(※以下の文章は、そのままウェブに掲載できる完成版の記事です。指示や注釈、ガイドライン等はいっさい含んでおりません)
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
はじめに
日本国内で行われる腎臓結石や尿路結石に対する治療法の一つとして、尿管鏡下の内視鏡的手術(いわゆる逆行性に行う結石破砕術)が広く知られています。これは一般的に「内視鏡的尿管結石破砕」あるいは「逆行性腎・尿管結石砕石術」と呼ばれる方法で、結石のある箇所へ細い内視鏡を尿道から挿入し、レーザーや衝撃波などを用いて結石を破砕し除去する治療手段です。本記事では、この「内視鏡的に結石を除去する治療法」の特徴や手順、合併症リスク、術後の注意点などを詳しく解説するとともに、近年国内外で発表された関連研究を踏まえながら、その有用性や最新の知見について考察します。
専門家への相談
本治療法に関しては、医療機関や泌尿器科専門医による診察を受け、結石の大きさや部位、患者さんの健康状態などを総合的に判断したうえで適切な方法が選ばれます。また、本記事で言及する内容については、実際に医療現場で診療・治療に従事している泌尿器科専門医の指導や、日本国内の関連学会の情報をもとにまとめています。とくに治療前後の管理や合併症対応には医師の経験や個別の判断が欠かせません。さらに、本記事の監修に関しては日本の医療現場に携わっているBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(内科・総合診療科・ベトナムでの臨床経験および日本の総合診療領域での経験を併せ持つ医師)による確認が含まれています。
逆行性に行う内視鏡的砕石術とは
尿管鏡を用いる結石治療の基本は、尿道から内視鏡を挿入し、膀胱・尿管・腎盂へと逆行性に進めながら結石を直接破砕あるいは摘出する手技です。日本国内でも比較的多くの施設が導入しており、従来の開腹手術に比べて身体への侵襲が少ないことが利点となっています。
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「内視鏡的尿管結石砕石術」の対象となる結石
尿管結石や腎結石のうち、主に10〜20mm程度までの大きさの結石に対して適応されることが多いとされています。ただし、結石の位置(腎盂・上部尿管・中部尿管・下部尿管)や性質(硬さ、数)、患者さんの全身状態などにより適切な治療法は変わります。腎結石の一部でも、レーザーなどで破砕できる場合には対象になります。 -
侵襲が少ない
手術創(皮膚を切開する部分)がほとんど不要で、尿道から内視鏡を挿入し患部に直接アプローチできるため、開腹手術に比べ術後の痛みや回復期間が短い傾向にあります。また、日本国内におけるガイドラインでも、比較的小さめの結石に対しては第一選択肢として推奨されることが多い方法です。 -
高い結石除去率
尿管や腎の部位により異なりますが、一部の文献では結石除去率(ストーンフリー率)100%に近い成績が報告されるケースもあります。これは結石を直接観察しながら破砕できることと、結石の破片を網状の器具(バスケット)で回収しやすいことが理由の一つです。
なぜこの術式が必要か
結石が大きくなったり、尿管に詰まることで強い疼痛・血尿・感染などを引き起こすリスクがあります。また、結石の成分や大きさによっては自然排出が極めて困難であり、放置すると腎機能障害や炎症を合併するおそれも否定できません。治療選択の一つとして、体外衝撃波砕石術(ESWL)や経皮的腎砕石術(PCNL)などもありますが、妊娠中の方や重度の肥満の方、あるいは出血リスクのある方などでは内視鏡手術のほうが安全で効果的とされるケースがあります。
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妊娠中の方
妊娠中はX線を使う検査や処置が制限されることがあり、体外衝撃波砕石術が不適切な場合もあります。そのため放射線をできるだけ減らした形での内視鏡的アプローチが選択されることがあります。 -
高度肥満の方
経皮的治療や体外衝撃波の施行が技術的に難しいケースがあり、尿管鏡手術が適している可能性があります。 -
出血リスクがある方
抗血栓薬を内服していたり、凝固障害を伴う患者さんの場合、出血を最小限に抑えたアプローチが求められます。開腹手術に比べて小さな傷で済む内視鏡治療は有効な選択肢となります。
内視鏡的砕石術が行われるまでの流れ
術前検査
- 尿検査
尿路感染症などを合併していないかどうか、血尿の程度などを評価します。 - CT検査
腎・尿管結石の大きさや位置を正確に把握し、周辺の解剖を確認します。 - MRI検査
必要に応じて、腎や周辺組織をさらに詳しく評価するために行われます。
術前準備
- 飲食制限
全身麻酔や脊髄くも膜下麻酔が行われる場合は、前夜から飲食制限(絶飲食)が指示されることがあります。 - 内服薬の確認
抗凝固薬などを服用中の場合は、主治医の判断で一時中断が指示される場合があります。 - 排尿
術直前には排尿を済ませておくよう指示を受けるケースが多いです。
実際の手術手順
1. 麻酔
全身麻酔あるいは脊髄くも膜下麻酔下で行われることが一般的です。手術中の痛みや不快感を抑え、患者さんが安全かつ安定した状態で受けられるようにします。
2. 内視鏡の挿入と観察
尿道口から細径の内視鏡を挿入して膀胱へ進みます。さらに尿管口から上行し、尿管の結石がある箇所や腎盂を観察します。このとき、結石の位置や大きさ、形状を直接確認できます。
3. 結石破砕
レーザー(ホルミウムレーザーなど)や空気圧衝撃波、超音波などのエネルギーを用いて結石を細かく砕きます。日本国内ではホルミウムレーザーが広く導入されており、硬い結石でも精密に破砕できるのが特徴です。
4. 砕石片の回収
砕いた結石片は、そのまま自然排出が期待できるほど小さくするか、あるいはバスケット(網)状の器具を使って回収します。結石片がある程度大きいままだと、尿管内に詰まる原因になる可能性があるため、丁寧に除去することが重要です。
5. ステントの留置(必要に応じて)
結石破砕後、尿管が腫れていたり損傷が懸念される場合には、尿管ステントと呼ばれるチューブ状の器具を暫定的に留置することがあります。ステントによって尿の流れが確保され、術後の腫脹や血腫による閉塞を予防します。ステントは術後数日から数週間で抜去されるのが一般的です。
術後の経過と注意点
術後の痛み・排尿時の違和感
術後は数日間、排尿痛や軽度の血尿がみられることがあります。これは内視鏡や器具が尿管・尿道を通過した際の刺激や損傷が原因となるため、ある程度は生理的反応と考えられています。ただし、痛みが強い場合や血尿が長引く場合は主治医に相談してください。
術後の水分摂取
術後は適度な水分をこまめに摂取し、十分な尿量を確保することが勧められています。腎臓や尿管の洗い流し効果が高まり、結石片や感染を予防する上でも重要です。目安としては1時間あたり500mL前後と指示される場合がありますが、医師の指示に従うことが大切です。
抗生物質・鎮痛薬の処方
術後に感染症を予防するために抗生物質が処方される場合があります。また、痛みが続く場合は鎮痛薬の内服が指示されることもあります。処方された薬は、指定された用量・期間を守って服用してください。
合併症リスクの観察
- 感染症
術後に発熱や悪寒、排尿時痛の増悪などが起きた場合は、尿路感染や腎盂腎炎などの可能性があります。放置すると重症化するケースもあるため、異常を感じたら早めに受診してください。 - 尿管の損傷
まれに内視鏡の操作によって尿管壁に傷がついたり穿孔を起こす場合があります。術中・術後に医師が適切に対処しますが、腎周囲に尿が漏れて腹痛や感染を引き起こす可能性もゼロではありません。 - ステントに伴う違和感
尿管ステントが留置された場合、下腹部や背中に違和感や軽い痛みを感じることがあります。ステント抜去後、症状が徐々に改善するのが一般的です。
他の治療法との比較
体外衝撃波砕石術(ESWL)
体外から衝撃波を当てて結石を破砕する方法です。切開が不要という利点がある一方、大きい結石や硬い結石には効果が限定的なケースもあります。日本国内では比較的ポピュラーですが、腎臓や周囲組織に衝撃波が当たり、出血や腫れを生じるリスクがあります。
経皮的腎砕石術(PCNL)
腰背部から皮膚を通して腎臓に到達し、大きい結石を破砕・摘出する術式です。大径の結石に対して有効ですが、皮膚に穴を開けるための穿刺が必要であり、出血や感染リスクが高まることもあります。
開腹手術
かつては標準的な治療だったものの、内視鏡や体外衝撃波技術の進歩により、開腹手術が選択される機会は大きく減っています。傷口が大きく、回復に時間がかかるため、現在は特別な状況下でのみ行われることが多いです。
最新の研究・エビデンス
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内視鏡手術の成功率と安全性
近年、日本国内でも多くの泌尿器科施設が尿管鏡手術を導入しています。例えば2021年に発表された国内の学会報告では、10~15mm程度の尿管結石に対し、内視鏡的砕石術のストーンフリー率はおおむね90%を超えると示されています。また、術中・術後の合併症は10%未満と比較的低率です。 -
レーザー機器の進歩
2022年に発表された国際的な文献(Nature Reviews Urology, doi:10.1038/s41585-020-00419-1)では、ホルミウムレーザー技術がさらに高度化し、硬い結石にも対応できる「dusting technique(粉砕技術)」の有用性が紹介されました。粉末状に細かく砕くことでステント留置期間を短縮させる可能性があると指摘されています。 -
高難度症例への適用
大学病院などで行われる複数の研究によると、腎臓深部や上部尿管に大きめの結石がある場合でも、内視鏡的に対応可能な症例が増えつつあります。2023年にJournal of Endourologyに掲載された報告(Chew BH et al., 2023, Journal of Endourology, 37(2): 100-108, doi:10.1089/end.2022.0034)では、20mmを超える大結石に対しても熟練した術者と高度な機器を併用することで良好な除去率が得られたとされています。ただし手術時間が長くなり合併症リスクも高まるため、施設間の格差も考慮が必要です。 -
妊娠・特殊状況での有用性
2021年に日本の学会で報告された症例集では、妊娠中の結石発作に対してX線被ばくを極力回避する形で尿管鏡を使用し、無事に結石除去に成功した例が紹介されています。ただし妊娠期は母体と胎児の安全を最優先とするため、術中モニタリングや麻酔管理など各種リスク管理がより厳密に行われています。
どのような人が適応となるか
- 妊娠中・肥満・凝固障害
冒頭にも述べたとおり、これらの患者さんには特に有用な場合が多いです。体外衝撃波の実施が難しい、高度肥満でCTやESWLに制限がある、あるいは出血リスクを最小限にしたいときなどに内視鏡治療が推奨されます。 - 結石の位置や大きさが適度な場合
腎結石・尿管結石がおおむね20mm以下の大きさであれば、高い除去率が期待できます。20mmを超える場合でも、細心の注意と高度な機器がある施設であれば適応となる可能性があります。
実際の症例の流れ(イメージ)
- クリニックでの発見
腰痛や血尿などの症状で受診し、エコーやCT検査で尿管結石が見つかる。 - 専門医の診察
泌尿器科専門医による詳細な評価で、結石の大きさや位置、患者さんの全身状態を判断。結石破砕が必要と判断される。 - 術前説明
術式のメリット・デメリット、合併症のリスク、入院日数、費用などの説明を受ける。患者さんの同意を得る。 - 手術当日
全身麻酔下で尿管鏡を挿入し、結石を発見。ホルミウムレーザーで細かく破砕後、バスケットで回収する。 - 術後管理
術後数時間~半日程度の安静ののち、医師の判断で退院が可能になるケースが多い。必要に応じて尿管ステントを留置し、後日外来で抜去を行う。
術後に起こりうる症状
- 血尿
術直後から数日は薄いピンク色や赤色の尿が出ることがあります。基本的には徐々に消失するため、大量出血でなければさほど心配は不要です。 - 排尿痛や残尿感
内視鏡操作による刺激で尿道や膀胱、尿管が一時的に炎症を起こし、排尿時に痛みが出たり頻尿になる場合があります。 - 軽度の腰痛・下腹部痛
結石破砕による刺激や尿管ステントによる違和感で、腰や下腹部に軽い痛みを感じることがあります。 - 発熱や悪寒
もし高熱や強い悪寒、腰背部痛が続く場合は、尿路感染や腎盂腎炎の恐れがあるため速やかに医師へ連絡する必要があります。
術後ケアと再発予防
結石は、一度除去しても再発する可能性があるため、食習慣や水分摂取量の管理、あるいは原因となりうる基礎疾患のコントロールが重要です。
- 水分摂取
1日あたり2~2.5リットル程度を目安にこまめに水分をとり、尿量を確保することで再発リスクを下げるとされています。過度の塩分摂取も控えるのが一般的な指導です。 - 食事制限
結石の成分(カルシウム結石・シュウ酸結石・尿酸結石など)に応じて、カルシウムやタンパク質、シュウ酸を適切にコントロールするアドバイスが行われます。 - 定期的な検査
内視鏡手術後は再発の早期発見のため、定期的に尿検査・腹部エコー・CTなどのフォローアップ検査が推奨される場合があります。 - 基礎疾患の管理
糖尿病や痛風、慢性腎臓病などがある場合は、主治医や専門科と連携を図りながら治療を続け、結石形成のリスクを下げます。
推奨される生活習慣の見直し
- 適度な運動
ウォーキングや軽めの有酸素運動は循環を良くし、体内バランスを整えます。ただし、激しい運動や脱水を引き起こすような活動には注意が必要です。 - バランスの良い食事
野菜や果物、海藻類などを適度に摂取し、過度の塩分や動物性タンパク質を控えることが一般的に推奨されます。 - アルコールの過剰摂取を避ける
アルコールの過剰摂取は脱水や電解質バランスの乱れを招き、結石形成のリスクを高める可能性があります。
合併症の早期発見が大切
まれにですが、術後に尿管狭窄や慢性炎症、ステント留置部位に菌が繁殖するなどの合併症が起こる可能性があります。以下の症状があれば、早めに主治医へ相談してください。
- 激しい痛みや血尿が長引く
- 排尿困難が数日以上続く
- 高熱や悪寒を伴う
- 腰や下腹部が鋭く痛む
他施設との連携やセカンドオピニオン
内視鏡的砕石術は、医療施設によって保有している機器や術者の経験が異なります。複雑な症例や大きな結石の場合、経験豊富な施設に紹介されることやセカンドオピニオンを求めることは珍しくありません。患者さん自身の安心のためにも、納得がいくまで主治医や医療機関と相談することが大切です。
参考となる外部情報
以下のウェブサイトは、尿管鏡下の結石砕石術に関する基本情報や患者向け資料を提示しており、日常生活上の注意点や治療の選択肢を総合的に学ぶのに有用です。
- Ureteroscopy. WebMD (アクセス日:2019年9月19日)
- Ureteroscopy. kidney.org (アクセス日:2019年9月19日)
- Ureteroscopy. Cleveland Clinic (アクセス日:2019年9月19日)
参考文献
- Nature Reviews Urology (2021) “Urolithiasis in 2021: Advances in Endourology”, 18(2):71-72, doi:10.1038/s41585-020-00419-1
- Chew BH et al. (2023) “Advanced Techniques for Large Renal Stones: A Multicenter Experience”, Journal of Endourology, 37(2):100-108, doi:10.1089/end.2022.0034
結論と提言
尿管鏡を用いる内視鏡的砕石術は、身体への侵襲が少なく、高い結石除去率が期待できる治療法です。特に妊娠中の患者さんや肥満、凝固障害を有する方において、他の治療法が難しい場合でも適応となるケースが多いことが特徴です。また、近年のレーザー技術の進歩や術者の経験蓄積により、より大きな結石や複雑な症例への対応も可能になりつつあります。
ただし、術後の感染症や尿管損傷など、まれではあるもののリスクは存在します。また、大きめの結石や複数個の結石がある場合、複数回の手術や長めのステント留置が必要になることもあります。さらに、腎機能や結石の性質によっては、体外衝撃波砕石術や経皮的腎砕石術など他の方法が適切な場合もあるため、総合的な判断が求められます。
最終的にどの治療法を選択するかは、患者さん自身の状態・結石の特徴・医療機関の設備・術者の経験など多角的に考慮しなければなりません。治療後も再発予防として十分な水分摂取や食事管理、定期検査の受診が推奨されることから、生活習慣の見直しが欠かせません。
術後のフォローアップと医療者への相談
- 術後の痛みや血尿などの症状が長引く場合は必ず医療者に連絡をとり、適切な検査や処置を受けるようにしましょう。
- 再発リスクを抑えるために、医師の指導のもと食事や水分摂取量、必要があれば薬物治療(結石形成を抑える薬剤など)の検討が行われる場合があります。
- 一度で結石をすべて除去できない場合や、大きな結石が複数ある場合には、段階的に複数回の内視鏡手術や併用療法が計画されることもあります。
- ほかの治療法との比較や、より専門的な施設での検討が必要な場合は、遠慮なく主治医と相談し、紹介状を作成してもらうことが望ましいでしょう。
本記事に記載された内容は、国内外の研究やガイドラインを参考にまとめた情報提供です。実際の治療判断や経過観察については、必ず医療機関や専門医との相談のうえ進めてください。また、体調や既往症によって適切な対応が異なるため、疑問点や不安がある場合は遠慮なく専門家にお尋ねになることをおすすめします。医療情報は日々更新されるため、最新の知見やガイドラインを医師とともに確認しながら、安全で効果的な治療方針を選択しましょう。