はじめに
仮性動脈瘤(pseudoaneurysm)は、動脈の壁が損傷し、血液が血管外へ漏れ出したあと周囲の組織内でたまる状態を指します。通常の動脈瘤(aneurysm)とは異なり、仮性動脈瘤では動脈壁そのものが全体的に膨らむわけではありません。損傷によって生じた小さな開口部から血液が抜け出し、周囲の組織の中に“袋状”にたまってしまうことが特徴です。とくに心臓カテーテル検査後や、太ももの付け根(鼠径部)の動脈に穿刺をしたあとなどに生じやすいといわれています。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本稿では、仮性動脈瘤の基礎知識や症状、原因、診断・治療法までを包括的に解説いたします。医療機関での検査や治療をすでに受けた方はもちろん、今後カテーテル関連の処置を検討している方にも役立つ情報をまとめました。仮性動脈瘤は無症状のまま経過し、気づかないうちに進行してしまう場合もあるため、早期の発見と適切な治療が大切です。周囲に同じような手技を受けるご予定のある方にも知識として共有していただけると幸いです。
専門家への相談
本記事に関連して、医学的な見解については医師(内科・循環器や血管外科など)による専門的な診断・治療方針が必要となります。本記事の内容は海外を含む各種医療情報サイト(Healthline、Drugs.com、Mayo Clinicなど)の公開情報や、既存の臨床知見をもとに編集しております。また、本文中に登場する下記の医師は記事のもとになった情報源で示されている実在の専門家です。
- 医療監修: Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)
仮性動脈瘤は、カテーテル操作や動脈の損傷などさまざまな要因が重なって発生し得るため、読者の皆様がもしも類似の症状やリスクを抱えている場合は、専門医へ直接ご相談ください。本稿はあくまで参考情報であり、個々の症状や背景によって治療方針は大きく変わりますので、自己判断ではなく専門家の意見を仰ぐことが重要です。
仮性動脈瘤とは何か
仮性動脈瘤は「pseudoaneurysm」という英語名でも知られています。本来の動脈瘤(aneurysm)は、動脈壁の一部が脆くなって内側からこぶのようにふくらむ状態ですが、仮性動脈瘤の場合は動脈壁が連続的に膨らむわけではなく、損傷部位から漏れた血液が血管周囲の組織に蓄積して袋状の空間を形成する点が特徴です。
- 多くはカテーテル処置などで鼠径部の大腿動脈を穿刺したあとに見られます。
- 動脈のほか、まれに静脈の損傷などでも同様の現象が起こり得ます。
- 主に心臓カテーテル検査のような血管内治療後、もしくは外傷・外科的手術中の偶発的な血管損傷後に発生しやすいです。
近年、日本国内では経カテーテル治療が増加傾向にあり、その際に使用される大腿動脈や橈骨動脈(手首付近)への穿刺後に仮性動脈瘤が見つかるケースが報告されています。海外の研究でも同様に、心血管カテーテル検査後の合併症として仮性動脈瘤が数%の割合で認められるとされています。
さらに、深刻な合併症が進行しないうちは無症状であることも多いです。そのため、血液の塊が大きくなって周辺神経や組織を圧迫するまで気づかないことも少なくありません。
主な症状
自覚しにくいケースが多い
軽度の仮性動脈瘤では、はっきりとした自覚症状が現れないことがあります。しかし、以下のような症状・徴候が見られた場合は注意が必要です。
- 血管穿刺やケガ後に、限局した腫れ(腫瘤)が触れる
- 患部を押すと痛みがある、もしくは拍動性の疼痛を感じる
- 皮膚の色調が変化する、触ったときに強い圧痛を伴う
- 医療者が聴診器を当てた際に血流雑音(bruit)を確認できることがある
カテーテル処置後の鼠径部や手首などにこうした症状が見られる際には、仮性動脈瘤の可能性があります。早めに医療機関を受診し、エコー検査や画像診断で確認することが大切です。
原因
カテーテル穿刺や外傷
仮性動脈瘤の多くは、心臓カテーテルや血管造影などで動脈を穿刺する際に血管壁が損傷することが直接的な原因として挙げられます。その他、交通事故や転倒による外傷、外科手術による血管損傷、また感染症などによっても発生する可能性があります。動脈瘤(真性動脈瘤)が破裂した際に、結果として仮性動脈瘤が形成されるケースも報告されています。
リスクを高める要因
- 血管穿刺の部位が大腿動脈より深部にある場合
- 抗血小板薬や抗凝固薬(ワルファリンなど)の服用
- 高血圧・動脈硬化などで血管壁に負荷がかかっている状態
- 血管自体に先天的・後天的な脆弱性がある
日本でも高齢化や生活習慣病が増え、心臓カテーテル検査など血管内治療を受ける患者が増加しています。血液をサラサラに保つ薬剤を常用している方などは、血管が傷つくと出血が止まりにくく、仮性動脈瘤を含む合併症のリスクが上がります。
診断方法
超音波検査(エコー)が第一選択
仮性動脈瘤が疑われる場合、多くの医療機関では超音波検査(エコー)が最初に行われます。エコーで血流の異常や周囲組織内の血液のたまりを可視化しやすいため、非侵襲的かつ簡便であり、痛みもほとんどありません。
血管造影検査
さらに詳細な評価や治療方針の決定が必要なケースでは、血管造影が行われることもあります。造影剤を注入しながらX線撮影を行うことで、動脈内の血流の様子をより正確に観察できます。ただし、カテーテル操作が必要になるため、エコーと比べると侵襲性は高く、合併症のリスクも少し増えます。
治療方法
治療の必要性は、仮性動脈瘤の大きさや症状の有無によって判断されます。小さい仮性動脈瘤であれば、定期的に超音波検査で観察して経過を追う方法もあります。患部が自然に閉じていく可能性があるためです。しかし、大きくなるリスクがある場合や痛み・圧迫症状が明確な場合は、速やかな治療が検討されます。以下に主な治療選択肢を挙げます。
1. 経過観察
- サイズが小さい場合や血栓化が進んでいる場合など、医師が自然に修復する可能性が高いと判断したとき
- この間は定期的にエコーで大きさや血流の状態をモニタリングする
- 重い荷物を持つなど、血圧・腹圧を急激に上げる行為は避けるように指導されることが多い
2. 超音波ガイド下圧迫法
- 超音波で仮性動脈瘤の部位を確認しながら、その箇所を10分程度ずつ圧迫して血流を止め、内部で血栓化を促す方法
- 非侵襲的ではあるが、痛みを伴いやすく、成功率は報告によって幅がある(おおむね6~8割前後)
- 患者さんの負担や痛み対策が課題となる場合もある
3. 超音波ガイド下血栓形成薬注入法
- 超音波で仮性動脈瘤の袋部分を特定し、トロンビン(血液凝固を促す酵素)などを注射し、局所的に血栓化させる治療
- 手術に比べて侵襲が少なく、成功率が高いとされる
- 多くの症例で単回注射でも高い有効性が報告されているが、ときには追加注射が必要となる場合もある
4. 外科手術
- 従来は仮性動脈瘤の治療の主流だったが、他の低侵襲治療が普及した昨今では、複雑な症例、再発例、大動脈レベルでの広範囲損傷などにおいて選択されることが多い
- 仮性動脈瘤の袋状部位を切除して血管壁を修復するが、患者さんへの負担が大きく、入院期間も長くなる
- 術後の合併症リスク(感染など)を十分考慮したうえで行われる
日本国内では、カテーテル検査・治療後に起こる鼠径部仮性動脈瘤に対して、まずは超音波ガイド下血栓形成薬注入法が多くの医療機関で検討される流れです。成功率が高い一方、血栓がうまく形成されず漏出が続く場合は、圧迫法や外科手術などへ切り替えることもあります。
また、再出血や仮性動脈瘤の拡大といった経過が見られた場合には早期に再治療が必要となります。治療後しばらくは定期フォロー(エコー検査など)が推奨されるのはそのためです。
治療後の経過と注意点
- 血流が遮断され血栓化が成功すると、仮性動脈瘤の袋部分は吸収・縮小していきます。
- 血管壁が十分に修復されるまで、重労働や激しい運動、長時間の立位などは避けるよう指示されることが一般的です。
- 血栓を形成する治療を行うため、抗血栓療法中の方は主治医と相談のうえ治療スケジュールを調整する必要があります。
研究および臨床的報告の例
超音波ガイド下血栓形成薬注入法は、痛みが比較的少なく成功率が高いという点で注目されています。海外の文献でも、大腿動脈由来の仮性動脈瘤に対して約90%以上の成功率が得られたと報告されています(参考文献は後述)。また、圧迫法や外科手術に比べ入院期間の短縮や合併症リスクの低減が期待できる点も特徴です。
一方、日本国内でも症例報告や小規模研究が増加傾向にあり、特に血管内治療の普及とともに診療指針の改訂やガイドライン化が進められています。今後さらに大規模なデータの蓄積によって、最適な治療時期や適応範囲が明確になることが期待されます。
予後と再発
大きな仮性動脈瘤は、治療しないまま放置すると周囲組織を圧迫し、神経障害や組織壊死などを引き起こす可能性があります。また、感染が加わると治療が困難になり、血流障害や重篤な合併症のリスクがさらに上昇します。
適切な治療が行われた場合、成功率は高く、多くの症例では再発率も低いと考えられています。しかし、血管壁の脆弱性や基礎疾患の有無など、個々の背景によって経過は異なるため、治療後も一定期間の定期フォローアップが重要です。
日常生活での留意点
仮性動脈瘤の治療後や経過観察中は、日常生活でも以下のポイントに留意すると良いでしょう。
- 重い荷物を持ち上げない: 大きな力を腹圧や鼠径部にかける動作は避け、血管への負担を減らす。
- 定期的な通院: 指示されたスケジュールで超音波検査などを受け、仮性動脈瘤のサイズや血流の変化を確認する。
- 感染リスクの軽減: 手術創部や穿刺部位の消毒・ケアを徹底し、万が一の感染兆候(発赤、疼痛の増悪、発熱など)があれば早めに受診。
- 血圧管理: 高血圧は血管壁への負担が大きいため、かかりつけ医に相談しながら降圧治療や生活習慣の見直しを。
結論と提言
仮性動脈瘤(pseudoaneurysm)は、カテーテル検査や外傷などで血管壁が損傷した際に、血液が周囲の組織に漏れ出して袋状に蓄積する状態です。小さいものは症状に気づかないこともありますが、大きくなると局所の痛みや拍動感、周囲組織の圧迫症状を引き起こす可能性があります。診断には超音波検査が最もよく用いられ、治療では超音波ガイド下での血栓形成薬注入が少侵襲かつ有効な方法として広く取り入れられています。一方、複雑な症例や再発例などでは外科手術が必要となることもあります。
経過観察が可能な小さな仮性動脈瘤でも、放置して急に拡大するリスクをゼロにはできません。定期的なフォローアップや、痛み・腫れなどの症状が悪化した場合には早めの再受診が重要です。高齢化や生活習慣病の増加に伴い、日本でも心臓カテーテル検査や血管内治療が頻繁に行われるようになりましたが、それに伴う合併症としての仮性動脈瘤は決して珍しい疾患ではありません。
もしカテーテル処置を受けるご予定がある方や、受けたあとに腫れや痛みを感じる場合は、早めに医療機関へ相談してください。
参考文献
- What Is a Pseudoaneurysm and How Is It Treated?
https://www.healthline.com/health/pseudoaneurysm#risk-factors
アクセス日: 2020年3月2日 - Pseudoaneurysm
https://www.drugs.com/cg/pseudoaneurysm.html
アクセス日: 2020年3月2日 - Pseudoaneurysm: What causes it?
https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/cardiac-catheterization/expert-answers/pseudoaneurysm/faq-20058420
アクセス日: 2020年3月2日
免責事項
本稿の情報は参考資料であり、正式な診断・治療を行うものではありません。個々の症状や状態に応じて、必ず医療従事者(医師や薬剤師など)へ直接ご相談ください。特に手術やカテーテル検査後に腫れや痛み、出血などを感じる場合は早めに受診し、適切な検査と治療を受けるようにしてください。