原発性多血症:診断から治療までの最前線
血液疾患

原発性多血症:診断から治療までの最前線

はじめに

このたびは「多血症の一種である『多血症(多血球増加症)』の中でも、特に多血症(真性多血症)(以下、本記事では便宜上「真性多血症」と呼ぶ)」に関心をお持ちいただき、ありがとうございます。本記事では、真性多血症の概要、原因、症状、治療法、そして日常生活上の注意点について、できるだけ詳しく解説いたします。筆者は国内で医療分野に長年携わり、多くの患者さんやご家族の質問・相談を受けてきた立場から、真性多血症に関する情報を整理しました。本記事は、すでに持病がある方や健康診断で血液数値の異常を指摘された方、ご家族のケアを行っている方など、幅広い読者の皆様に向けてまとめられています。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

真性多血症は、骨髄で作られる血球(赤血球・白血球・血小板)が過剰に産生されてしまう慢性の血液がんの一種です。とくに赤血球の増加が目立ち、血液の粘度が上がり、血栓ができやすくなることが問題となります。症状が長い期間にわたって徐々に進行し、重篤化するまで気づかない場合もありますが、適切な治療と生活習慣の工夫で合併症のリスクを減らし、日常生活をより安全に送ることが可能です。

まずはじめに、以下の内容をカバーします。

  • 真性多血症とはどのような病気か
  • 主な症状と注意すべき徴候
  • 病気の原因と関連するリスク
  • 治療に用いられる検査とアプローチ
  • 日常生活で気をつけるべき点

なお、本記事では、真性多血症と関わりの深い研究や専門家による提言についても、可能な限り最新の知見に触れながら解説を行っています。特に日本国内での日常生活や習慣を踏まえ、ご自身やご家族の健康管理に役立つよう構成を工夫しております。

専門家への相談

本記事で言及する情報は、以下のような信頼性の高い海外の医療情報サイトや専門家の見解、および国内外の学会報告や医学誌に基づきます。とくに、本記事での医学的な説明については、Bác sĩ Đinh Thị Mai Hồng(医療機関:Bệnh viện Đại học Y dược Hà Nội)による専門的知見が元の記事中で参照されており、その内容を日本語向けに再編成しています。

さらに、本記事では下記で示す海外の医学データベース(Mayo Clinic、MedlinePlus、WebMDなど)や近年の研究動向も参照しています。真性多血症に関する国際的なガイドラインや治療戦略がここ数年でどのように進歩しているのか、合併症を防ぐためには何が重要なのかなど、できるだけ具体的に示すよう心がけています。

ただし、本記事はあくまでも医療・健康に関する一般的な情報提供を目的としており、専門家による正式な診断や治療方針の決定を代替するものではありません。疑問点や不安な点がある方は、必ず主治医や専門医にご相談ください。

真性多血症とは何か

真性多血症の概要

真性多血症(Polycythemia Vera)は、骨髄で産生される血液細胞が過剰に増える血液がんの一種です。増える血球の種類は赤血球だけでなく、白血球や血小板も含まれますが、特に赤血球(血液中の酸素運搬を担う血球)の増加が顕著です。その結果、血液全体が粘度を増し、血流が滞りやすくなり、血栓(血のかたまり)が生じるリスクが高まります。こうした血栓は脳血管や心臓の冠動脈などに詰まると、脳卒中や心筋梗塞といった重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期の発見と適切な管理が非常に重要とされています。

真性多血症は進行が比較的ゆっくりである一方、放置すると重大な合併症を伴うことがあり、さらに長期的には血液の病態が変化し、別のタイプの血液疾患(骨髄線維症や急性白血病など)に移行する場合があります。ただし、日本血液学会などの国内外ガイドラインで推奨される治療を的確に行うことによって、リスクを下げ、長期的に良好な状態を保つことも不可能ではありません。

実際、近年の国際的研究(例えば2020年にBlood Cancer Journalに掲載されたBarbui Tらの大規模追跡調査、doi:10.1038/s41408-020-00352-0)によると、真性多血症に対して適切な血液管理や薬物治療を行った患者群では、合併症発症率や重症化リスクが低減し、生存率の面でも以前に比べ改善しているとの報告があります。日本の患者さんにも一定の参考になる可能性がありますが、生活習慣や合併疾患など、個々の事情を考慮したうえで医師との十分な相談が望まれます。

症状と注意すべき徴候

よくみられる症状

真性多血症は長い年月をかけてゆっくりと進行し、初期には自覚症状がほとんどない場合もあります。しかし、赤血球をはじめとする血球数が明らかに増えてくると、以下のような症状が現れやすくなります。

  • 横になると呼吸が苦しくなる
    これは心臓や肺にかかる負担の増大、あるいは血液の粘度上昇が原因と考えられます。
  • めまい
    脳への血流バランスが崩れることで起こりやすくなります。
  • 出血傾向(出血が多い、止まりにくい)
    血小板の機能異常なども加わり、出血リスクが上がる場合があります。
  • 左上腹部の膨満感
    脾臓が大きくなる(脾腫)ことによって起こります。
  • 頭痛
    脳血管への血流が不安定になることや血液粘度の上昇が関連します。
  • 入浴後などの皮膚のかゆみ
    特に温浴後のかゆみが特徴的だと言われています。赤血球増多に伴うヒスタミン放出や血流異常などが要因とされます。
  • 顔や皮膚が赤みを帯びる
    血液量やヘマトクリット値の上昇により皮膚血管への血液量が増え、赤みが強くなることがあります。
  • 呼吸困難感
    酸素運搬の機能自体は上がっているようでいて、実際には血液の粘度による循環不全が起こる場合があります。
  • 表在静脈における血栓症状(表在性静脈炎など)
    体表近くの静脈にも血栓ができやすく、痛みや腫れ、発赤などが生じます。
  • 皮膚が青白く見える
    末梢循環の不全でチアノーゼのような色合いが出ることがあります。
  • 疲労感や倦怠感
    全身の血行が滞り、組織への酸素供給がかえって不十分になることが背景にあります。
  • 皮膚に点状の赤い斑点(点状出血)
    血小板機能の異常や血管外への赤血球漏出が関与する可能性があります。
  • 視野の異常や視力低下
    網膜血流の変化や微小血栓によって起こり得ます。

こうした症状の背景には、増えすぎた血液細胞が血管を詰まらせてしまう危険性が大きく関係しています。特に血栓が脳の血管に飛ぶと脳卒中、心臓の冠動脈に飛ぶと心筋梗塞など、非常に重篤な状態を引き起こす可能性があります。

合併症への警戒

  • 脾臓の肥大(脾腫)
    赤血球を含む血球増加によって脾臓が過剰に働かざるを得なくなり、大きく膨らむことがあります。脾臓は古くなった血球の破壊・処理なども担うため、血球増加が続くほど負担がかかりやすくなります。
  • 皮膚症状
    かゆみ、ヒリヒリ感、末端の手足のしびれや灼熱感、顔面紅潮などが起こりやすく、日常生活の質を損なう恐れがあります。
  • 高尿酸血症・痛風
    赤血球分解産物の増加などにより、高尿酸血症や痛風が誘発されることがあります。
  • 消化管潰瘍(消化性潰瘍)
    胃や十二指腸などの粘膜が潰瘍化してしまうリスクが高まるケースがあります。
  • 骨髄線維症・骨髄異形成症候群・急性白血病などへの移行
    長期的には真性多血症が変化し、他の血液腫瘍へと移行する可能性が知られています。

これらのリスクを早期に発見し、適切な治療を継続することが重要です。症状がないからと放置していると、気づかぬうちに血栓や臓器障害が進行する危険があります。

受診のタイミング

以下のような急性症状が現れた場合、ただちに医療機関へ連絡し、専門医の診察を受けてください。

  • 突然の片側のしびれや脱力感(顔面・腕・脚など)
  • ろれつが回らなくなった、あるいは言葉が理解できなくなった
  • 視野が急に欠けたり、急激な視力低下が生じた
  • 激しいめまいや平衡感覚の喪失
  • 激しい頭痛や嘔吐を伴う意識変容
  • 意識障害、見当識障害、重度の混乱

真性多血症では血栓リスクが高いため、脳卒中や心筋梗塞の初期徴候に敏感である必要があります。日本国内では救急医療体制が整備されているため、異常を感じたらためらわず救急受診を検討してください。

原因とリスク要因

発症原因

真性多血症の原因は完全には解明されていませんが、JAK2V617F変異という遺伝子の獲得変異が強く関与するとされています。この変異は多くの真性多血症患者さんに認められ、血液細胞を産生する骨髄細胞が正常な制御を失い、過剰に血球を増やしてしまう一因となっています。先天的(親から子へ遺伝)ではなく、後天的に発生する変異だと考えられています。

かかりやすい人

  • 60歳以上の方
    日本国内でも高齢者層での発症が多くみられます。
  • 男性
    女性よりも男性の発症率が高いと報告されています。

ただし、若年層であっても稀に発症するケースがあります。血液検査の異常などで偶然見つかることもあるため、年齢や性別にかかわらず注意が必要です。

診断と治療

診断に用いられる検査

真性多血症の診断には、まず血液検査で赤血球数やヘマトクリット値が高いことが確認されます。加えて、以下のような検査が行われることがあります。

  • 骨髄生検
    骨髄の細胞増殖の様子や線維化の有無、細胞形態などを確認します。
  • 赤血球量測定
    体全体の赤血球量がどれほど増加しているかを評価します。
  • EPO(エリスロポエチン)濃度測定
    二次性多血症との鑑別に用いられ、EPOが高い場合は腎疾患など他の原因を疑います。
  • JAK2V617F遺伝子変異検査
    真性多血症では80〜90%以上の症例で変異が検出されることが報告されています。
  • 血中酸素飽和度
    慢性的な低酸素状態による二次性多血症の可能性を排除するために行われます。

これらの検査結果を総合的に判断し、真性多血症と確定診断されるケースが一般的です。最近の研究(例:2021年にTherapeutic Advances in Hematologyに掲載されたParasuraman Sらによる実臨床データの解析、doi:10.1177/20406207211022879)でも、JAK2変異の有無や骨髄像、赤血球量測定などの総合評価の精度向上が強調されています。

治療法と薬物療法

治療の大きな目的は血液の粘度を下げ、血栓や出血などの合併症を防ぐことです。主なアプローチは以下のとおりです。

  1. 瀉血(静脈採血)
    ある程度の血液を定期的に採取し、血液量・赤血球数を制御する方法です。血栓リスクを下げるうえで基本的かつ重要な治療法とされます。
  2. 低用量アスピリン
    血小板の凝集を抑制し、血栓形成を予防します。胃腸障害などの副作用を最小化するため、低用量で使用されることが一般的です。
  3. 細胞増殖抑制薬(化学療法薬)

    • ヒドロキシカルバミド(ハイドロキシウレア)
      血球産生を抑える効果があり、真性多血症の標準的治療薬として広く用いられています。
    • インターフェロン
      若年患者や妊娠を希望する女性など、一部の症例ではインターフェロン製剤が選択されることもあります。
    • ルキソリチニブ(Ruxolitinib)
      JAK2阻害薬の一種で、骨髄線維症をはじめとする骨髄増殖性腫瘍に対して有効性が確認されています。真性多血症でも、コントロール不良な場合やハイドロキシウレアへの抵抗性がある場合に使用されるケースがあります。最近では、上記のParasuramanらの解析でも、ルキソリチニブ使用群では一部の患者で症状や臓器腫大が改善したとの報告があります。
  4. かゆみや痛みへの対処(対症療法)

    • 抗うつ薬の一部(SSRIなど)
      皮膚のかゆみを軽減する目的で使用されることがあります。
    • 鎮痛薬
      頭痛や骨痛が強い場合に処方されることがあります。

治療方針は患者さんの年齢、合併症の有無、血液データの変動状況などによって異なります。また、日本国内では病院の地域連携体制が充実しているため、血液内科などの専門医と連携して定期的にチェックを受けるのが望ましいでしょう。

日常生活での注意点

適度な運動と生活習慣

血流の改善と血栓リスクの軽減には、無理のない範囲での運動が推奨されます。ウォーキングや軽めのストレッチなどが代表的です。ただし、過度な負荷をかけるトレーニングや脱水に陥りやすい状況は避ける必要があります。

  • 運動をする際は水分をこまめに補給
    血液量が増えている状態でさらに脱水を起こすと、血栓リスクが上昇します。
  • 喫煙は厳禁
    喫煙は血管を収縮させ、血液の粘度をさらに高め、動脈硬化を促進します。
  • 入浴法の工夫
    熱い湯につかると急激に血管が拡張し、血行が一時的に変動してかゆみなどが悪化する場合があります。適温のシャワーやぬるめの湯で短時間の入浴にとどめる、保湿をしっかり行うなどが対策として有効です。
  • 極端な温度差を避ける
    寒暖差が激しい環境は血管の収縮と拡張を繰り返し、循環バランスが乱れやすくなります。服装や室温の調整をこまめに行いましょう。

栄養バランスと水分摂取

赤血球が増え、血液が濃くなると、血液粘度の上昇が懸念されます。適切な水分摂取によって血液をサラサラに保つことが肝要です。

  • こまめな水分補給
    一度に大量に飲むより、少量ずつ頻回に摂るほうが体への負担が少なくなります。
  • 過度のアルコール摂取は避ける
    アルコールは一時的に血管を拡張させる一方で脱水を誘発することも多く、逆効果となりえます。
  • 鉄分摂取について
    真性多血症だからといって必ずしも鉄分を制限する必要はありませんが、主治医に確認しながらバランスをとることが大切です。

皮膚ケア

  • 保湿
    乾燥はかゆみを増す要因の一つです。入浴後すぐに保湿クリームを塗るなど、肌を潤す習慣をつけましょう。
  • 爪で強くかかない
    かゆみがあるときに爪を立ててかくと皮膚のバリア機能を損ない、感染や出血のリスクが高まります。かゆみを感じたら軽く冷やす、または保湿剤を塗るなどの対策を検討ください。

定期的な医療受診

  • 定期的な血液検査・診察
    真性多血症は慢性的に推移するため、定期的に血液検査(赤血球数、白血球数、血小板数、ヘマトクリットなど)を行い、異常値が見られたら適切なタイミングで治療計画を調整します。
  • 合併症チェック
    脾腫、消化性潰瘍、痛風や腎障害など、他の臓器への影響も見逃さないよう、症状の有無にかかわらず主治医に相談しましょう。

結論と提言

真性多血症は、骨髄増殖性腫瘍のなかでも代表的な疾患であり、血栓や出血を引き起こすリスクが高い病態です。進行はゆっくりで、長期間見過ごされる場合もありますが、その一方で放置すると深刻な合併症につながる恐れがあります。

  • 予防・早期発見のため
    定期的な血液検査や健康診断でヘマトクリット値(血液の濃さ)や血球数に異常があれば、専門医(血液内科)への相談を検討してください。60歳以上や男性の方は特に注意が必要です。
  • 適切な治療と生活管理
    瀉血による血液量のコントロール、低用量アスピリン、必要に応じた細胞増殖抑制薬の活用などが効果的です。併せて、無理のない範囲での運動、水分摂取、禁煙、保湿などの日常生活上の工夫も重要です。
  • 合併症への対策
    脳卒中や心筋梗塞だけでなく、脾腫や痛風、消化性潰瘍、骨髄線維症への移行など、多岐にわたる合併症があり得ます。定期的な通院と検査、そして症状の変化を見逃さないことが肝要です。

真性多血症の治療は、近年の分子標的薬や臨床研究の進歩により、格段に選択肢が増えています。最新の研究動向においては、血液粘度を適切に管理しつつ、骨髄の増殖をコントロールすることで、日常生活や仕事を継続しながら長期的な見通しを改善している例も多く報告されています。日本国内でも専門施設や血液内科医のネットワークが整ってきているため、主治医と十分に相談しながら、継続的にケアを受ける体制を築くことをおすすめします。

参考文献


本記事で取り上げた情報は、あくまでも一般的な解説・参考資料としての内容であり、個々の患者さんの病状や医療状況に合わせた専門的な診断・治療を保証するものではありません。疑問点がある場合や具体的な治療方針については、必ず血液内科や主治医などの専門家にご相談ください。特に新しい治療法や投薬に関しては、最新のエビデンスやガイドラインを踏まえたうえで慎重に判断が必要です。あなたの健康と安全を第一に、適切な専門家の助言を得ながら、長期的なケアを続けていくことを心よりおすすめいたします。

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