はじめに
口内炎(口腔潰瘍)は、口腔内の粘膜に生じる潰瘍やただれの総称であり、多くの方が一度は経験したことがあるかもしれません。とくに食事や会話の際にしみるような痛みを感じ、日常生活で大きなストレスとなることも少なくありません。通常は数日から2週間程度で自然に治癒することが多いですが、痛みが強い場合や治りにくい場合には、適切な医療アプローチやケアを行うことが重要です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
口内炎は、はっきりした原因が特定しにくい場合もある一方で、栄養不足やストレス、口の中を噛んだりする物理的刺激、あるいは免疫状態の変化など、さまざまな要因が複合的に関わっていると考えられています。痛みは一時的なものとはいえ、まったく放置してしまうと食事や口腔ケアが億劫になりがちで、結果として栄養状態の悪化や口腔衛生の低下を招く恐れがあります。
本記事では、口内炎の症状や種類を踏まえつつ、市販薬から処方薬、さらに重症例に使われる場合のある経口薬まで、幅広い治療の選択肢を整理しながら解説します。また、口内炎が起こった際に覚えておきたいセルフケアのポイントや、日常生活のなかで実践できる予防の考え方にも触れていきます。内容をしっかり理解することで、口内炎の痛みに対して的確な対処ができるようになり、生活の質を保ちながら早期に回復を目指す手がかりになるでしょう。
JHOとして、読者の皆さまにできるだけ正確で信頼性の高い情報をお届けすることを心がけていますが、もし強い痛みや潰瘍が長引く、あるいは原因不明の口内症状がみられる場合は、必ず医師や歯科医に相談し、個別に適切な治療を受けてください。
専門家への相談
口内炎を含む口腔内の病変は、一見すると単純に見えても、多様な病因が隠れているケースがあります。特に大きい潰瘍、発熱を伴う場合、ほかの症状(歯ぐきの腫れや出血、全身の倦怠感など)がある場合は、単なる口内炎ではなく、別の疾患を示唆している可能性があります。本記事は、あくまでも一般的な情報提供を目的としており、特定の臨床医や医療機関による個別の診断や治療の指示を置き換えるものではありません。症状が悪化する、あるいは自然治癒の範囲を明らかに超えていると感じられる場合には、早めに医療専門家の意見を仰ぐことを強くおすすめします。
一例として、Mayo ClinicやMedlinePlusなど海外の医療情報サイトは、口内炎に関する多角的な情報や研究データを閲覧できるため、日本国内からでも参考にしやすい情報源です。ただし、最終的には日本国内の医療機関や専門医の診察を受けることで、個々の事情に合わせたより適切な治療やケア方針を立てることが重要です。
口内炎の治療薬の種類
口内炎の症状を緩和し、潰瘍の回復を促す医薬品やケア用品は、さまざまな形態で市販や処方の形で提供されています。大きく分けると、以下の三つのタイプに分類されます。
1. 治療用のうがい薬
比較的軽度の口内炎であれば、まずは自宅で塩水で口をすすぐ方法が一般的です。塩水はアルコールを含まないため刺激が少なく、口腔内を清潔に保ちながら炎症を緩和する効果が期待できます。口の中の雑菌を洗い流し、粘膜を優しく保護する作用もあるため、口内炎の初期対応として有効です。
一方で、口内炎が広範囲に広がり、自然治癒が難しい場合や痛みが強い場合には、医師によって処方される薬用うがい薬を使用することがあります。以下は処方されることのある代表的な成分です。
- ステロイドデキサメタゾンを含むうがい薬:強い炎症を抑える効果があります。口腔内における過度な炎症を鎮め、痛みや腫れを軽減することが期待されます。ただし、ステロイドを含むため、長期間の使用は医師の指示に従うことが大切です。
- リドカインを含むうがい薬:局所麻酔作用により、痛みを抑える効果があります。食事や会話がつらいほどの強い痛みがある場合、医師の判断のもとで短期間使用されることがあります。
実際にどのタイプのうがい薬を使用するかは、症状の程度や口内炎の原因、患者さんの全身状態によって判断されます。医師が処方する際には、口腔粘膜の状態や既往症なども考慮するため、疑問点があれば遠慮せず尋ねるようにしましょう。
2. 口内炎用の塗薬
口内炎を直接覆うようにして使う「塗り薬」は、局所的に有効成分を届けやすいのが利点です。市販薬も多く、痛みを和らげたり、潰瘍の治癒を促進したりする成分が配合されています。代表的な製品としてAnbesol、Orabaseなどが知られており、これらは比較的手に取りやすいものです。
有効成分としては、以下のようなものが挙げられます。
- Benzocaine (Anbesol, Kank-A, Orabase, Zilactin-B)
局所麻酔効果があり、口腔粘膜の痛みを短時間で緩和してくれます。刺激の少ないタイプが多く、使いやすい反面、効果の持続時間は限られます。 - Fluocinonide (Lidex, Vanos)
ステロイド系の抗炎症成分であり、強い炎症を抑える効果があります。重度の口内炎の場合に処方されることがあり、腫れや痛みを速やかに緩和します。ただし、ステロイドを含むため、長期使用や広範囲への使用には注意が必要です。 - Hydrogen peroxide(Orajel, Peroxyl)
消毒・殺菌効果があるため、口腔内の雑菌を抑制し、潰瘍部分の細菌繁殖を防ぐ目的で使用されます。過酸化水素は組織を刺激する恐れがあり、使用頻度や使用量に関しては製品の説明書や医師の指示を守ることが推奨されます。
また、活性成分を含まないジェルや保護シールのような製品も市販されており、潰瘍部を覆うことで刺激を軽減する役割を果たすものもあります。どの製品を選ぶべきか迷った場合は、医師や歯科医に相談するか、薬剤師に製品の特徴を聞いた上で自分の症状に合ったものを選ぶとよいでしょう。
3. 経口用の薬剤
一般的に、口内炎は局所的な治療(うがい薬や塗薬)で対処されることが多く、経口薬が必要とされるケースはそれほど多くありません。しかし、重度の口内炎や、局所療法のみでは十分に改善がみられない場合など、一定の症状や背景を持つ患者さんには経口薬が考慮されることがあります。以下のような例が挙げられます。
- スクラルファート(Carafate)やコルヒチン
胃潰瘍や痛風など、別の疾患治療に用いられる薬剤が、結果として口内炎の炎症を抑えたり潰瘍の回復を助けたりする場合があります。ただし、これらは口内炎専用の薬ではないため、あくまで副次的な効果として捉えます。 - 経口ステロイド剤
重篤な潰瘍に対しては、短期的な使用を前提に経口ステロイド剤が処方される場合があります。強い抗炎症作用が期待できる一方で、副作用のリスクが高いため、投与期間や用量は厳密に管理されます。 - 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
痛みや炎症を抑える目的でアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンなどが挙げられます。ただし、アスピリンは18歳未満の人への使用は推奨されていません。
経口薬を服用する際は、必ず医師からの指示・処方を受けるようにし、自己判断で使わないことが大切です。特にステロイドを含む医薬品は副作用のリスクが大きいため、専門家の管理下でのみ使用されるべきです。
口内炎の際に知っておくべきポイント
多くの口内炎は、特別な治療を行わなくても10日から14日ほどで自然治癒することが知られています。しかし、痛みが強かったり治りが遅いと感じられる場合には、以下のケアや工夫を試してみると症状が和らぐことがあります。
- 柔らかく、刺激の少ない食品を選ぶ
口内炎にしみやすい辛味や塩味、酸味の強い食品、極端に熱い食品は避けるとよいでしょう。具体的には、刺激の少ないおかゆやスープ、豆腐などが挙げられます。 - 口への刺激を減らす
辛味や塩味が強い食事、酸味が強い果物(グレープフルーツやシトラス系など)は潰瘍部分を刺激し、痛みを増幅させることがあります。痛みが強いときはこれらを控えることで負担を軽減できます。 - 飲み物の温度に注意し、ストローを使う
過度に熱い飲み物や冷たい飲み物も患部を刺激します。ストローを使うことで患部への接触を減らすことができるため、痛みの軽減につながる場合があります。 - 塩水でのうがいを習慣化する
塩水で口をすすぐと、口腔内を清潔に保つ効果が期待できます。特に食後は口内に食べかすや細菌が残りがちなので、こまめにうがいをすることで潰瘍部の二次感染リスクを下げることができます。 - 優しいブラッシングを心がける
歯ブラシの毛先が潰瘍部に直接当たらないように気をつけましょう。患部を刺激して出血や痛みを悪化させるのを防ぐと同時に、口腔衛生を維持することも大切です。 - ナトリウムラウリル硫酸(SLS)を含まない歯みがき粉や洗口液を使用する
SLSは洗浄力が高い一方で粘膜を刺激することがあり、口内炎のリスクを高める可能性が指摘されています。潰瘍がある時期はSLSフリーの商品を選ぶと、症状悪化を抑えられる場合があります。 - 野菜や果物を日頃から適度に摂取する
ビタミンやミネラルが不足していると、粘膜の回復力が弱まり、口内炎が治りにくいことが指摘されています。ビタミンB群、ビタミンC、葉酸、鉄、亜鉛などをバランスよく摂ることは、粘膜再生を促す上で重要です。たとえば野菜ジュースやフルーツジュースの活用も一つの方法です。
上記のようなセルフケアを行ってもなかなか改善がみられない場合には、医療機関を受診し、別の要因が潜んでいないかをチェックすることをおすすめします。
口内炎を予防する方法はあるのか?
口内炎は原因がはっきりしないケースが多く、明確な予防策が確立されているわけではありません。しかし、以下のポイントに注意することで、発症リスクをある程度抑えられる可能性があります。
- 物理的刺激を避ける
食事中やスポーツ中などに口の中を噛んでしまうことが口内炎の直接的なきっかけになることがあります。意識してゆっくり噛む、合わないマウスピースや歯科装具があれば歯科医に相談するなど、物理的刺激を減らす工夫が有効です。 - バランスの良い食事を心がける
葉酸やビタミンB12、鉄、亜鉛などの不足は口腔粘膜の弱化をもたらしやすいとされています。栄養バランスを整え、必要に応じてサプリメントを活用することも、粘膜の健康維持に寄与します。 - ストレスケア
ストレスは免疫力低下を招き、口内炎のリスクを高めることがいくつかの研究で示唆されています。十分な睡眠や適度な運動、リラックスできる趣味を持つなど、ストレスを溜め込みにくい生活習慣を意識することが大切です。 - 口腔衛生を保つ
歯みがきやデンタルフロスを正しく使い、口腔内を清潔に保つようにしましょう。歯科医による定期的な検診も、歯や歯ぐきの異常だけでなく口腔粘膜全体の健康をチェックできる機会となります。 - 喫煙や過度の飲酒を控える
タバコの煙やアルコールは粘膜を刺激し、潰瘍のリスクを高める場合があります。口内炎を頻繁に繰り返す人は、これらの習慣を見直すことで予防や再発防止につながる可能性があります。
こうした生活習慣の改善やセルフケアを行っていても、頻繁に口内炎が生じる場合は、別の原因があるかもしれませんので、医師または歯科医に相談してみるとよいでしょう。
研究事例から見る口内炎の最新知見
口内炎、特に再発性アフタ性口内炎に関しては、さまざまな研究が国内外で行われてきました。近年(過去4年以内)に発表された研究をいくつか挙げて、口内炎治療や予防に関する知見をさらに深めてみましょう。
- 局所療法の有効性に関する研究
2021年にBMC Oral Healthで公開された体系的レビュー(Saarinen Lら, 2021, doi:10.1186/s12903-021-01584-y)では、再発性アフタ性口内炎に対する局所的な薬剤治療の有効性を検討しています。このレビューでは、ステロイドを含む塗り薬や消炎効果のあるジェルなどが症状の緩和に有用である可能性が高いとされています。ただし、製品ごとに適切な使用頻度や期間が異なるため、一概に「これだけ使えばよい」という結論には至っておらず、個人の症状や使用感に合わせた調整が必要だと報告されています。 - ヒアルロン酸ジェルの効果
2021年にJournal of Oral Pathology & Medicineに掲載された無作為化二重盲検試験(Benslama Aほか, 2021, doi:10.1111/jop.13228)では、ヒアルロン酸ジェルが再発性口内炎の疼痛と潰瘍サイズを有意に減少させる結果が示されています。ヒアルロン酸ジェルは粘膜を保護しながら保湿効果も期待できるため、既存の局所療法に加えて選択肢に入る可能性があります。ただし、日本国内での製品化状況や保険適用の有無などは、個々のケースにより異なるため、実際に使用する際は医師や歯科医と相談してください。 - 再発性口内炎と生活習慣の関連
過度のストレスや睡眠不足が口内炎の発症や悪化につながりやすいことは、複数の観察研究で指摘されています。2020年以降に発表された一部の臨床研究では、マインドフルネスや定期的な軽い運動を取り入れることで再発の頻度が軽減したという報告もあり、ストレス緩和策の重要性が改めて注目されています。
これらの研究はいずれも国外を含む多様な集団を対象としたもので、必ずしも日本の生活習慣や医療制度にそのまま当てはまるとは限りません。しかしながら、口内炎の発症や治療は世界的にも共通の課題であることから、国内外の新しい知見を幅広く参考にすることは、治療の質や予防策の精度を高める上で有益といえます。
結論と提言
この記事では、口内炎に関する原因や症状から、市販・処方される薬剤、セルフケアのポイント、そして最近発表された研究の一端まで幅広く紹介しました。口内炎の多くは自然治癒するケースが多いものの、生活の質を著しく下げるほど強い痛みや大きな潰瘍がある場合は、早めに医師や歯科医に相談し、適切な治療やアドバイスを受けることが重要です。特に以下の点を踏まえて行動するとよいでしょう。
- まずは塩水うがいや患部を刺激しないセルフケアを行い、症状が改善するかを観察する。
- 改善がみられない、あるいは痛みが強くて日常生活に支障をきたす場合は、市販の塗り薬やうがい薬を検討する。
- 重症例や複数個の大きな潰瘍、あるいは再発を頻回に繰り返す場合には、医師の診察を受けて経口薬を含む専門的な治療を検討する。
- 生活習慣の見直し(栄養バランス、ストレスマネジメント、口腔衛生)によって、口内炎の再発リスクを下げる可能性を探る。
- 新しい研究結果や製品が次々に出てきているため、気になる情報があれば医療専門家に確認し、最新かつ適切な治療法やセルフケア方法を選ぶ。
口内炎は一時的な痛みで済むことも多い反面、時には頑固に繰り返したり、重症化したりするケースも存在します。この記事の情報はあくまで一般的な参考としてお役立ていただき、疑問点や不安がある場合は専門家による診断や治療を受けるよう心がけましょう。
専門家への相談の重要性
繰り返しになりますが、強い痛みや治りにくい口内炎がある場合や、発熱や倦怠感など全身症状を伴う場合には、早めに歯科医や内科医を受診することが大切です。特に口腔粘膜の潰瘍が長期間持続する際には、稀にほかの病気が潜んでいる可能性も否定できません。また、医師や歯科医の判断によっては血液検査や免疫機能のチェックなど、より専門的な検査が必要となることもあります。
必ず専門家の指導を仰いで治療方針を決めるようにし、自己判断で薬剤を選んだり、使い続けたりしないようにしましょう。
最後に:本記事の情報はあくまで参考です
本記事で紹介した内容は、多くの方に役立つであろう一般的な情報をまとめたものです。しかし、個々の症状や背景、全身状態によっては通用しない場合もあります。また、ここで紹介した薬の成分や使用法は、ごく一般的な例にすぎず、すべての患者さんに必ず適切とは限りません。十分な臨床的エビデンスが蓄積されている治療法もあれば、まだ研究段階にあり十分な証拠が揃っていない方法も存在します。したがって、気になることがあれば迷わず医療機関で専門家に相談し、適切な診断と指導のもとで治療や予防策を実行してください。
参考文献
- Canker sore (Mayo Clinic) アクセス日 05/11/2021
- Canker sore (UofM Health) アクセス日 05/11/2021
- Mouth sores (MedlinePlus) アクセス日 05/11/2021
- Canker sore (familydoctor.org) アクセス日 05/11/2021
- Canker Sore Treatments and Medications (singlecare.com) アクセス日 05/11/2021
- Saarinen L, Leivo J, Aromaa J, et al. “Local drug therapy for recurrent aphthous ulcers: a systematic review.” BMC Oral Health. 2021;21(1):189. doi:10.1186/s12903-021-01584-y
- Benslama A, Radhouani H, Mousli M, et al. “The efficacy of hyaluronic acid gel on recurrent aphthous ulcers: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial.” J Oral Pathol Med. 2021. doi:10.1111/jop.13228
免責事項: 本記事の情報は医療の専門家が提供する正式な診断・治療方針の代替とはなりません。症状が強い場合や長引く場合、他の全身症状を伴う場合には、必ず医師または歯科医などの専門家に相談し、適切な治療を受けてください。また、本記事で紹介した薬やケア方法は一般的な例であり、すべての方に必ずしも適合するものではありません。個々の体質や病態に合わせた専門的なアドバイスが必要です。