出産後の多くの母親が抱く共通の疑問、「授乳中に青菜を食べると母乳が減ってしまうのではないか」。この心配は、古くからの言い伝えや文化的な背景から来ていますが、多くの母親にとって不必要な食事制限や栄養不足の原因となることがあります。本稿では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が最新の科学的根拠と日本の公的機関の指針に基づき、この疑問に明確な答えを提供します。結論から申し上げますと、授乳中に青菜を摂取することは母乳の量を減らすどころか、むしろ母親と赤ちゃんの健康にとって非常に有益です。この記事を通じて、授乳期の食事に関する正しい知識を深め、安心して栄養バランスの取れた食生活を送るための一助となることを目指します。
この記事の科学的根拠
この記事は、提供された調査報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示します。
- こども家庭庁及び厚生労働省: 授乳期の母親のための食事バランスに関する指導は、これらの機関が発行した「妊産婦のための食事バランスガイド」345に基づいています。
- 日本栄養士会: 食物中の鉄分(ヘム鉄・非ヘム鉄)の吸収メカニズムや、授乳期のエネルギー必要量に関する専門的な解説は、日本栄養士会の公開情報8を典拠としています。
- 米国疾病予防管理センター (CDC): 授乳中の母親の食事、特に注意すべき栄養素や物質(カフェイン、水銀など)に関する国際的な推奨事項は、CDCの専門家向けガイダンス18に基づいています。
- 国際的な学術研究論文 (PMC/PubMed掲載): 食事が母乳成分に与える影響(変動しやすい成分と安定している成分の区別)、文化的な食事制限に関する科学的考察、および母乳産生の「需要供給の原則」に関する詳細な説明は、査読済みの体系的評価142425に基づいています。
要点まとめ
- 青菜は母乳を減らさない:科学的根拠に基づき、ほうれん草や小松菜などの青菜は母乳の生産を妨げません。むしろ、鉄分や葉酸など重要な栄養素の供給源です。
- 「体を冷やす」という懸念への対応:伝統的な懸念は理解できますが、医学的には食品の温度が母乳生産に影響を与える証拠はありません。心配な場合は、スープや煮物など温野菜として摂取することで、栄養と安心感を両立できます。
- 母乳の量は「需要と供給」が基本:母乳の量を決める最大の要因は、食事内容ではなく、赤ちゃんがどれだけ頻繁に効果的に母乳を飲むかです。食事はあくまで母親の健康を支えるためのものです。
- バランスの取れた食事が鍵:日本の「主食・主菜・副菜」を基本とした食事モデルは、授乳期に理想的です。特に魚に含まれるDHAや、乳製品のカルシウム、肉や大豆製品のタンパク質が重要です。
- 一部の食品には注意が必要:アルコール、カフェインの過剰摂取、水銀含有量の多い大型魚は避けるべきです。一方で、アレルギー予防のための自己判断での食品除去は推奨されていません。
青菜は授乳期の強力な味方:誤解を解き、真実を知る
授乳期における食事の悩みは尽きませんが、特に「青菜を食べると母乳が減る」という説は、多くの母親を不安にさせています。しかし、包括的な医学的文献や栄養指導を分析した結果、この説には科学的根拠がないことが明確です。むしろ、青菜は授乳期の食事に不可欠な要素として強く推奨されています。
日本のクリニックや栄養専門家、公的機関は一貫して青菜の積極的な摂取を支持しています。特に、ほうれん草(ほうれんそう)や小松菜(こまつな)は、鉄分が豊富で、産後の体力回復と母乳生成に良い影響を与える食品として頻繁に挙げられています1。こども家庭庁(旧厚生労働省)が発行する「妊産婦のための食事バランスガイド」においても、バランスの取れた食事モデルにおける「副菜(ふくさい)」として野菜の摂取が強調されており、ビタミン、ミネラル、特に葉酸などの必須微量栄養素を確保する上でその重要性が説かれています3。野菜が不足した食事は、ビタミンが欠乏し、栄養バランスが崩れるため、結果的に母親の全体的な健康状態に悪影響を及ぼす可能性があります7。
青菜がもたらす二つの重要な栄養学的利点
青菜の利点をさらに深く掘り下げると、特に二つの重要な栄養素、鉄分と葉酸の役割が浮かび上がります。
1. 鉄分補給の重要性と賢い摂取法
産後の母親は、出産時の出血や母乳生成のために血液需要が増加するため、鉄欠乏性貧血に陥りやすい状態にあります。鉄分は、この貧血を防ぎ、疲労感を軽減するために不可欠です。多くの情報源が青菜を鉄分豊富な食品として推奨していますが1、ここで一つの科学的な事実を理解することが、より効果的な栄養摂取につながります。日本栄養士会によると、青菜などの植物性食品に含まれる鉄は「非ヘム鉄(ひヘムてつ)」に分類されます8。この非ヘム鉄は、赤身肉や魚などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と比較して、体内への吸収率が低いという特徴があります。しかし、幸いなことに、この吸収率を高める簡単な方法が存在します。非ヘム鉄を、ビタミンCを豊富に含む食品(例:ピーマン、ブロッコリー、キウイフルーツ)や、動物性タンパク質(肉、魚)と一緒に摂取することで、その吸収率を著しく向上させることができるのです8。したがって、より専門的で実用的な助言は次のようになります。「青菜は重要な鉄分の供給源です。その吸収を最大限に高めるため、ビタミンCが豊富な野菜や果物、または肉や魚を含む食事と一緒に摂ることをお勧めします。」
2. 母乳の質と流れへの間接的な貢献
一部の母乳育児相談では、「青菜をたくさん食べると母乳の質が良くなり、サラサラになって詰まりにくくなる」という経験則が語られることがあります2。この主張を直接裏付ける特定の生化学的機序は学術文献では確認されていませんが、より広い栄養学的な文脈で解釈することは可能です。医学的な見地からは、飽和脂肪酸や糖分を過剰に含む食事(揚げ物、菓子類、ファストフードなど)は、血液の粘度を高め(血液がドロドロになる)、乳腺炎(にゅうせんえん)や乳汁うっ滞のリスクを高める可能性があると警告されています10。逆に言えば、青菜のように食物繊維や微量栄養素が豊富な食事は、加工食品や高脂肪食の摂取を減らすことにつながります。このことから、「青菜を食べると母乳の流れが良くなる」という言説は、「母親の血液循環を健康に保つバランスの取れた食事が、結果として良好な母乳の分泌を支える」という大きな原則を分かりやすく表現したものと理解できます。この情報を伝える際は、次のような慎重な表現が適切でしょう。「一部の専門家や実体験から、青菜を多く摂ることが母乳の流れをスムーズにするのに役立つ可能性が示唆されています。科学的には、これは食物繊維が豊富で不健康な脂肪が少ないバランスの取れた食事が、母乳生産の重要な基盤である母親の循環器系の健康をサポートするという原則と一致しています。」
文化的背景の理解:「体を冷やす食べ物」という懸念への配慮
日本を含む多くのアジア文化圏で授乳中の青菜摂取に疑問が持たれる根源は、科学的証拠ではなく、「体を冷やす食べ物(からだをひやすたべもの)」という文化的に深く根差した信念体系にあります。一部の情報源では、トマトやきゅうりなどの生野菜や、梨やりんごなどの果物を食べると「体が冷え」、血流が悪化し、最終的に母乳の出が悪くなると考えられています10。
この考え方は、体と食品の「陰陽」や「寒熱」のバランスが健康の中心であると考える東洋の伝統医学に由来します14。この体系では、産後は体が「冷え」て「弱った」状態とされ、回復のためには内外から体を温める必要があると考えられています。そのため、「冷たい」性質を持つとされる食品の摂取は、回復プロセスに逆行すると見なされてきました。
しかし、現代医学の知見と照らし合わせると、この概念に科学的な裏付けはありません。人間の体には非常に効率的な体温調節機能(恒常性)が備わっており、冷たいサラダを食べようが熱いスープを飲もうが、深部体温は常に約37℃という狭い範囲に維持されます。母乳は体温で生成・分泌されるため、摂取する食品の温度に影響されることはありません14。同様に、野菜に含まれるガスを発生させやすい成分が母乳を通じて赤ちゃんのお腹の不調を引き起こすという懸念も、科学的に否定されています。母親の腸内で発生するガス成分の分子は血中に移行しないため、母乳に入ることはないのです14。
この文化的信念を単に「間違いだ」と否定することは、読者の抵抗を招く可能性があります。より効果的なアプローチは、共感を示し、文化的な信念と科学的根拠に基づく栄養指導の間に「架け橋」を築くことです。幸いにも、伝統的な考え方に配慮した素晴らしい解決策があります。それは、野菜を加熱して温野菜(おんやさい)として、あるいはスープや煮物(汁物、しるもの)で摂取することです1115。
このアプローチにより、メッセージを巧みに再構築できます。「伝統的な健康観に基づき、『体を冷やす食べ物』を心配されるお母様方のお気持ちは、私達も十分に理解しております。現代科学では、体の体温調節機能は非常に優れており、母乳生産への影響はないとされていますが、何よりもお母様の心の安心が大切です。もしご心配であれば、素晴らしい解決策があります。ぜひ、温かいスープや煮込み料理、あるいは蒸したり茹でたりした温野菜として青菜を召し上がってください。こうすることで、青菜の貴重な栄養を余すところなく摂取できるだけでなく、心身ともに温かく、安心して過ごすことができます。」この方法は、文化への敬意を示しつつ、母親を最適な栄養行動へと穏やかに導くものです。
母乳は「需要と供給」で決まる:食事の本当の役割
食品に関する心配を根本的に解消するためには、母乳が作られる真の科学的メカニズムを理解することが不可欠です。多くの母親は、「何を食べ、何を飲むか」が母乳量を直接決定する要因だと考えがちですが、科学的な証拠は、食事が果たすのはあくまで支援的な役割であることを示しています。
母乳の生産は、主に二つの複雑なシステムによって制御されています。それは、内分泌系(ホルモンによる制御)と、より重要な自己分泌制御系(局所での制御)です9。
- 内分泌系:産後数週間は、このシステムが主導します。赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激によって、母乳を作るホルモン「プロラクチン」と、母乳を押し出すホルモン「オキシトシン」が分泌されます。
- 自己分泌制御系(需要と供給の原則):母乳の供給が安定してくると、こちらが主要な制御メカニズムになります。母乳の中には、「乳汁産生抑制因子(Feedback Inhibitor of Lactation – FIL)」と呼ばれるタンパク質が含まれています。乳房が母乳で満たされ、それが排出されないままだと、このFILの濃度が高まり、乳腺細胞に「生産を遅らせる」という信号を送ります16。逆に、授乳や搾乳によって乳房が効果的に空になると、FILの濃度が下がり、細胞は「生産を加速せよ」という信号を受け取るのです。
このメカニズムを理解することで、食事の役割を正確に位置づけることができます。食事は、母乳生産のスイッチを「オン・オフ」したり、「増減」させたりするものではありません。そうではなく、母親の体が「需要と供給」の信号に応えるために必要なエネルギー、水分、そして「原材料」(タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル)を供給するものです。
したがって、授乳中の母親に伝えるべき最も重要で安心をもたらすメッセージはこれです。「豊かな母乳量を維持するために最も直接的で影響力のある要因は、乳房が空になる頻度と効果性、つまり、赤ちゃんに頻繁かつ正しく授乳すること、あるいは定期的に搾乳することです。バランスの取れた食事と十分な水分補給は不可欠ですが、その役割はあなた自身の健康を支え、エネルギーと栄養を補給し、持続可能な母乳生産を可能にするためのものです。」
この視点の転換は、母親の心理的負担を「何か間違ったものを食べたかもしれない」という強迫観念から、「授乳技術の改善や授乳回数を増やす」といった本当に効果的な行動へとシフトさせます。それは母親に力を与え、食品は裁定者ではなく、母と子の旅路を支える仲間であることを教えてくれるのです。
授乳期の母親のための包括的栄養ガイド
このセクションでは、国際的な推奨事項と日本の具体的な指針を組み合わせ、包括的で権威ある栄養ガイドを構築します。食事が母乳成分にどの程度影響を与えるかを科学的に解説し、母親が母と子の両方の健康のために賢明な選択を下せるよう、現実的でバランスの取れた視点を提供します。
栄養の基本原則:日本と世界の指針
授乳期の栄養原則は世界共通で、バランス、多様性、そして十分な栄養素の摂取に焦点を当てています。
- 日本のバランス食事モデル:日本の保健機関が推奨する伝統的な食事モデルは、非常に実用的です。毎回の食事で「主食(しゅしょく)」、「主菜(しゅさい)」、「副菜(ふくさい)」の3つの要素を揃えることを基本とします3。
- 主食:ご飯、パン、麺類など、エネルギー源となる炭水化物。
- 主菜:肉、魚、卵、大豆製品など、体を作るタンパク質源。
- 副菜:野菜、きのこ、海藻など、ビタミン、ミネラル、食物繊維の供給源。青菜はこのグループに属します。
- エネルギーと水分補給の増加:母乳生産はエネルギーを消費します。授乳期の女性は、妊娠前よりも1日あたり約+350キロカロリーのエネルギーを追加で摂取する必要があります8。米国疾病予防管理センター(CDC)も同様に+340〜+400キロカロリーを推奨しています18。また、母乳の約90%は水分であるため、十分な水分補給が不可欠です。喉の渇きを感じたら、それは体が水分を必要としているサインです。水やお茶(麦茶などカフェインを含まないもの)をこまめに飲むことが推奨されます5。
- 国際的な推奨:世界保健機関(WHO)や米国のMyPlateガイドラインなども、果物、野菜、全粒穀物、良質なタンパク質、低脂肪乳製品を幅広く摂取する、多様性に富んだ食事を推奨しており19、日本の食事モデルと完全に一致しています。
授乳期に不可欠な栄養素一覧
以下の表は、授乳中に特に重要となる栄養素、その役割、そして日本で手に入りやすい食品源をまとめたものです。日々の食事計画の参考にしてください。
| 栄養素 | 役割(母と子にとって) | 一般的な食品源 | 臨床的・実践的な注意点 |
|---|---|---|---|
| 鉄 (鉄分) | 母:産後の貧血予防、疲労軽減。 子:神経発達と成長の支援。 |
ヘム鉄:赤身肉、レバー、かつお、あさり。 非ヘム鉄:ほうれん草、小松菜、大豆、ひじき。 |
植物性の非ヘム鉄は吸収率が低い。ビタミンC(ピーマン等)や動物性タンパク質と一緒に摂ると吸収が高まる8。 |
| 葉酸 | 母:造血作用の支援。 子:細胞分裂と成長に必須。 |
緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリー)、枝豆、アボカド、いちご、レバー、納豆。 | 水溶性で熱に弱い。蒸し料理や短時間の炒め物で栄養素の損失を最小限に3。 |
| カルシウム | 母:骨密度の維持、骨粗しょう症予防。 子:骨と歯の形成。 |
牛乳、乳製品、ししゃも等の小魚、豆腐、緑黄色野菜。 | 食事からの摂取が不足すると、母体は自身の骨からカルシウムを動員して母乳に供給する。母親自身の健康を守るために重要9。 |
| タンパク質 | 母:産後の体組織の修復。 子:全ての器官の発達の基礎。 |
肉、魚、鶏肉、卵、乳製品、大豆製品(豆腐、納豆)。 | 授乳期は需要が増加する。毎回の主菜でしっかり摂取することが望ましい15。 |
| ビタミンD | 母・子:カルシウム吸収の促進、骨と免疫系の健康に必須。 | 脂の多い魚(鮭、サバ)、きのこ類、卵。日光浴。 | 母乳中のビタミンDは少ない傾向にある。多くの医療ガイドラインが完全母乳栄養児へのビタミンDサプリメントを推奨。医師に相談を20。 |
| DHA (オメガ3脂肪酸) | 母:精神的な健康のサポート。 子:脳と網膜の発達に極めて重要。 |
脂の多い魚(鮭、サバ、さんま、いわし)。 | 母乳中のDHA濃度は、母親の食事摂取に直接的に依存する。週に2〜3回の魚の摂取が推奨される21。 |
| ヨウ素 | 母:甲状腺機能の維持。 子:脳と神経系の発達。 |
海藻(昆布、わかめ)、魚介類、卵、乳製品。 | 授乳期には需要が著しく増加する。日本の食事は海藻からヨウ素を摂取しやすい18。 |
食事が母乳成分に与える影響の科学
「私の食事が母乳にどう影響するの?」これは全ての母親が持つ疑問です。現代科学は、この関係が単純なものではないことを明らかにしています24。
- 食事の影響を受けやすい成分:
- 食事の影響を受けにくい、安定した成分:
この科学的事実は、非常に重要で力強いメッセージを私たちに伝えます。それは、「授乳期の健康的な食事は、子どもを育むと同時に、母親自身を守るためのものである」ということです。栄養バランスの取れた食事は、DHAなどの良質な栄養素を赤ちゃんに届けるだけでなく、母親自身の栄養枯渇、貧血、骨粗しょう症を防ぎ、心身の回復を支えるための不可欠な自己管理なのです。
実践的な食事計画とアドバイス
このセクションでは、科学的分析を具体的な行動計画に落とし込みます。日本の文化背景に合わせた実用的なアドバイス、食事メニューの例、そしてよくある質問への回答を通じて、母親が自信を持って授乳期の食生活を送れるように支援します。
食事メニューの一例:栄養と美味しさの両立
以下は、日本の食事モデルに基づき、授乳期に必要な栄養素をバランス良く摂取できるよう設計された一日分の食事メニュー例です。
- 朝食:ご飯、わかめと豆腐の味噌汁、鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたし。
- ポイント:鮭からDHAとタンパク質、ほうれん草と豆腐から鉄分と葉酸、カルシウムを摂取。
- 昼食:豚肉と野菜のうどん(豚肉、小松菜、人参、きのこ入り)。
- ポイント:温かい食事で、野菜を手軽にたっぷり摂取。豚肉はビタミンB群が豊富。
- 夕食:玄米ご飯、鶏肉と根菜の筑前煮、ブロッコリーの胡麻和え。
- ポイント:玄米で食物繊維とビタミンを補給。根菜は体を温めるとも言われます。ブロッコリーでビタミンCをしっかり摂取。
- 間食:無糖ヨーグルト、果物(キウイ、いちご等)、ナッツ類、麦茶。
- ポイント:ヨーグルトでカルシウム、果物でビタミンC、ナッツで良質な脂質を補給。
このメニューはあくまで一例です。大切なのは、「主食・主菜・副菜」のバランスを意識し、多様な食材を取り入れることです。
注意すべき食品と物質:科学的根拠に基づく判断
授乳期に避けるべき、あるいは摂取量に注意すべきものについて、科学的根拠に基づいた明確な指針を以下に示します。
| 物質/食品 | 科学的根拠と影響 | 具体的な推奨事項 | 懸念度 |
|---|---|---|---|
| アルコール | 母乳に移行し、赤ちゃんの神経発達や睡眠に影響を与える可能性がある。赤ちゃんの肝臓はアルコールを代謝できない26。 | 最も安全なのは飲まないこと。もし飲む場合は、ビール350ml缶1本程度に留め、飲酒後最低2〜3時間は授乳を避ける21。 | 高 |
| カフェイン | 少量母乳に移行する。ほとんどの赤ちゃんは問題ないが、一部の敏感な赤ちゃん(特に新生児)は興奮したり寝つきが悪くなることがある10。 | コーヒー1〜2杯(約200〜300mg)程度に。授乳直後に飲むと、次の授乳までの血中濃度を下げられる3。 | 中 |
| 水銀を含む魚 | 大型の魚に蓄積された水銀は母乳に移行し、高用量では赤ちゃんの神経系に有害となる可能性がある18。 | メカジキ、マグロ(特にメバチ)等の大型魚は避ける。鮭、サバ、いわし等の小型魚を選ぶ。週に2〜3食分(約220〜340g)を目安に3。 | 中 |
| 高脂肪・高糖質の食品 | 過剰摂取は血液の粘性を高め、乳腺炎や乳汁うっ滞のリスクを高める可能性がある10。 | 絶対禁止ではないが、控えめに。揚げ物や菓子類より、果物やヨーグルトなど健康的な間食を選ぶ6。 | 低〜中 |
よくある質問
授乳中に寿司や刺身などの生ものを食べても良いですか?
はい、食べても問題ありません。妊娠中とは異なり、食中毒の原因となる細菌が母乳を通じて赤ちゃんに移行する危険性は非常に低いとされています。ただし、ご自身の食中毒を避けるため、必ず新鮮で信頼できる店で食べるようにしてください10。
カレーやキムチなどの辛いものを食べると、赤ちゃんに影響がありますか?
通常は問題ありません。ニンニクや香辛料の風味は母乳に移ることがありますが、それが原因で赤ちゃんが不機嫌になることは稀です。むしろ、母乳を通じて様々な風味に触れることで、将来の離乳食の受け入れがスムーズになる可能性も示唆されています14。もし特定の食品を食べた後、一貫して赤ちゃんの様子がおかしい場合は、数日間その食品を中断して様子を見てみましょう。
子どものアレルギー予防のために、卵や牛乳、ピーナッツなどを除去すべきですか?
いいえ、その必要はありません。現在の世界の主要な医療機関の指針では、母親がアレルギー予防のために特定の食品を自己判断で除去することは推奨されていません21。不必要な除去食は母親の栄養不足につながる可能性があります。医師によって赤ちゃんが母乳を介した特定のアレルギーと診断された場合にのみ、その食品を除去すべきです。
授乳中にはちみつを食べても安全ですか?
はい、母親が食べる分には安全です。はちみつに含まれるボツリヌス菌の芽胞は、1歳未満の乳児には危険ですが、成人の消化管内では無害化され、母乳に移行することもありません。ただし、赤ちゃん自身に直接はちみつを与えたり、はちみつが付着した器具を口に入れさせたりすることは絶対に避けてください10。
お餅を食べると母乳が増えたり、詰まったりしますか?
これは個人差が大きい問題です。日本では古くから、もち米は母乳の出を良くすると言われてきました。そのため、母乳が少ないと感じる方には適度な摂取が助けになるかもしれません。しかし、もともと母乳分泌が豊富な方が食べ過ぎると、乳房が張りすぎてしまい、乳汁うっ滞や乳腺炎のリスクを高める可能性があります。ご自身の体の反応を見ながら、適量を心がけることが大切です11。
結論
授乳中の食事に関する数々の疑問や不安の中で、「青菜が母乳を減らす」という説は、科学的根拠のない誤解であることが明らかです。ほうれん草や小松菜などの青菜は、鉄分、葉酸、ビタミンといった母親と赤ちゃんの健康に不可欠な栄養素を豊富に含んでおり、授乳期の食事に積極的に取り入れるべき食品です。「体を冷やす」という文化的な懸念に対しては、温野菜やスープとして調理することで、栄養面と精神的な安心感を両立させることができます。
最も重要なことは、母乳の生産量が主に食事内容ではなく、赤ちゃんによる「需要」とそれに応える母親の体の「供給」の原則によって決まるという事実を理解することです。頻繁で効果的な授乳こそが、豊かな母乳量を維持するための鍵となります。その上で、バランスの取れた食事は、母親自身の健康を守り、持続可能な母乳育児を行うためのエネルギーを供給する、という極めて重要な役割を担っています。
JAPANESEHEALTH.ORGは、すべての母親が科学的根拠に基づいた正しい情報にアクセスし、自信を持って育児に臨めるよう支援します。食事に関する不安や疑問がある場合は、一人で抱え込まず、医師、助産師、管理栄養士などの専門家に相談することを強くお勧めします。
免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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