口紅の安全性:知っておくべき成分・健康リスク・規制の科学的解説
皮膚科疾患

口紅の安全性:知っておくべき成分・健康リスク・規制の科学的解説

口紅は、多くの人々の日常生活において自己表現や自信を高めるための重要なアイテムです。しかし、毎日肌に直接触れ、食事の際には無意識に口にしてしまう可能性のある製品だからこそ、その安全性に対する関心は極めて自然で正当なものです。本記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会として、特定の製品を推奨または批判する立場を離れ、科学的根拠に基づき、口紅に含まれる可能性のある成分、それらがもたらす潜在的な健康リスク、そして消費者を守るための日本の規制について、包括的かつ中立的に解説することを約束します。この記事の情報は、厚生労働省(MHLW)、国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)、米国食品医薬品局(FDA)、世界保健機関(WHO)といった国内外の権威ある機関の報告書や研究に基づいており、読者の皆様が十分な情報に基づいて自らの選択を行えるようになるための一助となることを目指しています5, 6, 11, 13

要点まとめ

  • 口紅の安全性は、食事などを通じた「偶発的な経口摂取」と、鉛などの重金属が体内に蓄積する「生体蓄積」のリスクから議論されます。
  • 鉛、タール色素、パラベン等の防腐剤が主な懸念成分ですが、日本の「化粧品基準」は世界的に見ても厳しい規制を設けています。
  • 「天然由来」が必ずしも「安全」を意味するわけではなく、重要なのはメーカーの品質管理と、消費者が成分表示を理解することです。
  • この記事では、科学的データと国内外の規制を比較し、消費者が賢い選択をするための実践的なガイドを提供します。

1. なぜ口紅の安全性が議論されるのか?

口紅の安全性に関する議論は、単なる憶測や不安から生じているわけではありません。その使用頻度、身体への接触方法、そして製品に含まれる成分の性質という、科学的な根拠に基づいた複数の要因が絡み合っています。

1.1. 毎日使うものだからこそ:経口摂取と長期蓄積のリスク

口紅から化学物質が体内へ入る経路は、主に二つ考えられます。一つは唇の皮膚からの吸収、そしてもう一つが、より重要視されている「偶発的な経口摂取」です21。食事や飲み物を飲む際、または無意識に唇をなめる行為によって、私たちは微量の口紅を飲み込んでいます。カリフォルニア大学バークレー校が2013年に発表した画期的な研究によると、平均的な口紅の使用者は1日に約24ミリグラム、頻繁に使用するヘビーユーザーでは最大で87ミリグラムもの口紅を摂取する可能性があると推定されています1。これは、生涯を通じて考えると決して無視できない量です。
ここで重要となるのが、「バイオアキュムレーション(生体蓄積)」という概念です。鉛などの一部の重金属は、一度体内に取り込まれると容易に排出されず、脂肪組織や骨などに長期間蓄積していく性質があります15。たとえ一つ一つの製品に含まれる量が微量であっても、長年にわたる日常的な使用によって、体内の蓄積濃度が徐々に上昇する可能性があるのです。特に、妊娠中や授乳中の女性にとって、この問題はより深刻な意味を持ちます。米国疾病予防管理センター(CDC)の見解によれば、妊娠中に母親の骨に蓄積された鉛が血中に再び放出され、胎盤を通じて胎児の発育に影響を与える可能性が指摘されています5

1.2. 「天然由来」≠「安全」:原料に潜む不純物

多くの消費者は、「ミネラル由来」「天然成分」「オーガニック」といったマーケティング用語に安心感を抱きがちです。しかし、これらの言葉が必ずしも製品の「安全性」を保証するものではないという事実は、極めて重要です。口紅に含まれる鉛などの重金属は、多くの場合、意図的に添加された成分ではありません。米国食品医薬品局(FDA)が明確に指摘しているように、これらは色の原料となる鉱物(例えば、赤色を出すための酸化鉄や、白さを調整する酸化チタン)にもともと含まれている「不可避的な不純物」なのです7, 8。したがって、この問題は「オーガニック」や「ナチュラル」を謳うブランドであっても、同様に直面しうる課題と言えます23。製品の最終的な安全性は、使用される原料の種類だけでなく、製造業者がその原料に含まれる不純物をどれだけ厳格に管理し、精製しているかという「原料の純度管理と品質管理(GMP: Good Manufacturing Practice)」のレベルに大きく依存するのです。

2. 【成分別】口紅に潜む主要な健康リスクの科学的評価

口紅の安全性を評価するためには、漠然とした不安ではなく、個々の成分が持つ科学的に証明された性質と、それらが人体に及ぼす潜在的な影響を具体的に理解することが不可欠です。ここでは、特に議論の対象となる重金属、色素、防腐剤について、最新の研究と各国の規制状況を基に掘り下げていきます。

2.1. 重金属:神経毒性物質「鉛」をめぐる国際的議論

口紅の安全性に関する議論の中心には、常に「鉛」の存在があります。その毒性の高さと、私たちの生活環境に広く存在するという事実から、鉛は世界中の公衆衛生機関が最も注意を払う化学物質の一つです。

2.1.1. 鉛の毒性:なぜ「安全な基準値はない」と言われるのか

世界保健機関(WHO)は、鉛の健康影響に関するファクトシートの中で、「鉛への曝露には安全なレベルは存在しない」と断言しています5。これは、極めて微量であっても健康への悪影響が生じる可能性があるという、科学的なコンセンサスを反映したものです。鉛は強力な神経毒であり、特に発達段階にある胎児や子供の脳に対して深刻な影響を及ぼすことが知られています。具体的には、学習障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、IQの低下、反社会的行動の増加などとの関連が指摘されています5。成人においても、高血圧や腎臓障害、生殖機能への悪影響などのリスクを高めることが分かっています。

2.1.2. 世界の口紅の鉛含有量:FDA(米国食品医薬品局)の調査結果

口紅中の鉛問題が大きく注目されるきっかけとなったのは、2007年に米国の消費者団体「Campaign for Safe Cosmetics」が発表した報告書「A Poison Kiss」でした16。この報告は、市販の口紅の多くから鉛が検出されたことを明らかにし、大きな社会的議論を巻き起こしました2。これに対し、米国食品医薬品局(FDA)は大規模な追跡調査を実施しました。400製品以上を分析した結果、調査したすべての口紅から鉛が検出され、その濃度は最大で7.19 ppm(parts per million、百万分率)に達したことを報告しました6, 7。しかしFDAは同時に、口紅の使用による偶発的な摂取量や、体内に吸収される割合(生物学的利用能)などを考慮した詳細なリスク評価を行い、「化粧品中の鉛濃度が10 ppm以下であれば、消費者の健康上の懸念とはならない」との結論を発表し、これを業界向けのガイダンスとして示しました6, 7
【キーポイント】ここで重要なのは、「安全なレベルはない」(WHO)という公衆衛生の予防原則に基づく見解と、「10ppm以下は懸念ない」(FDA)という製品規制の現実的なリスク管理の視点の違いを理解することです。これは科学的な矛盾ではなく、WHOが「理想的な曝露レベル(ゼロであるべき)」について語っているのに対し、FDAは「現実的な製品流通下での許容可能なリスクレベル」について結論を出している、という役割の違いから生じるものです5, 6

2.1.3. 日本市場の現状:国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)の調査

日本の消費者にとって最も関心の高い、国内市場の状況はどうでしょうか。国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)が2014年に実施した調査は、この疑問に一つの答えを示しています13。この調査では、国内で流通している口紅やリップグロスなどの製品が分析されました。その結果、「日本の口紅やリップグロスからは、FDAがガイダンス値として設定した10 ppmを超える鉛は検出されなかった」ことが報告されています13。これは、日本の市場で販売されている製品が、鉛の含有量に関して国際的な基準の範囲内で管理されていることを示唆するものであり、消費者にとって一定の安心材料と言えるでしょう。ただし、同調査ではファンデーションやアイシャドウなどの他の化粧品からは、より高濃度の鉛が検出された事例もあったことに触れられており、化粧品全体の不純物管理という課題が依然として存在することも示唆しています13

2.2. その他の重金属:カドミウム、クロム、アルミニウム等

鉛が最も注目されがちですが、口紅から検出される重金属はそれだけではありません。前述のカリフォルニア大学バークレー校の研究では、鉛に加えてカドミウム、クロム、マンガン、アルミニウムといった複数の重金属が32種類の製品から検出されています1。これらの金属もまた、それぞれ異なる健康リスクを持っています。例えば、カドミウムは国際がん研究機関(IARC)によって発がん性が指摘されているほか、腎臓への毒性(腎毒性)も知られています。日本の「化粧品基準」では、このようなリスクの高いカドミウム化合物や水銀化合物は、意図的に製品に配合することが固く禁じられている「ネガティブリスト」に掲載されており、日本の規制の厳しさを示しています11。しかし、例えば2014年に埼玉県衛生研究所が行った調査では、国内流通品から禁止成分であるはずのカドミウムがごく微量に検出された事例も報告されており、これは原料由来の不可避的な汚染という課題が、規制とは別に存在し続けていることを物語っています19

2.3. タール色素:アレルギー反応と発がん性の懸念

口紅の鮮やかな色彩を実現するために広く使用されているのが、タール色素と呼ばれる合成着色料です。これらは石油を原料として化学的に合成され、安定性が高く、多彩な色調を出せるという利点があります。日本では、厚生労働省の省令「医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令」によって、化粧品(特に唇などの粘膜に使用されるもの)に使用可能なタール色素が厳格にリスト化されており、口紅には現在58種類が許可されています21
タール色素に関連する最も一般的な健康リスクは、アレルギー性接触皮膚炎、いわゆる「かぶれ」です3, 4。日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも、化粧品に含まれる色素がアレルギーの原因となりうることが指摘されています3。さらに、一部のタール色素については、国際的にその安全性が議論されています。例えば、過去に日本で自主回収の対象となった「赤色40号」のように、海外では発がん性の懸念から食品添加物としての使用が禁止または厳しく制限されている色素も存在します。このような国際的な規制の違いは、消費者が留意すべき点の一つです。
一方で、天然由来の色素であれば安全というわけでもありません。例えば、コチニール(別名:カルミン)は、カイガラムシという昆虫から抽出される天然の赤色色素ですが、ごく稀に重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があるとして、日本の消費者庁からも注意喚起が出されています14

2.4. 防腐剤:パラベンとホルムアルデヒド放出剤

口紅のような水分や油分を含む製品にとって、防腐剤は品質を維持し、細菌やカビの繁殖を防ぐために不可欠な成分です。微生物が繁殖した化粧品を使用することは、皮膚感染症などの直接的な健康被害につながるため、防腐剤は消費者を守る役割も担っています18。しかし、その一部には安全性をめぐる議論が存在します。

パラベン

パラベン(パラオキシ安息香酸エステル)は、非常に効果的で広く使用されている防腐剤です。しかし、一部の科学的研究において、体内で女性ホルモン(エストロゲン)に似た働きをする「内分泌かく乱作用(弱いエストロゲン様作用)」の可能性が指摘されています22。この点については、現在のところ、化粧品を通じて曝露される量でヒトの健康に明確な悪影響を及ぼすという結論は出ていません。各国の規制当局の対応も分かれており、欧州連合(EU)が一部のパラベン(プロピルパラベン、ブチルパラベンなど)の使用を禁止または濃度を制限しているのに対し、FDAや日本の厚生労働省は、規定された濃度内での使用は安全であるとの見解を示しています11, 22

ホルムアルデヒド

ホルムアルデヒド自体は、日本の化粧品基準で製品への配合が明確に禁止されている成分です11。その理由は、ホルムアルデヒドがIARCによって「ヒトに対して発がん性がある物質(グループ1)」に分類されており、アレルギー反応を引き起こすリスクも高いことが知られているためです9, 10。しかし、注意が必要なのは、「ホルムアルデヒド放出剤(formaldehyde-releasers)」として知られる一部の防腐剤の存在です。これら(例:DMDMヒダントイン、イミダゾリジニルウレア)は、製品の中で時間をかけてごく微量のホルムアルデヒドを放出し続けることで、防腐効果を発揮する仕組みになっています。これらはホルムアルデヒドそのものではないため、現在の日本の規制下では配合が許可されていますが、そのメカニズムとホルムアルデヒド自体のリスクについては、消費者が知っておくべき重要な情報です。

3. 日本の規制は消費者を守るか?「化粧品基準」の徹底解説

製品の安全性を確保する上で、国の規制が果たす役割は絶大です。日本では、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称:医薬品医療機器等法、PMD Act)に基づき、化粧品は厳格な管理下に置かれています。

3.1. 医薬品医療機器等法(PMD Act)と製造販売業者の責任

日本の化粧品規制の大きな特徴は、「製造販売業者」に製品の安全性に関する最終的な全責任を課している点です12。これは、単に製品を製造する「製造業者」とは異なり、製品を市場に流通させる許可を持つ事業者のことです。製造販売業者は、製品の品質管理に関する基準(GQP: Good Quality Practice)と、市販後の安全管理に関する基準(GVP: Good Vigilance Practice)を遵守することが義務付けられています12。これにより、原料の受け入れから製造、出荷、そして市場に出た後の副作用情報の収集まで、多層的な安全確保の仕組みが構築されています。

3.2. ネガティブリストとポジティブリストの仕組み

日本の化粧品規制の中核をなすのが、厚生労働省が定める「化粧品基準」です11。この基準は、主に「ネガティブリスト」と「ポジティブリスト」という2つのリストによって構成されています。

  • ネガティブリスト: 原則として化粧品に配合してはならない成分のリストです。これには、水銀、カドミウム、ホルムアルデヒドなど、毒性が高く健康へのリスクが明確な物質が含まれています11
  • ポジティブリスト: 配合は許可されるものの、その使用目的や配合濃度に上限が定められている成分のリストです。防腐剤、紫外線吸収剤、そして前述のタール色素などがこれに該当します11。これにより、有用な成分であっても、過剰な配合によるリスクを管理しています。

3.3. 国際比較:日本の基準は厳しいのか?

日本の規制は、国際的に見てどのような位置づけにあるのでしょうか。これを客観的に理解するために、主要な懸念物質に関する各国の規制を比較してみましょう17, 20

懸念物質に関する化粧品規制の国際比較
懸念物質 日本 EU カナダ 中国
鉛 (Pb) 製品への上限値なし(原料規制)。実態として10ppm以下13 原則配合禁止(不可避な微量混入は安全性の証明が必要)。 推奨上限値 10 ppm16 上限値 10 ppm17
カドミウム (Cd) 配合禁止11 配合禁止。 推奨上限値 3 ppm16 上限値 5 ppm17
水銀 (Hg) 配合禁止11 配合禁止。 推奨上限値 3 ppm16 上限値 1 ppm17
ホルムアルデヒド 配合禁止11 配合禁止(放出剤は0.05%超で要警告表示)。 制限あり。 上限値 2000 ppm(スプレー製品は禁止)17

【分析】 この比較表から、日本はカドミウムや水銀といった特に毒性の高い重金属の意図的な配合に対しては、世界で最も厳しいとされるEU並みの「配合禁止」という措置をとっていることがわかります11, 19。一方で、鉛などの不純物管理や一部の防腐剤・色素に関しては、各国で異なるアプローチが取られています。この、厳格な禁止措置と独自のリスト管理を組み合わせたハイブリッドな規制体系こそが、日本の化粧品規制の大きな特徴と言えるでしょう。

4. 賢い消費者になるための実践ガイド

規制や科学的な知識は重要ですが、最終的に日々の製品選択を行うのは消費者自身です。ここでは、学んだ知識を実生活で活かすための具体的な方法を提案します。

4.1. 全成分表示の読み解き方

2001年から、日本の化粧品には全成分表示が義務付けられています。これは消費者が自ら製品を判断するための最も重要な情報源です。基本的なルールを理解しましょう18

  • 配合量の多い順に記載: 成分は、基本的に配合量の多いものから順番に記載されています。ただし、配合量が1%以下の成分については、順不同で記載することが認められています。
  • 着色剤は最後にまとめて記載: 「赤色〇号」や「酸化チタン」などの着色剤は、配合量に関わらず、他の成分の後にまとめて記載されるルールになっています。

実際の口紅の成分表示を手に取り、水やオイルなどの基剤が最初に、そして防腐剤や香料、色素などが後ろの方に書かれていることを確認してみましょう。

4.2. 避けるべき成分のチェックリスト

「この成分は危険だ」と断定するのではなく、「もしあなたが特定のリスクを特に懸念しているのであれば、これらの成分名に注意を払うことができます」という、非扇動的で建設的な視点からチェックリストを提示します。

  • アレルギーが心配な方: 「赤色〇号」「黄色〇号」などのタール色素、天然色素の「カルミン」「コチニール」、そして包括的な表示である「香料」は、原因となりやすい成分として知られています3, 14
  • 内分泌かく乱作用が心配な方:〇〇パラベン」という名前を持つ成分(例:プロピルパラベン、ブチルパラベンなど)が該当します22
  • 発がん性が心配な方: ホルムアルデヒド放出剤(例:DMDMヒダントイン、イミダゾリジニルウレアなど)や、国際的に安全性の議論がある一部のタール色素が挙げられます9

4.3. オーガニック・無添加認証の意味と限界

現在、日本には化粧品の「オーガニック」に関する公的な認証制度は存在しません。そのため、フランスの「エコサート(ECOCERT)」やドイツの「BDIH」といった国際的に認知された民間の認証が、製品を選択する上での一つの目安となります。これらの認証は、使用可能な原料や製造工程に厳しい基準を設けています。
また、「無添加」という言葉も注意が必要です。これは法的な定義のないマーケティング用語であり、製造業者が自主的に特定の成分(例:旧表示指定成分、パラベン、香料など)を配合していないことを示しているに過ぎません。「何が」無添加なのかを、必ず裏面の全成分表示で確認することが重要です。「無添加だから安心」と短絡的に考えるべきではありません。

4.4. 唇の健康を守るためのヒント

  • 適切なクレンジング: 就寝前には、ポイントメイクリムーバーなどを使用して口紅を完全に落とすことを習慣づけましょう。化学物質への総曝露時間を減らす最も確実な方法です。
  • 使用頻度と量: 過度な塗り直しは、生涯にわたる化学物質の総摂取量を増やす可能性があります。食事の前には軽くティッシュオフするなど、意識して使用回数や量を調整することも一つの選択肢です。
  • 子供の安全: 子供の手の届かない場所に化粧品を保管し、決しておもちゃとして使わせないでください。子供の皮膚は大人よりも薄く、化学物質の影響を受けやすいため、特に注意が必要です。
  • 使用期限の遵守: 古くなった口紅は、防腐効果が低下して細菌が繁殖しやすくなるだけでなく、油分の酸化などによる化学変化を起こす可能性もあります。開封後の使用期限を守り、異臭や変質が見られた場合は使用を中止しましょう。

5. よくある質問 (FAQ)

Q1. 口紅を食べてしまっても大丈夫ですか?
子供が誤って少量(ひとかけら程度)を食べてしまった場合、急性中毒を起こす心配はほとんどありません。ただし、口紅の主成分は油分やワックスであるため、量によっては下痢や吐き気を引き起こすことがあります15。健康上の主な懸念は、一度に大量に摂取することよりも、長期間にわたる日常的な使用によって微量な化学物質が体内に蓄積されることです15
Q2. 日本の製品は海外の製品より安全ですか?
一概にそうとは言えません。日本の規制は、水銀やカドミウムのような特に毒性の高い物質の配合を禁止するなど、世界的に見ても非常に厳しい面があります11。しかし、使用が許可されているタール色素や防腐剤の種類は国や地域によって異なります。最終的な製品の安全性は、製造された国籍で決まるのではなく、個々の製品がどのような成分で構成され、製造業者がどれだけ高いレベルの品質管理基準(GQP/GMP)を遵守しているかに依存します。最も重要なのは、消費者が国籍というブランドイメージに頼るのではなく、自ら成分表示を確認し、理解する姿勢を持つことです。
Q3. 妊娠中や授乳中に口紅を使っても良いですか?
この問題については、慎重な判断が求められます。特に鉛は、ごく微量でも胎児の神経発達に影響を及ぼす可能性があり、「安全な摂取量はない」というのがWHOなどの専門機関の一致した見解です5。母親の体内に長年かけて蓄積された鉛が、妊娠をきっかけに血中に溶け出し、胎児に移行する可能性も指摘されています。リスクを可能な限り最小限にしたいと考えるのであれば、この期間中は口紅の使用を控えるか、鉛などの重金属に関する検査データを自主的に公開しているような、信頼性の高いブランドの製品を、使用頻度や量を減らして使うなどの選択が考えられます。
Q4. 子供が口紅をなめてしまいました。どうすればいいですか?
少量なめた程度であれば、重金属などによる深刻な健康被害の可能性は極めて低いです15。まずは慌てずに口の周りをきれいに拭き、水を飲ませて様子を見てください。注意すべきはむしろアレルギー反応です。特に、コチニール(カルミン)や特定のタール色素、香料などはアレルゲンとなる可能性があります。唇やその周りに赤み、腫れ、かゆみなどの症状が現れた場合は、製品の使用を中止し、小児科や皮膚科を受診してください4, 14

6. 結論

口紅の安全性は、一部の扇動的な情報に見られるような単純な「危険物」というレッテルで語られるべきではありません。しかし同時に、長期的な微量曝露という観点から、科学的根拠に基づいた真摯な懸念事項が存在することも事実です。主なリスク要因として、原料の鉱物に由来する重金属汚染、アレルギーや一部で発がん性が議論されるタール色素、そして内分泌かく乱作用が懸念される防腐剤が挙げられます。
日本には「化粧品基準」という、世界的に見ても厳しい側面を持つ規制が存在し、製造販売業者の責任の下で私たちの安全は多層的に守られています。しかし、規制で許可されている成分の中にも、国際的には異なる見解が存在するものもあり、完璧な安全が保証されているわけではありません。最終的に自らの健康を守るのは、規制や「オーガニック」「無添加」といったマーケティング用語に安易に頼るのではなく、科学的な知識を持って全成分表示を読み解き、自らの価値観とライフステージに合った製品を選択する「賢い消費者」自身です。本記事が、そのための信頼できる一助となることを心から願っています。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Liu S, Hammond SK, Rojas-Cheatham A. Concentrations and potential health risks of metals in lip products. Environ Health Perspect. 2013;121(6):705-710. doi:10.1289/ehp.1205518. https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/ehp.1205518
  2. Safe Cosmetics. Lead In Lipstick. [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.safecosmetics.org/blog/lead-in-lipstick/
  3. 日本皮膚科学会, 日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会. 接触皮膚炎診療ガイドライン 2020 [インターネット]. 2020. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/130_523contact_dermatitis2020.pdf
  4. 一般社団法人 日本アレルギー学会. 接触皮膚炎/Q&A. [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=11
  5. World Health Organization (WHO). Lead poisoning and health [インターネット]. 2023. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/lead-poisoning-and-health
  6. Personal Care Products Council. FDA Study Reaffirms the Safety of Lipstick; Agency says Trace Lead Levels in Lipstick not a Safety Concern [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.personalcarecouncil.org/newsroom/fda-study-reaffirms-the-safety-of-lipstick-agency-says-trace-lead-levels-in-lipstick-not-a-safety-concern/
  7. U.S. Food and Drug Administration (FDA). Limiting Lead in Lipstick and Other Cosmetics [インターネット]. 2016 [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetic-products/limiting-lead-lipstick-and-other-cosmetics
  8. U.S. Food and Drug Administration (FDA). Lead in Cosmetics [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.fda.gov/cosmetics/potential-contaminants-cosmetics/lead-cosmetics
  9. American Cancer Society. Formaldehyde and Cancer Risk [インターネット]. 2024 (Updated). [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.cancer.org/cancer/risk-prevention/chemicals/formaldehyde.html
  10. Enjuris. Formaldehyde Concerns Rise in Cosmetics Industry [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.enjuris.com/blog/news/formaldehyde-beauty-products/
  11. 厚生労働省. 化粧品基準(平成12年厚生省告示第331号) [インターネット]. 2000 (随時改正). [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/keshouhin-standard.pdf
  12. 岡山県ホームページ(医薬安全課). 化粧品を製造・製造販売される方へ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.pref.okayama.jp/page/detail-115941.html
  13. 国立医薬品食品衛生研究所. 化粧品及び医薬部外品中の不純物濃度の実態調査に関する研究 [インターネット]. 2014. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/19089
  14. 厚生労働省. コチニール色素を含む食品によるアレルギーについて. [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002i78m-att/2r9852000002i7hi.pdf
  15. グランダムローズ. 口紅の危険性…?鉛が体に溜まる? [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://grandam-rose.com/blog/post_1030/
  16. Breast Cancer Prevention Partners. A Poison Kiss: The Problem of Lead in Lipstick [インターネット]. 2007. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.bcpp.org/wp-content/uploads/2017/03/Report_A-Poison-Kiss_October_2007.pdf
  17. ニッセンケン品質評価センター 香粧品グループ. 基礎知識. [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://cosmetics.nissenken.jp/tag/%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E7%9F%A5%E8%AD%98/
  18. 日本化粧品工業会. 化粧品Q&A. [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.jcia.org/user/public/faq
  19. 埼玉県. 化粧品中の重金属分析法に関する検討と実態調査 [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/220464/48_2014_06jigyohoukoku02.pdf
  20. Yakujiho.com. The Regulation of Cosmetics in Japan [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.yakujihou.com/img/CosRegulationJapan.pdf
  21. WWDJAPAN. 「女性が一生で食べる口紅は30本」“食べられる”口紅にこだわる「アムリターラ」の商品開発 [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.wwdjapan.com/articles/1933623
  22. Environmental Working Group. What are parabens? [インターネット]. 2024. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://www.ewg.org/news-insights/news/2024/11/what-are-parabens
  23. たま屋. 危険な口紅、リップクリーム [インターネット]. [引用日: 2025年6月16日]. 以下より入手可能: https://tamaya.hamazo.tv/e5120962.html
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ