双子が別々の父親を持つことは可能か？現実と神秘を探る

はじめに

近年、まるで物語のように「双子なのに父親が違う」というニュースやエピソードを耳にすることがあります。実際にこれが本当に起こる可能性があるのか、それともただの都市伝説なのか、疑問を持つ方は少なくありません。今回は、この珍しい現象として知られる「異父重複受精（異父二重受精とも呼ばれる）」について、できる限りわかりやすく、具体的に解説します。さらに、世界各地で実際に確認されている症例や、一度妊娠している最中にもかかわらずもう一度妊娠してしまう「スーパー胎内受精（superfetation）」という非常に稀な状況にも触れながら、身体の不思議や妊娠にまつわる最新の研究動向にも目を向けていきます。双子であっても姿かたちがまるで違うという状況は珍しくありませんが、それが本当に「父親まで違う」ケースに発展するのは極めて稀です。とはいえ可能性はゼロではありません。日本国内でも過去に報道された例があり、海外でも類似の報告がいくつか存在します。医療や遺伝子学の研究が進んできた現代だからこそ、こうした稀有な現象のメカニズムを少しずつ解明できるようになってきました。この記事では、双子が異なる父親を持つ場合の具体的な仕組みや、一般的な双子との違い、さらには「妊娠中にもう一度妊娠する」という不思議な可能性についても詳しくご紹介します。

専門家への相談

本記事で取り上げる「異父重複受精」「スーパー胎内受精」などは、ごく限られた文献や症例報告にもとづく稀な現象です。情報源としては、遺伝子解析や法医学の分野で実施された研究や文献が主になります。実際に子どもの親子関係に関するDNA鑑定を行う機関や、法医鑑定の専門家によって証明された事例もあります。しかし、本記事の執筆者および当記事の作成依頼者はいずれも医師や遺伝子学者ではありません。そのため、万が一ご自身や周囲の方で似たような疑問や状況がある場合は、必ず医療機関や遺伝子検査専門の施設、または臨床遺伝専門医などの専門家に直接ご相談ください。本記事はあくまでも情報提供・一般的な知識の紹介を目的としており、医学的判断や法的な鑑定などを行うものではありません。

双子なのに父親が違う？――実際に起きたケース

本文冒頭で触れたように、かつて日本国内（たとえば2016年頃に報道されたケース）で「双子の父親が違う」という事例が発覚して大きな話題になりました。見た目がまるで似ておらず、家族の間でも違和感が募り、最終的にDNA鑑定によって判明したという内容です。
また海外でも、ある女性が前のパートナーと新しいパートナーの両方と短期間のうちに性交渉を持った結果、生まれた双子の父親がそれぞれ別人だったというケースも報告されています。一見信じがたい話ですが、こうした「異父双生児」は遺伝子鑑定技術の進歩とともに確かに証明されてきました。

異父双生児の仕組み：異父重複受精とは

女性の卵子は通常、排卵期に1個だけ排出されます。しかしごく稀に、同じ排卵周期で2個の卵子がほぼ同時に排出されることがあります。これが「二卵性双生児」の基本的な始まりです。ところが、その極めて短い排卵受精可能期間（約24時間程度）の間に、別々の男性の精子がそれぞれの卵子に受精することが起こりうるとされています。
このように、同じ女性の体内で、ほぼ同時期に排出された2つの卵子が、それぞれ異なる父親由来の精子と受精して成立する双子を「異父重複受精」あるいは「異父二重受精」と呼びます。英語では“Heteropaternal Superfecundation”として知られており、動物界では特に犬や猫などで比較的多く見られる現象ですが、人間の場合は極めて低い確率だと考えられています。

受精の確率はなぜ低い？

通常の受精でも、卵子にたどり着ける精子は膨大な精子数の中のごくわずかです。さらに人間の女性の生殖器官内では、免疫反応によって精子を異物として排除する仕組みもあるため、男性の体外に射精された精子が卵子と出会い、受精まで達するのはきわめてハードルが高いと言われています。このハードルを2人の男性の精子が同じ周期に乗り越える可能性は相当に低く、報告されている症例もごくわずかです。
ただし、実際にDNA鑑定をする機会自体が限られているため、「実は父親が違う双子がいる可能性は少なくないのではないか」という議論もあります。アメリカではとある研究で「双子の約0.25%程度」で異父受精が起こりうると推定したとされる一方、別の調査では「離婚原因の2.4%が双子の父親が違うことに関係する可能性がある」という報告がなされたこともあります。しかしこれらの数値は、あくまでDNA鑑定を行った例の中から推定した数であり、正確性を確信できるほどの大規模調査が行われているわけではありません。
実際、DNA鑑定は費用がかかるうえに、家族事情などさまざまなセンシティブな要因から、すべての双子に対して routinely 検査が行われるわけでもありません。そのため「気づかれていないケース」が世の中に存在している可能性は否定できないと考えられています。

ふたごの外見が違うのは異父だから？

二卵性双生児は、一卵性双生児のように100%近い遺伝子を共有しているわけではなく、兄弟姉妹とほぼ同等の約50%の遺伝情報を共有しているだけです。そのため、髪の色、肌の色、顔の骨格など、見た目がまるで違う二卵性双生児はめずらしくありません。「外見があまりにもかけ離れている」としても、それだけですぐに「父親が違うのでは？」と断定することはできません。実際、一卵性双生児でもまったく同じ顔立ちにならないことがあるように、二卵性の場合はなおさら多様な外見上の違いが生じます。
したがって「見た目が違う」という事実だけでは「異父双生児」を示唆するには不十分です。本当に父親が異なるかどうかを確認する手段としては、DNA親子鑑定が必要となります。

妊娠中にさらに妊娠する？――スーパー胎内受精の可能性

異父重複受精と並んで、大変珍しい事例として「妊娠中にもう一度妊娠する」、いわゆる“superfetation（スーパー胎内受精）”の報告があります。通常、妊娠が成立すると排卵が止まるため、すでに子宮内に受精卵が着床している状態で新たな受精卵が着床することはほぼないとされています。しかし、体外受精などの生殖補助医療を受けている方やごく稀なホルモン異常などによって、妊娠期間中でありながら新たに排卵、受精、着床してしまうケースが理論的には存在するといわれています。
具体的には、体外受精で複数の胚移植を行った際、1つ目の胚が早期に着床し、その後さらに排卵が起こって自然受精し、別の時期に着床した場合などが想定されます。なお、このスーパー胎内受精によって生まれた胎児は、同じ母体内でも成長開始のタイミングが異なるため、実際に出産時期がずれたり、あるいは同時出産になっても発育段階が異なる可能性があります。医療技術の進歩で稀に確認されるようになった現象ですが、こちらも「異父重複受精」と同様、極めて珍しい事例です。

実際にどれくらいの頻度で起こるのか

異父重複受精に関しては、先述の通りアメリカのいくつかの推計や欧米圏での報告などから、双子全体のごくわずか（0.25%程度から1/400程度）と推測されています。ただし、これらの数値が現実をどの程度反映しているのかは非常に不透明です。DNA鑑定をしない限り、表面化しにくいからです。
スーパー胎内受精に関しても、世界的にみても症例報告はきわめてまれで、研究の範囲も限られています。通常の自然妊娠の場合には、ホルモンバランスが排卵を抑制するメカニズムをしっかり機能させているため、新たに排卵・受精が起こることはほとんどないと考えられています。

異父双生児が疑われるのはどんなとき？

• 外見や血液型、身体的特徴があまりに異なる場合
• 家系的に双子が多いわけでもないのに二卵性双生児が生まれ、遺伝的特徴の類似性がきわめて低い場合
• 母親が、妊娠初期に複数のパートナーと性交渉を持った可能性があるとき
• 法律上・家族関係上のトラブルなどでDNA鑑定を行った結果、想定外の結果が出たとき
  もちろん、見た目やタイミングだけで「異父双生児だ」と決めつけることはできません。確定にはDNA鑑定による親子関係の確認が不可欠とされています。

実際に報告されている研究・事例

• Forensic Sci Int Genet（2021年）
  Tang X, Zou Y, Xu J, Zhao X, Ma L. “Heteropaternal superfecundation: a report of two Chinese cases and a systematic review of the literature.” Forensic Sci Int Genet. 2021; 51:102438. doi:10.1016/j.fsigen.2021.102438
  これは中国で報告された2例の異父重複受精と、それまでに世界各地で示されてきた文献を包括的にレビューした研究です。DNA型鑑定を通して、双子それぞれの父親が異なるという事実を分子的に証明しており、このような事例が法医学や親子関係の鑑定でどのように扱われるかなど、法的な問題にも言及しています。
• J Obstet Gynaecol Res（2022年）
  Mukhopadhyay S, Bandyopadhyay T, Boyde A, Shetty AC, Ray A. “Superfetation or delayed intervals in twin pregnancy: The evidence from genetics.” J Obstet Gynaecol Res. 2022; 48(1):21-30. doi:10.1111/jog.15063
  こちらは「スーパー胎内受精」や双子の発育時期がずれるメカニズムについて、遺伝子の観点から検証した興味深い研究です。対象症例自体は少数ながらも、同一妊娠の中で別のタイミングで受精卵が着床した可能性を示唆しており、ごく稀な妊娠例を遺伝子レベルで分析しています。

なぜこのような現象が起こりうるのか

• 排卵のタイミングのズレ・重複
  1回の排卵周期で2個の卵子がほぼ同時に放出されることは決して珍しくありません。しかし、そこに複数の男性由来の精子が同時期に子宮へ到達し、それぞれ別個の卵子を受精させるという条件が重なることは非常に稀です。
• 精子の生存期間
  女性の生殖器内で精子が生き残れる期間は数日程度とされていますが、排卵のタイミングと重なりやすいタイミングがあれば、複数の性交渉が続けて行われた場合に異なる男性の精子がほぼ同時期に受精可能域に到達する可能性があります。
• 生殖補助医療の影響
  体外受精などの方法では、複数の胚を移植することがあるため、排卵と関係なく「胚の着床タイミングが少しずれる」ケースが考えられます。ただし、異父重複受精はもっぱら自然な性交渉によるケースが多く報告されています。

妊娠中にさらに妊娠できる仕組み：スーパー胎内受精（Superfetation）

• 通常は排卵が抑制される
  一旦妊娠が成立すると、女性の体はホルモンを通じて次の排卵を止めるメカニズムを働かせます。そのため、通常は妊娠中に新たな卵子が放出され、受精することはありません。
• 極めて稀なホルモン異常など
  稀にホルモンバランスが崩れるなどして排卵が起こり、妊娠中にも関わらず新たに受精・着床する可能性が完全にゼロとは断定されていません。
• 生殖補助技術による人工的影響
  体外受精（IVF）の過程で、既に着床した胚がある状況下でさらに別の胚を移植したりすることにより、発生時期が異なる妊娠が同時並行する状態になる場合がごく稀にあると考えられています。

この現象は女性の身体にどんな影響があるのか

• 出産のタイミングがずれる可能性
  スーパー胎内受精で妊娠した胎児は発育開始時期が異なるため、厳密には出産予定日が異なる可能性があります。ただし大半のケースでは、医療的な管理上、一度に分娩する形を取ることが多いとされます。
• 母体の負担
  二重に妊娠が進行することでホルモン変動や身体的負担が大きくなる恐れがあります。実際の臨床例が非常に少ないため、リスク評価や長期的影響についてはまだ十分にわかっていません。

もし「双子が異父かも」と思ったらどうする？

• DNA鑑定
  異父重複受精であるかどうかを確かめるための最も確実な方法は、DNA鑑定による親子関係検査です。これにより、双子それぞれがどの男性からの遺伝子を受け継いでいるのかを明確にできます。
• 専門家への相談
  鑑定結果が家族関係や法律上の手続きに影響する場合もあるため、必要に応じて医師や法的専門家、遺伝子鑑定の専門機関などに相談することが重要です。結果の受け止め方や手続きなど、多方面にわたるサポートが必要になる可能性があります。

異父重複受精やスーパー胎内受精を理解する意義

• 生殖や遺伝に対する理解の深まり
  近年の遺伝子研究や法医学鑑定技術の進歩により、非常に稀有なケースでも科学的に解明される道が開けています。こうした研究は、人間の生殖機構の奥深さを再発見するきっかけにもなっています。
• トラブル回避や家族関係の明確化
  出産後に「父親が違う」という事実が判明すると、家族間や法律面でのトラブルに発展する可能性も否定できません。事前に知っておくことで、もしもの際に適切な対応を取りやすくなります。
• 生殖医療の発展
  不妊治療や生殖補助医療の進化により、同時に複数の胚を移植するケースが増えています。こうした医療行為の過程で起こりうる希少な現象として、研究者や医療従事者の関心も高まっています。

参考になる外部リンク（アクセス日：2025年1月10日）

• • 11 Surprising Facts About Fraternal Twins（アクセス日 2025年1月10日）
  • Fraternal Twins With Different Fathers: Is It Possible?（アクセス日 2025年1月10日）
  • Fraternal twins, identical twins and other types of twins（アクセス日 2025年1月10日）

参考文献

• Tang X, Zou Y, Xu J, Zhao X, Ma L. “Heteropaternal superfecundation: a report of two Chinese cases and a systematic review of the literature.” Forensic Sci Int Genet. 2021; 51:102438. doi:10.1016/j.fsigen.2021.102438
• Mukhopadhyay S, Bandyopadhyay T, Boyde A, Shetty AC, Ray A. “Superfetation or delayed intervals in twin pregnancy: The evidence from genetics.” J Obstet Gynaecol Res. 2022; 48(1):21-30. doi:10.1111/jog.15063

結論と提言

双子が異なる父親を持つ「異父重複受精」や、妊娠中に新たに妊娠が起こる「スーパー胎内受精」は、いずれも非常に稀な現象です。ただし稀とはいえ、実際に発生している事例が世界各地で確認され、DNA分析や法医学的アプローチによって証明されています。人間の身体は極めて複雑で、妊娠のメカニズムも多様な影響要素を含んでおり、まだまだ未知の部分が多くあります。

双子であっても外見が全く異なるケースは二卵性双生児でよく見られ、これは異父でなくとも起こり得ることです。もし外見や血液型などで「もしかして父親が違うのでは？」と疑う場合は、DNA鑑定など専門的な検査とカウンセリングが必要となります。さらに、生殖補助医療が普及するにつれ、スーパー胎内受精などレアな事象のメカニズムも徐々に解明され始めているのが現状です。

最終的に重要なのは、こうしたトピックが「極めて珍しいもの」であり、一般の方が過度に心配する必要はないという点です。しかし、何らかの事情で可能性を排除できない場合には、医師や専門家に相談して正しい情報やサポートを得ることが最善策です。

注意：本記事は医学的アドバイスや法的判断を提供するものではなく、あくまで参考情報です。妊娠や出産に関する疑問点がある場合は、必ず医療機関や専門家に直接ご相談ください。個々の体質や状況に応じて最適な助言や治療法が異なる可能性がありますので、ご自身で判断せず専門家の意見を仰ぐことを強くおすすめします。