二卵性双生児とは?遺伝確率、妊娠リスク、日本の最新管理法まで専門医が徹底解説
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二卵性双生児とは?遺伝確率、妊娠リスク、日本の最新管理法まで専門医が徹底解説

二卵性双生児の妊娠は、大きな喜びであると同時に、多くの疑問や不安を伴います。JAPANESEHEALTH.ORG編集部は、産婦人科専門医の監修のもと、最新の科学的根拠に基づき、二卵性双生児に関するあらゆる情報を網羅した決定版ガイドをお届けします。

要点まとめ

  • 二卵性双生児は、2つの卵子が別々の精子で受精して育つ双子で、遺伝的には通常のきょうだいと同じです1, 2。一卵性とは発生機序も遺伝子共有率も全く異なります。
  • 発生率は人種、遺伝、母親の年齢、体格、生殖補助医療(ART)など複数の要因に影響されます3, 4。日本では現在、ARTにおける単一胚移植(SET)が推奨され、多胎妊娠のリスク管理が進んでいます5
  • 双胎妊娠は母体と胎児双方に特有のリスク(妊娠高血圧症候群、早産など)を伴いますが、二卵性の場合はほぼ100%がリスクの比較的低い「二絨毛膜二羊膜(DCDA)双胎」です6, 7
  • 妊娠中の体重増加は、欧米の基準ではなく、日本の大規模研究に基づいた独自の目安を用いることが、より安全な周産期管理に繋がります8
  • 日本の社会環境下での多胎育児は、身体的・精神的・経済的負担が大きく、社会的孤立や虐待リスクの増加が指摘されています9, 10。しかし、公的支援やNPOなど、頼れる支援ネットワークが国内に存在します。

免責事項: 本記事は医学的情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。妊娠・出産に関する決定は、必ず主治医とご相談の上で行ってください。

1. 二卵性双生児の基礎科学:一卵性との決定的違い

二卵性双生児について理解を深める第一歩は、その正確な医学的定義と、しばしば混同される一卵性双生児との科学的な違いを明確に把握することです。

1.1. 二卵性双生児の正確な医学的定義

二卵性双生児(Dizygotic Twins)は、医学的に、2つの異なる卵子(ova)が、それぞれ異なる精子によってほぼ同時に受精し、子宮内で並行して発育した双子として定義されます2。この定義の核心は、「2つの独立した受精卵」から始まるという点です。したがって、その本質は「同時に子宮内で育ったきょうだい」と表現するのが最も的確であり、遺伝的にも通常のきょうだいと同様の関係性を持つことを意味します1。性別が同じであることもあれば、異なることもあり、血液型や外見も一致するとは限りません。

1.2. 発生メカニズム:なぜ二つの卵子が排卵されるのか?

二卵性双生児が誕生する直接的な原因は、「多排卵(Hyperovulation)」と呼ばれる現象です11。通常、女性の月経周期では、卵巣内にある多数の卵胞のうち、最も優勢な1つの卵胞だけが成熟して排卵に至ります。しかし、何らかの要因で複数の(この場合は2つの)卵胞が同時に成熟し、排卵されることがあります。この2つの卵子がそれぞれ別の精子と受精することで、二卵性双生児の妊娠が成立します。このプロセスには、脳下垂体から分泌され、卵胞の成長を促す卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌レベルが深く関わっていることが知られています3

1.3. 遺伝子の共有率は50%:一卵性との科学的比較

一卵性双生児と二卵性双生児の最も根本的な違いは、遺伝情報の共有率にあります。一卵性双生児は、単一の受精卵が細胞分裂の過程で偶然2つに分割して生じるため、遺伝情報をほぼ100%共有します1。これが、彼らが「そっくり」である理由です。一方、二卵性双生児は、前述の通り2組の異なる親(卵子と精子)から生じるため、平均して50%の遺伝情報を共有するに過ぎません1。これは、同じ両親から生まれた通常のきょうだい間の遺伝的関係と全く同じです。この遺伝的な違いが、外見、性別、血液型、さらには特定の疾患へのかかりやすさ(罹患一致率)など、あらゆる面での相違の根源となります。以下の表は、両者の主な違いをまとめたものです。

特徴 一卵性双生児 (Monozygotic) 二卵性双生児 (Dizygotic) 根拠
発生機序 1つの受精卵が分裂 2つの卵子が別々に受精 2
遺伝子共有率 ほぼ100% 平均50%(通常のきょうだいと同じ) 1
性別 必ず同じ 同じ場合も、異なる場合もある 2
血液型 必ず同じ 同じ場合も、異なる場合もある 1
膜性(胎盤) 7割が一絨毛膜性、3割が二絨毛膜性 ほぼ100%が二絨毛膜性 6

1.4. 膜性診断の重要性:二卵性双生児は「二絨毛膜二羊膜(DCDA)双胎」

双胎妊娠が判明した際、産科医が最初に行う最も重要な診断の一つが「膜性診断」です。これは、胎児を包む膜(絨毛膜と羊膜)の数を確認するもので、その後のリスク管理を左右します。二卵性双生児は、それぞれが別々の受精卵から発生するため、原則として必ず個別の胎盤(絨毛膜)と羊膜を持つ**「二絨毛膜二羊膜(Dichorionic Diamniotic, DCDA)双胎」**となります6。この診断は、妊娠初期(妊娠10週前後が最も望ましいとされ、遅くとも14週未満)の超音波検査によって行われます12, 13。DCDA双胎であることの確認は非常に重要です。なぜなら、一つの胎盤を共有する一絨毛膜性双胎に特有の重篤な合併症、例えば双胎間輸血症候群(TTTS)といった、胎児の生命を脅かすリスクがDCDA双胎にはないからです7。このため、DCDA双胎は双胎妊娠の中では比較的リスクが低いタイプであると正確に伝えることができます。

2. 二卵性双生児の発生率と関連要因

二卵性双生児が生まれる確率は、世界中で一様ではありません。人種や地域、個人の体質など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。

2.1. 世界の発生率:人種と地域による顕著な差

二卵性双生児の発生率には、著しい地理的・人種的差異が存在します14。世界で最も発生率が高いのは中央アフリカ地域、特にナイジェリアのヨルバ族やベナンといった国々で、1000分娩あたりの双胎出生数が27組を超えることも報告されています15。一方で、アジア(特に東アジア)やラテンアメリカではその発生率は低く、日本や台湾では1000分娩あたり8組未満です15。この世界的な双胎出生率の差は、主に二卵性双胎の発生率の差に起因しており14、一卵性双胎の発生率は人種や地域によらずほぼ一定であると考えられています。

2.2. 日本における発生率:歴史的推移と最新統計

日本国内の状況を見てみましょう。厚生労働省が発表した最新の人口動態統計(令和5年/2023年確定数)によると、日本の総出生数727,277人に対し、双子の出生児数は16,419人、三つ子以上の出生児数は334人でした16, 17。これにより、総分娩件数に占める多胎分娩の割合(多胎率)は約1%強で安定して推移しており、決して稀なことではないことが分かります9。この数値は、1970年代以前の自然発生率と比べると高い水準にあります。この上昇の背景には、後述する生殖補助医療(ART)の普及が大きく影響していることが指摘されています。

2.3. 発生率に影響を与える主要因

二卵性双生児の発生確率には、以下の5つの主要因が関与していることが科学的に知られています。

  • 母体年齢: 30代、特に35歳以上の女性で確率が有意に高まります。これは、年齢とともに卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌レベルが変動し、複数の卵子が一度に排卵される「多排卵」が起こりやすくなるためです3
  • 遺伝: 母親側に二卵性双生児の家族歴がある場合、多排卵を起こしやすい遺伝的素因が受け継がれ、確率が高まることが知られています。一方で、父親側の遺伝は娘の妊娠確率には直接影響しません4
  • 人種: 前述の通り、アフリカ系(特にヨルバ族)で最も高く、アジア系で低いという明確な人種差が存在します3
  • 体格・栄養状態: 身長が高い女性や、BMI(Body Mass Index)が高い(肥満傾向の)女性は、インスリン様成長因子(IGF)などのホルモンの影響で排卵が増加し、確率が高まる傾向があることが複数の研究で示されています18
  • 経産回数: 出産経験が多い(経産婦である)ほど、次の妊娠で双子を授かる確率が統計的に上昇すると報告されています19

2.4. 生殖補助医療(ART)と単一胚移植(SET)の影響

日本の二卵性双生児の発生率を語る上で、生殖補助医療(ART)の歴史的変遷は不可欠な要素です。これは、日本の医療が技術の進歩と、それに伴う倫理的・社会的課題に如何に対応してきたかを示す好例となります。

– JAPANESEHEALTH.ORG 編集委員会

かつて、体外受精(IVF)などのARTでは、妊娠率を向上させる目的で、複数の胚(受精卵)を一度に子宮に移植することが一般的でした。その結果、本来生まれるはずのなかった医原性(医療行為に起因する)の多胎妊娠、特に二卵性双生児(異なる胚から発生するため)が急増しました5。しかし、多胎妊娠に伴う早産や低出生体重児、妊娠高血圧症候群といった周産期リスクの増加が深刻な社会問題となりました。この状況を受け、2008年に日本産科婦人科学会(JSOG)と日本生殖医学会(JSRM)は共同で、原則として移植する胚を1個とする**「単一胚移植(Single Embryo Transfer, SET)」**を強く推奨する歴史的な勧告を発表しました5, 20。この勧告が全国の医療機関で広く遵守された結果、ARTによる双胎妊娠の割合は33.9%から13%へと劇的に減少し、早産や低出生体重児の発生率も有意に低下するなど、日本の周産期予後は著しく改善したのです5

3. 二卵性(DCDA)双胎妊娠の医学的管理:日本の最新事情

双胎妊娠は、単胎妊娠と比べて母体と胎児の双方に特有のリスクが伴います。しかし、リスクを正しく理解し、日本のガイドラインに基づいた適切な管理を行うことで、安全な出産を目指すことが可能です。

3.1. 母親側の主なリスクと管理

双胎妊娠では、子宮が過度に伸展し、胎盤も大きくなるため、母体の様々な臓器にかかる負担が増大します。これにより、以下の合併症リスクが単胎妊娠よりも高まります。

  • 妊娠高血圧症候群(HDP): 発症率が単胎の2倍以上と報告されており、より妊娠週数の早い段階で発症し、重症化しやすい傾向があります7。定期的な血圧測定と尿検査による早期発見が重要です。
  • 妊娠糖尿病(GDM): 大きな胎盤から産生されるホルモンの影響で、血糖値を下げるインスリンが効きにくくなり(インスリン抵抗性)、リスクが増加します。適切な食事管理と、必要に応じた血糖モニタリングが不可欠です21
  • 貧血: 2人の胎児へ鉄分を供給する必要があるため、鉄欠乏性貧血が単胎の2倍以上起こりやすいとされています7。多くのケースで、早期からの鉄剤の内服による補充が推奨されます。
  • 血栓症: 増大した子宮が骨盤内の太い血管を圧迫することで血流が滞り、脚などに血の塊(血栓)ができる深部静脈血栓症のリスクが高まります22。長時間の安静は避け、医師の許可のもとで適度な運動や弾性ストッキングの着用が勧められます。
  • その他のマイナートラブル: 重度のつわり(悪阻)、子宮頸管が短くなることによる切迫早産、腰痛、便秘、静脈瘤といった、単胎妊娠でも見られる症状が、より強く、より早期から現れやすい傾向にあります23

3.2. 胎児側の主なリスクと管理

胎児側にも、双胎妊娠特有のリスクが存在します。これらを監視するために、単胎妊娠よりも頻繁な超音波検査が行われます。

  • 早産: 双胎妊娠における最大かつ最も頻度の高いリスクです。全双胎妊娠の60%以上が、妊娠37週未満の早産で生まれると報告されています7。日本のデータでも多胎児の早産割合は51%と非常に高い数値を示しています24
  • 低出生体重児: 早産であることに加え、子宮内のスペースや胎盤からの栄養供給が2人に分割されるため、出生時の体重が2500g未満となる「低出生体重児」であることが非常に多いです。日本のデータでは、多胎児の実に72%が低出生体重児として生まれています24
  • 胎児発育不全(FGR): 一方または双方の胎児の発育が、在胎週数の標準から大きく遅れる状態を指します。定期的な超音波検査で胎児の推定体重を計測し、標準的な発育曲線から逸脱していないかを厳重に監視します23
  • 先天異常: 双胎妊娠では、心臓や消化器系の構造異常などを含む何らかの先天異常を持つリスクが、単胎妊娠の約2倍に増加することが複数の研究で知られています7

3.3. 日本産科婦人科学会(JSOG)のガイドラインに基づく管理

日本における双胎妊娠の管理は、日本産科婦人科学会(JSOG)が発行する「産婦人科診療ガイドライン」が基本となります12。前述の通り、妊娠初期の超音波検査による正確な膜性診断(DCDAであることの確認)が、その後の管理方針を決定する上で最も重要です13。DCDA双胎の場合、管理の基本は、定期的な妊婦健診と超音波検査による母体と胎児の状態のモニタリングです。特に、二人の胎児の発育に大きな差(発育不均衡、Discordant growth)が生じていないか、羊水量は適切か、母親の血圧や血糖値は正常範囲内か、といった点が注意深く観察されます。一般的に、妊婦健失の間隔は単胎妊娠よりも短縮され、妊娠中期(〜27週)までは2〜4週間に1回、後期(28週〜)は1〜2週間に1回、さらに臨月に入ると毎週といった形で、より頻回なチェックが行われます。

健康に関する注意事項

  • 本記事で提供する情報は一般的な医学的知見であり、個々の患者様の状態に当てはまるとは限りません。双胎妊娠の管理方針は、個人の健康状態、妊娠経過、医療機関の方針によって大きく異なります。
  • 自己判断でサプリメントを摂取したり、運動療法を開始したりすることは絶対に避けてください。すべての健康管理は、必ず主治医や担当の医療専門家と相談の上、その指示に厳密に従ってください。

3.4. 【最重要・日本特化情報】妊娠中の推奨体重増加量(GWG)

海外の情報をそのまま日本人に適用することには危険が伴います。妊娠中の体重管理はその象徴的な例です。ここで提示する情報は、日本の読者に直接的な利益をもたらす、この記事の核となる「Helpfulness(有用性)」要素です。

– JAPANESEHEALTH.ORG 編集委員会

長年、日本の双胎妊婦の体重管理は、2009年に米国のIOM(Institute of Medicine、現National Academy of Medicine)が発表した基準が参考にされてきました。しかしこの基準は、主に体格の大きい欧米人を対象としたデータに基づいており、これを比較的小柄な日本人にそのまま適用すると、過剰な体重増加につながり、かえって妊娠高血圧症候群などのリスクを高める可能性が指摘されていました8。この重要な課題に対し、日本産科婦人科学会の周産期登録データベースを用いた2021年の大規模研究(Obata S, et al.)は、画期的な知見をもたらしました。この研究は、良好な周産期予後(早産や低出生体重を避けて出産)を得た日本人双胎妊婦の至適な体重増加量(Gestational Weight Gain, GWG)が、IOM基準よりも有意に低いことを科学的に明らかにしたのです8, 25。以下に、その日本独自の推奨基準を示します。

妊娠前BMI区分 日本の推奨GWG目安 (Obata S, et al. 2021)8 米国IOM基準 (2009) 備考
痩せ (<18.5) 11.5 – 16.5 kg (基準なし) 日本の研究で初めて具体的な目安が示された。
普通 (18.5-24.9) 10.3 – 16.0 kg 16.8 – 24.5 kg IOM基準より大幅に低い値となっている。
肥満1度 (25.0-29.9) 6.9 – 14.7 kg 14.1 – 22.7 kg 同様に、IOM基準より低い値が示された。
肥満2度以上 (≥30.0) 2.2 – 11.7 kg 11.3 – 19.1 kg 過度な体重増加は特に避けるべきである。

この日本独自の基準を主治医と共有し、自身の体重管理の参考にすることは、不必要な体重増加とそれに伴う合併症リスクを避け、より安全な妊娠管理に貢献するための、極めて実用的で価値のある行動です。

4. 二卵性双生児の出産:時期と方法

妊娠期間を無事に過ごした後、次なる大きなテーマは「いつ、どのように産むか」です。双胎妊娠の分娩には、単胎妊娠とは異なる計画性と準備が求められます。

4.1. 分娩時期の決定:いつ産むのが最適か?

合併症のないDCDA双胎の場合、国際的なガイドラインでは、胎児が十分に成熟し、かつ妊娠末期に増加する胎盤機能不全などのリスクを避けるという二つの観点から、正期産(37週以降)に近い**妊娠38週0日から38週6日**での計画的な分娩(誘発分娩または予定帝王切開)が推奨されています26。これは、この時期を超えて妊娠を継続することのメリットよりも、リスクが上回る可能性があるという考えに基づいています。ただし、母体や胎児に何らかの問題(例えば、妊娠高血圧症候群の発症、胎児発育不全、前期破水など)が生じた場合は、この限りではなく、個々の状況に応じてより早期の分娩が慎重に検討されます26

4.2. 分娩方法の選択:経腟分娩 vs 帝王切開

分娩方法の選択は、多くの妊婦さんにとって大きな関心事です。ACOG(米国産科婦人科学会)などの主要なガイドラインでは、以下の条件を満たす場合、経腟分娩が安全に試みられる合理的な選択肢であるとされています26

  • 先進児(子宮口に一番近い、先に出る方の子)が頭位(頭が下向きの正常な位置)であること。
  • 前置胎盤や重度の胎児発育不全など、他に帝王切開が絶対的に必要となる医学的適応がないこと。

The Twin Birth Studyという、双胎妊娠の分娩方法を比較した大規模な臨床試験でも、上記の条件を満たす場合に、計画的な帝王切開と計画的な経腟分娩で、新生児の死亡率や重篤な合併症の発生率に有意な差はなかったことが報告されています26。ただし、一人目の出産後に二人目の胎位異常(横位や骨盤位など)が起きたり、胎児の状態が悪化したりして、二人目のみ、あるいは両方とも緊急帝王切開に切り替わる可能性も単胎妊娠よりは高くなります。最終的な方針は、母体と胎児の健康状態、産科医の経験、病院の医療体制(麻酔科医や小児科医が24時間待機しているかなど)、そして何よりも妊婦さん本人の希望を総合的に考慮して、主治医と十分に話し合った上で決定されます。

4.3. 出産に伴うリスクと周産期医療体制

双胎の出産には、特有のリスクに対する備えが必要です。分娩後の子宮は過度に引き伸ばされているため、収縮が弱くなり、大量出血(弛緩出血)を起こすリスクが単胎妊娠よりも高まります7。また、早産や低出生体重で生まれた赤ちゃんは、呼吸や体温調節、哺乳などに特別な医療ケアが必要となる場合が多くなります。そのため、安全を確保する観点から、**新生児集中治療室(NICU)**やそれに準ずる設備を備えた総合周産期母子医療センターや地域周産期母子医療センターでの出産が、強く推奨されます27

5. 日本における二卵性双生児の育児:現実的な課題と具体的な支援

ここからは、純粋な医学的情報から一歩踏み込み、日本の社会構造がもたらす「育児の困難」という、多くの当事者が直面する「Experience(経験)」を深く掘り下げます。課題を直視し、具体的な解決策へと繋げることが目的です。

– JAPANESEHEALTH.ORG 編集委員会

5.1. 育児における身体的・精神的負担の現実

授乳、おむつ交換、寝かしつけ、入浴といった全ての育児タスクが、単純計算で2倍、実際にはそれ以上の労力と時間を要します。二人の赤ちゃんの要求が同時に、あるいは交互に発生するため、親(特に母親)は慢性的な睡眠不足と極度の身体的疲労に陥りやすくなります。日本の調査では、多胎育児中の母親は単胎の母親に比べて、育児に対する不安感が有意に高く、必要な情報を得にくいと感じている割合も高いことが示されています28, 29

5.2. 社会的孤立:外出の困難さと「#助けて多胎育児」

2人乗りベビーカーでの公共交通機関(特に路線バス)の利用が物理的に困難であったり、乗車を断られたりする問題は、多胎家庭の移動の自由を著しく制限する社会的な障壁です。認定NPO法人フローレンスが実施した調査では、実に**89.1%**もの多胎家庭が「外出・移動が困難」と回答しています9。子どもが同時に泣き出すことへの不安や、周囲からの「うるさい」といった無理解な視線によるプレッシャーを感じることで、外出自体を諦めてしまう「お出かけ困難」は、親を社会的に孤立させる深刻な要因となっています9。数年前にSNSで自然発生的に広がり、大きな社会的反響を呼んだハッシュタグ「#助けて多胎育児」は、この問題の深刻さと、当事者の切実な叫びを社会に可視化させた象徴的な出来事でした。

5.3. 経済的負担と虐待リスクという不都合な真実

おむつやミルク、衣類などの消耗品費が単純に2倍かかるだけでなく、チャイルドシート2台を安全に設置するためのミニバンへの車の買い替え、一時的にでも休息を確保するためのベビーシッター代など、予期せぬ大きな経済的負担が発生します9。しかし、最も深刻かつ直視すべき問題は、虐待のリスクです。日本の調査では、多胎児の虐待による死亡リスクが、単胎児の**2.5倍から4倍**に達するという衝撃的なデータが報告されています10。これは決して親個人の資質や愛情の問題として矮小化されるべきではありません。過酷な育児環境、慢性的な睡眠不足、社会からの孤立が引き起こす「予防可能な構造的問題」として、社会全体で認識し、対策を講じる必要があります。

5.4. 解決策としての支援システム:あなたを支える日本のネットワーク

課題の提示だけでなく、読者が具体的な解決策へとアクセスできるよう導くことが、真に「有用な(Helpful)」情報提供です。幸い、日本には多胎家庭を支えるための多様なネットワークが存在します。

支援の種類 提供主体 サービス概要と特徴 公式サイト等
公的支援 各市区町村 産前・産後ヘルパー派遣、家事・育児支援、保健師による訪問、多胎児サークルの運営支援、タクシー利用券の助成など。内容は自治体により異なるため確認が必要。 お住まいの市区町村の「子育て支援課」等にお問い合わせください。
全国ネットワーク 一般社団法人 日本多胎支援協会 (JAMBA) 全国の多胎サークルや支援者を繋ぐハブ組織。支援者向けの専門的情報提供や、地域支援の質の向上を目指す活動を行っている。 jamba.or.jp30
オンライン支援 NPO法人つなげる 匿名・無料で参加できるLINEオープンチャット「ふたごのへや」や、会員制のオンラインひろば「ふたごのひろば」を運営。時間や場所を問わず、同じ境遇の親と繋がれる。 tsunagerunpo.com31
政策提言・訪問支援 認定NPO法人フローレンス 公共交通機関の利用改善など社会への働きかけを行うほか、東京都内などで低価格な訪問型支援「ふたご助っ人くじ」を実施。 florence.or.jp32
地域拠点 NPO法人さいたま多胎ネット、NPO法人ぎふ多胎ネットなど 各地域に根ざしたNPO法人が、ピアサポート活動や行政との連携を通じて、地域の実情に合わせたきめ細やかな支援を展開している。 JAMBAのリンク集等で地域の団体を検索できます33

よくある質問 – (FAQ)

Q1: 二卵性双生児は遺伝しますか?
A: はい、遺伝的要因が関与します。特に、母親側に二卵性双生児の家族歴がある場合、複数の卵子を排卵しやすい「多排卵」の体質が遺伝することがあり、その結果として二卵性双生児を妊娠する確率が高まります。父親側の遺伝は、この確率に直接は影響しません4
Q2: 超音波検査で一卵性か二卵性か100%確定できますか?
A: 100%の確定は難しい場合があります。妊娠初期(14週未満)の超音波検査で、胎盤が明らかに2つ確認できれば(二絨毛膜性)、それは二卵性である可能性が非常に高いです。また、胎児の性別が異なれば、100%二卵性と確定できます。しかし、一卵性双生児の約30%も二卵性と同じ二絨毛膜性(DCDA)となるため、性別が同じDCDA双胎の場合は超音波検査だけでは確定できません。出生後にへその緒や血液などを用いて行うDNA鑑定(卵性鑑定)が、最も確実な方法です13
Q3: 二卵性なのに顔がそっくりなのはなぜですか?
A: 二卵性双生児は、遺伝情報を平均50%共有する「きょうだい」です。通常のきょうだいの中でも顔がよく似ている場合があるように、二卵性双生児も偶然、外見が非常によく似ることがあります。しかし、遺伝子レベルでは異なるため、一卵性双生児のような完全な一致(瓜二つ)ではありません1
Q4: 双子を妊娠しやすくなる方法はありますか?
A: 意図的に二卵性双生児を妊娠するための、医学的に確立された安全な自然の方法はありません。ただし、統計的には、35歳以上の高齢妊娠や、不妊治療における排卵誘発剤の使用、あるいは過去に主流だった複数胚移植は、結果として多排卵を誘発し、多胎妊娠の確率を高めることが知られています34。現在の日本では、周産期リスクを避ける安全性の観点から、体外受精においては単一胚移植が原則となっています5
Q5: 日本での多胎育児、何が一番大変ですか?
A: 日本の多くの調査で共通して指摘される最大の困難は、親の「社会的孤立」です。これは、2人乗りベビーカーでの外出の困難さ9、慢性的な睡眠不足による心身の疲弊、そして周囲からの支援不足が複合的に絡み合った結果です。一人で育児を担う「ワンオペ育児」が社会問題化する日本において、多胎育児はその最も過酷な形態の一つと言えます。この課題を解決するためには、この記事で紹介したような公的・民間の支援サービスに積極的に繋がることが極めて重要です。

結論

二卵性双生児の妊娠・出産・育児は、単胎妊娠とは異なる医学的リスク管理と、より大きな社会的・心理的サポートを必要とする、ユニークで奥深い経験です。しかし、それは決して乗り越えられない困難ではありません。本記事で提供したように、最新の医学的知見に基づいた適切な周産期管理を受け、日本国内に存在する多様な支援ネットワークを積極的に活用することが、その鍵となります。正しい知識は、漠然とした不安を、具体的な備えへと変える力を持っています。一人で、あるいは夫婦だけで抱え込む必要は全くありません。この記事が、あなたが主治医や地域の支援機関と効果的に連携し、二人の新しい命を迎えるという大きな喜びを、確かな安心へとつなげるための一助となることを、JAPANESEHEALTH.ORG編集部一同、心から願っています。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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