βサラセミア完全ガイド:症状・遺伝から最新遺伝子治療まで
血液疾患

βサラセミア完全ガイド:症状・遺伝から最新遺伝子治療まで

βサラセミアは、遺伝性の貧血症であり、生涯にわたる治療を必要とすることがあります。この疾患についての正確な情報を得ることは、患者様とそのご家族にとって、不安を和らげ、未来への希望を見出すための第一歩です。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、最新の科学的根拠と国際的な診療指針に基づき、βサラセミアの原因、症状、診断、そして標準治療から、希望の光である遺伝子治療のような最先端の選択肢まで、包括的かつ詳細に解説します。特に、日本の医療制度における現状や、患者様が直面する現実的な課題にも焦点を当て、皆様の「知りたい」に真摯にお答えします。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用された、最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。

  • サラセミア国際連盟(TIF): この記事における「輸血依存性βサラセミア患者の管理に関する包括的な推奨事項」に関する指導は、TIFが発行した2025年版のガイドラインに基づいています13
  • The New England Journal of Medicine掲載の研究(Frangoul H, et al.): 「CRISPR-Cas9遺伝子編集治療(exa-cel)による輸血からの離脱の可能性」に関する記述は、Frangoul博士らによる画期的な研究に基づいています11
  • 小児慢性特定疾病情報センター: 日本における「βサラセミアの診断基準と重症度分類」に関する情報は、同センターが提供する診断の手引きに基づいています18
  • 難病情報センター: 日本の医療制度における「指定難病としての位置づけ」に関する重要な情報は、同センターの公開情報に基づいています9

要点まとめ

  • βサラセミアは、ヘモグロビン(酸素を運ぶタンパク質)のβグロビン鎖の産生が低下または欠如する遺伝性貧血です。
  • 重症型(大サラセミア)では、重度の貧血を管理するために生涯にわたる定期的な輸血と、それに伴う鉄過剰症を防ぐための鉄キレート療法が不可欠です。
  • 診断は血液検査(特にヘモグロビン電気泳動)と遺伝子検査によって確定されます。鉄欠乏性貧血との鑑別が重要です。
  • 常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとり、両親が共に保因者(キャリア)の場合、子供が発症する確率は25%です。遺伝カウンセリングが重要な役割を果たします。
  • 近年、ルスパテルセプト(レブロジル®)などの新薬や、CRISPR-Cas9を用いた遺伝子治療(exa-cel)といった画期的な治療法が登場し、輸血依存からの解放が現実的な希望となりつつあります。
  • 日本では現在、βサラセミアは厚生労働省の「指定難病」には含まれておらず、これが公的医療費助成を受ける上での課題となっています。

βサラセミアとは何か?:遺伝性貧血の基本を理解する

βサラセミアは、血液中の赤血球に含まれ、全身に酸素を運ぶ重要なタンパク質である「ヘモグロビン」を構成する遺伝子に異常があるために引き起こされる遺伝性の血液疾患です。具体的には、ヘモグロビンを構成する4つのグロビン鎖のうち、「βグロビン鎖」の産生が遺伝子の変異によって減少するか、全く作られなくなることで発症します319。その結果、正常なヘモグロビンが不足し、赤血球が小さく(小球性)、壊れやすくなり、慢性的な貧血状態となります。この疾患はかつて地中海沿岸の地域に多く見られたことから「地中海貧血」とも呼ばれていましたが、現在では人の国際的な移動に伴い、世界中で見られます1

βサラセミアの種類と症状の多様性

βサラセミアは、遺伝子変異の重症度と、受け継いだ異常遺伝子の数によって、主に3つのタイプに分類されます。それぞれのタイプで症状の重さや治療法が大きく異なります。

1. βサラセミア・メジャー(大サラセミア、重症型)

最も重症なタイプで、両親から重度のβグロビン遺伝子変異を一つずつ受け継いだ場合に発症します。乳児期早期(生後6ヶ月から2歳頃)から重度の貧血症状が現れ、治療を受けないと生命に関わります7。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 重度の貧血: 顔色不良、易疲労感、息切れ、哺乳力の低下など。
  • 成長・発達の遅れ: 貧血による酸素不足が、身体的な成長を妨げます。
  • 骨の変化: 身体が貧血を補おうとして、骨髄での造血が過剰になります(髄外造血)。これにより、頭蓋骨や顔面の骨が変形したり、骨がもろくなったりすることがあります。
  • 脾臓の腫大(脾腫): 異常な赤血球が脾臓で破壊されるため、脾臓が腫れ上がり、腹部膨満感や他の臓器への圧迫を引き起こします。

このタイプの患者様は、生命を維持するために生涯にわたる定期的な輸血が不可欠です。

2. βサラセミア・インターメディア(中間型)

重症型と軽症型の中間に位置するタイプです。症状の重さには個人差が大きく、軽度の貧血で経過する方もいれば、特定の状況下(感染症、妊娠など)で輸血が必要となる方もいます18。定期的な輸血は必ずしも必要ではありませんが、貧血の進行や脾腫、骨の問題など、様々な合併症を管理するための継続的な医学的フォローアップが重要です。

3. βサラセミア・マイナー(小サラセミア、形質、キャリア)

片方の親からβグロビン遺伝子の変異を一つだけ受け継いだ場合で、「βサラセミア形質」とも呼ばれます。これは疾患ではなく、保因者(キャリア)であることを意味します19。通常、症状は全くないか、非常に軽い貧血のみで、治療の必要はありません。しかし、健康診断などの血液検査で赤血球が小さいこと(小球性貧血)を指摘されることがあります。この際、最も一般的な貧血である「鉄欠乏性貧血」と誤診されやすいことが重要な注意点です5。ご自身が保因者であることを知っておくことは、将来の家族計画において極めて重要です。


日本における診断プロセス:いかにして正確な診断に至るか

βサラセミアの正確な診断は、適切な治療と管理の第一歩です。特に日本では比較的稀な疾患であるため、他の一般的な貧血との鑑別が重要となります。

診断に用いられる主要な検査

診断は通常、以下の段階的な検査を組み合わせて行われます18

  1. 血液算定検査(CBC): 最も基本的な血液検査で、赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)などを測定します。βサラセミアでは、MCVとMCHが顕著に低い「小球性低色素性貧血」の所見が見られます。
  2. ヘモグロビン分析(ヘモグロビン電気泳動): 診断を確定するために非常に重要な検査です。血液中の様々な種類のヘモグロビンの割合を分析します。βサラセミアでは、正常な成人ヘモグロビン(HbA)が減少し、胎児性ヘモグロビン(HbF)やHbA2の割合が相対的に増加するという特徴的なパターンが見られます3
  3. 遺伝子検査: βグロビン遺伝子(HBB遺伝子)を直接解析し、病気の原因となっている変異を特定します。これにより診断が確定し、疾患の正確なタイプ(メジャー、インターメディア、マイナー)を判断するのに役立ちます。また、家族計画のための遺伝カウンセリングにおいても不可欠な情報となります19

鉄欠乏性貧血との誤診を防ぐ重要性

βサラセミア・マイナー(保因者)は、症状が軽い一方で血液検査では小球性貧血を示すため、日本で最も多い鉄欠乏性貧血と誤診される危険性があります5。鉄欠乏性貧血と誤って鉄剤を投与されても効果がないばかりか、長期的には鉄過剰症の原因となり得ます。血液検査で小球性貧血を指摘され、鉄剤治療に反応しない場合は、サラセミアの可能性を考慮し、ヘモグロビン分析などの専門的な検査に進むことが極めて重要です。


遺伝の仕組みと家族への影響:親から子へ、そして未来へ

βサラセミアは遺伝性疾患であるため、その遺伝形式を理解することは、患者様やご家族、特にこれから子供を持つことを考えている方々にとって非常に重要です。

常染色体潜性(劣性)遺伝とは

βサラセミアは、「常染色体潜性(劣性)遺伝」という形式をとります2。これは以下のことを意味します。

  • 私たちは全ての常染色体遺伝子を両親から1つずつ、合計2つ受け継ぎます。
  • βサラセミアを発症するためには、βグロビン遺伝子の変異を両親から1つずつ、合計2つ受け継ぐ必要があります(重症型)。
  • 変異遺伝子を1つだけ持つ人は「保因者(キャリア)」またはβサラセミア・マイナーとなり、通常は健康ですが、その遺伝子を子供に伝える可能性があります。

両親がともに保因者である場合、生まれてくる子供の遺伝的確率は以下のようになります。

  • 25%の確率で、変異遺伝子を2つ受け継ぎ、βサラセミア(重症型または中間型)を発症します。
  • 50%の確率で、変異遺伝子を1つだけ受け継ぎ、親と同じく健康な保因者となります。
  • 25%の確率で、変異遺伝子を全く受け継がず、発症もせず保因者でもありません。

遺伝カウンセリングの役割

ご自身やパートナーがβサラセミアの保因者である、あるいは血縁者に患者様がいる場合、遺伝カウンセリングを受けることが強く推奨されます2。遺伝カウンセリングでは、専門家が以下の点について詳しく説明し、心理的なサポートを提供します。

  • 疾患の遺伝形式と家族内での再発リスクの正確な評価。
  • 出生前診断や着床前遺伝学的検査(PGT)などの選択肢に関する情報提供。
  • 遺伝に関する不安や懸念についての相談。

遺伝カウンセリングは、カップルが十分な情報に基づいて、自分たちの価値観に合った意思決定を下すための重要なプロセスです。


βサラセミアの標準治療:生命をつなぐ輸血と鉄過剰症との闘い

βサラセミア・メジャー(重症型)の患者様にとって、治療の主軸は「定期的な輸血」と、その必然的な副作用である「鉄過剰症」の管理です。この二つは、車の両輪のように連携して行われる必要があります。

定期輸血:なぜ、いつ、どのくらい必要か?

重度の貧血は、心不全、発育不全、骨の変形など、様々な深刻な合併症を引き起こします。定期的な輸血は、これらの合併症を防ぎ、患者様が健常な生活を送るために不可欠です6。サラセミア国際連盟(TIF)が発行した最新の2025年版診療ガイドラインによると、輸血の目標は、輸血前のヘモグロビン値を9.5~10.5 g/dLに維持することです1316。このレベルを保つことで、貧血症状を軽減し、骨髄の過剰な働きを抑制し、正常な成長と生活の質の向上を促します。輸血の頻度は通常、2~5週間ごとです15

鉄過剰症:輸血の避けられない影

輸血は生命を維持するために不可欠ですが、重大な副作用をもたらします。赤血球には多くの鉄が含まれており、人の体には過剰な鉄を体外に排出する有効な仕組みがありません。そのため、輸血を繰り返すと、鉄が心臓、肝臓、内分泌器官(膵臓、下垂体など)に蓄積し、臓器障害を引き起こします。これが「二次性鉄過剰症」です7。治療せずに放置すると、心不全、肝硬変、糖尿病、成長障害などを引き起こし、生命を脅かします。

鉄キレート療法:体内の余分な鉄を取り除く

鉄過剰症を管理するために、「鉄キレート療法」が行われます。鉄キレート剤は、体内に蓄積した鉄と結合し、尿や便と一緒に体外へ排出させる薬剤です。この治療は、生涯にわたって継続する必要があります。現在、主に以下の薬剤が使用されています。

  • デフェラシロクス(商品名:ジャドニュ、エクジェイド): 1日1回経口投与の薬剤で、利便性が高いです。
  • デフェリプロン(日本未承認): 経口薬で、特に心臓に蓄積した鉄の除去に効果的とされることがあります。
  • デフェロキサミン: 長時間にわたる皮下注射または静脈内注射で投与する必要があり、患者様の負担が大きいですが、長年の使用実績があります。

治療の成功は、患者様が毎日欠かさず薬剤を服用・注射できるかにかかっています。治療の遵守(アドヒアランス)を維持することが、長期的な予後を改善する鍵となります。


治療の最前線と未来への希望:新薬と遺伝子治療の登場

長年、輸血と鉄キレート療法が治療の主体でしたが、近年、βサラセミアの治療は大きな変革期を迎えています。新しい作用機序を持つ薬剤や、根本的な治癒を目指す遺伝子治療が現実のものとなりつつあります。

赤血球成熟促進薬:ルスパテルセプト(レブロジル®)

ルスパテルセプト(商品名:レブロジル®)は、骨髄での赤血球産生の最終段階(赤血球成熟)を促進することで、無効造血を改善し、貧血を軽減する新しい作用機序の薬剤です。海外ではすでにβサラセミアの治療薬として承認されており、輸血量を減少させる効果が示されています。
日本では、2024年1月に骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血に対して承認されました21。βサラセミアに対する適応はまだですが、この承認は、新しい治療法が日本の患者様にも近づいていることを示す重要な一歩です。

造血幹細胞移植(骨髄移植)

造血幹細胞移植は、βサラセミアを根治しうる唯一の確立された治療法です。HLA(ヒト白血球抗原)が完全に一致する健常な提供者(ドナー)、主に兄弟姉妹から提供された造血幹細胞を移植します。成功すれば、患者様は輸血から完全に解放されます。しかし、移植に伴う拒絶反応や感染症などの重篤な合併症の危険性があり、適切なドナーを見つけることが困難な場合も多いです6

遺伝子治療:病気の根本原因にアプローチする

遺伝子治療は、βサラセミア治療における最大の希望とされています。患者様自身の造血幹細胞を取り出し、体外で正常なβグロビン遺伝子を導入(または欠陥遺伝子を修復)した後、再び体内に戻すという画期的な治療法です14。これにより、患者様自身の体で正常なヘモグロビンが作られるようになり、輸血依存からの解放が期待されます。現在、複数のアプローチが臨床開発の最終段階にあります。

レンチウイルスベクターを用いた遺伝子導入(例:beti-cel)

このアプローチでは、レンチウイルスを「運び屋(ベクター)」として利用し、正常なβグロビン遺伝子を患者様の造血幹細胞に導入します。The New England Journal of Medicineに掲載されたThompson博士らの研究では、この治療(beti-cel)を受けた多くの患者様で輸血が不要または大幅に減少したことが報告されています20

CRISPR-Cas9(ゲノム編集)を用いた治療(例:exa-cel)

ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9を用いて、胎児期に働くγグロビン(胎児ヘモグロビンの構成要素)の発現を抑制している遺伝子(BCL11A)の働きを止めるアプローチです。これにより、胎児ヘモグロビンの産生が再開され、βグロビンの不足を補います。
2021年にThe New England Journal of Medicineで発表されたFrangoul博士らによる画期的な研究では、この治療(exa-cel)を受けた輸血依存性βサラセミアの患者様が、1年以上の追跡期間中、完全に輸血から離脱できたことが示されました11。この成果は、一度の治療で病気が治癒する時代の到来を予感させるものです。日本の専門家、例えば自治医科大学の村松一洋教授なども、難病に対する遺伝子治療法の開発に尽力しており、国内での展開が期待されています12


日本におけるβサラセミアとの向き合い方:医療制度と日常生活

疾患そのものの管理に加え、日本の医療制度や社会の中でどのように生活していくかを理解することも重要です。

日本の医療制度における位置づけ:「指定難病」ではない現実

患者様やご家族にとって最も重要な情報の一つは、公的な支援制度についてです。2024年現在、βサラセミアは、厚生労働省が定める「指定難病」には含まれていません910。指定難病に認定されると、医療費の自己負担額に上限が設けられるなどの助成が受けられますが、βサラセミアは現時点ではその対象外です。
ただし、「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の対象ではあり、18歳未満(条件によっては20歳未満)の患者様は医療費の助成を受けることができます18。成人後の医療費については、高額療養費制度などを活用することになりますが、生涯にわたる治療費の負担は大きな課題です。病院のソーシャルワーカーなどと相談し、利用可能な制度について情報を得ることが重要です。

日常生活とセルフケア:子供の成長と社会生活

治療を受けながら、質の高い日常生活を送ることも大切な目標です。特に子供の場合、学校生活との両立が課題となります。

  • 学校との連携: 多くの親御さんは、βサラセミアと診断されたお子さんが学校での体育活動や行事についていけるか心配されます8。病状について学校の先生と情報を共有し、無理のない範囲で活動に参加できるよう配慮を求めることが大切です。
  • 心理的サポート: 遺伝性疾患であることや、生涯にわたる治療の必要性は、患者様やご家族に大きな心理的負担を与えることがあります2。同じ病気を持つ患者会に参加したり、必要に応じてカウンセリングを受けたりすることも、孤立感を和らげる助けになります。
  • 健康管理: 感染症は貧血を悪化させる可能性があるため、予防接種や日々の健康管理が重要です。また、バランスの取れた食事も大切ですが、鉄分を多く含む食品の過剰摂取は避けるべきです。

よくある質問

βサラセミアは遺伝しますか?防ぐことはできますか?

はい、遺伝します。常染色体潜性(劣性)遺伝という形式をとるため、両親がともに保因者(キャリア)の場合、子供は25%の確率で発症します。ご自身やパートナーが保因者であるかを知るためには遺伝子検査が有効です。遺伝カウンセリングを通じて、着床前遺伝学的検査(PGT)や出生前診断などの選択肢について相談することができます24

保因者(キャリア)でも症状はありますか?治療は必要ですか?

βサラセミア・マイナー(保因者)の方は、通常、症状がないか、ごく軽度の貧血のみです。日常生活に支障はなく、治療の必要もありません19。ただし、健康診断などで鉄欠乏性貧血と誤診されることがあるため、ご自身が保因者であることを把握しておくことが重要です。

最新の治療法である遺伝子治療は、日本で受けられますか?

2024年現在、欧米ではいくつかの遺伝子治療が承認されていますが、日本ではまだ臨床試験(治験)の段階か、承認申請の準備段階にあります。しかし、研究開発は世界的に急速に進んでおり、日本の専門家も積極的に取り組んでいます12。近い将来、日本国内でも受けられるようになることが期待されています。最新情報については、主治医や専門機関にお問い合わせください。

日本ではなぜ「指定難病」ではないのですか?

指定難病の認定には、患者数、客観的な診断基準の有無、長期の療養の必要性など、複数の要件を満たす必要があります。厚生労働省の指定難病検討委員会での議論の結果、現時点ではβサラセミアはこれらの要件を完全には満たさないと判断されています109。しかし、患者会などを通じて認定を求める活動が続けられています。

子供の成長にどのような影響がありますか?

適切な輸血治療と鉄キレート療法を受けていれば、多くの子供たちはほぼ正常な成長・発達を遂げることができます7。治療の目標の一つは、正常な発育をサポートすることです。学校生活や友人関係など、身体的な側面だけでなく、心理社会的なサポートも同様に重要です8

結論

βサラセミアは、生涯にわたる管理を要する複雑な遺伝性疾患ですが、医学の進歩によりその展望は大きく変わりつつあります。適切な輸血と鉄キレート療法によって、多くの患者様が健やかな生活を送ることが可能であり、さらにルスパテルセプトのような新薬や、遺伝子治療という根本的な治癒への道が現実のものとなり始めています。これらの新しい治療法は、長年の輸血に伴う負担からの解放という、計り知れない希望をもたらします。

しかし同時に、日本の医療制度における指定難病の課題など、患者様とご家族が直面する現実的な問題も存在します。正確な情報に基づき、主治医や医療チームと密に連携し、利用可能な社会資源を活用しながら、一人ひとりに最適な治療計画を立てていくことが何よりも重要です。この記事が、βサラセミアと共に歩む皆様にとって、確かな知識と未来への一助となることを心から願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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