はじめに
本記事では、卵巣に生じる悪性腫瘍である卵巣がんの治療法とあわせて、いわゆる伝統医学(主に漢方や薬草など)を用いた「卵巣がん治療の補助的アプローチ」について詳しく解説します。卵巣がんの治療においては、まず手術や抗がん剤など近代医学による治療が最も重要ですが、一部の方が薬草や漢方といった東洋医学の方法を併用するケースもあります。その際、十分な注意と知識をもって活用しなければ、治療の遅れや副作用リスク増大など、好ましくない事態を引き起こすことも否定できません。本記事では、近年の一般的な治療法を整理しつつ、いわゆる「民間療法」や伝統医学的アプローチの限界や補助的な位置づけについても言及します。
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専門家への相談
卵巣がんは進行度合いや患者さんの体力、将来的な妊娠の希望などによって治療方針が大きく左右される病気です。そのため、まずは婦人科腫瘍の専門医や腫瘍内科医と十分に相談することが大前提になります。また、東洋医学的なアプローチ(漢方、薬草など)を組み合わせる場合でも、必ず主治医や信頼できる医療機関と相談のうえで進めることが重要です。特に卵巣がんは「症状がはっきりしにくい」「診断が遅れると予後に影響が出やすい」といった特徴があるため、専門家の意見を優先しましょう。
以下では、まず近代医学で行われる一般的な治療法を整理したうえで、伝統医学や民間療法(いわゆる薬草など)による補助的な活用について解説していきます。
卵巣がんの代表的な治療法
卵巣がんは卵巣内部に発生する悪性腫瘍であり、あらゆる年代に起こり得ます。ただし多くは閉経前後や生殖可能年齢の女性に比較的多いとされます。日本ではがん検診の仕組み上、卵巣がんは比較的発見が遅れることがあり、症状が出にくい初期の段階で見逃されることも少なくありません。そのため、診断時には進行しているケースが多いといわれます。主な治療法は以下のとおりです。
- 手術療法
卵巣がんがどの程度広がっているか(病期)や、患者さんが妊娠を希望しているかなどによって、切除の範囲が変わります。たとえば、- 片側の卵巣だけを切除する場合
- 両側の卵巣を切除する場合
- 両側卵巣と子宮なども含めて大きく切除する場合
などがあり、それぞれの病期や状態に応じて選択されます。
- 化学療法(抗がん剤)
手術だけでは完全に取りきれない腫瘍細胞をできるだけ排除するために、抗がん剤を用いることがあります。とくに進行がんでは手術前に腫瘍を縮小させる目的で抗がん剤を投与する場合や、手術後の再発予防として化学療法を行う場合があります。 - 分子標的治療(標的治療薬)
近年、腫瘍細胞の増殖因子や血管新生因子を狙い撃ちにしてがんの増殖を抑える薬剤が用いられることがあります。これらの薬剤は従来の抗がん剤とは異なる作用機序をもつため、効果や副作用のパターンが異なる点が特徴です。 - ホルモン療法
エストロゲンなどのホルモンに依存して増殖するタイプの卵巣がんに対しては、ホルモン産生を抑える薬剤を使う場合があります。がんの増殖を抑制することを期待する治療です。 - 免疫療法
がん細胞を排除するために、患者さん自身の免疫システムを強化して治療に活かす方法です。世界的に注目されている治療法ですが、卵巣がんに対して確立された免疫療法はまだ研究段階の要素もあり、適用には慎重な検討が必要です。
こうした近代医学的な治療は、病期に応じて組み合わせることで効果が期待できます。一方、病院での標準治療と並行して、伝統医学やいわゆる民間療法を取り入れようという動きもあります。特に東洋医学的な漢方薬や、薬草などを煎じて飲む方法などは「副作用が少なそう」「長く飲めそう」といったイメージをもたれがちです。しかし、その効果やリスクを正しく理解して使うことが大切です。
伝統医学(漢方・薬草)はどこまで有効か?
卵巣がんの治療では、現代医学による手術・抗がん剤・放射線療法やホルモン療法が治療の中心です。一方、民間で広く伝わる漢方や薬草を用いた治療も昔から行われており、これを「補助的に」活用して体力維持や食欲増進、血流改善などを図ることを希望する方もいます。これらの伝統医学的アプローチは、「がんを根本的に治す」よりむしろ「体調全般を整える」「免疫力維持・向上をめざす」ために使われることが多いとされています。
実際には、東洋医学の文献においても「がん細胞そのものを消滅させる」というより、「体内の気血のめぐりを良くし、食欲増進や体力維持に役立てる」という位置づけです。特に卵巣がんのように進行度合いで治療成績が大きく変わるがんでは、漢方や薬草だけで完治を狙うのは極めて難しいと考えられます。実際、近年(2021年以降)に発表された研究や国際的な医学論文の多くでも、漢方や民間薬草はあくまで補助的に用いられることが一般的であり、単独治療では標準治療を置き換えられないと結論づけられています。
ただし、補助療法としての漢方や薬草が、患者さんの体力回復やQOL(生活の質)維持に良い影響を与える可能性については、一部の研究で示唆されています。たとえば次のような点が挙げられます。
- 体力の減退を緩和し、消化機能をサポートする効果が期待できる場合がある。
- 抗がん剤による吐き気や食欲不振などの症状緩和を補助する可能性がある。
- 適切に使うことで血行を促し、免疫機能を補う働きをする場合がある。
しかし、すべての患者さんで効果が一定ではなく、がんの進行度合いや個人差、漢方の種類や調合の仕方によって結果は変わります。なかには「薬草は自然だから安全」という誤解もありますが、過剰摂取や飲み合わせの問題などが生じれば、副作用を招くリスクも否定できません。とくに抗がん剤や手術後の投薬スケジュールと衝突すると、思わぬ症状が出たり、医薬品の有効性を阻害したりするケースがあるので要注意です。
卵巣がんに用いられる伝統医学的アプローチの具体例
卵巣がんの補助的な漢方療法や民間薬草療法では、患者さんそれぞれの体質や症状に応じて「証(しょう)」を判断し、そこから処方が考えられます。代表的な例として、以下のように分類することがあります。
- 脾腎両虚(ひじんりょうきょ)
腹部の冷え・腹満・下痢気味・腰膝の冷えや痛みなどが特徴とされ、胃腸機能や腎機能が低下していると考えられるケースです。
この場合、「健脾益腎陽(けんぴえきじんよう)」を目的とした生薬が用いられることが多く、たとえば黄耆(おうぎ)、党参(とうじん)、白朮(びゃくじゅつ)などを基調とし、腎陽を補う鹿茸(ろくじょう)や肉桂(にっけい)を加えるなど、状況に応じて加減します。 - 寒毒瘀結(かんどく-おけつ)
下腹部にしこりがあり、皮膚が冷えやすく、血行不良や瘀血(おけつ)が進んでいる状態を示す場合がある。
このようなとき、温めながら血液を巡らせるために、附子(ぶし)や乾姜(かんきょう)、桂皮(けいひ)などの温性薬を中心に、桃仁(とうにん)、紅花(こうか)、川芎(せんきゅう)などの活血化瘀薬を組み合わせることが多いとされます。 - 気滞血瘀(きたい-けつお)
下腹部の腫塊(しゅうかい)が痛みを伴ったり、神経質になりやすかったり、倦怠感やむくみを感じやすい場合などに用いられる方剤が多い。
たとえば、香附子(こうぶし)や郁金(うっこん)、玄胡索(げんこさく)などの理気活血薬が使われることがある。血流の改善や気の巡りを整えることを目的に、症状に応じて加減します。
注意点
- 上記はあくまでも一般的な例示であり、実際に処方される生薬は医師や漢方の専門家が患者さんの症状・体質を総合的に診断して決めます。
- どれだけ自然由来とされる成分であっても、大量摂取すると肝機能や腎機能を損なうおそれがあり、また他の薬剤との相互作用による問題も起こり得ます。必ず専門家に相談しながら進める必要があります。
「薬草・漢方は安全」と思い込みすぎないために
民間療法のなかでも、いわゆる「薬草療法」は簡単に利用できそうという印象があるかもしれません。しかし、以下のようなリスク・限界点を理解することが重要です。
- 治療の置き換えは危険
卵巣がんは、特に進行度が上がるほど治療が難しくなるがんの一つです。民間療法だけでがんを根絶することは極めて難しく、適切な手術や抗がん剤治療を受けずに時間が経過すれば、予後が悪化するリスクが大いに高まります。 - 副作用の可能性
自然由来の成分であっても、安全性が十分とは限りません。特に、血を活性化する生薬や、毒性を持つ恐れのある薬草を自己判断で使うと、出血リスクや内臓機能への悪影響を招くことがあります。 - 効果の個人差
伝統医学的アプローチは、患者さん個人の体質や体力レベル、がんの性質、医師との連携など、さまざまな条件に左右されます。同じ生薬でもAさんには効果的でもBさんには合わない、ということが往々にして起こり得ます。 - 医療者と情報を共有する必要
病院で抗がん剤治療を受けている場合、薬草や漢方の服用が薬剤の代謝や作用に影響する可能性があります。必ず主治医に相談し、使用中のサプリメントや漢方薬を含めたすべてを申告することが大切です。
よくある漢方・薬草の例
ここでは、民間で卵巣がんの補助療法として用いられることがあるとされる生薬・薬草を、大まかに挙げます。いずれも「効果が証明されている」というより、東洋医学の考え方に基づき、体力維持や血行促進、免疫機能の補佐などを狙って処方される場合があります。
- 黄耆(おうぎ)
気を補い、免疫力や抵抗力を高めると考えられる。長期服用されることが多いが、体質によっては合わない場合もある。 - 党参(とうじん)
胃腸機能をサポートし、全身の疲労を回復する目的で使われることが多い。消化力が落ちている人に処方されやすい。 - 当帰(とうき)や川芎(せんきゅう)
血を補い、血行を促すと考えられる代表的な活血薬。女性特有の生理不順や冷えを改善するために用いられるケースが多い。 - 附子(ぶし)や乾姜(かんきょう)、桂皮(にっけい)
身体を温める効果を狙って使われる生薬。冷えが強い場合や、下腹部が冷たく硬いといった症状に合わせて処方されることがある。ただし毒性が強いものも含まれるため、取り扱い注意が必要。 - 桃仁(とうにん)、紅花(こうか)
血の巡りを良くし、うっ滞を改善する目的で使われる場合が多い。ただし、出血傾向がある人にとっては注意が要る。
こうした生薬を複数組み合わせ、ひとつの処方にまとめたものが漢方薬として扱われます。しかし、先述のとおり、個々の患者さんによって状態は異なり、服用量や組み合わせ次第で全く違う効果や副作用が出ることがあります。そのため「自分で煎じて飲むだけで大丈夫」と過信せず、専門家の指導を受けることが欠かせません。
近年の研究動向と実際の臨床での位置づけ
卵巣がん治療に対する伝統的アプローチの有効性については、国内外でさまざまな研究が行われてきました。以下は本記事執筆時点で比較的信頼度があると考えられる文献や知見です。
- 2021年に発表された論文では、漢方を含む伝統医学が卵巣がん患者の生活の質(QOL)向上や免疫パラメータの安定に寄与する可能性が示唆されました。ただし、研究対象の人数が限定的であったり、研究デザインがランダム化比較試験(RCT)よりは小規模であったりするなど、エビデンスの強さには限界があります。
- 2022年以降の国際的なレビューでは、漢方薬と化学療法を併用したケースで吐き気や倦怠感がやや緩和されたとの報告もあります。しかし、これらは一部のデータであり、がんの進行度合いや個々の症状との関連性など、まだ多くの課題が残されているのも事実です。
- 参考文献として挙げられている論文(たとえば「Effect of traditional Chinese medicine (TCM) on survival, quality of life, and immune function in patients with ovarian carcinoma」(2020年))では、TCMの併用が患者の免疫指標や生活の質に一定の好影響を示す可能性があると結論づけられていますが、これもなおさら長期的な大規模研究を要すると言及しています。
つまり、伝統医学的アプローチは「標準治療を補完する手段の一つ」であり、あくまで近代医学的な腫瘍の切除や再発予防を中心とした治療戦略を代替できるほどの確立した治療法ではありません。また、治療のステージによっては併用そのものを控えるべきタイミングもあります。ゆえに、自己流の判断ではなく主治医としっかり連携をとり、補完的に活用するという姿勢が重要です。
卵巣がんに対する伝統医学的治療のメリット・デメリット
- メリット
- 患者さんの体質や症状に合わせて、きめ細かな調整ができるとされる。
- 長期的な服用で体力や食欲が維持できる可能性がある。
- 一般的に副作用が少なそうなイメージがあり、心理的負担が軽い。
- 病院側の治療だけでは対応しきれない細部のケア(便秘・冷え・不安感など)を補助できる場合がある。
- デメリット
- 科学的エビデンスがまだ十分に蓄積されているとは言い難く、効果に個人差が大きい。
- 自己流で始めると、他の薬剤や治療法との相互作用で有害な影響が出る可能性がある。
- がんを根本から治すために必要とされる標準治療を後回しにすると進行を招きかねない。
- 成分の品質や処方量の問題があり、きちんと管理されていない製品や粗悪なものを使うと副作用や肝腎障害を引き起こすリスクがある。
実際の服用にあたっての留意点
- 医療機関への相談は必須
漢方や薬草を併用したい場合は、手術予定や抗がん剤投与のタイミング、他の病気の有無などを考慮する必要があります。自己判断で始めるのではなく、必ず医師に相談しましょう。 - 体調の変化を見逃さない
飲み始めてから、下痢や腹痛、めまい、アレルギー様症状などが出た場合、すぐに中断し、病院で相談してください。「自然由来だから安心」と思い込み、症状を軽視するのは危険です。 - 定期検査を継続する
卵巣がんの再発リスクを早期に発見するためにも、定期的な画像検査や腫瘍マーカー検査は欠かさず受けることが肝要です。伝統医学のアプローチはあくまで補助の位置づけであり、主な再発チェックは病院でしっかり行いましょう。 - 処方を変えるタイミング
病状の進行や治療スケジュールの変化に伴い、漢方処方や薬草の種類も調整が必要となる場合があります。専門家の指導を受けながら適宜見直してください。
まとめ
卵巣がんに対しては、手術や化学療法、ホルモン療法、免疫療法など、近代医学的に確立されたアプローチが中心的役割を果たします。その一方で、漢方や薬草を活用した伝統医学的アプローチを補助的に取り入れる患者さんも少なくありません。東洋医学的には「脾腎両虚」「寒毒瘀結」「気滞血瘀」などの証に合わせて処方を組み立て、体全体のバランスを整えることを目標としています。
しかし、こうした方法はあくまでも「補助的な手段」であり、近代医学による根治的・抑制的治療を完全に代替するものではない点を強く認識する必要があります。さらに、自然由来や生薬だからといって必ず安全とは限らず、他の薬剤との相互作用や個体差による副作用にも十分な注意が求められます。
がんの治療は、個々人の病状、生活習慣、体質など多岐にわたる要因が絡み合うため、一律の方策は存在しません。伝統医学を取り入れる際も、主治医や専門家と連携しながら、効果とリスクのバランスをしっかり考慮して進めることが欠かせません。
推奨事項(参考にとどめ、必ず専門家に相談を)
- 何よりもまず、病院での標準治療(手術、化学療法など)を優先してください。
- 漢方・薬草を希望する場合は、担当医に事前に相談し、治療計画と両立できるかどうかを検討してもらいましょう。
- 自然由来だからといって副作用がないわけではありません。体調の急変や異常を感じたらすぐに受診してください。
- 定期的な検査を怠らず、治療経過や再発リスクを医師と確認しながら進めましょう。
大切なこと: 卵巣がんは進行度が上がるほど、治療が難しくなる傾向にあります。標準治療は特に初期段階や再発リスクが高まる時期に適切に受けることが重要です。代替療法や補助療法だけで根治を期待すると、治療のタイミングを逃すリスクがあります。必ず専門家と連携し、医療機関の治療を軸に考えてください。
参考文献
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- Effect of traditional Chinese medicine (TCM) on survival, quality of life, and immune function in patients with ovarian carcinoma(2022年12月13日アクセス)
- Ovarian cancer – Mayo Clinic(2022年12月13日アクセス)
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- Ovarian Cancer – Cleveland Clinic(2022年12月13日アクセス)
- Nội tiêu loa lịch hoàn(2022年12月29日アクセス)
- Fuling Granule, a Traditional Chinese Medicine Compound, Suppresses Cell Proliferation and TGFβ-Induced EMT in Ovarian Cancer(2022年12月29日アクセス)
本記事は、卵巣がんに対する情報を整理したものであり、あくまで参考としてご利用ください。個々の症状や病期、体質によって最適な治療法は変わりますので、必ず専門の医師や薬剤師へ相談のうえで治療方針を決定してください。本記事の内容は医学的助言の代替ではなく、診断・治療は必ず医療機関にて受けるようにしましょう。