夕方の高血圧は危険?| 医師が答える健康相談
心血管疾患

夕方の高血圧は危険?| 医師が答える健康相談

はじめに

日々の血圧の変動は、私たちの身体のリズムや生活習慣によって左右される重要な指標です。血圧は一般的に早朝から上昇し、昼頃から午後にかけて高めに推移した後、夜間や就寝時に下がる傾向があると考えられています。しかし、高血圧を長く患っている方の中には、「夕方や午後になると血圧が上昇しやすい」「薬をきちんと飲んでいるはずなのに、夕方に測ると血圧が高く出る」という状況を経験される方が少なくありません。ここでは、実際に10年もの間、高血圧の治療を続けている55歳の方(以下、文中では「ご本人」と表記)が、最近特に「夕方に血圧が150/80mmHg~160/80mmHg程度まで上がってしまうのは危険なのか」という疑問を抱き、どのように血圧を安定させていくかを医師に相談した内容を詳しく掘り下げ、血圧管理のポイントを整理します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

この記事では、心臓血管内科で数多くの高血圧患者を診ている Thạc sĩ – Bác sĩ CKI Ngô Võ Ngọc Hương(Bệnh viện Nhân dân 115 所属)
の見解を交えながら、夕方や午後に血圧が上がる原因、その対処法を中心にご紹介します。さらに、日常生活の工夫や食事・運動などの具体的な方法も掘り下げて解説します。

専門家への相談

今回のテーマである「夕方になると血圧が上がりやすくなる原因と対策」に関しては、Bệnh viện Nhân dân 115 で勤務されている心臓血管内科医の Thạc sĩ – Bác sĩ CKI Ngô Võ Ngọc Hương が、実際に高血圧患者の治療を行うなかで得た臨床経験と、学会ガイドラインなどの根拠をもとにアドバイスを行っています。なお、文中に示した内容は参考情報であり、個別の病状等に応じた詳しい指示はかかりつけ医や専門医に直接ご相談ください。

夕方や午後に血圧が上がる理由

1. 体内リズムと血圧変動

生体リズムは「概日リズム」とも呼ばれ、私たちの体温やホルモン分泌、睡眠・覚醒パターンを含めた多くの機能を24時間周期で変化させます。血圧もまた、通常は夜に下がり、朝から徐々に上昇し、日中から夕方にかけて高めになり、夜間に再び下がるというサイクルを描きます。特に高血圧の治療中であっても、血管や自律神経の反応性が一般の方より敏感になりやすく、夕方の忙しい時間帯やストレスを受けやすい時間帯に血圧が上がる方もいます。

また、夜勤や生活リズムが昼夜逆転している方などは、この通常の変動パターンとは異なる血圧リズムを示す場合があります。そのため、本人が思うよりも血圧が高めに出たり、ある時間帯だけ異常に上がることもあるのです。

2. 日常生活の影響

  • 食事やカフェイン摂取:昼食や夕食に塩分が多い食事をとる、夕方にカフェイン飲料(コーヒーなど)を頻繁に摂る、食後すぐに測定する…といった要素が、一時的に血圧を上げる原因になります。
  • 喫煙・飲酒:喫煙直後は血管が収縮して血圧が上昇しやすいことが知られています。同様に、夕食時や仕事終わりにアルコールを摂取する習慣がある場合、アルコールの影響で血圧が上下しやすくなります。
  • ストレスや疲労:夕方は一日の疲れやストレスがピークに達しやすい時間帯でもあり、それによる交感神経亢進で血圧が上がりやすくなります。

3. 測定の仕方と誤差

血圧は測定状況で大きく変動するため、日常でのセルフチェックでは以下の点に注意が必要です。

  • 食後30分以内、運動直後、喫煙やカフェイン摂取直後は避ける
  • 血圧を測る前にトイレを済ませる
  • 腕を心臓の高さに保ち、5~10分程度安静にしてから測定する
  • 少なくとも1回の測定につき2回は計測し、15分程度間隔をあけて平均値をとる

もし夕方に測定した血圧が「150/80mmHg~160/80mmHg」という数値であれば、それが誤差ではなく実際に高い可能性があります。ご本人の場合、「約150/80~160/80mmHgを夕方に何度も計測した」ということであれば、薬をきちんと服用していてもなお治療目標(一般的には130/80mmHg未満とされることが多い)を上回っていると判断されます。

夕方に上がる血圧は危険か? 受診の目安

夕方や午後の血圧が高い状態が続く、あるいは夜間の就寝中にも高血圧が持続してしまう場合、心血管疾患のリスクが高まると考えられています。とくに、睡眠中にさらに血圧が上がる「夜間高血圧」があると、脳卒中(脳梗塞や脳出血)、急性心筋梗塞といった重篤な合併症を起こす可能性が高いと指摘されています。

さらに怖いのは、日中に外来で測った血圧が正常範囲内であっても、自宅で夕方や夜間に測ると高く出る「仮面高血圧」 と呼ばれる状態も見逃されやすい点です。そのため、高血圧患者には自宅での血圧測定が強く推奨されており、とくに夕方や就寝前、起床後など、複数の時間帯にこまめに測定して記録をつけることが望まれます。

もし夕方に測る血圧が常に高く、かつ治療目標に到達していない場合、以下のようなタイミングで医師に相談しましょう。

  • 夕方の血圧が連日、150mmHg以上(収縮期血圧)になっている
  • 自覚症状として、頭痛や目まい、肩こり、動悸、胸の圧迫感などが頻繁にある
  • 夜間に血圧が180/120mmHg以上になった場合(高血圧緊急症の危険)

後者のように極端に高くなった場合は、できる限り速やかに医療機関で適切な降圧処置を受ける必要があります。

血圧を一日中安定させるポイント

1. 薬物療法の遵守

まず最も大切なのは、処方された降圧薬を指示通り正しく服用することです。朝に飲むタイプの薬が多いと思われがちですが、人によっては医師の判断で朝・夕に分けて服用する場合や、夕方に追加で別の薬を飲むケースもあります。これは、血圧のリズムや薬効のピークを考慮して処方されるものです。もし、「夕方の血圧だけが高い」と感じたら、その旨を担当医に伝え、薬の種類や服用時間を調整してもらうことが大切です。

また、高血圧の原因が別の内科的疾患から来ている可能性(2次性高血圧)も否定できないので、必要があれば追加の検査を受け、原因を特定したうえで適切な治療を受けることが重要です。

2. 体重管理

体重が適正範囲(BMIで18.5~24.9程度)におさまっていないと、高血圧のリスクは上昇します。多くの臨床研究によると、体重を10kg減らすごとに収縮期血圧が5~20mmHg程度下がる と示唆されており、太り気味の方が5kg程度減量するだけでも血圧コントロールに寄与します。

特に日本では、食生活が豊かになり、塩分過多やカロリー過多の食事になりやすいため、医師や管理栄養士と相談し、減量を計画的に進めることが望ましいとされています。

3. 塩分(ナトリウム)制限

血圧上昇の要因として挙げられるのが過剰なナトリウム摂取です。塩分摂取量を1日あたり6g未満(ナトリウム量約2.4g相当) に抑えるとよいという報告があります。アメリカ心臓協会(AHA)は高血圧患者に対して、1日1500mgのナトリウム(約6gの食塩相当)以下にするよう推奨しています。

塩分制限を続けるための工夫としては、

  • 外食を控え、できるだけ自炊で塩分量をコントロールする
  • ハーブや香辛料などの活用で、塩味以外の風味を活かす
  • 加工食品(レトルト、インスタント、スナック菓子)はできるだけ避ける
  • 塩分の多い缶詰や漬物、佃煮などはしっかり水洗いしてから使う

などが挙げられます。塩分を意識的に減らすと、血圧の上下が安定しやすくなる方が多いので、ぜひ取り組んでみてください。

4. バランスの良い食事

高血圧の方に一般的に推奨される食事内容としては、

  • 新鮮な野菜・果物(特に抗酸化作用が豊富なベリー類など)
  • 全粒穀物
  • ナッツや豆類など、良質なたんぱく質源
  • カルシウムが豊富な低脂肪乳製品
  • カリウム・マグネシウムが豊富な緑黄色野菜

反対に、以下のような食品・成分は血圧を上げやすいとされ、摂取制限が推奨されます。

  • 飽和脂肪酸の多い食品(脂肪分の多い肉や揚げ物など)
  • 加工食品・ファストフード
  • 精製糖・甘味料
  • アルコール
  • カフェインの過剰摂取

無理に一気に変えるのは難しいので、少しずつ減らす・置き換える のが長続きのコツです。たとえば夕食時の揚げ物を蒸し料理や焼き魚に代える、清涼飲料水をお茶類や水に切り替えるなど、徐々に減らしていけば味覚が変わってきます。

5. 運動習慣

「食事」と「運動」は高血圧対策の両輪と言われるほど重要です。定期的な運動で体を動かすことで、血管の柔軟性が保たれ、血液循環が改善し、体重管理にもつながります。1回あたり30分程度の有酸素運動を、週5回前後続けるのが理想的とも言われますが、まずはウォーキングや軽いジョギング、ダンス、家事、庭いじりなど、自分が続けやすい運動を習慣化することを目標にしましょう。

6. アルコールの適量と節度ある飲酒

アルコールは少量であれば血管拡張作用をもたらす可能性があるという説もありますが、多くの場合は血圧を上昇させやすいと指摘されています。特に夕食時や就寝前に大量摂取すると、夜間高血圧の一因にもなり得ます。医師と相談しながら、1日のアルコール摂取量を少なめに保つか、できれば思い切って節酒・断酒することが血圧管理に効果的です。

7. 禁煙

喫煙によるニコチンなどの有害物質は、血管を収縮させて血圧を上げるだけでなく、動脈硬化や心臓病、がんなど幅広いリスクを高めます。さらに受動喫煙でも周囲の人の健康を損なう恐れがあります。喫煙習慣がある方は、血圧コントロールと全身の健康のために、禁煙外来を含めた積極的なサポートを検討することをおすすめします。

8. 良質な睡眠

夜間に血圧が下がるかどうかは、日中の血圧以上に心血管リスクと関係が深いとされています。睡眠が不足すると夜間の血圧が十分に下がらないだけでなく、ストレスホルモンの分泌リズムも乱れ、夕方や午後の血圧も不安定になる可能性があります。以下のような習慣づくりを心がけましょう。

  • 就寝・起床のリズムをできるだけ一定にする
  • 就寝前のカフェイン摂取やデジタル機器の強い光を避ける
  • 朝の早い時間帯に日光を浴び、概日リズムを整える
  • 必要であれば睡眠時無呼吸症候群の検査を受ける

9. ストレス対策

ストレスは交感神経を活性化し、血圧上昇をもたらします。夕方にたまった疲労や心理的緊張をリセットするには、リラクゼーション法や軽い運動、深呼吸、ヨガ、音楽鑑賞など、自分に合った気分転換の方法を見つけることが大切です。実際、ある研究では、音楽を聴いてリラックスすることで血圧や心拍数が低下したという報告もあります。日常の合間に取り入れやすい方法を選ぶことで、継続しやすくなります。

実際のケースへの対応

今回のご本人(55歳・高血圧歴10年)は、薬をきちんと服用しているにもかかわらず夕方に150/80mmHg~160/80mmHgほどになってしまうことで不安を感じており、医師への相談の結果、以下のようなポイントを実践しているとのことです。

  1. 測定手順の見直し

    • 夕食前と夕食後など、複数のタイミングで血圧を測定
    • カフェインや運動後を避ける
    • 15分ほど安静にしてから測る
  2. 処方薬の再検討

    • それまで朝だけにしていた降圧薬を朝・夕の2回に分割した
    • 必要に応じて追加薬の検討
  3. 食事の塩分制限を徹底

    • 外食を控え、自宅で塩分控えめの献立を工夫
    • 加工食品やインスタント食品をなるべく減らす
  4. 休日などに運動量を増やす

    • 週3日は30分以上のウォーキングを行う
    • 家事や庭仕事なども意識的に体を動かす
  5. 睡眠の質を高める

    • 就寝時間を毎日ほぼ同じにする
    • 寝る前のスマートフォンやパソコン使用を極力控える

このように、薬の種類や飲み方の調整だけでなく、生活習慣の見直しを一つひとつ積み重ねることで、夕方や夜にかけての血圧の急激な上昇を抑えやすくなると考えられます。

研究による最新の知見

近年(過去4年以内)において、高血圧管理の重要性を再確認するいくつかの国際的研究やガイドラインが発表されています。例えば、

  • International Society of Hypertension(ISH)のグローバル高血圧診療ガイドライン(2020年)
    Unger T, Borghi C, Charchar F, et al. “International Society of Hypertension Global Hypertension Practice Guidelines.” Hypertension. 2020;75(6):1334-1357. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.15026
    このガイドラインでは、降圧目標値の再確認や生活習慣改善の重要性が強調されています。特に塩分制限、BMI管理、運動習慣の導入が、医薬品治療と同等に重要と示されています。
  • Fuchs FD, Whelton PK. “High Blood Pressure and Cardiovascular Disease.” Hypertension. 2020;75(2):285-292. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.119.14240
    こちらの総説では、高血圧が心血管疾患の最も大きなリスク要因のひとつであることが再度明確化され、特に夜間や夕方の高血圧が持続する患者は、より厳格なコントロールを要する可能性があるとされています。

これらの研究報告やガイドラインは、日本国内の高血圧患者にも十分適用できると考えられています。もちろん個人差はありますが、生活習慣の見直しや薬物療法の適切な調整を行うことで、血圧コントロールを良好に維持することは可能です。

結論と提言

  • 夕方に血圧が上昇しやすい原因:概日リズムによる自然な血圧変動に加え、ストレスや塩分摂取、測定タイミングなどが影響します。高血圧治療中でもこのリズムによって夕方だけ血圧が高まるケースは珍しくありません。
  • 危険性:夕方や夜間に血圧が高く保たれたままだと、心筋梗塞や脳卒中リスクが高まります。特に、日中は正常でも夜間のみ血圧が上昇する「夜間高血圧」や「仮面高血圧」は見逃されやすく、注意が必要です。
  • 対策:医師と連携し、夕方の血圧上昇に合わせた降圧薬の使い方の調整が必須。さらに、塩分制限や適度な運動、禁煙、飲酒制限、ストレスコントロール、十分な睡眠などの生活習慣の改善が重要です。
  • 具体例:塩分を1日6g未満に抑える、朝・夕2回の服薬、週3日以上のウォーキング、夜間のスマホ使用制限など、できることから取り組むだけでも血圧コントロールに大きく寄与します。

このように、夕方や夜間にかけて血圧が上がることは決して軽視できる問題ではありませんが、生活習慣や薬物療法の微調整によって、コントロールは十分に可能です。まずは自宅での正確な血圧測定を習慣化し、疑問や不安があるときは遠慮なく主治医に相談することが大切です。

参考文献

免責事項
この記事は医療専門家による正式な診断や治療を代替するものではなく、あくまでも参考情報として提供されています。健康上の問題や治療法についての疑問がある場合には、必ず医師などの専門家にご相談ください。

この記事の情報が、日常の血圧管理において少しでも役立つことを願っています。特に高血圧で通院中の方は、主治医の指示を守りながら、生活習慣を再点検し、必要に応じてカスタマイズしていくことが重要です。血圧コントロールは長期的な取り組みですが、小さな積み重ねこそが将来の重篤な合併症を予防する鍵となります。どうぞ無理せず、しかし根気強く続けてください。必ずあなたの健康維持に大きく寄与するはずです。

本記事の情報はあくまでも参考であり、個別の医療行為を示唆するものではありません。治療や服薬に関しては、担当の医療専門家の判断を優先してください。

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