この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下に、提示された医学的ガイダンスに直接関連する実際の情報源のみを一覧表示します。
- 日本ペインクリニック学会 (JSPC): 本記事における神経障害性疼痛の治療薬の階層(第一選択薬、第二選択薬など)に関する指針は、同学会が発行した「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」に基づいています12。
- 医薬品医療機器総合機構 (PMDA): プレガバリン(リリカ)3、ミロガバリン(タリージェ)4、デュロキセチン(サインバルタ)5、トラマドール6などの処方薬に関する用法、用量、副作用の詳細な情報は、PMDAが公開する最新の添付文書に基づいています。
- 厚生労働省科学研究: 日本における神経障害性疼痛の有病率(人口の約7%)に関するデータは、厚生労働省の疫学調査研究から引用しています7。
- The Lancet Neurology: 日本の治療ガイドラインが国際的な科学的証拠と一致していることを示すため、Finnerup氏らによる世界的に権威のあるシステマティックレビューとメタアナリシスを参考にしています8。
要点まとめ
- 神経障害性疼痛は、神経自体の損傷や機能異常によって生じる特殊な痛みであり、一般的な痛み止め(NSAIDsなど)が効きにくい特徴があります。
- 日本の治療は日本ペインクリニック学会の公式ガイドラインに基づいており、第一選択薬としてカルシウムチャネルα2δリガンド(プレガバリン等)、SNRI、三環系抗うつ薬が推奨されています1。
- 処方薬にはリリカ(プレガバリン)やタリージェ(ミロガバリン)、サインバルタ(デュロキセチン)などがあり、それぞれ特有の作用機序と副作用があります。これらの情報は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の公式文書で確認できます345。
- 市販薬や漢方薬は、主役ではなく補助的な役割を担うことが多く、その効果と限界を正しく理解することが重要です。激しい痛みや麻痺など「危険なサイン」がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診する必要があります。
- 治療の成功には、専門医との相談のもと、薬の効果と副作用のバランスを見ながら、自分に合った治療法を見つけていくことが不可欠です。
神経障害性疼痛とは? – なぜ市販の痛み止めが効きにくいのか
私たちが日常で経験する痛みの多くは「侵害受容性疼痛」と呼ばれます。これは、切り傷や打撲、やけどなどで体の組織が傷ついたときに、その場所から「痛い」という信号が神経を通って脳に伝わることで生じる痛みです。市販の痛み止めの多く、特にロキソプロフェンやイブプロフェンに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、この信号の原因となる炎症物質(プロスタグランジンなど)の生成を抑えることで効果を発揮します。
しかし、「神経障害性疼痛」は根本的に発生の仕組みが異なります。これは、体の組織ではなく、痛みを感じ、伝える役割を担う神経系そのものが、何らかの原因(例えば、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害、坐骨神経痛など)で損傷したり、機能異常を起こしたりすることで発生する痛みです。言わば、警報システム自体が故障して、火事でもないのに警報を鳴らし続けているような状態です。そのため、炎症を抑えることを目的とした市販のNSAIDsを服用しても、故障した神経からの異常な信号は止まらず、「薬が効かない」という状況に陥りやすいのです。この特殊な痛みには、故障した神経の過剰な興奮を直接鎮めるような、特殊な作用を持つ薬が必要となります。
【治療の根幹】日本ペインクリニック学会 公式ガイドラインに基づく薬物療法
日本における神経障害性疼痛の薬物治療は、この分野の専門家集団である日本ペインクリニック学会(JSPC)が策定した「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版」に準拠して行われるのが標準です12。このガイドラインは、数多くの臨床研究の成果を基に、有効性と安全性の観点から治療薬を段階的に使用することを推奨しています。このアプローチは、Finnerup氏らが世界的に権威のある医学雑誌「The Lancet Neurology」で発表したシステマティックレビューなど、国際的な科学的証拠とも整合性が取れています8。ガイドラインでは、治療薬を「第一選択薬」「第二選択薬」「第三選択薬」の三段階に分類しています。
第一選択薬:最初に検討されるべき治療薬
ガイドラインで最初に試すべきだと強く推奨されているのが、以下の3系統の薬剤です1。これらは、神経障害性疼痛に対して有効であるという質の高い科学的根拠が最も豊富な薬です。
- カルシウムチャネルα2δ(アルファ・ツー・デルタ)リガンド:神経が過剰に興奮する際に重要な役割を果たすカルシウムチャネルの働きを調整し、痛みの信号が過剰に出るのを抑えます。代表的な薬剤にプレガバリン(商品名:リリカ)やミロガバリン(商品名:タリージェ)があります。
- セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):脳内で痛みを抑制する働きを持つ神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの濃度を高めることで、痛みを和らげる効果を発揮します。代表的な薬剤にデュロキセチン(商品名:サインバルタ)があります。
- 三環系抗うつ薬(TCA):古くから使われている抗うつ薬ですが、SNRIと同様に痛みを抑制する神経伝達系を活性化させる作用があり、神経障害性疼痛に有効であることが知られています。アミトリプチリンなどがこれに該当しますが、副作用の観点から使用には注意が必要です。
第二選択薬:第一選択薬で効果不十分な場合に
第一選択薬を適切な量、適切な期間使用しても効果が不十分な場合や、副作用のために使用できない場合に次に検討されるのが第二選択薬です1。
- 弱オピオイド:中枢神経系に作用して強い鎮痛効果をもたらしますが、依存性や呼吸抑制などのリスクがあるため、使用は慎重に判断されます。代表的な薬剤にトラマドール(商品名:トラマール)があります。
- ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液:日本で独自に開発された薬剤で、痛みを抑制する神経系を活性化させると考えられています。代表的な薬剤はノイロトロピンです。
第三選択薬:難治性の痛みに対する最終選択肢
第一選択薬、第二選択薬を組み合わせてもコントロールが難しい難治性の痛みに対しては、最後の選択肢として強オピオイド(医療用麻薬)の使用が検討されることがあります1。これにはモルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどが含まれますが、その使用はペインクリニックなど痛みを専門とする医師による極めて厳格な管理下でのみ行われます。
処方薬の詳細解説:作用・用法・副作用【PMDA添付文書準拠】
ここでは、ガイドラインで中心的な役割を担う主な処方薬について、その作用、使い方、注意すべき副作用を、日本の医薬品行政を司る医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開する公式の添付文書情報に基づいて詳しく解説します。
カルシウムチャネルα2δリガンド(プレガバリン、ミロガバリン)
作用:これらの薬は、損傷して過敏になった神経細胞の末端にある「カルシウムチャネル」という部分に結合します。これにより、痛みの信号物質が過剰に放出されるのをブロックし、神経の異常な興奮を「鎮静化」させる効果があります。
プレガバリン(商品名:リリカ):PMDAの添付文書によると、通常、成人には初期用量として1日150mgを2回に分けて経口投与し、その後1週間以上かけて1日300mgまで漸増します。年齢や症状により最大600mgまで増量されることがあります3。最も注意すべき副作用はめまいと眠気で、それぞれ20%以上の患者に現れると報告されています。そのため、この薬を服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作は絶対に行わないでください3。
ミロガバリン(商品名:タリージェ):リリカの後に開発された新しい同系統の薬です。PMDAの添付文書によれば、通常、成人には初期用量として1回5mgを1日2回経口投与し、その後2週間以上かけて1回15mgを1日2回(1日30mg)まで漸増します4。副作用プロファイルはプレガバリンと類似しており、やはり眠気やめまいが主なものです。
SNRI/三環系抗うつ薬(デュロキセチン等)
作用:これらの薬は本来、うつ病の治療薬として開発されましたが、脳から脊髄へと下降する「下行性疼痛抑制系」と呼ばれる、痛みにブレーキをかける神経回路を活性化させる作用があることがわかっています。この回路ではセロトニンやノルアドレナリンが重要な役割を果たしており、これらの薬は脳内のこれらの物質の濃度を高めることで鎮痛効果を発揮します。
デュロキセチン(商品名:サインバルタ):PMDAの添付文書では、糖尿病性神経障害に伴う疼痛に対して、通常、成人には1日1回朝食後に20mgから開始し、1週間以上の間隔をあけて1日40mgに増量、症状により最大60mgまで増量できるとされています5。主な副作用として、吐き気や眠気、口の渇きなどが報告されています。効果が発現するまでに数週間かかる場合があるため、焦らず服用を続けることが重要です。
弱オピオイド鎮痛薬(トラマドール)
作用:トラマドール(商品名:トラマール)は、第二選択薬に位置づけられる薬剤です。中枢神経のオピオイド受容体に作用して鎮痛効果を示すと同時に、SNRIのようにセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用も併せ持つ、二重の作用機序が特徴です6。
注意点:オピオイドであるため、吐き気や便秘、めまいといった副作用が比較的高頻度に見られます。また、長期使用による身体的依存のリスクや、まれに呼吸抑制といった重篤な副作用の可能性があるため、医師の厳密な監督下で使用する必要があります6。
【薬局で買える】日本の市販薬(OTC)と漢方薬の役割と限界
専門的な治療が必要な一方で、薬局で手軽に購入できる市販薬や漢方薬にも、一定の役割や期待できる効果があります。しかし、その限界を正しく理解し、過度な期待をしないことが重要です。
ビタミンB12主薬製剤など
ビタミンB12は、末梢神経の維持や修復に不可欠な栄養素です。アリナミンEXプラスなどの市販薬には、このビタミンB12やその働きを助ける成分が含まれており、軽度のしびれや神経痛に対して、神経の機能をサポートする目的で使用されることがあります。ただし、これらはあくまで神経の健康を「支える」ものであり、すでに発生している強い神経障害性疼痛を直接「治療する」効果は限定的です。
漢方薬(疎経活血湯、牛車腎気丸など)
漢方医学では、痛みやしびれを「気」「血」「水」の滞りや不足と捉え、体全体のバランスを整えることで症状を改善しようとします。例えば、「疎経活血湯(そけいかっけつとう)」は血行を改善して痛みを取り除く目的で、「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」は腰から下の冷えやしびれ、痛みに用いられることがあります910。ツムラなどのメーカーから医療用・一般用として提供されています。漢方薬は体質に合えば効果を示すことがありますが、西洋薬とは異なるアプローチであるため、効果の発現には時間がかかることが多く、医師や薬剤師への相談が推奨されます。
市販薬で対処すべきでない危険なサイン(Red Flags)
ほとんどの神経痛は緊急性を要しませんが、以下のような症状が伴う場合は、重篤な病気が隠れている可能性があります。市販薬で様子を見るのではなく、直ちに医療機関(整形外科や救急外来)を受診してください。
- 突然発症した、耐えられないほどの激しい痛み
- 足や腕の力が急に入らなくなる、麻痺が起きる
- しびれや感覚の鈍さが急速に広がる
- 尿や便が出にくい、あるいは失禁してしまう(膀胱直腸障害)
よくある質問
神経痛の治療は何科を受診すればよいですか?
症状によって異なりますが、まずは原因を特定するために整形外科を受診するのが一般的です。腰痛や坐骨神経痛など、骨や関節の問題が疑われる場合は特に適しています。痛みの治療を専門に行うペインクリニック科は、診断後の専門的な薬物療法や神経ブロック注射などの治療に特化しています。また、原因が特定しにくい場合や、脳・脊髄の病気が疑われる場合は神経内科が適切な診療科となります。かかりつけ医がいる場合は、まず相談して適切な専門科を紹介してもらうのも良い方法です。
処方薬の副作用が心配です。どうすればよいですか?
処方薬の副作用、特に眠気やめまいは多くの方が心配される点です。医師はこれらの副作用を最小限に抑えるため、少量から薬を開始し、体の反応を見ながらゆっくりと適切な量まで増やしていくのが一般的です。副作用を感じた場合は、自己判断で薬をやめてしまうのではなく、必ず処方した医師に相談してください。薬の量を調整したり、副作用を軽減する薬を追加したり、あるいは別の種類の薬に変更するなど、様々な対処法があります。医師とのコミュニケーションが、安全で効果的な治療の鍵となります。
薬はどのくらいの期間、飲み続ける必要がありますか?
神経障害性疼痛は慢性的な経過をたどることが多く、治療にも時間がかかるのが一般的です。薬を飲み始めてすぐに痛みが完全になくなるわけではなく、数週間から数ヶ月かけて徐々に効果が現れることも少なくありません。治療期間は、痛みの原因、重症度、薬への反応性などによって個人差が大きいため、一概には言えません。目標は、薬物療法と非薬物療法(リハビリテーションなど)を組み合わせ、日常生活に支障がないレベルまで痛みをコントロールし、可能であれば徐々に薬を減らしていくことです。根気強く治療に取り組むことが大切です。
薬以外の治療法はありますか?
はい、あります。薬物療法は治療の柱の一つですが、それだけが全てではありません。理学療法士による運動療法や物理療法(温熱療法など)は、筋力を維持し、体の動きを改善するのに役立ちます。また、神経ブロック注射は、痛みの原因となっている神経の近くに局所麻酔薬などを注射することで、痛みの信号を強力に遮断する治療法です。認知行動療法などの心理的アプローチが有効な場合もあります。最適な治療は、これらの方法を個々の患者さんの状態に合わせて組み合わせていくことです。
結論
神経障害性疼痛は、その特殊な性質から、多くの人々を悩ませる手ごわい症状です。市販の痛み止めが効かないのは、痛みの発生メカニズムが根本的に異なるためであり、決してあなたの気のせいではありません。幸い、現在の日本の医療には、日本ペインクリニック学会の公式ガイドラインという、科学的根拠に基づいた信頼できる治療の道筋があります12。リリカやタリージェ、サインバルタといった有効な処方薬が存在し、専門医の管理のもとで適切に使用すれば、多くの患者さんが痛みの軽減を実感できます。重要なのは、市販薬や自己判断に頼りすぎず、痛みやしびれが続く場合は勇気をもって専門の医療機関の扉をたたくことです。この記事で得た知識が、あなたがご自身の状態を正しく理解し、専門医と協力して最適な治療法を見つけるための一助となることを心から願っています。
参考文献
- 日本ペインクリニック学会. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版. 真興交易(株)医書出版部, 2016. https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/kaiin_guideline06.html
- 日本ペインクリニック学会. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン. https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/kaiin_guideline05.html
- 医薬品医療機器総合機構. プレガバリン添付文書. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987901130209
- 医薬品医療機器総合機構. ミロガバリン(タリージェ)添付文書. https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/yakuzaiMenu/doYakuzaiInfoKobetsu&1190026F1028
- KEGG MEDICUS. 医療用医薬品 : デュロキセチン. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00069331
- 医薬品医療機器総合機構. トラマドール塩酸塩(トラマール)添付文書. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/1149038F1024?user=1
- 厚生労働省科学研究費補助金. 痛みの疫学調査. 2014. https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/147071/201443005A/201443005A0004.pdf
- Finnerup NB, Attal N, Haroutounian S, et al. Pharmacotherapy for neuropathic pain in adults: a systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol. 2015;14(2):162-173. doi:10.1016/S1474-4422(14)70251-0
- ツムラ. 神経痛・肥満に伴う関節痛. https://www.tsumura.co.jp/brand/products/kampo/symptoms/list.html?filterkey=%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%97%9B%E3%83%BB%E8%82%A5%E6%BA%80%E3%81%AB%E4%BC%B4%E3%81%86%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%97%9B
- 巣鴨千石皮ふ科. 漢方薬53「疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)」. https://sugamo-sengoku-hifu.jp/medicines/sokeikakketsuto.html