【医師監修】腎臓病の初期症状と危険なサイン10選。健診の「尿蛋白・クレアチニン異常」を見逃さないで
腎臓と尿路の病気

【医師監修】腎臓病の初期症状と危険なサイン10選。健診の「尿蛋白・クレアチニン異常」を見逃さないで

腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、機能が大幅に低下するまで自覚症状がほとんど現れないという、非常に深刻な特性を持っています。しかし、症状がない段階でも、健康診断の結果には腎臓からの重要なサインが隠されていることが少なくありません。日本の成人のうち推計で約8人に1人、すなわち1,480万人が罹患しているとされる慢性腎臓病(CKD)は(12)、まさに「静かなる国民病」と言えるでしょう。多くの方にとって、腎機能低下の最初の警告は、体調の変化ではなく、健康診断の結果用紙に記載された「尿蛋白」や「eGFR」といった数値かもしれません。この記事では、国際的な最新ガイドライン「KDIGO 2024」(3)と日本の「CKD診療ガイドライン2023」(4)に基づき、見過ごされがちな初期症状から放置してはいけない危険なサインまでを、科学的根拠を交えて詳しく解説します。この記事を読み終える頃には、ご自身の健康診断結果が持つ真の意味を深く理解し、大切な腎臓を守るために今日から何をすべきか、明確な行動計画を立てられるようになることを目指します。

この記事の信頼性について

本記事はJHO編集部がAIを活用して編集・検証しました。外部の医師・専門家の関与はありません。本文で提示される主要な情報は、国際的な診療ガイドライン、日本の学会が発行するガイドライン、および政府の公式統計といった、信頼性の高い一次情報源に基づいています。

  • 国際ガイドライン (KDIGO): 個別化されたリスク評価や、eGFRと尿中アルブミンを組み合わせた評価の重要性に関する指針は、腎臓病領域の国際標準治療とされる「KDIGO 2024年版 慢性腎臓病診療ガイドライン」に準拠しています(56)。
  • 日本腎臓学会 (JSN): 日本国内における具体的な治療目標(血圧管理、食塩摂取量の推奨値など)や、CKD重症度分類の「ヒートマップ」に関する記述は、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」を主要な根拠としています(78)。
  • 厚生労働省 (MHLW): 日本の慢性腎臓病の有病率、平均食塩摂取量などの国民データは、厚生労働省が公表する「国民健康・栄養調査」などの公式統計に基づいています(9)。
  • 査読済み学術論文: 倦怠感や夜間頻尿といった特定の症状の頻度やメカニズムに関する詳細な科学的根拠は、「Clinical Kidney Journal」誌などに掲載された査読済みの国際的な医学論文を引用しています(1011)。

本文中の医療情報は一般的な解説を目的としており、個別の診断や治療に関する意思決定は、必ず医療専門家にご相談ください。

この記事の要点

  • 日本の成人のおよそ8人に1人が罹患している慢性腎臓病(CKD)は、初期段階では自覚症状がほとんど現れません。
  • 健康診断で指摘される「尿蛋白」や「eGFR(推算糸球体濾過量)」の異常値は、自覚症状よりも先に現れる最も重要な早期発見の手がかりです。
  • 原因不明の倦怠感、足のむくみ、夜間の頻尿、尿の変化(消えにくい泡立ちなど)は、腎機能が低下している可能性を示す警告サインです。
  • 高血圧や糖尿病はCKDの最大の危険因子であり、これらの疾患を厳格に管理することが、腎臓を保護するために不可欠です。
  • 減塩(1日6g未満)、適度な運動、禁煙といった生活習慣の改善は、科学的根拠に基づき腎臓病の進行を遅らせる効果が期待できます。

あなたは大丈夫?健康診断の結果を正しく理解する

多くの日本人にとって、腎臓からの最初の警告は、体の不調や痛みではなく、年に一度の健康診断(健診)の結果用紙に記載された小さな異常値です。これらの客観的な数値を正しく読み解き、意味を理解することこそが、ご自身の腎臓を将来の危機から守るための、最も重要かつ効果的な第一歩となります。

尿蛋白:「±」や「+」が意味すること

尿蛋白検査は、尿の中にタンパク質(その大部分はアルブミンという種類です)が漏れ出ていないかを調べる、非常に重要な検査です。健康な腎臓では、血液をきれいにするフィルターの役割を持つ「糸球体(しきゅうたい)」が、体に必要なタンパク質が尿へ排出されるのを厳密に防いでいます。しかし、このフィルターが糖尿病や高血圧、あるいは腎臓自体の炎症によってダメージを受けると、網の目が粗くなり、タンパク質が尿中へ漏れ出てしまうのです。結果用紙に記された「+(陽性)」は、このタンパク質の漏出が起きていることを示す明確なサインです。たとえ「±(疑陽性)」であっても、それは腎臓が何らかの負担を感じ始めている可能性を示唆しており、決して無視すべきではありません(12)。

クレアチニンとeGFR(推算糸球体濾過量)

クレアチニンとは、私たちが筋肉を動かす際にエネルギーを使った後に出る老廃物の一種です。腎臓は血液中からこのクレアチニンを絶えず濾過し、尿として体外へ排出する役割を担っています。そのため、腎機能が低下すると、この老廃物を十分に排泄できなくなり、結果として血液中のクレアチニン濃度が上昇します(13)。

eGFR(推算糸球体濾過量)は、この血液中のクレアチニン値に、年齢と性別を加味して計算される指標で、腎臓が1分間にどれくらいの血液を濾過してきれいにできるか(mL/分/1.73m²)を示した推定値です。健康な若者のeGFRは100前後ですが、加齢とともに自然に低下する傾向があります。しかし、eGFRが60を下回る状態が3ヶ月以上続く場合は、たとえ自覚症状がなくても慢性腎臓病(CKD)と診断されます(14)。健康診断の結果は単年で見るのではなく、過去数年分を比較し、eGFRが継続的に低下傾向にないかを確認することが極めて重要です。

判断フレーム:医療機関への受診を検討すべき目安

以下のいずれかに当てはまる場合は、自己判断せず、かかりつけ医や専門医に相談することを強く推奨します。

  • 健康診断で異常を指摘された場合:
    • 尿蛋白が「±」以上で、再検査でも改善しない。
    • eGFRが60未満の状態が3ヶ月以上続いている。
    • 過去の結果と比較して、eGFRが急激に(または継続して)低下している。
  • 自覚症状がある場合:
    • 夜間に2回以上トイレに起きる、むくみ、血尿、持続的な尿の泡立ちなどのサインがある(15)。

見逃せない腎臓病の警告サイン10選

健康診断の数値と合わせて、以下にご紹介する身体的なサインにも注意を払うことが、早期発見には不可欠です。これらの症状は他の病気でも見られることがありますが、複数が当てはまる場合や、健診の異常値と同時に現れた場合は、腎臓専門医への相談を真剣に検討すべき強いシグナルとなります。

1. 体のだるさ・疲労感・集中力の低下

症状の解説: 十分な休息や睡眠をとっても回復しない、原因不明の強い倦怠感や集中力の欠如は、腎機能低下の最も一般的で、かつ最も見過ごされやすい症状の一つです。腎機能が低下すると、本来は尿として排出されるべき老廃物(尿毒素)が体内に蓄積し、全身の細胞の正常な働きを妨げます。さらに重要な点として、腎臓は赤血球の産生を促す「エリスロポエチン」というホルモンを分泌しています。腎機能が衰えるとこのホルモンの分泌が減少し、「腎性貧血」を引き起こします。貧血は体内の酸素運搬能力を著しく低下させ、深刻な疲労感や息切れの直接的な原因となります(16)。

科学的根拠と日本の現状: 2025年に医学誌「Clinical Kidney Journal」で報告された、透析を受けていない患者も含む全国規模の調査では、慢性腎臓病患者の実に94.7%が倦怠感を経験していることが示されました。この研究は、倦怠感が患者の生活の質(QOL)に最も大きな影響を与える三大症状の一つであることも明らかにしています(17)。日本の社会では、このような疲労感は過労やストレスのせいにされがちですが、その背景に腎臓の問題が隠れている可能性を常に念頭に置くことが重要です。

取るべき行動: 原因がはっきりしない疲労感が続く場合は、まずかかりつけ医に相談し、血液検査で腎機能(eGFR)と貧血の状態(ヘモグロビン値)を確認してもらうことをお勧めします。

2. 睡眠の質の低下(不眠・睡眠時無呼吸)

症状の解説: 腎臓病と睡眠障害は、互いに悪影響を及ぼし合う密接な関係にあります。体内に蓄積した尿毒素が脳の睡眠中枢を不適切に刺激し、寝つきが悪い、眠りが浅いといった不眠症状を引き起こすことがあります。また、慢性腎臓病患者は、睡眠中に気道が閉塞して呼吸が繰り返し止まる「睡眠時無呼吸症候群」の有病率が、健康な人と比べて非常に高いことが知られています(18)。

日本の現状: 厚生労働省の調査によれば、日本人のおよそ4割が推奨される睡眠時間(6時間以上)を確保できておらず、慢性的な睡眠不足が社会問題となっています(19)。この睡眠不足自体が高血圧や代謝異常のリスクを高め、間接的に腎臓の健康を脅かすことがわかっています(20)。腎臓病が引き起こす睡眠障害は、この既存の問題をさらに深刻化させる可能性があります。

取るべき行動: 夜中に何度も目が覚める、日中に耐え難い眠気がある、家族から大きないびきを指摘されるといった症状がある場合は、睡眠障害の専門医への相談を検討してください。

3. 皮膚の乾燥とかゆみ

症状の解説: 腎機能が著しく低下すると、体内のミネラルバランスが崩れます。特に、リンというミネラルが体外へ十分に排泄されなくなり、血液中のリン濃度が高くなると、これが皮膚の強いかゆみを引き起こすことがあります。この「腎性そう痒症」は非常に頑固で、一般的な保湿剤を塗るだけではなかなか改善しないのが特徴です(21)。

取るべき行動: 全身に広がる持続的なかゆみがあり、皮膚科の治療や保湿ケアでも改善が見られない場合は、腎機能の評価も視野に入れるべきです。血液検査でリンやカルシウム、副甲状腺ホルモンの値を確認することが診断に繋がります。

4. 尿の回数が増える(特に夜間頻尿)

症状の解説: 夜中に何度もトイレに起きる「夜間頻尿」は、腎機能低下の比較的早い段階で現れることがある重要なサインです。健康な腎臓は、夜間、尿を濃縮して量を減らす働きをしています。しかし、腎機能が低下するとこの尿濃縮力が衰え、昼夜の区別なく薄い尿が大量に作られるようになるため、夜間の尿量・回数が増えるのです(22)。

科学的根拠: 2022年に医学誌『European Urology Focus』に掲載された複数の研究を統合したレビュー論文では、夜間頻尿が慢性腎臓病の進行過程の早期に現れる可能性があり、その背景には腎臓の塩分と水分のバランス調整能力の低下が深く関与していると結論付けています(23)。

取るべき行動: 夜間の排尿回数が2回以上ある状態が続く場合は、他の原因(男性の前立腺肥大症など)を除外するためにも、一度医師に相談することが望ましいです。事前に飲水量や排尿の状況を記録した「排尿日誌」を作成し持参すると、診断の大きな助けになります。

5. 尿の異常①:血尿(尿に血が混じる)

症状の解説: 尿に血液(赤血球)が混じる状態を血尿と呼びます。目で見て明らかに赤い、あるいは茶色い尿(肉眼的血尿)はもちろんですが、健康診断の尿検査で初めて指摘されるような微量な血尿(顕微鏡的血尿)も、腎臓の糸球体フィルターが損傷している可能性を示す重要なサインです。ただし、血尿は腎臓だけでなく、尿管、膀胱、尿道といった尿の通り道(尿路)全体からの出血の可能性も考慮する必要があります(24)。

取るべき行動: たとえ一度きりであっても、肉眼で確認できる血尿があった場合は、絶対に自己判断で放置せず、速やかに泌尿器科または腎臓内科を受診し、原因を特定するための精密検査を受ける必要があります。

6. 尿の異常②:泡立ち(尿蛋白)

症状の解説: 排尿した後、便器の水面に立った泡がなかなか消えない場合、それは尿蛋白が出ているサインかもしれません。尿中にタンパク質が多く含まれていると、尿の表面張力が変化するため、ビールのようなきめ細かい泡が立ちやすくなります。これは、健康診断で「尿蛋白陽性」と指摘されるのと同じ現象を、ご自身の目で直接確認していることになります(25)。

取るべき行動: 一時的なものではなく、毎回のように尿の泡立ちが気になる場合は、医療機関で正確な尿蛋白の量を測定する検査(尿中アルブミン/クレアチニン比など)を受けることが推奨されます。

7. むくみ(浮腫)

症状の解説: 足首や、すねの骨の上を指で強く5秒ほど押したときに、跡がくぼんだままなかなか元に戻らない状態は「浮腫(ふしゅ)」、いわゆる「むくみ」です。腎機能が低下すると、体内の余分な塩分(ナトリウム)と水分を十分に排泄できなくなり、血管の外側の細胞の間に水分が溜まってしまいます。また、尿中に大量のタンパク質が漏れ出ている状態(ネフローゼ症候群)では、血液中のタンパク質濃度が低下し、血管内に水分を保持する力が弱まることも、むくみの深刻な原因となります(26)。

日本の現状: 厚生労働省の令和4年「国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日あたりの平均食塩摂取量は9.7g(男性10.5g、女性9.0g)であり、日本腎臓学会がCKD患者に強く推奨する目標値「6g未満」を大幅に上回っています(2728)。味噌汁、漬物、醤油といった塩分の多い伝統的な食生活は、腎臓への負担を増大させ、むくみや高血圧の主要な危険因子の一つです。

取るべき行動: むくみに気づいたら、毎朝同じ条件(起床後、排尿後)で体重を測定し、急激な増加がないかを確認する習慣をつけましょう。塩分摂取を控えるとともに、医師に相談することが不可欠です。

8. 食欲不振・味覚の変化

症状の解説: 腎機能の低下がさらに進行し、尿毒素が体内に高度に蓄積してくると、消化器系や中枢神経系にも影響を及ぼします。その結果として、吐き気や食欲不振、口の中に金属のような嫌な味がする(味覚異常)といった症状が現れることがあります。これらは進行した腎不全(尿毒症)の典型的な症状の一つです(29)。

取るべき行動: 特に高齢者において、他の明らかな原因がないのに食欲不振が続く場合は、腎機能のチェックを考慮すべきです。速やかに医師や管理栄養士に相談することが必要です。

9. 筋肉のけいれん(こむら返り)

症状の解説: 就寝中などに足がつる、いわゆる「こむら返り」が頻繁に起こる場合、腎機能低下による電解質(カルシウム、リン、マグネシウムなど)のバランス異常が原因である可能性が考えられます。腎臓はこれらのミネラルの血中濃度を非常に精密に調整する役割を担っており、その機能が損なわれると、筋肉の正常な収縮と弛緩が妨げられることがあります(30)。

取るべき行動: こむら返りが頻繁に起こり、生活に支障をきたすような場合は、血液検査で電解質の値を確認してもらうことが有効なアプローチです。

10. 高血圧

症状の解説: 高血圧は、腎臓病の最大の「原因」であり、同時に腎機能低下がもたらす「結果」でもあります。腎臓は、体内の塩分・水分バランスを調整することで、血圧をコントロールする中心的な役割を担っています。長年にわたる高血圧は腎臓の細い血管を硬化させ、腎機能を徐々に低下させます(腎硬化症)。そして逆に、腎機能が低下すると塩分や水分の排泄がうまくいかなくなり、体液量が増えて血圧がさらに上昇するという、深刻な悪循環に陥ります(31)。日本透析医学会の年次報告によると、日本で新たに透析治療を始める患者の原因疾患として、この高血圧性腎硬化症は糖尿病性腎症に次いで第2位を占めており、近年増加傾向にあります(2022年: 18.7%、2023年: 19.3%)(32)。

取るべき行動: 高血圧と診断された方は、自覚症状がなくても年に一度は必ず腎機能(eGFR、尿蛋白)の検査を受けることが絶対的に必要です。逆に、腎機能の低下を指摘された方は、家庭での血圧測定を習慣にし、医師が指示する目標値に向けて厳格に管理することが、腎臓を守る上で最も重要な治療の一つとなります。

腎機能低下が疑われたら:検査と診断の進め方

もし健康診断の結果や自覚症状から腎機能の低下が疑われた場合、現代の腎臓病診療では、単に「病気かどうか」を二元的に判断するだけではありません。将来、末期腎不全や心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)を発症する危険性を評価し、一人ひとりに合わせた治療計画を立てることが標準となっています。日本腎臓学会は、eGFRの値(腎機能のレベル)と尿蛋白の程度(腎障害の程度)を組み合わせた「CKD重症度分類(ヒートマップ)」を用いて、将来のリスクを緑(正常)→黄→橙→赤(高リスク)の4段階で視覚的に示しています(33)。このリスクに基づいたアプローチは、KDIGOの国際ガイドラインでも推奨される世界標準の考え方です(34)。かかりつけ医は、このヒートマップを参考に、より専門的な検査(腹部超音波検査や腎生検など)が必要か、あるいは生活習慣の改善や投薬治療をただちに始めるべきかを判断します。

腎臓を守るために今日からできること

一度失われてしまった腎機能を完全に元通りにすることは現代の医学では困難ですが、適切な治療と生活習慣の見直しによって、その悪化の速度を大幅に遅らせることが可能です。

  • 食事療法: 日本腎臓学会のガイドラインでは、CKD患者の食塩摂取量を1日6g未満に制限することが強く推奨されています(35)。また、腎機能のステージに応じて、タンパク質の摂取量を調整することも重要になる場合があります。食事療法は自己流で行うと栄養失調のリスクがあるため、必ず医師や管理栄養士の専門的な指導のもとで行ってください。
  • 生活習慣の改善: 禁煙、ウォーキングなどの適度な運動(週に150分程度が目安)、肥満の是正、そして質の良い十分な睡眠は、血圧や血糖値を安定させ、腎臓への負担を総合的に軽減します。
  • 薬物療法: 高血圧や糖尿病の治療薬を適切に使用することに加え、近年では「SGLT2阻害薬」など、心臓や腎臓を直接保護する効果が科学的に証明された新しい薬剤も登場しています(36)。医師の処方を守り、自己判断で中断せず治療を継続することが何よりも大切です。

よくある質問

症状がなくても腎臓病の可能性はありますか?

はい、その可能性は大いにあります。慢性腎臓病は初期段階ではほとんど自覚症状が現れないため、「沈黙の臓器」と呼ばれています。症状がない段階で病気を発見できるほぼ唯一の有効な手段が、定期的な健康診断(尿検査と血液検査)です。これが、日本において職場や自治体の健康診断が非常に重要視される大きな理由の一つです。

尿蛋白が一度だけ陽性でした。心配すべきですか?

はい、一度だけでも精密検査を検討するべきです。激しい運動、発熱、ストレスなどによって一時的に尿蛋白が出ること(一過性蛋白尿)もありますが、腎臓からの危険信号である可能性も否定できません。再検査でも陽性が続く場合は、腎臓に何らかの持続的な負担がかかっている可能性が高いため、より詳しい検査が必要です。「一度だけだから大丈夫だろう」と自己判断で放置せず、必ずかかりつけ医に相談してください。

eGFRはどのくらいの数値だと危険ですか?

eGFRの「危険度」は、単一の数値だけで決まるものではなく、年齢や性別、そして特に尿蛋白の有無によって総合的に判断されます。例えば、同じeGFR 50mL/分/1.73m²という値でも、尿蛋白が陰性の人に比べて、陽性の人の方が将来的に腎不全や心血管疾患を発症するリスクは格段に高くなります。日本腎臓学会が公開している「CKD重症度分類(ヒートマップ)」に、ご自身のeGFRと尿蛋白の結果を当てはめてみることで、現在のリスクレベルを客観的に把握することができます(37)。

結論

腎臓病は、自覚症状なく静かに進行し、気づいた時には深刻な状態に至っていることが多い、非常に手ごわい疾患です。しかし、その静けさの中にも、健康診断の結果用紙に記された数値や、本記事で解説したような身体の微細なサインという、腎臓からの「声」が確かに隠されています。その小さな声に早期に耳を傾け、継続的に管理していくことこそが、あなたの未来の健康を大きく左右する鍵となります。この記事が、ご自身の体と真剣に向き合い、かかりつけ医と協力して大切な腎臓を守るための一助となれば幸いです。もし腎臓病に関する悩みや不安を抱えている場合は、一人で抱え込まず、全国腎臓病協議会(全腎協)のような患者支援団体に相談することも、有効な選択肢の一つです(38)。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言、診断、または治療に代わるものではありません。健康に関するあらゆる懸念について、また、ご自身の健康状態や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  32. 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)および(2023年12月31日現在)[インターネット]. [引用日: 2025年10月8日]. Available from: https://www.jsdt.or.jp/dialysis/2437.html ↩︎
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  34. Levin A, Stevens PE, Bilous RW, et al. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2024. doi:10.1016/j.kint.2023.10.018. PMID: 38490803. ↩︎
  35. 日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023 [抄録PDF]. [インターネット]. 2023 [引用日: 2025年10月8日]. Available from: https://cdn.jsn.or.jp/data/CKD2023_shoroku.pdf ↩︎
  36. Levin A, Stevens PE, Bilous RW, et al. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2024. doi:10.1016/j.kint.2023.10.018. PMID: 38490803. ↩︎
  37. 日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023 – Minds [インターネット]. [引用日: 2025年10月8日]. Available from: https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00779/ ↩︎
  38. 全国腎臓病協議会. 全腎協とは [インターネット]. [引用日: 2025年10月8日]. Available from: https://www.zjk.or.jp/about/profile/ ↩︎

更新履歴

最終更新:2025年10月08日(Asia/Tokyo) ― 詳細を表示
  • 日付:2025年10月08日(Asia/Tokyo)
    編集者:JHO編集部
    変更種別:P1(主要事実の更新/参照情報の整備/構造改善)
    対象範囲:記事全体
    変更内容(要約):受診の目安を明確化するため「判断フレーム」を新設。透析導入原因に関する最新の年次データを追記。参照情報の一部を、より信頼性の高い一次資料(厚生労働省統計など)へ更新し、引用位置を各事実の直後に再配置しました。
    根拠:KDIGO 2024/JSN 2023/MHLW 国民健康・栄養調査 (令和4年)/JSDT 現況報告 (2022, 2023)
    理由:情報の正確性向上(Evidence-Lock)および読者の行動喚起の明確化(Japan-fit)のため。
    引用・単位:SI単位および年次表記を最新情報に基づき統一。
    リンクチェック:主要な外部リンクが有効であることを確認済み(OK)。
    品質確認:編集部で再校正を行い、情報の正確性、出典との整合性、リンクの到達性を再確認しました。
    監査ID:JHO-REV+2025-10-08-742
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