【科学的根拠に基づく】ネフローゼ症候群は治る?完治と寛解の違い、小児・成人の最新治療から食事療法まで徹底解説
腎臓と尿路の病気

【科学的根拠に基づく】ネフローゼ症候群は治る?完治と寛解の違い、小児・成人の最新治療から食事療法まで徹底解説

「ネフローゼ症候群」という診断名を告げられ、そのむくみや倦怠感に悩まされながら、「この病気は治るのだろうか」「これからどうなってしまうのだろう」と深い不安を感じていらっしゃるかもしれません。特に、インターネット上には様々な情報が溢れており、何を信じれば良いのか分からなくなってしまう方も少なくないでしょう。本記事は、そのような不安を抱える患者様やご家族のために、JapaneseHealth.org編集部が、日本の主要な診療ガイドラインや国際的な最新の研究成果といった科学的根拠にのみ基づいて、ネフローゼ症候群に関する正確で包括的な情報をお届けします。この記事を最後までお読みいただくことで、ネフローゼ症候群の本当の姿、医学的な「完治」と「寛解」の意味の違い、小児と成人での特徴の違い、最新の治療法、そして日常生活における食事管理の要点まで、皆様が抱える疑問のすべてが解決されることを目指します。


この記事の科学的根拠

本記事は、引用された研究報告書に明示されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。

  • 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性腎障害に関する調査研究」班および日本腎臓学会: 本記事における成人ネフローゼ症候群の診断基準、病型分類、標準的な治療法、および食事療法の指針は、これらの組織が作成した「エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」および「慢性腎臓病に対する食事療法基準」に基づいています28。これは日本の臨床現場における最も権威ある指針です。
  • 日本小児腎臓病学会(JSPN): 小児のネフローゼ症候群に関する治療戦略、特にステロイド療法や免疫抑制薬の使用法に関する記述は、同学会が発行した「小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」を主要な根拠としています5
  • KDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes): 治療法の国際的な動向や最新の推奨事項、特に小児ネフローゼ症候群に関する記述は、腎臓病診療の国際基準を定めるKDIGOの最新ガイドライン(2025年版)を参考にし、日本の医療を世界的な視点から補完しています10
  • 難病情報センターおよび小児慢性特定疾病情報センター: 日本の公的な医療費助成制度(指定難病、小児慢性特定疾病)に関する情報、および各病型の具体的な予後(腎生存率)に関するデータは、これらの厚生労働省所管の機関が提供する公式情報に基づいています1214

要点まとめ

  • ネフローゼ症候群は、症状が消え再発の心配がない「完治」は難しい場合もありますが、症状が落ち着く「寛解」を目標に、治療と自己管理で良好な状態を維持することが可能な病気です。
  • 小児と成人では原因や治療への反応が大きく異なります。小児はステロイドが効きやすい「微小変化型」がほとんどで予後良好なことが多い一方、成人は原因が多様で腎生検による正確な診断が不可欠です。
  • 治療の基本は、ステロイド薬と、必要に応じて免疫抑制薬を用います。治療法は近年大きく進歩しており、新しい薬剤の開発も進んでいます。
  • 食事療法、特に「減塩」は、年齢や病型に関わらず最も重要な自己管理です。医師や管理栄養士の指導のもと、タンパク質やエネルギー量を適切に管理することが求められます。
  • 日本では、成人は「指定難病」、小児は「小児慢性特定疾病」として医療費助成制度が利用できます。経済的負担について、一人で悩まずに相談窓口を活用することが大切です。

ネフローゼ症候群とは何か?:腎臓で起きている「タンパク質のダダ漏れ」

私たちの体にある腎臓には、「糸球体(しきゅうたい)」と呼ばれる、血液を濾過して尿を作るための非常に目の細かいフィルターのような構造があります。健康な状態では、このフィルターは体に必要なタンパク質などの大きな物質は通さず、老廃物と余分な水分だけを尿として排出します。ところが、ネフローゼ症候群では、この糸球体のフィルター機能が何らかの原因で壊れてしまい、血液中の大切な栄養素である「アルブミン」をはじめとするタンパク質が、尿の中へ大量に漏れ出てしまう状態に陥ります34

医学的には、ネフローゼ症候群は以下の4つの主要な兆候によって定義されます121435

  • 高度なタンパク尿: 尿検査で、1日に3.5グラム以上という非常に多くのタンパク質が検出される状態。
  • 低アルブミン血症: 血液検査で、血液中のアルブミン濃度が3.0g/dL以下にまで著しく低下した状態。
  • 浮腫(むくみ): 顔、まぶた、手足、そして全身に水分が溜まり、顕著なむくみが生じる状態。体重が数キログラム以上増加することも珍しくありません。
  • 脂質異常症(高コレステロール血症): 血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が異常に増加した状態。

これらの兆候は互いに連鎖して起こります。まず、尿中にタンパク質(アルブミン)が大量に漏れ出ると、血液中のタンパク質濃度が低下します(低アルブミン血症)。アルブミンには血管内に水分を保持する働きがあるため、これが減少すると血管から水分が漏れ出し、皮膚の下に溜まって「浮腫」となります。一方、体は失われたタンパク質を補おうと肝臓でのタンパク質合成を活発にしますが、その過程で脂質の合成も過剰になり、「脂質異常症」を引き起こすのです。

【原因別】一次性と二次性の違い

ネフローゼ症候群は、その原因によって「一次性(特発性)」と「二次性」の二つに大きく分けられます。治療方針を決定する上で、このどちらであるかを見極めることが非常に重要です34

  • 一次性(特発性)ネフローゼ症候群: 腎臓そのものに直接的な原因があり、他に明らかな病気を伴わないものを指します。後述する「微小変化型」や「膜性腎症」などがこれにあたります。日本の公的な医療費助成制度である「指定難病」の対象となるのは、主にこの一次性ネフローゼ症候群です12
  • 二次性ネフローゼ症候群: 糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、特定の感染症(B型肝炎ウイルスなど)、悪性腫瘍(がん)、薬剤の副作用といった、全身性の他の病気が原因となって二次的に腎臓が障害を受け、発症するものです。この場合、ネフローゼ症候群の治療と並行して、原因となっている根本的な病気の治療が最優先されます。

【最重要】小児と成人では全く異なる病気?:年齢で見るネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は、発症する年齢によってその性質が大きく異なります。特に「小児」と「成人」では、原因となる病気の種類、治療への反応性、そして長期的な見通し(予後)が全くと言っていいほど違うため、ご自身やご家族の状況を正しく理解するためには、この違いを知っておくことが不可欠です。

以下の表は、小児と成人のネフローゼ症候群の主な違いをまとめたものです。

比較項目 小児のネフローゼ症候群 成人のネフローゼ症候群
主な原因 ほとんどが一次性(特発性)で、その90%以上が「微小変化型」というタイプです14 一次性と二次性が混在します。一次性の中では「膜性腎症」や「巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)」が多く見られます28
ステロイド治療への反応 約80%~90%がステロイド治療によく反応し、寛解に至ります(ステロイド感受性)1 病型によりますが、小児ほど一様に高い効果を示すわけではありません。
再発 非常に多いのが特徴です。一度寛解しても、70%~80%が再発を経験します1 病型によりますが、小児ほど頻繁に繰り返すとは限りません。
腎不全への進行リスク ステロイドによく効く「ステロイド感受性」の場合、腎機能は生涯にわたって保たれることが多く、予後は良好です17 病型によっては進行性で、将来的に腎機能が低下し、透析が必要な末期腎不全に至るリスクが小児よりも高い場合があります(例:FSGS)12

小児のネフローゼ症候群:希望を持って臨む長期的な付き合い方

お子様がネフローゼ症候群と診断されたご家族は、将来への大きな不安を抱えていらっしゃることでしょう。しかし、小児のネフローゼ症候群の多くは、適切な治療と管理によって良好な状態を維持できる病気です。

なぜ子供に起こるのか?:ほとんどが「微小変化型」

日本小児腎臓病学会の報告によると、小児の特発性(一次性)ネフローゼ症候群の約90%は「微小変化型」というタイプです14。このタイプは、腎生検で腎臓の組織を顕微鏡で観察しても、ほとんど異常が見つからないことに由来します。幸いなことに、この微小変化型はステロイド治療が非常によく効き、腎機能そのものが悪化して腎不全に至ることは稀であるため、長期的な腎臓の予後は比較的良好とされています。発症のピークは2歳から6歳頃に多く見られます29

治療の最前線:日本の診療ガイドラインに基づく標準治療

小児ネフローゼ症候群の治療は、日本小児腎臓病学会が策定した「小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」に基づいて進められます5
治療の第一選択肢は、**副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)**という飲み薬です1。この薬で多くのお子様は寛解に至りますが、再発を繰り返すことがこの病気の大きな特徴です。

  • 頻回再発型・ステロイド依存性: 年に何度も再発を繰り返したり、ステロイドを減らすとすぐに再発してしまったりする場合には、ステロイドの長期的な副作用を避けるために、シクロスポリンやタクロリムスといった免疫抑制薬を併用することがあります。近年では、リツキシマブという生物学的製剤も、難治性のケースに対して有効な選択肢となっています1
  • 国際的な動向: 腎臓病の国際的な診療指針を作成するKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)が2025年に発表した最新ガイドラインでは、患者様の状態に応じてステロイドの投与期間をより短くする試みや、副作用の少ない免疫抑制薬を早期から選択することが推奨されるなど、治療法は常に進歩しています1011

予後と日常生活での注意点

  • 予後: ステロイドが効くタイプ(ステロイド感受性)であれば、腎機能の長期的な予後は良好です。しかし、約半数のお子様が頻回再発型に移行し、思春期を過ぎて成人してからも再発を繰り返し、治療が続くこともあります1。根気強く病気と付き合っていく姿勢が大切です。
  • 合併症管理: 治療中は免疫力が低下するため、感染症に特に注意が必要です。特に肺炎球菌や水痘(みずぼうそう)は重症化しやすいため、ワクチンによる予防接種が極めて重要です。また、日々の手洗いやうがいといった基本的な感染対策も欠かせません1
  • 学校生活: ステロイド治療の副作用で顔が丸くなる「ムーンフェイス」や、一時的に背が伸びにくくなるなどの外見上の変化が、お子様の心理的な負担になることがあります。病気や治療について、学校の先生やお友達に正しく理解してもらい、協力してもらえるような環境づくりが重要です。
  • 公的支援: 小児のネフローゼ症候群は、国の「小児慢性特定疾病」の対象疾患です。認定されると、医療費の自己負担分の一部が助成されます。申請については、お住まいの地域の保健所や市区町村の担当窓口にご相談ください14

成人のネフローゼ症候群:原因の特定と個別化治療が鍵

成人のネフローゼ症候群は、小児とは対照的に原因が多様です。そのため、治療方針を決定するためには、まず「腎生検」によって腎臓で何が起きているのかを正確に診断することが、治療の最も重要な出発点となります。

多様な原因疾患:腎生検による確定診断の重要性

成人ではまず、糖尿病や膠原病といった二次性の原因がないかを確認します。それらが否定された上で、一次性が疑われる場合には、腎生検が行われます。これは、背中から細い針を刺して腎臓の組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。この検査によって、一次性ネフローゼ症候群の主な病型である以下の3つなどを鑑別します12

  • 微小変化型: 成人でも見られますが、小児ほど多くはありません。ステロイドが比較的効きやすいタイプです。
  • 膜性腎症: 成人の一次性ネフローゼ症候群で最も多い原因の一つです。
  • 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS): 腎臓のフィルター(糸球体)の一部が硬くなる病気で、治療が難しく、腎不全に進行しやすいタイプの一つです。

病型別の治療戦略:日本のガイドラインが示す道筋

成人の治療は、厚生労働省の研究班が監修し、日本腎臓学会が作成した「エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」を主たる根拠として、病型ごとに最適な治療法が選択されます230

  • 微小変化型: 小児と同様に、基本はステロイド治療です。
  • 膜性腎症: ステロイドと免疫抑制薬を組み合わせた治療が標準的です。近年、「抗PLA2R抗体」という血液検査で測定できるバイオマーカーが、病気の活動性の評価や治療方針の決定に役立つことがわかってきました12
  • 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS): ステロイドが効きにくい(ステロイド抵抗性)ことが多く、治療に難渋するケースも少なくありません。様々な免疫抑制薬を組み合わせた治療が行われます。

治療薬の開発も進んでおり、FSGSなどを対象としたsparsentanやBI 764198といった新しい薬が、腎機能の保護やタンパク尿の減少効果を期待され、臨床試験が進められています4144。こうした進歩は、将来の治療に新たな希望をもたらすものです。

予後と向き合う:病型ごとの腎生存率

成人の場合、長期的な腎臓の予後は病型によって大きく異なります。難病情報センターが公表しているデータによると、日本の患者における10年後の腎生存率(透析や移植に至らずに腎機能が維持されている割合)は以下の通りです12

  • 膜性腎症: 10年腎生存率は約89%
  • 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS): 10年腎生存率は約85.3%(ただし、20年後の腎生存率は33.5%と、長期的な予後はより厳しい傾向にあります)

これらの数字はあくまで統計データであり、個々の患者様の予後は、治療への反応性や日々の自己管理によって大きく変わる可能性があります。主治医とよく相談しながら、粘り強く治療を続けることが重要です。

公的支援

成人の一次性ネフローゼ症候群は、国の「指定難病」に認定されています。これにより、病気の重症度や所得に応じて、医療費の自己負担額が助成されます。詳しくは、主治医や病院の医療ソーシャルワーカー、お住まいの市区町村の担当窓口にご相談ください12

治療の共通基盤:科学的根拠に基づく食事療法と合併症管理

ネフローゼ症候群の治療において、薬物療法と並行して極めて重要になるのが、食事療法と合併症の管理です。これらは年齢や病型に関わらず、すべての患者様にとって治療の共通基盤となります。

食事療法:腎臓への負担を減らす4つの柱

食事療法の基本は、日本腎臓学会が示す「慢性腎臓病に対する食事療法基準」に基づきます8。自己判断で行うのではなく、必ず医師や管理栄養士の指導のもとで進めることが大切です。

  1. 減塩(最重要): 目標は1日6g未満です。これは、高血圧やむくみを改善し、心臓や腎臓への負担を軽減するために最も重要な項目です。醤油や味噌、漬物、ハムやソーセージなどの加工食品は塩分が多いため注意が必要です25。出汁の旨味や、香辛料、香味野菜などを上手に活用して、薄味でも美味しく食べられる工夫が求められます。
  2. タンパク質制限: 腎機能の程度に応じて、タンパク質の摂取量を調整します。目安として体重1kgあたり0.8~1.0g程度に制限されることが多いですが、これは医師の指示に従います。タンパク質の過剰摂取は腎臓に負担をかけますが、逆に不足しすぎると栄養失調を招き、体の抵抗力を弱めてしまいます25
  3. 十分なエネルギー確保: タンパク質を制限すると、食事全体のエネルギー(カロリー)が不足しがちになります。エネルギーが不足すると、体は自らの筋肉を分解してエネルギー源として使おうとし、これがかえって腎臓に負担をかける老廃物を生み出してしまいます。炭水化物や脂質から、必要なエネルギーをしっかりと確保することが重要です。
  4. カリウム・リンの管理: 腎機能が低下してくると、血液中のカリウムやリンの濃度が上昇しやすくなります。その場合は、カリウムを多く含む生野菜や果物、リンを多く含む加工食品や乳製品、レバーなどを控える必要があります25

近年、日本では「腎臓病療養指導士」という専門資格を持つ看護師、管理栄養士、薬剤師が増えています21。こうした専門家から、日常生活に即した具体的な食事指導を受けることが、治療を成功させるための大きな助けとなります。

命に関わる合併症とその対策

ネフローゼ症候群では、時に命に関わる重篤な合併症を引き起こすことがあります。その兆候を見逃さず、適切に対策することが重要です。

  • 血栓症: 血液中の水分が減り、血液を固まりにくくするタンパク質が尿に漏れ出るため、血液が非常に固まりやすくなります。これにより、足の静脈に血の塊ができる「深部静脈血栓症」や、その血栓が肺に飛んで詰まる「肺塞栓症」といった、命の危険がある病気を起こすリスクが高まります。特にむくみが強い時期は注意が必要で、予防のために血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)が使われることがあります14
  • 感染症: 体を細菌やウイルスから守る免疫グロブリンというタンパク質も尿中に失われる上、治療に用いるステロイドや免疫抑制薬の影響で免疫力が著しく低下します。そのため、肺炎や腹膜炎、皮膚の感染症など、様々な感染症にかかりやすくなり、重症化することも少なくありません。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種、そして日々の手洗いやうがいを徹底することが、命を守るために極めて重要です14

よくある質問

Q1: ステロイドの副作用が心配です。どんなものがありますか?

A1: ステロイドは非常に有効な薬ですが、様々な副作用が起こる可能性があります。主なものとして、感染症にかかりやすくなる(易感染性)、顔が丸くなる(ムーンフェイス)、肥満、成長障害(小児)、骨がもろくなる(骨粗鬆症)、高血圧、糖尿病、白内障、緑内障などが挙げられます。医師はこれらの副作用を最小限に抑えるため、必要最小限の量を慎重に調整します。治療中は定期的な検査で副作用を注意深く監視し、必要に応じて副作用を予防・治療するための薬が処方されます。気になる症状があれば、自己判断で薬をやめたりせず、必ず主治医に相談することが重要です12

Q2: 妊娠・出産はできますか?

A2: 病状が落ち着いている「寛解」の状態で、腎機能が保たれていれば、妊娠・出産は可能です。しかし、病気が活動期にある場合や、特定の免疫抑制薬を服用している最中の妊娠は、母子ともに高いリスクを伴います。ネフローゼ症候群の女性が妊娠を希望する場合は、必ず事前に腎臓内科の主治医と産婦人科医の両方と十分に相談し、病状が最も安定したタイミングで計画的に妊娠・出産に臨むことが不可欠です46

Q3: 運動はしてもいいですか?

A3: 寛解期で体調が安定している場合は、適度な運動はむしろ推奨されます。特にステロイドの副作用である骨粗鬆症の予防や、筋力維持に役立ちます。ただし、むくみが強い活動期や、体調が優れないときは安静が必要です。どのような運動をどの程度行って良いかは、個々の状態によって異なりますので、必ず主治医に確認してから始めるようにしてください28

Q4: 治療費が高額になりそうで不安です。

A4: 治療が長期にわたるため、医療費の負担は大きな心配事だと思います。前述の通り、一次性ネフローゼ症候群は、成人の場合は「指定難病」、小児の場合は「小児慢性特定疾病」という公的な医療費助成制度の対象疾患です。これらの制度を利用することで、所得に応じて医療費の自己負担額に上限が設けられ、負担が大幅に軽減されます。申請手続きなど、詳しいことについては、病院の医療ソーシャルワーカーやお住まいの地域の保健所、市区町村の担当窓口へお気軽にご相談ください13

結論:希望と現実を見つめ、より良い明日へ

本記事では、科学的根拠に基づき、ネフローゼ症候群の多岐にわたる側面を解説してきました。この病気は、残念ながら簡単に「完治」するとは言えない場合もありますが、適切な治療によって症状のない「寛解」状態を目指し、病状をコントロールしながら長く付き合っていくことが十分に可能な病気です。特に、ステロイドや免疫抑制薬に加え、新しい作用機序を持つ治療薬の開発も進んでおり、治療の選択肢は着実に増えています。未来への希望を失う必要は決してありません。

ネフローゼ症候群と向き合う上で最も重要なことは、信頼できる主治医や看護師、管理栄養士といった医療チームと良好な関係を築き、疑問や不安を一人で抱え込まずに相談することです。そして、日々の食事管理や感染予防といった地道な自己管理を、粘り強く続けることです。また、日本には**特定非営利活動法人 全国腎臓病協議会(全腎協)**のような患者会があり、同じ病気を抱える仲間と情報交換を行ったり、悩みを分かჩったりする場が提供されています1827。こうした社会的なサポートを活用することも、療養生活を送る上での大きな力となるでしょう。この記事が、皆様が病気を正しく理解し、前向きに治療に取り組むための一助となれば幸いです。

免責事項本記事は、信頼できる情報源に基づいた一般的な情報提供を目的としています。個々の患者様の診断、治療、健康管理については、必ず担当の医師、管理栄養士、薬剤師などの医療専門家にご相談ください。

参考文献

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