日本の透析患者さんのための食事療法 完全ガイド:健康で質の高い生活を送るために
腎臓と尿路の病気

日本の透析患者さんのための食事療法 完全ガイド:健康で質の高い生活を送るために

日本は現在、医療における重要な課題に直面しています。日本透析医学会(JSDT)の最新の統計報告によると、2023年末時点で約343,508人もの患者が慢性透析療法を継続しています1。この報告書が示す全体像は複雑であり、患者の平均年齢は70.09歳に達し、患者層の高齢化が進行していることを浮き彫りにしています1。透析導入の最大の原因は糖尿病性腎症で、全症例の39.5%を占め、次いで慢性糸球体腎炎(23.4%)、腎硬化症(14.0%)と続きます1。これらの数字は単なる統計ではなく、医療現場における深刻な挑戦を意味します。高齢の患者層は、認知機能の低下、身体的フレイル(虚弱)、サルコペニア(筋肉減少症)といった問題を伴うことが多く、これらは食事管理を一層複雑化させる要因となります2。さらに、糖尿病性腎症が主流であることは、治療における矛盾を生み出します。つまり、消耗を防ぐために十分なエネルギーを供給しつつ、血糖値を厳格に管理するという両立が求められるのです4。このような状況において、本稿は中心的な論点を提示します。それは、透析患者にとって食事は単なる制限や負担ではなく、彼らが日々自ら管理できる最も積極的かつ重要な「治療法」であるということです6。食事管理は補助的な作業ではありません。それは透析治療の効果を最大化し、合併症を最小限に抑え、そして最も重要なこととして、生活の質(QOL)を高めるための基盤なのです。本稿では、日本の厳格な医学的指針に基づき、患者とその家族が毎日の食事を健康な生活への一歩とするための、詳細な分析と包括的な行動計画を提供します。


この記事の科学的根拠

この記事は、提供された調査報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したものです。

  • 日本透析医学会(JSDT): 本記事におけるエネルギー、たんぱく質、食塩、水分、カリウム、リンの摂取基準に関する指導は、JSDTが発行した「慢性透析患者の食事療法基準」に基づいています7
  • 日本腎臓学会(JSN): 慢性腎臓病(CKD)の各ステージにおける栄養目標の比較分析は、JSNが発行したガイドラインおよび生活・食事指導マニュアルに基づいています1617
  • 臨床現場からの報告: 高齢患者やフレイル、サルコペニアを合併する患者の栄養管理に関する考察は、第67回日本透析医学会学術集会での報告など、実際の臨床現場からの知見を反映しています2
  • 食品成分に関するデータ: カリウムやリンの含有量、リン/たんぱく質比(P/P比)に関する具体的な数値や食品例は、日本の食品成分データベースや専門家向け資料から引用されています911

要点まとめ

  • エネルギーとたんぱく質が基本:十分なエネルギー(30-35 kcal/kg/日)と適正なたんぱく質(0.9-1.2 g/kg/日)の摂取が、体力の維持と消耗の防止に不可欠です5
  • 3つの厳格な管理対象:食塩(6g/日未満)、水分(できるだけ少なく)、カリウム(2,000mg/日以下)、リン(たんぱく質(g)×15 mg/日以下)の管理は、合併症予防の鍵となります7
  • 調理の工夫が重要:「茹でこぼし」や「水にさらす」ことでカリウムを減らし、香辛料や酸味を活用して減塩するなど、調理法を工夫することで食事は美味しく安全になります14
  • 外食・コンビニも怖くない:栄養成分表示の確認、定食の選択、ラーメンの汁を残すなどの賢い選択で、外食やコンビニ食も楽しむことが可能です2127
  • 精神的なサポートが不可欠:食事制限によるストレスを管理し、「食べる楽しみ」を維持することが、治療を長く続けるための原動力です。専門家や家族のサポートが重要になります2

第一部:科学的根拠に基づく食事療法の基礎知識

透析患者の食事管理は、日本の主要な医学会によって標準化された確固たる科学的基盤の上に成り立っています。これらの原則を深く理解することは、自身の健康を管理する上で最も重要な第一歩です。

日本の医療ガイドラインが示す栄養基準の核心

日本透析医学会(JSDT)のガイドラインは、日々の栄養管理のための詳細な枠組みを提供しています7

  • エネルギー:目標は1日あたり標準体重1kgにつき30~35 kcalです。十分なエネルギー供給は、体がエネルギー源として自己のたんぱく質(特に筋肉)を分解し、低栄養や筋肉の消耗につながるのを防ぐために極めて重要です5
  • たんぱく質:目標は1日あたり標準体重1kgにつき0.9~1.2 gです。透析前の段階とは異なり、透析患者はろ過プロセス中に失われるたんぱく質を補うためにより多くの量を必要とします。しかし、肉、魚、卵、大豆製品などの良質なたんぱく質(必須アミノ酸が豊富)を優先し、同時に血液中に蓄積する可能性のあるたんぱく質代謝の副産物を制御するという、絶妙なバランスが求められます5
  • 食塩(塩化ナトリウム):目標は1日あたり6g未満です。この関連性は非常に明確です。塩分を多く摂ると喉が渇き、水分を多く飲むことにつながります。この過剰な水分は透析と透析の間に体内に蓄積し、過度な体重増加を引き起こします。これにより、透析装置は短時間で大量の水分を除去する必要に迫られ、急激な血圧低下、こむら返りといった危険な合併症を引き起こす可能性があり、長期的には心臓への負担となり心不全に至ることもあります5
  • 水分:JSDTのガイドラインは「できるだけ少なく」と指導しています7。これは絶対的な数値ではなく、個別化されるべき原則です。水分摂取量は、残存尿量(もしあれば)と、透析間の許容体重増加(通常はドライウェイトの3~5%以内)に基づいて調整されるべきです5
  • カリウム:目標は1日あたり2,000mg以下です。健康な腎臓は余分なカリウムを排泄する役割を担います。この機能が低下すると、血液中にカリウムが蓄積します(高カリウム血症)。カリウム濃度が過剰に高くなると、重篤な不整脈や心停止を引き起こす可能性のある医学的緊急事態となります12
  • リン:目標は1日あたり(たんぱく質摂取量(g) × 15)mg未満と計算されます。血液中にリンが蓄積すると、骨の問題(骨を弱くし、骨折しやすくする)を引き起こし、より危険なのは血管の石灰化を促進し、心血管疾患のリスクを高めることです14

医学ガイドラインにおける比較と一貫性

JSDTのガイドラインと、日本腎臓学会(JSN)が慢性腎臓病(CKD)の各ステージの患者向けに提供しているガイドラインを比較すると、特にステージ5D(透析期)において高い一貫性が見られます16。これは、日本における医学的推奨の信頼性を裏付けるものです。

しかし、患者が透析前の段階から透析段階へ移行する際の栄養要件の変化を強調することが重要です。CKDステージ3b-5では、病気の進行を遅らせるために、より厳格なたんぱく質制限(例:0.6-0.8 g/kg)が実施されます。しかし、一度透析を開始すると、治療過程での損失を補うためにたんぱく質の必要量は増加します12

以下の比較表は、患者と家族が自身の栄養目標をより明確に理解するのに役立ちます。

表1.1: 栄養基準の比較:透析患者(JSDT)と日本人一般人口(2020年版)

栄養素 透析患者の基準7 健康な日本人の基準(参考)9 差異の科学的理由
エネルギー 30-35 kcal/kgBW/日 男性: 2,200-3,050 kcal/日
女性: 1,950-2,350 kcal/日
慢性的な炎症状態や透析プロセスによる身体消耗を避けるため、十分なエネルギーを確保する。
たんぱく質 0.9-1.2 g/kgBW/日 男性: 65 g/日
女性: 50 g/日
透析膜を介して失われるアミノ酸を補うためにより多くのたんぱく質が必要だが、尿毒症性毒素の産生を抑えるために管理も必要。
食塩 <6 g/日 男性: <7.5 g/日
女性: <6.5 g/日
腎臓が塩分を効果的に排泄できなくなり、体液貯留、高血圧、心臓への負担を引き起こす。
カリウム ≤2,000 mg/日 男性: ≥2,500 mg/日
女性: ≥2,000 mg/日
腎臓がカリウムを排泄できないため、不整脈や心停止を引き起こす高カリウム血症のリスクがある。
リン たんぱく質(g) × 15 mg/日 男性: 1,000 mg/日
女性: 800 mg/日
腎臓がリンを排泄できないため、骨疾患や血管石灰化を引き起こす高リン血症のリスクがある。
表1.2: 栄養のロードマップ:慢性腎臓病(CKD)ステージ毎の目標

CKDステージ (GFR) たんぱく質 (g/kgBW/日)16 食塩 (g/日)16 カリウム (mg/日)12
ステージ3a (45-59) 0.8-1.0 <6 制限なし
ステージ3b (30-44) 0.6-0.8 <6 ≤2,000
ステージ4 (15-29) 0.6-0.8 <6 ≤1,500
ステージ5 (<15, 未透析) 0.6-0.8 <6 ≤1,500
ステージ5D (透析) 0.9-1.2 <6 ≤2,000

これらの数値の背後にある柔軟性を強調することが重要です。ガイドラインは非常に具体的な目標を提示していますが、これらの文書自体も、体格、尿量、栄養状態に基づいて「個人に合わせた調整」を行うことの重要性を指摘しています7。臨床の管理栄養士は、機械的に規則を適用するのではなく、常に患者と協力して持続可能な計画を見つけ、安全な方法で好きな食べ物を楽しむ方法さえも模索します2。したがって、患者はこれらの数値を、ストレスを引き起こす「鉄の掟」ではなく、目指すべき「目標」と見なすべきです。医療チームと緊密に連携して食事を個別化することが、成功への鍵となります。

厳格な管理が求められる三大要素:カリウム、リン、塩分

エネルギーとたんぱく質の確保が土台である一方、カリウム、リン、塩分の管理は、特別な注意を要する日々の挑戦です。

2.1. カリウム(カリウム)の管理

カリウムが豊富な食品:日本人の食事におけるカリウムの豊富な供給源を認識する必要があります。データによると、一部の食品は非常に高いカリウム含有量を示しています9

  • ドライフルーツ:干しあんず(1300 mg/100g)、干しバナナ(1300 mg/100g)。
  • 豆類・粉類:大豆(炒り)(2000 mg/100g)、きな粉(2000 mg/100g)。
  • いも類:干し芋(980 mg/100g)、フライドポテト(660 mg/100g)。
  • 野菜:ほうれん草(生)(690 mg/100g)。

カリウムを減らす技術:幸いなことに、カリウムは水溶性であるため、賢い調理技術によってその含有量を大幅に減らすことができます14

  • 茹でこぼし:これは最も効果的な技術です。例えば、ブロッコリー100gを茹でるとカリウムは210mgに減少しますが、焼くと820mgものカリウムが残ります9
  • 細かく刻んで水にさらす:食品を細かく刻むことで水との接触面積が増え、カリウムがより効果的に溶け出します。

2.2. リン(リン)の管理

有機リン vs. 無機リン:これは専門的ですが、非常に重要な知識です。

  • 有機リン:肉、魚、豆などの自然食品に含まれます。体内への吸収率は約40~60%です。
  • 無機リン:加工食品(インスタントラーメン、ソーセージ、缶詰、炭酸飲料など)に添加物として使用されます。このタイプのリンは体内への吸収率が非常に高く、ほぼ100%です14。これが、加工食品を制限することが最も重要な原則の一つである主な理由です。

高度なツール:リン/たんぱく質比(P/P比):賢く食品を選ぶために、患者はP/P比を利用することができます。目標は、この比率が低い食品を選ぶこと、つまり、より少ないリンでより多くのたんぱく質を摂取することです11

表2.1: リン/たんぱく質比(P/P比)早見表

P/P比 (mgリン / gたんぱく質) 食品例11
< 5 (非常に良い) 卵白、鶏ひき肉
5 – 10 (良い) 鶏肉(もも、むね)、牛肉(ヒレ)、豚肉(ヒレ)、中華めん
10 – 15 (許容範囲) まぐろ(赤身)、かつお、さけ、納豆、油揚げ、全卵、ウインナーソーセージ、ごはん、豆乳
15 – 25 (注意が必要) そば、豆腐、魚肉ソーセージ、ロースハム、加糖ヨーグルト
> 25 (制限が望ましい) 無糖ヨーグルト、牛乳、プロセスチーズ

2.3. 塩分(食塩)の管理

「隠れた敵」:塩分は食卓の塩瓶からだけ来るのではありません。日本の食文化では、塩分は多くの場所に潜んでいます4

  • 加工食品:ラーメン一杯には最大4.9gの塩分が含まれている場合があり、これはほぼ1日分の制限量に相当します9
  • 漬物:ザーサイは100gあたり13.7g、梅干しは100gあたり18.2gの塩分を含みます。
  • 練り物:かまぼこ、さつま揚げなど。
  • 汁物・調味料:麺類のつゆ、ソース類。

食品選択には驚くべき「ドミノ効果」があります。自分で調理した食事の代わりにインスタントラーメンを選ぶという一見単純な決定は、塩分量を急増させるだけではありません。その高い塩分は水分摂取を促し、体重増加と心臓への圧力を引き起こします。そのラーメンには、吸収されやすい無機リンも豊富に含まれています。また、質の低いたんぱく源で一日のたんぱく質「割り当て」を消費してしまいます。逆に、新鮮で加工度の低い食品を優先するという単純な原則に従うことで、塩分、リン、たんぱく質の質に関する多くの問題を同時に解決することができます。

第二部:透析と共存する生活のための実践計画

和食の芸術:透析患者のための調理技術と献立例

透析患者の食事は、日本の豊かな和食文化を諦めることを意味しません。いくつかの賢い調整技術を適用することで、患者と家族は美味しく、親しみやすく、安全な食事を楽しみ続けることができます。

3.1. 基本的な調理技術

  • 茹でこぼしと水にさらす:これらはカリウムを減らすための最も基本的な技術です。ほうれん草、ブロッコリー、じゃがいもなどの野菜は、細かく切り、約30分水にさらし、その後熱湯で茹でて茹で汁を捨てます。このプロセスでカリウムの30~50%を除去できます14
  • 油と砂糖でエネルギーアップ:炒め物や揚げ物(天ぷら、唐揚げ)に油を使ったり、煮物に砂糖、はちみつ、シロップを少し加えたりして、たんぱく質、カリウム、リンを大幅に増やすことなくエネルギーを補給することをためらわないでください。これは高いカロリー要求を満たすための効果的な戦略です4
    • 糖尿病患者への特記:健康的な脂肪や特別なでんぷん製品(春雨、片栗粉など)の使用など、代替案については医師や管理栄養士に相談が必要です。
  • 賢い減塩技術
    • うま味の活用:塩の代わりに、昆布とかつお節から作る無塩のだしの自然なうま味を活用します。
    • 酸味と香辛料の活用:レモン、酢、ゆずの酸味や、しょうが、にんにく、しそ、こしょう、からしの香りは、多くの塩を使わなくても料理を風味豊かにします5
    • 味付けの集中:すべての料理を薄味にするのではなく、主菜一つを少し濃いめの味付けにし、他の料理は非常に薄味に保ちます。これにより対比が生まれ、食事がより満足のいくものになります。

3.2. 1日の献立例の構築

以下は、分析されたレシピと原則に基づいて調整された、日本風の一日の献立例です20

  • 朝食
    • 主食:白米
    • たんぱく質料理:だし巻き卵(塩は控えめに、エネルギー増強のために少し砂糖を加えてもよい)
    • 汁物:豆腐とわかめの味噌汁(具のみ食べ、汁は飲まない)
    • 野菜料理:きゅうりの酢の物(無糖)を少量
  • 昼食
    • 主食:白米
    • たんぱく質料理:豚の生姜焼き(減塩醤油を使用し、風味付けに生姜を多めに)
    • 野菜料理:千切りキャベツのサラダ(カリウムを減らすために水にさらし、他のドレッシングより塩分が少ないマヨネーズを少量使用)
  • 夕食
    • 主食:白米
    • たんぱく質料理:さんまの塩焼き(焼く直前にごく少量の塩を振る)
    • 煮物:大根と豚肉の煮物(減塩醤油とみりんで味付け。大根は煮る前に下茹で)
    • 野菜料理:小松菜のおひたし(茹でこぼし、少量の胡麻油で和える)
  • 間食(エネルギー補給が必要な場合):フルーツゼリー(シロップは捨てる)、高エネルギービスケット、または飴。

3.3. 献立例の推定栄養分析表

食事 料理 エネルギー (kcal) たんぱく質 (g) 食塩 (g) カリウム (mg) リン (mg)
朝食 ごはん、だし巻き卵、味噌汁(具のみ)、酢の物 450 15 1.5 450 250
昼食 ごはん、豚の生姜焼き、キャベツサラダ 650 25 2.0 600 350
夕食 ごはん、さんまの塩焼き、大根の煮物、おひたし 600 25 1.8 650 350
間食 フルーツゼリー 100 0.5 0.1 100 20
合計 1,800 65.5 5.4 1,800 970

注意:上記の数値は体重60kgの人を対象とした推定値であり、分量や具体的な材料によって変動する可能性があります。

この分析表は、適切な調理技術と食品選択を適用することで、美味しく多様で、厳格な栄養目標を満たす献立を構築することが完全に可能であることを示しています。これは、目標が和食文化を「排除」することではなく、「調整」することであり、患者が長期的な治療遵守にとって極めて重要な心理的要素である「食べる楽しみ」を維持するのに役立つことを証明しています2

コンビニ・外食を「制覇」する:賢い選択のための手引き

日本の現代生活は、24時間営業のコンビニエンスストア(コンビニ)の利便性や外食と密接に関連しています。現実的な食事計画は、これらの状況を認識し、解決策を提供しなければなりません。これらを無視すれば、あらゆる助言は現実離れしたものになってしまいます。

4.1. コンビニでの戦略

コンビニでの賢い選択は、忙しい日の救世主となり得ます。以下は黄金の原則です21

  • 基本は白米:常に白米(白飯)または具なし・塩分控えめの具(卵、ツナマヨなど)のおにぎりを選びましょう。混ぜご飯やチャーハンは塩分が多いことが多いので避けます。
  • 栄養成分表示を読む:これは最も重要なスキルです。ほとんどの製品には、エネルギー、たんぱく質、そして特に食塩相当量が明記されています。
  • 「危険な三点セット」を避ける:練り物(かまぼこ、ちくわなど)、漬物、加工肉製品(ソーセージ、ハム)は最大限に制限します。これらは塩分と無機リンを多く含みます21
  • サラダを優先する:コンビニのカット野菜サラダは、製造過程で洗浄・水さらしされていることが多く、カリウムが一部減少しています25。塩分量を減らすために、醤油ベースのドレッシングよりオイルベースやマヨネーズタイプのドレッシングを選びましょう26
  • 揚げ物:唐揚げやコロッケなどの揚げ物は良いエネルギー源になり得ますが、適量を守り、塩分やカリウムの含有量に注意が必要です。

4.2. コンビニでの食事組み合わせ提案表

以下は、一般的なコンビニチェーンでバランスの取れた食事を組み合わせる方法の具体例です。これは、各情報源からの詳細な分析に基づいています21

表4.1: 賢いコンビニ献立と栄養分析

コンビニチェーン 食事の組み合わせ提案 エネルギー (kcal) たんぱく質 (g) 食塩 (g)
セブン-イレブン 1. 白米 (180g)
2. 銀鮭の塩焼
3. なすの揚げびたし
~536 ~21 ~2.0
ファミリーマート 1. 白米 (180g)
2. メンチカツ (1個)
3. ツナとコーンのサラダ
4. 減塩ドレッシング
~638 ~16.7 ~1.8
ローソン 1. ホットドッグ
2. かぼちゃサラダ
3. 間食: 大福
~546 ~12.1 ~2.1

注意:商品や栄養価は変更されることがあります。購入前に必ず商品のラベルを確認してください。

4.3. 外食のガイドライン

家族や友人と外食することは、社会生活の重要な一部です。患者はこの楽しみを完全に諦める必要はありません。

  • 定食を選ぶ:ラーメンや丼もののような塩分や水分量の多い単品料理を選ぶ代わりに、定食を優先しましょう。定食は通常、ごはん、主菜、副菜、汁物で構成されており、何を食べるかをより良く管理できます27
  • 定食の「対処法」
    • 残す:漬物は必ず残します。
    • 味噌汁:具(豆腐、わかめなど)だけを食べ、汁はほとんど残します。
    • ソース・たれ:添え付けのソースを使う前に料理を味見します。必要であれば、料理全体にかけるのではなく、少量をつけて食べます。
    • 特別なリクエスト:レストランに、料理を薄味にしてもらえるか尋ねることをためらわないでください。

これらの実践的な指導を提供することは、患者の生活への共感を示すものです。「私たちはあなたの挑戦を理解しており、これが実生活で乗り切る方法です」というメッセージを伝えます。これは信頼を築き、患者の治療遵守率を効果的に高めるのに役立ちます。

食事を超えて:精神的健康と治療継続への支援

厳格な食事療法に従うことは、栄養学の知識だけの問題ではありません。それは心理的、社会的な大きな挑戦でもあります。包括的な行動計画は、長期的な成功を確実にするために、この「人間的」側面にも対処しなければなりません。

5.1. 食事制限の心理

特別な食事に従わなければならないことは、多くの否定的な感情につながる可能性があります。

  • 喪失感と孤立感:患者は、人生の大きな楽しみの一つである「食べる喜び」を失ったと感じるかもしれません。家族の食事や社会的な集まりで、他の人と同じものを食べられないとき、孤立感を感じることがあります28
  • ストレスと不安:毎食のカロリー、たんぱく質、カリウム、リン、塩分を常に計算しなければならないことは、絶え間ないストレスと不安を引き起こす可能性があります。
  • 「食べる楽しみ」の重要性:多くの専門家は、食事の楽しみを維持することが、患者が持続的に食事療法を遵守するための核心的な要素であると強調しています。食事が拷問のようになれば、患者はすぐに諦めてしまうでしょう2

5.2. 管理栄養士の不可欠な役割

管理栄養士は単に規則を提示する人ではありません。彼らの役割はもっと深遠です。

  • 伴走者であり交渉者:厳格な規則を押し付けるだけでなく、優れた管理栄養士は患者と共に働き、彼らのライフスタイル、好み、状況に合った解決策を見つけ出します。彼らは「好きなものを安全に食べるにはどうすればいいか?」という問いに患者が答えるのを助けます19
  • データに基づいた個別化アプローチ:専門家は、定期的な血液検査の結果(カリウム、リン、アルブミンの濃度)、透析間の体重増加、患者の食事日記に基づいて、すべての人に共通の公式を適用するのではなく、柔軟に推奨事項を調整します2

5.3. 支援のエコシステム:家族と介護者

食事療法の成功は、しばしば家族からの支援に大きく依存します。

  • 共通の課題:食事を作る家族は、患者のために別々に味付けをすることに困難を感じたり、制限の重要性を十分に理解していなかったりして、塩辛すぎる料理や不適切な食材を使った料理を作ってしまうことがあります2
  • 家族を味方につける:食事管理のプロセスに家族を教育し、巻き込むことが重要です。栄養指導のセッションには、主たる調理者が参加すべきです。彼らに簡単なレシピ、味付けのコツを提供し、「なぜ」そうする必要があるのかを明確に説明することで、彼らを潜在的な障壁から貴重な支援源に変えることができます。

5.4. 特別なケースへの解決策

認知機能の低下や身体的な問題で食事が困難になっている高齢患者には、創造的な解決策が必要です2

  • 食事形態の調整:おにぎりのような手で食べやすい食事に切り替えたり、混乱を減らすためにワンプレートで食事を提供したりします。
  • 食事環境の調整:使い慣れた、注意散漫になる模様のない食器を使用します。患者が食事に集中できるよう、静かな食事空間を作ります。
  • 記憶と味覚の刺激:馴染みのある料理、故郷の料理、または患者が好んだ料理を提供することで、食欲と食物の認識を刺激するのに役立ちます。

最終的に、最も重要なことは、食事療法の遵守が長い道のりであることを認識することです。良い日もあれば、そうでない日もあります。罪悪感を感じる代わりに、患者と家族は持続可能な努力を維持し、必要なときに支援を求め、最終的な目標がより質の高い生活を送ることであることを決して忘れるべきです。

よくある質問

透析を始めたら、もう好きなものは食べられないのでしょうか?

いいえ、そんなことはありません。目標は「完全に禁止」するのではなく、「賢く管理」することです。管理栄養士と相談し、調理法を工夫したり、食べる量や頻度を調整したりすることで、多くの好きな食べ物を安全に楽しむことが可能です19。例えば、カリウムの多い野菜でも「茹でこぼし」をすれば食べられますし、塩分の多い料理も味付けを工夫すれば楽しめます。「食べる楽しみ」を維持することは、治療を長く続ける上で非常に重要です2

外食やコンビニ食は絶対に避けるべきですか?

絶対に避ける必要はありません。現代の生活において、外食やコンビニ食を完全に排除するのは非現実的です。重要なのは「賢い選択」です。コンビニでは栄養成分表示を必ず確認し、塩分やリンの少ない商品を選びましょう21。外食では、ラーメンや丼ものより定食を選び、汁物や漬物は残す、ソースはかけずに少量つける、といった工夫で大幅に塩分や水分を減らすことができます27

カリウムを減らす調理法(茹でこぼしなど)は、他の栄養素も失われませんか?

はい、カリウムと同様に水溶性であるビタミンB群やビタミンCなども一部失われます。しかし、透析患者さんにとって高カリウム血症のリスクは生命に関わるため、カリウムを減らすことが最優先されます12。失われる栄養素については、他の食品からバランス良く摂取することや、必要に応じて医師や管理栄養士の指導のもとでサプリメントを利用することを検討します。まずは安全を確保することが第一です。

家族として、食事の準備で何を手伝えますか?

ご家族のサポートは非常に重要です。まず、なぜ食事制限が必要なのか(例えば、塩分は心臓の負担に、カリウムは不整脈につながるなど)を一緒に学び、理解することが第一歩です。その上で、減塩調理のコツ(だしや香辛料の活用)を実践したり、栄養指導に一緒に参加したりすることが大きな助けになります2。患者さん本人が孤立感を感じないよう、家族も一緒に薄味に慣れるなど、チームとして取り組む姿勢が大切です。

結論

本稿で詳述したように、日本の透析患者における食事管理の成功は、三つの主要な柱に基づいています。第一に、JSDTやJSNのガイドラインに示される栄養目標(エネルギー、たんぱく質、塩分、水分、カリウム、リン)に関する正確な「知識の基盤」です。第二に、その知識を日常生活で実践するための「実用的なスキル」であり、これには調整された和食の調理技術から、コンビニや外食での賢い選択までが含まれます。そして第三に、長期的な遵守を支える「精神的な強さ」であり、これにはモチベーションの維持、食の楽しみの再発見、そして家族や医療チームからの強力な支援体制の構築が不可欠です。

透析治療における食事療法は、単なる制限の連続ではなく、患者自身が主体的に健康管理に参加し、生活の質を向上させるための強力な手段です。正しい知識を身につけ、日々の生活で実践的な工夫を凝らし、周囲のサポートを得ることで、この挑戦的な道のりを乗り越え、より豊かで健康的な生活を送ることが十分に可能なのです。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  28. 管理栄養士が全レシピ考案!透析患者さん向け食事療法総合サイト。透析食.com [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.tousekisyoku.com/recipes
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