卒乳・断乳後のママのための安心ケアガイド:体の変化と心のサポート
小児科

卒乳・断乳後のママのための安心ケアガイド:体の変化と心のサポート

授乳期間の終わりを迎える「卒乳」または「断乳」は、お子さまにとっても、そしてお母さまにとっても、一つの大きな節目であり、新たな生活サイクルの始まりを意味します。この時期、お母さまの体は、特に乳房の状態やホルモンバランスにおいて、さまざまな変化を経験します。同時に、心境の変化を感じることも少なくありません。このような変化の時期を健やかに、そして穏やかに乗り越えるためには、お母さま自身が「自分を大切にすること」(セルフケア)と、必要に応じた「適切なサポート」を得ることが非常に重要です。授乳という大きな役割を終えたご自身の心と体をいたわり、変化に丁寧に対応していくことが、次のステップへの健やかな移行を支えます。この記事では、卒乳・断乳後にお母さまが経験する可能性のある体の変化、特に乳房ケアや一般的な不快感の管理、そして心のケアに焦点を当てています。提供する情報は、現在の医学的知見や専門機関のガイドラインに基づいており、お母さまが信頼できる知識をもって、この大切な時期を前向きに過ごせるよう支援することを目的としています。多くのお母さまが直面するかもしれない身体的・精神的な課題に対して、具体的な対処法や考え方を示すことで、少しでも不安を和らげ、安心してこの移行期を迎えられるようお手伝いできれば幸いです。

要点まとめ

  • 卒乳・断乳は、親子の状況に合わせて徐々に進めることが基本です。急な中止は乳房のトラブルや子どもの心の負担につながる可能性があります1
  • おっぱいの張りや痛みには、冷やすことや、痛みを和らげる程度の優しい搾乳が推奨されます。ただし、完全に搾り切らないことが母乳分泌を穏やかに減らす鍵です2
  • 乳腺炎の予防が重要です。乳房のしこり、赤み、熱感、38.5℃以上の発熱などが見られたら、早めに助産師や医師に相談しましょう2
  • 卒乳・断乳後は、ホルモンバランスの変化により、気分の浮き沈みや寂しさを感じることがあります。自分を責めず、休息をとり、パートナーや専門家に気持ちを話すなど、心のケアも非常に大切です。
  • 母乳分泌抑制薬の使用は、必ず医師の診断と処方が必要です。副作用のリスクもあるため、慎重に検討されるべき選択肢です3, 4

1. 卒乳・断乳とは?いつ、どのように進める?

授乳の終了は、それぞれの親子にとってユニークな過程です。その進め方やタイミングについて、医学的な観点と日本の状況を踏まえて解説します。

1.1. 言葉の定義と基本的な考え方

日本では、授乳の終わり方に関して「卒乳(そつにゅう)」と「断乳(だんにゅう)」という二つの言葉が使われることがあります。一般的に、「卒乳」は赤ちゃんが自然と母乳を欲しがらなくなり、授乳が終わることを指す場合が多く、いわば子ども主導のプロセスと捉えられます。一方、「断乳」は、お母さまの意志や計画に基づいて授乳を終えることを指すことが多く、母主導のプロセスと理解されることがあります。ただし、これらの言葉の使われ方やニュアンスは家庭によって異なり、厳密な区別なく用いられることもあります。
大切なのは、授乳をいつ終えるかについて「これが正しい」という単一の時期は存在しないということです。厚生労働省のガイドラインでも「赤ちゃんやお母さんのペースで大丈夫」と示されているように、それぞれの親子の状況や考えを尊重することが基本です5。世界保健機関(WHO)やユニセフは、生後6ヶ月間の完全母乳育児と、その後は適切な補完食と共に2歳かそれ以上まで母乳育児を続けることを推奨していますが6, 1、これもあくまで世界的な公衆衛生の観点からの指針であり、個々の状況に合わせて柔軟に考えることが求められます。

1.2. 卒乳・断乳の一般的な目安とサイン

日本においては、1歳から1歳半頃に授乳を終える家庭が多いとされていますが、2歳以降まで続ける方も珍しくありません。卒乳や断乳を考えるタイミングの目安となるサインには、以下のようなものがあります。

  • お子さま側のサイン:
    • 離乳食をしっかりと食べられるようになった。
    • 母乳やミルクへの興味が薄れてきた、授乳中に遊び始めるなど集中しなくなった。
    • 授乳以外の方法でも落ち着けるようになった。
  • お母さま側の理由:
    • 仕事復帰や次の妊娠など、生活環境の変化。
    • お母さま自身の体調や、「そろそろやめたい」という気持ち。
    • 医師からの医学的な助言。

これらのサインや理由はあくまで目安であり、最終的には親子双方にとって無理のないタイミングで進めることが重要です。厚生労働省も「子どもの成長や発達、離乳の進行、家庭環境によって授乳をやめる時期は個人差があるため、親子の考えを尊重して大丈夫」と述べています5

1.3. 卒乳・断乳の進め方

卒乳・断乳を進める際には、お母さまの体の負担を軽減し、お子さまが精神的に安定して移行できるよう、急激な中止は避け、徐々に進めることが強く推奨されます。急に授乳をやめると、お母さまは乳房の張りや痛みが強くなったり、乳腺炎のリスクが高まったりする可能性があります。また、お子さまにとっても大きな変化となるため、心の準備期間を設けることが大切です。
具体的な進め方のステップ:

  1. 卒乳・断乳を目指す日を決める(母主導の場合): 目標日を設定することで、計画的に進めやすくなります。
  2. 授乳回数を徐々に減らす: まずは日中の授乳から1回ずつ減らしていくのが一般的です。例えば、離乳食がしっかり食べられている昼間の授乳を、他の飲み物や遊びに置き換えることから始めます。その後、朝や夕方、最後に夜間の授乳を減らしていくとスムーズに進めやすいでしょう。
  3. 授乳時間を短縮する: 1回の授乳時間を少しずつ短くしていく方法もあります。
  4. お子さまへの声かけと心の準備: 「おっぱいバイバイしようね」と優しく伝えたり、卒乳に関する絵本を読んだりすることで、お子さまが心の準備をする手助けになります。カレンダーを見せながら「この日になったらおっぱいとバイバイね」と伝えるのも良い方法です。このような関わりは、お子さまが変化を受け入れやすくするために非常に重要です。
  5. 代替の愛情表現や安心感を提供する: 授乳をやめることで失われる肌の触れ合いや安心感を、抱っこや絵本の読み聞かせ、手遊びなど、他の方法で補いましょう。
  6. 無理をしない: もしお子さまが何日も泣いて嫌がるようであれば、まだその子にとって卒乳・断乳は早すぎるのかもしれません。その場合は一度中断し、時期を改めて再挑戦することも考えてみましょう。お母さま自身の体調や気持ちも大切にし、親子ともに無理のないペースで進めることが最も重要です。

卒乳・断乳のプロセスは、お母さまの身体的な快適さだけでなく、お子さまの情緒的な安定にも深く関わっています。時間をかけて段階的に進めることで、母子双方にとってより穏やかな移行が可能になります。

表1:主な卒乳・断乳に関するガイドラインのポイント比較(WHO・厚生労働省など)
国際機関・日本の省庁など 推奨される授乳期間 卒乳・断乳の進め方に関する主な推奨 その他特記事項
世界保健機関(WHO)・ユニセフ 生後6ヶ月は完全母乳、その後補完食と共に少なくとも2歳またはそれ以上まで母乳育児を継続1, 6 親子の状況に応じて 母乳育児の保護・促進・支援
厚生労働省(日本) 赤ちゃんやお母さんのペースで大丈夫。明確な終了時期の決まりはない5 徐々に回数を減らす。子どもの成長や発達、離乳の進行、家庭環境を考慮5 親子の考えを尊重。無理強いしない
日本助産師会 WHO/ユニセフの推奨を基本としつつ、個々の状況に応じた支援2 母親と赤ちゃんの状態をアセスメントし、個別的なケア計画を立案。急な断乳は避けることを推奨(乳腺炎予防の観点から)2 母親の意思決定支援。科学的根拠に基づいた情報提供2

この表は、主要な機関のガイドラインが、親子の主体的な決定と状況に応じた柔軟な対応を一貫して重視していることを示しています。専門家の助言も参考にしながら、ご自身の家庭に合った進め方を見つけることが大切です。

2. ママの体の変化とセルフケア

卒乳・断乳後、お母さまの体はホルモンバランスの変化に伴い、様々な調整期間に入ります。特に乳房は大きな影響を受けますが、それ以外にも変化が現れることがあります。適切なセルフケアを行うことで、この時期をより快適に過ごすことができます。

2.1. おっぱいのケア:張りや痛みを和らげるために

授乳をやめると、母乳の産生はすぐには止まらず、乳房内に母乳が溜まることで張りや痛み(おっぱいの張り)を感じることが一般的です。これは体が母乳産生の必要性が減ったことを認識し、徐々に産生量を減らしていく過程で起こる自然な反応です。しかし、この張りが強すぎると不快感が大きくなるため、適切に対処することが重要です。

薬を使わない対処法(非薬物的管理)

  • 優しい搾乳: 乳房の張りが強い場合、痛みを和らげる程度に少量の母乳を搾り出すことが推奨されます。この際、乳房を完全に空にしてしまうと、体はまだ母乳が必要だと認識し、産生を続けてしまう可能性があります。あくまで「不快感を軽減するため」であり、「空にするためではない」というバランスが重要です。この微妙な調整が、母乳産生を穏やかに減少させる鍵となります。
  • 冷罨法(れいあんぽう): 冷たいタオルや保冷剤(布で包むなどして直接肌に当てないように注意)を乳房に当てることで、腫れや痛みを和らげる効果が期待できます2。日本助産師会のガイドラインでも、不快感の軽減のために推奨されています。
  • キャベツの葉の使用について: 伝統的にキャベツの葉を乳房に当てる方法が知られており、一部の研究では痛みや硬さを和らげる可能性が示唆されています(ただし、科学的根拠の確実性は低いとされています)7。しかし、日本助産師会は、リステリア菌感染のリスクを考慮し、キャベツの葉を含む生の葉物野菜を乳房に貼付することは推奨していません2。安全性に関する国内の専門機関の指針を優先することが賢明です。
  • 温罨法(おんあんぽう): 温めることは血行を促進するため、一般的に卒乳・断乳後の炎症を伴う張りには推奨されませんが、搾乳前や授乳(徐々に減らしている場合)の直前に短時間温めると、母乳が出やすくなり楽になる場合があります。ただし、温めすぎや長時間の使用は避け、ご自身が心地よいと感じる範囲で行いましょう2
  • 支えのあるブラジャー: きつすぎず、適度に乳房を支えるブラジャーを着用することで、揺れによる痛みを軽減し、快適に過ごせる場合があります。ワイヤー入りのブラジャーは乳管を圧迫する可能性があるため、避けた方が良いでしょう。
  • 乳房マッサージ: 優しくマッサージすることで、血行を促し、不快感を和らげる助けになることがあります。ただし、乳房組織を傷つける可能性があるため、強い力でのマッサージは避けましょう。
  • 桶谷式乳房マッサージ: 日本で広く知られている乳房ケア方法の一つに「桶谷式乳房マッサージ」があります。これは認定を受けた助産師が行う専門的な手技で、乳房の状態を整え、母乳の流れをスムーズにすることを目的としています。一部の研究では、乳房の張りや痛みの軽減、母乳育児の成功率向上に寄与する可能性が示唆されています。関心がある場合は、必ず桶谷式の認定資格を持つ専門家にご相談ください。日本独自のケア方法として、その効果やアプローチが注目されることもあります。

鎮痛剤の使用

痛みが強い場合は、市販の鎮痛剤(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を使用することも可能です。イブプロフェンには抗炎症作用もあるため、乳房の炎症性の痛みに効果的な場合があります2。用法・用量を守り、もし非常にゆっくりと授乳回数を減らしている途中で、まだ授乳の可能性がある場合は、授乳中の服用について薬剤師や医師に確認しましょう。

2.2. 乳腺炎の予防と対処法

乳腺炎は、卒乳・断乳期に起こりうる比較的頻度の高いトラブルの一つです。適切な知識を持ち、予防と早期対処を心がけることが重要です。

  • 乳腺炎とは?: 乳腺組織の炎症で、感染を伴う場合と伴わない場合があります。主な症状としては、乳房の一部が赤く腫れて熱感を持ち、しこりのように硬くなって痛む、38.5℃以上の発熱、悪寒、インフルエンザのような体の節々の痛みなどが挙げられます2
  • 危険因子: 乳汁うっ滞(母乳が乳腺内に溜まった状態。乳房の張り、乳管の詰まり、授乳回数の減少や不適切な搾乳などが原因)、乳頭の傷、お母さまのストレスや疲労、急激な断乳などが乳腺炎のリスクを高めます2
  • 予防法:
    • 卒乳・断乳は徐々に進める。
    • 乳房が長時間張ったままにならないように、不快な場合は適度に搾乳する。
    • 手指を清潔に保つ。
    • 乳房を締め付けない、サイズの合った下着を選ぶ。
    • 十分な休息を取り、ストレスを溜めないように心がける。
  • 初期症状のセルフケア:
    • もし可能であれば、炎症のある側の乳房からも授乳または搾乳を続ける(乳管の詰まりの解消に役立つことがあります)。
    • 十分な休息と水分補給を心がける。
    • 鎮痛剤(イブプロフェンなど)を使用する。
    • 授乳や搾乳の前には温罨法で母乳の流れを助け、授乳や搾乳の後には冷罨法で痛みや炎症を和らげることが推奨される場合があります。
  • 医師の診察が必要な場合: 症状が12~24時間以内に改善しない場合、高熱が続く場合、または体調が非常に悪い場合は、速やかに医療機関を受診してください。早期の適切な治療が、乳腺膿瘍(乳房内に膿が溜まる状態)への進行を防ぐために重要です2。感染が疑われる場合は、医師が抗生物質を処方することがあります。

乳腺炎は、お母さまにとって非常につらい症状を伴うため、予防が第一です。日本助産師会の「乳腺炎ケアガイドライン2020」2では、乳腺炎の重症度に応じたケアのフローチャートが示されており、助産師と医師の連携による段階的な対応が推奨されています。これは、日本の周産期ケアにおける協調的なサポート体制を反映しています。

2.3. 母乳分泌を抑える方法

母乳の分泌を穏やかに抑えていくためには、いくつかの方法があります。基本的には、授乳回数や搾乳量を徐々に減らしていくことで、体は母乳の必要性が低下したと認識し、自然と産生量が減少していきます。

薬を使わない方法(非薬物的アプローチ)

  • 圧迫・サポート力のあるブラジャー: 前述の通り、乳房を適度に支えることは快適さにつながります。ただし、乳房を強く締め付けすぎると乳管閉塞や乳腺炎のリスクを高める可能性があるため、過度な圧迫は避けましょう。
  • ハーブ療法:
    • セージティー: 伝統的に母乳分泌を抑えるために用いられてきたハーブですが、その効果を科学的に裏付ける質の高い臨床研究は現在のところ不足しています。米国国立医学図書館のデータベースLactMed®によると、セージが母乳量に与える影響を評価した科学的研究は見当たらず、セージに含まれるツジョンという成分は高用量で神経毒性を示す可能性も指摘されています8。したがって、セージティーの利用に関しては、効果の不確実性と潜在的な安全性の懸念から、極めて慎重な判断が求められ、必ず医療専門家に相談することが推奨されます。
    • ペパーミント、パセリ: これらも同様に母乳分泌を抑えるとされることがありますが、科学的根拠は乏しいのが現状です。
    • ラロット葉(Piper lolot / Lá Lốt): 現時点の情報からは、ラロット葉そのものが乳汁分泌抑制に有効であるという明確な科学的根拠は見当たりません。

薬物療法(医師への相談が必須)

母乳分泌を抑制する薬物療法は、プロラクチンという母乳産生を促すホルモンの働きを抑えることで効果を発揮します。これらの薬剤は医師の処方が必要であり、自己判断での使用は絶対に避けるべきです。

  • カベルゴリン(主な商品名:カバサール錠®など): 日本において、高プロラクチン血症に伴う症状(乳汁漏出症など)の治療に用いられ、結果として乳汁分泌抑制効果が期待されます3。海外では産褥期の乳汁分泌抑制を目的として使用されることもあります。通常、短期間の服用となります。PMDA(医薬品医療機器総合機構)は、めまい、頭痛、吐き気、心臓弁膜症、線維症などの副作用リスクを注意喚起しています3
  • ブロモクリプチン(主な商品名:パーロデル錠®など): 日本において「産褥性乳汁分泌の抑制」の効能・効果で承認されています4。PMDAは、吐き気、頭痛、めまい、衝動制御障害(病的賭博など)、突発的睡眠などの副作用に注意を促しています4

これらの薬剤は、非薬物的な方法で管理が難しい場合の選択肢であり、医師による慎重な判断と処方が必要です。

表2:日本における乳汁分泌抑制のための薬物療法(医師の診断と処方が必須)
薬剤名 (一般名) 主な商品名 主な作用 PMDAが注意喚起する主な副作用・リスク 特に重要な注意点
カベルゴリン (Cabergoline) カバサール錠® など プロラクチン分泌抑制 心臓弁膜症、線維症(心臓、肺、後腹膜など)、めまい、頭痛、吐き気、起立性低血圧3 必ず医師の指示に従うこと。副作用の初期症状に注意し、異常を感じたら直ちに医師に相談。他の薬剤との併用に注意。
ブロモクリプチン (Bromocriptine) パーロデル錠® など プロラクチン分泌抑制 衝動制御障害(病的賭博、強迫的買い物、性欲亢進など)、前兆のない突発的睡眠、血圧低下、吐き気、頭痛4 必ず医師の指示に従うこと。自動車の運転など危険を伴う機械の操作は避ける。精神症状や衝動制御に関する変化に注意し、家族からの観察も重要。アルコールとの併用は避ける。妊娠の可能性のある場合は医師に相談。

2.4. その他の体の変化

卒乳・断乳に伴うホルモンバランスの変化は、乳房以外にも影響を及ぼすことがあります。

  • ホルモンバランスの変化: 授乳中は母乳産生を促すプロラクチンの血中濃度が高く保たれ、排卵が抑制されることがありますが、卒乳・断乳後はプロラクチン濃度が低下し、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンのパターンが変化します。これにより、多くの場合、産後の生理が再開します。
  • 体重の変化: 授乳中は母乳を作るために多くのカロリーを消費しますが、卒乳・断乳後はその消費がなくなります。授乳中と同じような食事を続けていると、体重が増加しやすくなることがあります。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけることが、体重管理に役立ちます。
  • スキンケア・ヘアケア: 産後は肌質の変化や抜け毛を経験するお母さまもいますが、これらの変化が卒乳・断乳期に続く、あるいは新たに現れることもあります。肌が敏感になっている場合は、オーガニック製品や敏感肌向けの優しいスキンケア製品を選ぶと良いでしょう。ヘアケアに関しても、頭皮や髪に優しい製品の使用や、短時間でケアできるアイテムが役立ちます。単なる美容目的だけでなく、自分自身をいたわる時間を持つことは、精神的な安定にも繋がります。

3. ママの心のケアとサポート

卒乳・断乳は、お母さまにとって身体的な変化だけでなく、大きな心の変化も伴う時期です。これまで続けてきた授乳という親密な行為が終わることに対し、さまざまな感情が湧き起こるのは自然なことです。

  • さまざまな感情の認識: 安堵感、達成感、寂しさ、罪悪感、不安、解放感など、実に多様な感情を経験することがあります。どのような感情であっても、それはお母さま自身の正直な気持ちであり、「こう感じなければならない」という決まりはありません。自分自身の感情を否定せず、ありのままに受け止めることが大切です。
  • ホルモンと気分の関連: 卒乳・断乳に伴うプロラクチンやオキシトシンといったホルモンの変動が、情緒的な不安定さや気分の落ち込みに関与することが知られています。
  • 休息と栄養の重要性: 心の安定のためには、体の健康が基盤となります。十分な休息を取り、バランスの取れた食事を心がけることは、精神的なウェルビーイングにも繋がります。特に乳腺炎の回復期などでは、休息の重要性が強調されますが2、卒乳・断乳期全般においても同様です。
  • サポートを求める: 一人で抱え込まず、信頼できる人に気持ちを話すことが助けになることがあります。パートナーや家族、友人、あるいは同じように卒乳・断乳を経験した他の母親たちと話すことで、共感を得られたり、気持ちが整理されたりすることがあります。もし、気分の落ち込みが続く、不安が強いなど、精神的なつらさを感じる場合は、助産師や医師、カウンセラーなどの専門家に相談することも考えましょう。
  • 自分への思いやり: 授乳期間中、お母さまは赤ちゃんのために多くの時間とエネルギーを費やしてきました。卒乳・断乳は、その一つの区切りです。この移行期において、自分自身を労い、優しく接することを忘れないでください。

4. 専門家によるサポートと相談窓口

卒乳・断乳の過程やその後のケアにおいて、不安や困難を感じた場合には、専門家のサポートを積極的に活用することが推奨されます。日本には、お母さまと赤ちゃんの健康を支えるための様々な専門職や相談窓口があります。
専門家の助けが必要な時:

  • セルフケアでは改善しない持続的な乳房の痛みや張り。
  • 乳腺炎の症状(局所の赤み・熱感・腫れ・痛み、発熱など)が見られる場合2
  • 乳汁分泌抑制のための薬物療法について相談したい、または副作用が心配な場合。
  • 気分の落ち込みが激しい、不安感が強いなど、精神的な不調が続く場合。
  • お子さまの卒乳・断乳への適応や栄養、行動面で心配なことがある場合。

専門家の種類と役割:

  • 助産師: 日本において、妊娠中から産後、育児期に至るまで、母子の健康をサポートする中心的な役割を担っています。乳房ケア、授乳や卒乳・断乳に関するカウンセリング、育児相談など、幅広く対応します2
  • 国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC): 母乳育児支援に関する高度な知識と技術を持つ国際資格です。
  • 産婦人科医・乳腺外科医: 乳腺炎や乳腺膿瘍の診断・治療、乳汁分泌抑制薬の処方など、医学的診断が必要な場合に受診します2
  • 小児科医: お子さまの卒乳・断乳後の栄養状態や発達について相談できます。
  • 桶谷式乳房管理法認定者: 故・桶谷そとみ助産師が考案した日本独自の乳房ケア方法で、認定を受けた助産師が施術を行います。
  • 母乳外来・母乳相談室: 多くの病院やクリニック、助産院に設置されており、授乳や乳房に関する様々な相談に応じています。

5. 知っておきたい日本の授乳事情

卒乳・断乳に関する悩みや困難は、決して一人だけのものではありません。日本の多くのお母さまが、授乳期間中にさまざまな課題に直面していることが、公的な調査からも明らかになっています。厚生労働省が実施した「平成27年(2015年)乳幼児栄養調査」によると、授乳について何らかの困難を感じたと回答したお母さまは77.8%にのぼりました5。具体的な悩みとしては、「母乳が足りているかどうかわからない」が40.7%と最も多く、次いで「母乳が不足ぎみ」が20.4%、「授乳が負担、大変」が20.0%と続いています5。このような背景を知ることは、今まさに卒乳・断乳を考えているお母さまにとって、「悩んでいるのは自分だけではない」という安心感につながるかもしれません。

健康に関する注意事項

  • 乳腺炎の症状(乳房の急な痛み、赤み、熱感、38.5℃以上の発熱)が見られた場合は、セルフケアで様子を見ず、速やかに医療機関(産婦人科、乳腺外科、助産院など)を受診してください。
  • 母乳の分泌を抑える薬(カベルゴリン、ブロモクリプチンなど)は、重大な副作用のリスクを伴うため、必ず医師の診察と処方のもとで使用してください。自己判断での使用は絶対におやめください。
  • 卒乳・断乳に伴い、気分の落ち込みが2週間以上続く、日常生活に支障が出るほどの不安を感じるなどの場合は、産後うつの可能性も考えられます。一人で抱え込まず、かかりつけ医や地域の保健センター、精神科・心療内科などに相談してください。

よくある質問(FAQ)

卒乳と断乳、どちらが良いのですか?
どちらが良いという優劣はありません。卒乳(子ども主導)は子どものペースを尊重する方法ですが、時間がかかることもあります。断乳(母主導)は計画的に進められますが、子どもの心のケアに一層の配慮が必要です。大切なのは、それぞれの親子の状況や価値観に合わせて、最もストレスの少ない方法を選択することです。厚生労働省も、親子の考えを尊重するよう示しています5
おっぱいの張りがとても痛いです。全部搾ってしまっても良いですか?
いいえ、全部搾ってしまうのはお勧めできません。乳房を完全に空にすると、体は「もっと母乳が必要だ」と信号を受け取り、さらに母乳を作ろうとしてしまいます。その結果、張りが繰り返される悪循環に陥ることがあります。痛みや不快感が和らぐ程度に、少量を優しく搾り出す「圧抜き」に留めるのが、分泌を穏やかに減らしていくコツです2
乳腺炎になってしまったら、もう授乳はできないのですか?
いいえ、多くの場合、乳腺炎になっても授乳を続けることは可能ですし、むしろ推奨されることがあります。炎症を起こしている側の乳房から授乳または搾乳を続けることで、詰まった乳管を開通させ、症状の改善を早める助けになるからです2。ただし、痛みが非常に強い場合や、医師から特別な指示があった場合はそれに従ってください。自己判断せず、必ず専門家に相談しましょう。
卒乳・断乳後、すぐに次の妊娠をしても大丈夫ですか?
卒乳・断乳後は排卵が再開し、妊娠が可能になります。医学的には、次の妊娠までに一定の期間(例えば、世界保健機関は出産後少なくとも24ヶ月の間隔を推奨)を空けることが、母体の回復や次の妊娠・出産のリスクを低減するために望ましいとされています。しかし、これはあくまで一般的な指針であり、個々の健康状態やライフプランによって異なります。次の妊娠を考える際は、かかりつけの産婦人科医に相談し、ご自身の体の状態についてアドバイスを受けることが大切です。
卒乳・断乳してから、とても寂しい気持ちになります。これは普通のことですか?
はい、それは非常に自然な感情です。授乳は、赤ちゃんに栄養を与えるだけでなく、お母さまと赤ちゃんの間に特別な絆と安心感をもたらす、親密な時間でもあります。その時間がなくなることに対して、寂しさや喪失感、一抹の罪悪感を感じるお母さまは少なくありません。また、プロラクチンなどのホルモンの変動も気分に影響を与えます。この気持ちを無理に押し殺さず、パートナーや友人に話したり、授乳以外の方法で赤ちゃんとたくさん触れ合ったりする時間を持つことで、少しずつ乗り越えていくことができます。もし、つらい気持ちが長く続くようであれば、専門家への相談もためらわないでください。

6. おわりに:自分らしい卒乳・断乳の道のり

卒乳・断乳は、お母さまとお子さまの成長における自然な過程であり、それぞれの親子にとってユニークな道のりです。この大切な移行期において最も重要なのは、お母さま自身が心身ともに健やかであることです。本稿で詳しく見てきたように、卒乳・断乳に伴う身体的変化、特に乳房のケアには、段階的で丁寧なアプローチが推奨されます。また、ホルモンバランスの変化や生活リズムの調整は、感情面にも影響を与えることがあります。ご自身の感情の波を理解し、必要であれば周囲や専門家のサポートを求めながら、焦らず、無理のないペースで進めていくことが大切です。多くの情報やアドバイスがありますが、最終的にはお母さまとお子さまにとって何が最善か、という視点を持ち続けることが、後悔のない「自分らしい卒乳・断乳」につながるでしょう。このガイドが、その一助となれば幸いです。授乳という素晴らしい経験を経て、新たなステージへと踏み出すお母さまが、自信と安心感をもってこの時期を乗り越えられますよう、心から応援しています。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Baby Calendar. 母乳育児のメリットとは? 断乳・卒乳の方法 [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://baby-calendar.jp/knowledge/baby/1325
  2. 日本助産師会. 乳腺炎ケアガイドライン2020刊行に寄せて [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.midwife.or.jp/user/media/midwife/page/guilde-line/tab01/nyusenen_guideline_2020_2.pdf
  3. Mayo Clinic. Cabergoline (Oral Route) Description and Brand Names [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.mayoclinic.org/drugs-supplements/cabergoline-oral-route/description/drg-20062485
  4. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). ブロモクリプチン錠 2.5mg「トーワ」 医療用医薬品:添付文書情報 [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/480235_1169005F1308_1_01G.pdf
  5. 厚生労働省. 平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要 [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf
  6. Baby Calendar. 母乳を止める方法。自然に?薬?張りや痛み、卒乳後のケア【助産師監修】 [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://baby-calendar.jp/smilenews/detail/1325
  7. Mangel Dinat L, et al. Treatments for breast engorgement during lactation. Cochrane Database of Systematic Reviews 2020, Issue 9. Art. No.: CD006946. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8094412/
  8. National Library of Medicine (US). Sage. In: LactMed® [Database on the Internet]. Bethesda (MD): National Institute of Child Health and Human Development; 2006-. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK501816/
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ