双子妊娠中の母体と胎児に潜むリスクとは? 知っておくべき合併症の可能性
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双子妊娠中の母体と胎児に潜むリスクとは? 知っておくべき合併症の可能性

双子、すなわち双胎(そうたい)妊娠の診断を受けたとき、多くの妊婦さんとそのご家族は、大きな喜びに包まれると同時に、「お腹の赤ちゃんは無事に育つのだろうか」「出産はどうなるのだろう」「自分自身の体は大丈夫だろうか」といった、様々な不安に直面します。産婦人科の現場では、双胎妊娠は「ハイリスク妊娠」として位置づけられています1。これは、お腹の中に二人の赤ちゃんがいることで、お母さん(母体)と赤ちゃんの両方において、一人の赤ちゃんを妊娠する単胎(たんたい)妊娠と比べて、注意すべき医学的な合併症が起こる可能性が高まるためです。しかし、「ハイリスク」という言葉は、決して過度に恐れるべきものではありません。むしろ、どのような危険性があり、それに対して現代の医療がどのように備え、管理していくのかを正しく知ることが、不安を軽減し、安心してマタニティライフを送るための最も重要な鍵となります。本記事は、双胎妊娠と診断された方、その可能性を告げられた方、そしてそのご家族が抱えるあらゆる疑問や不安に、ワンストップで応えることを目指しています。そのために、日本産科婦人科学会(JSOG)や米国産科婦人科学会(ACOG)、英国王立産婦人科医会(RCOG)といった国内外の最新の診療指針、信頼性の高い学術研究、そして厚生労働省が発表する公的な統計データに基づき、医学的に正確で、かつ包括的な情報を提供します23456。日本の人口動態統計によれば、双胎妊娠の頻度は全分娩のおよそ1%であり、決して稀なことではありません78。この記事を通じて、双胎妊娠の基本的な知識から、妊娠中の具体的な管理方法、起こりうる合併症への最新の対処法、出産、そして産後の心身のケアや利用できる社会的な支援制度まで、その全体像を深く理解することができます。それにより、読者の皆様がご自身の妊娠・出産について、医療者と共に主体的に向き合っていくための一助となることを心から願っています。


この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本産科婦人科学会(JSOG): 本記事における妊婦健診、分娩時期、合併症管理に関する指針は、同学会が発行する「産婦人科診療ガイドライン」に基づいています2
  • 米国産科婦人科学会(ACOG): 多胎妊娠の管理、特に分娩時期の推奨に関する記述は、同学会の診療指針(Practice Bulletin)を重要な根拠としています5
  • 英国王立産婦人科医会(RCOG): 一絨毛膜双胎に特有の合併症(TAPSなど)や管理方針に関する記述は、同学会の指針を参考にしています6
  • 厚生労働省: 日本国内の多胎児家庭支援の現状や、人口動態統計に関するデータは、同省が発表する公的報告書および統計に基づいています89
  • 国立成育医療研究センター: 双胎間輸血症候群(TTTS)に対する胎児治療の成績や、日本の周産期データに関する記述は、同センターの発表やデータベースを引用しています10

要点まとめ

  • 双胎妊娠は全分娩の約1%を占め、適切な管理のためにはまず「膜性診断」(胎盤と羊膜の共有状態の確認)が最も重要です。
  • 一絨毛膜双胎(胎盤を共有)では、双胎間輸血症候群(TTTS)などの特有の重篤な合併症の危険性があり、専門施設での厳重な管理が必要です。
  • TTTSに対しては、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)という高成功率の治療法が日本国内で保険適用となっています。
  • 双胎妊娠では、母体に妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、胎児に早産(約50%)や発育不全などの危険性が高まりますが、これらは頻回な健診による早期発見と管理が可能です。
  • 産後は、睡眠不足や社会的孤立から産後うつの危険性が単胎児の母親より著しく高く(2.6倍)、虐待に至る危険性も高まるため、公的支援やピアサポートの活用が不可欠です。

第1部:すべての基本となる「双胎妊娠の基礎知識」

双胎妊娠の管理を理解する上で、まず「なぜ双子になるのか」そして「双子のタイプ」を知ることがすべての基本となります。特に、後述する「膜性(まくせい)」は、その後の危険性と管理方針を決定づける最も重要な要素です。

1.1. なぜ双子を妊娠するのか? 一卵性と二卵性の違い

双胎妊娠は、その成り立ちによって「一卵性(いちらんせい)」と「二卵性(にらんせい)」に大別されます。

  • 二卵性双胎(Dizygotic Twins)
    二つの異なる卵子が、それぞれ別の精子と受精することで成立します。遺伝的には通常の兄弟姉妹と同じ関係であり、性別が異なることもあります。二卵性双胎の発生には、排卵誘発剤の使用などの生殖補助医療や、母体の年齢が高いことなどが関与しているとされています5
  • 一卵性双胎(Monozygotic Twins)
    一つの受精卵が、発生の早い段階で二つに分裂することで成立します。元々が同じ遺伝情報を持つため、性別や血液型は必ず同じになります。

なお、特定の食事や性交のタイミングなどで意図的に双子を妊娠する、という医学的根拠のある確実な方法は存在しません7

1.2. 予後を左右する最重要項目「膜性診断」とは?

双胎妊娠の危険性管理において、一卵性か二卵性かということ以上に重要なのが「膜性診断」です。これは、お腹の中にいる二人の赤ちゃんが、それぞれを包む「絨毛膜(じゅうもうまく)」と「羊膜(ようまく)」という膜を共有しているかどうかを調べるものです。

  • 絨毛膜(Chorion): 胎盤を形成する元となる膜です。これを共有しているかどうかで、胎盤が一つか二つかが決まります。
  • 羊膜(Amnion): 赤ちゃんを直接包み、羊水で満たされた空間(羊水腔)を作る膜です。いわば、赤ちゃんの「個室」にあたります。

この二つの膜の組み合わせにより、双胎は主に以下の3つのタイプに分類され、それぞれ危険性の度合いが大きく異なります7

膜性の種類と特徴
膜性の種類 通称 絨毛膜(胎盤) 羊膜(部屋) 特徴と主なリスク
二絨毛膜二羊膜双胎 DDツイン (Di-chorionic Di-amniotic) 2つ 2つ 最もリスクが低いタイプ。二卵性双胎はすべてこのタイプ。一卵性の一部も含む。
一絨毛膜二羊膜双胎 MDツイン (Mono-chorionic Di-amniotic) 1つ 2つ 胎盤を共有するため、血管を通じて血流のアンバランスが生じ、双胎間輸血症候群(TTTS)などの特有の合併症リスクがある。一卵性の約7割を占める。
一絨毛膜一羊膜双胎 MMツイン (Mono-chorionic Mono-amniotic) 1つ 1つ 胎盤も羊膜(部屋)も共有するため、TTTSのリスクに加え、お互いのへその緒が絡み合う臍帯巻絡(さいたいけんらく)のリスクが非常に高い。一卵性の約1%。

この膜性診断は、超音波検査で膜の厚さや胎盤の数などを観察して行いますが、妊娠10週頃までの妊娠初期でなければ正確な診断が難しくなります9。したがって、妊娠初期に産婦人科を受診し、双胎と診断された際には、必ず膜性診断を受け、その結果を母子健康手帳に記録してもらうことが、その後の適切な妊娠管理の第一歩となります。ご自身の双子のタイプを知ることが、なぜ特定の検査が頻繁に行われるのか、どのような点に注意すべきなのかを理解する上で不可欠です。

第2部:母体に起こりうる主要な合併症と科学的根拠に基づく管理法

双胎妊娠は、母体の生理的な変化が単胎妊娠よりも大きくなるため、様々な合併症の危険性が高まります。しかし、これらの合併症は適切な周産期管理によって早期に発見し、重症化を防ぐことが可能です。

2.1. 妊娠高血圧症候群(PIH)とHELLP症候群

妊娠高血圧症候群(PIH)は、妊娠20週以降に高血圧がみられる状態で、重症化すると蛋白尿を伴います。双胎妊娠では、単胎妊娠に比べてその発症危険性が3〜4倍高いと報告されています7。これは、胎盤が単胎よりも大きくなることで、母体の循環血液量が増加し、血管に負担がかかることなどが原因と考えられています7。PIHが重症化すると、母体にはけいれん発作(子癇)、脳出血、肝機能障害、腎機能障害などが、胎児には発育不全や胎盤機能不全、常位胎盤早期剥離などの危険な状態を引き起こす可能性があります7
特に注意が必要なのが、PIHの最重症型の一つであるHELLP症候群です。これは溶血(Hemolysis)、肝酵素上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelet count)を特徴とする、母子の生命に関わる極めて危険な病態です9。ここで重要なのは、双胎妊娠におけるHELLP症候群の特殊性です。浜松医科大学の金山尚裕教授や北里大学の海野信也教授らの研究によると、単胎のHELLP症候群では71%に高血圧を伴うのに対し、双胎のHELLP症候群では高血圧を伴うのはわずか25%であったと報告されています611。この事実は、「血圧が正常だから大丈夫」という自己判断が非常に危険であることを示唆しています。双胎妊娠の管理においては、血圧や尿蛋白の測定だけでなく、定期的な血液検査によって血小板数や肝機能などを確認することが、HELLP症候群のような重篤な合併症を見逃さないために極めて重要となります。これこそが、双胎妊娠が周産期母子医療センターなどの高次医療機関で厳重に管理されるべき理由の一つです。

2.2. 妊娠糖尿病(GDM)

妊娠糖尿病(GDM)は、妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常です。双胎妊娠では、胎盤から分泌されるインスリンの働きを妨げるホルモンが多くなるため、GDMの危険性が単胎妊娠よりも上昇する可能性があります7。GDMの管理が不十分だと、巨大児、新生児低血糖、母体のPIHなどの危険性が高まります。そのため、妊娠初期および中期にグルコースチャレンジテストや75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)といったスクリーニング検査が行われます。しかし、GDMと診断されても過度に心配する必要はありません。横浜市立大学医療センターで行われた日本の双胎妊婦を対象としたコホート研究では、GDMと診断された群でも、専門家による厳格な食事指導と血糖管理を行うことで、GDMでない群と比較して出産時の合併症や赤ちゃんの予後に有意な差は認められなかったと報告されています12。これは、早期発見と適切な管理が非常に有効であることを示す、希望の持てるデータです。

2.3. 貧血

双胎妊娠では、二人の赤ちゃんを育てるために鉄分の需要が大幅に増加し、また母体の循環血液量も単胎妊娠の約1.5倍に増えるため、血液が薄まりやすい状態(希釈性貧血)と鉄分の不足(鉄欠乏性貧血)が起こりやすくなります713。貧血が進行すると、めまい、動悸、息切れ、疲労感などの症状が現れ、分娩時の出血への抵抗力も弱まります。日本産科婦人科学会の指針では、定期的な血液検査(ヘモグロビン値の測定)を行い、貧血が認められた場合には、食事療法(鉄分を多く含むレバー、赤身肉、ほうれん草などの摂取)や、必要に応じて鉄剤の内服による治療が推奨されています2

2.4. 血栓症(深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症)

双胎妊娠では、大きく増大した子宮が骨盤内の太い静脈(下大静脈)を圧迫し、足からの血流が滞りやすくなります。これにより、足の静脈に血の塊(血栓)ができる深部静脈血栓症の危険性が高まります714。さらに、この血栓が血流に乗って肺に達し、肺の血管を詰まらせると、命に関わる肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を引き起こすことがあります。予防のためには、長時間の同じ姿勢を避ける、適度な運動(足首の曲げ伸ばしなど)、十分な水分摂取、そして医師の指示による弾性ストッキングの着用などが有効です2。特に、管理入院などで安静を強いられる場合には注意が必要です。

第3部:胎児・新生児に起こりうる主要なリスクと最新の知見

双胎妊娠では、母体だけでなく、お腹の赤ちゃんたちにも特有の危険性が存在します。これらを理解し、適切な管理を受けることが、健やかな誕生に繋がります。

3.1. 早産・低出生体重児

双胎妊娠における最大かつ最も頻度の高い合併症が早産です10。早産とは、正期産(妊娠37週0日〜41週6日)より前に赤ちゃんが生まれることを指します。日本産科婦人科学会がまとめた周産期登録データベースによると、単胎妊娠での早産率が約5%であるのに対し、双胎妊娠では約50.8%が妊娠37週未満の早産となり、その頻度は著しく高いことが示されています10。特に、より早期の早産(妊娠32週未満で約6%、妊娠28週未満で約2%)も単胎妊娠より高率です10。早産で生まれた赤ちゃんは、体が未熟なため、出生時の体重が2500g未満の低出生体重児となることが多く、呼吸窮迫症候群、脳室内出血、未熟児網膜症、壊死性腸炎といった様々な合併症の危険性を伴います。また、長期的な視点では、発達の遅れや脳性麻痺などの障害に繋がる可能性も指摘されています15。この早産を予防するため、様々な治療法(子宮頸管縫縮術、長期の入院安静、予防的な子宮収縮抑制薬の投与など)が試みられてきましたが、残念ながら、米国産科婦人科学会(ACOG)や英国王立産婦人科医会(RCOG)の指針では、双胎妊娠において早産を確実に予防できると証明された画一的な治療法は、現時点ではないということが国際的な共通認識となっています51617。これは、妊婦さんの過度な期待や誤解を防ぎ、個々の状態に応じた最適な管理方針を医師と共に考えていく上で、非常に重要な事実です。

3.2. 胎児発育不全(FGR)と体重差

胎児発育不全(FGR)とは、お腹の赤ちゃんが何らかの理由で、その妊娠週数に相当する標準的な大きさよりも小さく、発育が妨げられている状態を指します1。双胎妊娠では、二人の赤ちゃんが限られた子宮内の空間や胎盤からの栄養を分け合うため、FGRが起こりやすくなります。特に、一人の赤ちゃんの発育は正常であるものの、もう一人の発育だけが遅れる選択的FGR(sFGR)は、一絨毛膜双胎で問題となることが多い合併症です。二人の赤ちゃんの推定体重に大きな差(25%以上など)が生じると、小さい方の赤ちゃんが子宮内で危険な状態に陥る危険性が高まるため、定期的な超音波検査による慎重な胎児発育の監視が不可欠です。

3.3. 先天異常

いくつかの研究報告によると、双胎妊娠は単胎妊娠に比べて、赤ちゃんに何らかの形態的・機能的な異常がみられる先天異常の頻度が約2倍高いとされています7。そのため、希望する妊婦さんには出生前診断の選択肢が提示されます。非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)や、超音波検査、母体血清マーカー検査などのスクリーニング検査、そして羊水検査や絨毛検査といった確定診断のための検査があります。ただし、双胎妊娠における出生前診断には特有の課題も存在します。例えば、NIPTではどちらの赤ちゃんに異常の可能性があるのかを特定することが難しい場合があるなど、その精度や限界について、専門家から十分なカウンセリングを受けた上で検討することが重要です6

3.4. 胎児死亡

残念ながら、双胎妊娠では流産、子宮内胎児死亡(IUFD)、周産期死亡(妊娠22週以降の死産と生後1週未満の早期新生児死亡を合わせたもの)の率が単胎妊娠よりも高くなることが知られています。日本の2022年の人口動態統計に基づくと、双胎分娩における死産(片方または両方が死亡)の割合は5.97%であり、単胎分娩の死産率(1.97%)の約3倍に上ります8。また、2000年代初頭のデータでは、周産期死亡率は単胎の4.6倍、早期新生児死亡率は9倍以上高いという報告もあります15。これらの高い死亡率の主な原因は、前述した早産に伴う合併症です。妊娠の経過中に片方の赤ちゃんが亡くなってしまう一児死亡も、双胎妊娠における重篤な合併症です。特に、胎盤を共有する一絨毛膜双胎で一児死亡が起こった場合、死亡した胎児から生存している胎児へと急激に血液が流れ込むことで、生存児が重度の貧血や血圧低下に陥り、死亡したり、重い脳障害を負ったりする危険性があります18。そのため、一児死亡が起きた場合は、極めて慎重な管理が必要となります。

3.5. バニシング・ツイン(Vanishing Twin)

バニシング・ツインとは、妊娠初期の超音波検査で二人の胎児が確認されたものの、その後の健診で片方の胎児の発育が停止し、子宮内に吸収されて見えなくなってしまう現象です。これは「流産」の一つの形ですが、比較的頻度が高く、双胎妊娠と診断された事例の21〜30%で起こるとも言われています7。多くの場合、妊娠12週頃までに起こり、残されたもう一方の胎児の発育には影響を与えません。母体にも自覚症状がないことがほとんどです。初期に双子と告げられた後に一人が見えなくなると、大きな喪失感を抱くかもしれませんが、これは決して珍しいことではなく、残された赤ちゃんは元気に育つ可能性が高いということを知っておくことが大切です。

第4部:【専門的解説】一絨毛膜双胎に特有の重篤な合併症と治療の最前線

双胎妊娠の中でも、一つの胎盤を共有する「一絨毛膜双胎(MDツイン、MMツイン)」は、二絨毛膜双胎(DDツイン)にはない特殊で重篤な合併症の危険性を伴います。これらの病態を理解し、最新の治療法を知ることは、診断を受けたご家族にとって非常に重要です。

4.1. 双胎間輸血症候群(TTTS)

双胎間輸血症候群(Twin-to-Twin Transfusion Syndrome: TTTS)は、一絨毛膜双胎の約10%に発症する、このタイプの双胎に特有の病態です7。胎盤の表面には、二人の赤ちゃんの血管をつなぐ「吻合血管(ふんごうけっかん)」がほぼ必ず存在します。通常はこの血管を通じて血液が行き来し、均衡が保たれています。しかし、何らかの理由でこの血流の均衡が崩れ、片方の赤ちゃん(供血児:きょうけつじ)からもう一方の赤ちゃん(受血児:じゅけつじ)へと血液が一方的に、かつ大量に流れ込んでしまう状態がTTTSです。この結果、二人の赤ちゃんには正反対の症状が現れます7

  • 供血児(血液を送る側): 循環血液量が減少し、貧血、低血圧、尿量が減ることによる羊水過少、発育不全などを引き起こします。羊水が極端に少なくなるため、子宮の壁に体が張り付いたような状態(Stuck Twin)になります。
  • 受血児(血液を受け取る側): 循環血液量が増えすぎてしまい、多血症、高血圧、心臓への過剰な負担による心不全、尿量が増えることによる羊水過多、全身がむくむ胎児水腫などを引き起こします。

TTTSは進行が早く、無治療の場合、妊娠26週未満で発症した重症例では90%以上の赤ちゃんが死亡するか、重い後遺症を残すとされる、極めて予後不良な疾患でした。

TTTS治療の最前線:胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)

かつては、増えすぎた羊水を抜く「羊水除去術」が主な治療法でしたが、これは対症療法に過ぎず、救命率は約60%、生存児の15〜25%に神経学的な後遺症が残るという限界がありました19。しかし現在、この状況は劇的に改善されています。その中心となっているのが、TTTSの根本原因である吻合血管をレーザーで焼灼(しょうしゃく)・凝固させて遮断する「胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(Fetoscopic Laser Photocoagulation: FLP)」です。この治療は、母体のお腹から細い内視鏡(胎児鏡)を子宮内に挿入し、モニターで胎盤表面を観察しながら、原因となっている血管をレーザーで焼き切るという高度な胎児治療です。日本におけるFLPの成績は非常に良好です。国立成育医療研究センターの左合治彦医師(現・同センター名誉総長)が主任研究者を務めた日本胎児治療グループの多施設共同研究(2002年〜2006年、181例)では、以下の画期的な結果が報告されています1920

  • 少なくとも一人の赤ちゃんが生存する確率:90%
  • 二人の赤ちゃんが共に生存する確率:62%
  • 生存した赤ちゃんに重い神経学的後遺症が残る確率:5%

この成績は、FLPの有効性を世界で初めて証明した欧州の成績に勝るとも劣らないものであり、日本の胎児治療が世界最高水準にあることを示しています19。この治療法は、TTTSと診断され絶望的な状況にあるかもしれないご家族にとって、大きな希望の光となります。FLPは現在、日本国内で保険適用となっており2122、国立成育医療研究センター、聖隷浜松病院をはじめとする全国の限られた高度専門施設で受けることが可能です1920

4.2. その他の特殊な合併症(TAPS, TRAP, sFGR)

一絨毛膜双胎には、TTTS以外にも稀ですが重篤な合併症が存在します。

  • TAPS(Twin Anemia Polycythemia Sequence): ごく細い吻合血管を通じて、血液がゆっくりと一方に移行し続けることで、片方が重い貧血、もう一方が多血症になる病態です。羊水量の差は目立たないため、胎児の脳の血流速度(中大脳動脈最大血流速度)を測定することで診断されます。英国王立産婦人科医会(RCOG)の指針では、このTAPSに対するスクリーニングの重要性が指摘されています2324
  • TRAP(Twin Reversed Arterial Perfusion)Sequence: 「無心体双胎」とも呼ばれ、片方の赤ちゃんが心臓を持たず、正常な心臓を持つもう一方の赤ちゃん(ポンプ児)から動脈血の逆流を受けることで生存している、非常に稀な状態です。ポンプ児には大きな心臓の負担がかかるため、無心体への血流を遮断する治療(ラジオ波焼灼術など)が行われることがあります25
  • sFGR(Selective Fetal Growth Restriction): 「選択的胎児発育不全」のことで、一絨毛膜双胎において、胎盤の共有領域が不均等であることなどから、片方の赤ちゃんだけが極端に小さくなる状態です。管理が非常に難しく、専門施設での慎重な経過観察が必要となります26

これらの特殊な合併症の存在は、一絨毛膜双胎の妊娠管理が、専門的な知識と経験を持つ周産期センターで行われるべきであることの強力な根拠となります。

第5部:妊娠から出産まで:具体的な管理計画と分娩

双胎妊娠が判明してから出産に至るまで、母体と胎児の状態を注意深く見守るための特別な管理計画が立てられます。

5.1. 妊婦健診のスケジュールと検査内容

双胎妊娠では、単胎妊娠よりも頻回な妊婦健診が必要です。その予定は、危険性の度合いを決定づける「膜性」によって異なります。ACOGやRCOGの指針を参考にすると、一般的な健診予定は以下のようになります5617

  • 一絨毛膜双胎(MD/MMツイン): TTTSなどの特有の合併症を早期に発見するため、妊娠16週頃から少なくとも2週間に1回の超音波検査が推奨されます。
  • 二絨毛膜双胎(DDツイン): 危険性が比較的低いため、妊娠24週頃から4週間に1回程度の超音波検査が目安となります。

健診では、血圧測定や尿検査といった通常の項目に加え、超音波検査で以下の点が重点的に確認されます。

  • 胎児の大きさ(推定体重)と、二人の間の体重差
  • それぞれの赤ちゃんの羊水量(TTTSの兆候がないか)
  • 胎児の心臓の動きや血流の状態
  • 子宮頸管長(早産の兆候がないか)

5.2. 栄養・体重管理と日常生活の注意点

二人の赤ちゃんを育てるため、母体にはより多くの栄養とエネルギーが必要です。単胎妊娠に比べて、1日あたり約300キロカロリー余分にカロリーが必要とされ、鉄分、葉酸、カルシウム、タンパク質などの摂取もより重要になります。栄養バランスの取れた食事を心がけ、必要に応じて栄養補助食品を活用することも有効です。体重増加の目安は、妊娠前の体格によって異なりますが、一般的には単胎妊娠よりも多い11〜19キログラム程度が推奨されています1427。ただし、これはあくまで目安であり、個々の状態に応じて主治医や管理栄養士と相談しながら管理していくことが大切です。安静の必要性については、かつては予防的に入院安静が行われることもありましたが、現在では早産予防効果が証明されていないため、画一的な安静指示は行われません16。切迫早産の兆候があるなど、個々の状況に応じて主治医が判断します。

5.3. 分娩時期と方法の選択:いつ、どのように産むか

双胎妊娠では、妊娠後期になると胎盤の機能が低下しやすくなることや、子宮が過度に引き伸ばされることによる危険性を避けるため、多くの場合、単胎妊娠よりも早い時期に計画的な分娩が推奨されます。推奨される分娩時期は、合併症の有無や膜性によって異なります。日本産科婦人科学会(JSOG)、米国産科婦人科学会(ACOG)、英国王立産婦人科医会(RCOG)などの主要な指針では、合併症のない双胎妊娠における分娩時期の目安が示されており、これは妊婦さんと医療者が分娩計画を立てる上で重要な指標となります25616

合併症のない双胎妊娠における推奨分娩時期の目安
膜性の種類 推奨される分娩時期 主な根拠ガイドライン
二絨毛膜二羊膜(DD)双胎 妊娠38週0日~38週6日 ACOG (2021)
一絨毛膜二羊膜(MD)双胎 妊娠34週0日~37週6日 ACOG (2021)
一絨毛膜一羊膜(MM)双胎 妊娠32週0日~34週0日 ACOG (2021)

注:上記はあくまで合併症がない場合の目安であり、個々の状態によって最適な時期は異なります。
分娩方法には経腟分娩と帝王切開があります。どちらが選択されるかは、膜性、赤ちゃんの位置(胎位)、母体と胎児の状態などを総合的に評価して決定されます。

  • 経腟分娩が検討される場合: 一般的に、先に出てくる赤ちゃん(先進児)が頭位(頭が下)であることが、経腟分娩を試みる上での重要な条件となります1628。ACOG指針では、二絨毛膜双胎(DD)や一絨毛膜二羊膜双胎(MD)で、先進児が頭位であれば、二人目の赤ちゃんの胎位に関わらず経腟分娩を検討することが妥当であるとされています。
  • 帝王切開が選択される場合: 以下のような場合には、安全性を最優先して予定帝王切開が選択されることが多くなります1628
    • 先進児が頭位でない場合(骨盤位や横位など)
    • 一絨毛膜一羊膜(MM)双胎(臍帯巻絡の危険性が非常に高いため、帝王切開が原則)
    • 三つ子以上の多胎妊娠
    • 母体や胎児の状態から、早期の分娩が必要と判断された場合
    • 経腟分娩の途中で緊急事態が発生した場合

最終的な分娩方針は、これらの医学的根拠に基づき、妊婦さん本人とご家族の意向も尊重しながら、担当の医師チームと十分に話し合って決定されます。

第6部:産後の生活と心身のケア:見過ごされがちな「産後」という正念場

無事に出産を終えた後も、多胎児の育児には特有の困難が待ち受けています。妊娠中から産後の生活を想像し、心身のケアと利用できる支援について知っておくことは、産後の危機を乗り越えるために不可欠です。

6.1. 産後うつと精神衛生:ママとパパの心の健康

産後の母親の精神衛生は、極めて重要な課題です。日本では、産褥期の女性の死因の第一位が自殺であるという、非常に深刻なデータがあり、産後の心のケアの重要性を示しています29。多胎児の母親は、単胎児の母親に比べて、産後うつを発症する危険性が有意に高いことが研究で明らかになっています。徳島大学の研究グループが双子の母親と単胎児の母親を比較した調査では、双子の母親は単胎児の母親に比べて、抑うつ状態にある割合が2.6倍も高い(双子群26.0% 対 単胎群9.7%)という結果が報告されています30。この背景には、以下のような多胎育児特有の過酷な要因が複雑に絡み合っています3132

  • 圧倒的な睡眠不足: 二人の赤ちゃんへの授乳やおむつ替えが昼夜を問わず続くため、まとまった睡眠が全く取れない。
  • 身体的な疲労の蓄積: 二人同時の抱っこや寝かしつけなど、身体への負担が極めて大きい。
  • 社会的孤立: 外出が困難なため、社会から取り残されたような孤独感に陥りやすい。
  • 精神的葛藤: 「二人を平等に愛せているか」「一人をあやしている間にもう一人が泣いている」といった罪悪感や無力感。

気分の落ち込み、涙もろさ、何事にも興味が持てない、不眠、食欲不振、強い不安や焦燥感、自分を責める気持ちなどが2週間以上続く場合は、産後うつの可能性があります。これは「気合いが足りない」といった精神論の問題ではなく、治療が必要な病気です33。一人で抱え込まず、地域の保健センターや子育て世代包括支援センター、かかりつけの産婦人科、心療内科などに相談することが非常に重要です。近年では、育児に参加する父親の産後うつ・育児うつも社会問題化しており、これは家族全体で取り組むべき課題として認識され始めています34

6.2. 多胎育児の現実:当事者の声から学ぶ

統計データだけでは見えてこない、多胎育児の現実の日常は、経験者の声にこそ宿っています。多胎育児経験者のブログや、一般社団法人日本多胎支援協会(JAMBA)などが行った調査からは、多くの親が直面する共通の困難が浮かび上がってきます3536

  • 身体的負担: 「授乳とおむつ替えだけで一日が終わり、気づいたら食器を洗いながら泣いていた」「慢性的な寝不足で、常に頭に霧がかかっているようだった」37
  • 精神的負担: 「二人同時に泣き叫ばれると、何をしても泣き止まず、自分も一緒に泣くしかなかった」「『こんなにかわいい時期に保育園に預けるなんて』と他のママに言われた言葉が、ずっと心にしこりとして残っている」37
  • 外出の困難: 「双子用ベビーカーでバスに乗ろうとしたら乗車拒否された」「ただ近所のスーパーに行くだけで、一大決心が必要だった」38
  • 経済的負担: 「ミルク代、おむつ代、服代…すべてが倍以上。出費の大きさに愕然とした」。

これらの「声」は、今まさに同じ困難に直面している親にとって、「つらいのは自分だけではない」という強い共感と安堵感をもたらします。

6.3. 虐待リスクという不都合な真実

多胎育児の困難さが浮き彫りになる中で、目を背けてはならないのが、児童虐待の危険性です。厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果」を基にした分析では、多胎家庭における虐待死の発生頻度は、単胎家庭と比較して2.5倍から4倍以上高いと推定されています29。この衝撃的なデータが示すのは、多胎児の親に問題があるということでは断じてありません。むしろ、社会的な支援から孤立し、心身ともに追い詰められた結果として起こりうる、社会構造的な問題であることを示唆しています。過酷な育児環境が産後うつを引き起こし、それが最悪の場合として虐待に繋がるという負の連鎖を断ち切るためには、親が「助けて」と声を上げること、そして社会がその声に応える体制を整えることが不可欠です。支援を求めることは、親の権利であり、子どもの命を守るための義務でもあるのです。

第7部:【実践編】日本で利用できる多胎児家庭支援制度

過酷な多胎育児を乗り越えるためには、利用できる社会資源を最大限に活用することが極めて重要です。近年、国や自治体も多胎児家庭の困難さに着目し、支援策を拡充しつつあります。

7.1. 国と自治体の公的サポートを使いこなす

2023年に発足したこども家庭庁は、多胎児支援を重要な柱の一つとして位置づけており、全国の自治体で利用できる支援策を推進しています39

  • 多胎妊婦健康診査費用助成: 多くの自治体で定められている妊婦健診の公費助成は14回分が標準ですが、双胎妊娠ではそれ以上に頻回な健診が必要となります。この14回を超えた分の健診費用について、追加で助成を行う制度です40
  • 産前・産後サポート事業: 産前産後の家事や育児を支援するヘルパー派遣や、同じ境遇の親と交流できるピアサポート事業などが含まれます。
  • こども家庭庁ベビーシッター券(多胎児特例): 企業主導型ベビーシッター利用者支援事業の一環で、対象となる事業所に勤務している場合、通常の割引券に加えて多胎児家庭向けの特例が利用できます。割引額は双子の場合で1日9,000円、三つ子以上で1日18,000円と非常に手厚いものになっています41

さらに、各自治体は独自の支援策を展開しています。先進的な取り組みの例として、以下のようなものがあります9

  • 東京都府中市: 0〜2歳の多胎児家庭に対し、タクシー利用券や家事代行サービスに使えるオンラインギフト(年間最大24,000円分)の配布、産前産後ヘルパーの利用時間の大幅な拡充(最大120時間)、粉ミルクの支給など、多岐にわたる支援を実施しています42
  • 滋賀県大津市: 3歳になるまで無料で120時間、家事・育児、健診時の外出などを支援するホームヘルパーを派遣しています。

これらの支援内容は自治体によって大きく異なるため、妊娠が判明した段階で、「お住まいの市区町村名 + 多胎児支援」というキーワードで検索したり、自治体の母子保健担当窓口(子育て世代包括支援センターなど)に直接問い合わせたりして、利用できる制度を漏れなく確認することが重要です。

7.2. ピアサポートの力:同じ経験を持つ仲間と繋がる

公的な支援と同様に、あるいはそれ以上に心の支えとなるのが、同じ経験を持つ親同士の繋がり、すなわちピアサポートです。

  • 一般社団法人日本多胎支援協会(JAMBA): 全国の多胎児サークルの情報を集約・発信している中核的な組織です。ウェブサイトを訪れれば、お住まいの地域のサークルを見つけることができます43
  • 地域の多胎サークル・交流会: 地域の保健センターや子育て支援センターが主催する交流会や、当事者たちが運営するサークル活動が各地にあります。こうした場で、育児の悩みを共有したり、実践的な工夫(「この病院は双子に優しい」「この公園はベビーカーで入りやすい」など)を交換したりすることは、孤立感の解消に絶大な効果があります44
  • オンラインコミュニティ: 外出が難しい時期には、LINEのオープンチャットやSNS上の多胎育児グループなども、気軽に情報交換や悩み相談ができる貴重な場となります44

7.3. 【コラム】双子用ベビーカーの選び方

多胎育児における最大の物理的な壁の一つが「外出」です。その壁を乗り越えるための最も重要な道具が、二人乗りのベビーカーです。選び方を間違えると「買ったのに使えない」という事態に陥りかねないため、以下の点を参考に、ご自身の生活様式に合った一台を見つけることが重要です。

タイプで選ぶ:「横型」か「縦型」か45

  • 横型(Side-by-Side):
    • 利点:二人の様子を一度に確認しやすい。子ども同士が景色を見やすく、コミュニケーションが取れる。乗り降りがさせやすい。
    • 欠点:横幅が広いため、狭い通路や改札、エレベーターで苦労することがある。
  • 縦型(Tandem):
    • 利点:横幅が一人用ベビーカーとほぼ同じで、狭い場所を通りやすい。
    • 欠点:全長が長くなるため小回りが利きにくい。後ろの座席の様子が見えにくく、視界も狭くなりがち。

大きさを徹底的に確認する:改札とエレベーターが最重要

ベビーカー選びで最も重要なのは、日常生活で通過する場所の幅を事前に測定しておくことです。

  • 横幅: 一般的な駅の自動改札の幅は55〜60センチメートル、車椅子対応の幅広改札でも90〜95センチメートル程度です。横型を選ぶ際は、幅が75センチメートル以内だと、通れる場所が多くなります46。スーパーのレジ通路や、集合住宅のエレベーターのドア幅も必ず確認しましょう。
  • 折りたたみ時の大きさ: 自宅の玄関や車の荷室に収納できるか、折りたたんだ状態で自立するかどうかも重要な点です46

走行性と安全性で選ぶ

  • タイヤ: 赤ちゃん二人と荷物を乗せると総重量はかなりのものになります。タイヤが大きく、しっかりとした作りのもの(エアタイヤなど)は、段差や悪路でも振動が少なく、走行が安定します45
  • 収納: 荷物も二人分になるため、座席下の収納かごの容量は大きいほど便利です。少なくとも30リットル以上の容量があると安心です47

高価な買い物であるため、レンタルサービスでいくつかの機種を試してから購入を決定するのも賢い選択です。

よくある質問

双子だと診断されたら、まず何をすべきですか?
まず最も重要なことは、妊娠初期に超音波検査で「膜性診断」を正確に受けることです9。膜性(胎盤を共有しているかどうか)によって、その後の危険性や妊婦健診の予定が大きく変わります。診断結果は必ず母子健康手帳に記録してもらいましょう。また、お住まいの自治体の「多胎児支援」制度について、窓口やウェブサイトで確認し、利用できる支援を把握しておくことも大切です。
一絨毛膜双胎と言われましたが、必ず合併症は起こりますか?
必ず起こるわけではありません。しかし、一絨毛膜双胎は双胎間輸血症候群(TTTS)のような特有の重篤な合併症の危険性があるため、「ハイリスク妊娠」として慎重な管理が必要です7。そのため、専門的な知識と経験を持つ周産期センターで、少なくとも2週間に1回など頻回な健診を受け、合併症の兆候を早期に発見することが極めて重要です。早期に発見できれば、FLPのような有効な治療法もあります19
多胎育児で、一番頼りになる相談先はどこですか?
一人で抱え込まないことが何より大切です。公的な相談先としては、まずお住まいの地域の保健センターや子育て世代包括支援センターの保健師が挙げられます。専門的な知識を持ち、利用できる制度につないでくれます。精神的な支えとして非常に力になるのが、同じ経験をした先輩の親との繋がりです。一般社団法人日本多胎支援協会(JAMBA)のウェブサイトで地域の多胎サークルを探したり、オンラインのコミュニティに参加したりして、悩みを共有できる仲間を見つけることを強くお勧めします4344

結論

双胎妊娠は、単胎妊娠とは異なる医学的危険性を伴い、産後の育児においても特有の困難が伴う、挑戦的な道のりであることは事実です。本記事では、その危険性について、国内外の最新の科学的根拠に基づき、詳細に解説してきました。しかし、最もお伝えしたいのは、これらの危険性のほとんどは、適切な周産期管理によって制御可能であるということです。特に、TTTSに対する胎児治療のように、日本の医療は世界最高水準の技術で母子を救う力を持っています。双胎妊娠の旅を乗り越えるための羅針盤は、「正しい知識」と「利用できる支援」です。ご自身の双子の膜性を正確に把握し、それに基づいた管理計画の重要性を理解すること。妊娠高血圧症候群や早産といった主要な合併症の兆候を知り、早期発見に努めること。産後の心身の疲弊は「当然のこと」と我慢せず、それが産後うつや虐待の危険性に繋がる社会的な問題であると認識すること。そして、国や自治体、ピアサポートといった多様な支援制度の存在を知り、助けを求めることをためらわないこと。不安や疑問を感じたときは、決して一人で抱え込まないでください。あなたの主治医、地域の保健師、そして同じ道を歩んできた先輩の父母は、あなたの最も頼りになる味方です。信頼できる情報と周囲の支援を力に変え、あなたとご家族らしい、健やかで実りあるマタニティライフを送られることを、心より応援しています。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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