨密度測定:DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)により、骨密度が年齢標準よりも低いことを確認します。
  4. 遺伝学的検査:確定診断のために、原因遺伝子(COL1A1, COL1A2など)の変異を血液検査で調べます。

鑑別診断の重要性

肩の筋力低下や低形成は、他の先天性疾患でも見られることがあります。そのため、正確な治療方針を立てるためには、これらの疾患と区別する「鑑別診断」が重要です。例えば、ポーランド症候群(大胸筋の欠損を伴う)やホルト・オーラム症候群(心奇形を伴う上肢の異常)なども、腕の形成異常を呈することがありますが、OIに特徴的な全身症状(易骨折性や青色強膜など)を伴わない点で区別されます2829

また、小児期に繰り返す骨折が見られる場合、残念ながら児童虐待が疑われるケースもあります。NPO法人骨形成不全症協会のような患者団体は、この誤解を防ぐための社会的な啓発活動も行っています27。医療者は、OIの可能性を念頭に置き、慎重な評価を行う必要があります。


日本における治療と管理法:包括的アプローチ

骨形成不全症の治療目標は、疾患そのものを治癒させることではなく、骨折を減らし、骨の変形を防ぎ、筋力と運動機能を最大限に高め、痛みを管理し、自立した生活を支援することにあります。そのためには、複数の専門家が連携する包括的なアプローチが不可欠です。

薬物療法:骨を強くする

現在の日本における標準的な薬物療法は、ビスフォスフォネート製剤(パミドロネートやゾレドロン酸など)の点滴投与です2。この薬剤は、骨を破壊する破骨細胞の働きを抑えることで骨密度を高め、骨折の頻度を減少させる効果が示されています。特に成長期の小児において、骨の痛みを和らげ、運動性を改善する効果が期待されます。

外科的治療:変形の矯正と骨折予防

四肢の長管骨(大腿骨や脛骨など)に著しい変形がある場合や、骨折を繰り返す場合には、外科的治療が検討されます。代表的な手術は、骨をまっすぐに矯正した上で、骨髄内に金属製の釘(ロッド)を挿入して補強する髄内釘固定術です26。成長期の子供には、骨の成長に合わせて伸縮するタイプのロッドが用いられることもあります。

リハビリテーション:肩機能の維持と改善のための安全な運動

リハビリテーションは、骨形成不全症管理の最も重要な柱の一つです。理学療法士や作業療法士の指導のもと、個々の患者さんの状態に合わせたプログラムを組むことが重要です。

肩機能の維持・改善を目的としたリハビリテーションでは、以下の点が考慮されます。

安全な運動の推奨:英国のグレート・オーモンド・ストリート小児病院(GOSH)や米国の骨形成不全症財団(OIF)などの国際的な専門機関は、低負荷で安全な運動を推奨しています2324

  • 水泳・水中運動:浮力によって関節への負担が軽減されるため、筋力強化と全身のコンディショニングに最も推奨される運動の一つです。
  • 軽いストレッチ:関節の可動域を維持し、拘縮を防ぐために重要です。
  • ウォーキング:体重を支える骨に適度な刺激を与え、全身の筋力を維持します。

避けるべき活動:骨折のリスクを最小限に抑えるため、以下の活動は一般的に避けるべきとされています25

  • 接触の多いスポーツ:サッカー、バスケットボール、柔道、ラグビーなど、他者との衝突が避けられないスポーツ。
  • 高所からのジャンプや飛び降り
  • 体操やトランポリンなどのアクロバティックな動き

特に学校の体育の授業については、画一的な参加は危険を伴います。医師、理学療法士、学校の教員が連携し、お子さん一人ひとりの能力と限界を正しく評価した上で、参加できる活動と代替活動を具体的に定めた個別計画を作成することが不可欠です。


よくある質問(FAQ)

Q1: 私の子供は骨形成不全症です。学校の体育の授業に参加させるべきですか?

はい、参加は可能ですが、特別な配慮と個別計画が絶対条件です。身体を動かすこと自体は、筋力維持や心身の健康のために非常に重要です。しかし、画一的なプログラムに参加させるのは危険です。まず、主治医や理学療法士に相談し、お子さんの身体機能について正確な評価と、許可される運動・禁止される運動の明確なリストを作成してもらいます。その上で、学校側(担任、体育教員、養護教諭)と面談し、その情報を共有して、安全に参加できる個別計画を立てることが重要です。例えば、接触プレーのある球技の代わりに基礎的なボール操作の練習に参加する、持久走の代わりにウォーキングを行う、あるいは水泳の授業に重点を置くなどの工夫が考えられます23

Q2: 理学療法で三角筋の筋力を本当に改善できますか?

はい、改善は期待できますが、「健常者と同じレベルになる」ことを目指すものではありません。理学療法の目標は、疾患そのものを治すことではなく、残された筋機能を最大限に引き出し、効率的な体の使い方を学習し、関節の可動域を維持することで、日常生活の質(QOL)を最大限に高めることです。三角筋が低形成であっても、周辺の筋肉(僧帽筋、回旋筋腱板など)を適切に鍛え、肩甲骨の動きをスムーズにすることで、腕の挙上機能を補うことが可能です。理学療法は、筋力強化だけでなく、痛みの管理、代償動作の修正、そして何よりも自信を持って安全に体を動かすための方法を学ぶプロセスです25

Q3: 骨形成不全症は遺伝するとのことですが、次の子供にも遺伝しますか?

骨形成不全症の多くは常染色体優性遺伝形式をとります。これは、両親のどちらかがOIである場合、お子さんに遺伝する確率が各妊娠で50%であることを意味します。しかし、全く家族歴がなく、両親ともにOIでない場合でも、精子や卵子が作られる過程で新たに遺伝子変異が起こり、お子さんがOIとして生まれること(新生突然変異)も少なくありません3。正確な再発率や遺伝に関する詳細な情報については、遺伝カウンセリングを受けることを強くお勧めします。

Q4: 指定難病の医療費助成を受けるには、どうすればよいですか?

指定難病の医療費助成を受けるためには、まず主治医に相談し、「臨床調査個人票」という診断書を作成してもらう必要があります。この診断書と、住民票や課税証明書などの必要書類を揃えて、お住まいの都道府県または指定都市の担当窓口(通常は保健所)に申請します。申請が承認されると、「医療受給者証」が交付され、OIに関連する医療費の自己負担額に上限が設けられます9。手続きの詳細は自治体によって異なる場合があるため、地域の保健所や医療機関のソーシャルワーカーに相談するのが確実です。


結論と今後の展望

骨形成不全症(OI)は、単なる「骨がもろい病気」ではなく、コラーゲン異常に起因する全身性の結合組織疾患であり、肩を含む筋力低下はその内在的な特徴の一つです。OIに伴う先天的な「三角筋低形成」を、過去の筋内注射に起因する後天的な「三角筋拘縮症」と明確に区別し、正しく理解することが、適切なケアへの第一歩となります。

科学的根拠は、「機能的骨筋単位」の破綻というメカニズムを解明し、OI患者における筋力低下が本質的な問題であることを示しています。この理解に基づき、管理は骨折予防のための薬物療法や外科的治療に加え、個々の能力を最大限に引き出すための安全かつ継続的なリハビリテーションが極めて重要となります。特に、水泳などの低負荷運動は、全身の筋力と心肺機能を向上させる上で非常に有益です。

日本においては、OIが指定難病274として認定されていることで、患者さんは公的な医療費助成を受けることができます。また、骨形成不全友の会16やNPO法人骨形成不全症協会18のような患者支援団体は、情報交換や精神的な支え合いの場として、かけがえのない役割を果たしています。同じ課題を抱える他の家族と繋がることは、孤立感を和らげ、前向きに病気と向き合うための大きな力となるでしょう。

今後の展望として、治療薬の研究も進んでいます。例えば、骨形成を促進する新しい作用機序を持つ薬剤(例:ロモソズマブ)などがOI治療に応用できる可能性について研究されており、将来的にはより効果的な治療選択肢が増えることが期待されています30

この記事で提供された情報が、患者さんとご家族の皆様の深い理解を助け、日々の生活における課題を乗り越えるための一助となることを心から願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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