はじめに
眼のまぶたが腫れる現象は、まぶた周辺の結合組織に液体がたまったり炎症が起きたりすることによって生じます。とくに上まぶたが腫れる場合は、原因によっては痛みをともなうケースと痛みがないケースがあり、単なる刺激による一時的な腫れなのか、あるいは体の別の問題が潜んでいるのかを見極める必要があります。上まぶたが腫れる背景には、涙や皮下組織のむくみ・感染症・アレルギー・外傷など多岐にわたる要因があります。また、まぶたの腫れが慢性的に続いたり、強い痛みや視界障害を伴ったりする場合には、別の重大な疾患が関与しているおそれも否定できません。
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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、上まぶたが腫れる主な原因や症状、考えられる疾患、そしてその対処法や治療法について、できるだけ詳しくまとめます。腫れの原因を理解し、適切なセルフケアや医療機関での診察を受けることで、症状を悪化させずに早期改善を目指すことが大切です。まぶたの腫れは、生活の質や見た目に影響を与えやすく、放置すると長引くケースもあるため、ぜひ参考にしてみてください。
専門家への相談
本記事の情報は、内科領域に幅広い知見をもつ医師である Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)のアドバイスをもとにまとめられています。まぶたの腫れが続いたり、視力低下や激しい痛みなどの症状を伴う場合には、必ず医療機関を受診し、専門家の診察を受けてください。
まぶたが腫れる主な要因と背景
上まぶたが腫れる原因は実にさまざまです。簡単な刺激やアレルギーなどによる軽微なものから、感染症や内臓機能の不調が隠れている重大なものまで幅広く考えられます。まぶた周辺は皮膚が薄く、血管や脂肪組織が密集しているため、水分や炎症性物質がたまりやすい構造です。その結果、少しの刺激や水分バランスの乱れでも腫れが顕著にあらわれることがあります。
腫れ方が軽度であれば、数時間から数日で自然に治まることもありますが、原因次第では長期化するケースもあります。以下では、よくみられる11の原因を詳細に解説します。
1. アレルギー反応による上まぶたの腫れ
アレルギーは、花粉症(いわゆる「スギ花粉」「ブタクサ花粉」など)や食物アレルギー、薬剤アレルギー、昆虫刺傷によるアレルギーなど、多彩な原因物質によって引き起こされます。もし両目の上まぶたが同時に腫れてかゆみを伴う場合、花粉やハウスダスト、ペットの毛などに接触した可能性が高いです。一方、片側だけの場合でも、特定の物質や化学物質が片方の目に付着することで起こるケースがあります。
アレルギー性結膜炎を併発すると、結膜充血や涙目、さらに強いかゆみをともなうことも少なくありません。上まぶたの腫れがアレルギーによるものであれば、アレルゲンの除去や抗アレルギー薬の内服・点眼などの対応で改善が期待できます。
なお、2022年にAllergy, Asthma & Immunology Research(DOI:10.4168/aair.2022.14.5.469)に掲載された研究では、アレルゲン回避や免疫療法によってアレルギー性結膜炎が軽減し、まぶたの腫れ・かゆみなどの症状の有意な減少が報告されています。この研究は約200名の成人患者を対象に1年間の追跡を行ったもので、日本を含むアジア圏でもアレルゲン対策の重要性が示唆されています。
2. 霰粒腫(さんりゅうしゅ)による腫れ
いわゆる「霰粒腫」は、まぶたに存在する脂腺(マイボーム腺など)が詰まってできるしこりです。とくに上まぶたの縁の内側に生じることが多く、しこりや腫れの範囲が大きくなると、まぶた全体が腫れて視野がさまたげられることがあります。ただし、霰粒腫は細菌感染を伴わない場合、基本的に痛みがありません。そのため、腫れはあるのに痛くないときには霰粒腫の可能性が考えられます。
まぶたの裏側に小さなしこりが残った状態が続くと、自然に消失するまで数週間以上かかるケースもあります。感染が疑われる場合には、抗生物質の点眼や軟膏を使用することもあります。なかなか治らない場合や大きなしこりを伴う場合には、切開して内容物を排出する処置を受けることもあります。
3. 麦粒腫(ばくりゅうしゅ)による上まぶたの腫れ
麦粒腫は、まつげの根もと(毛包)や皮脂腺に細菌が感染して生じる炎症です。いわゆる「ものもらい」と呼ばれることが多く、白や黄色の膿がたまって小さなコブができ、押すと痛みがあるのが特徴です。感染が広がると上まぶた全体が赤く熱をもち、腫れてしまうこともあります。
麦粒腫の予防には、アイメイク道具の衛生管理やコンタクトレンズの正しい使用法、まつげエクステやパーマの適切なケアが大切です。治療は、抗菌点眼薬や軟膏、場合によっては経口抗生物質が処方されることがあります。短期間でよくなることが多いのですが、免疫力の低下時や慢性的なまぶたの汚れがある場合は繰り返す傾向にあるため、注意が必要です。
4. 眼瞼縁炎(がんけんえん)によるまぶたの炎症
眼瞼縁炎は英語で「Blepharitis」と呼ばれ、まぶたの縁に生じる慢性的な炎症です。まぶたが赤くなったり、かゆみや異物感が出たりするほか、フケのようなものがまつげに付着する場合もあります。とくに上まぶたが腫れやすく、何度も再発を繰り返すのが特徴です。
この疾患は脂漏性皮膚炎やニキビ肌、酒さ(赤ら顔)など、皮膚のコンディションと関連が深いことがあります。まぶたの汚れをこまめに洗浄し、皮脂や細菌の増殖を防ぐことが重要です。軽症の場合、市販の洗浄剤や湿らせた清潔な綿棒でまぶたの縁をやさしく拭き取るセルフケアだけでよくなることもありますが、重症化すると抗菌薬やステロイド剤の点眼・軟膏が必要になることがあります。
5. 結膜炎(いわゆる「目の充血」や「めやに」)
結膜炎とは、眼球表面やまぶたの裏側を覆う「結膜」と呼ばれる薄い膜に炎症が起こる状態です。ウイルスや細菌による感染性結膜炎、花粉などによるアレルギー性結膜炎など、原因は多岐にわたります。結膜炎にかかると、上まぶたが赤く腫れたり、強いかゆみや粘液性・膿性の目やにが増えることがあります。
特にアレルギー性の場合は両目同時に症状が出やすく、かゆみや涙の増加がみられます。感染性の場合はウイルスや細菌によって症状が異なりますが、目やにの質や量が多くなるほど重症化が疑われることが多いです。治療には、原因に応じて抗菌点眼薬や抗アレルギー点眼薬、抗ウイルス薬が使用される場合があります。
6. まぶたの皮膚感染症
まぶたは皮膚が薄く血管も豊富なため、皮膚感染症が起こると赤みや痛みとともに顕著な腫れが見られることがあります。たとえば「蜂巣炎(蜂巣織炎)」「丹毒(たんどく)」「とびひ(伝染性膿痂疹)」などが該当します。傷口から細菌が侵入するケースもあり、激しい腫れと発熱などを伴うこともあるため、早めの受診が推奨されます。
また、帯状疱疹ウイルスによる「ヘルペス」などが目の周囲に発症し、眼への影響が広がると強い炎症が生じ、まぶたが腫れることがあります。細菌性皮膚感染症の場合は抗生物質、ウイルス性の場合は抗ウイルス薬などを使った治療が必要です。
7. 外傷による上まぶたの腫れ
外傷は、殴打などの衝撃だけでなく、やけどや切り傷、強い日差しによる軽度の熱傷なども含みます。まぶたの皮膚は薄く軟組織が豊富なため、少しの外傷でも内出血やむくみが生じやすいです。骨折の可能性や異物の混入があれば、骨や眼球にまで影響が及ぶことがあるため、専門医の診察が求められます。
なお、2023年にOphthalmic Plastic and Reconstructive Surgery(DOI:10.1097/IOP.0000000000002315)に掲載された報告によると、眼周辺の外傷においては適切な診断と早期の処置が視機能の保護や美容的な回復に直結することが示唆されています。この研究は米国の病院データをもとに約300例を解析したもので、特にまぶたの構造を丁寧に評価し、異物や骨折の有無を正確に見極めることの重要性を強調しています。
8. 化粧品・化学物質への刺激
マスカラやアイライナー、クレンジング、スキンケア製品などが目やまぶたに付着すると、刺激やアレルギーを起こす場合があります。化粧品アレルギーは使い始めてすぐに起こるとは限らず、長期間の使用で徐々に感作されるケースもあります。かぶれによる腫れやかゆみ、赤みを感じた場合は、原因と思われる製品の使用を一旦中止し、流水でよく洗い流すようにしてください。
また、洗剤やシャンプーが誤って目に入った場合も、強い刺激で一時的に上まぶたが赤く腫れることがあります。軽い症状であれば自然に治まる場合もありますが、痛みや腫れが強い場合は、医療機関で診てもらうほうが安全です。
9. 泣いた後のむくみによる上まぶたの腫れ
大泣きすると、目元の毛細血管が拡張し、涙や体液がまぶた周辺に集まりやすくなります。特に激しく泣いたときや、長時間泣いた場合は、翌朝まぶたが腫れぼったくなることが多いです。これは一時的なむくみのため、大抵は冷やすか休息をとると軽減します。
長時間の涙で脱水気味になると、体が水分を保持しようとしてさらにむくみが悪化することもあります。適度に水分補給を行い、少し高めの枕で就寝するなど工夫すると、翌朝のまぶたの腫れを緩和しやすくなります。
10. 疲労によるまぶたの腫れ
慢性的な睡眠不足や過度な疲労は、体の水分代謝やホルモンバランスを乱し、まぶたのむくみを引き起こす一因となります。とくに夜更かしや不規則な生活が続くと、朝に上まぶたが腫れやすくなる傾向があります。パソコンやスマートフォンを長時間使用すると、まばたきの回数が減り、涙の循環が悪くなることでドライアイや慢性的な目の疲れにもつながります。
また、最近の日本国内における調査(2021年、日本国内の約1,000名を対象とした疫学研究)でも、睡眠時間が不足した人ほど顔面のむくみやドライアイ症状を訴える割合が高いと報告されています。目の周りへの負担が増えると、上まぶたや下まぶたの腫れが顕著になりやすいため、睡眠衛生の見直しが重要です。
11. 内科的疾患によるまぶたの腫れ
以下のような全身性疾患がある場合にも、まぶたのむくみが現れることがあります。
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
眼球突出やまぶたの腫れが生じるケースがあります。 - 甲状腺機能低下症(橋本病など)
代謝が低下し、全身のむくみをともなう場合があります。 - 腎機能障害
体内の水分調節がうまくいかず、朝起きたときにまぶたが腫れることが多いです。 - 心不全、肝不全
体内に水分がたまりやすくなり、まぶたや下肢などに浮腫が生じることがあります。 - 妊娠期のむくみ(とくに妊娠高血圧症候群)
血圧上昇や蛋白尿などが伴う場合は早めの受診が必要です。 - 遺伝性血管性浮腫
先天的に血管透過性が高く、突然まぶたや唇が腫れることがあります。
これらの場合、まぶたの腫れは根本的な疾患をコントロールしない限り改善しにくい傾向があります。いつもとは明らかに異なるむくみ方や、全身の倦怠感、体重増加・食欲不振・血圧上昇などほかの症状がある場合は、内科受診を検討してください。
上まぶたの腫れに対する対処・治療法
多くのケースでは、軽度の腫れなら自宅ケアで症状が落ち着きます。しかし、激しい痛みや視力障害を伴ったり、長期にわたって腫れが引かない場合は、必ず医師の診断を受けることが大切です。以下に主な対処法を挙げます。
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冷湿布(冷やす)
アレルギー反応や炎症による腫れには、冷やすことで血管の拡張を抑え、症状を緩和できます。清潔なタオルやガーゼに水または氷を入れた袋を巻いて数分間まぶたに当てるだけでも効果的です。 -
まぶたの清潔保持
アイメイクを控え、まぶたをこまめに洗浄することで雑菌や汚れの繁殖を防ぎます。特に眼瞼縁炎や麦粒腫などでは、まぶたを清潔にすることが重要です。 -
アレルギーの場合
抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬の内服、ステロイド点眼などを使用することで症状を改善させることが多いです。アレルゲンを特定し、回避する対策も同時に行いましょう。 -
細菌感染の場合
抗菌点眼薬や軟膏を用いて感染源を抑えます。膿がたまっている場合は医師が切開・排膿処置を行うことがあります。 -
ウイルス感染(単純ヘルペスや帯状疱疹など)の場合
抗ウイルス薬が処方されることがあり、同時に二次感染を防ぐための抗菌薬や鎮痛薬が用いられることもあります。 -
生活習慣改善
睡眠不足やストレスが原因の場合、十分な睡眠や適度な運動、水分補給を心がけるだけで改善するケースが少なくありません。泣いたあとのむくみに対しては水分とミネラルのバランスを整えることも大切です。 -
基礎疾患の治療
甲状腺や腎機能、心臓などに起因する場合は、それぞれの疾患治療が優先されます。医師の指示に従って服薬や生活管理を行いましょう。
上まぶたの腫れはどのくらいで治る?
原因や治療内容によって、症状が落ち着くまでの期間は大きく変わります。軽度のアレルギーや一時的なむくみであれば、数時間から1日程度で自然に収まることが多いです。麦粒腫や霰粒腫による場合は、適切な治療を行えば1~3週間ほどで改善することが多いですが、体質やケアの仕方によっては長引くこともあります。
細菌感染が関与する蜂巣炎(蜂巣織炎)や帯状疱疹などの場合は、治療薬の投与や安静が必要で、改善には数週間以上かかるケースがあります。腎臓や心臓など全身性の疾患が原因のむくみの場合、基礎疾患が安定するまでは腫れが再発しやすいため、根本治療と並行してまぶたケアを続ける必要があります。
まぶたが腫れたときの注意点
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ものもらいや霰粒腫を自己処置しない
膿がたまっていても自分でつぶしたり絞ったりしないでください。感染が拡大したり、深刻な合併症につながるおそれがあります。 -
アイメイクとクレンジングに注意
メイク落としを丁寧に行わないと、まぶたに汚れが残り炎症を引き起こすことがあります。まつげの根もとなどは特に注意し、やさしく洗うようにしましょう。 -
目をむやみにこすらない
目がかゆいときやゴミが入ったときなど、手でこすると感染や角膜の傷を悪化させる可能性があります。できるだけ清潔な水や人工涙液などで洗い流すほうが安全です。 -
アレルゲンを避ける
ダニ、花粉、動物の毛などに過敏な人は、こまめな掃除や空気清浄機の活用、マスク着用などでアレルゲンの暴露を減らすことがまぶたの腫れ防止に有効です。
まとめと提言
上まぶたが腫れる原因は、アレルギーや霰粒腫、麦粒腫(ものもらい)といった比較的軽度なものから、ウイルス感染や細菌感染、または甲状腺・腎臓・心臓などの疾患に起因する深刻なケースまで多岐にわたります。まずは日常生活の中で、まぶたの清潔を保ち、アイメイクを適切に落とすなどのセルフケアを行い、症状が軽い場合は冷やすなどで様子を見ることが可能です。しかし、
- 腫れが長引く
- 痛みが激しい
- 視力が落ちる
- 発熱や強い赤みがある
- 顔面全体やほかの部位も同時にむくんでいる
といった場合は、速やかに医療機関を受診し、専門的な検査と治療を受けることが望ましいでしょう。また、睡眠不足やストレスなどの生活習慣の乱れもまぶたの腫れを引き起こしやすいため、十分な休養や栄養バランスを意識することも大切です。
さらに、まぶたの腫れが内科的な病気(腎臓・心臓・甲状腺機能など)に関連している可能性もあるため、自己判断で放置するのは避けるべきです。医療機関にかかれば、必要に応じて血液検査や画像検査が行われ、原因を正確に特定することができます。早期に原因を突き止めて適切な治療を始めることで、合併症リスクを抑え、日常生活への支障を最小限に抑えることができるでしょう。
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個人の症状や体質に応じた医療行為を示すものではありません。疑わしい症状が続いたり悪化したりする場合は、必ず医療の専門家に相談してください。
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本記事はあくまで参考情報であり、個々の症状や背景に応じて適切な医療機関を受診することをおすすめします。自己判断によるセルフケアで改善がみられない場合、専門家に相談することが安心です。どうぞお大事にしてください。