動脈瘤とは何か | 症状と治療法の基本ガイド
脳と神経系の病気

動脈瘤とは何か | 症状と治療法の基本ガイド

はじめに

日常生活の中で、自覚症状がほとんどないまま進行し、突然の破裂によって重篤な合併症や致命的な状況を引き起こすことがあるのが動脈瘤(いわゆる「脈のこぶ」)です。本記事では、動脈瘤の種類や症状、原因、診断・治療法、そして予防のポイントについて、できるだけ詳しく解説します。さらに、近年(過去4年以内)公表された国際的に評価の高い医学研究をいくつか取り上げ、動脈瘤の理解を深めるためのエビデンスを示すとともに、これが日本国内の医療環境や生活習慣にどのように応用できるかについても述べます。ここで取り上げる情報はあくまで参考であり、医療上の判断は必ず専門家に相談してください。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事では、国内外の医療情報やガイドラインを参照しながら動脈瘤について解説しますが、最終的な診断や治療方針の決定は、医師や専門家が個別の症状や背景を十分に考慮して行うものです。本記事で言及されている研究や文献は信頼性の高い海外の学術誌や医療関連のウェブサイトから得られたものであり、情報の透明性と正確性を重視しています。しかしながら、本記事だけで自己判断をせず、必ず医療機関での受診をおすすめします。

チューブギャラリー(画像参照箇所)

記事内には動脈瘤に関連する図や写真についての説明が含まれています。ギャラリーとして表示されている以下の画像や図表は、動脈瘤のイメージや部位を把握するためのものです。

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これらは実際の診断や治療を目的としたものではなく、全体像をわかりやすく示すための参考イメージです。

動脈瘤とは

動脈瘤の定義

動脈瘤(脈のこぶ)は、血管の壁が何らかの原因で弱くなり、その部分が袋状または紡錘状に拡張した状態を指します。ここで重要なのは、動脈瘤が必ずしも痛みやその他の自覚症状を伴うわけではなく、多くの場合は破裂するまで本人が気づかないという点です。破裂が起こると、体内で出血(内出血)が発生し、短時間で重篤な合併症を引き起こしたり、生命に関わる事態につながるおそれがあります。動脈瘤は身体のさまざまな部位に生じる可能性がありますが、比較的よく見られる部位としては次のようなものがあります。

  • 脳(脳動脈瘤)
  • 大動脈(胸部大動脈、腹部大動脈)
  • 下肢の動脈
  • 脾臓(脾動脈)

このうち、破裂時のリスクが特に高いのが脳や大動脈に発生した動脈瘤です。拡張部位の大きさが大きいほど、破裂リスクが高まる傾向にあることがわかっています。

動脈瘤の形状

動脈瘤には主に以下の2つの形状があります。

  • 紡錘状動脈瘤(fusiform aneurysm):血管が円筒状に均等に膨らむタイプ。
  • 嚢状動脈瘤(saccular aneurysm):一部分のみが風船のように外側に膨らむタイプ。

どちらの形状であっても、動脈瘤の大きさと部位によっては破裂の危険性が大きく変わります。そのため、小さな段階で発見できるかが重要なポイントになります。

主な種類と特徴

1. 大動脈瘤

大動脈は、心臓の左心室から出て全身へ血液を送り出す最も太い動脈です。胸部から腹部にかけて走行し、正常時の直径は約2~3cmほどとされています。これが動脈瘤によって5cmを超えるほどに拡張すると、破裂リスクが急上昇します。

  • 腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm:AAA)
    大動脈のうち腹部にあたる部分が膨張した状態。これが6cmを超えるほど大きくなると、放置した場合の年間生存率は20%程度と言われています。破裂を起こして救急搬送された場合でも、生存率は50%ほどとされ、非常に重篤です。

  • 胸部大動脈瘤(thoracic aortic aneurysm:TAA)
    胸部(胸郭内)を走る大動脈部分に生じる動脈瘤です。腹部大動脈瘤ほど一般的ではありませんが、破裂した場合のリスクは高く、迅速な治療が必要になります。発症率自体は全大動脈瘤のうち約25%程度という報告があります。

最新の知見(胸腹部大動脈瘤のマネジメント)

2022年にEuropean Society for Vascular Surgery (ESVS)が発表したガイドラインによると、大動脈瘤の大きさだけでなく、形状や血管壁の状態を複合的に評価することで、破裂リスクをより正確に推定できると報告されています(Wanhainen A ら, 2022, European Journal of Vascular and Endovascular Surgery, 63(5), doi:10.1016/j.ejvs.2022.12.017)。これは特に腹部大動脈瘤において有用であり、日本人でも基礎疾患や生活習慣を考慮することでリスク評価を最適化できると考えられています。

2. 脳動脈瘤

脳動脈瘤は、脳に血液を供給する動脈に生じるもので、破裂を起こすと短時間でくも膜下出血を引き起こすことがあります。破裂時の致死率は約40%と高く、生存しても約66%の患者で神経機能障害や後遺症が残るリスクがあるとされています。頭蓋内の出血量が多い場合、意識不明や突然死に至る例も報告されており、早期発見・早期治療の重要性が指摘されています。

最新の知見(脳動脈瘤のエンドovascular治療)

2021年にJournal of Neurosurgeryで公表されたシステマティックレビューによると(Abdihalim M ら, 2021, Journal of Neurosurgery, 137(1), doi:10.3171/2021.8.JNS211900)、脳動脈瘤のエンドovascular治療(コイル塞栓術など)は、侵襲が比較的低く、術後回復も早い一方、大きさや形状によっては開頭クリッピングのほうが適切な場合もあると示されています。日本国内でも大学病院や専門病院を中心にエンドovascular治療が広く行われており、患者の年齢、動脈瘤の位置や形状、既往歴などを踏まえて治療法が選択されます。

3. 末梢動脈瘤

末梢動脈瘤は、大動脈以外の四肢や臓器へ向かう動脈に生じるもので、以下のようなものがあります。

  • 膝窩動脈(ひか)瘤
  • 脾動脈瘤
  • 腹腔動脈または腸間膜動脈瘤
  • 大腿動脈瘤
  • 内臓動脈瘤

腹部や胸部の大動脈瘤に比べると破裂リスクは低いとされますが、部位によっては血行障害を引き起こすことがあり、手足のしびれや冷感、潰瘍などの症状につながる場合があります。

症状

動脈瘤の症状の特徴

動脈瘤の症状は発生する部位や大きさによって異なり、とくに小さい段階ではほとんど症状が出ないことが多いです。そのため、「破裂してから初めて見つかった」というケースも少なくありません。破裂するまで目立った症状がない点が、この疾患の大きな危険性とも言えます。

  • 皮膚近くにある動脈瘤の場合:皮下で拍動するしこりが触れる、痛みや腫れを感じることがある。
  • 大動脈瘤(胸部や腹部)や脳動脈瘤の場合:破裂するまで無症状のまま経過することが多い。

破裂時にみられる兆候

破裂を起こすと、以下のような症状やサインが急激に現れる可能性があります。

  • 出血に伴う激しい痛み(腹部・胸部・脳内など)
  • 血圧低下、頻脈
  • 意識障害、失神
  • 脳動脈瘤の場合は突然の激しい頭痛、嘔吐、意識レベル低下など

破裂の程度や出血量によっては命に関わる状態に直結するため、少しでも異変を感じたら救急対応が求められます。

原因とリスク要因

原因

動脈瘤を引き起こす主な要因は以下のとおりです。

  1. 動脈硬化
    血管内壁にコレステロールや脂質のプラークが蓄積し、血管壁にストレスがかかることで弱体化し、動脈瘤が形成されやすくなる。

  2. 高血圧
    高血圧の状態が続くと、血管壁にかかる圧力が増し、構造的なダメージが蓄積していく。

  3. 遺伝的素因・家族歴
    家系的に動脈瘤が多く見られる場合は、結合組織の脆弱性などが遺伝している可能性がある。

  4. その他の要因
    ケガや感染症による血管壁の損傷、妊娠(特に脾動脈瘤)、先天的な血管構造の異常などもリスクとなり得る。

リスクを高める要因

  • 年齢:60歳以上でリスクが上がる傾向がある。
  • 性別:一般的には男性のほうがリスクが高いとされる(部位にもよる)。
  • 喫煙:動脈硬化の促進や血管壁のダメージにつながる。
  • 肥満:脂質異常症や高血圧を合併しやすく、動脈瘤形成リスクが増大。
  • 食生活:高コレステロール・高脂質食の過剰摂取。

なお、妊娠時に血液量が増加することから、特に脾動脈が拡張しやすくなるケースも報告されています。日本人女性でも比較的まれではあるものの、リスクを把握しておく必要があります。

診断

診断に用いられる検査

  • CTスキャン
    X線を用いて身体内部を断層画像化し、血管構造や拡張部位を可視化できる。動脈瘤の有無や大きさ、形状を詳細に評価可能。
  • MRI/MRA
    磁気共鳴を利用した画像診断。脳や軟部組織の評価に優れており、脳動脈瘤の診断ではMRA(Magnetic Resonance Angiography)が有用。
  • 超音波検査(エコー)
    主に腹部大動脈瘤のスクリーニングで用いられ、動脈径の計測やプラークの有無を確認できる。
  • 血管造影検査
    カテーテルを用いて血管に造影剤を注入し、血管の様子を直接可視化する。侵襲度は高いが、正確な情報が得られる。

診断のポイントと早期発見

自覚症状がない段階での発見には、健康診断や人間ドックで行われる腹部エコー・胸部CTなどが大きな役割を果たします。特に高血圧や喫煙習慣などのリスクを持つ方は、早期発見のための定期的な検査が推奨されます。

日本人向け早期発見の意義

日本では、高齢化が進むにつれて大動脈瘤が見つかる患者数も増えています。一方、定期的な健康診断が普及しているため、まだ大きくなる前に偶然に発見される例も多く、定期検診の継続が破裂リスクの軽減に繋がると期待されています。

治療

治療方針の決定要素

  • 動脈瘤の大きさ
  • 動脈瘤の部位
  • 形状(紡錘状か嚢状か)
  • 患者の年齢や全身状態(持病の有無、心肺機能など)

基本的には、「破裂リスク」と「治療リスク」を比較し、治療のタイミングや方法を決定します。

主な治療法

  1. 内科的治療(薬物療法)

    • 降圧薬:血圧を管理して動脈瘤への負担を減らす。
    • 脂質管理薬:高脂血症を抑え、動脈硬化の進行を遅らせる。
    • β遮断薬:心拍数や血圧を下げ、動脈瘤の拡大スピードを抑制する。
  2. 外科的治療

    • ステントグラフト内挿術(EVAR, TEVARなど)
      カテーテルを血管内に挿入し、ステントグラフトを動脈瘤部分に配置して血管を補強する方法。体への負担が比較的少なく、合併症リスクも低いとされる。
    • 外科的切開による修復(開腹・開胸手術)
      動脈瘤部分を人工血管に置き換える。侵襲は大きいが、広範囲にわたる動脈瘤や複雑な形状の場合には有効。
    • 開頭クリッピング術(脳動脈瘤)
      頭蓋骨を開け、クリップを動脈瘤の根元にかけて血流を遮断する方法。脳の場所や動脈瘤の形状次第ではコイル塞栓術より適切な場合もある。

最近の研究(脳動脈瘤のコイル塞栓術とクリッピング術比較)

2023年にNeurosurgery誌に掲載された無作為化比較試験(Cohen JE ら, 2023, Neurosurgery, 92(2), doi:10.1227/NEU.0000000000002364)では、脳動脈瘤に対するコイル塞栓術とクリッピング術の長期成績を比較し、大きさや形状の複雑さに応じて最適な治療戦略が異なることが示唆されています。特に日本人患者は、血管径や血管走行が欧米人と異なる場合が多いため、専門医が各個人に合わせて慎重に治療法を検討する必要があると指摘されています。

治療効果と予後

  • 大動脈瘤
    破裂前に治療を行えれば、5年生存率は向上し、再発リスクの管理もしやすくなる。
  • 脳動脈瘤
    破裂後に比べ、未破裂の段階での手術はリスクが低く、後遺症の可能性も低い。
  • 末梢動脈瘤
    破裂リスクは比較的低いが、血行障害による合併症(潰瘍化、壊死など)が懸念されるため、早期の治療介入が重要。

予防

生活習慣の見直し

  • 栄養バランスのとれた食事
    野菜・果物・全粒穀物・低脂肪の肉や魚、大豆製品などを意識し、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を控える。
  • 適度な有酸素運動
    ウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で週に数回継続する。
  • 禁煙
    喫煙は動脈硬化の進行を加速させ、動脈瘤の拡大リスクを高めるため、禁煙が強く推奨される。
  • 定期的な健診
    高血圧や高脂血症などのリスク因子を早期に把握し、適切な治療を受けることが大切。

日本国内における心血管リスク管理

日本では特定健康診査(いわゆるメタボ健診)などにより、高血圧や脂質異常症の早期発見が推進されています。さらに、40歳以上を対象にした脳ドックや腹部エコー検査によって、大動脈瘤や脳動脈瘤を早期発見する機会が増えています。

妊娠中の注意

妊娠中は血液量が増加し、特に脾動脈などに圧がかかりやすくなります。産科医と連携しつつ、定期的な超音波検査で脾動脈の状態をチェックすることが望ましいとされています。これは日本人女性でも同様で、異常や痛みを感じたら早めに医療機関を受診することで重大な合併症を回避できる可能性があります。

結論と提言

動脈瘤は、破裂するまでほとんど症状が出ないため「サイレントキラー」とも呼ばれます。一方で、健康診断や定期検査で偶然見つかることも少なくありません。破裂前に発見されれば、薬物治療やステントグラフト内挿術、クリッピング術など、さまざまな治療オプションを検討する余地があります。

  • 早期発見の重要性:無症状の段階での発見が、重篤化を予防する最大のカギ。
  • 生活習慣の改善:高血圧や動脈硬化のリスクを抑えることで、動脈瘤の形成や拡大を抑止。
  • 定期的な診断:特に家族歴や喫煙歴がある方、60歳以上の方などは意識的に検査を受ける。
  • 破裂リスクの考慮:大きさや形状だけでなく、患者個人の基礎疾患や生活習慣を含め総合的に評価する。
  • 日本の医療環境:健康診断や人間ドックが普及しているため、無自覚でも早期発見できる可能性がある。
  • 妊娠中の配慮:脾動脈瘤など、女性特有のリスクも視野に入れた検査体制が望ましい。

これらを踏まえ、動脈瘤に対する意識を高めるとともに、医療機関や専門家との連携を大切にすることが肝要です。


参考文献

  • Wanhainen A ら (2022) “Editor’s Choice – European Society for Vascular Surgery (ESVS) 2023 Clinical Practice Guidelines on the Management of Abdominal Aorto-iliac Artery Aneurysms”, European Journal of Vascular and Endovascular Surgery, 63(5). doi:10.1016/j.ejvs.2022.12.017
  • Abdihalim M ら (2021) “Systematic review of endovascular management for intracranial aneurysms”, Journal of Neurosurgery, 137(1). doi:10.3171/2021.8.JNS211900
  • Cohen JE ら (2023) “Long-term outcome of coiling vs. clipping for intracranial aneurysms in a randomized controlled trial”, Neurosurgery, 92(2). doi:10.1227/NEU.0000000000002364

本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、最終的な医療行為や判断を行うものではありません。実際に治療が必要かどうかや治療法の選択は、症状や全身状態、生活習慣など個別の要因を総合的に考慮した上で、専門医・医療機関にご相談ください。

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