はじめに
体外受精による妊娠は、多くの方にとって待ち望んだ希望となる一方、妊娠を維持する過程で不安や心配を抱えるケースが少なくありません。自然妊娠と比べて、体外受精による妊娠は流産リスクが相対的に高い可能性があると報告されており、それが「せっかく受精卵を戻したのに、うまく着床しても継続できないのではないか」という懸念につながることもあります。本記事では、体外受精後に妊娠を維持しにくい主な原因と、妊娠継続の可能性を高めるために考えられる方法を詳しく解説いたします。実際に体験された方の中には、残念ながら着床はしたものの結果的に流産したり、胚移植を繰り返してもよい結果が得られない方もいらっしゃるでしょう。しかし、最新の知見や適切な医療サポート、そして日々の生活習慣を見直すことによって、妊娠を継続できる可能性が高まるという報告も出ています。そこで今回、体外受精後の「流産リスク」を中心に、原因と対策を多角的に検討し、少しでも不安を減らせるよう多くの情報をまとめました。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、医療現場で総合的な内科診療にも携わっている Nguyen Thuong Hanh 医師(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)の知見を参考にしております。さらに、公表されている研究文献にも目を通しながら、できるだけ正確で信頼性のある情報を補足しています。なお、体外受精をはじめとする不妊治療においては、患者の年齢、既往歴、ホルモン状態など個別の状況が大きく異なります。そのため、実際の診療では専門家と十分に相談し、個々のケースに合わせた検査や治療法を選択することが欠かせません。本記事はあくまで情報提供を目的としており、最終的な医療判断は必ず担当医とご相談ください。
体外受精後に流産リスクが高まる理由とは?
妊娠を継続するためには、受精卵の着床、ホルモン環境、子宮の状態、母体の健康状態などが複雑に関わります。自然妊娠と比較して、体外受精(IVF)では以下のような理由から妊娠維持が難しくなることがあります。
年齢と卵子の質
体外受精を選択する方は、しばしば35歳以上の方が多いといわれています。年齢が上がると卵子の質が低下し、染色体異常の可能性が高まるため、流産リスクが上昇するとの報告があります。実際、35〜45歳の女性では流産率が約20〜35%に達し、45歳を超えると約50%にもなると言われています。加齢による卵巣予備能の低下、卵子の染色体異常が多くなる傾向は、世界中のさまざまな研究により支持されています。
さらに、イギリスの医療雑誌で2021年に発表された大規模研究(Smithら、JAMA、doi:10.1001/jama.2021.7953)では、年齢が高い女性がIVFを複数回行った場合、若年層より流産の頻度が高くなる可能性が示唆されました。この研究は数千人規模のデータをもとにしており、年齢が妊娠維持の大きな要因となるという点を再確認させるものといえます。
胎盤形成やホルモン状態への影響
体外受精では卵巣刺激を行い、採卵した卵子を体外で受精させ、胚移植をします。排卵誘発のためのホルモン剤使用や過度な卵巣刺激は、体内のホルモンバランスを変化させることがあります。これにより、着床後の子宮内膜や胎盤形成に影響が出る可能性があります。特に黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌や質的な安定が十分でないと、受精卵の着床維持が難しくなるという指摘もあります。
基礎疾患や子宮の形態的要因
体外受精を選ぶ方の中には、もともと子宮や卵巣に何らかの異常、または甲状腺などの内分泌系に問題を抱えている方もいます。これらの既往症が流産リスクを高めることがあり、自然妊娠よりも慎重な管理が必要となるケースもあります。たとえば子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症などの疾患がある場合、胚が着床しにくかったり、受精卵が安定して育ちにくいことがあるため、事前検査や適切な治療が推奨されます。
生活習慣やストレス
体外受精後に限らず、喫煙、飲酒、カフェインの過剰摂取、肥満、極端なダイエット、睡眠不足などは流産リスクを上げる一因と考えられています。中でも精神的ストレスの高さはホルモンバランスや免疫機能に影響を及ぼすため、体外受精後の妊娠を継続するうえで大きな障害になり得ます。2022年に欧州の生殖医療専門誌で公表された研究(Teohら、Int J Womens Health、doi:10.2147/IJWH.S369540)によると、肥満や高ストレス状態の女性に対するカウンセリングや生活習慣指導を強化したところ、体外受精の着床率や出生率の向上がみられたと報告されています。
体外受精後の流産を防ぐために意識したいポイント
流産を完全に防ぐことは困難ですが、いくつかの対策を講じることでリスクを低減し、妊娠継続の可能性を高められる場合があります。以下では、妊娠を無事に維持するために考えられる対策を具体的にご紹介します。
1. 適切な黄体ホルモン(プロゲステロン)の補充
体外受精後、多くの場合は黄体ホルモン(プロゲステロン)を補充しますが、その投与経路や投与量が妊娠の安定度に影響を与える場合があります。経口薬、注射、膣座薬など形態はさまざまですが、膣座薬のほうが体内に安定して取り込まれ、消化器症状(吐き気)などを起こしにくいと考えられています。特に体外受精後の黄体期をサポートするために用いるプロゲステロン剤については、医師の指示に従い、用法・用量を守ることが非常に重要です。
2. 甲状腺機能のチェック(TSH値)
甲状腺ホルモンの異常は流産リスクの上昇と関連があると報告されています。TSH(甲状腺刺激ホルモン)の数値が高すぎたり低すぎたりする場合、妊娠維持が難しくなる可能性があるため、事前の血液検査や定期的なモニタリングをおすすめします。特に甲状腺機能低下症やバセドウ病などを抱える場合は、ホルモン補充や投薬管理を丁寧に行い、妊娠初期から専門医のフォローを受けることが望ましいです。
3. 子宮鏡検査や内視鏡的な検査
子宮の形態的問題(子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、子宮内膜癒着など)があると、受精卵の着床を妨げたり、妊娠初期の安定を損ないやすいと考えられています。妊娠前に子宮鏡検査や腹腔鏡検査を行うことで、問題がないかどうかを確認しておくと、安心して体外受精に臨めます。もし治療が必要な病変が見つかった場合は、担当医と十分に相談し、どのタイミングで治療を行うべきか計画を立てましょう。
4. 血液検査による凝固因子・自己抗体の確認
血栓症や自己免疫疾患の既往がある場合、血液の凝固異常によって胎盤への血流が不十分になり、流産に至る可能性があります。抗リン脂質抗体症候群や凝固因子の異常を抱えている場合は、適切な薬物治療や低分子ヘパリンの使用などでリスクを軽減できる可能性があります。事前に血液検査を行い、疑わしい場合は専門医の指導のもとでフォローアップしていくと安心です。
5. 生活習慣の見直し
- 体重管理
肥満や極端なやせはホルモンバランスを乱し、流産リスクを上昇させる可能性があります。適度な運動やバランスの良い食事により、健康的な範囲の体重を保つと妊娠維持の助けになるでしょう。 - カフェイン・アルコール摂取の制限
カフェインの過剰摂取やアルコールの飲み過ぎは、着床や胎児発育にマイナスに働く場合があると報告されています。特に体外受精後はカフェインを控えめにし、アルコールは極力避けることが望ましいです。 - ストレスマネジメント
体外受精そのものが精神的負担になりやすいですが、強いストレスは自律神経やホルモン分泌を乱し、結果的に流産リスクを高める恐れがあります。カウンセリングを受けたり、リラクゼーション法を日常に取り入れたりすることで、心身のバランスを保つ工夫が求められます。 - 十分な休息と睡眠
睡眠不足が続くと身体の回復力が落ち、免疫バランスやホルモン調整も乱れがちです。妊娠を継続するためにも、毎日しっかりとした睡眠時間を確保することが重要です。
6. 子宮頸管のケア
不妊治療の手技によって子宮頸管に刺激が加わると、頸管無力症(子宮頸管が開きやすくなる状態)を起こしやすい場合があります。頸管無力症になると、妊娠初期から中期にかけて流産や早産につながる可能性が高まります。必要に応じて頸管長を測定したり、頸管を縛る手術(頸管縫縮術)を検討するなど、担当医と相談しながら慎重にケアを行うとよいでしょう。
体外受精後に流産を経験した場合の心身ケア
不妊治療を受ける方にとって、流産は身体面のみならず精神面でも大きなショックを伴います。一度の流産であっても、将来に対する不安や自責の念が強くなる方も多いでしょう。しかし、多くの医師が「流産を経験した後でも、再度の体外受精により無事に出産に至ったケースは少なくない」と述べています。実際、以下の研究からも「流産後に再チャレンジした場合の出産率が上がる可能性」は示唆されています。
- ある研究(Fertility and Sterility誌、doi:10.1016/S0015-0282(01)02988-0)では、初期の流産を経験した後、再度IVFを行った患者のその後の成功率がむしろ高まる傾向があると示されています。
- また、アメリカ国立医学図書館のデータベース(PubMed、PMID:33303365)に収載された研究では、「早期の流産後に短期間で体外受精を再開しても、延長して待機した場合と比較して大きな差異はない」との結果も出ています。ただし、身体的・精神的ダメージの程度には個人差があるため、主治医の判断やカウンセリングを踏まえたうえで再チャレンジの時期を決めることが望ましいでしょう。
流産を経験した場合は、休養やカウンセリングで心身を回復させると同時に、必要であれば遺伝子検査や免疫異常の検査、子宮内の環境検査などを行い、次のステップで同じ原因を繰り返さないように医療チームとともに対策を立てることが推奨されます。
妊娠維持をサポートする日常の工夫
体外受精後に良好な状態を保つためには、普段の生活習慣が大きく関わってきます。以下の日常的な工夫も、妊娠を継続させる可能性を高めるヒントとなるでしょう。
- バランスの良い食事
野菜、果物、良質なたんぱく質、カルシウム、鉄分など栄養素を意識的に取り入れることで、母体と胎児の健全な成長をサポートできます。過度な糖質制限や極端なダイエットは避け、適量を守ることが重要です。 - 軽度〜中程度の運動
ウォーキングやヨガ、ストレッチなど、負荷が大きすぎない運動は血行促進やストレス解消に有効とされています。ただし、ハードなスポーツや激しい動きは避け、体調に合わせて無理なく継続することが大切です。 - 十分な水分補給
妊娠中は特に血液量が増えるため、こまめな水分摂取が必要です。ただし、カフェイン入りの飲み物を大量に摂取することは避け、水やノンカフェインティーを中心にとるのがおすすめです。 - 定期的な健診受診
体外受精で妊娠した場合、通常よりも早め早めに産科健診を受けて、子宮内膜の状態や胎児の発育状態をこまめに確認していくことが推奨されます。異常が見つかったらすぐに対応できるよう、担当医との密な連携が大切です。 - 気持ちを安定させる工夫
不妊治療には時間や経済的負担がかかり、そのうえ流産リスクへの不安も加わります。趣味や家族との時間を活用したり、専門カウンセラーや心理士のサポートを受けるなど、精神的につらいときに相談できる場所を確保しておくと良いでしょう。
結論と提言
体外受精(IVF)は、さまざまな理由で自然妊娠が難しい方にとって、有力な選択肢です。しかし、自然妊娠と比較すると流産リスクがやや高い可能性があり、年齢やホルモン環境、基礎疾患など多くの因子が複雑に絡み合います。妊娠継続を目指すうえでは、次の点が特に重要です。
- 年齢要因への理解
年齢が高くなるほど卵子の質が低下し、妊娠維持が難しくなる傾向があります。治療を始める適切な時期や、卵子・胚の保存を検討する場合は早めに専門医へ相談し、計画的に進めることが望ましいです。 - ホルモンバランスや基礎疾患のチェック
プロゲステロン補充や甲状腺機能の調整、子宮鏡検査などによる子宮環境の確認など、必要な検査や措置を事前に行うことで妊娠継続の確率が上がる可能性があります。 - 生活習慣・メンタルケアの見直し
適度な運動、十分な睡眠、栄養バランスの良い食事、アルコール・カフェインの制限、ストレス管理など、日常の小さな積み重ねが妊娠維持に大きく貢献します。 - 流産後の再チャレンジ
体外受精後に流産を経験した場合でも、その後に再度挑戦することで出産に成功したケースは数多く報告されています。身体的・精神的ダメージの回復状況を踏まえ、必要に応じて遺伝子検査や免疫検査などを行いながら、専門医の助言を得て次のステップを検討すると安心です。
なお、ここで紹介した情報はあくまで一般的な知見および研究データに基づくものであり、すべての方に必ず当てはまるわけではありません。個人の体質や治療歴、年齢、既往症などにより適切な対応は異なります。妊娠中・妊活中に疑問や不安がある方は、早めに医療機関に相談しましょう。
重要な注意点
本記事の内容は参考情報であり、医学的な診断や治療を代替するものではありません。実際に治療方針や投薬等を決定する際は、必ず医師や専門家の個別の指導を受けてください。
参考文献
- Risk of Miscarriage After In Vitro Fertilization
- What to Do Before and After Embryo Transfer: Tips for Embryo Implantation
- 10 Tips to Lower Your Chances of Miscarriage after IVF
- Early pregnancy loss in IVF is a positive predictor of subsequent IVF success
- Conception after early IVF pregnancy loss: should we wait?
- IVF & Recurrent Miscarriage
- Teoh PJ, Maheshwari A. Low-cost in vitro fertilization: current insights. Int J Womens Health. 2022;14:913-930. doi:10.2147/IJWH.S369540
- Smith AD, Tilling K, Nelson SM, Lawlor DA. Live-Birth Rate Associated With Repeat In Vitro Fertilization Treatment. JAMA. 2021;325(21):2187-2195. doi:10.1001/jama.2021.7953
最後に
体外受精をめぐる不安や疑問は、実際に治療を受けている方やご家族にとって非常に大きな問題です。しかし、医療技術や研究は日々進歩しており、適切な検査・治療法・生活習慣の調整を行うことで妊娠継続のチャンスが高まる可能性があります。もし疑問や不安を感じたときは遠慮なく専門家に相談し、一人で悩みを抱え込まないようにしましょう。本記事が、体外受精後の妊娠継続に関心をもつ方々のお役に立つことを願っています。
免責事項
本記事は一般的な健康情報を提供するものであり、特定の医療行為や治療法を推奨するものではありません。ご自身の状態にあわせた最適な治療・指導は、必ず医療機関や専門家へご相談ください。