がん・腫瘍疾患

バーキットリンパ腫の徹底解説:症状、原因から最新治療まで

バーキットリンパ腫(Burkitt Lymphoma: BL)は、非ホジキンリンパ腫(NHL)の一種であり、成熟したBリンパ球を起源とする悪性腫瘍です。この疾患の最大の特徴は、ヒトのがんの中でも最も増殖速度が速い部類に入る「極めてアグレッシブ(高悪性度)」な性質にあると、多くの専門機関が指摘しています。例えば、日本血液学会の診療ガイドラインでもその性質が強調されています1。腫瘍の大きさが24時間以内に倍増することもあるとされ2、その進行は週単位ではなく日単位で計測されるほど急速です3。このため、診断から治療開始までの時間をいかに短縮するかが、予後を大きく左右する重要な鍵となります。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の診療ガイドライン: 日本血液学会が発行する「造血器腫瘍診療ガイドライン」は、国内における診断・治療の標準的な指針を示しており、本記事の議論の基盤となっています1
  • 国際的な医学文献: 米国国立生物工学情報センター(NCBI)のデータベースに収載されているStatPearlsのような総説論文は、疾患の包括的な理解と世界的なエビデンスを提供します4

要点まとめ

  • バーキットリンパ腫は、ヒトのがんの中で最も増殖が速いものの一つで、腫瘍が24時間で倍増することもあります3
  • その攻撃的な性質とは裏腹に、強力な化学療法が非常によく効き、治癒率が70%から90%と高いことが特徴です5
  • 原因の中心はMYC遺伝子の異常であり、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染などがリスク因子となります46
  • 診断から治療開始までのスピードが予後を大きく左右するため、急速な腫れや腹痛などの症状があれば、直ちに医療機関を受診することが極めて重要です。

バーキットリンパ腫の概要:極めて進行の速いB細胞性リンパ腫

ある日突然、体に異変を感じ、それが驚くべき速さで進行していく——そんな状況は、誰にとっても大きな不安と恐怖をもたらします。特に「がん」という言葉が結びつくと、その動揺は計り知れません。その気持ち、とてもよく分かります。しかし、バーキットリンパ腫という病気においては、その「速さ」こそが最大の弱点であり、治療への希望に繋がるという逆説的な側面があります。科学的には、このがんは細胞分裂が極めて活発な状態にあります。これは、まるで高速道路を猛スピードで走る車のようなものです。静止している車よりも、動いている車の方がはるかに目立ち、標的にしやすいのと同じように、活発に分裂しているがん細胞は、化学療法の薬剤にとって格好の標的となるのです7。だからこそ、この病気の「攻撃性」を正しく理解し、迅速かつ強力な治療に臨むことが、高い治癒率を達成するための鍵となります。

バーキットリンパ腫は、主に小児や若年成人に多く見られますが、成人でも発症します8。欧米では小児の非ホジキンリンパ腫の30%から40%を占めるほどです9。急速に大きくなるしこり(腫瘤)を形成し、顎、腹部、骨髄、そして脳や脊髄などの中枢神経系(CNS)に広がりやすい性質があります1。骨髄への広がりが25%を超えると、バーキット白血病として扱われることもあります10。この病気の増殖能を示すKi-67陽性率はほぼ100%に達し11、ほとんどすべての細胞が常に分裂状態にあることを意味します。そのため、短期集中型の強力な化学療法が劇的に効き、70%から90%という高い治癒率が達成できるのです5

このセクションの要点

  • バーキットリンパ腫は、極めて速く増殖する高悪性度のリンパ腫です。
  • その速い増殖という性質自体が、化学療法に対する高い感受性の理由であり、高い治癒率に繋がっています。

発症のメカニズムと原因:MYC遺伝子異常とウイルスの関与

なぜこのような特殊ながんが発生するのか、その仕組みは複雑で不安に感じるかもしれません。それは自然な反応です。しかし、近年の研究により、その発症メカニズムはかなり解明されてきました。科学的には、細胞の増殖をコントロールする設計図に、決定的なエラーが起きることが根本的な原因です。このエラーは、工場の生産ラインで、速度を制御するブレーキが壊れ、代わりにアクセルが踏みっぱなしになるような状態に例えられます。この「アクセル」の役割を果たすのがMYCという遺伝子です12。通常は厳密に管理されていますが、バーキットリンパ腫ではこの遺伝子が別の場所に移動(転座)してしまい、常に「オン」の状態になることで、細胞が無限に増殖し始めるのです。だからこそ、このMYC遺伝子の異常を特定することが、診断を確定する上で最も重要な証拠となります。

この疾患を定義づける分子的特徴は、8番染色体の長腕(8q24)に位置するMYCがん遺伝子が関与する染色体相互転座です4。この転座により、MYC遺伝子が、Bリンパ球で常に活発な免疫グロブリン(抗体)遺伝子の制御領域下に移され、MYCタンパク質が過剰に作られ続けます13。この転座には主に3つのパターンがあり、最も多いのはt(8;14)(q24;q32)で、全症例の約85~90%に見られます13。このような遺伝子異常が起こる背景には、いくつかのリスク因子が関わっています。特に風土病型のバーキットリンパ腫では、エプスタイン・バーウイルス(EBV)がほぼ100%の症例で関連しています1。EBVは、異常な細胞が自ら死滅するプログラム(アポトーシス)を妨害するため、危険なMYC転座を起こした細胞が生き残りやすくなると考えられています10。その他、HIV感染に代表される免疫不全状態14や、マラリアの慢性感染も強力なリスク因子として知られています6

このセクションの要点

  • 発症の中心的要因は、細胞増殖を暴走させるMYC遺伝子の染色体転座という異常です。
  • EBV感染、免疫不全、マラリアなどの環境要因が、この遺伝子異常が起こりやすい状況を作り出します。

バーキットリンパ腫の3つの病型とその特徴

バーキットリンパ腫は、世界保健機関(WHO)によって、発生した地域や背景に基づき、主に3つの臨床病型に分類されます10。顕微鏡で見た細胞の顔つき(組織像)は同じで、治療法も同様に強力なものが選ばれますが、それぞれに特徴があります。

風土病型(Endemic type): 主に赤道アフリカなどマラリアが流行する地域で見られ、ほぼ全例でEBV感染が関連します9。顎や顔の骨に急速に大きくなるしこりを作るのが古典的な特徴です10

散発型(Sporadic type): 日本を含む全世界で散発的に発生する、最も一般的なタイプです9。EBVとの関連は約30%と風土病型より低く15、お腹の中、特に小腸と大腸の境目(回盲部)に病変を作ることが多いとされています10

免疫不全関連型(Immunodeficiency-associated type): HIV/AIDS患者さんや臓器移植後の方など、免疫機能が著しく低下した状態で発生します6。リンパ節や骨髄など、より広範囲に病気が広がっていることが多い傾向があります10

このセクションの要点

  • バーキットリンパ腫には、発生地域や背景により「風土病型」「散発型」「免疫不全関連型」の3つのタイプが存在します。
  • どのタイプでも細胞の性質や治療の基本方針は同じですが、症状の出やすい場所が異なります。

主な症状と警戒すべきサイン

「まさかこんな症状が、がんのサインだったとは」——多くの患者さんがそう振り返ります。バーキットリンパ腫の症状は、病気の進行の速さを反映して、突然現れ、急速に悪化するのが特徴です9。そのサインを見逃さないことが、迅速な診断と治療への第一歩です。科学的には、これらの症状は腫瘍という「異物」が体の特定の場所で急速に大きくなり、正常な組織を圧迫したり壊したりすることで生じます。例えば、お腹の中にできれば腹痛やしこりとして感じられ、骨髄という血液工場を占拠すれば貧血や出血傾向として現れます。だからこそ、これから挙げるような症状、特に複数の症状が短い期間に重なって現れた場合は、決して自己判断で様子を見たりせず、すぐに専門医に相談することが何よりも大切です。「念のため」の受診が、命を救うことに繋がるのです。

症状は腫瘍の発生部位によって大きく異なります。顎や顔面の急な腫れは特に風土病型で典型的ですが、散発型でも見られます8。日本では腹部の症状が最も多く、腹痛、お腹の張り(膨満感)、硬いしこりなどがみられます16。腫瘍が腸を圧迫し、吐き気や腸閉塞などを引き起こすこともあります5。また、悪性度の高いリンパ腫に特徴的な「B症状」と呼ばれる全身症状もしばしば見られます17。これには、38°C以上の原因不明の発熱、寝具が濡れるほどの寝汗、そして過去6か月で10%以上の意図しない体重減少が含まれます18。病気が骨髄や中枢神経系(脳・脊髄)に進行すると、貧血症状や激しい頭痛、手足の麻痺など、より重篤な症状が現れる可能性があります8

受診の目安と注意すべきサイン

  • 顎、顔、首、脇の下、足の付け根などが、痛みを伴わずに急速に腫れてきた。
  • 原因不明の腹痛、お腹の張り、しこりが続き、悪化している。
  • 原因不明の発熱、大量の寝汗、急激な体重減少が同時に、あるいは次々と現れた。
  • 激しい頭痛、吐き気、けいれん、手足のしびれや麻痺など、神経に関する異常が出現した。

診断プロセス:迅速かつ正確な確定診断への道筋

バーキットリンパ腫の診断は、まさに時間との戦いです。疑いが持たれた瞬間から、診断を確定し治療を開始するまでの全プロセスは、緊急事態として扱われます1。多くの場合、入院して集中的に検査が行われ、48時間以内の治療開始が目指されます9。診断を確定させるために最も重要な検査は、腫れているリンパ節やしこりの一部を外科的に採取する「生検(組織検査)」です5。採取された組織は病理医が顕微鏡で詳細に調べ、特徴的な「starry sky(星空)像」と呼ばれる所見を確認します10。さらに、免疫組織化学染色という特殊な検査で、細胞の性質(CD20陽性、Ki-67ほぼ100%陽性など)を調べ11、最終的にFISH法などの遺伝子検査でMYC遺伝子の転座を直接証明することで、診断が確定します11。これと並行して、CT検査やPET-CT検査、骨髄検査、髄液検査などが行われ、病気が体のどこまで広がっているか(病期)が決定されます19

このセクションの要点

  • 診断は時間との戦いであり、疑いが生じたら緊急で集中的な検査が入院下で行われます。
  • 確定診断には、組織を採取する「生検」と、特徴的な遺伝子異常(MYC転座)を証明することが不可欠です。

標準治療戦略:多剤併用化学療法と中枢神経系へのアプローチ

バーキットリンパ腫と診断された時、その強力な治療方針に圧倒され、不安を感じるかもしれません。それは当然のことです。しかし、この治療の「強力さ」は、病気の「攻撃性」に打ち勝つために精密に設計されたものです。科学的には、この治療は「短期集中型の総力戦」と表現できます。作用の異なる複数の抗がん剤を巧みに組み合わせ、短期間に集中的に投与することで、がん細胞に反撃の隙を与えずに根絶を狙います。近年では、B細胞の表面にあるCD20という目印を狙い撃ちする「リツキシマブ」という分子標的薬を併用する免疫化学療法が標準となっています20。だからこそ、治療は心身ともに厳しいものになりますが、その先にある高い治癒率という明確な目標に向かって、医療チームと共に乗り越えていくことが大切です。

日本の「造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版」では、成人のバーキットリンパ腫に対し、DA-EPOCH-R療法、R-hyper-CVAD/MA療法、改良型CODOX-M/IVAC+R療法といった、複数の強力なレジメンが推奨されています20。これらは入院での厳重な管理下で行われます。また、この病気は脳や脊髄(中枢神経系)に広がりやすいため、予防的に抗がん剤を直接脊髄腔に注入する「髄注」や、脳に到達しやすい薬剤(大量メトトレキサートなど)を点滴に組み込むことが極めて重要です2021。さらに、治療が著効するために大量のがん細胞が一気に壊れ、重篤な合併症を引き起こす「腫瘍崩壊症候群(TLS)」のリスクが非常に高いため、治療開始前から大量の点滴や予防薬の投与といった対策が徹底されます22

今日から始められること

  • 治療方針について、医師から十分な説明を受け、分からないことや不安なことはリストアップして質問しましょう。
  • 入院治療に向けて、信頼できる家族や友人に状況を伝え、サポートをお願いできる体制を整えましょう。
  • 副作用対策について事前に学び、口内炎ケア用品や保湿剤など、入院生活を少しでも快適にするための準備を始めましょう。

予後、再発、および難治性症例への対応

強力な治療を乗り越えた後、「本当に治ったのだろうか」「また再発するのではないか」という不安が続くことは、多くのがんサバイバーが経験することです。そのお気持ち、お察しします。バーキットリンパ腫の場合、その闘いの大部分は治療中から治療後2年間という「初期」に集中しているという大きな特徴があります。科学的には、この病気の細胞は非常に速く増殖する反面、しぶとく生き残る能力は低いと考えられています。そのため、強力な初回治療で完全に叩きのめすことができれば、その後に再び勢力を盛り返すことは極めて稀なのです。実際、多くの研究で、治療終了後2年を超えてからの再発は非常に少ないことが報告されています1。だからこそ、この2年間を乗り越えることができれば、大きな安心感を得られるという事実は、厳しい治療後の経過観察期間を過ごす上での大きな希望となります。

適切な初回治療を受けた場合、長期生存率、すなわち治癒率は70%から90%と非常に良好です5。予後は若年者の方が良好な傾向があります23。治療終了後2年を超えてからの再発は極めて稀なため、症状がない患者さんへの定期的なCT検査は推奨されていません1。しかし、初回治療に反応しない、あるいは再発した場合の予後は不良であり、治療は困難を伴います3。その場合の選択肢として、救援化学療法や、適応があれば大量化学療法と自家造血幹細胞移植が検討されます20。効果が限定的な場合は、開発中の新薬を試す臨床試験への参加も重要な選択肢となります9

このセクションの要点

  • 適切な初回治療により、70%~90%の高い確率で治癒が期待できます。
  • 治療終了後2年間、再発なく過ごせれば、その後の再発リスクは著しく低下し、治癒と見なされる可能性が非常に高くなります。

日本における治療費と公的医療支援制度の活用

強力な治療には高額な医療費が伴い、経済的な心配が大きなストレスになるかもしれません。治療に専念すべき時に、お金のことで頭を悩ませるのは非常につらいことです。しかし、日本では安心して治療を受けられるよう、患者さんの負担を大幅に軽減するための充実した公的支援制度が整備されています。科学的な治療の進歩と同じくらい、こうした社会的なセーフティネットの存在もまた、がんと闘う上での力強い味方です。これらの制度は、申請しなければ利用できないものがほとんどです。だからこそ、一人で抱え込まず、病院の相談窓口などを通じて積極的に情報を集め、利用できる制度を最大限に活用することが、治療という長い道のりを乗り越えるために不可欠です。

バーキットリンパ腫の治療は公的医療保険の適用対象ですが24、総医療費は1回の入院で100万円を超えることも珍しくありません25。この自己負担を軽減する最も重要な制度が「高額療養費制度」です。これは、1か月の医療費の自己負担額に所得に応じた上限を設け、超えた分が払い戻される仕組みです26。事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払いを上限額までに抑えられます27。また、18歳未満の小児の場合は「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の対象となり、自己負担がさらに軽減されます28。その他にも、状況に応じて「障害年金」29や「傷病手当金」30などの制度があります。手続きは複雑な場合があるため、病院のがん相談支援センターやソーシャルワーカーに相談することを強くお勧めします。

今日から始められること

  • ご自身が加入している健康保険(保険証に記載)の窓口を確認し、「限度額適用認定証」の申請方法について問い合わせましょう。
  • 入院する病院に「がん相談支援センター」や医療福祉相談室があるかを確認し、予約を取りましょう。
  • 利用できる制度について、診断書など必要な書類を事前に医師やソーシャルワーカーに確認しておきましょう。

患者と家族のためのサポートリソース

病気の診断は、患者さん本人だけでなく、支えるご家族にとっても大きな衝撃です。治療への不安、将来への心配、そして長期にわたる看病など、心身ともに大きな負担がかかることでしょう。そんな時、孤独を感じてしまうのは自然なことです。しかし、あなた方は決して一人ではありません。科学的な治療ががん細胞と闘うものであるならば、人との繋がりや支え合いは、治療に伴う心の痛みと闘うための「免疫力」のようなものです。同じ病気を経験した仲間や、専門的な知識を持つ相談員と繋がることは、治療という険しい道を歩む上での道しるべとなり、心の負担を和らげる大きな力となります。だからこそ、少し勇気を出して、これらのサポートリソースの扉を叩いてみることをお勧めします。

日本では、リンパ腫患者さんのための全国的な患者会として、一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパンがあります31。専門家による医療情報の提供や、経験者による電話相談、交流会などを通じて多角的な支援を行っており32、同じ悩みを持つ仲間と繋がることができます。また、治療中の副作用や長期入院による精神的な苦痛など、生活の質(QOL)に関わる問題も重要です33。全国の「がん診療連携拠点病院」には「がん相談支援センター」が設置されており34、専門の相談員が病気のこと、医療費、心の悩みまで、様々な相談に無料で応じてくれます35。こうした専門家と早期に繋がることが、治療とその後の人生の両方を支える力となります。

今日から始められること

  • 「グループ・ネクサス・ジャパン」のウェブサイトを訪れ、どのような活動をしているか見てみましょう。電話相談の日程も確認できます。
  • 通院・入院している病院の「がん相談支援センター」の場所と連絡先を確認し、パンフレットをもらっておきましょう。
  • 治療の副作用について、今のうちから信頼できる情報を集め、具体的な対処法を医療チームと一緒に考えておきましょう。

最新の研究動向と将来の展望:臨床試験と新規治療薬

現在の治療法で多くの患者さんが治癒するようになった一方で、残念ながら再発してしまったり、治療が効きにくかったりする方がいるのも事実です。その現実に直面した時の絶望感は、計り知れないものがあるでしょう。しかし、医学は決して歩みを止めていません。科学の最前線では、こうした困難な状況を打ち破るための新しい治療法の開発が、世界中で精力的に進められています。その中心にあるのが、私たち自身の免疫の力を利用してがんと闘うという、新しい発想の治療法です。これは、従来の化学療法が「絨毯爆撃」だとすれば、特殊訓練を受けた兵士が敵だけを狙い撃ちする「精密攻撃」に例えられます。このアプローチが、これまでの治療法では救えなかった患者さんにとって、新たな希望の光となる可能性を秘めているのです。

再発・難治例に対する切り札として最も注目されているのが、CAR-T細胞療法です。これは患者さん自身の免疫細胞(T細胞)を体外で遺伝子改変し、がん細胞を特異的に攻撃する能力を持たせて体内に戻す治療法です。国際共同第Ⅱ相試験であるZUMA-25試験では、再発・難治性の成人バーキットリンパ腫患者を対象に、CAR-T細胞療法薬であるブレクススブタゲン オートルユーセル(製品名:テクナルタス)の有効性と安全性が検証されています36。また、日本では小児やAYA世代を対象とした臨床試験が活発に行われており、副作用の軽減を目指した研究37や、エプコリタマブという新しいタイプの抗体薬の試験などが進められています38。こうした臨床試験は、困難な状況における新たな希望となる可能性があります。

このセクションの要点

  • 初回治療が効かない、または再発した症例に対する新しい治療法の開発が世界中で進んでいます。
  • 患者自身の免疫細胞を利用するCAR-T細胞療法などが、最も期待される新規治療法の一つとして臨床試験段階にあります。

よくある質問

バーキットリンパ腫は治る病気ですか?

はい、治癒が十分に期待できる病気です。その極めて速い増殖スピードという性質が、逆説的に化学療法への高い感受性に繋がっています。短期集中型の強力な免疫化学療法により、全体の治癒率は70%から90%に達すると報告されています5

なぜ治療はこれほど強力で集中的なのですか?

がん細胞の増殖速度が非常に速いため、標準的な強度の治療では病気の勢いを抑えきれません。がん細胞に反撃の隙を与えず、一気に根絶するために、作用の異なる複数の薬剤を組み合わせた短期集中型の強力な治療が必要となります1

治療後、再発の可能性はどのくらいありますか?

バーキットリンパ腫の再発のほとんどは、治療終了後2年以内に起こります。この期間を無事に乗り越えることができれば、その後の再発リスクは劇的に低下し、極めて稀になります。そのため、2年間の寛解維持が治癒に向けた一つの大きなマイルストーンと考えられています1

診断されたら、まず何をすべきですか?

最も重要なことは、ためらわずに、そして迅速に専門医療機関の指示に従い、検査と治療を開始することです。この病気は日単位で進行するため、スピードが予後を左右します3。同時に、高額療養費制度の申請(限度額適用認定証の取得)や、病院のがん相談支援センターへの相談を早期に行い、経済的・社会的なサポート体制を整えることも大切です。

結論

バーキットリンパ腫は、その極めて速い増殖スピードから「最も攻撃的ながんの一つ」とされ、診断は患者さんとご家族に大きな衝撃を与えます。しかし、本記事で解説してきたように、その「攻撃性」こそが最大の弱点でもあります。活発に分裂し続ける細胞は強力な化学療法の格好の標的となり、その結果として70%から90%という非常に高い治癒率を達成することが可能です5。この病気との闘いにおいて最も重要な武器は「時間」です。診断から治療開始までの時間をいかに短縮できるかが、その後の運命を大きく左右します。急速に進行する症状に気づき、迅速に医療に繋がること、そして医療チームを信頼し、短期集中型の強力な治療を乗り越えること。その先には、再び穏やかな日常を取り戻せる可能性が大きく開けているのです。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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