この記事の科学的根拠
この記事は、インプットされた研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下に示すリストは、実際に参照された情報源のみを含み、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示しています。
- 世界保健機関(WHO): 本記事における中絶ケアの安全性、方法(吸引法と掻爬法の比較)、および非犯罪化に関する推奨事項は、WHOが発行した「Abortion care guideline」に基づいています1。
- 厚生労働省(MHLW): 日本における人工妊娠中絶の法的枠組み(母体保護法)、統計データ(実施件数、年齢別割合)、および経口中絶薬「メフィーゴパック」の承認に関する情報は、厚生労働省の公式発表と報告書に基づいています234。
- 日本産科婦人科学会(JAOG): 日本国内での安全な医療実践に関する見解や、各手術方法に伴う合併症予防策に関する記述は、日本産科婦人科学会の公式文書や指針を参考にしています5。
- The Turnaway Study: 中絶が精神的健康に与える影響についての議論、特に中絶を拒否された場合との比較に関する重要な科学的証拠は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が主導した「The Turnaway Study」の査読済み論文に基づいています6。
- コクラン・レビューおよびStatPearls: 身体的リスクや精神的健康への影響に関する科学的証拠の統合的評価は、Charles氏らによるシステマティックレビュー7や、StatPearlsに掲載された合併症に関する総説8など、信頼性の高い二次資料に基づいています。
要点まとめ
- 日本では、人工妊娠中絶は母体保護法2に基づき、妊娠22週未満で、指定医師によってのみ合法的に実施されます。「身体的または経済的理由」が広く適用され、多くの場合、配偶者の同意が必要です9。
- 厚生労働省の最新統計(2023年度)によると、日本の年間中絶件数は126,734件で、20代の女性が最も高い割合を占めています3。これは決して稀な医療ではないことを示しています。
- 選択肢には、WHOが推奨する「吸引法」1、日本で依然行われている「掻爬法」、そして2023年に承認された経口中絶薬「メフィーゴパック」4があります。それぞれに利点、欠点、費用、適用週数が異なります。
- 経口中絶薬は非侵襲的ですが、日本では妊娠9週0日までしか使用できず、入院またはそれに準じた医療機関内での厳格な管理下での服用が義務付けられています10。費用は約10万円程度が目安です。
- 科学的根拠に基づくと、適切に実施された安全な中絶が、将来の不妊症の直接的な原因となるリスクは極めて低いとされています11。精神的影響は複雑ですが、「中絶後症候群」という独立した精神疾患の存在を支持する質の高い科学的証拠はありません7。むしろ、中絶を望んでも拒否された女性の方が、精神的苦痛が大きいという研究結果6があります。
第1部:知っておくべき日本の法律と現実
人工妊娠中絶を検討する上で、まず理解すべきなのは、日本における法的な位置づけと社会的な実情です。これらは、あなたがどのような選択肢を持ち、どのような手続きを踏む必要があるのかを決定づける重要な要素です。
1.1. 母体保護法:人工妊娠中絶の法的根拠
日本において、人工妊娠中絶は「母体保護法」という法律によって厳格に定められています2。この法律は、中絶が犯罪ではなく、特定の条件下で認められる医療行為であることを保証するものです。しかし、誰でも自由に受けられるわけではなく、以下の重要な要件を満たす必要があります。
- 実施可能な期間: 法律で中絶が認められているのは、妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)です。この期間を超えると、いかなる理由があっても人工妊娠中絶を行うことは法律で禁じられています。
- 認められる理由: 母体保護法第14条では、中絶が可能な理由として「身体的又は経済的理由により、母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」と定められています。この「経済的理由」という条項が広く解釈され、実際にはほとんどのケースで適用されています。また、暴行や脅迫による妊娠も理由として認められます。
- 実施者: 中絶手術や処置を行えるのは、各都道府県の医師会が指定した「母体保護法指定医師」に限られます。指定を受けていない医師が実施することは違法です12。
- 配偶者の同意: 原則として、中絶を行うには本人及び配偶者(事実婚を含む)の同意が必要です9。これは、多くのクリニックで同意書の提出が求められる根拠となっています。ただし、配偶者が不明である場合、その意思を表示することができない場合、または性的暴力による妊娠などの特定の状況下では、本人の同意のみで実施することが可能です。
これらの法的要件を理解することは、安全かつ合法的な医療を受けるための第一歩です。
1.2. 日本における中絶の統計データ
人工妊娠中絶は、決して稀な経験ではありません。厚生労働省が毎年公表している「衛生行政報告例」は、日本における中絶の実態を知るための最も信頼できる情報源です。最新の令和5年度(2023年度)の報告によると、以下の事実が明らかになっています3。
- 総件数: 2023年度に日本全国で実施された人工妊娠中絶の総数は126,734件でした。
- 年齢階級別の割合: 最も中絶実施率(人口千対)が高かったのは20~24歳の年齢層で、10.8でした。次いで、25~29歳が8.9、19歳以下が5.6、30~34歳が6.8となっています。これは、特に若い世代の女性にとって、予期せぬ妊娠が重要な健康課題であることを示唆しています。
これらの公式データは、中絶という決断が多くの人にとって現実的なものであることを示しており、社会全体でこの問題についての正しい知識と安全なケアへのアクセスを確保する必要性を浮き彫りにしています。この問題に直面しているのは、あなた一人ではないのです。
第2部:3つの選択肢の徹底比較
現在、日本で選択可能な人工妊娠中絶の方法は、大きく分けて「手術」と「経口薬」の二つがあります。手術にはさらに「吸引法」と「掻爬法」という二種類の手法が存在します。どの方法が最適かは、妊娠週数、身体の状態、そして個人の価値観によって異なります。ここでは、それぞれの方法を科学的根拠に基づいて徹底的に比較・解説します。
2.1. 手術による中絶(外科的中絶)
外科的中絶は、器具を用いて子宮内容物を除去する方法で、長年にわたり実施されてきました。しかし、その手技には安全性や身体への負担が異なる二つの主要な方法があります。
2.1.1. 吸引法(Vacuum Aspiration – VA法)- WHO推奨
吸引法は、細い管(カニューレ)を子宮内に挿入し、電動または手動の吸引器で子宮内容物を吸い出す方法です。世界保健機関(WHO)は、その安全性と有効性の高さから、妊娠初期(12~14週まで)の中絶における標準的な外科手技として強く推奨しています113。
- 手技の種類: 手術室で電動吸引器を使用するEVA(Electric Vacuum Aspiration)と、外来などで手動吸引器(MVAキット)を使用するMVA(Manual Vacuum Aspiration)があります。どちらも基本的な原理は同じです。
- 利点: WHOや日本産科婦人科学会が示す利点は以下の通りです514。
- 安全性が高い: 金属製の器具で子宮内を掻き出す掻爬法に比べ、子宮内膜や子宮頸管への損傷、子宮穿孔(子宮に穴が開くこと)のリスクが低いとされています。
- 手術時間が短い: 一般的に処置時間は数分から10分程度と短時間で済みます。
- 身体的負担が少ない: 出血量が比較的少なく、術後の回復も早い傾向にあります。
- 日本の現状: 世界的には標準ですが、日本ではまだ掻爬法が主流の施設も存在します。医療機関を選ぶ際には、吸引法(特にMVA)を実施しているかどうかを確認することが、より安全な選択をする上で重要です。
2.1.2. 掻爬法(Dilatation & Curettage – D&C法)- 日本の現状
掻爬法は、子宮頸管を拡張させた後、キュレットと呼ばれるスプーン状の金属器具を子宮内に挿入し、子宮内膜を掻き出して内容物を除去する方法です。日本では長年の慣習から依然として広く行われていますが、国際的な評価は大きく異なります15。
- WHOの見解: 世界保健機関(WHO)は、吸引法が利用可能である場合、時代遅れである掻爬法をルーチンの手技として使用すべきではないと明確に述べています116。その理由は、吸引法に比べて合併症のリスクが高いとされているためです。
- 潜在的なリスク: 日本産科婦人科学会の資料などでも指摘されているリスクには、以下のようなものがあります5。
- 子宮穿孔: 鋭利な金属器具を使用するため、子宮壁を傷つけ、穴を開けてしまうリスクが吸引法より高いとされます。
- 子宮内膜への過度な損傷: 子宮内膜の基底層まで深く掻き出してしまうと、術後に子宮内が癒着する「アッシャーマン症候群」を引き起こし、将来の不妊や習慣性流産の原因となる可能性があります。
- 遺残のリスク: 完全に内容物を除去できず、一部が子宮内に残ってしまう(遺残)可能性があります。
- なぜ日本ではまだ行われているのか: 掻爬法が依然として行われている背景には、医師の長年の経験や慣れ、吸引法のための設備投資の問題など、複数の要因があると指摘されています。しかし、患者としては、より安全とされる選択肢について情報を得て、医師と相談する権利があります。
2.2. 経口中絶薬「メフィーゴパック」による中絶
2023年4月、日本で初めて経口中絶薬「メフィーゴパック」が厚生労働省によって正式に承認されました4。これは、日本のリプロダクティブ・ヘルスケアにおける大きな転換点です。しかし、海外のように自宅で簡単に服用できるものではなく、日本独自の厳格な管理体制下で使用されます。
- 作用機序: メフィーゴパックは、2種類の薬で構成されています。
- ミフェプリストン: 妊娠の維持に必要なホルモン(プロゲステロン)の働きをブロックします。
- ミソプロストール: 子宮を収縮させ、内容物を体外へ排出させます。
- 対象となる妊娠週数: 日本での承認は、妊娠9週0日(63日)までの妊婦に限られています10。
- 日本の厳格な使用プロセス: 厚生労働省の通知に基づき、安全性を確保するため、以下のプロセスが定められています4。
- 母体保護法指定医師のいる医療機関で診断を受け、薬が適用可能か判断されます。
- 1剤目(ミフェプリストン)を医師の目の前で服用します。
- その36~48時間後に再び医療機関を訪れ、2剤目(ミソプロストール)を服用します。
- 2剤目の服用後は、胎嚢が排出されるまで入院またはそれに準じて医師が待機する施設内で厳重に経過観察することが義務付けられています。これは、急な大量出血や強い腹痛などの副作用に迅速に対応するためです。個人輸入やオンライン処方は固く禁じられています17。
- 費用: 自由診療のため医療機関によって異なりますが、手術費用と合わせた入院・管理費用などを含め、総額で約10万円前後が目安とされています10。
- 利点と欠点:
- 利点: 外科的な器具を子宮内に挿入しないため、手術に伴う子宮損傷や麻酔のリスクがありません。
- 欠点: 成功率が100%ではなく、数%の割合で中絶が完了せず、最終的に外科的処置が必要になる場合があります。また、出血や腹痛が数日間続くことがあり、その過程を自身で経験する必要があります。
2.3. 比較表:あなたにとって最適な選択は?
ここまで解説した3つの方法の特徴を、以下の表にまとめました。ご自身の状況と照らし合わせ、医師と相談する際の参考にしてください。
項目 | 吸引法 (WHO推奨) | 掻爬法 | 経口中絶薬 (メフィーゴパック) |
---|---|---|---|
適用週数 | 主に妊娠12週未満 | 主に妊娠12週未満 | 妊娠9週0日まで |
手技・内容 | 細い管で子宮内容物を吸引 | 金属器具で子宮内容物を掻き出す | 2種類の薬を服用し排出を促す |
WHO推奨度 | 強く推奨1 | 非推奨(時代遅れ)1 | 安全な選択肢として推奨1 |
主な利点 | 安全性が高い、時間が短い、身体的負担が少ない14 | (現代の基準では明確な利点は少ない) | 非侵襲的、子宮損傷リスクがない、麻酔不要 |
主な欠点・リスク | 手術・麻酔に伴う一般的なリスク | 子宮穿孔・内膜損傷のリスクが高い5 | 不完全中絶のリスク、出血・痛みの持続、入院・施設内管理が必須10 |
費用の目安 | 約10万~20万円(初期)18 | 約10万~20万円(初期)18 | 約10万円前後10 |
実施場所 | 母体保護法指定医のいるクリニック・病院 | 母体保護法指定医のいるクリニック・病院 | 入院設備等のある母体保護法指定医のいる施設4 |
第3部:医学的リスクの科学的検証
「中絶をすると将来妊娠できなくなるのでは?」「心に深い傷が残るのでは?」こうした不安は、中絶を考える多くの女性が抱くものです。ここでは、これらのリスクについて、医学研究が何を明らかにしているのかを客観的に検証します。
3.1. 身体的リスクと合併症
どのような医療行為にもリスクは伴いますが、現代の安全な方法で行われる中絶は、非常に安全な医療処置の一つとされています。米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)の包括的な報告書でも、法的に許可された中絶は安全な処置であると結論付けられています19。しかし、ゼロリスクではありません。起こりうる合併症を理解しておくことは重要です。
StatPearlsなどの医学文献でまとめられている主な合併症は以下の通りです8。
- 短期的な合併症(比較的まれ):
- 大量出血: 最も一般的な合併症の一つですが、輸血が必要になるほど重篤なケースはまれです。
- 感染症: 子宮内に細菌が感染することで起こります。抗生物質の投与で治療可能です。
- 子宮内容物の遺残: 胎児や胎盤の一部が子宮内に残ってしまう状態。再処置が必要になることがあります。
- 子宮穿孔: 手術器具が子宮の壁に穴を開けてしまうこと。掻爬法でリスクが高いとされます。ほとんどは自然に治癒しますが、まれに手術が必要になることがあります。
- 長期的な影響と不妊のリスク:最も心配される「不妊」のリスクについてですが、合併症を伴わない安全な中絶が、将来の妊娠能力に悪影響を与えるという科学的根拠は確立されていません1119。リスクが高まるのは、掻爬法による重度の子宮内膜損傷(アッシャーマン症候群)や、処置後の重い感染症を放置した場合など、合併症が起きたケースに限られます。WHOが推奨する吸引法1を熟練した医師が行い、適切な術後ケアを受ければ、不妊につながるリスクは極めて低いと言えます。
3.2. 心の健康への影響:不安、罪悪感、そして回復
中絶が女性の心に与える影響は、非常に複雑で個人差が大きいテーマです。悲しみ、喪失感、罪悪感、後悔といったネガティブな感情を経験する人もいれば、安堵感を得る人もいます。一部で「中絶後症候群」という言葉が使われることがありますが、これは精神医学の世界で公式に認められた診断名ではありません。
このテーマに関する科学的研究は数多くありますが、結論は分かれています。例えば、Coleman氏による2011年のメタアナリシスでは、中絶が精神衛生上の問題リスクを高めると結論付けられました20。しかし、この研究は方法論的な問題点を多くの専門家から指摘されています。
一方で、より質の高い研究とされるものからは、異なる知見が得られています。
- Charles氏らのシステマティックレビュー(2008年): 質の高い研究を厳選して分析した結果、予期せぬ妊娠を継続して出産した女性と比べて、中絶を選択した女性の精神的健康問題のリスクが高いという明確な証拠は見出されませんでした7。
- The Turnaway Study(ターンアウェイ研究): これは、この分野で最も重要かつ画期的な大規模縦断研究です621。この研究では、中絶を受けた女性と、妊娠週数の上限を超えたために中絶を拒否されて出産に至った女性のグループを、5年間にわたって追跡調査しました。その結果は示唆に富んでいます。
- 中絶を拒否された女性は、中絶を受けた女性に比べて、直後により高いレベルの不安、低い自尊心、低い生活満足度を報告しました。
- 時間が経つにつれて両グループの精神状態の差は小さくなりましたが、この研究の最も重要な結論は、「女性の精神的健康に害を及ぼすのは中絶を受けることではなく、むしろ望んだ中絶を受けられないことである」という点です。
これらの科学的証拠から言えることは、中絶後の精神的な反応は、本人の元々の精神状態、社会的サポートの有無、中絶に対する本人の考え方、決断に至る経緯など、多くの要因に左右されるということです。重要なのは、どのような感情を抱いたとしても、それは個人の自然な反応であり、必要であれば専門的なカウンセリングやサポートを求めることが回復への鍵となります。
第4部:中絶後のセルフケアとサポート
中絶という医療処置を乗り越え、心身ともに健やかに回復するためには、術後・服薬後の適切なセルフケアと、利用可能なサポートについて知っておくことが不可欠です。あなたは一人ではありません。
4.1. 術後・服薬後の注意点
処置が無事に終わった後も、身体が元の状態に戻るまでには時間が必要です。合併症を防ぎ、スムーズな回復を促すために、以下の点に注意してください。これらの内容は医療機関から受ける指導が最も重要ですが、一般的な注意点として解説します。
- 安静と休養: 術後数日間は、無理をせず自宅で安静に過ごすことが推奨されます。仕事への復帰時期は、職種や体力の回復具合によりますが、デスクワークなら翌日から可能な場合もあります。しかし、立ち仕事や体力を要する仕事の場合は、2~3日から1週間程度の休養が望ましいでしょう22。
- 入浴: 感染予防のため、術後約1週間はシャワーのみとし、湯船に浸かるのは避けるよう指導されるのが一般的です。
- 性交渉: 術後の最初の生理が来るまでの約2~4週間は、感染症のリスクや子宮の回復を妨げる可能性があるため、性交渉は避ける必要があります23。
- 出血の観察: 術後、数日から2週間程度、少量の出血が続くのは正常な経過です24。しかし、以下のような場合は異常のサインである可能性があるため、直ちに手術を受けた医療機関に連絡してください。
- 1時間に生理用ナプキン(夜用)が2枚以上ぐっしょり濡れるほどの大量出血
- ゴルフボール大以上の血の塊が出る
- 38度以上の高熱
- 我慢できないほどの強い腹痛
- 術後検診: 術後1週間後くらいに、子宮が順調に回復しているか、感染症などの異常がないかを確認するための検診が必ず行われます。この検診は非常に重要ですので、必ず受診してください。
4.2. 利用できる相談窓口と公的支援
中絶に関する決断や、その後の心身の変化について悩んだとき、一人で抱え込む必要はありません。日本には、相談できる公的な窓口や支援団体があります。
- 保健所・市町村の相談窓口: 各地域の保健所や市町村役場には、女性の健康に関する相談窓口が設置されています。保健師や専門の相談員が、匿名でプライバシーを守りながら話を聞いてくれます。必要に応じて、適切な医療機関や心理的サポートにつないでくれることもあります。
- 女性健康支援センター: 都道府県によっては、より専門的な相談に応じる「女性健康支援センター」が設置されている場合があります。予期せぬ妊娠に関する相談に特化していることが多いです。
- 民間の支援団体・ホットライン: NPO法人などが運営する、電話やSNSでの相談ホットラインもあります。同じような経験を持つ人からのアドバイスや、専門家によるカウンセリングを受けられる場合があります。
経済的な問題、パートナーとの関係、家族からのプレッシャーなど、中絶を取り巻く問題は多岐にわたります。信頼できる第三者に相談することで、客観的な視点を得られたり、気持ちが整理されたりすることがあります。ためらわずに、これらのサポートを活用してください。
第5部:望まない妊娠を防ぐために
中絶という経験を経て、将来の妊娠について考えることは非常に重要です。望まない妊娠を繰り返さないためには、確実で効果的な避妊法についての正しい知識を持つことが不可欠です。これは、あなた自身の身体と人生の主導権を握るための最も確実な方法です。
日本の避妊法選択肢は、コンドームや低用量ピルが主流ですが、それ以外にもより効果の高い様々な方法があります。
- 低用量ピル(OC): 毎日正しく服用すれば、99%以上の高い避妊効果があります。月経痛の緩和や月経周期の安定といった副効用も期待できます。
- 子宮内避妊具(IUD): 子宮内に小さな器具を挿入する方法です。「銅付加IUD」と、ホルモンを放出する「IUS(ミレーナなど)」があります。一度装着すれば3~5年間効果が持続し、避妊の失敗率が極めて低いのが特徴です。
- 避妊インプラント: 上腕の内側にホルモンを含んだ小さな棒を埋め込む方法で、約3年間効果が持続します。日本ではまだ保険適用外ですが、選択肢の一つです。
- コンドーム: 正しく使用すれば避妊効果がありますが、破れたり外れたりする失敗率が他の方法より高いです。しかし、性感染症(STI)を予防できる唯一の方法であるため、他の避妊法と併用することが強く推奨されます。
どの避妊法が自分に最も合っているかは、ライフスタイル、健康状態、将来の妊娠計画などによって異なります。産婦人科医とよく相談し、自分にとって最適で、継続しやすい方法を見つけることが、未来の健康と幸せを守るための鍵となります。
結論
人工妊娠中絶は、女性の人生における極めて重要で複雑な決断です。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部として、その決断に直面した方々が、偏見や不確かな情報に惑わされることなく、ご自身の健康と未来のために最善の選択をするための一助となるよう、科学的根拠に基づいた包括的な情報を提供してきました。
重要なのは、日本における母体保護法という法的枠組みを正しく理解し、吸引法、掻爬法、経口中絶薬という各選択肢の利点とリスクを、WHOなどの国際基準も踏まえて客観的に比較検討することです。身体的リスク、特に不妊への影響に関する不安は、現代の安全な医療技術の下では過度に恐れる必要がないこと、そして精神的影響は多様であり、回復には適切なサポートが重要であることも、科学的なデータが示しています。あなたは一人ではありません。統計が示すように、これは多くの女性が経験する現実であり、利用できる公的な相談窓口や支援が存在します。
最終的に、この経験を糧として、将来の望まない妊娠を避けるための確実な避妊法についての知識を深めることが、あなた自身のウェルビーイングを守る上で不可欠です。
この記事で提供された情報は、あくまで教育と情報提供を目的としています。個別の医学的診断や専門的な助言に代わるものではありません。ご自身の状況に最も適したケアを受けるためには、必ず母体保護法指定医師の資格を持つ医療機関の専門家にご相談ください。あなたの健康と未来が、情報に基づいた賢明な選択によって守られることを切に願っています。
よくある質問
中絶手術や薬の服用後、次の日から仕事に行けますか?
回復には個人差がありますが、一般的に手術(特に吸引法)の場合、身体への負担が少なければ、デスクワークなどの軽作業であれば翌日から復帰することも可能です22。しかし、身体を動かす仕事の場合は、2~3日から1週間程度の休養が推奨されます。経口中絶薬の場合は、出血や腹痛が数日間続くことがあるため、少なくとも2~3日は安静にできる環境を確保することが望ましいです。いずれにせよ、無理をせず、ご自身の体調を最優先し、医師の指示に従ってください。
中絶をすると、将来本当に妊娠しにくくなりますか?
パートナーの同意書がどうしても得られない場合はどうなりますか?
母体保護法では原則として配偶者の同意が必要とされていますが、例外規定も存在します。例えば、相手との連絡が取れない、DV(ドメスティック・バイオレンス)の状況にある、性的暴力による妊娠であるといったケースでは、本人の意思のみで中絶が可能です9。同意が得られずに困っている場合は、まず医療機関や公的な相談窓口に事情を説明し、相談することが重要です。法律の専門家やソーシャルワーカーが対応してくれる場合もあります。
経口中絶薬は、手術より「楽」で「簡単」な方法ですか?
「楽」や「簡単」という言葉は、誤解を招く可能性があります。経口中絶薬は、メスや器具を使わない非侵襲的な方法であるという大きな利点がありますが、一方で、薬の効果によって起こる出血や腹痛のプロセスを、数時間から数日間にわたり自分自身で経験する必要があります。また、日本では入院またはそれに準じた施設内での厳格な管理が義務付けられており4、自宅で済ませられる手軽な方法ではありません。どちらの方法にも一長一短があり、どちらが「良い」かは個人の状況や価値観によって異なります。
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