【科学的根拠に基づく血圧対策】GABA・サーデンペプチド・ナットウキナーゼの働きとは?医師が解説するサプリメントの正しい選び方
心血管疾患

【科学的根拠に基づく血圧対策】GABA・サーデンペプチド・ナットウキナーゼの働きとは?医師が解説するサプリメントの正しい選び方

日本の成人約3人に1人が該当するとされる高血圧1。多くの場合、自覚症状がないため「沈黙の殺人者(サイレント・キラー)」とも呼ばれ、放置すれば脳卒中や心臓病といった命に関わる疾患の重大な危険因子となります。この国民的な健康課題に対し、多くの方が「薬に頼る前に、自分でできることはないか」と模索しています。本記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、日本高血圧学会の最新ガイドライン2や国内外の科学的研究34に基づき、血圧対策の基本である生活習慣の改善から、注目される機能性関与成分(GABA、サーデンペプチド、ナットウキナーゼ)の働き、そして後悔しないためのサプリメントの選び方まで、専門家の視点から包括的かつ深く解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、引用された研究報告書に明示された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示します。

  • 日本高血圧学会: 生活習慣の修正や降圧目標に関する指針は、同学会の「高血圧治療ガイドライン2019」に基づいています2
  • 厚生労働省 国民健康・栄養調査: 日本における高血圧の有病者数(約4300万人)に関する統計は、同調査のデータに基づいています1
  • 食品由来ペプチドに関するメタ解析(Prieto I, et al.): サーデンペプチドなどの食品由来ペプチドが血圧に与える影響に関する記述は、複数のランダム化比較試験を統合したこのメタ解析の結果に基づいています3
  • ナットウキナーゼに関するランダム化比較試験(Jensen GS, et al.): ナットウキナーゼの血圧降下作用に関する科学的証拠は、この質の高い臨床試験の結果に基づいています4
  • 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所: 特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品の役割と、専門家への相談の重要性に関する記述は、同研究所の見解を参考にしています5

この記事の要点

  • 日本の高血圧の現状(有病者約4300万人)と、日本高血圧学会の最新ガイドライン(JSH2019)が示す基本方針を解説します12
  • 主要な機能性関与成分であるGABA、サーデンペプチド、ナットウキナーゼの科学的根拠を、国内外のメタ解析や臨床試験に基づき徹底的に分析します34
  • サプリメントはあくまで「補助」であり、減塩などの生活習慣の改善が最も重要であることを、JSH2019に基づき強調します2
  • 医師の視点から、安全で効果的なサプリメントの選び方と、降圧薬を服用中の方が特に注意すべき点を具体的に提案します。

なぜ今、血圧対策が重要なのか?日本の現状と「沈黙の殺人者」のリスク

厚生労働省が実施した「国民健康・栄養調査」によると、日本には約4300万人の高血圧者がいると推定されています1。これは成人人口の約3分の1に相当する驚くべき数字であり、血圧管理がいかに国民的な健康課題であるかを示しています。高血圧の最も恐ろしい点は、自覚症状がほとんどないまま静かに進行し、血管にダメージを与え続けることです。このため「沈黙の殺人者(サイレント・キラー)」と呼ばれ、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞、腎臓病といった深刻な合併症を引き起こす可能性があります。したがって、症状がないからといって安心せず、健康診断などで血圧が高めであると指摘された時点から、真剣に対策を始めることが、健やかな未来を守るために不可欠です。本稿で紹介する情報は、こうした状況にある方々が、ご自身の健康状態を正しく理解し、適切な第一歩を踏み出すための一助となることを目的としています。


治療の第一歩:日本高血圧学会が推奨する「生活習慣の修正」

血圧対策について考えるとき、多くの人が薬やサプリメントを思い浮かべるかもしれません。しかし、日本高血圧学会が発行する「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」では、治療の根幹として何よりもまず「生活習慣の修正」を強く推奨しています2。これは、血圧を上げる直接的な原因の多くが、日々の暮らしの中に潜んでいるためです。専門家である大屋祐輔教授(琉球大学病院長、JSH2019/2025ガイドライン作成委員会委員長)6らがまとめたこの指針は、血圧管理における最も権威ある情報源とされています。

ガイドラインが具体的に掲げる目標は以下の通りです。

  • 減塩:食塩摂取量を1日6g未満に抑えること。味噌汁や漬物、醤油など、塩分を多く含む伝統的な和食に慣れ親しんだ日本人にとって、これは決して容易な目標ではありませんが、血圧降下への効果は絶大です2
  • 適度な運動:心肺機能に過度な負担をかけない、ウォーキングなどの有酸素運動を定期的(できれば毎日30分以上)に行うことが推奨されています。
  • 適正体重の維持:肥満は血圧を上げる大きな要因です。BMI(体格指数)を25未満に保つことが目標とされています2
  • 節酒:アルコールの過剰摂取は血圧を上昇させます。適量を守ることが重要です。
  • 禁煙:喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を促進するため、血圧管理においては禁煙が絶対条件です。

これらの生活習慣の改善は、血圧を下げるだけでなく、総合的な健康増進にも繋がります。サプリメントや薬物療法を検討する前に、まずはご自身の生活を見直し、これらの基本を実践することが、血圧対策の最も確実で安全な第一歩であることを、専門家は一致して強調しています。


血圧サプリメントの科学:主要3成分の作用機序を徹底解剖

生活習慣の改善を基本としながら、さらなるサポートを求める方々のために、科学的根拠に基づき血圧への良い影響が報告されている機能性表示食品が存在します。ここでは、代表的な3つの機能性関与成分「サーデンペプチド」「GABA」「ナットウキナーゼ」について、その働きを科学的証拠と共に深く掘り下げていきます。これらのサプリメントは、あくまで血圧が高めの方を対象とした「補助」であり、治療薬ではないことを理解することが大前提です。

サーデンペプチド:血管を収縮させる酵素(ACE)を阻害

サーデンペプチドは、イワシのタンパク質を分解して得られる特定のペプチド(アミノ酸が複数結合したもの)です。その主な作用機序は、血圧を上昇させる原因となる体内物質「アンジオテンシンⅡ」を生成する酵素「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」の働きを阻害することにあります。これは、一部の降圧薬と同じ作用点であり、その効果は科学的にも検証されています。

この効果は単なる理論ではありません。学術誌『Food & Nutrition Research』に掲載された、15のランダム化比較試験を統合した大規模なメタ解析では、サーデンペプチドのような食品由来のペプチドが、偽薬(プラセボ)と比較して収縮期血圧(上の血圧)を平均5.13 mmHg、拡張期血圧(下の血圧)を平均2.42 mmHg有意に低下させたと結論づけています3。これは、その役割を裏付ける最高レベルの科学的根拠であり、血圧管理をサポートする上での可能性を示しています。

GABA(γ-アミノ酪酸):ストレスによる交感神経の興奮を抑制

GABA(ギャバ)は、化学名をγ-アミノ酪酸といい、私たちの脳内に元々存在する神経伝達物質の一種です。GABAの主な役割は、興奮性の神経伝達を抑制し、心身をリラックスさせることにあります。血圧との関連では、ストレスなどによって活発になる交感神経の働きを穏やかにし、末梢血管の収縮を和らげることで、血圧の上昇を抑える効果が期待されています7

特に、精神的なストレスが血圧上昇の一因となっている現代日本人にとって、このGABAの働きは重要です。過労死(karoshi)という言葉が国際的に知られるほど、日本の労働環境は時に厳しいものとなり、心血管系のイベントと関連付けられています。GABAの有効性については多くの研究が行われており、機能性表示食品の届出資料で引用されたシステマティックレビュー(複数の研究をまとめた質の高いレビュー)では、GABAの摂取が血圧が高めの方や正常高値血圧者において血圧を低下させる助けとなることが示唆されています7。これは、ストレスの多い現代社会において、GABAが血圧の安定に果たす役割を示しています。

ナットウキナーゼ:日本の伝統食が生んだ「血流改善」の力

ナットウキナーゼは、日本の伝統的な発酵食品である納豆のネバネバ部分に含まれる酵素です。その最大の特徴は、血栓(血の塊)の主成分であるフィブリンを直接的および間接的に分解する「線溶作用」を持つことです8。血栓は血管を詰まらせ、心筋梗塞や脳梗塞の引き金となるため、血流をスムーズに保つことは血圧管理においても極めて重要です。ナットウキナーゼは、この血流改善を通じて、間接的に血圧への良い影響をもたらすと考えられています。

この日本の伝統食由来の成分の力は、近代科学によっても裏付けられています。北米で実施され、学術誌『Integrated Blood Pressure Control』に掲載されたランダム化二重盲検プラセボ対照試験(科学的信頼性が最も高い研究手法の一つ)では、1日100mgのナットウキナーゼを8週間摂取した群で、拡張期血圧が偽薬群と比較して有意に低下したことが示されました4。この研究は、納豆の健康効果に関する日本人の伝統的な信頼を、現代の科学的データで補強するものです。日本ナットウキナーゼ協会などの団体も、その機能性に関する情報発信を行っています9


【医師の視点】後悔しないための血圧サプリメントの選び方と5つの注意点

血圧対策サプリメントは数多く市場に出回っていますが、その選択は広告やイメージに惑わされず、科学的根拠と安全性に基づいて慎重に行うべきです。ここでは、医療専門家の視点から、後悔しないための選び方と注意点を5つのポイントにまとめて解説します。自宅での血圧測定の重要性を説く世界的権威である自治医科大学の苅尾七臣教授10のような専門家も、自己判断ではなく、専門家との相談に基づいた管理を推奨しています。

  1. 機能性関与成分と含有量を確認する
    パッケージの裏面を確認し、「機能性関与成分」としてGABAやサーデンペプチドなどが明記されているかを確認しましょう。また、科学的研究で効果が示された量が含まれているかも重要な指標です。例えば、ナットウキナーゼの研究では1日100mg(約2000FU)が用いられました4
  2. 「機能性表示食品」または「特定保健用食品(トクホ)」を選ぶ
    これらの表示がある製品は、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性が届け出られているか、あるいは国の審査を経て消費者庁の許可を得たものです5。品質と安全性の観点から、一つの目安となります。
  3. 誇大広告に注意する
    「飲むだけで血圧が正常に」「薬はもう不要」といった表現は、医薬品医療機器等法(旧薬事法)に抵触する可能性のある誇大広告です。サプリメントはあくまで「血圧が高めの方に適した」補助的な食品であり、病気を治療するものではありません。
  4. 薬を服用中の方は必ず専門家に相談する
    最も重要な注意点です。特に、すでに降圧薬を服用している方が自己判断でサプリメントを併用すると、血圧が下がりすぎるなどの予期せぬ影響が出る可能性があります。例えば、ナットウキナーゼには血液をサラサラにする作用があるため、抗血小板薬や抗凝固薬(ワーファリンなど)との相互作用に注意が必要です。国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所も、トクホなどの健康食品を利用する前には、医師や薬剤師といった専門家への相談が重要であると強調しています5
  5. 生活習慣の改善を継続する
    サプリメントを飲み始めたからといって、減塩や運動といった基本的な生活習慣の改善を疎かにしてはいけません。サプリメントは、健康的な生活習慣という土台の上に乗って初めて、そのサポート効果を発揮するものです。

よくある質問

サプリメントを飲めば、病院で処方された血圧の薬をやめてもいいですか?

絶対に自己判断でやめないでください。サプリメントはあくまで「食品」であり、高血圧を「治療」する医薬品ではありません。処方された薬を中断することは、血圧の急激な上昇を招き、脳卒中や心筋梗塞のリスクを著しく高めるため非常に危険です。サプリメントの利用を検討している場合は、必ずかかりつけの医師や薬剤師に相談し、その指示に従ってください。

サプリメントに副作用はありますか?

一般的に、適切に摂取すれば安全とされていますが、体質や健康状態によっては合わない場合もあります。例えば、ナットウキナーゼは血液をサラサラにする作用があるため、血液を固まりにくくする薬を服用中の方や、手術を控えている方は摂取を避けるべき場合があります。また、食物アレルギーのある方は、原材料を必ず確認してください。どのようなサプリメントであっても、利用を開始する前には専門家への相談が推奨されます。

どのくらいの期間続ければ、効果が期待できますか?

サプリメントの効果の現れ方には個人差があり、即効性を期待するものではありません。科学的研究では、数週間から数ヶ月単位での摂取で血圧への影響を評価しているものがほとんどです。例えば、ナットウキナーゼに関する研究では8週間の摂取期間が設けられていました4。大切なのは、生活習慣の改善と並行して、適切な量を継続的に摂取することです。


結論

高血圧は、日本人にとって避けては通れない健康課題ですが、正しい知識を持つことで、その危険性を管理し、健やかな生活を維持することは十分に可能です。本記事で解説したように、血圧対策の基盤は、日本高血圧学会が示す「生活習慣の修正」にあります2。その上で、GABA、サーデンペプチド、ナットウキナーゼといった科学的根拠に裏打ちされた成分を含むサプリメントは、血圧が高めの方にとって心強い「補助」となり得ます。しかし、その選択と利用は、広告に惑わされることなく、成分や安全性の表示を吟味し、そして何よりもかかりつけの医師や薬剤師といった専門家と相談しながら進めることが絶対条件です。この記事が、皆様一人ひとりの賢明な血圧管理、そして健康な未来への一助となることを心より願っています。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 厚生労働省. 令和元年国民健康・栄養調査報告. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/disease/hypertension/
  2. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版; 2019. 一般向け解説冊子. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf
  3. Prieto I, Fita E, Sentandreu MA. Effect of peptides derived from food proteins on blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials. Food Nutr Res. 2008;52. doi: 10.3402/fnr.v52i0.1641. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19109662/
  4. Jensen GS, Lenninger M, Ero MP, Benson KF. Consumption of nattokinase is associated with reduced blood pressure and von Willebrand factor, a cardiovascular risk marker. Integr Blood Press Control. 2016;9:95-104. doi: 10.2147/IBPC.S99553. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27785095/
  5. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所. 「健康食品」の安全性・有効性情報. 「血圧が高めの方に適する」表示をした食品. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://hfnet.nibn.go.jp/specific-health-food/good-use5/
  6. Mindsガイドラインライブラリ. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://minds.jcqhc.or.jp/registrys/r3725/
  7. 株式会社増田採種場. GABAケール|血圧が気になる方へ。. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://gaba.masudakale.com/whatisgaba.html
  8. Chen H, McGowan EM, Ren N, Lal S, Nassif N, Shad-Kaneez F, et al. Nattokinase: A Promising Alternative in Prevention and Treatment of Cardiovascular Diseases. Biomark Insights. 2018;13:1177271918785130. doi: 10.1177/1177271918785130. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6043915/
  9. 小林製薬株式会社. 血圧が高めの方に|ナットウキナーゼさらさら粒. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://www.kobayashi.co.jp/brand/natt/sarasaratsubu/
  10. 時事メディカル. 高血圧を専門とする医師|ドクターズガイド. [インターネット]. [引用日: 2025年7月26日]. Available from: https://medical.jiji.com/doctor/disease/hea0004
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ