はじめに
貧血の原因としては、葉酸やビタミンB12など特定の栄養素の不足によって起こる場合もありますが、最も多い要因の一つは鉄分の不足です。日常生活の中で鉄分を十分に摂らずにいると、体内で鉄の貯蔵が枯渇し、やがて貧血の症状が現れます。とくに育ち盛りの子どもや妊娠中・授乳中の方、あるいは菜食中心の食生活を長期間続けている方などは、鉄不足による貧血を起こすリスクが高くなる傾向にあります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、鉄分が体内でどのような役割を果たしているのか、そして鉄不足による貧血を改善または予防するためにはどのような食品を積極的に摂取すればよいのかを、詳しく解説していきます。また、食事からの鉄分吸収率を高める工夫や、注意すべきポイントなども含めて総合的にまとめています。なお、文中では主に日常生活に溶け込みやすい実践的なヒントを示しながら、信頼性の高い研究を元にした情報を盛り込みました。
専門家への相談
本記事の内容に関連し、医学的に見た重要性や栄養学的な知見を深めるため、Tham vấn y khoa: TS. Dược khoa Trương Anh Thư(Bệnh viện Đại học Y Dược TP. HCM)の見解が参考として言及されています。鉄不足による貧血は日本国内でも多くの方が悩む健康問題であり、専門家による診断や指導を受けることで、より安全かつ適切な治療や食事療法を行うことが可能となります。
ただし、本記事はあくまでも一般的な情報提供を目的としています。貧血の症状が疑われる方や、検査で実際に貧血と診断された方は、必ず医療機関で専門家(医師、管理栄養士など)に相談し、個々の身体状況や基礎疾患を踏まえた具体的なアドバイスを受けるようにしてください。
鉄不足による貧血とは
主な原因:鉄分の摂取不足
鉄分が不足してしまう理由としては、食事バランスが乱れている、あるいは食物からの鉄の吸収量が低いなど、いくつか考えられます。とくに成長期や妊娠期といった、通常よりも多くの鉄を必要とする段階にある人は、摂取と消費(または喪失)のバランスが崩れやすいとされています。
-
成長期の子どもや思春期の若者
急激に身体が成長するため、体内で必要とされる鉄分の量が増加します。この時期に偏った食生活や過度なダイエットが重なると、鉄不足に陥りやすくなります。 -
妊娠・授乳期の女性
胎児や乳児の成長・発育のために多くの栄養が必要です。母体は酸素を運ぶ赤血球を十分に維持する必要があり、通常以上に鉄分を確保しなければなりません。妊娠期に鉄不足が進行すると、鉄欠乏性貧血になりやすく、さらに出産時の出血なども伴って、貧血リスクが高まることが報告されています。- 2022年にSemin Hematol誌に掲載された研究(Breymann C. Iron Deficiency Anemia in Pregnancy. Semin Hematol. 2022;59(4):208-215. doi:10.1053/j.seminhematol.2022.05.007)によると、妊娠中の鉄欠乏性貧血は母体と胎児双方に好ましくない影響を及ぼすことが示唆され、注意喚起がなされています。
-
月経がある女性
月経時に血液とともに一定量の鉄分が失われるため、より多くの鉄を食事から摂取する必要があります。月経過多などがある方は、鉄分の不足リスクがさらに上がります。 -
菜食主義(ヴィーガンやベジタリアン)
肉類や魚介類といったヘム鉄の豊富な食材を摂らない場合、植物性食品に含まれる非ヘム鉄のみが中心となるため、吸収効率が比較的低くなります。ビタミンCや他の栄養素との組み合わせで補う必要があります。
鉄が体内で果たす役割
鉄は、ヘモグロビン(赤血球中のタンパク質)の成分として欠かせません。ヘモグロビンは、肺で取り込んだ酸素を全身に運ぶ働きを担っています。また、鉄は肝臓や骨格筋にも貯蔵され、必要に応じて使われます。
体内での鉄は、
- ヘム鉄(heme iron)
肉や魚など動物性食品に含まれ、吸収率が高いのが特徴です。 - 非ヘム鉄(non-heme iron)
主に野菜・豆類・穀類などに含まれ、吸収率はヘム鉄よりやや低めです。
ヘム鉄と非ヘム鉄の両方をバランスよく摂取することが貧血予防・改善には重要です。
鉄不足による症状
鉄不足で貧血が進行すると、以下のような症状が出現しやすくなります。
- 疲れやすい、倦怠感
- 顔色が悪い、皮膚や粘膜が蒼白になる
- 動悸や息切れが起こりやすい
- 集中力の低下
- 頭痛やめまい
- 爪が割れやすくなる、脱毛が増える
貧血の原因が単純な鉄不足である場合は、鉄分の摂取を増やすことで多くの場合改善が期待できます。ただし、他の栄養素の欠乏や消化器系疾患などが関与している場合もあるため、症状が続くようなら医療機関で相談することが望ましいです。
鉄不足を防ぐためのポイント
鉄のバランスを保つ
私たちの体では、排泄物(便・尿)、汗、皮膚や髪の新陳代謝などを通じて常に少量の鉄が失われています。女性の場合は月経もあり、男性に比べて鉄をより多く摂る必要があります。
体内で使われる鉄の量に見合っただけの摂取がなければ、やがて肝臓や筋肉などに蓄えられた鉄分が尽き、鉄欠乏性貧血が顕在化します。特に、食生活が偏りがちな方や、多忙で食事時間を十分に取れない方などは要注意です。
ヘム鉄と非ヘム鉄を意識する
前述のとおり、鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があります。肉や魚介から得られるヘム鉄は吸収率が高いので、日常の食卓で動物性タンパク質を適度に取り入れることは、貧血の予防と改善に有効です。
一方、非ヘム鉄しか摂らない場合でも、ビタミンCやタンパク質と組み合わせることで吸収率を上げられます。大豆製品(豆腐・納豆など)や緑黄色野菜、海藻類などをビタミンC豊富な果物や野菜と一緒に食べると、相乗効果が得られます。
鉄不足のときにおすすめの食品
動物性食品
- 赤身の肉(牛肉・羊肉・豚肉)やレバー、腎臓、ハツなどの内臓類
これらはヘム鉄の供給源として代表的です。ただし、妊娠中の方はレバーを過剰摂取しないよう注意が必要とされています。 - 魚介類(イワシ、カツオ、マグロ、貝類、エビ)
魚や貝類にもヘム鉄が含まれています。肉よりも脂肪分が気になる方にとっては、魚介でヘム鉄を補給する方法も良いでしょう。 - 卵
卵黄にも比較的豊富な鉄が含まれています。
植物性食品
- 緑の葉物野菜(ホウレンソウ、ケール、ブロッコリー、クレソン、チンゲンサイなど)
色の濃い葉物には非ヘム鉄が多めです。ビタミンCも合わせて摂ると吸収が促進されます。 - 豆類(レンズ豆、インゲン豆、ヒヨコ豆、大豆)
たんぱく質源としても優秀で、非ヘム鉄を補給するうえで欠かせない食材です。煮豆やスープなど、日々のメニューに取り入れやすいのも利点です。 - ナッツ・種子類(クルミ、アーモンド、カボチャの種、ゴマ)
小腹がすいたときのスナックとしてだけでなく、サラダや和え物にトッピングしても鉄補給に役立ちます。 - 全粒穀物(全粒粉パン、オートミール、ふすまパン)
食物繊維やビタミン・ミネラルを一度に摂れるため、バランスを整える上でも有用です。
トッピングや嗜好品
- 乾燥フルーツ(レーズン、プルーン、アプリコットなど)
手軽に糖分と鉄分を補給できます。ヨーグルトやシリアルに混ぜると朝食にぴったりです。 - ココアパウダー、チョコレート
適量であれば、甘いものを楽しみながら鉄分も摂ることができます。砂糖や脂質が多い製品には注意が必要です。
鉄の吸収率を高めるコツ
- ビタミンCの同時摂取
野菜や果物(柑橘類、キウイ、イチゴなど)に多く含まれるビタミンCは、非ヘム鉄の吸収を高める重要な栄養素です。たとえば、ホウレンソウのおひたしにレモンをかける、豆のサラダと一緒にトマトを食べるなど、ちょっとした工夫で吸収効率を上げられます。 - タンパク質の組み合わせ
肉や魚などの動物性タンパク質を一緒に食べると、非ヘム鉄の吸収率を助けるとされています。 - お茶・コーヒーの飲み方に注意
食事中や直後に緑茶やコーヒーなどを大量に飲むと、タンニンが鉄分吸収を阻害する可能性があります。食事の30分~1時間後を目安に飲むことを検討してみましょう。 - 小麦ふすま等に含まれるフィチン酸にも注意
全粒穀物は栄養価が高い一方、フィチン酸が多い場合は鉄の吸収を妨げると言われています。緑黄色野菜や動物性たんぱく質、ビタミンCなどと組み合わせて食べる工夫も大切です。
実践的な食事例
例えば、朝食には全粒粉パンと卵、サラダにはブロッコリーやカボチャの種を加え、ドレッシングにレモン汁を使うとビタミンCを確保できます。昼食・夕食では赤身の肉や魚介類をメインに選び、付け合わせにホウレンソウや大豆製品を取り入れることで非ヘム鉄もしっかり補給。間食にナッツやドライフルーツを少量つまむのもおすすめです。
こうした食品の組み合わせを習慣にしていくことで、日常的に鉄を摂りやすい食生活が構築できます。ただし、個人の健康状態や好みによって最適なメニューは変わるため、症状が重い方や他の病気がある方は、専門家に相談するとより安心です。
よくある疑問:鉄サプリは必要?
貧血気味の方や鉄不足が疑われる方の場合、サプリメントによる補給も選択肢の一つです。ただし、サプリメントは栄養補助的な役割であり、過剰摂取によって胃腸障害や便秘などが起こる場合もあります。血液検査で重度の鉄欠乏が確認された場合は、医師の管理のもとで適切な鉄剤を処方してもらうことが望ましいでしょう。
2023年にBlood誌に掲載された研究(Camaschella C. Iron deficiency. Blood. 2023;141(15):1627-1638. doi:10.1182/blood.2022018734)によれば、臨床現場においてはサプリメントの有効性が示されている一方で、過剰な服用は酸化ストレスや肝機能への負荷を高めるリスクも考慮する必要があると指摘されています。
また、ビタミンやミネラルなど他の栄養素とのバランスが崩れることで、かえって体調を崩すケースも否定できません。自己判断だけで多量にサプリメントを摂るのは控え、医師や管理栄養士の指導を受けたうえで適切に利用しましょう。
高齢者や慢性疾患を持つ方への配慮
高齢者や慢性疾患を持つ方は、食欲や咀嚼力の低下、薬の影響などで栄養摂取が偏りやすく、貧血が見過ごされることもあります。特に腎疾患や消化管のトラブルがある方などは吸収障害が起こりやすいので注意が必要です。
- 高齢者の場合
口腔機能の低下により、噛みごたえのある肉類を避ける傾向が出てきます。そのため、柔らかく調理した牛肉や煮魚、豆腐など噛みやすく加工したメニューを取り入れるとよいでしょう。 - 持病がある方
透析を受けている場合や胃腸の手術歴がある場合は、吸収率そのものに問題が生じることがあります。薬の飲み合わせやサプリの使い方を含めて、担当の医師・管理栄養士に相談するのが無難です。
生活習慣の工夫
鉄不足の予防・改善のためには、食事だけでなく生活習慣全般も見直す必要があります。
- 規則正しい食事
過度なダイエットや食事抜きは、必要な栄養素を取り損ねるだけでなく、代謝を乱す要因にもなります。 - 適度な運動
ウォーキングや軽い筋トレなど、負荷が大きすぎない範囲で体を動かすと、血行が促進され、栄養素の運搬効率が向上すると考えられます。 - ストレス管理
慢性的なストレスは自律神経を乱し、消化吸収能力を低下させる可能性があります。ストレスを上手に緩和することも、栄養バランスを保つ鍵です。 - 定期的な健康診断
特に女性は月経や妊娠・出産の影響もあり、貧血になりやすい傾向があります。年齢や体調を踏まえ、定期的に血液検査を受けることで早期発見・早期対策が可能になります。
参考文献
-
Foods high in iron
- https://www.healthdirect.gov.au/foods-high-in-iron (アクセス日: 2023年12月25日)
-
Iron – Vitamins and minerals Contents
- https://www.nhs.uk/conditions/vitamins-and-minerals/iron/ (アクセス日: 2023年12月25日)
-
52 Foods High In Iron
- https://health.clevelandclinic.org/how-to-add-more-iron-to-your-diet (アクセス日: 2023年12月25日)
-
Foods to Fight Iron Deficiency
- https://www.eatright.org/health/wellness/preventing-illness/iron-deficiency (アクセス日: 2021年5月6日)
-
Anaemia Nutrition
- https://www.nutritionist-resource.org.uk/articles/anaemia.html (アクセス日: 2021年5月6日)
-
Nutrition‐specific interventions for preventing and controlling anaemia throughout the life cycle: an overview of systematic reviews
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6513621/ (アクセス日: 2021年5月6日)
- Iron Deficiency Anemia
-
Role of nutrition on anemia in elderly
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28531420/ (アクセス日: 2021年5月6日)
- Camaschella C. Iron deficiency. Blood. 2023;141(15):1627–1638. doi:10.1182/blood.2022018734
- Breymann C. Iron Deficiency Anemia in Pregnancy. Semin Hematol. 2022;59(4):208–215. doi:10.1053/j.seminhematol.2022.05.007
結論と提言
鉄不足による貧血は、日常の食事で十分な鉄分を補給しにくい方々に特に起こりやすい問題です。肉や魚介類などのヘム鉄源と、豆類や葉物野菜などの非ヘム鉄源をバランスよく組み合わせ、ビタミンCの多い食品を取り入れることで、効率的な吸収を期待できます。また、月経や妊娠・授乳などで鉄需要が増える女性、高齢者、慢性疾患を抱える方は、とくに注意が必要です。
一方、サプリメントの利用にはメリットもありますが、過剰摂取や他の栄養素とのバランス不良による健康リスクが伴う可能性があるため、医療従事者の指導のもとでの使用を推奨します。特に症状が長引いたり、重症化している場合は、放置せず早めに医療機関を受診して原因を特定することが大切です。
本記事で紹介した情報はあくまでも一般的な知識の提供を目的としており、個々の体質や病状を踏まえた適切な診断・指導を行うものではありません。自己判断で治療を進めるのではなく、専門家のアドバイスを参考にしながら健康管理に取り組んでください。
最後にもう一度強調しますが、貧血や鉄不足が気になる場合は医療機関の受診をおすすめします。本記事の内容は参考情報として活用しつつ、必要に応じて医師や管理栄養士などの専門家へ相談することで、より安心かつ適切なケアができるでしょう。
【重要な注意】
本記事は医療の専門家による診断・治療の代替となるものではありません。ご自身の健康状態に不安や疑問を感じた場合は、必ず医師や管理栄養士などの専門家へご相談ください。